遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第14話 急がば回れ

 

「攻撃力……500?」

 

《火霊使いヒータ》

☆3/炎属性/魔法使い族・効果/ATK 500/DEF 1500

 

 これといって特出したステータスも無い、典型的な下級モンスター。

 しかし、この愛らしい姿のモンスターには確かに、このデュエルを一気に終幕へ導くだけの力が秘められていた。

 

「ヒータのリバース効果発動! このカードが表側でいる限り、相手フィールドの炎属性モンスター1体のコントロールを得る!」

 

 それはひどく限定的ながらも、炎属性で統一された【BK】デッキには効果的面だ。

 店主は驚きに目を張りながらも……次の瞬間には、口端を吊り上げて得意げな笑みを浮かべていた。

 

「甘ぇな、お嬢ちゃん! リバースカード発動、《禁じられた聖杯》!」

 

 店主の伏せカードの内、1枚が立ち上がる。

 400ポイントの攻撃力上昇と引き換えに対象のモンスターが持つ効果を無効にする速攻魔法。ベルにも馴染み深いそのカードが、効果を発動したばかりのヒータに作用する。

 眼光を尖らせ、今にもヒータが呪文を唱えようという瞬間に水を差すかの如く。突然現れた金の杯から液体が振り掛けられ、ヒータの頭を濡らした。

 

《火霊使いヒータ》

ATK 500→900

 

 ああ、とどこからともなく残念そうな嘆息が漏れる。

 

「お前……よりによって【霊使い】(あんなデッキ)を渡したのか?」

「し、仕方ないだろ!? 今の手持ちはアレしか無かったんだ!」

 

 デッキを貸した男と、その友人であろう男が問答を始めた。

 おおよそ、実戦向きではないとされる【霊使い】というテーマデッキ。カードイラストの愛らしさからファンは多いが、いかんせん限定的な効果や低いステータスが災いし、観賞用などと煽られることもしばしばだ。

 それでも、各属性に分かれた『彼女達』を1人に絞ってデッキを構築すれば戦えないことも無いのだが……少女の抱える手札の中にヒータではない『もう1枚』の姿が見えたため、ギャラリー達から更に溜め息が漏れだした。

 アレは正真正銘、『勝つことを目的としていない』デッキなのだと。

 

「アレ? なんで皆ガッカリしてるの? あたしは好きだよ霊使い! 可愛いもんね♪」

 

 唯一。白髪の少女だけが、罰の悪そうな男に微笑みかけた。

 

「残念だが、可愛いだけじゃデュエルには勝てないぜ? そんなカードが飛び出してくるとは正直驚いたが……無敵のリードブローにも弱点はいくつかあってな。対策はバッチリなんだよ」

 

 チッチッ、と指を振る店主。

 戦闘及び効果での破壊を耐えるリードブローの弱点は、バウンスやコントロール奪取などの『破壊以外の除去』である。

 そんな中で、半ば奇跡とも思えるヒータの登場……だったのだが、肝心の効果を潰された今、戦闘力の高いリードブローを倒すのは絶望的だ。

 しかし、白髪の少女はけろりとしたまま首を傾げると。

 

「うん、知ってるよ? だからそのに、《精神操作》を発動!」

 

 平然と、手札から2つ目の『破壊以外の除去』を繰り出して見せた。

 

「精神操作は、このターンのエンドフェイズ時まで、選択した相手モンスターのコントロールを得る……どうする、おじさん?」

 

 屈託の無い笑顔を向ける少女に、店主も不敵に笑って見せる。

 精神操作でコントロールを奪われたモンスターは攻撃宣言が行えず、リリースすることも出来ない。

 しかし――『墓地へ送る』だけなら話は別だ。ほんの僅かな文面の違いだが、たったそれだけの違いで出来ることの幅が変わってくる。

 店主は当然、知っていた。霊使いが自身と同じ属性のモンスターと共に『墓地へ送られる』ことで現れる、あるカードのことを。

 

「させねぇな。リバースカード発動、《神の宣告》! ライフを半分払い、そのカードの発動を無効にさせて貰う!」

 

 店主 LP4000→2000

 

「うわ……オッサン、ありゃ本当に本気だな」

 

 ギャラリーが若干引くほどの、強力なカウンター罠が繰り出される。

 二段構えの策すら易々と防いで見せた店主の布陣に万策尽きたかと思われたその状況で、少女の口から飛び出したのは底抜けに明るい声だった。

 

「すごい、すごい! ここまで防ぎ切るなんて、おじさん中々に胸アツだね!」

「へへっ、そりゃどうも」

 

 互いを褒め合い、認め合い、鍔競り合う。

 何だか楽しそうだと、ベルは少し羨ましくそんな2人を眺めた。

 思えば、カードを抜くときはいつも何か切迫したような状況が殆どで、ユウやクラドとの練習以外にああして笑い合いながらデュエルをすることは無かった。

 大会に参加すれば、この2人のような『楽しいデュエル』が出来るかも……ぼんやりと ベルがそんな期待を思い描いたところで、白髪の少女が瞳を光らせた。

 

「でも……あたしだってまだまだ行くよ! そのさん、《憑依装着―ウィン》を召喚!」

 

《憑依装着―ウィン》

☆4/風属性/魔法使い族・効果/ATK 1850/DEF 1500

 

 ヒータと同じような、黄褐色のローブを羽織った幼き魔法使いがフィールドに降り立つ。

 エメラルドグリーンの髪色に、どこか内気な印象を受けるこの少女型モンスターは、炎属性を担当するヒータと同じ「霊使い」の1体、風属性担当の《風霊使いウィン》の進化系である。

 この「憑依装着」シリーズこそ、霊使いと同じ属性のモンスターを同時に墓地へ送ることで特殊召喚される、店主が危惧していたカードだ。この方法で召喚された「憑依装着」は貫通効果を持つのだが、手札から通常召喚された場合には効果を持たない平凡な下級モンスターとなる。

 

「幾らかマシな攻撃力を持ってるようだが……まだまだリードブローには届かねぇぞ? 最も、超えられたところでリードブローはまだ戦闘じゃ破壊されないがな」

「それはどうかな? そのよん、魔法カード《マジシャンズ・クロス》を発動!」

 

 次々と切られていく少女の手札。

 燃え盛る炎のように、渦を巻く風のように、その勢いは止まらない。

 

「このカードは自分フィールド上の魔法使い族が表側攻撃表示で2体以上存在する場合、その内1体の攻撃力をエンドフェイズ時まで3000にする! あたしが選択するのは《火霊使いヒータ》!」

 

《火霊使いヒータ》

ATK 900→3000

 

「そしてラスト! 魔法カード《受け継がれる力》を発動! 自分フィールド上のモンスター1体を墓地へ送り、その攻撃力を別の自分フィールド上のモンスターに加える! あたしは《憑依装着―ウィン》を墓地へ送って、ヒータの攻撃力を更に上げる!」

 

《火霊使いヒータ》

ATK 3000→4850

 

 風の魔法使いが魔力の奔流となり、炎の魔法使いを奮い立たせる力となる。

 

「こ、攻撃力4850!?」

「バトル! リードブローに攻撃っ!」

 

 燃え盛る『火憐』の魔法使いが、熱き拳の戦士に特大級の炎魔法を撃ち放つ。

 店主の手札には、戦闘ダメージを受けたときに特殊召喚され、そのダメージを回復出来る、という効果を持った《BK ベイル》が存在した。

 しかし、そんな最後の砦も一撃でライフを0にされてしまえば活躍の機会さえなく。

 

 店主 LP2000→0

 

 皮肉にも《神の宣告》でライフを半分失っていた店主は、幼き魔法使いの攻撃の前に成す術無く敗北を喫したのだった。

 

『ゲームエンド。勝者、ヒヨリ=タマキ』

 

 

   ** 

 

 

「やったー! あたしの勝ちっ!」

 

 偶然が重なったとはいえ、見事なワンショットキルに唖然としたのも束の間。

 AR空間の解除と共に爆発のような歓声が沸いた。

 

『それでは、アンティルールに従い賭け品の譲渡を』

 

 ずい、と店主の前に詰め寄る審判員モードのネフ。手には何故かお玉が握られていた。

 

「……仕方ねぇ。こうなりゃケチなことは無しだ!! 応援してくれた皆にもサービスするぜ、今日は腹一杯食っていきやがれ!!」

 

 半ばヤケクソのような店主の宣言だったが、その表情はどこか晴れやかだ。

 店内はお祭り騒ぎ。静かに拍手を送っていたベルもそんな騒ぎの中でもみくちゃにされてしまった。

 

「わー、おじさんてば胸アツ!! それじゃ遠慮なく――おかわり!!」

 

 白髪の少女――ヒヨリの差し出したそれに、今度こそ10皿目の激辛カレーが盛られる。

 スプーンをくるくると指先で回して「いざ頂きます」というところで、ヒヨリは思い出したように手を止めると、腕に付けたままのディスクを外して席を立った。

 向かった先は持ち主である男の元だ。

 

「ごめんごめん! コレ返すね、ありがと♪」

 

 図らずも今回の立役者となった男を、観客達はからかい混じりに揉みくちゃにしていたが、ヒヨリの登場に道を開けた。

 

「いいデッキだね! おかげで【BK】相手にも勝てたよ!」

「いや……あんなに俺のデッキが輝いて見えたのは初めてさ。僕も、キミみたいに上手くこのデッキを使えるように頑張るよ!」

 

 男がすぐに冷やかされて、短いやり取りで終わってしまったが。そこには決闘者が持つ本来の姿が垣間見えた。

 大騒ぎの店内を回転させるべく店長を始めとした店員達がフル稼働する中、ヒヨリは再び着席するとスプーンに手を掛けてぺろりと舌で唇を濡らしたが――。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 ちょこん、と傍まで来ていた褐色の少女――ベルが微笑んでいた。

 事情に詳しそうな店主に話を聞ける状況では無くなってしまった為、代わりにヒヨリに話を聞くことにしたのだ。

 

「んい、何かな?」

 

 屈託の無い、幼子のような笑顔で返すヒヨリ。

 恐らくは彼女も、大会出場の為に遠方からやってきたクチだろう。そんな彼女に『白面の女』の話を持ちかけるのもどうかと悩んだが、決め手は2つあった。

 

「デュエル、お強いですね。何か見惚れちゃいました!」

 

 1つは、彼女の技量が確かであること。

 少なくとも、ベルが知る上で一番のユウと比較しても遜色はないだろう、という程度にはだ。そんな彼女であれば、ここまでの道中で何か情報を掴んでいるかもしれないと思ったからだ。

 

「あっははー、ありがと♪ でも褒めても何も出さないよー? 何か食べたいものがあったらおじさんに頼んでね!」

 

 褒められたことを素直に喜んで、ヒヨリはカレーに手を掛ける……かと思いきや、じっとベルの瞳を覗き込むように見据えて、言った。

 

「あのさ、どっかで会ったことあったっけ?」

 

 2つ目は、何とヒヨリの方から問い掛けられた。

 

「……あー、えっと。わたし少し前までこんな感じの酒場で働いてたことがあって。決闘者の皆さんとお話しする機会も結構多かったんですよ?」

 

 彼女の顔は確かに、ベルの記憶に引っかかる『何か』があった。

 しかしその引っ掛かりは、中々1つの線となって繋がりを見せない。

 

「一緒に「ユウ=キリサキ」って男の人も居たんですけど……覚えてませんか?」

 

 何故なら。『画面の中にいる人間』がベル(こちら)を認識することなど、決して有り得ないことだからだ。

 だからベルは嘘を付いた。ユウの名前を出したことで何か反応があれば。いわばカマをかけたのだ。

 

 ――こんなカードに見覚えは無いか?

 

 ここへ来るまでに幾度と無く確認し、目に焼き付けた『あのカード』。

 虚ろな表情のまま牢獄に囚われていた『彼女』とヒヨリに、どこか面影が重なったからだ。

 あのカードのことについて、恐らくは中に囚われているのであろう人物について、ユウはまだ何も語っていない。しかし事情を知らないベルにも、その人物がユウにとって大切な存在なのだろうということくらいは分かる。

 だからこそ、もしもヒヨリが『彼女』であるならば――。

 

「え? うーん、そうだなぁ……」

 

 こめかみの辺りを指で押さえて考え込むヒヨリ。

 髪の色や髪型は大分違うし、笑顔の絶えない彼女と《魂の牢獄》に描かれていた少女とでは雰囲気も異なる。

 数秒先の次の瞬間には、ユウが抱えた問題の答えが見つかるかもしれない、という期待。

 その答えに辿り着いてしまったとき、果たしてユウはこれまで通りのユウでいてくれるのだろうか、という不安。

 それらを決して表情には出さないようにして、ベルは『その顔』を見つめた。

 十数秒の後。やがて硬く閉じた目を開いたヒヨリは、

 

「ごめん、分かんないや!」

 

 きっぱりと言い切って、ヒヨリは眉をハの字に困らせて笑ったのだった。

 

「……そう、ですよね? そしたら多分、何かの勘違いですよ!」

 

 たはは、と。ベルは自分に言い聞かせるつもりで明るく笑い飛ばした。

 期待が外れた反面、内心でほっとする自分がいることに、複雑な感情を抱いたまま。

 

「それであの、もう1つお伺いしたいことがあるんですけど」

「ん?」

 

 小首を傾げて、ヒヨリがベルの言葉を待つ。

 彼女に対する疑問が晴れた今、ベルがするべきことはもう1つある。

 

「こんな感じの……白いお面を被った決闘者のことを、ご存知ないですか?」

 

 以前に藍に描いて貰ったイラストを見せながら問い掛ける。

 このやりとりも慣れたもので、目撃情報でも得られれば御の字だ。

 

「……うーん、そんな変な人に見覚えはないけど。何でその人を探してるの?」

 

 怪訝そうに眉を寄せたのも束の間、ヒヨリが興味津々といった様子でベルの瞳を覗き込む。

 無関係である彼女が下手に首を突っ込まれても困ると、お茶を濁して話題を逸らそうと試みたベルだったが……キラキラと何かを訴えるような視線に根負けし、仕方なく『白面の女』と『闇のゲーム』のことをあくまで冗談ぽく説明した。

 

「へぇ~、そんなコトしてるんだ! 何だか面白そう!」

 

 結果、ヒヨリの好奇心を更に煽る結果となってしまった訳だが。

 それでも決して無駄骨という訳ではなく、傍で話を聞いていた決闘者の何人かがベルの話しに食いつき、幾つかの情報を教えてくれた。

 

「そういや、最近街外れの廃工場に白い面を被った幽霊が出るとかガキ共が騒いでたな……」

「ああ、確か丁度一週間くらい前からか?」

 

 思わぬ収穫だ。もしかしたらユウ達も似たような情報を掴んでいるかも知れないが、これで『白面の女』に一歩迫ることが出来る。

 

「本当ですか? それじゃあ早速……」

 

 ――無茶はするな、手掛かりを掴んだらまず連絡しろ。

 

 頭を過ぎったのは、メンバーの身の安全を第一に考えたクラドの言いつけ。

 今すぐにでも確認に向かいたい衝動を抑えたベルだが、不幸なことに彼女の旧型ディスクでは直ぐに連絡を取ることは叶わない。

 一旦、Dパッドへの連絡端末がある宿へ戻って誰かの帰りを待つしかない。

 

「っと、その前に一旦宿に戻って連絡しなきゃ。皆さん、ご協力ありがとうございました!」

 

 そう言って頭を下げ、そそくさと席を立ったベルに声を掛けたのは。

 

「あ。それ、あたしも付いていってい~い?」

 

 いつの間にか10皿目を平らげたヒヨリが、立候補とばかりに高々と片腕を上げていた。

 

   ** 

 

 日も暮れかけたメインストリートはすっかり色とりどりな明かりに彩られ、まるで花々が咲き乱れる様相だった。

 だが、そんな華やかで人通りも耐えない大通りも、脇に一本外れてしまえばガランとした光届かぬ洞と化す。

 

「あの!! 本当にこっちで合ってるんですか!?」

「うん、教えて貰った宿にはここを通れば近道だよ!」

 

 近道を行こう、と勢い良く飛び出したヒヨリに手を引かれ、ベルは何度も転びそうになりながらパタパタと駆けていた。 

 遊び回っているうちにシガマの地理は大方把握したと胸を張っていたが、どこか抜けているヒヨリの言葉には不安が残る。

 

「あ、あの!? 本当に大丈夫なんですか!?」

「大丈夫、大丈夫~!」

 

 いくら大都市とはいえ、その実体を突き詰めれば荒くれ者共が闊歩するネイティブだ。そんな街の路地裏なら、ある程度の危険が伴う場所ではあるのだが……腕の立つ決闘者であるヒヨリはそんな『危険』などものともしなかったのだろう。

 

(ほ、本当かなぁ……?)

 

 どこかの飲食店からだろうか、換気扇から油の混じった生暖かい風がムワリと顔を撫でていくこと数度。

 壊れた機材などが散在する、少しばかり開けた場所まで出ると、ヒヨリはぴたりと足を止めて立ち止まった。

 

「ここを真っ直ぐ行ければ、宿の前に着くよ!」

 

 びし、と腕を伸ばして指し示したその先には――。

 

「真っ直ぐ、って――行き止まりじゃないですか」

 

 柵を飛び越える、などというレベルのモノではなく、恐らくは建物の裏側なのだろうコンクリートの壁がしんと立ち塞がっていた。

 

「……あの、近道っていうのは?」

「だから、『真っ直ぐ行ければ』近道なんだよ。ココ」

 

 脇に打ち捨てられた機材の山。その中の『何か』を隠すように覆っていた麻布の端を、ヒヨリはおもむろに掴むと勢い良く引き剥がした。

 

「……バイク?」

 

 薄汚れた麻布の下から現れたのは、ワインレッドの光沢を放つ二輪の車体だ。

 D・ホイール。見た目は通常のオートバイクと遜色無いが、その実態はデュエルディスクとしての機能を兼ね備えた『走るデュエルディスク』である。

 決闘疾走(ライディングデュエル)と呼ばれる、D・ホイールを用いての特殊なデュエルを行う際には必須となる代物なのだが――。

 

「あれ? D・ホイールのコト知らない? まぁココじゃあんまり流行ってないって言ってたしなー」

 

 言いながら、ヒヨリがD・ホイールのパネルを手馴れた様子で操作していく。

 まさか、と嫌な予感がして、ベルは思わず素っ頓狂な声を出していた。

 

「まっ、まさか!? ソレに乗って跳ぶとか!?」

 

 オチは見えたと言わんばかりにずばしと指摘したベルだが――その予想は最悪の方向で裏切られることとなった。

 

「あっはは、違う違う! キミを乗せてそんな真似はしないよ?」

 

 ガチャン、と飛び出したD・ホイールのディスク部分を取り外し。

 

「これでよし、と」

 

 ヒヨリは何でもない風にソレを左腕に装着し――笑顔のまま、構えた。

 

「え?」

 

 気が付けばベルが壁側。

 ヒヨリが立ち塞がるように帰り道の方向に立ち塞がる形で佇んでいる。

 

「さ。ディスクを付けて、構えて?」

 

 思考が糸くずのように絡まり、上手く状況が飲み込めない。

 ヒヨリが何を言っているのか、何を求めているのかが分からない。

 

「あ……あの。ヒヨリ、さん?」

 

 目の前の現実を全力で否定しようとする。そんなベルの震えた戸惑いを、質量と熱を帯びた何かが遮るように放たれた。

 それはベルの頬を掠め。僅かに髪の焦げた臭いが、ツンと鼻を刺激した。

 

「――え?」

 

 小首を傾げるヒヨリの手はディスクに添えられている。

 ベルには全く何をされたのかは分からなかったが、少なくとも目の前の人物が自分に危害を加えようとしていることは理解出来た。

 

「デュ~エ~ルッ! しよ?」

 

 例えそれが、自己防衛の為に発動する審判員機構のサポート無く『半実体化された』カードによる攻撃だという、不可解な現象であってもだ。

 

「……何が、目的なんですか?」

 

 震える足を、混乱する頭を必死に立て直して、ベルはヒヨリに問い掛ける。

 相変わらず笑顔のまま。ヒヨリは少しだけ困ったように眉を下げた。

 

「んー? そうだなぁ、口封じとか?」

「口、封じ?」

「そ。キミ達を『あの子』に会わせるワケには行かないんだ、あたしとしてはさ」

 

 ヒヨリの言う『あの子』が『白面の女』であることは、容易に結びついた。

 つまり――。

 

「……騙したんですね」

 

 きっ、とベルが鋭い眼差しをヒヨリへ向けるも、当の本人はそんなことはお構い無しで軽い言葉を投げていく。

 

「そーなるかなぁ。あ、でも嘘は付いてないよ? あんな下手っぴな絵みたいな人は知らないもん。あの絵によーく似てる『あの子』のことは知ってたけど、教えるワケにはいかなかったから黙ってただけだしね?」

 

 ケラケラ、と笑顔のままで語るヒヨリに、悪ぶれる様子は全く無い。

 

「この道だって本当に近道。だから~……そう! 騙されたキミが悪い!」

 

 手をぽんと打って言い捨てると、ヒヨリはベルを指差して笑った。

 まるで台本を棒読みしているような、粗雑で出来の悪い敵役だ。

 

「……あなたは、どこまで知ってるんです?」

「それはあたしに勝ったら教えてあげるよ♪ 決闘者ってそういうモノでしょ?」

 

 ぽんぽん、とディスクを叩いて「早く付けろ」と言わんばかりに催促する。

  

 

「……分かりました」

 

 審判員機構に頼らずカードの力を行使できる相手に、これ以上の抵抗は無意味。

 ベルはディスクを取り出すと、即座に装着しデュエルモードへと変化させた。

 

「もう何も聞きません。あなたを全力で倒して……洗いざらい全部話して貰う事にしました!!」

 

 街へ出る前に調整を終えたばかりのデッキが挿し込まれると、ディスクのオートシャッフル機能がカードをランダムに並び替えていく。

 

「あはっ、いいねそういうの! 胸アツ♪」

 

 ヒヨリの左腕、深紅のディスクから騒がしい金属音を鳴らし、一筋の赤い線が伸びた。

 シャッフルを終えたばかりのベルのディスクに巻き付いたそれは――まるで血に染まったような色をした、半ARの鎖だった。

 

「っ!? デュエルアンカー……!?」

「似たようなモノだよ。キミもヤル気になったみたいだし、必要無さそうだとは思ったんだけど……一応ね?」

 

 くい、と鎖のアンカーを軽く引き寄せて接続を確認すると、ヒヨリはにっこりと、本当に楽しそうに微笑んで言った。

 

「――さぁ。楽しいデュエルを、始めよ?」

 

 ベル LP4000 VS ヒヨリ LP4000

 

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