遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第15話 闇のゲーム

 デュエルモードとなった2台のディスクがリンクし、周囲に黒い霧が立ち込めていく。

 仮想現実にしてはどこか生き物じみた不気味な気配が、ぞわりと背筋を撫でた。

 

(AR? にしては何だか……)

 

 ベルが疑問に思う間もなく、ヒヨリはデッキトップに手を掛ける。

 

「あたしのターンからだね! ドロー!」

 

 先程の店で見せたままの陽気さで、ヒヨリはカードを引き抜いた。

 ベルのディスクには確かに、後攻を示すブルーのランプが灯っているが……あの賑やかな審判員の姿はどこにも無い。ARが作動しているにも関わらず、だ。

 

「ちょっと待ってください、審判員機構は!?」

「? いらないよ、そんなの。あたしは手札からこの子を召喚っ!」

 

《炎王獣 ヤクシャ》

☆4/炎属性/獣戦士族・効果/ATK 1800/DEF 200

 

 牙剥く戦士が、逆巻く炎を振り払い咆える。

 その熱気とプレッシャーは、明らかな『現実』を伴っていた。

 

(何が、一体どうなって……!?)

「カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

 ベルの混乱をよそに、早々にヒヨリは先行1ターンを終えた。

 呆然と立ち尽くしたまま動かないベルに、ディスクがフェイズ進行を促すブザーを鳴らす。

 

「わ、わたしのターン……」

 

 ベル  LP4000

     手札・5→6 モンスター・0 魔/罠・0

 ヒヨリ LP4000

     手札・3 モンスター・1 魔/罠・2

 

 不穏な空気が漂うフィールドに対し、ベルの手札はこのドローによって整った。

 一気に攻めるべきかと思案する一方で、何もかもが分からない不気味な相手に警鐘は鳴りっぱなしだ。

 唯一の事実である『凄腕の決闘者』だという素性が、その警戒を一層強める。

 

「スタンバイからメイン、わたしは手札から《切り込み隊長》を召喚! さらにその効果で、手札から《カードガンナー》を召喚!」

 

《切り込み隊長》

☆3/地属性/戦士族・効果/ATK 1200/DEF 400

 

《カードガンナー》

☆3/地属性/機械族・効果/ATK 400/DEF 400

 

 ベルのデッキの中核を成す騎士と、ユウのデッキにも採用されていた野暮ったいデザインの機械モンスターが並び立つ。

 しかし、ヒヨリのカードは伏せられたまま発動する気配が無い。

 

「……何も無いなら、行きます! デッキの上からカードを3枚墓地へ送り、カードガンナーの効果発動! カード3枚分の1500ポイントを攻撃力へ加えます!」

 

《カードガンナー》

ATK 400→1900

 

「バトル! カードガンナーでモンスターへ攻撃!」

 

 僅か100ポイントばかりが上回った、カードガンナーのチャージショットがヤクシャへと迫る。

 どちらかの伏せカードを発動すると睨んでいたベルだったが、ヒヨリからの宣言は何も挟まらず攻撃はヤクシャの硬い鎧を貫き爆散させた。

 

 ヒヨリ LP4000→3900

 

「……ふーん、まぁいいや。ここであたしはヤクシャの効果を発動!」

(破壊を引き金にするモンスター効果……!?)

 

 無防備な攻撃表示に罠の発動が無いとなれば……当然ながら本命はモンスター自身ということだ。

 

「このカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分の手札かフィールド上のカード1枚を選択して破壊出来る! あたしが選択するのは手札の《炎王神獣 ガルドニクス》!」

 

 ヒヨリの手札で破壊されたのは、ヤクシャと同じ名前を持つ最上級モンスター。

 墓地へ送ってから蘇生する算段なのかもしれないが、破壊をトリガーとしていたヤクシャの存在から何か意味がある行為なのだとベルは読んだ。

 名前で纏められたカテゴリデッキは、どのカードも似たような特徴を持つ。それはここに至るまでの道のりで十分に理解していた。

 

「でも……この攻撃を防ぐ手段にはなってない! 切り込み隊長でダイレクトアタック!」

 

 ガラ空きとなったヒヨリのフィールドを駆け、切り込み隊長が剣を振るう。

 肉を断ち切るやけにリアルな音が響いた後、ヒヨリのライフが大幅に減少した。

 

 ヒヨリ LP3900→2700

 

「メイン2、カードを2枚伏せてターンエンドです!」

 

 出来うる限りの想像と対策を場に秘めて、ベルはこのターンを終えた。

 同時に、カードガンナーの効果が切れ、攻撃力が元の400ポイントへ戻る。

 

「あたしのターンだね、ドロー!」

 

 ドローカードには目もくれず、ヒヨリは即座に宣言した。

 

「このスタンバイフェイズ前のターンで『破壊』されたガルドニクスの効果を発動!」

 

 墓地に送るではなく、破壊。

 やはり来たかとベルが身構えると、立ち込める黒い瘴気に僅かに紅が混じっていく。

 

「カードの効果によって破壊されたガルドニクスは、次のスタンバイフェイズに墓地から特殊召喚され――このカード以外のフィールド上のモンスターを全て! 破壊するっ!」

 

 水飛沫のように火の粉を撒き散らし、地中から飛び出したのは炎を纏いし巨鳥。

 かの不死鳥を思わせるソレは、やがて色彩鮮やかな翼を広げ甲高い咆哮を上げた。

 

《炎王神獣 ガルドニクス》

☆8/炎属性/鳥獣族・効果/ATK 2700/DEF 1700

 

「燃やし尽くせ! 『破壊と再生の輪廻』!」

 

 炎の奔流が2体のモンスターを飲み込まんとした、そのとき。

 

「させません! 速攻魔法発動、《禁じられた聖杯》!」

 

 伝承の杯から溢れる液体が、ガルドニクスの炎を鎮めていく。

 その様子を見たヒヨリが、ぷぅと頬を膨らました。

 

「またそのカードかぁ……なーんかいい思い出ないなぁ。でも……」

 

 不満げに呟いたのも束の間。聖杯の副次効果を受け最上級モンスターの攻撃力、その大台を超えたガルドニクスをヒヨリは笑みを浮かべて眺めた。

 

「これで攻撃力は3100、かの《青眼の白龍》も上回った! なーんて♪」

「ブルー……アイズ?」

 

 かの、と言われても聞き覚えの無いカードの名前に、ベルは首を傾げた。

 確かアンリエールがそんな名前のコーヒーを飲んでいたな、と脳裏を過ぎったが。

 

「あれー、キミも知らない? 何でかなー、皆知らないんだもん。つまんないのー」

 

 再び頬を膨らませるヒヨリであったが、確かに今のガルドニクスは脅威だ。

 切り込み隊長の効果で攻撃力の低いカードガンナーを攻撃される心配は無いが、それもこれ以上モンスターが増えなければ、という前提付きだ。ヒヨリの展開次第では、このままライフを削られる危険もある。

 

「まぁいいや。あたしは手札から《炎王獣 バロン》を召喚して、バトル!」

 

《炎王獣 バロン》

☆4/炎属性/獣戦士族・効果/ATK 1800/DEF 200

 

 細身のヤクシャよりもどこか力強そうな印象の、赤い肌の獣戦士が鼻息を鳴らしてフィールドをズシンと踏み揺らした。

 

「まずはバロンで切り込み隊長を攻撃!」

「罠カード発動! 《和睦の使者》!」

 

 無論、黙ってやられるベルではない。

 戦闘ダメージをオールカットする強力な守護結界が、2体の脆弱なモンスターを守った。

 

「うーん……しぶといなぁ。あたしはこれでターンエンドだよ」

「わたしのターン、ドロー!」

 

 ベル  LP4000

     手札・2→3 モンスター・2 魔/罠・0

 ヒヨリ LP2700

     手札・2 モンスター・2 魔/罠・2

 

 手札は順調に、勝利を掴む為の布陣へと形を変えていく。

 その『順調』が逆にベルの不安を煽るが、今は臆している場合でもない。

 

「スタンバイからメイン! わたしは……☆3の切り込み隊長とカードガンナーで、オーバーレイ!」

 

 橙色の光玉となった2体のモンスターが、螺旋を描いて宙へと昇る。

 折り返すように降下する地表には、虹色の輝きを放つ光の渦。

 

「2体の地属性モンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 アンリエールとのデッキ調整を思い出し。並べられた召喚の祝詞に淀みは無い。

 故にベルの願いは届き、新たな力は大きな爆発を伴って顕現した。

 

「エクシーズ召喚! ★3、《銀嶺の巨神》!」

 

《銀嶺の巨神》

★3/地属性/岩石族・エクシーズ・効果/ATK 1800/DEF 2200

 

 見上げるような大きな岩壁が、ベルのフィールドに姿を現す。

 2本の脚を生やした山の頂から、上半身だけを覗かせた迫力のあるシルエット。メンバーの皆から受け取ったばかりのエクストラカードだ。

 

「銀嶺の巨神、効果発動! 1ターンに1度オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手の伏せカード1枚を選択して発動を封じます! 選択するのは右側の伏せカードです!」

 

 銀嶺の巨神が《切り込み隊長》の光球をその身に受け、効果を発動するべく地響きを立てる。

 一見強力な効果であるが、カードの発動を封じられるのは銀嶺の巨神が表側で存在する場合のみ。それに、この効果にチェーンして発動されてしまえば意味を失ってしまう。

 

「おおっ?」

 

 だが、ヒヨリは何の宣言もすることなく。

 自らの伏せカードが岩に覆われていく様を、ただ目を丸くして眺めているだけだった。

 

「バトル! 銀嶺の巨神でバロンを攻撃!」

「相打ち覚悟? いいよ、受けて立つ!」

 

 巨神の効果を知っているのかいないのか、ヒヨリは迎撃指令をバロンに出す。

 瞬間、ベルの口元が吊り上がる。

 

「……ダメージステップ開始時。手札から速攻魔法発動、《突進》! 銀嶺の巨神の攻撃力を700ポイントアップします!」

 

《銀嶺の巨神》

ATK 1800→2500

 

 結果。炎を纏ったバロンの攻撃は通らず、巨神の巨大な脚が一方的な踏み潰しを行っただけに至った。

 

「あ、あり?」

 

 ヒヨリ LP2700→2000

 

 気の抜けたような表情で返すヒヨリに、ベルは宣言を続けた。

 

「この瞬間! オーバーレイ・ユニットを持っている銀嶺の巨神が相手モンスターを戦闘で破壊した場合、自分の墓地のモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚できます!」

 

 銀嶺の巨神を中心として、大きな魔法陣がフィールドに浮かび上がる。

 その魔法陣が導く先は、消えたはずの命が灯るベルの墓地。

 

「……へぇ、にゃるほど」

 

 ベルの墓地に確認できるのは、巨神の効果で取り除かれた《切り込み隊長》のみ。

 しかし――ヒヨリが確認しなかった3枚のカードの内、モンスターカードがあれば。

 そう、最初のターンで《カードガンナー》のコストで墓地へ送られていたなら。

 

「蘇生するのはこのカードです! 舞い戻って、《―**―(アスタリスクス) 翼戦神(ヴァルキュリア)》!!」

 

《―**―翼戦神》

☆10/地属性/天使族・効果/ATK 2800/DEF 3000

 

 魔法陣から溢れる光の粉塵と共に、ベルのエースたる機械天使が光臨する。

 どこか余裕に溢れていたヒヨリの表情は――ここへ来て、驚愕の色を覗かせた。

 

「えっ……?」

 

 正確には、うっすらと笑みを浮かべたまま固まっていた。

 

「あ……あっはははは!!」

 

 擦れたような笑い声が漏れた、そう思ったのも束の間。

 目尻には涙を溜めて、ヒヨリは狂ったように腹を抱えて笑い出した。

 

「な、何ですか……?」

「あっははは、いいね! いいよこの展開っ! 最ッ高に胸アツだよっ!」

 

 手札すら放り出さん勢いで笑うヒヨリに、ベルは思わずたじろいだ。

 このカードについて、アスタリスクスについて何か知っているようではあったが。

 

「あー、おかしー……でもこうなったら、ゼッタイ勝たなくちゃ……ね♪」

 

 瞬間。ぞわりとベルの爪先から頭蓋まで何とも形容しがたい悪寒が走った。

 何とか言い換えれば、それはチェーンソーを首筋に当てられたような粗雑な殺意。

 

「め、メイン2! ヴァルキュリアの効果で手札の《セイバー・ビートル》を装備して、ターンエンドです!」

 

 守備表示のヴェルキュリアに、刃の先が二股に分かれた剣が握られる。

 逃げるようにターンを進めたベルだったが、ミスは無い筈だ。

 

「じゃあそのエンドフェイズに、リバースカードを発動させるよ?」

 

 沈黙を保っていたヒヨリの伏せカードが開く。

 

「罠カード《ジェネレーション・チェンジ》。自分フィールドのモンスター1体を破壊し、破壊したカードと同名のカード1枚を手札に加える」

 

 炎の粉を花弁のように散らし、ガルドニクスが破壊のエフェクトと共に墓地へ舞い戻る。

 ヒヨリの手にはもう1枚のガルドニクスが握られたが、その真意はベルにも理解出来た。

 

(これでまた、スタンバイフェイズに破壊効果が――!!)

「あたしのターンだね? ドロー! スタンバイフェイズ、ガルドニクスの効果を発動!」

 

 再び迸る炎の奔流。止める手立ての無いベルのフィールドは紅蓮に包まれていくが――。

 

「ヴァルキュリアの効果を発動! 装備カードを全て墓地に送り、攻撃力を300ポイントダウンさせることでこの破壊を無効にします! 『アームズ・プロテクション』!」

 

《―**―翼戦神》

ATK 2800→2500

 

 ヴァルキュリアだけは、幻影となったセイバー・ビートルに守られ破壊を免れた。

 惜しくも、銀嶺の巨神は猛火の向こうへと消えていく。

 

「へぇ、そんな効果があったんだぁ……あーあ、攻撃表示なら戦闘破壊出来たのになー」

 

 ちぇ、と口で呟いて、ヒヨリは口をヘの字に曲げた。

 

「それならあたしは、モンスターをセットしてターンエンドだよ」

 

 ベルとのライフ差は半分。だというのに、ヒヨリからは余裕が消えるどころか妙な殺気すら漂いつつある。

 何か手があるのか。先程見たヒヨリの『眼』を思い出して肌を粟立たせたベルだったが、無常にもターンは進んでいく。

 

「わたしのターン……ドロー!」

 

 ベル  LP4000

     手札・1→2 モンスター・1 魔/罠・0

 ヒヨリ LP2000

     手札・3 モンスター・2 魔/罠・1

 

 ドローカードは悪くない。

 だがそれ以上に、現状の手札で下手をすれば勝利を掴める状況にある。

 それを手放しで喜べないのは、ヒヨリの放つ不気味なプレッシャーがあるからだろうか。

 

「スタンバイからメイン、ヴァルキュリアの効果で、手札の《マジック・ストライカー》を装備! その効果と名称を得て、攻撃力を600ポイントアップします!」

 

 いつかと同じ魔法杖が、ヴァルキュルリアの手に握られる。

 

《―**―翼戦神》

ATK 2500→3100

 

「えーと。つまりこれでダイレクトアタックが可能になったワケだ! 反則的~」

 

 伏せられたままのカードは、先程から何の行動に対しても発動されなかった。

 ともすれば、あのカードは少なくとも攻撃反応型の罠や魔法では無いということになる。

 ヴァルキュリアの攻撃が通れば、このまま勝利を掴める――。

 

「その通りです! バトル、ヴァルキュリアでダイレクトアタック!」

 

 ガルドニクスを、未だ正体の見えない伏せモンスターを飛び越え、ヴァルキュリアの放つ大魔法はヒヨリへ肉薄していく。

 迫る光を真正面に捉え、ヒヨリがニヤリと口端を歪めた……その時だった。

 

「そこまでです」

 

 凛とした女性の声が響いたかと思うと、ベルとヒヨリを結ぶ紅い鎖が、突然粉々に弾け飛んだのだ。

 途端、互いのディスクからエラー発生の警告が鳴り響き、フィールドを包んでいた黒い瘴気共々モンスター達の姿も消え去った。

 

「え……!?」

 

 突然晴れたベルの視界に飛び込んできたのは……いつか見た筈の、今は(ユウ)が追い求めている謎の人物。

 

「白面の……!?」

 

 袖の長い赤の上着を羽織り、フードまで被って全身を隠した狐の白い面を被った女が、そこに居た。

 

「……。帰りますよ」

「えー!? なんでよー!? 今いいところだったのにー!!」

 

 白面の女に地団太を踏んで抗議するヒヨリはまるで駄々をこねる子供のようだが、女は落ち着いた様子で諭した。

 

「……我侭はやめて下さい。長がお呼びです」

「む、分かったよぅ。しょうがないなぁ……」

 

 渋々、といった様子でヒヨリはデッキとディスクを納めると、くるりとベルに向き直った。

 

「今日はジャマが入っちゃってゴメンネ? だけどまた絶対に『大会で』デュエルしようねー!」

 

 仲の良い友達との別れを惜しむように、ヒヨリは大きく手を振ると――いつの間にか起動していたD・ホイールの後部座席に跨った。

 前席には白面の女が跨り、ハンドルを握っている。

 

「ちょっと、待ってください!! まだっ!!」

 

 逃がしてなるものかとベルは咄嗟に追いすがったが、巻き上がる爆音と砂煙に阻まれてしまう。

 どういう技術を使ったのか、2人を乗せたD・ホイールは『近道』だという壁を飛び越え、姿を消してしまった。

 

「……あの人達は、一体……」

 

 惜しくも勝利を逃した己の手を、ベルはじっと眺めて考える。

 もしも負けていたのが自分だったとしたら、と。

 

「あれが、闇のゲーム……?」

 

 換気口から流れる生暖かい空気に包まれながら、ベルは身体を震わせていた。

 

 

   ** 

 

 

「巫女。一体どういうおつもりですか? 報告無しに《アスタリスクス》と戦うなど」

 

 蝋燭の明かり1つで照らされた廃工場の一室に、静かな女の声が響いた。

 そこは1週間ほど前から『幽霊が出る』と子供達に噂され始めた曰くつきのスポットである。火の無いところに煙は立たない、ということだ。

 

「だからぁ、ゴメンて! 本当に知らなかったんだよ、あのコが持ってるなんて!」

 

 攻め立てる白面の女に、ヒヨリは後ろ頭を掻いて答えた。

 呆れたように溜め息を付いて、白面の女が言葉を続ける。

 

「……貴女が嘘を付けない性格なのは知っていますが。しかし――」

「お説教もその辺にしといてやれよ。巫女サマが可哀想だろ?」

 

 ぼう、と闇の中に浮かび上がったのは、笑顔を浮かべた狐の面。

 声は高く少年のようだが、その全貌は見えない。

 

「なぁ? 長も何か言ってやれよ?」

 

 笑顔の狐面が声を掛けると、今度は黒い狐の面が浮かび上がる。

 

「……これは我々にとって憂慮すべき事態でも、歓迎するべき事態でもある。狙うべき『敵』が増えた、ということだからな」

 

 長、と呼ばれた声の主は、低く唸るように呟いた。

 歳を重ねた男性の声ではあるが、押し潰すような気迫に衰えは見えない。

 しかし、長が返した『答え』とは呼べない言葉に気落ちしたのか、笑顔の狐面からは溜め息が漏れた。

 

「今大会の《アスタリスクス》所持者はこれで4人。全てを、我々の手中に収める必要がある……」

 

 半ば独り言のように語る黒い狐面には、誰一人として言葉を返す者はいなかった。

 誰しもが、そんなことは言われるまでも無いとでも言う風に。

 

「……それはそうと、巫女。いい加減に私のデッキを返して頂けますか?」

 

 そんな沈黙を破ったのは、どこか不機嫌そうな白面の女だ。

 

「あ、ゴメンゴメン……っていうか、怒ってる?」

 

 ヒヨリがデッキを手渡しながら、上目遣いで尋ねると。

 数秒の間を置いて、白面の女が言葉を返した。

 

「……怒っていません」

「嘘付け。愛車をベタベタ触られて怒り心頭なクセに」

 

 ケタケタと嗤う笑顔の狐面にバッと振り返ると、白い狐面の女はカツカツと早足に歩を進ませて闇の中へと消えていく。

 

「いだっ!? なんだよオレに八つ当たりするんじゃねーよ!?」

 

 ポコスカと可愛らしい殴り合いの擬音が聞こえると共に、笑顔の狐面も闇の中へと吸い込まれていく。

 

「あっはは、いつもケンカしてばっかりだねぇ♪ 楽しそうだなー……」

 

 楽しげに笑うヒヨリの目が、徐々に鋭く研がれていく。

 

「……あーあ、本当に楽しそうだなぁ。早く始まらないかな、デュエル大会♪」

 

 遠足を待ちわびる子供のような言葉とは対照的に。

 その瞳は血に飢えた獣の如く、ギラギラと闇の中で輝いていた。

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