遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

21 / 64
【※WARNING!※】
アクションデュエルの関係上、今話にはオリジナル要素やアニメオリカの成分が大量に含まれます。苦手な方々はご注意下さい。


第20話 宝石剣と魔蟲の罠

 

『ここで、本大会で採用されるアクションデュエル、及びタッグデュエルのルールについておさらいです』

 

 ネフが隣に図解を表示させながら、開始前に観客向けの説明を始める。

 どうやら予選では初のアクションデュエル適用だったらしい。

 

『アクションデュエルは、その地方や大会ごとに設定されるルールのオプションが異なる場合が多い、所轄「ローカルルール」が存在する競技形態であるため、本大会では「悠久の黒(ヒストリア・ノワール)」で用いられている設定を用いることをご了承下さい』

 

 ぺこり、と静かに頭を下げるネフとコーパル。大人しくしていると流石は双子型、どちらがどちらか見分けが付かない。

 

『まず第1に、今大会の「アクションカード」は魔法カードでありながら、相手のターンでも手札から発動出来る「スペルスピード2」の特殊なカードとして扱います。ただし各効果の発動タイミング等については通常の魔法・罠と同様とします。使用されたアクションカードは、使用したプレイヤーの墓地へと送られます』

 

 最近になってようやく覚えた『ダメージステップ』等の用語が、ベルの脳裏を過ぎる。

 

『第2に、「手札・場に加えられるアクションカードは1プレイヤーにつき合計1枚まで」。今回はタッグデュエルですので、自分とパートナーを合わせて手札と場に存在出来るアクションカードは合計2枚までとなります』

 

 ネフの解説板に、アクションカードを大量に伏せてから一度に発動する黒ずくめの男ががパトランプ頭の男に取り押さえられる、というアニメーションが流れた。

 極端な例ではあるが、こういったルールが設けられた理由が良く分かる。

 

『最後に、「アクションカードのドローについて」。アクションカードのドローは1ターンに1度、メインフェイズ1に自分フィールドのモンスター1体を選択し、そのモンスターと共にフィールド内に隠されたアクションカードを見つけて下さい。制限時間は3分間。その間にアクションカードを見つけることが出来なかった、もしくは選択したモンスターが破壊されるかプレイヤーにダメージが通った場合には、アクションカードのドローは「失敗」となります』

 

 この辺りにローカルルールが多いのか、アンリエールも僅かに耳を傾ける。

 

『次にタッグデュエルについてですが、こちらもローカルルールが多く存在するようで、ここまでにも多数トラブルが起こりましたため、試合前に逐一説明をさせて頂きます』

 

 ネフの口調から、僅かにうんざりしたような陰鬱な空気が受け取れた。

 決闘者同士のいざこざを『ルールの名の下に』まとめるのも審判の役目なのだろう。

 

『フィールドと墓地は共有、手札・エクストラデッキは非共有と致します。ターンの流れについてですが、仮に先攻チームをA・B選手、後攻チームをC・D選手としました場合、以下のようになります』

 

①攻撃プレイヤーA、防御プレイヤーD(最後攻プレイヤー)

②攻撃プレイヤーC、防御プレイヤーA

③攻撃プレイヤーB、防御プレイヤーC

④攻撃プレイヤーD、攻撃プレイヤーB

 

 解説板に映し出された図を見せつつ、ネフが言葉を続ける。

 

『先攻①の攻撃プレイヤーは通常通り攻撃宣言が出来ませんが、②以降の攻撃プレイヤーからは攻撃宣言が可能となります。また手札発動のカードを使用したり、場の伏せカードを発動出来るのはそのターン中の攻撃・防御プレイヤーのみです。例を挙げれば、①の先攻ターンでA選手のモンスター効果に対してC選手の《エフェクト・ヴェーラー》は発動出来ないといった具合です』

 

 またも黒ずくめの男とパトランプ男のアニメーションが流れたが、黒ずくめの不正に対してパトランプ男は何と腹部を殴るという制裁を加えていた。「痛そう……」と悲痛な目で呟いたのはベルだ。

 

『同様に「手札に戻る」「デッキへ戻る」効果もそのターン中のプレイヤーにのみ適用されます。先の例で上げれば、A選手の展開したモンスターがB選手の攻撃ターンでバウンスされたとしても、戻るのはA選手の手札ではなくB選手の手札という訳です』

 

 このルールについて不利になる点は、リクルーターを多用するベルにはすぐ分かった。

 アンリエールのターンで自分のリクルーターが破壊されてしまえば、その効果を生かすことは出来ない……不利な状況に思わず歯噛みしながらも、その表情を悟られまいと必死に顔を引き締めて見せた。

 今でこそ酒に舌鼓を打っているが、フリンのその鋭い観察眼はしっかりと自分達へと向けられているのだから。

 

『最後に、LPはハーフであれば4000×2の8000。フルであれば8000×2の16000としてタッグ共有となります。説明は以上となります、お付き合いを頂きまして、ありがとうございました』

 

 審判員姉妹はそう言って一礼すると、すごすごと解説席へと引き下がっていった。

 先攻・後攻は既にダイスによって決められており、まずはサラからのターンだ。

 

「それでは改めまして、サラといいます。今日はよろしくお願いしますね?」

 

 ぺこり、と頭を下げたサラの大きな胸がたゆんと揺れる。

 退屈な解説に飽きていたの男達は皆、揃って黄色い歓声を上げた。

 

『おっとサラ選手! これはイキナリ過激なパフォーマンスだぁ~!』

『流石です。持っていますね』

「えっ? いえ私、そんなつもりじゃ……!」

 

 かーっと頬を染めるサラを見て、何か思うところがあったベルはうんうんと頷いてぽつりと呟く。

 

「……分かりますサラさん。揺れるもんは揺れるんです」

「何を共感してますの? 人のフリ見て我が振り直せ。貴女もそのみっともない脂肪をどうにかする努力を心がけて下さいまし」

「だから! これは減らそうと思って減るもんじゃないんです!」

 

 またも始まった電池メンの如き火花の散らし合い。

 やはり何かを間違えたかと思わず頭を抱えるクラドだったが……ふと、隣を見ると藍がゴソゴソと何かを取り出すのが見えた。

 

「……姉ちゃん、何してんだ?」

「耳栓を付けたの」

 

 猫の顔がついた可愛らしい耳栓。防音効果はバッチリと評判だが、その装飾からか男性からはあまり評判はよろしくない代物だ。それでも防音性の高さから作業用に購入するデスクワーカーも多いとのことだが……今はデュエルの真っ最中である。

 

「……えっと、何でそんなモンを今付けたんだ?」

「耳に毒って言葉があるでしょう?」

 

 目に毒、なら聞いたことあるんだけどなぁ。

 そう思ったクラドであったが、そんな疑問を口にする前にふと気になったことがあった。

 

「……あのさ姉ちゃん、何で俺の話が聞こえるんだ?」

「私ね、読唇術が使えるの」

 

 そう答えた藍の目は、クラドの口からフィールドに立つベル達ではなくデュエルの進行をのみを示す大モニターへと向けられた。

 そっか、とクラドは優しく微笑むと、視線をフィールドへと戻したのだった。

 

「わたしだって好きでこんなに大きくなった訳じゃ……!」

「へぇ~……それはそれは羨ましい限りねぇ、お嬢さん?」

 

 ベンチで人知れず起きていた悲劇など知る良しも無く、口論を繰り広げるベルとアンリエール。だがそこへ、思いもよらぬ乱入者が割り込んできた。

 ダイヤの如く鋭い光を放つ、エメラルドグリーンの瞳。

 腰に手を当ててニッコリと微笑む、スレンダーな姉のリリンだ。

 

「へ!? ああ、えっと……すいません……」

「? 貴女も随分変わった人ですのね。その慎みある身で、こんな余計なモノを欲しがるなんて」

「っ!?」

 

 慎みある身のリリンは、堂々としたアンリエールの言葉にガンッとショックを受けて俯いてしまった。かと思うと、わなわなと肩を震わせておぞましい声を沸き上がらせる。

 

「ふ、ふふふ……いいわ。幽霊姫だかなんだか知らないけど、この私に喧嘩を売ったことを死ぬほど後悔させてあげる……!」

「喧嘩? 何を言ってますの?」

 

 当人としては何ひとつとして侮辱したつもりなど無いのだろう、恐らくは褒めた部類だ。

 アンリエールは本当に不思議そうに首を傾げたが、それがかえってリリンの怒りに油を注ぐ結果となってしまった。

 

「……サラッ! あんなガキンチョ共、さっさと片付けるわよ!」

「は、はいっっ! わ、私のターン!」

 

 その形相はまるで子供向けアニメに出てくる敵の女幹部。恨みつらみをはらんだドスの利いた声でリリンが吼える。姉の怒りに触れてぴょんと飛び上がったサラが先攻1ターン目を開始した。

 

「私はカードを2枚、モンスターを1体伏せてターンエンドです!」

 

 サラの奥手そうな印象をそのまま体現したかのようなガチガチの防御布陣が敷かれる。

 続く後攻攻撃プレイヤーであるベルはその光景に思わず顔を引き攣らせたが、1ターン目から逃げ出すわけにもいかない。

 

「わたしのターン、ドロー!」

 

 初期手札はお世辞とも好調とは言えなかったが、後攻だったおかげで手札に良いカードが舞い込んできた。

 

「スタンバイからメイン、わたしは……手札から魔法カード《増援》を発動! デッキから《マジック・ストライカー》を手札に加え、その効果で墓地の《増援》を除外して特殊召喚します!」

 

《マジック・ストライカー》

☆3/地属性/戦士族・効果/ATK 600/DEF 200

 

 墓地のコストを払っての特殊召喚。

 後に続く強力なモンスターへの布石であろうことは明白だ。

 

「更に手札からチューナーモンスター《ジュッテ・ナイト》を通常召喚!」

 

《ジュッテ・ナイト》

☆2/地属性/戦士族・チューナー・効果/ATK 700/DEF 900

 

 まずはカードの発動が無いことを確認。

 ひとまずそこで息をついて、ベルは宣言を続けた。

 

「それなら……☆3のマジック・ストライカーに、☆2のジュッテ・ナイトをチューニング!」

「なっ!? お馬鹿っ!!」

 

 アンリエールの鬼気迫る声にびくり、と肩を上げたベルだったが、1度宣言された『シンクロ召喚』は止まらない。

 ジュッテ・ナイトの作り出した光の輪をマジック・ストライカーが潜り抜け、その身体を変質させていく。

 

「どうして先に『アクションカードをドローしなかった』のです!?」

「え……?」

 

 ベルはすっかり失念していた。

 これが通常のデュエルではなく、特殊なルールを用いた見知らぬ戦場であることを。

 郷に入っては郷に従え。ルールが変わればそこに新たな『定石』が生まれるということを。

 

「と、とにかくシンクロ召喚! 《A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス) カタストル》!」

 

《A・O・J カタストル》

☆5/闇属性/機械族・効果/ATK 2200/DEF 1200

 

 光を割いて現れる殲滅の機械兵。

 しかしここで、サラのか細い声が張り上げられた。

 

「させません! 罠カード発動、《奈落の落とし穴》! 召喚、特殊召喚された攻撃力1500以上の相手モンスターを破壊しゲームから除外します!」

 

 出現したばかりのカタストルは突如として出現した落とし穴へと落下し、呆気なく破壊されてしまった。

 

『ああっとぉ!? せっかくのシンクロモンスターがあっさりと退場だ~!!』

『残念。ボッシュートですね』

「う……やっぱり奈落が」

「ごめんなさい。私達もこれ以上、負ける訳にはいかないので……」

 

 正直、召喚反応罠カードには良い思い出が無いベル。それでも「あれだけ伏せがあればそれ位は」と覚悟は出来ていたものの、隣で長~い溜め息を付くアンリエールがどうにも鼻についた……のだが。

 

「……で? 貴女このターン、どうやってアクションカードをドローするつもりですの?」

 

 鋭いアンリエールの指摘に、ぴしっと心に罅が入ったのが分かる。

 アクションカードは、いわば無償でカードアドバンテージを+1出来る破格のボーナスだ。相手に妨害される危険があるとはいえ、やらない手は無い。

 しかし、ベルにはもうこのターンでモンスターを展開できるカードは残されていない。奈落の落とし穴を読んでいたのなら尚更、シンクロ前に素材のモンスターでアクションカードを探しに行くのが『定石』であったのだ。

 仮に選択したモンスターが破壊されたとしても、相手に除去カードを使わせた上に素材モンスターは1体場に残る。今回のように奈落のようなカードが伏せられていたとしても、手元にアクションカードは残る。どちらに転んでも損は無い。

 

「やるだろうとは思っていましたけど……見事に予想通りでしたわね」

 

 タッグデュエルでは基本的にパートナー間での『プレイングに対する助言』は禁止されているため、アンリエールもシンクロ前にアドバイス出来ずにいたのだ。

 嫌味な言い方にむっとしつつも、自分の不手際であることには変わらないためベルは文句を飲み込んで素直に謝ることにした。

 

「……すいません。わたしはカードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

 そんなベルの様子に勝機アリ、と見たのか。

 リリンは不敵に笑みを浮かべてカードを引き抜いた。

 

「私のターン、ドロー! ふふん、そっちのお嬢ちゃんはあまりアクションデュエルに慣れていないみたいね? でも悪いけど手加減はしないわ、まずはサラの伏せた罠カード《トラップ・スタン》を発動っ!」

 

 瞬間、ベルのディスクに表示された伏せ状態の《くず鉄のかかし》に、バツマークが覆いかぶさるようにして重なった。

 

「このカードが発動したターン、このカード以外のフィールド上の罠カードの効果は無効になる! その伏せカードが何だか知らないけど、これで安全に召喚を通せるわ! 私は更に手札から《レスキューラビット》を召喚!」

 

《レスキューラビット》

☆4/地属性/獣族・効果/ATK 300/DEF 100

 

 リリンが召喚したのは、なんとベルが導入を躊躇ったもののどこか名残惜しかった、短足の愛らしいウサギ型のモンスターだった。

 

「レスキューラビットの効果発動! このカードを除外して、デッキから☆4以下の同名通常モンスター2体を特殊召喚するわ! 現れなさい、《ジェムナイト・ガネット》!」

 

 お菓子の床をかじかじと食い空け、レスキューラビットが空間の穴を作り出すと、そこから炎を纏いし紅き宝石戦士が2体、姿を現した。

 

《ジェムナイト・ガネット》

☆4/地属性/炎族/ATK 1900/DEF 0

 

《ジェムナイト・ガネット》

☆4/地属性/炎族/ATK 1900/DEF 0

 

「ここでアクションカードを探させて貰うわ……ガネット!」

 

 リリンが差し出した手をとって、ガネットが空高く跳躍する。

 妨害することも出来ず、ベルは歯噛みしながらその様子を見上げた。

 

「見っけ♪ アクションカードをドロー!」

 

 高所にあるお菓子の家々を飛び回り、早々にアクションカードを発見したリリンはホクホクとした笑顔を浮かべて手札に加えると、すぐさま元の位置へと戻りターンを続行する。

 

「まだまだ行くわよ? 私は手札から魔法カード《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 手札の《ジェムナイト・ラズリー》と場のガネット1体を融合!」

 

 リリンのバックに浮かび上がる、2体の宝石戦士。

 特有の召喚エフェクトである青と橙の渦巻き模様が、徐々に速度を上げていく。

 

「現れよ幻惑の輝き! 融合召喚、《ジェムナイト・ジルコニア》!」

 

 渦へ吸い込まれ、溶け合う2体の宝石戦士が新たな姿となって降臨した。

 そのレベルは何と8。大きく太い腕を振り上げて、迫力ある咆哮を上げた。

 

《ジェムナイト・ジルコニア》

☆8/地属性/岩石族・融合/ATK 2900/DEF 2500

 

(あれが融合モンスター……)

 

 デュエル講座でその存在を知ってはいたものの、いざ対峙するのは初めてのベル。

 シンクロやエクシーズとも違う、魔法カードによって出現する紫色のエクストラカードに敵ながら胸躍ったベルだったが、そのテキストが融合素材を記す以外は空欄であることには驚きを隠せなかった。

 

(効果が、無い……?)

 

 融合モンスターはその性質からシンクロやエクシーズよりも手札消費が激しく、扱いが難しいと聞いていたベルは安堵しつつも首を傾げた。

 そんな難しい召喚方法を使って出されたカードが、言い方は悪いが攻撃力が高いだけのモンスターが1体だけ。それでは幾らなんでも……と思考が続こうとしたとき、リリンから更なる宣言が紡がれた。

 

「更に! 私は融合召喚によって墓地へ送られたラズリーの効果を発動! このカードが効果で墓地へ送られた場合、自分の墓地の通常モンスター1体を手札に加える! 勿論手札に加えるのは《ジェムナイト・ガネット》よ!」

 

 融合召喚によって失った手札のアドバンテージを、即座に回復した。

 ジェムナイト、というカテゴリは恐らくそういう能力に長けているのだろう……そこまでを考えて、ベルは何だか嫌な予感がした。

 

「続けて墓地の《ジェムナイト・フュージョン》の効果を発動! 自分の墓地の「ジェムナイト」1体をゲームから除外することで、墓地のこのカードを手札に加えるわ!」

 

 どこかで見たような光景だと思えば、前に1度藍とタッグデュエルをしたときに見た【リチュア】にとても良く似ていたのだ。墓地から延々と魔法や素材を回収して繰り返し使えるというのは、手札消費の激しい召喚方法をカバーするように作られたシステムなのだろう。

 

「そして再び《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 手札と場のガネット2体で融合! 燃え盛れ、紅蓮の輝き! 融合召喚、《ジェムナイト・ルビーズ》!」

 

 再びの融合召喚、そのレベルは6。

 ジルコニアより控えめな攻撃力ながらも、しっかりと効果を有した紅き結合の宝石戦士が立派なマントを翻し、戦場へと降り立った。

 

《ジェムナイト・ルビーズ》

☆6/地属性/炎族・融合・効果/ATK 2500/DEF 1300

 

「そしてサラの伏せた《ファイヤー・ハンド》を反転召喚して、バトルよ! 攻撃力の低いファイヤー・ハンドから順に3体のモンスターで攻撃!」

 

《ファイヤー・ハンド》

☆4/炎属性/炎族・効果/ATK 1600/DEF 1000

 

 2体の融合モンスターに、炎を纏った巨大な腕だけの下級モンスター。

 迫り来るそれらに怯みつつも、ベルは手札から早々に虎の子を切ることを決断した。

 

「て、手札から《速攻のかかし》を捨てて効果を発動! バトルフェイズを終了します!」

 

 相手モンスターの数だけ表れたブースター付きのかかしが、その攻撃を受け止めて砕け散っていく。おかげでベルは、先程の猛攻から身を守ることが出来た。

 

「っ、そう簡単に決めさせてはくれないか……メイン2、私は墓地のガネット1体を除外し、《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加える。最後にカードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

 流石は物量がモノを言うタッグデュエル。2ターン目からの激しい攻撃を何とか凌いで見せたベルだったが、アンリエールはさも当然といった様子で涼しく鼻を鳴らすと。

 

「――さてさて、皆様。これより私アンリエール・ラムジョレーンの華霊なる決闘舞台、その第一幕と相成ります。どうぞ最後までお付き合い下さいませ」

 

 ドレスの端を持ち上げて優雅に一礼するその姿に、先程までのイライラとした彼女の面影は既に無く。アンリエールの『デュエルモード』を初めて目の当たりにしたベルは、思わず目を丸くした。

 

Trick or Surrender(降参しなきゃ悪戯するわよ)? 私のターン、ドロー」

 

 ドローカードに目を通すも、その思考に迷いは無い。

 黒のドレスグローブに包まれたしなやかな指先は、まるでダンスの相手を選ぶ高飛車な令嬢のようにすぐさま別のカードへと移っていく。

 

「私は手札から速攻魔法《手札断殺》を発動。お互いにカードを2枚捨てた後、デッキからカードを2枚ドロー致します……さぁ、リリン様?」

 

 差し出された左手はまるでダンスを誘うように柔らかであったが、その手に握られていたのは墓地のアンデットを特殊召喚する《馬頭鬼》と《ゴーストリック・グール》のカードだ。

 最良、または最悪とも言える組み合わせにリリンは歯噛みしつつも、その効果を止める手立ては無いらしく素直にその効果に従った。

 

「くっ……分かってるわよ、手札の《ジェムナイト・フュージョン》と《大嵐》を捨てるわ!」

「おやおや? せっかく手札に加えた《ジェムナイト・フュージョン》と《大嵐》まで墓地へ落としてしまわれるとは……残ったその手札、余程大切なのでございますね?」

 

 互いに新たな手札を2枚加えるが、アンリエールの指と口先は鈍ることなく続く。

 

「さては……この『悪戯』がお気に召しませんでしたか? 魔法カード《生者の書―禁断の呪術―》を発動。リリン様の墓地に存在する《ジェムナイト・ガネット》をゲームから除外し、私の墓地の《ゴーストリック・グール》を特殊召喚致します。皆様どうぞ、我がファミリーの道化師を拍手でお迎え下さい」

 

 ドラムロールと共にアンリエールの墓地から這い出てきたのはコミカルに両手を挙げてアピールを決める、ゴーストリック特有のアニメチックなデフォルメがなされた屍食鬼(グール)だ。

 

《ゴーストリック・グール》

☆3/闇属性/アンデット族・効果/ATK 1100/DEF 1200

 

 会場は既にアンリエールのペースに飲み込まれており、グールという下級モンスターの登場ながらも観客達から拍手が巻き起こった。

 

「ありがとうございます皆様。それではもう1人、我がファミリーの立役者をご紹介致しましょう。普段はとても恥ずかしがり屋な「ゴーストリック」でございますが、表側表示の仲間が自分フィールドに存在する場合、手札の「ゴーストリック」は表側攻撃表示での通常召喚が可能となります。おいでなさい、《ゴーストリック・キョンシー》!」

 

 指先でくるりと回してからカードをディスクへ置くと、色白の死人妖怪がグールの周りを嬉しそうにぴょこぴょこと飛び跳ねる。

 

(可愛い……)

 

 味方のモンスターに思わず見惚れていたベルは「いけない、いけない」と首を振って気を持ち直した。パートナーである自分まで魅了されてどうするのだ。

 

「それでは……私はこれからこのキョンシーと一緒に、メルヘンな情緒が溢れる《スウィーツ・アイランド》をお散歩することに致しましょう」

 

 アンリエールが手を差し出すと、キョンシーはその手をとって彼女の歩幅に合わせてゆっくりと跳ね始めた。

 

「あの辺りが怪しそうですわね……キョンシー!」

 

 アンリエールが指したのは、キャンディーが散りばめられたウエハースの家の屋根。

 アクションカードを見つけ出すまでに要した時間は僅かであったが、それは演出としても観客に飽きが来ない程度の長過ぎず、短過ぎずの絶妙な間隔だった。

 アンリエールはアクションカードが飛び散った瞬間にどこへカードが落ちたかをある程度把握していたようだ。

 掛け声と共にぴょんと大きく跳ね上がったキョンシーは、続けてアンリエールの組んだ手の上に収まった。次の瞬間、チアガールのパフォーマンスが如くアンリエールがぽーんと勢い良くキョンシーを放り上げたのだ。

 キョンシーはくるくると回転しながら屋根の雨どいに挟まっていたアクションカードをキャッチすると、そのまま落下して見事アンリエールの腕の中へと戻ってきたのだった。

 

「Good Boy(良い子ね)♪ アクションカードのドローはこれにて終了、メインフェイズへ戻らせて頂きますわ」

 

 キョンシーの頭を優しく撫でながら、アンリエールは再び元の立ち位置へと戻った。

 そんな彼女を待っていたのは、鋭い輝きを放つリリンの瞳だった。

 

「……ふん。アンタのその余裕、これでも保っていられるかしら!? 罠カード発動、《グリザイユの牢獄》っ!!」

 

 モノクロ調で描かれた絵画が写り込んでいる、リリンが発動させた罠カード。

 その効果を理解するより早く、ベルはアンリエールが僅かに眉をひそめたのが分かってしまった。

 

「このカードは、自分フィールド上にアドバンス召喚・儀式召喚・融合召喚したモンスターの内いずれかが表側表示で存在する場合に発動! 次の相手ターンの終了時までお互いにシンクロ・エクシーズ召喚は行えず、フィールド上のシンクロ・エクシーズモンスターは効果が無効化され、攻撃出来ない!」

 

 これが、クラドの言っていた『メタ』の一角。

 グリザイユ……つまりモノクロームの名が示す通り、シンクロとエクシーズを無効化するカードとして名高いそのカードだが、使用条件として3種のモンスターが求められている。しかし元々が融合召喚主体のリリンのデッキなら、問題なく投入出来るだろう。

 

(狙いはやっぱり、アンリさんを……!)

 

 棒立ちのままのゴーストリックモンスターはどちらも☆3。

 直前にアクションカードを回収しに行ったことからでも、これらのモンスターでエクシーズを行おうとしていたことは明白だ。

 

「……ふぅ、困りましたわね。私はキョンシーを効果で裏側守備表示に、カードを2枚伏せましてターンエンドでございます」

 

 困ったとは口で言いつつも、エクシーズ妨害は半ば想定していた事態なのだろう。

 それでもエンドフェイズまでしっかりと演じ切ったアンリエールは、続くサラのターンでの攻撃に備えて息を整えた。

 

「私のターンですね、ドロー!」

 

 ドローカードを見たサラが、ふっと優しげに目を細めた。

 恐らくはキーカードに近い何か。しかしその役割分担を見るにサラは『守り』に徹したデッキ構成の筈だ。

 

「手札から《トリオンの蟲惑魔》を召喚! その効果で、デッキから《奈落の落とし穴》を1枚手札に加えます!」

 

 お菓子の地表をすり鉢状に掘り進んで現れたのは、獲物を巣へと引きずり込み喰らう、蜻蛉の幼子。その化身である少女型のモンスターだった。

 

《トリオンの蟲惑魔》

☆4/地属性/昆虫族/ATK 1600/DEF 1200

 

「なっ、奈落をサーチ……!?」

 

 分かりやすく苦い顔を浮かべたベルに、サラが口元に手を当てて答える。

 

「ふふふ、蟲惑魔は「落とし穴」のカードを自在に操れる能力を持った良い子達です。可愛い顔をしていますけど、油断は大敵ですよ?」

「ちょっと、何で敵にアドバイスなんてしてるのよ!?」

「あはは……ごめんなさい。でもメイドのあの子、何だか他人とは思えなくて。私もデュエルを始めた頃は召喚反応罠とかすごく苦手だったし……」

 

 お互いに気の強いパートナーを持って挑んだこのタッグという環境は、それまで何の接点も無かった2人を僅かながらに繋いだらしい。

 じっと向けられたサラの視線にたじろぎつつ、ベルはぺこりと頭を下げると微笑んで言葉を返した。

 

「……お気遣い、ありがとうございます。でも、これはお互いに負けられないデュエルです! 手加減なんてしないで下さいね!」

「勿論、そのつもりですよ! 私はここでアクションカードを探させて貰います!」

 

 選択されたのはトリオンの蟲惑魔。お菓子の地表を砂のように掘り進み、埋もれていたアクションカードを見事に探し出すと、地中から飛び上がってサラへとカードを投げ渡した。

 

「ご苦労様です。私は場に伏せられていた姉さんのアクションマジック《ハイダイブ》を発動! トリオンの攻撃力をターン終了時まで1000ポイントアップさせます!」

 

 突然フィールドに現れたトランポリンに飛び乗ったトリオンが空高く舞い上がる。

 すると、立て続けにサラの宣言が続いた。

 

「バトルです! まずはトリオンで裏側守備表示のキョンシーに攻撃!」

 

 落下のスピードを乗せたトリオンが、流星のように裏向きのキョンシーへと迫る。

 だが、それしきの攻撃を幽霊姫が通す筈もない。

 

「あらあら、やんちゃなお嬢様ですわね。それでは躾にこんな悪戯はいかがでしょう? 手札からアクションマジック《キャンディ・コート》を発動。キョンシーは戦闘によっては破壊されず、魔法・罠の対象には選択されません」

 

 カードから飛び出したキョンシーがぽいっと飴玉を頬張る。すると虹色のオーラが全身を包み込み、トリオンの強烈な一撃を見事受け止めて見せた。

 

「さて、ここでキョンシーの効果を発動。デッキからリバース時に表側で存在する「ゴーストリック」の数以下のレベルを持つ「ゴーストリック」を1体手札に加えますわ。私は☆2の《ゴーストリックの雪女》を手札に加えます」

 

 キョンシーが帽子の中から取り出した……ように演出したカードを受け取ると、アンリエールはにっこりと微笑んで観客へ向かって一礼した。

 

「それならせめて、残ったモンスターだけでも破壊させて頂きます! ルビーズでグールを攻撃!」

 

 アンデットはやはり炎には弱いのか、ルビーズの炎の槍を受けて裏向きのまま破壊されてしまうグール。その猛火はアンリエールすら焼きつくさんと迫るが……。

 

「罠カード発動、《ガード・ブロック》。戦闘ダメージを0にし、カードを1枚ドロー致します」

 

 熱気を物ともせず、涼しい顔で流して見せるアンリエール。

 このターンキョンシーは破壊できない為、これ以上サラの追撃は不可能となった。

 

(凄い……エクシーズを封じられて、これだけ凌いで見せるなんて)

 

 役者らしく演じているのかは定かでないが、ベルが見守るその横顔にはまだまだ余裕が溢れている。残る手札に勝算があるのか、はたまた全てがブラフなのか。

 

「やっぱり……硬いですね。私はカードを3枚伏せてターンエンドです」

『さすが幽霊姫の名は伊達では無かった!! サラ選手の猛攻を見事に防いだ~!!』

(何とか凌いでくれた……けど)

 

 不安な面持ちのまま、ベルはデッキトップへと手を掛けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。