遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス) 作:kohatuka
アクションデュエルの関係上、今話にはオリジナル要素やアニメオリカの成分が大量に含まれます。苦手な方々はご注意下さい。
サラの場には、またも守りの札が追加されている。内1枚は確実に奈落の落とし穴だ。
これを掻い潜ってモンスターを展開し、リリンの攻撃ターンを凌いでアンリエールへバトンを渡す……考えただけで頭が痛くなるが、今はただカードを引くだけだ。
「わたしのターン、ドロー!」
ドローしたカードは有難いことに妨害札。
だがその代償としてこのターン、奈落を潜って強力なモンスターを召喚することは不可能となってしまった。
(それなら、わたしのするべきことは――!)
ドローしたカードを持ち替えて、ベルはモンスターカードをディスクへセットした。
「スタンバイからメイン、手札から《切り盛り隊長》を召喚!」
戦場に降り立つ、銀の甲冑に身を包んだベルのデッキではお馴染みの騎士隊長……なのだが、どこか様子がおかしい。
その厳つい風貌に似合わない可愛らしいエプロンを装備した《切り込み隊長》の意外な姿が、そこにはあった。
「切り?」
「盛り?」
揃って首を傾げる姉妹に、ベルは僅かに頬を朱に染めながら説明を続ける。
「こ、このカードが召喚に成功した時! 手札1枚をデッキに戻してシャッフルし、その後デッキからカードを1枚ドローします! もしそれがモンスターカードだった場合、そのモンスターを特殊召喚出来ます!」
ディスクへセットされたデッキへ手札1枚を挿し込むと、オートシャッフル機能が即座に発動し、僅かな時間でシャッフルが完了する。
「ドロー! ……引きました、モンスターカード《セイバー・ビートル》!」
《セイバー・ビートル》
☆5/地属性/昆虫族/ATK 2400/DEF 600
巨大なカブトムシ型のモンスターが、切り盛り隊長の『お玉』と『鍋』がかき鳴らす号令によって戦場へと導かれる。
サラはそんな光景をしばしきょとんと眺めていたが、不意に我に返ると即座にセットしていたカードを発動させた。
「せ、セイバー・ビートル……? あ、えっと罠カード《奈落の落とし穴》を発動! 特殊召喚されたそのカードを破壊します!」
『ああっとぉ!? せっかく引き当てた上級モンスターがあっさりと退場だ~!!』
『残念。ボッシュートですね』
前ターンのカタストルと同じように、セイバー・ビートルも呆気なく破壊されてしまう。
だがこれは勿論想定内。むしろベルとしては好都合だった。
(よし、これで奈落の落とし穴は使わせた! あとは……)
後に来るアンリエールのターンの為、なるべくサラの残した守りの札を消費させる。それがベルの決めた『するべきこと』だった。
「ここでアクションカードを探しに行きます! 隊長、お願いします!」
エプロン姿の騎士隊長はベルに向かって凛々しく「うむ」と頷くと、ひょいとベルを抱き上げて走り出した。実は近場にあるチョコレートの家の煙突、その上にアクションカードが落ちていたのをベルは見つけていたのだ。
飛び上がり、屋根を足場に再び跳躍――まっすぐにそこへ向かうベル達を見たサラは、慌てた様子で再びセットカードへと手を掛けた。
「させません! 罠カード《強制脱出装置》を発動! 切り盛り隊長を手札に戻します!」
あと一歩でカードに手が届く。そんなところで、切り盛り隊長の姿が霧散し消滅してしまった。
「えっ……うわぁ!?」
支えを無くしたベルは落下しながらも何とかカードの端に手を触れさせたが――哀れアクションカードはヒラヒラと舞い落ち、ベルはショートケーキの畑に頭から突っ込んでしまった。ケーキの畑にはベル下半身だけが生え、逆さに捲くれたスカートからは黒のパンストに覆われた純白のソレがモロ見えな状態だ。
「……お馬鹿。何てはしたない……」
観客から巻き起こる爆笑と口笛の渦。
これ以上パートナーのあられもない姿を大衆の目の元に晒し続ける訳にもいかず、アンリエールが頭を抑えながらキョンシーに指示を出す。
ぴょこぴょことベルの元へ駆け寄ったキョンシーが脚を持って引き抜いてやると、クリームまみれの芋メイドが見事に掘り起こされたのだった。
肩を震わせて笑いを堪えるリリンの一方で、サラが必死に頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! 私そんなつもりは……!」
「大丈夫れふよ、あはは」
ベルは何とかそう返したが、口にクリームが入って上手く喋れない。
髪や顔についたクリームを何とか拭って、再びアンリエールの隣に立つ。
「うぇぇ……さ、最後にカードを1枚伏せて、ターンエンドです」
「みっともないですわね。カードも取れず、お客様の前に無様な姿を晒すなど」
つーんとしたアンリエールの態度に、ベルが喰らい付く。
「そ、そんな言い方……!!」
「頑張りました、だけではデュエルに勝つことなど出来ませんのよ? 結果を残せなければ努力など無駄も無駄ですわ」
うな垂れて何かを堪えるベルの姿を、サラは対面からハラハラと見守っていた。
対戦相手である彼女から見ても、先程のターンはベルがこちらの守りを削りに来ていたのは明白だった。恐らくはアクションカードの失敗も想定していたのだろう。
アンリエールとて一流の決闘者、それが分からぬ筈がない。仲間なのだし、もう少し優しい言葉を掛けてあげても……と喉元まで出掛かった言葉を、姉のリリンが遮った。
「お取り込み中悪いけど、私のターンに入らせて貰うわよ。ドロー!」
こういうとき、姉のリリンは容赦が無い。
相手にどんな事情があろうとも心を鉄にして叩きのめす。双子であるが故に、その胸に抱く思いはそう変わらない筈なのに。
「まずは最初にアクションカードを探すわ! ジルコニア!」
巨大な宝石戦士の肩に飛び乗ったリリンは、手当たり次第にお菓子のモニュメントを破壊させていく。やがてどこかに隠されていたカードが目の前にひらりと舞い落ちると、かっさらうように手に取った。
「よし、ゲット♪」
「姉さん! そんな乱暴な探し方は!」
「うっさいわね、勝てばいいのよ勝てば!」
妹の窘めに口を尖らせて反発するリリン。
それも一瞬、次の瞬間には口元をニヤつかせてアンリエール達を捉えていた。
「……悪いけどこのデュエル、私達が頂くわ! まずはルビーズの効果を発動、ジルコニアをリリースし、その攻撃力を加算する!」
《ジェムナイト・ルビーズ》
ATK 2500→5400
ルビーズの発する灼熱の炎がジルコニアを融解させ、一体となった。その輝きはまるで太陽のように黄金の輝きを放ち始める。
『攻撃力5400!! 最上級モンスターを超える大台の数値だー!!』
「そして墓地のジルコニアを除外して《ジェムナイト・フュージョン》を回収! そのまま手札の《ジェムナイト・アンバー》と《ジェムナイト・オブシディア》を融合! 再び輝きなさい、《ジェムナイト・ジルコニア》を融合召喚!」
やはり立ち並ぶ、高攻撃力の宝石戦士。攻めの決闘者、リリンの猛攻はまだ止まらない。
「更にオブシディアが手札から墓地へ送られた場合、自分の墓地の☆4以下の通常モンスター1体を特殊召喚する! 私は墓地で通常モンスターとして扱われるデュアルモンスター、アンバーを特殊召喚!」
《ジェムナイト・アンバー》
☆4/地属性/雷族/ATK 1600/DEF 1400
雷を操る琥珀の宝石戦士が、墓地の魔法陣から飛び上がってフィールドへ降り立つ。
「墓地のオブシディアを除外して《ジェムナイト・フュージョン》を手札に。そして通常召喚権を使ってアンバーを再度召喚(デュアルサモン)!」
更なる雷を帯びたアンバーに、磁力のような不思議な力が沸き上がる。
その力によって、異次元に消えた1枚のカードがリリンの元へと引き寄せられた。
「効果モンスターになったアンバーは手札の「ジェムナイト」カードを墓地へ送ることで、除外されているモンスターを手札に戻せるわ! 《ジェムナイト・フュージョン》を墓地へ送り、除外されたオブシディアを回収!」
これで、リリンのフィールドには5体のモンスターが立ち並んだ。
対するベルの場にはキョンシーが1体のみ。伏せカードはあるものの、相手の手札と場には未だ効果が分からないアクションカードが2枚もある。
「待たせたわね……バトルよ! まずはルビーズでキョンシーを攻撃! 5400の貫通攻撃を喰らいなさい!」
猛火の黄金槍が小さなキョンシーへと迫る。ここしか無いと、ベルは伏せカードへと手を伸ばした。
「罠カード発動、《サンダー・ブレイク》! 手札を1枚捨ててルビーズを破壊します!」
「その程度ッ! サラの伏せてくれたアクションマジック《ミラー・バリア》発動! 自分の場のモンスター1体はカード効果では破壊されない!」
放たれた雷の一撃はしかし、球状のバリアに弾かれ霧散する。
「うっ……!?」
『惜しいっ!! ベル選手の渾身の罠をアクションカードの壁が阻んだ~!!』
勢いを増す紅の槍は止まらない。悲鳴すらも飲み込んで、黄金の猛火はキョンシーを跡形も無く焼き尽くした。
その威力は底知れず、後方に控えるベルとアンリエールすらも吹き飛ばしてしまう。
「うああああっ!?」
「きゃあああっ!?」
【ベル&アンリ】LP8000→4400
『ああっとぉ!? ここで大幅にライフが削られるぅ!!』
仮想現実ながらも伴う苦痛を何とか耐え、ベルは伏せカードに手を伸ばす。
「くうっ……と、罠カード《時の機械―タイム・マシーン―》発動……戦闘で破壊されたキョンシーを、同じ表示形式で特殊召喚しますっ……!!」
再び戦場へと戻されたキョンシーは、すっかり怯えた表情を浮かべている。
「なら、続けてジルコニアでダイレクトアタック!」
「罠カード《くず鉄のかかし》! ジルコニアの攻撃を無効にっ!」
間一髪、巨腕の一撃こそ防いで再度セットされたかかしだが、このターン2回目の発動は出来ない。
「苦しそうね、でもまだまだ攻撃は残ってるわよ!? ファイヤー・ハンドで追加攻撃!!」
ファイヤー・ハンドの攻撃力はキョンシーの守備力には及ばないはず。
そんな当たり前の思考すら与えない程に、間髪入れずリリンの宣言が飛んだ。
「さぁ、ダメージステップいいかしら!? 手札からアクションマジック《エクストリーム・ソード》を発動!! このターンのバトルフェイズの間、ハンドの攻撃力を1000ポイントアップさせるわ!!」
炎を滾らせ、唸りを上げるファイヤー・ハンド。その掌でキョンシーをギリギリと締め上げた後、乱雑に地面に放り捨て破壊して見せた。
「っ……ごめんね」
2度も破壊の恐怖に立たせてしまったキョンシーに、ベルは罰が悪そうに小さく呟いた。
「ラスト! アンバーとトリオンでダイレクトアタックッ!」
干渉に浸っている暇など無い、とでも言わんばかりの追撃がベルを襲う。
「う、あああっ!?」
【ベル&アンリ】LP3400→200
『これは苦しい!! このまま決まってしまうのかー!?』
地に伏しながら聞こえたコーパルの実況が、やけに遠く聞こえる。
何とか耐え切ったものの、残されたライフは僅か200。
「私はカードを1枚伏せてターンエンド。さあ、幽霊姫様? せいぜい足掻いてご覧なさい!」
ふんと胸を張るリリン、彼女達のライフは無傷のままの8000。その余裕が圧倒的な有利を物語っている。
「……全く」
片腕を抑えて、ゆっくりと立ち上がるアンリエール。
忌々しげに目を細め、彼女が発したのは――。
「今日は、とんだ厄日ですわね。貴女なんかとタッグを組まされたせいで、私の輝かしい歴史に汚点が付いてしまいましたわ」
ここまで耐えたベルに対する労わりでも励ましでもなく不満不平。まさに幽霊姫の名に相応しいドロドロとした怨言の羅列。
横たわったままのベルは、信じられないといった面持ちで目を見開いた。
「……は……?」
「使えないパートナーと組まされたおかげで、あんな格下の相手に敗北など有り得ないと言ったのです」
はっきりとしたアンリエールのその声は、会場中に響き渡った。
とてもプロとは思えないあまりの言い分に、観客達も流石にざわつき始める。
「アンリエールさん!! 一緒に戦った仲間にそんな言い方は!!」
どちらかといえばベルに肩入れをしていたサラが、堪えきれずに責め立てた。
気弱な妹がこれだけ怒りの感情を露にしたのは初めてなのだろう、リリンもぎょっとした顔を浮かべている。
「部外者は黙っていて下さいまし。これは私たちの問題ですわ」
「でもっ……!!」
最早泣き出しそうなサラの視界の隅で、ゆらりと立ち上がる影があった。
満身創痍のベルだ。
「……人が下に出てれば、いい気になって……」
それこそ、亡霊のような怨嗟の篭った声は一転。
ダンッ! とビスケットの地面を踏みつけたのを合図に、ベルは大きく目を開いてアンリエールへと詰め寄った。
「あなたは!! あなたの為に必死で戦った仲間に感謝するとかそういう気持ちは無いんですか!? いつもいつもいつもいつも文句ばっっっかり!! もうやってられません!! 『仏の顔も3度まで』ってユウさんから教えて貰った言葉がありますけど、わたしの顔はせいぜい2度までが限界です!!」
ビシッ、とクリームまみれな自分の顔を指差しながらベルがまくし立てると、全く気圧された様子も無いアンリエールが鼻を鳴らして切り返す。
「ほぉぉ、そのお間抜け顔で2度も? 使えない下仕えにしては上出来ですわねぇ? それで? 私に言いたいことはそれだけですの?」
「……幽霊なら幽霊らしく、墓場の中で眠ってて下さいばーか!!」
散々吐き出しても怒りは収まらないのか、ぷぅと頬を膨らませたベルは数歩アンリエールから距離を取ると、胡坐をかいて地面に座り込んでしまった。
『……おやおや~。これは試合続行不可能という感じでしょうか? サレンダーなさいます?』
「ご冗談を。例え負け試合だとしてもこのアンリエール・ラムジョレーン、最後まで戦い抜いて見せますわ」
コーパルの問い掛けに凛と言葉を返すアンリエールだったが、その言葉に胸を打たれるものはもう誰一人としていなかった。
「……ダメだありゃあ。見てられねぇ」
「ええ……」
すっかり気落ちしたにじいろ団のベンチからも、陰鬱な溜め息が漏れた。
既に耳栓も外していた藍も、クラドの言葉に怪訝な表情で頷く。
「……さて。それはどうだろうな」
そんな中、ただ1人ユウだけは小さくそう呟いていたが。
「それでは皆様、共に最後の一幕をお付き合いくださいませ。ドロー!」
失望の的となっても、変わらずの調子でドローするアンリエール。
そこへジトリとした目を向けて、リリンが伏せカードを立ち上がらせる。
「……あんたのスタンバイフェイズ、私は《グリザイユの牢獄》を発動するわ。残念だけど、これで終わりよ」
それは前のターンでも発動されたエクシーズ封じの必殺罠。
最早これまで。誰もがそう思った刹那。
「っ……ぷくくくっ……!!」
渦中の人物であるアンリエールから、堪えきれないといった様子でケタケタと笑い声が木霊したのだ。
「な、何よ? ショック大き過ぎて頭おかしくなったの?」
「くくくっ……そうかもしれませんわね。このデュエル、本当に勝ちを拾えるとは思えませんでしたから」
ケタケタという笑いは、会場のざわめきに混じっていつの間にか輪唱となっていた。
もう1つの声の主は他でもない、不貞腐れて座り込んでいた筈のベルからだ。
「な、何を――!?」
「勝利を飾る
ギンと目を見開いたアンリエールのルビーの瞳は、相対する宝石戦士に負けない紅い輝きを放った。ベルの琥珀色の瞳も、同様に輝きを取り戻している。
「さぁさぁ皆様、席をお立ちになるのはまだ尚早! これより始まる『我らファミリー』の大逆転劇、どうぞ心行くまでご堪能あれ!」
両手を広げてそう声を上げたのは、ズタボロになりながらも満面の笑みを浮かべた褐色肌のメイド・ベル。
その傍らでは同じくすっかり煤けてしまったドレスを翻し、幽霊姫がカードを指先で弄ぶ。
「な、何をっ……!?」
「まずは手札からお目見えいたしますのは、ファミリーきっての麗しの乙女《ゴーストリックの雪女》。続いては墓地にてその出番を今か今かと待っておりました《馬頭鬼》の効果を発動、自身を除外することで墓地のアンデットモンスターを1体特殊召喚致します……皆様、今一度拍手でお出迎えくださいませ!」
《ゴーストリックの雪女》
☆2/闇属性/魔法使い族・効果/ATK 1000/DEF 800
《ゴーストリック・グール》
☆3/闇属性/アンデット族・効果/ATK 1100/DEF 1200
並び立つ2体のゴーストリックモンスター。
しかし、その攻撃力はリリン達のモンスターに遠く及ばない。
「な、何よ……そんな下級モンスター、幾ら並べても壁にすらならないじゃない!」
「……常に慎みと共にあれ。ラムジョレーンに代々伝わる教えであり、信条ですわ。慢心し、無駄にレベルや攻撃力の高いモンスターばかり並べていると足元を掬われますわよ?」
と、アンリエールは不敵な笑みを浮かべて見せるも、すぐに困ったように眉を下げて深く深く溜め息をついた。
「……と、格好付けたいのは山々でしたが。今回ばかりは信条を曲げなければ勝てなかったようですわね……手札から魔法カード発動、《死者蘇生》!!」
フィールドに浮かび上がる、墓地へと通ずる巨大な魔法陣。
デュエルモンスターズにおける大逆転、その代名詞とも言えるカードの登場にアンリエールの言葉にも現実味が帯びてくる。
「だ、だけど!! 今更墓地から復活させて役に立つモンスターなんて……っ!?」
――罠カード発動、《サンダー・ブレイク》! 手札を1枚捨てて――
そうだ、あの時に捨てたカード!
声に出すのもはばかれるそんなリリンの思考は、現実として形を成す。
「今宵限りの特別ゲストをご紹介致しましょう!! 夢幻の気高き戦乙女……《
《―**―翼戦神》
☆10/地属性/天使族・効果/ATK 2800/DEF 3000
幽霊姫の祝詞を受け、暗暖色の機械天使が魔法陣から飛び上がりフィールドへ舞い降りた。
「☆10の最上級モンスター……!? ってアンタら、めちゃくちゃ連携取れてるじゃない!? 騙したわね!?」
「はて……?」
「何のことやら?」
ケタケタと笑うのはアンリエールだけではなく、その真似をして見せるベルもまた同じだった。
「ではアクションカードを探しに参りましょう。ヴァルキュリア、お願い致しますわ」
こくりと頷いた機械天使の手に飛び乗り、妨害の危険も無い中を悠々と進む幽霊姫。
リリンが破壊を尽くしたせいか道中で数枚アクションカードが見つかったが、何故かそれらを無視してある場所を一直線に目指して向かって行く。
辿り着いたのは、ベルがアクションカードを取れずにケーキの畑に突っ込んだ、あのチョコレートの家だ。
「見つけましたわ。これにてアクションカードのドローは終了、メインフェイズへ戻ります」
屋根の上に落ちていたソレを手札に加えて元の位置へと戻る。
アンリエールの不可思議な行動の謎は解けないまま、ターンは再開された。
「それでは参りましょう、勝利へ至る最後の大仕込……永続魔法《闇の護封剣》を発動!! これにより貴女達のフィールドに存在するモンスターは全て裏側守備表示に変更して頂きますわ!!」
浮かび上がった髑髏の黒雲から、5つの黒剣が降り注ぐ。それらはリリンの場のモンスターに突き刺さると、全て裏向きの状態で縫い付けてしまった。
「なっ!?」
「大変長らくお待たせ致しました。これより皆様をファミリーの愉快な根城へと招待致しましょう。フィールド魔法《ゴーストリック・ハウス》発動!!」
アクションフィールドとしての効果は消えない。しかしメルヘンチックなお菓子の国は、一瞬にして『悪戯好き』が巣食う荒れ果てた洋館の大部屋へと装いを変えてた。
「ご存知でしょうが、このカードの発動中は裏側守備表示のモンスターを攻撃対象に選択できず、表側表示のモンスターへの攻撃以外はプレイヤーへのダイレクトアタックとなり、相手に与えるダメージは半分となります。尤も……「ゴーストリック」モンスターだけは例外ですけれども、ね?」
にこり、と微笑みかけられたリリンの背筋に戦慄が走る。
まさか。まさか。
「はて。そういえば……ヴァルキュリアはどんな効果を持っていましたかしら?」
「1ターンに1度、自分の手札またはフィールド上のモンスター1枚を装備カードとして装備し、装備したモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。更に装備されているモンスターの数×600ポイント攻撃力がアップする……ですよ、お嬢様?」
「あら、そうでしたわね。ありがとう、『ベル』?」
「いえいえ♪」
微笑み合う2人を見ていると、先程までいがみ合っていた姿が嘘か幻のようにも思えてくる。いや……もしかしたら本当に、全て嘘だったのかもしれない。
「「ヴァルキュリアの効果発動、場の雪女を装備!!」」
ヴァルキュリアの手中に収まったのは、小さな小さな雪女の童女。
ほんの僅かな力しか持たない彼女が、怪奇の館に迷い込んだ戦乙女に力を貸し与える。
それは声を合わせて宣言する各々の主達の姿と、見事に重なって見えた。
《―**―翼戦神》(ゴーストリックの雪女)
ATK 2800→3400
「「更にグールの効果を発動!! メインフェイズ1に1度、自分フィールドの「ゴーストリック」モンスター1体を対象として発動、そのモンスターの攻撃力は次の相手ターンの終了時までフィールドの「ゴーストリック」モンスターの元々の攻撃力を合計した数値になる!! よって、その攻撃力は4500!!」」
《―**―翼戦神》(ゴーストリックの雪女)
ATK 3400→4500
「……すごい」
最上級モンスター。その肩書きに恥じぬ怒涛の攻撃力が示され、思わず言葉を漏らしたのは妹のサラだ。
ヴァルキュリアは現在「ゴーストリック」モンスター、つまりハウスの効果でそのままダイレクトアタックを仕掛けることが出来る。しかし4500の直撃に対する恐怖よりも、彼女達が生み出した奇跡の光景に胸を打たれ、サラは子供のように目を輝かせていた。
「い、いくら攻撃力を上げって!! このターンで決められないならまだ……!!」
口端をヒクつかせながら言い聞かせるように強がるリリンを、無情にもアンリエールの言葉が遮る。
「いいえ、これで……詰み(チェックメイト)ですわ!! バトル!!」
バッと腕を差し向け、攻撃目標であるリリンとサラに狙いを定めて。
2人は再び声を重ねて、告げた。
「「ヴァルキュリアでダイレクトアタック!! 『ブレイヴ・ブロウ』!!」」
雪女が姿を変えた氷の槍を振るい、ヴァルキュリアが吹雪と風の刃を放つ。
呼吸すら止まりそうな冷気の嵐はか細い双子の少女をいとも容易く吹き飛ばす。
「「きゃあああっ!?」」
【リリン&サラ】LP8000→3500
地に叩き付けたれた2人に、最後の宣言が下される。
「「ここでアクションマジック《ワンダーチャンス》を発動!! 自分のモンスター1体を選択し、そのモンスターをもう1度だけ攻撃させる!!」」
それは、アンリエールが不可思議な行動を経て手札に加えたカード。
まるでこのカードを意図して引いたような行動であったが、裏向きにセットされているアクションカードを事前に確認することは不可能だ。
都合が良過ぎる。どうして……という姉妹の疑問は、程なくして解けた。
――わたしの顔はせいぜい『2度』までが限界です!!
あのカードが何か、それを確認出来るチャンスがあったのは。
――ほぉぉ、その『お間抜け顔』で2度も?
アクションカードの回収に失敗し、クリームまみれになったメイドの少女ただ1人。
――それで? 私に言いたいことはそれだけですの?
――幽霊なら幽霊らしく、『墓場』の中で眠ってて下さいばーか!!
どうやら、一芝居打たれたらしい。
そう気付いたときには既に遅く。『華霊』な連携に魅せられ、文句を付ける気力も失せた姉妹は、脱力した笑顔を浮かべて満足そうに吹雪の中へと沈んだのだった。
【リリン&サラ】LP3500→0
以上、書き溜めに甘えないように早めな更新でした。