遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

23 / 64
第22話 辿られる伝説

 

『勝者(ウィナー)! 【にじいろ団】タッグチーム!』

 

 元気満開のコーパルの宣言が上げられると、ベルは何かの栓が抜けたように長い溜め息をついた。張り詰めていた緊張が切れ、歓喜の波が一気にこみ上げてくるのが分かる。

 いつも『大切な何か』を賭けてデュエルしてきたベルにとって、今まで味わったことが無い心地よい勝利の高揚。ゆらゆらと地面が揺れているなと思えば、今更になって膝が小刻みに震えていた。

 

(勝ったんだ……わたしたち)

 

 ふと隣を見れば、アンリエールが満面の笑顔を観客達に振りまいている。その微笑みは決して自分の為のモノではなく、最後まで見守ってくれた人々への感謝の念だろう。

 流石はプロだと、足元のおぼつかない自分との経験の差を改めて思い知らされた。

 

『今試合結果を持ちまして、準々決勝進出は【にじいろ団】の皆様となりました。おめでとうございます』

 

 会場中から注がれる惜しみない拍手。それは先程まで刃を交えていた【AKATUKI】のメンバーからも同様だ。

 敗者となった彼らが賭した物は何だったのか、それは恐らく問い掛けるべきものではない。確かなのは、先へ進む切符を手にしたのは自分達ということ。

 

「いよっしゃー!! やってくれたなお嬢、メイドちゃん!!」

「ナイスデュエルよ、2人共!」

 

 ベンチから飛び出してきたクラドと藍が、2人の頭を掴んでわしわしと撫で回す。藍に至っては抱き付く始末だ。

 

「ちょっ、皆様の前ではしたない真似はやめて下さいませ!?」

「わわわ……!」

 

 一足遅れてきたユウが静かに親指を立てたところで、コーパルがアナウンスを挟んだ。

 

『えー、お取り込みのところ申し訳ありませんがー。ここで両者の健闘を称えまして仲良く楽しく握手のターンと参りましょう♪』

 

 アナウンスに従い、一列に並ぶ両旅団の面々。

 コートに上がった人数こそほぼ同じだったものの、ベンチで歓声を上げている人数を含めれば十数人と【AKATUKI】が断然に多い。それなりに大きな旅団と言えるだろう。

 一番に口火を切ったのは、苦笑を浮かべた双子姉妹の姉、リリンだった。

 

「……見事にやられたわ幽霊姫サマ。初めっから全部演技だったってワケ?」

 

 静かに差し出された手を、アンリエールもしなやかに握り返す。

 

「敵はおろか味方まで騙そう、などと姑息な手段を思いついたのはそこの芋メイドです。それに勝ちを拾えたのは、ほんの少し運が良かっただけですわ」

「ぷっ、変なトコで謙遜するのね?」

 

 ケタケタと幽霊姫が悪戯に笑って見せると、リリンもまた歯を見せて笑い返した。

 

「ベルちゃん、ひとまずはおめでとう!」

 

 両手でベルの手を握ってきたのは、双子の妹、サラだ。

 演技だったとはいえ終始自分を気遣ってくれた彼女に、ベルも両手でしっかりと握り返し、元気良く笑顔で応えた。

 

「あ、はい! ありがとうございますっ!」

「ちょっと悔しいけど、私たちの分までしっかり頑張ってね。あとね、もし良かったらなんだけど……」

 

 そう言ってサラが取り出したのは、先程までベル達を苦しめていたサラ自身のデッキだった。

 

「この子達、持っていってくれないかな?」

 

 これはデッキを賭けたアンティでも何でも無いのに。

 ベルは両手と首を横に振って上ずった声を張り上げた。

 

「そ、そんな悪いですよ!! 大切なデッキじゃ……!?」

「だからこそ、これから先の試合も一緒に戦って貰えたらなって。それに多分ベルちゃん、カードが足りなくて上手くデッキを組めてないんじゃないかな?」

 

 少し悪戯に目を細めたサラの視線が、ベルの懐事情をずばりと見抜く。

 戦士族主体の構成に上級昆虫族の採用という滅茶苦茶なデッキ構成……デュエルの最中で、しっかりとサラに違和感を抱かれていたらしい。

 ちらりとクラドに視線を送るが、当の本人は控えの選手達と盛り上がっている。結構カツカツな【にじいろ団】の懐事情をバラしても、今なら大丈夫だろう。

 

「あー、えっと。まぁ」

「……やっぱり。私も始めはそうだったから、何となく分かっちゃったんだ。今のデッキのまま崩したくないならそれでも良いんだけど、もしカードに不自由しているようなら遠慮なくこの子達を使ってあげて?」

 

 どんな凄腕の決闘者であっても最初は皆、何も分からない駆け出しだ。

 少ないカードの中から何とかデッキを組んだ、そんな経験は誰しもが持っている。そんな時に手を差し伸べてくれたのは、遥か先を歩く小さな影だった筈だ。

 

「で、でも……」

 

 躊躇いがちに目を向けるも、サラの微笑みに迷いは無かった。

 もし彼女達にも、ユウと同じくこの大会に賭ける想いがあったとしたなら。自分達はその想いも背負って前に進む責任がある。これまでも、これからも。

 

「……分かりました! 責任を持ってお預かりしますっ!」

 

 また1つ、自分へと紡がれた決闘者の意思。

 ベルは深く頭を下げて、その重みを丁寧に受け取った。

 

「よう、おめでとうさん。見事なストレート決められちまった」

 

 健闘を称えあう少女達の一幕が広げられる中。

 酒を片手に顔を朱に染めたフリンは、ユウと拳を付き合わせていた。

 

「……そっちも見事だった。相手の動きを的確に読んだ戦略、これから参考にさせて貰う」

「堅苦しいねぇ。ま、確かにそれ位のストイックさが無ぇとこれから先は厳しいかもしれねぇがな?」

 

 ふとフリンが大モニターへと視線を移すと、僅かに眉をひそめる。

 

「……次のAブロックの試合が今日の予選最終みてぇだな。『連中』はしっかり今日のトリを飾るつもりらしい」

「連中……ゲストチームのことか?」

 

 ユウが尋ねると、フリンはコクリと頷いた。

 

「ああ。特別扱いもココまで来ると流石に胸焼けだ……挨拶もそこそこだが、お前さんらは次の試合をしっかり見といた方が身の為だぜ?」

 

 用心深いフリンのことだ、恐らくクラドと同じ見立てなのだろう。

 新型モンスター、ペンデュラム。その傾向と対策を講じる絶好の機会だ。

 

「……アンタに言われずとも、ウチのブレーンがじきに言い出すだろうさ」

 

 そう、ユウが口端を緩めたのが早いか。

 適当に挨拶を終えたクラドは、集合とばかりにちょいちょいと手招きをしていた。

 

 

   ** 

 

 

 ARの壁で丁度真ん中から2つに分けられたドームでは、遂に始まるゲストチームのデュエルを見ようと片側に観客が押し寄せていた。

 大モニターでも観戦は出来るのだが、生の迫力やパフォーマンスを見ようと席を立って移動する者も少なくない。

 そんな大混雑を、にじいろ団の面々は選手用の待ち受けロビーに設置されたモニターで遠巻きに窺っていた。白く清潔感のあるロビーには既に他の旅団の面々が揃い、こちらも独特の熱気に包まれている。

 

「観客席の方は随分な賑わいですわね……藍は大丈夫でしょうか?」

 

 時折サインを求めに来る決闘者を適当にあしらいつつ、アンリエールはうじゃうじゃと波打つ客席を不安そうに眺める。

 生での雰囲気、仕草などからも得られる情報は多いということで、藍は単独で観客席の中へと飛び込んで行ったのだ。流石はジャーナリストといったところだろう。

 

「ま、姉ちゃんなら上手くやってくれるだろうさ……お、そろそろ始まるみたいだな?」

 

 未だ騒がしいロビーの中で、モニターからコーパルの実況が流れ始めた。音量は少し控えめらしく、その殆どがギャラリーのざわつきにかき消されてしまう。

 恐らく選手入場の合図があったのだろう。2人の男がコートへ上がってきた。

 1人はゲストチーム所属の奇術師風な長身の男。もう1人は――。

 

「え? あの人……って」

 

 観客へ一礼をしてにこやかに登場したのは。

 ベル達も良く知る、あのブロンド髪の軟派男だった。

 

 

   ** 

 

 

「これはこれは、初戦から実に幸先が良い!」

 

 腕を大きく広げて、ブロンド髪の男は喜び満点といったリアクションを見せた。

 

「おや? 我々を相手にてっきり己の不運を呪うものかと思っていましたが……」

 

 相対する奇術師風は、そんな反応を見るや不思議そうに首を傾げた。

 黒い燕尾服に身を包み、鮮やかな手つきでデッキのカード達を自由自在に飛び回らせている。恐らくはカードパフォーマンスの一種だ。

 

「まさか。僕は貴方と戦うこの瞬間を、ずっと待ち焦がれていたんですよ」

 

 そう言うと爽やかに微笑んで、ブロンド髪の男はディスクを構えた。

 対戦相手として、何よりファンとして極上の真摯な態度に、奇術師は満足したように目を細めた。

 

「ほう、それはプロデュエリスト冥利に尽きますな」

 

 奇術師の男の名はピュクシス。アンリエールと同じく、(ノワール)の地で人気を博しているアクションデュエリストだ。

 その風貌が示す通り、マジックをしているかのような鮮やかなカードパフォーマンスと確かな戦術が人気の決闘者なのだが。普段よりも余裕が現れているのは、恐らく必勝の『キーカード』がその手中にあるからなのだろう。

 

「では、早速始めましょうか……驚きと奇怪に満ちた素晴らしい決闘を」

 

 頬骨の張った顔をニイッと歪めてディスクを構えるピュクシスだったが……ブロンド髪の男はにへらと笑みを浮かべて、あろうことか制止するように掌を向けた。

 

「あー、すいません。少し提案があるんですが」

「……何か?」

 

 お決まりの『段取り』に水を差されて気分を害したのだろう。先程の穏やかな表情はどこへやら、ピュクシスは露骨に不快を滲ませた。 

 

「僕らが今日の最終試合のようですし、どうでしょう? もし宜しければ2戦目のタッグも隣のBコートを貸して貰って、同時に行いませんか?」

 

 あまりに突拍子も無い提案に、会場全体がしんと静まり返った。

 ピュクシスの眉と顔の皺は、益々深く刻まれていく。

 

「……何故、突然そのようなことを?」

「いや~実は僕の旅団、残りのメンバーが遅刻していまして。今日試合に出れるのは僕とこの子達だけなんですよ」

 

 そう言ってブロンド男の影からひょっこりと出てきたのは、青と赤のオッドアイを持つ双子の兄妹だ。

 じっ、感情の知れない不気味な視線をじっと向けられたピュクシスは、嫌悪感を隠すことなく露にした。

 

「そ、その子達が?」

「ええ。もし僕が負けてしまえば、3戦目は不戦敗で僕らの敗退は決定です。折角プロの皆さんと戦える機会だというのに、それじゃああまりにもこの子達が可哀想で」

 

 情けなく笑うブロンド髪の男に、ピュクシスは溜め息を漏らす。

 元々はそちらの不手際だというのに、何故こちらがそんな身勝手な要求を呑まなければならないのだ。そう罵りたくなる口元を押さえて、ピュクシスはわざわざ考え来込むような仕草を見せた。

 

「しかし……それだけ大規模なルール改変となると我々の一存ではどうにもなりませんねぇ。審判員機構、彼の申し出は実現可能なのですか?」

 

 矛先が向いたコーパルはというと、にこりと微笑んで頷いて見せた。

 

『えーっと、結論から申し上げれば「はい」と。ただし両チームの合意があればのお話です。私たち的には基本、盛り上がれば何でも受け入れる方向ですので~』

 

 笑顔でとんでもないことを言い放つルールの番人。

 まさかの回答に会場がざわめく中、何か裏があるのではとピュクシスは暫く思考を巡らせるが。

 

(……ふむ。1戦を勝てば良いだけの我々としては、この提案確かにデメリットの方が多い。しかし――)

 

 いくら考えても、ブロンド髪の男がこの『同時デュエル』を行うメリットが見出せないのだ。頭数の足りない彼らがどう足掻いても、結局2戦とも勝利を収める以外方法は無い。

 しかし、仮にも自分達は実力者揃いのゲストチーム。僅かな敗北の可能性を憂いて『子供達の』申し出を断るのはイメージダウンに繋がってしまう。

 

(……納得はいかないが、断る訳にもいかないか)

 

 後に控える他のメンバーに目配せすると、自信満々の表情で「受けてやれ」との答えが返ってきた。

 

「……分かりました、そのルールでお引き受けしましょう。我々としても、子供達の残念な顔など見たくありませんからね」

「ありがとうございます♪ ノリの良い皆様で助かりました!」

 

 ふわりとした仕草で、ブロンド髪の男は深く頭を下げた。

 

『ではでは~、両者合意ということで変則ダブルデュエルの開始です♪』

 

 AコートとBコートを隔てるARの壁が取り払われると、双子達がトコトコとコートへと上がる。それに続き、ゲストチームからも2人のプロが大手を振って舞台へと上がった。

 線の細い金髪の男と紫髪の男。甘いマスクで女性を魅了しタッグ戦では無敵の強さを誇る、(ユートピア)では『レイ&アビス』なるコンビ名で活躍している決闘者だ。

 

「おチビちゃん達の相手はボク達だ! よろしくお願いするよ!」

 

 ぴっ、と指を払って爽やかに挨拶をする金髪の男、レイに客席から黄色い歓声が沸き上がるが、双子は一瞬顔を見合わせた後。

 

「よろ」

「……しく」

 

 と、無愛想に小さく呟くと黙ってディスクを構えた。

 

「あはは……緊張しちゃってるのかな?」

 

 レイ&アビスは苦笑いを浮かべつつも、双子に続いてディスクを構えた。

 

『……それでは、Bコートのタッグ戦を私、ネフが』

『Aコートのシングル戦を私コーパルが! 実況解説&審判を務めていきますよ~♪』

 

 背中合わせにAB両コートの間に立ち、審判員終いが同時に腕を上げる。

 

『『ダブル・アルティメットルーレット、ゴー!』』

 

 彼女達の頭上に現れたのは、巨大な2枚の裏向きのカード。ガゴン、ガゴン、と大きく音を立てながら回転していくそのカードに、必然と注目が集まる。

 やがて回転を止めた2カードは、表向きになってその正体を露にした。

 

『当然正位置ぃ! Aコートシングル戦のルールはいつも通りのハーフライフぅ!』

『こちらも正位置。Bコートタッグ戦のルールもハーフライフとなります』

 

 下された運命は、どちらも普段のデュエルと変わり無いハーフライフ。

 プロの決闘者によるパフォーマンスを期待していた観客からは僅かに嘆息が漏れたものの、「まだ『次』もあるしな」と巻き起こった落胆はすぐに収束へ向かった。

 

「良かった、いつも通りのルールなら変に肩を張らずに済みそうです」

「フフフ……そうそう、リラックスして下さい。お互いに全力を尽くすのが決闘者としてのマナー、妙な力が入っていては実力を出し切れませんからねぇ」

 

 柔和な笑みを浮かべるブロンド髪の男に、ピュクシスも笑顔を向ける。

 同時に計6台ものディスクが互いにリンクし、試合の準備が整った。

 

『それでは。予選最終試合、異例のダブルデュエル……』

『開始ぃ!』

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

Aコート:【ピュクシス】LP4000 VS 【???】LP4000

Bコート:【レイ&アビス】LP8000 VS 【???&???】LP8000

 

 

   ** 

 

 

「それでは、僕の先攻からですね」

 

 まずはブロンド髪の男から最初のターンがスタートする。

 5枚の手札をしばし眺めた後、男にしては細く長い指先が1枚のカードを掴み取った。

 

「僕は、手札から《E・HERO(エレメンタルヒーロー) エアーマン》を攻撃表示で召喚!」

 

《E・HERO エアーマン》

☆4/風属性/戦士族/ATK 1800/DEF 300

 

 現れたのは、プロペラ付きの翼を広げた青色の人型モンスター。ヒーローの名が示す通り、フィールドへ降り立つと同時に勇ましく声を放って見せた。

 途端、会場中から何とも言えないどよめきが漏れ出した。

 

「えれめんたる、ひーろー……? 聞いたことの無いモンスターですわね」

 

 モニターで試合の様子を眺めていたアンリエールも、どこか納得がいかない様子で眉を寄せていた。珍しいモンスターの召喚に、観客席からも意外と言ったような声が上がっている。

 

「ああ……俺も知らねぇモンスターだ。審判の姉ちゃんが何も言わないってコトは、白の方で先行流通した新型モンスターなのかもなぁ」

「へぇ……そんなに珍しいモンスターなんですか」

 

 こういった知識には長けているはずのクラドも、羨ましそうな目を向けていた。

 ベルもカードの知識には疎い。自分の持つ《アスタリスクス》もそういった経緯を持つことから「アレはそういうものなんだ」と、ごく平凡な感想を抱くところだった。

 隣に立つユウが『唖然とした表情』を浮かべていなければ。

 

「ユウ、さん……?」

 

 まるで信じられないモノを見たような、未だ謎の多い《アスタリスクス》を目にしたときですら見せなかった驚愕の色。

 ベルが不安そうに問い掛けると、ユウは我に返ったように身体を震わせ――その感情を刹那の内に仕舞い込んでしまった。

 

「……いや。何でも無い」

 

 クラドとアンリエールも怪訝そうにユウの顔色を窺ったが、問い詰める暇も無くデュエルは進行していく。

 

「僕はエアーマンの効果を発動、デッキから「HERO」モンスター1枚を手札に加えます。選択したのは《E・HERO バブルマン》」

 

 ブロンド髪の男が取り出して見せたのは、やはりというべきか《E・HERO》の名を冠したモンスター。

 

「更に……カードを2枚伏せて、ターンエンドです」

 

 これと言ってどう展開する訳でもなく、結果として残ったのは下級モンスターが1体と伏せカードが2枚。何が始まるのかと期待を寄せていただけに、肩を透かした空気が会場の中を流れた。

 

「ふむ……罠を張りましたな? 堅実な一手ではありますが、少し物足りませんねぇ。私のターン、ドロー」

 

 プレイングを指摘するように言葉で煽るピュクシスだったが、彼とてプロのデュエリスト。ブロンド髪の男が巡らす思惑に警戒は解かない。

 

(カテゴリ統一のモンスター郡……恐らくは次のターンで一気に動く筈。ならばこのターンで!)

 

 ドローしたカードを満足そうに眺めつつ、ピュクシスは目の前に立つ真摯な男を腹の底で嘲笑った。

 いくら見慣れないモンスターであろうと、『このカード』の前ではどんなデッキも頭を下げる。この決闘は……いや、この大会はそれを証明する為の舞台なのだから。

 

「……おや、これは僥倖。こんなにも早く『仕掛け』をお披露目出来るとは思いもしませんでしたよ」

「おや、何か良いカードを引いたのですか?」

 

 プレゼントを楽しみに尋ねてきた子供のような、無邪気な笑顔を向けるブロンド髪の男に、ピュクシスも同じような笑顔を貼り付けて答えた。

 

「ええ、すぐにご覧に入れて差し上げますよ……!」

 

 僅かに漏れ出す、決闘者としての鋭い殺気。

 ソレを感じ取った観戦の決闘者たちは「何かが来る」と表情を強張らせたが、対峙するブロンド髪の男は微笑を崩さない。

 そんな彼に向けて奇術師が取り出したのは、カードの半分が魔法カードのように緑色となった2枚のモンスターカードだった。

 

「私は、スケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》を……(ペンデュラム)ゾーンにセッティング!」

 

 聞き慣れない宣言、そして『ペンデュラム』の名前――モンスターゾーンでも魔法・罠ゾーンでもない、新設された位置へと置かれた2枚のカードが実体を露にしたとき、多くの観戦者が理解した。これから始まる未知の領域を、決して見逃してはならないと。

 

《星読みの魔術師》

【Pスケール:青1/赤1】

 

《時読みの魔術師》

【Pスケール:青8/赤8】

 

 白と黒の魔術師が天へと飛び上がり、光の柱が立ち上る。幻想的な光景に息を呑む間もなく、ピュクシスの宣言は続く。

 

「これにて、☆2~7までのモンスターが同時に召喚が可能となりました! 皆様に奇跡のショーをご覧に入れましょう……ペンデュラム召喚!」

 

 光の柱によって穿たれた天の穴。

 そこから飛び出した3つの魂が、次々とフィールドへと舞い降りる。

 

「現れよ我が僕達! 《ブラック・マジシャン》! 《ブラック・マジシャン・ガール》ズ!」

 

 光が晴れ、そこに立っていたのは……褐色の肌に黒衣を纏い、挑発的な笑みを浮かべた最上級魔術師と、ケタケタと悪戯な笑みを浮かべる2人の女魔術師だった。

 

《ブラック・マジシャン》

☆7/闇属性/魔法使い族/ATK 2500/DEF 2100

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

☆6/闇属性/魔法使い族・効果/ATK 2000/DEF 1700

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

☆6/闇属性/魔法使い族・効果/ATK 2000/DEF 1700

 

 召喚されたそのどれもが、本来であればリリースを必要とするモンスターばかり。

 それをたった1ターンで、1度に3体も並べて見せたのだ。刹那の静寂の後、会場からは賛美の拍手が嵐のように巻き起こった。

 

「へぇぇ、凄い! 上級のモンスターを1度に展開ですか!」

 

 目を輝かせて喜ぶブロンド髪の男とは対照的に、モニター越しのロビーでは重苦しい深刻な空気が漂っていた。

 

「あれが、ペンデュラム召喚……?」

 

 そう呟いてしまったのは、恐らくベルだけではなかっただろう。

 

「Pスケールの異なる2体のPモンスターを用意することで、スケール間のレベルを持つモンスターを同時に召喚する……何のこっちゃサッパリだったが、実際目にして見て何となく意味が分かったぜ」

 

 配布されていた大会用のルールブックを開きながら、クラドは重々しく呟いた。

 

「確かにアレがあれば、エクシーズやシンクロも従来よりずっとし易くなりそうですわね……」

 

 アンリエールが漏らした感想の通り、確かにフィールドにモンスターを並べることが出来るこの召喚方法ならば相性は良い筈だ。

 試験段階だと言う新たな召喚方法。その可能性に息を呑む中で、未知の領域へと突入したデュエルはさらに続いていく。

 

「フフフ……観客の皆様も、Pカードがお気に召したようですね。ですがここからは私の持ち味を生かしていきますよ? 手札から魔法カード《千本(サウザンド)ナイフ》を発動! ブラック・マジシャンとのコンボで、相手モンスター1体を破壊させて頂きます!」

 

 ブラック・マジシャンから放たれる銀色の雨。それは風のヒーローを切り裂き、貫き、遂にはガラスを砕くように破壊して見せた。

 

「ッ!? エアーマンが……!?」

「さぁ、手加減は致しませんよ! バトル、全てのモンスターでダイレクトアタック!」

 

 絶望の渦中にある相手へと叩き込む終幕の一撃……言い知れぬ快感を味わいながら、ピュクシスは声高らかに宣言するが――。

 肉薄する魔術師弟らの前に、1枚のカードが立ちはだかる。

 

「させませんよ、罠カード《ヒーロー見参》! 相手モンスターの攻撃宣言時、相手が選択した自分の手札1枚がモンスターだった場合、それを特殊召喚する!」

「ぬぅ……!?」

 

 差し出されたブロンド髪の男の手札は3枚。

 歯痒い表情を浮かべたピュクシスは、その中で真ん中のカードを選択した。

 

「……では、そのカードを」

 

 瞬間、ブロンド髪の男がニコリと微笑んだ。

 

「おお、命拾いしました♪ 選択されたカードは《E・HERO プリズマー》!」

 

《E・HERO プリズマー》

☆4/光属性/戦士族・効果/ATK 1700/DEF 1100

 

 ズン、とフィールドを揺るがして降り立ったのは、全身を輝く結晶で覆った人型モンスター。攻撃力は下級モンスターの域を出ないが、その属性は光。

 当然のように攻撃表示で召喚されたソレに、ピュクシスは心底鬱陶しそうに顔を歪めた。

 

(くっ……光属性のモンスターを攻撃表示! オネストですか……しかし!)

 

 ここで勝負を焦らずとも、ピュクシスにはまだ余裕があった。

 手札に目を落とし、自分を落ち着かせるために呼吸を整える。

 

(ヤツの手札に《オネスト》があるならば、次のターン……確実に攻撃を仕掛けてくるはず! だが私の手札には《聖なるバリア―ミラーフォース―》がある! もしも攻撃を躊躇したなら《オネスト》はハッタリだ! こちらからは攻めずに、ゆっくりと追い詰めていけば良い!)

 

 そこまでを考えて、ピュクシスは偽りの笑顔を貼り付けて宣言を続けた。

 

「これは一杯食わされましたねぇ……仕方が無い、私はカードを1枚伏せてターンエンドです」

「おや、攻撃は無しですか?」

 

 とぼけたように話すブロンド髪の男に少しばかり苛立ちを感じつつ、ピュクシスは手札を指差し微笑んで見せた。

 

「当然。プロというモノを舐めないで頂きたい」

『これは間一髪! 脅威のペンデュラム召喚、その怒涛の攻撃を見事な心理戦で耐え切った~!』

 





次話も続けて更新です。よろしければご覧下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。