遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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※2話連続更新です。前話(22話)も合わせてご覧下さい。


第23話 その名は

「おや、ピュクシスさんてばもうお披露目しちゃったか……それじゃ、ボクらもそろそろお披露目といきますか!」

 

 一方、Bコートで行われていたタッグデュエルでも動きがあった。

 既に両陣営とも1ターンを終え、場にはそれぞれカードが展開されている。レイ&アビスの場には、リリース無しで召喚出来る最上級モンスター《神獣王バルバロス》が睨みを利かせていた。

 

「ボクはスケール1の《クリフォート・ディスク》と、スケール9の《クリフォート・ツール》をPゾーンへセッティング!」

 

 先攻側の2ターン目となるアビスのターン、再びソレは巻き起こった。

 コアに黄色の光を灯した盾のような機械モンスターと、その名が示す通り円盤を模した巨大機械が2本の光柱を作り出していく。

 

《クリフォート・ディスク》

【Pスケール:青1/赤1】

 

《クリフォート・ツール》

【Pスケール:青9/赤9】

 

 立て続けに披露されたペンデュラム召喚に、会場の空気が一気に沸き立つ。

 アビスは満足そうに頷いて、両手を開いて高々と宣言した。

 

「うんうん♪ お客さん達も大喜びだ! それじゃあいくよ? まずはPゾーンの《クリフォート・ツール》の効果を発動、ライフを800支払い「クリフォート」カード1枚を手札に加える! そしてそのままペンデュラム召喚だ! ☆2~8のモンスターを、同時に特殊召喚!」

 

 穿たれた天の穴から舞い降りる3つの魂。

 レイのターンで既に召喚されていた《神獣王バルバロス》と共に、計4体のモンスターが並び立った。

 

《神獣王バルバロス》

☆8/地属性/獣戦士族・効果/ATK 1900(3000)/DEF 1200

 

《クリフォート・シェル》

☆8/地属性/機械族・ペンデュラム・効果/ATK 2800/DEF 1000

 

《クリフォート・ゲノム》

☆6/地属性/機械族・ペンデュラム・効果/ATK 2400/DEF 1000

 

《クリフォート・アーカイブ》

☆6/地属性/機械族・ペンデュラム・効果/ATK 2400/DEF 1000

 

「特殊召喚された「クリフォート」達はそれぞれレベルが4になり、攻撃力も1800にダウンしてしまうのだけど……ボクは更にこの3体をリリースしてこのカードを召喚する! アドバンス召喚、《アポクリフォート・キラー》!」

 

 男性とは思えないしなやかな指さばきでディスクへとカードを叩き付けるアビス。

 能力を大幅に弱体化させた上級モンスター達の魂を糧に、不気味な駆動音を響かせてフィールドへと降り立ったのは――白と黒のコントラストが神々しい、空を覆いかねない程に大きな4つ足の空中要塞だった。

 

《アポクリフォート・キラー》

☆10/地属性/機械族・効果/ATK 3000/DEF 2600

 

 ペンデュラム召喚から繋がった、3体ものモンスターを使用する豪快なアドバンス召喚。

 会場は更なる火種が注がれ、興奮も最高潮まで達する。

 

「更に、リリースされたゲノム・アーカイブ2体の効果を発動! これらのカードがリリースされた場合、ゲノムはフィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊し、アーカイブはフィールド上のカードを1枚手札に戻す! ボクはキミ達の場のモンスターと伏せカードをそれぞれ選択する!」

 

 双子の場に伏せられていた2枚のカードの内1枚が破壊され、裏側守備表示で存在していたモンスターが手札へと戻された。

 漂う絶望の瘴気。しかし双子の兄妹は顔色1つ変えずに処理を続行する。

 

「そしておまけに、Pモンスターの特色もご披露だ! Pモンスターが場から墓地へ送られる場合は、墓地ではなくエクストラデッキへと送られる! そしてエクストラデッキのPモンスターは、P召喚の際に召喚対象として選択することが出来る!」

 

 通常では考えられない、モンスターのエクストラデッキへの回帰。

 そして、それらの効果が意味することは――。

 

「つまり次のターン……Pゾーンのカードをどうにか出来なきゃ、またあの3体がペンデュラム召喚されるって訳か!?」

 

 思わず漏れたクラドの驚愕。

 破壊されても、リリースされても毎ターン出現する複数のモンスター達。他の召喚方法を補佐するだけではない圧倒的な『数』の力――それこそがペンデュラムの秘めた真の力だとでも言うのだろうか。

 

「そしてアポクリフォート・キラーの効果を発動! 自分のメインフェイズに1度、相手は手札かフィールドのモンスターを1体墓地へ送らなければならない!」

 

 双子の妹らしい、このターンのプレイヤーである少女は眉1つ動かすことなく、黙って手札1枚を墓地へと送った。

 

「さぁバトルだ! まずはアポクリフォート・キラーでダイレクトアタック!」

 

 伏せカードを1枚だけ残した双子のフィールドへ向けて、アビスの攻撃宣言が下される。

 当然、そこへ立ち塞がるのは伏せられていた1枚のカード。

 

「……罠カード《デモンズ・チェーン》を発動。対象としたモンスターの効果と攻撃を無効にする」

「無駄だよ! アポクリフォート・キラーは魔法・罠の効果を受けない! 更に言えば――」

 

 自身に巻きついた鎖を易々と弾き飛ばし、巨大要塞は冷徹な殺意を双子へと向ける。

 その巨躯へとチャージされていくエネルギーの奔流は、止まることを知らない。

 

「このカードよりレベルの低いモンスターの効果も受け付けず、特殊召喚されたモンスターの攻撃力・守備力を500ポイントダウンさせる! まさに無敵のモンスターなのさ!」

 

 四方八方から放たれた色とりどりの光の雨が、双子へと降り注ぐ。

 子供を相手に容赦の無い猛攻であったが、まさに必殺と呼べるモンスターの登場に歓声は鳴り止むことは無かった。

 

【???&???】LP8000→5000

 

「続けてバルバロスで攻撃! 生贄無しで通常召喚されたバルバロスなら、アポクリフォートの効果を受けることは無い! そしてこの瞬間、ボクはレイが伏せてくれていた永続罠《スキルドレイン》を発動!」

 

 フィールド上のモンスター効果が無効となる、強力な永続罠。本来であればデメリットを負いかねない、扱いの難しいカードであるが……。

 

「バルバロス本来の攻撃力は3000だ! スキルドレインが発動されバルバロス自身の効果が消えた今、その攻撃力は『元に戻る』! 更に言えば、アポクリフォートはボクの発動したスキルドレインの効果ですら効かないのさ!」

 

 難攻不落の要塞は決してその力を衰えさせることなく、神に近しい獣の戦士が本来のパワーを持って双子の妹へとその槍を突き立てた。

 

【???&???】LP5000→2000

 

 攻撃力3000の直撃。

 その凄まじい衝撃で吹き飛ばされるも、双子の妹は泣き言を言うでも無くゆっくりと立ち上がった。

 

「おおっ!! 偉いぞボウズ、嬢ちゃん!!」

 

 子供ながらに肝の据わっていると、会場からは哀れみどころか拍手が沸き上がった。

 ここでサレンダーだろうな、という多くの予想を覆し、勇ましく最後まで立ち向かおうという姿勢を見せたことが観客達の心を打ったらしい。

 

「おお、ナイスガッツだ! ボクはこれでターンエンドだよ!」

 

 白く輝く歯を見せて、アビスがターンの終了を宣言する。

 ペンデュラムモンスター。その脅威に初めて立ち向かったにしては上出来だと、選手用のモニターが設置されたロビーからはちらほらと場を離れる者も現れ始めた頃。

 その瞬間は、訪れようとしていた。

 

 

   ** 

 

 

「おやおや、あんなに張り切って。若いというのは羨ましいですねぇ。」

 

 隣のコートに浮かんだ巨大要塞を見上げながら、余裕の表情で構えるピュクシス。

 幼い子供相手にあちらは多少気を使っているようだが、新型モンスターのプロモーションに手加減など加えれば後でどんな雷が落とされるか知れたものではない。

 世渡りの『甘さ』を含めて内心で嘲笑っていると、ブロンド髪の男は無邪気にこの状況を楽しみ始めた。

 

「おお、流石に迫力がある! やっぱりカッコいいですね、ペンデュラムは」

「勿論です、プロモーション用として我々にのみ配布された新規のカードなのですから」

 

 皮肉と嫌味を込めてピュクシスが答えると、ブロンド髪の男は笑顔のまま、クリフォートへと向けていた視線を元へと戻した。

 

「ただ……貴方も彼らも、Pモンスターをあまり使い慣れていないようにお見受けしますが?」

 

 ぴしり、と放たれた、プロとして聞き捨てならない言葉。

 ピュクシスは剥がれそうになった笑顔の仮面を持ち直しつつ務めて冷静に聞き返した。

 

「……と、言うと?」

「使い慣れた普段のデッキで挑めば、僕らに負けるコトも無かった……ということですよ」

 

 既にドローフェイズを引き終えたブロンド髪の男は、そう言ってニヤリと口元を歪めた。

 

「……何?」

「メインフェイズ、僕はプリズマーの効果を発動。エクストラデッキの融合モンスターを相手に見せることで、融合素材となっているモンスター1体を墓地へと送り、このターンそのモンスターと同名カードとして扱う……」

 

 そう言って、取り出された融合モンスターは――。

 

「僕が選択したのは《超魔導剣士―ブラック・パラディン》。よって融合素材である《ブラック・マジシャン》1体を墓地へと送る」

 

 刹那。プリズマーの体が光を放ち、光の霧が立ち込めていく。

 霧が晴れると共に姿を現したのは、ピュクシスの場にある黒衣の魔術師を鏡写しにした、同名の最上級魔術師であった。

 しかしAR上で同じように再現されている筈のソレは、ピュクシスのものとは細部が違っていた。邪悪に顔を歪める褐色の男とはまるで正反対の、凛とした佇まいを崩さぬ清き白肌の男の姿があった。

 

「ぶ、ブラック・マジシャンだとッ……!?」

 

 黒衣の最上級魔術師。その使い手としても名を馳せるピュクシスにとって、よもや最愛のカードが敵に回るなど屈辱以外の何者でもない。

 まして、名前だけがコピーされた上に攻撃力は変わらずの1700。劣化も劣化、こんなものを対戦相手にと得意げに出されては、自らの品格すら落とされかねない。

 ついに激昂を表情に露としたピュクシスに構うことなく、ブロンド髪の男はカードを切っていく。

 

「更にカードを2枚伏せ、手札の《E・HERO バブルマン》の効果を発動。手札がこのカードのみだった場合、特殊召喚が可能になる」

 

《E・HERO バブルマン》

☆4/水属性/戦士族/ATK 800/DEF 1500

 

 劣化の魔術師に並び立ったのは貧弱なステータスのふくよかな小男。

 手札には何と、オネストすら無かったのだ。守備表示で召喚されたそのモンスターの微笑みが、遂にピュクシスの怒りへ火を付けた。

 

「……貴様!! 私を愚弄するのも――」

「僕は☆4のブラック・マジシャンとバブルマンを『オーバーレイ』」

 

 プロの激昂、ソレを遮るが如くブロンドの男が声を張り上げる。

 紡がれた口上は、黒の召喚法(エクシーズ)

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

 

 光の奔流に飛び込んだ2つの魂が、新たに生まれ来る強靭な魂を導き出す。

 眩いばかりの閃光爆発、その刹那に浮かび上がったのは――。

 

「エクシーズ召喚……現れろ、No.(ナンバーズ)39!!」

 

 赤きそのナンバーが示すは、未来への希望。

 純白と黄金に彩られた剣のオブジェが展開し、翼と剣を携えた光の巨人が姿を現した。

 

《No.39 希望皇ホープ》

★4/光属性/戦士族・エクシーズ・効果/ATK 2500/DEF 2000

 

『ななな、なんとぉ!! ここで《No.》が召喚ですっ!! 希望の名は伊達じゃないのかぁ!?』

「な……《No.》だと!?」

 

 ピュクシスの背に冷ややかな水滴が伝う。

 攻撃力は2500。ブラック・マジシャンと相打ちにされるとはいえ、ペンデュラム召喚を駆使し万全の罠まで張ったのだ、そう簡単に崩されることなど無い……。

 正体不明の《No.》が放つプレッシャー。しかし、それよりも何よりも、大丈夫だと言い聞かせている自分自身に対して奇術師は戦慄を感じていた。

 やがてその戦慄は、カードとしての形を成して現実のモノとなる。

 

「僕はここで、伏せていた魔法カード――《RUM(ランクアップマジック)-リミテッド・バリアンズ・フォース》を発動。★4の希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを『再構築』」

 

 再び剣のオブジェとなったホープが、展開された光の奔流へと沈んでいく。

 会場のどよめきまでその渦中へと吸い込んで、希望の光は変貌を遂げた。

 

「混沌の力纏いて勝利を目指せ……進化した勇姿が今ここに現れる! ランクラップ・エクシーズチェンジ!!」

 

 赤き光で満たされた、どこか別の世界で鎮座する扉が封印の鎖を破り解き放たれる。

 そこから飛び出した光とも闇ともつかない粒子の渦が、全てを飲み込んだ。

 

「降臨せよ!! 《CNo.(カオスナンバーズ)39 希望皇ホープレイV》!!」

 

《CNo.39 希望皇ホープレイV》

★5/光属性/戦士族・エクシーズ・効果/ATK 2600/DEF 2000

 

 濃紺に深紅の混じったカラーリング、鋭角に尖った各部……先の姿とは対照的な巨人がが放つ攻撃的なオーラは、見る者全てを戦慄させた。

 何より。観客は元より決闘者である者ですら、何故、どのようにしてこのモンスターが召喚されたのかが分からない。それが余計に肌を粟立たせる。

 

「え……?」

 

 会場とロビーに、全く同種のざわめきが流れ出す。この異様な空気に耐えかねたベルは、助けを請うように他の3人を見回したが……三者は三様、凍りついたように視線をモニターへ固定されていた。

 

「あ、アンリさん、あれってどういうカードなんですか……?」

 

 エクシーズの使い手である筈のアンリエールに尋ねるも、彼女はただ静かに首を横に振った。

 

「……分かりませんわ。魔法カードによるエクシーズチェンジなど聞いたことがありませんもの……ましてや、《CNo.》などという言葉も」

 

 一息ついて、アンリエールは吐き出すように呟いた。

 

「あの殿方……一体何者ですの」

 

 その道のエキスパートである彼女が漏らした戦慄。

 ベルに対する答えは、それが全てであった。

 

「僕はホープレイVの効果を発動!! ORUを1つ使い、相手フィールド上のモンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える……『Vブレードシュート』!!」

 

 巨人が自らの翼部から湾曲した剣を抜き出し、低く雄叫びを上げながら黒衣の魔術師へと投擲する。

 回転し肉薄する剣は魔術師の胴を切り裂き、遂にはその余波がピュクシス自身へと襲い掛かった。

 

「何だと……ぐッ!?」

 

【ピュクシス】LP4000→1500

 

 鋭く走る痛みに耐えながらも、ピュクシスは必死に思考を巡らせた。

 虎の子である伏せカードが破壊されない限り、決着は無い。ただそれだけに意識を集中する。

 

「更に伏せた2枚目の魔法カード、《死者蘇生》を発動……墓地より蘇れ、《ブラック・マジシャン》!!」

 

《ブラック・マジシャン》

☆7/闇属性/魔法使い族/ATK 2500/DEF 2100

 

 まだ。伏せカードが破壊されない限り、決着は――。

 そう歯を食いしばるピュクシスへ向けて、黒衣の魔術師はチッチッチッと指を振った。

 

「ぐ……!?」

「さて、バトルです。まずはホープレイVで攻撃!」

 

 下された攻撃宣言。

 待ち望んでいたその瞬間に、ピュクシスは声を張り上げた。

 

「ッ掛かった!! 罠カード発動、《聖なるバリア―ミラーフォース―》!! 攻撃表示の相手モンスターを全て……」

「今、『発動』と言いましたね?」

 

 未知のモンスターの恐怖に駆られ、失念していたその伏せカードがゆっくりと立ち上がる。

 

「罠カード《スターライト・ロード》。自分フィールドのカードを2枚以上破壊する効果を無効にし、破壊する」

 

 ミラーフォースの力によって反射したホープレイVの攻撃エネルギーは、止まらない。

 光の奔流はたった1枚のカードに吸い込まれ……大地を揺るがし、光の柱を出現させた。

 

「なっ……!?」

「そしてその後――とあるシンクロモンスターを1体、エクストラデッキから特殊召喚できる」

 

 光の柱に現れたのは、シンクロ召喚に用いられる緑色の光輪。

 その数は、8つ。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる……」

 

 口上と共に幅を増していく光の柱。

 その中に、翼を広げた竜の巨影が垣間見えた。

 

「光差す道となれ! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!!」

 

 その身に纏う燐粉は、白金に輝く星屑の群れ。

 細く、それでいて威光を放つ白き竜は、宙へ向かって高々と咆哮を上げた。

 

《スターダスト・ドラゴン》

☆8/風属性/ドラゴン族・シンクロ・効果/ATK 2500/DEF 2000

 

「な、何なんだ……さっきから妙なモンスターばかり!? おい審判員機構、コイツに不正は無いのか!?」

 

 藁をもすがる思いでピュクシスが叫ぶも、コーパルは困ったように首を横に振った。

 

『そうですね~、私の方でも色々調べてみましたがー。バッチリとデータだけは登録されてるみたいなんですよ~。つまり不正でも何でもない、正真正銘のレアカードということです』

「そ、そんな……!!」

 

 自分達だけに渡された、未だ使用者の無いペンデュラムカード。

 それを使い、輝かしく開かれる栄光の道……そんな幻想の光景が音を立てて崩れ去る。

 

「さて、ジャッジタイムは宜しいですか? ホープレイVの攻撃を続行します……『ホープ剣・Vの字斬り』!!」

 

 魔人の剣戟が、女魔術師の儚い命を散らす。

 師匠の死によって僅かばかりに上がった攻撃力も、最早何の手助けにもならなかった。

 

【ピュクシス】LP1500→1200

 

「や、やめろ……!!」

「それは無理なご相談です♪ スターダストで攻撃……『シューティング・ソニック』!!」

 

 こんな所で負ける訳にはいかないんだ。

 プロとしての悲痛な叫びも飲み込んで、白き竜が放った星屑の吐息は2人目の女魔術師をも葬った。

 

「ぐぅっ……!?」

 

【ピュクシス】LP1200→1000

 

「た、頼む!! スポンサーやファンが見ているこの舞台で、まして新型モンスターを使いながら負けたなどと!! 私の評判が……!!」

 

 ピュクシスの懇願を受けたブロンド髪の男はにっこりと微笑むと、隣のコートをちょいちょいと指差して見せた。

 

「それには心配及びません、評判を落とすのは何も貴方だけではありませんよ? 見て下さい、あちらの方もどうやら決着が付きそうですから」

「は……?」

 

 言われるがままに、ピュクシスが視線を向ける。

 そこには、1枚のカードを構えた双子の兄の姿があった。

 

「どうしてキミが、そのカードを……!!」

 

 声を震わせて尋ねるレイ。

 感情の無いオッドアイの瞳は一言、応えた。

 

 

 

 

「手札から。スケール5の《―**―(アスタリスクス)阿雷虎(ヴァジュラ)》をPゾーンにセッティング」

 

 

 

 

 浮かび上がる光の柱。

 琥珀色の宝玉を抱いた猛虎の石像が、ふわりと浮かび上がる。

 

 

 

 

 

「……《―**―吽風龍(アイオロス)》の効果を発動」

 

 

 

 

 

 それと同時、妹が兄の言葉を継ぐように口を開いた。

 

「《―**―阿雷虎》がPゾーンに置かれたとき、墓地のこのカードを空いているPゾーンに置くことができる」

 

 いつの間に、と言い掛けたアビスの口が思わず塞がる。

 手札を経由し、墓地へと直接『リリース』させたのは他でもない自分達だったからだ。

 

「……スケール3の《―**―吽風龍》を、Pゾーンにセッティング」

 

 碧色の宝玉を抱いた龍の石像が並び、アスタリスクスの名を持つペンデュラムモンスターが揃い踏む。

 

《―**―阿雷虎》

【Pスケール:青5/赤5】

 

《―**―吽風龍》

【Pスケール:青3/赤3】

 

 ごくり、と唾を飲み込みつつ、レイは何とか言葉を返した。

 

「……し、正直驚いたよ! だけどそのスケールで召喚出来るモンスターは☆4のモンスターだけだ!! それでは――」

 

「ヴァジュラ、アイオロスのP効果を発動」

「……それぞれがPゾーンに置かれているとき」

「同名モンスターのみをペンデュラム召喚する場合」

「……スケールに関係なく、それを可能な限り特殊召喚出来る」

 

 交互に重なる、幼き双子の美声。

 それは既に多くの人々の理解の外にあり、これから起きる出来事は全てそういうものだと受け入れる他に無かった。

 

 

 

 

 

「揺れろ。魂のペンデュラム」

「……天空に描け、光のアーク」

 

 

 

 

 

 天を穿つ円環。その幻想的な光景は最早当たり前のように記憶の中へと溶け込んでいく。

 

「ペンデュラム召喚」

「……現れよ、我らが僕のモンスター達」

 

 やがて降り立った気高き3つの魂すら、人々はただ静寂を持って迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《青眼の白龍》

☆8/光属性/ドラゴン族/ATK 3000/DEF 2500

 

《青眼の白龍》

☆8/光属性/ドラゴン族/ATK 3000/DEF 2500

 

《青眼の白龍》

☆8/光属性/ドラゴン族/ATK 3000/DEF 2500

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、異界の地において刻まれた伝説の再現。

 この場にいる誰もが知る由も無かった。牙を剥き、吼えるその白き龍達がデュエルモンスターズの起源とも呼べる存在であることを。

 

「手札から装備魔法《巨大化》を発動。青眼1体に装備し、その元々の攻撃力を倍にする」

 

《青眼の白龍》

ATK 3000→2500→5500

 

 魔法カードによる助力を得て、その力を膨らませていく伝説の白き龍。

 アポクリフォート・キラーの効果によって攻撃力が下がっていたものの、その攻撃力は5500にまで上昇した。

 

「伏せカード。速攻魔法《サイバネティック・フュージョン・サポート》発動」

「……ライフを半分支払うことで、機械族モンスターの融合素材を自分のフィールド、墓地、手札から除外することで使用出来る」

 

【???&???】LP2000→1000

 

 この場にいる誰もが知る由も無かった。今、この光景そのものが、これまでデュエルモンスターズの未来を切り開いてきた伝説の舞台そのものだということを。

 

「魔法カード《融合》発動」

「……墓地の《サイバー・ドラゴン》3体を除外し、融合召喚」

 

 伝説は紡がれる。

 際限なく、その力を存分に示しながら。

 

 

 

 

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》

☆10/光属性/機械族・融合・効果/ATK 4000/DEF 2800

 

 

 

 

 

 銀の装甲に身を包んだ三つ首の機械龍。

 先に並んだ白き龍にも劣らぬ名声の持ち主であることなど、誰も知らない。

 

「こ、攻撃力……4000」

「バトル。青眼の白龍でアポクリフォート・キラーに攻撃」

 

 魔法・罠の効果、モンスターの効果すら寄せ付けない無敵の要塞。その突破口は実に単純だった――その攻撃力を、上回ればいい。

 

「『滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)』」

 

 収束する光の粒子が、蒼き聖なるブレスとなって要塞を貫く。

 その余波は華奢な2人を軽々と吹き飛ばした。

 

「う、うわああああ!?」

 

【レイ&アビス】LP8000→5500

 

「そ、そんな、そんな……!!」

「……バトル。サイバー・エンドでバルバロスを攻撃」

 

 まだ幼く、柔らかな五指が命令を告げる。

 アポクリフォートの撃墜により本来の攻撃力を取り戻した機械龍は、必殺の一撃を放たんと出力を上げ、その顎に光を溜めていく。

 

「……『エターナル・エヴォリューション・バースト』」

 

 その名が示すは、永遠に絶える事の無い3本の光槍。

 圧倒的なその力は、獣の王を呆気なく葬り去った。

 

【レイ&アビス】LP5500→4500

 

「あ、ああ……?」

「さて。ご理解頂けましたか? これで詰み(チェックメイト)です」

 

 3人のプロデュエリストに浮かぶ絶望は、やがて思考を巡らせ気付かせるに至った。

 慣れないデッキを使ったからだとか、そういう下らない理由を付けたから負けた訳では無いと。

 

 根本的な何かが、違う。

 自分達と彼らとでは、絶対に覆ることの無い何かが。

 

「……これで伝説は辿られた。貴方達を超えることで、僕達はその称号を手に入れる」

 

 ニィ、と歪んだ三日月の口に、ピュクシスは最後の気力を振り絞って尋ねた。

 

「な、何を、言って……」

「言ったでしょう? 僕は貴方と戦うこの瞬間を、ずっと待ち焦がれていたんですよ。ずっとずっと……ね」

 

 黒衣の魔術師が杖を振るう。

 奇しくもそれは、隣のコートで白き龍がブレスを放つのと同時であった。

 

「……『黒・魔・導(ブラック・マジック)』」

 

【ピュクシス】LP1000→0

【レイ&アビス】LP4500→0

 

 鳴り響くブザーに、歓声の合いの手は無い。

 しんと静まり返った会場の中でただ2人。人で無いが故に普段通りのアクションを見せる審判員の声だけが木霊した。

 

『う、勝者(ウィナー)!! 【ドミノ】、ユーギ=ムトウ選手!!』

『同じくBコート。勝者、【ドミノ】ジェイ&ケイ選手』

 

 ベルは思わず、隣に立つユウの顔を見上げた。

 そこにあったのは自分達と同じ様に愕然と目を開いたポーカーフェイスの素顔だった。




ベル「次週の投稿はお休み!」

どうせなら年末に合わせて誰か落下させれば良かった……
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