遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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【※WARNING!※】
今話にはオリジナル要素やアニメオリカの成分が含まれます。苦手な方々はご注意下さい。


第25話 地獄から響く唄

「先輩、やりました! 初勝利です!」

「やったね(レン)! 一緒に練習した甲斐があったわ!」

 

 白い歯を並べて笑う黒髪の少女に、まだ『湊美麗(ソウ・メイリィ)』と名乗っていた少女はパチパチと手を叩いて喜んで見せた。

 歌唱力とパフォーマンス、そして『実力』を見せ付けるのには手っ取り早いデュエルモンスターズ。その3つの力量が求められる芸能界での彼女達の立ち位置はまだ中の下。

 ジュニアアイドルグループとしては歌もパフォーマンスも中々に好評だが、あとは人々の間で話題になる『箔』さえ付けば、鰻上りに人気は高くなるだろう。そんな評価が下されていた頃の話だ。

 

 他のメンバーよりも一回り年上で落ち着いた雰囲気の湊と、甘え上手な黒髪の少女――蓮の2人は特に仲が良かった。

 まだまだ知名度の低い彼女達であったが、とりわけこの2人の組み合わせだけは世間でも話題になることが多く、他のメンバーからも羨ましがる声も多かった。

 

「先輩がくれたこのカード、やっぱり私のデッキに凄く相性がいいみたいで!」

「そう、良かった! 蓮が頑張ってくれたおかげで、私たち『アトランタ杯』に進めるのよ!」

 

 2人の周りに他のメンバーも集まり、興奮冷めやらぬといった様子できゃあきゃあと飛び跳ねる。

 話題になる『箔』が付けば。それを現実のものとするために彼女達が出場を決めたのは、年に1度開催されるデュエルモンスターズの団体大会『アトランタ杯』に出場し、優勝することだった。

 出場の為の予選枠を勝ち取った今日、彼女達の『夢』はまさに手の届く距離まで迫っていたのだ。

 

「お疲れ皆! 差し入れだぞー!」

 

 そこへ姿を現したのは、まだ20代前半だろうという若いスーツ姿の男。

 キンと冷えたスポーツドリンクを手にした彼は、彼女達のたった1人のマネージャーだ。

 彼女、彼らが所属しているのは他にも人気グループを抱える大手事務所で、そんな中で期待の薄い彼女達にはマネージャーとして彼1人だけが付けられた。

 幸い、その癖の無い顔立ちが人懐っこい少女達にすぐ受け入れられ、半ば孤立したような境遇の中で彼女達の絆は深まっていった。

 

「マネージャー! ヒドイですよー今までどこ行ってたんですか!?」

「あー、いやその……色々と仕事が」

「折角の蓮の晴れ舞台だったのに……はぁ」

「あ、はは……キツいなぁメイは」

 

 湊と蓮の責める様な視線に、思わずたじろぐマネージャー。

 そんな彼を見て満足したのか。少女2人はニッと笑い合うと彼の両腕にそれぞれが抱きついた。

 抑えきれない嬉しさを全身で表現するかのように、他の少女たちも皆マネージャーの体に抱きついていく。お互いの信頼が形になったその光景は、彼女達の楽しい日常だった。

 

 このまま頂上を目指して駆け上って。

 いつか輝く星になれたそのときも、それからもずっと。

 

 純粋な彼女達はそう信じて疑わなかった。

 少なくとも。湊美麗という少女だけは。

 

 

   **

 

 

『さぁ!! 盛り上がっていますSSC準々決勝!! 次なる試合は~……』

 

 コーパルのアナウンスが響くその隣で、見事な手捌きでドラムをロールしているのは勿論ネフだ。

 

『何と!! かの「幽霊姫」をメンバーに抱え、予選では見事な試合を見せてくれました隠れた実力派旅団【にじいろ団】と!!』

 

 コーパルが右手をかざすその先には、【にじいろ団】が控えるベンチが。

 バンッ、と急にスポットライトが当たり、ベルとクラドが眩しそうに目を瞬かせた。

 そんなことなどお構い無しに、コーパルの右手は対戦相手の紹介へと流れた。

 

『対するは、謎のローブを纏った神秘の女性決闘旅団……って、あれ?』

 

 コーパルが手をかざす先には、誰も居ないベンチがライトに映し出された。

 まさか試合放棄か、と客席がざわめき始めると……。

 

『な、なに何!?』

 

 突然の出来事に、流石のコーパルも驚いた様子で仰け反った。

 不意に、コート上にスモークが噴出したのだ。

 

『こんなの聞いてませんよ~!?』

 

 慌てふためくコーパルを尻目に、ネフは黙したままそっとドラム一式を片付けた。

 彼女の方は事情を知っているのか、極めて落ち着いた様子だ。

 

『あー、えっとぉ~……』

 

 戸惑うコーパル。ただ黙するネフ。

 彼女達のアナウンスも無しに、未だスモークが晴れないコート上に七色のライトが輝いた。照らし出されたのは、灰色のローブを目深に被った6人の影。

 とりあえず試合放棄でないことが分かり、ほっと胸を撫で下ろす仕草を見せて、コーパルは咎めるようにくどくどと小言を漏らし始めた。

 

『ちょっと困りますよ~? 段取り通りキチンと席に座っていて貰わないと……』

 

 そんな彼女の言葉を遮るように、突如として会場に軽快な音楽が流れ始めた。

 びくり、と肩を震わせるコーパルとは対照的に、一部の観客から先立って歓声が沸いた。 何かの曲のイントロなのだろうか、とベルが首を傾げたところでクラドも曲の正体に気が付いたらしく、苦笑を浮かべて呟いた。

 

「……おいおい、マジかよ」

「? クラドさん、何か知ってるんですか?」

 

 信じられない、といったクラドの目は、首を傾げるベルにではなく険しい表情を浮かべたままの藍へと向けられていた。

 ベルの疑問。それは『彼女達』が一斉にローブを脱ぎ捨てたことで解決した。

 

「えっ……?」

 

 異なる色のライトがそれぞれを照らし浮き上がらせる。

 コートの上に現れたのは、咲き誇るのは花か宝石かという程に美しい美女達だった。

 それぞれ違う魅力を放つ6つの輝き。一気に湧き上がった観客の大歓声を糧に、彼女達は息を吸い込むと――琴か何かの音色と聞き違うような繊細で美しいメロディを、その口から紡いだ。

 

『な、なななんとぉ!!? 本大会はカオスと化したのか!? 今が旬、忘却の青(アトランタ・ブルー)にて人気を博しているアイドルチーム【N―EVES(ネイヴス)】がまさかの参戦だぁ~!!』

 

 それまではサプライズゲストとして姿を隠し、偽名で登録していたのだろう。

 ライブ会場と化した会場の中心で、にじいろ団の面々はその歌声に圧倒されていた。

 

「アイドル……チーム?」

 

 ベルの小さな呟きは歌と歓声にかき消されてしまったが、メンバーの視線は藍に集中する。どういうことだとそれぞれの目が訴えるが、藍の視線はただコートの上で歌い、踊るアイドル達へと向けられていた。

 

『地獄の底から返り咲いた、タフな彼女達の実力は予選で既に折り紙つき!! 見逃せない試合となりそうです!!』

 

 コーパルの解説など聞こえていないようで、会場は【N―EVES】のパフォーマンスに夢中だ。それでも歌詞の前半が終了したところでバックミュージックの音量も控えめになり、センターの少女がにっこりと微笑んで客席の方へと向き直った。

 それは、昨日藍に詰め寄ったあの黒髪の少女だった。

 

「皆さん、ご声援ありがとうございます!! 私たちからのサプライズ、いかがでしたか?」

 

 最高、という合いの手を受けて少女は大きく頷くと、もう一度笑顔を作って息を切らしながらも言葉を続けた。

 

「この大会に参加したのはお仕事の宣伝、っていうのもありますけど……私たちだって立派な決闘者!! 今日も精一杯頑張りますので、応援よろしくお願いします!!」

 

 大きく頭を下げた少女を称えるように、暖かな歓声が飛び交う。

 驚きに声が出ない4人と、じっと険しい表情を浮かべている藍を除いて。

 

「…………♪」

 

 再び上げられた少女の顔に、ちらりと横目で鋭い眼差しが放たれた。

 まるで氷柱のように冷たく尖った感情。一瞬ではあったが、それは確かに藍へ向けて放たれていた。

 

「時間を頂いてしまってすいません!! 先発は私からです、にじいろ団さんの選手さんもステージへどうぞ!!」

 

 黒髪の少女を残して、他の5人はベンチの方へとはけたが……流石はそういう方面での『プロ』だ。誰一人として着席はせず、屋根に隠れないよう絶妙な立ち位置で並んでいる。

 コーパル達から完全にアナウンス主導権を奪った黒髪の少女は、対戦相手を導くように右手を差し伸べた。その表情『だけ』は、明るい笑顔に彩られていた。

 

「……姉ちゃん、あのさ」

「行って来るわ。私の我が侭を聞いてくれてありがとう、皆」

 

 注がれる視線と疑問を振りほどくように、藍がゆっくりと立ち上がり歩を進めた。

 一段、一段と藍が階段を上る間も黒髪の少女は笑顔を崩さない。コートへ上がり、定位置へと立ったところで、藍は凛と声を張って告げる。

 

「……私が対戦相手よ。よろしくお願いするわ」

 

 差し伸べていた少女の手がゆっくりと下げられる。

 貼り付けたような笑顔のまま、少女は僅かに声のトーンを落として応えた。

 

「……ふーん。逃げないで上がって来れたんですね、先輩」

 

 藍だけがコートに立っていたとしたら、恐らく誰も気が付かなかっただろう。

 しかしこの場には、この状況には。

 藍が何者であるかを示す記号が、あまりにも多過ぎた。

 

「おい、あっちの女……もしかして元メンバーの湊美麗(ソウ・メイリィ)じゃないか?」

 

 誰かが呟いたその『答え』は一石を投じた水面が打つ波紋の如く、瞬く間に会場に広まっていく。答え合わせは、しっかりとコーパルのアナウンスによって果たされた。

 

『な、なんということでしょう!? にじいろ団の先発、藍選手は【N―EVES】の元メンバーだった!? これは波乱の展開だー!!』

 

 6人を照らした7色のライト。その残り1つが藍を照らし出した。

 これも偽名を使ってのサプライズ演出だと思ったのだろう、観客達の熱が再び勢いを増していく。疑問符を並べているのは、にじいろ団の面々ばかりだ。

 

「元、メンバー……?」

「何だ? メイドちゃん達も何も聞いてないのか?」

 

 何も聞かずに先発選手として出して貰いたい。昨夜の藍はその一点張りだったが、一緒に頼み込んできたベルとアンリエールは事情を聞いているものだとクラドは思っていたらしい。

 

「えっと……昨日は話しませんでしたけど、藍さん何か凄く思いつめてたみたいで……その原因が今日の試合にあるっていうのは聞いてましたけど、こんな話までは」

「成程な。姉ちゃんには悪いがちょっと調べさせて貰うか……」

 

 組合の戦力情報はアテにならないが、アイドルチームについての情報なら幾らでも掴める。クラドはDパッドを広げると、簡単に情報を表示して見せた。

 

「あっさり出てきたな……アイドルチーム【N―EVES】。5年前に7人組のジュニアアイドルとして売り出したが、専属マネージャー、及び所属事務所が業界重鎮に対して不正な取引をしていたことが発覚。スキャンダルとして炎上し一時解散となったが、最年長メンバーの湊美麗を除き6人で再結成。地道に活動を続けここ最近で人気が急上昇、地獄から返り咲いたアイドルグループとして復活した……だとさ」

 

 そう言って向けられたクラドのDパッドには、ほとんどベルと同じ位の歳の少女達が7人。煌びやかな衣装に身を包み、笑顔で集合している写真が表示されていた。

 グループの中央で肩を抱き合っている2人の少女の内、片方は対戦相手の黒髪の少女だと分かる。そしてもう1人、今よりも大分幼い顔立ちで髪も短く分かり難いが、比べてみれば確かに藍本人だった。

 

「じゃあ、もしかして藍さんは……」

「彼女達との間に何か確執があった、と考えるのが妥当ですわね」

 

 さらり、とアンリエールが言ってのける。

 職業柄、せっかくほとぼりが冷めた『身元』がバレれば仕事がし難くなる筈だ。それでも尚、あれだけ対面することを恐れながらも。藍は『ステージ』へと向かったのだ。

 

「今更だけどな……良かったのかセンセー、姉ちゃんに先鋒を任せて」

 

 彼女達がスキャンダル炎上という地獄の底から復活した、その理由は見当がつく。

 正体を隠し、予選を通過した彼女達の腕は本物のようだ。世間からの強い風当たりを受けながらもデュエルで力を示し、信頼と人気を勝ち得てきた結果なのだろう。

 恐らく一筋縄ではいかない。そして藍が敗れれば苦しい戦いになる。だがユウは藍の背中をじっと見つめたまま、言い淀むことなく答えた。

 

「……藍の目は本気だった。俺にはとても、彼女の邪魔なんて出来ない」

 

 鳴り止まない熱狂の渦の中、遂に賽は投げられた。

 

『それでは恒例のルーレットタイムといきましょう!! 何が出るかは蟹の味噌汁……いざ、オゾンより下へとダーツを投擲!!』

 

 コーパルが天へ向かって投げたダーツの矢は、やがて推進力を失って重い針を下にして落下を始めた。待ち構えるのはネフで、例にもよって試合方法が描かれた紅白のルーレット板を顔の前に構えている。

 ふらふらと動き回りながらも見事ネフがダーツを受け止めると、試合方法はすぐさま決定した。

 

『決定しました!! 今回は「仮想ライディングデュエル」を行います!!』

 

 おおっ、と沸き上がる会場の隅で、にじいろ団の面々は苦い表情を浮かべる。

 

『本来、ライディングデュエルとはデュエルディスクの発展系であるバイク型ディスク「Dホイール」と、専用魔法《Sp(スピードスペル)》を用いて戦う競技形態でありますが、参加者全員にコレを用意しろというのは到底無理な話。ですので、今大会では少しばかりルールを変更致します』

 

 ネフが指を鳴らすと同時、大モニターへ解説図が表示される。

 

『Dホイールは半実体AR技術を応用した仮想のモノを使用して頂き、《Sp》に関しては後ほど説明させて頂きます《スピードカウンター》のルールのみを残し、通常通りの魔法カードを使用可としています』

『ですので、ライディングデュエル中は書き換え不可能の特殊フィールド魔法《スピード・ワールド3》が発動しているものとします! 各プレイヤーの皆さんが発動したフィールド魔法は通常通り効果を適用されますが、コチラの効果が消えたりすることがない、というのはアクションフィールドと同じですね~。効果は以下の通りですよ!』

 

 

《スピード・ワールド3》フィールド魔法

お互いのプレイヤーはお互いのスタンバイフェイズ時に1度、自分用のスピードカウンターをこのカードの上に1つ置く。(お互い12個まで)

お互いのプレイヤーは手札・フィールドから魔法カードを発動した場合、スピードカウンターを1つ取り除く。取り除かない場合、そのカードの発動を無効にし破壊する。

また自分用のスピードカウンターを取り除く事で、以下の効果を発動する。

●4個:自分の手札の魔法カードの枚数×800ポイントのダメージを相手のライフに与える。

●7個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。

●10個:フィールド上に存在するカードを1枚破壊する。

 

 

「これって、魔法カードが凄く使いづらいんじゃ……」 

「よく気が付きましたわね。その通りですわ」

 

 ベルの疑問に何故か不貞腐れたように答えたアンリエールは、それっきり腕を組んで黙ってしまった。藍にとって不利なルールが適用されたことに、行き場の無い苛立ちが積もっているのだろう。

 

(藍さんは儀式『魔法』を何度も使って戦うデッキ……これじゃあ……)

 

 ベルの不安をよそに、デュエル開始への時は刻々と迫る。

 

『ご確認頂けましたか~? それでは、フィールド魔法《スピード・ワールド3》セット!!』

 

 コーパルがディスクのフィールドゾーンへカードを挿し込むと、粒子に包まれ景色が一変していく。

 出現したのは楕円のサーキットコース。コースのサイドには、緩やかなカーブを描く大きなガードレールが設けられていた。客席からの視界を遮らないよう透明に作られたソレの上ですら、本来のライディングデュエルであれば縦横無尽に走り抜けるのだ。

 

『――DUEL・MODE ON……AUTOPILOT・STANDBY――』

 

 機械音声が響くと共に、2人のコスチュームも煌びやかな衣装やドレスから一転。くっきりとボディラインが形作られるライダースーツへとARによって書き換えられた。

 同時に白と青を基調としたDホイールも出現。パトライトや他のオプションパーツは取り外されているものの、セキュリティの白バイ隊員に支給されているものとほぼ同型のものだ。本来のガッシリとした厳格なシルエットも、今は心なしかスマートに見える。

 

『それでは両選手、Dホイールに搭乗して位置について下さい』

 

 ヘルメットのバイザーを下ろし、Dホイールに跨る2人の美女。恵まれた体型故か中々様になっている。

 バイクの操縦が慣れない彼女達でも、オートパイロットのおかげでハンドルさえ握れれば何の苦もなくコースレーンの定位置へと着く事が出来た。

 

『それでは参りましょう!! 【にじいろ団】藍湊峰選手、改め湊美麗選手VS【ミステリアス】改め【N―EVES】センターの蓮莉帆(レン・リーファン)選手!!』

 

 Dホイールに取り付けられたディスクへとデッキをセットする。

 オートシャッフルが起動し、運命を分ける最初の手札が選定された。

 

「……正直ほっとしてますよね、先輩? 自分に不利なルールで。負けても言い訳が出来ますもんね」

 

 不意に、黒髪の少女……蓮がそんな言葉を投げかけた。

 しかし藍が返す言葉は無く、ただスタートまでのシグナルがカウントを告げる。

 

「でも、私は逃がしませんよ。言い訳なんて出来ないように……徹底的に潰してあげます」

 

 もうすぐにDホイールが唸りをあげる。

 その刹那、コーパルが待ちかねたようにアナウンスを挟んだ。

 

『それでは皆さんご一緒に!!』

「『ライディングデュエル・アクセラレーション!!』」

 

 観客達をも巻き込んだアナウンスが終わると共に、シグナルはオールグリーンへ。

 様々な思惑を乗せて、2台のDホイールがスタートラインを飛び出した。

 

【藍】LP4000 VS 【蓮】LP4000

 

 

   **

 

 

『さてさて、ライディングデュエルでは先攻・後攻の決定をいつものダイスロールではなく、第1コーナーを先に制した方が先攻を取るという形式になっております! 一体どちらが先攻を頂戴するのかー!? 』

 

 オートパイロットといえども、それはあくまで事故防止のための精密なバランサーが動いているだけに過ぎず、ある程度の速度調整や進路変更は可能である。

 その為、本物のバイクレースさながらの熱いデットヒートが行われる訳だ。

 

「……ふっ」

 

 甲高いエンジン音を鳴らし、蓮が駆るDホイールが鋭角にコーナーを攻める。対する藍はそんな彼女の動きを見るや「お先にどうぞ」とでも言わんばかりに速度を緩めると、あっさりと先攻を譲った。

 ある意味、この最初の攻防がライディングデュエルの醍醐味であるが故に、客席からはガッカリとした嘆息が漏れる。

 

「張り合いが無いですね先輩? ガッカリです」

 

【蓮】LP4000 SC:1

 

 あっさりと決定した『先攻』の文字をつまらなそうに見つめながら、蓮はスピードカウンターが1つ溜ったことを確認すると、初期手札の中からカードを選び出し、しなやかな指先を操ってディスクへとセットした。

 

「私は魔法・罠ゾーンにカードを1枚セットして、ターンエンドです」

 

 モンスターも無く、ただ1枚のみのカードセット。

 あまりにも頼りないその布陣。しかし彼女の持つ実力がそんな常識を惑わせる。

 

「先輩? どうぞ?」

 

 クスリ、と妖艶に微笑んで、蓮はターンを促した。

 

「……私のターン。ドロー」

 

【藍】LP4000 SC:1

 

 沈黙し、しばらく考えた後。藍は1枚のカードを場に出した。

 驚きの声が漏れたのは、果たしてどこからだったのだろう。

 

「スピードカウンターを1つ使い、永続魔法《天変地異》を発動。このカードが存在する限り、お互いにデッキは『裏返し』にしてデュエルを進行する」

 

 途端、ディスクにセットされていた両者のデッキが裏向き……つまり、カードの表が見えるよう自動的にセットされた。

 ルールに介入する特殊なカード。相手のデッキトップが常に確認できるという『情報アドバンテージ』は稼げるものの、それは相手にとっても同じ条件だ。

 

「更に私は、手札からモンスターを召喚」

 

 少なくとも、そのカードだけでは。

 

「《リチュア・ディバイナー》を、攻撃表示」

 

《リチュア・ディバイナー》

☆3/水属性/海竜族・効果/ATK 1200/DEF 800

 

 出現したのは、赤い鱗に覆われた海竜の占術師。

 強力なステータスこそ持たないものの、彼の真価は別にある。

 

「ディバイナーの効果を発動。1ターンに1度カード名を1つ宣言し、自分のデッキトップのカードをめくり、それが宣言したカードなら手札に加える。私が宣言するのは……」

 

 一度言葉を切って、藍がちらりとデッキトップへ目を落とした。

 本来であればデッキトップのカードは確認することの出来ない未知の領域。いわばギャンブルとも呼べるディバイナーの効果だが……今はその『未知』を、誰もが確認できる。

 

「モンスターカード《イビリチュア・ソウルオーガ》」

 

 成功が約束された『確認』を経て、藍の手札にカードが加わる。

 不利な条件の中、莫大なハンドアドバンテージを稼ぐこのコンボに、思わずクラドが声を上げた。

 

「よしいいぞ! これなら儀式モンスターの展開に制限があっても、ハンドアドで相手に差を広げられる!」

「凄い……藍さん、こんな戦法まで!」

 

 以前に見せたような展開こそ不可能なものの、1ターンに実質2枚のカードをドロー出来る現状を維持できれば、最終的な物量は相手を上回る。

 

「……バトル。ディバイナーでプレイヤーにダイレクトアタック」

 

 肉薄する占術師。しかしその微弱な攻撃は、1枚のカードに阻まれた。

 

「ふふっ……私はここで、リバースカードを発動させます!」

 

 全て思惑通りと言わんばかりの微笑を浮かべ、蓮がカードを発動させた。

 攻撃反応型の罠だったか、と思われたその矢先。明らかとなったそのカードにクラド達は思わず息を呑んだ。

 

「罠カード《アビスフィアー》……デッキから「水精鱗(マーメイル)」モンスター1体を特殊召喚します! 来て、《水精鱗―アビスリンデ》!」

 

《水精鱗―アビスリンデ》

☆3/水属性/海竜族・効果/ATK 1500/DEF 1200

 

 出現したのは、深青の長髪をなびかせる麗しき人魚(マーメイド)

 ディバイナーの攻撃力を僅かに上回った彼女が、くるりと宙を舞いながら主を守るように行く手を阻んだ。

 

「くそ……【水精鱗】か。(アトランタ)は水属性使いが多いって聞くが、こりゃ厄介な相手だぜ」

 

 そうぼやくクラドの前の席で、アンリエールがパタパタと足を鳴らし始める。

 2人の苦い表情を見たベルは思わずユウの表情も窺ったが、彼の顔にはいつも通りのポーカーフェイスが浮かんでいた。

 

「……攻撃はストップ。メイン2にカードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

 攻撃こそ阻まれたが、藍のバックには強固な3枚のカードが伏せられた。

 手札の状況はこれからほぼ筒抜けの状態となってしまうが、この3枚は相手も知り得ない。つまり強力な抑止力となる。だが、ここで蓮が待ち侘びたように宣言を挟んだ。

 

「このエンドフェイズ。アビスフィアーの効果によってこのカード自身を破壊し、それによってこのカードの効果によって特殊召喚したモンスター……アビスリンデを破壊します!」

 

 急な特殊召喚への代償なのか、アビスリンデが巨大な水泡に閉じ込められる。

 水泡は断末魔の悲鳴を遮断し、必死の形相を浮かべながら墓地へと沈んでいく人魚の姿に、会場から僅かばかりの悲鳴が漏れた。

 

「人魚の唄は、地獄の底からだって届く……アビスリンデが破壊され墓地へ送られた場合、デッキから「水精鱗」モンスター1体を特殊召喚できます! 姿を見せて、《水精鱗―メガロアビス》!」

 

《水精鱗―メガロアビス》

☆7/水属性/海竜族・効果/ATK 2400/DEF 1900

 

 同胞の悲鳴に応え、現れたのは真紅の鱗を輝かせる巨大な鮫の半魚人。

 手にした無骨な大剣を振るい、後方を走る藍へと威嚇の咆哮を上げた。

 

「たった1枚のカードで攻撃を防いで、最上級モンスターまで召喚するなんて……!」

 

 厄介な相手だと評したクラドの言葉が、現実となって降りかかる。

 戦慄のあまり、ベルは知らずの内にぎゅっと両手で拳を作っていた。

 ふと周りを見れば、クラドとアンリエールもその表情を凍てつかせている。しかし2人の視線は、藍の背中を憂うベルのモノとは違っていた。

 まるで絶望の未来を、覗き見たかのような。

 

「ふふっ。私のターン、ですね……?」

 

 蓮がデッキトップへと手を掛ける。

 天変地異によって明らかとなった『真実』は、

 

「私は――《水精鱗―メガロアビス》を、ドローです」

 

【蓮】LP4000 SC:2

 

 最も残酷な形で、使用者である藍へと牙を剥いた。









ベル「次回は今週水曜21日に投稿予定です!」
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