遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス) 作:kohatuka
『さてさて、続きましては第2試合! タッグデュエルはハーフライフルール、早速参りましょう~!』
衝撃的な幕開けとなった第一試合だったが、彼女達【N―EVES】を支援するスポンサーの意向もあるのだろう、試合は辛うじて続行となった。
コートの上に上がってきたのは、蓮よりも少し歳下に見える童顔の少女が2人だ。
「湊先輩のことはビックリしたけど」
「私たちだって決闘者です!」
「「最後までお付き合い、よろしくお願いします!」」
礼儀正しく頭を下げる少女達。栗色のふんわりとした髪と、活発そうな黒髪のポニーテールが元気良く揺れる。元々息もピッタリな組み合わせらしく、藍もタッグでは彼女達が出てくるだろうと予想していた程だ。
そんな彼女達を向かい打つは、恐らく【にじいろ団】が放てる最強のタッグ。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
ポーカーフェイスの貴公子と、ラムジョレーンの幽霊姫。
戦術的な相性はともかく、実力だけを見れば露骨に『決めに来た』組み合わせ……なのだが。
「…………フン」
憧れのユウとのタッグだというのに、当のアンリエールはどこか苛立たしげに対戦相手の少女達を睨みつけている。普段の優雅な振る舞いはどこへやら、滲み出る敵意を隠そうともしていない。
パタパタと落ち着き無く打ち鳴らされる幽霊姫の足音と鋭い視線に、アイドルチームの2人はすっかり怯えている。
コーパルもそんな剣幕にたじろぎつつ、さっと腕を上げデュエルの開始を告げた。
『そ、それでは第2試合、タッグデュエル開始ぃ!』
「「
【ユウ&アンリエール】LP8000 VS 【チームN―EVES】LP8000
ダイスロールの結果、先攻を取ったのは【チームN―EVES】。
デュエルとなれば奮い立つ何かがあるのか、キッと表情を締めなおして栗色髪の少女がカードを操る。
「行きます! まずは《水精鱗―アビスパイク》を攻撃表示で召喚! 効果で水属性モンスター《キラー・スネーク》を墓地へ送って、《海皇の狙撃兵》を手札に加えます!」
《水精鱗―アビスパイク》
☆4/水属性/海竜族・効果/ATK 1600/DEF 800
「カードを1枚伏せて、ターンエンドです!」
やはりと言うべきか、彼女達のデッキは全て【海皇水精鱗】で統一されているようだ。
第1試合と同じく出現した人魚の兵士を見据え、ユウは小さく呟いた。
「……やはりか。気をつけろアンリ、アレは恐らく――」
アイドルとしての活動がある傍ら、デュエルに割ける時間が少ない彼女達の事情を考えれば頷ける戦法だ。水属性モンスターのカードは
加えて、タッグ戦となればその力は驚異的だろう。複雑な戦略も息を合わせることも必要とせず、パートナー共々普段のシングル戦と同じように戦うことが出来る。弱点と言えば、デッキの弱点がそのままチーム全体に適用されてしまうことだろうか。
「ユウ様の御手を煩わせる必要はございませんわ」
そんなユウの警戒にも耳を貸すことなく、ざっと足を踏み出して勇ましき幽霊姫が前へ出た。前髪に隠れた目元がゆらり……と妖しい光を放つ。
「あの女共は、私1人で片付けます故」
「……アンリ?」
「地獄だか何だが知りませんが……藍を苦しめた罪の十字は重いですわよ!! この場で四肢を縛って、海の底へと放り返して差し上げますわ!!」
ドスの利いた声に圧倒され、アンリエールより年上の筈であるアイドル2人はひいっと声を漏らした。女の身といえど、やはり由緒正しき決闘組の血筋。拳を作って吼えるその形相は紛う事無い『本物』だ。
「あ、アンリちゃ~ん……お手柔らかにお願いね……?」
「おー、怖いねぇ。敵にしても味方にしても『女の友情』っていうのは」
「あはは……」
ベンチに戻っていた藍がたまらずフォローを入れるが、果たして耳に届いたのかどうか。
苦笑を浮かべたベルの隣では、クラドが楽しそうに笑っていた。
「私のターン、ドロー!! まずは手札から速攻魔法《手札断札》を発動!! 互いに手札を2枚捨てて2枚のカードをドローします!! 何をぼやっとしてますの、さっさと処理なさい!!」
「ひぃ!? え、えっとじゃあこの2枚を捨てますっ……」
「手札から《クレーンクレーン》を通常召喚し、効果発動!! 効果を無効にして墓地から☆3の《ゴーストリック・グール》を特殊召喚、それに対し速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動!! デッキから残り2体のグールを攻撃表示で特殊召喚します!!
《クレーンクレーン》
☆3/地属性/鳥獣族・効果/ATK 300/DEF 900
《ゴーストリック・グール》
☆3/闇属性/アンデット族・効果/ATK 1100/DEF 1200
ホラー映画よろしく、地面から湧き出し一気に並び立つグール達。
内1体はクレーンの鶴に吊り上げられた状態で、何とも迫力に欠けていたが。
「……貴女も!! さっさとアビスパイクを特殊召喚なさい!!」
「は、はいいっ!?」
対するアビスパイクも負けじと並び立つものの、彼女のデッキには2枚までしか投入されていないのか、フィールドに現れたのも2体までとなった。
「私は効果が無効となったグールとクレーンクレーンでオーバーレイ!! 2体の☆3モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」
アンリエールの気迫に押されたのはARも同じなのか、エクシーズ召喚のエフェクトも僅かばかり駆け足気味だ。
「奇怪なる館の主よ、漆黒を翻し騒乱の夜を収めなさい!! ★3、《ゴーストリック・アルカード》!!」
《ゴーストリック・アルカード》
★3/闇属性/アンデット族・エクシーズ・効果/ATK 1800/DEF 1600
弾け飛ぶ光の粒子を呼び水に、悪戯好き共を束ねる館の主がマントで口元を覆いながら参上した。自らの役目を分かっているのか、彼の動きはすぐさまアンリエールの命に反応する。
「アルカードの効果を発動!! ORUを使い、その伏せカードを破壊します!!」
「ち、チェーンして罠カード《アビスフィアー》を発動! このカードで私は……」
「どうせアビスリンデでございましょう!? さっさとなさい!!」
「ひっ!? う、ううぅ……」
正真正銘の『お嬢』モードとなったアンリエールの前に、か弱き歌姫は遂に泣き出してしまった。震える指先でようやくディスクへセットされたカードは、やはり無難に守備表示のアビスリンデであった。
隣に立つユウでさえ、アンリエールの剣幕に真顔のまま若干引いている。
《水精鱗―アビスリンデ》
☆3/水属性/海竜族・効果/ATK 1500/DEF 1200
「遅いッ!! そんなカード捌きでは日が暮れますわ!! 私は更にアルカードでオーバーレイ・ネットワークを再構築、エクシーズチェンジ!! ★4、《ゴーストリックの駄天使》!!」
《ゴーストリックの駄天使》
★4/闇属性/天使族・エクシーズ・効果/ATK 2000/DEF 2500
アルカードと入れ替わりに登場したのは、桃色の髪をなびかせる可愛らしい少女型のモンスターだ。
はぁい、と手をひらひらと振る駄天使だったが――凍りつく観客席と泣きじゃくる相手プレイヤー、そして鬼のような形相の使い手を見て「どったの?」という困惑の表情を浮かべていた。
「効果発動!!」
あまりの剣幕にびくっと肩を震わせて駄天使がまっすぐに背筋を伸ばすと、すぐさま自らのORUを口へと放り込み、頭を低く下げてカードを1枚差し出した。
家臣からカードをひったくると、姫君は不機嫌そうにディスクへと叩き付ける。
「フィールド魔法《ゴーストリック・ハウス》を手札に加えそのまま発動、更に駄天使でオーバーレイ・ネットワークを再構築!!」
この召喚方法に該当するカードは1枚。
その正体を知るクラドからぎょっとした声が飛んだ。
「なっ!? おいおい、いいのかよお嬢!?」
「そこの芋メイドが既にヴァルキュリアを晒した以上、出し惜しむ必要などありませんわ!!」
「ははは……はぁ」
クラドの制止も、ベルの溜め息もなんのその。召喚はもう止まらない。
出番はコレだけ? と言わんばかりの不満そうな顔のまま、駄天使は渋々と光の渦の中へと身を投げた。
「法嗤う無限面相、混乱の夜を駆け真の身を明かしなさい!! エクシーズチェンジ、★4《
《―**―怪黒兎》
★4/闇属性/獣族・エクシーズ・効果/ATK 2100/DEF 1000
紳士的に一礼をして見せる、漆黒のタキシードを着こなした細身の兎怪人。
公の場では、などと涼しい顔で語っていたのが嘘の様に、ソレはあっさりと姿を現した。
『こ、これは盛り上がってきました!! 謎のレアカード《アスタリスクス》が――』
「効果発動!!」
『あぅ……』
コーパルの実況すらも遮って、幽霊姫の怒涛のターンは続く。
「このカードのエクシーズ召喚成功時に存在する自身のORUの数まで、フィールド上のモンスターを裏側守備表示に致します!! ORUは3つ、よって選択するのは貴女のフィールド全てのモンスターですわ!!」
「そ、そんなぁ……」
心地よい夜の闇に誘われ、3体の水精鱗達が裏側守備表示となった。
「更にファントムの効果で、ORUとなっているモンスター1体を指定し、そのカードと同名カードとして扱い、同じ効果を得ますわ! 私が指定するのは《ゴーストリックの駄天使》!!」
ファントムがシルクハットでORUを1つ掬い取り、そのまま元通り目深に被り直す。
するとその姿が闇に溶け、再び現れたときにはペロリと舌を出して笑う駄天使の少女の姿があった。
「2体のゴーストリック・グールの効果!! 自分フィールドの「ゴーストリック」モンスター1体を対象として発動、そのモンスターの攻撃力を次の相手ターンの終了時までフィールドの「ゴーストリック」モンスターの元々の攻撃力を合計した数値にしますわ!! 選択するのは《ゴーストリックの駄天使》となったファントム!! よってその攻撃力は――」
《―**―怪黒兎》(ゴーストリックの駄天使)
ATK 2100→6400→10700
「「こっ、攻撃力いちまん……ッ!?」」
怯えた2人の少女が互いに抱き合いながら、美しい悲鳴を重ねる。
彼女達の眼前にはズモモモ、と見上げるまでに巨大化した駄天使の嫌らしい笑顔があった。
「ゴーストリック・ハウスの効果で!! ダイレクトアタックですわ!!」
降り注ぐ
ライフが一気に削られる音が空しく木霊し、ARが解除された後には――きゅうと目を回してのびている、2人のアイドルの姿があった。
【チームN―EVES】LP8000→0
「フンッ!!」
腕を組み、鼻息を鳴らすアンリエールだけがこの場で唯一勝利の余韻に浸っていた。
**
「残念ですけど、私たちの負けのようです」
度重なる衝撃に凍り付いていた会場も【N―EVES】達のパフォーマンスによって何とか空気も解れたらしく、両者の健闘を称えて温かな拍手を送っている。
ありがとうございました、と両チーム共に頭を下げたところで、ふと蓮が何かを思い出したように藍へ視線を向けた。
「……そうだ、先輩。折角ですから教えておきます。幽霊姫さんが使ってた見慣れないカードのことで1つ」
「えっと……《アスタリスクス》のこと?」
藍の確認に蓮がこくりと頷くと、他の4人も蓮の言葉に注目を寄せた。
「少し前のことですけど、青の方で
「紅の人間が、《アスタリスクス》を……?」
口元に手を当て、藍が思考を巡らせる。
海の底にある大陸、
元々、紅の大陸は閉鎖的な面が強く、他の大陸からも険悪なイメージが抱かれることが多かった。根拠の無い『悪口』が囁かれることは青でも日常茶飯事なのだが。
(……何か、裏がありそうね)
紅の大陸と言っても、そこに所属する国だって様々。ひとくくりにするにはあまりにも大き過ぎるが、それでも『一部の人間』がアスタリスクスを狙っているということは確かな筈だ。少なくとも、火の無い所に煙は立たない。
「見たところ先輩の旅団には2枚、そのカードがあるみたいですし。噂は噂ですが、用心するにこしたことはないと思います」
「そう……情報ありがとう、助かったわ」
「いえ。その代わり気が向いたらでいいですから、コッチにもたまには『帰って来て』下さいね?」
微笑んで差し出された手を藍が握り返し、準々決勝は円満に幕を閉じた。
**
「それにしても以外というか、見た目通りだったというか……」
夢から醒めたようなふわふわとした気持ちで、ベルは選手用の通用口を歩いていた。気疲れした様子のメンバーに飲み物でもと選手用の配給場へと向かっている途中である。
先程の『噂』を気にしてか、藍は「単独行動は避けた方が」と気に掛けていたが、待合ロビーから往復でも数分と掛からない距離だ。ベルは大丈夫だと手を振って出てきたのだが。
「えーっ!? 1人ひとつまで何て聞いてないよ!?」
廊下の先、曲がり角の向こうから聞こえてきたのは、どこか聞き覚えのある少女の声。
どこまでも無邪気で、しかし子供のソレとも違う。
(……この、声――!!)
跳ね上がりそうになった心臓を押さえながら、ベルは壁に背を当ててゆっくりと角の向こうを覗き見た。
「おかわり禁止、なんてルールブックには書いてなかったし!!」
「規則に無くても『おかわり』なんぞ認められるか!!」
ベルの視界に収まったのは、スポーツドリンクの空容器を片手にスタッフへ抗議する白髪の少女――ヒヨリの姿だった。
「いーじゃんケチ!! 嘘つきぃ!!」
「嘘つきって……お前には常識ってもんが無いのか!?」
ブーブーと頬を膨らまして抗議するヒヨリに、スタッフもたじたじで応戦している。
幸いベルに気付いていないらしく、しばらくよく分からない押し問答が続けられていた。
すぐにでも駆け寄って、彼女を問い詰めたい。
だがそんなベル以上に、彼女に会って話したい人がいるのだ。
(……今の内に、ユウさん達を)
衝動をぐっと堪えて、クラドから渡されていた携帯端末を取り出す。
数回プッシュすれば各メンバーのDパッドへと繋がる、時代遅れのジャンク品ではあるがベルの身としては十分な代物だ。
(早く――)
早く伝えないと。そう焦るベルの手を何かが遮った。
(――え?)
ディスクに巻きつく赤い鎖。
どこかで見たソレに戦慄を覚える間もなく、ベルのディスクが展開する。
それと同時に陶器のような白い指先が、しっかりとベルの腕を掴んでいた。
「……失礼」
端末操作を妨害する、そんな意思をはっきりと示した腕の主は――。
**
「……バトル。《サイバー・ドラゴン》と《フォトン・クラッシャー》でダイレクトアタック」
機械龍が放つ雷のブレスと、光子の戦士が振るう金棒の一撃。
幼い双子の操るモンスター達の攻撃は、相手のライフを見事に刈り取った。
これで謎多きチーム【ドミノ】も準々決勝を通過したことになるが、依然として彼らの使うカードは見慣れないものが多く、ユウの表情も険しくなるばかりだ。
『決まったぁ!! これで準決勝進出は――』
モニターの中には、声援に応えるユーギの姿が映し出されている。昨夜はどう姿をくらましていたのか、そして今日はどうするつもりなのだろうか。
今大会のダークホースである彼らとは、このまま順調に勝ち進んでいけばブロックのトップ同士で行われる決勝戦で当たることになるだろう。だが――。
「分かんねぇな。どれが『白面』のお仲間なのか」
待合ロビーのモニターを見上げ、クラドが忌々しげに呟く。
ヒヨリの姿は勿論、これまでの試合で特に怪しげな人物は見当たらないからだ。当然と言えば当然なのかもしれないが、そこまで存在を隠す理由が分からない。
「大会に登録した選手のデータは、補欠も含めて流石に大会の方でも流出してないみたいだし……どこか別の旅団へ『助っ人』として参加しているのかもしれないわね」
藍が1つの仮説を切り出す。
少なくとも、こちらが『白面』を追っていることは向こうも知らない筈だ。姿を隠す必要があるとするなら自身がどこかの旅団の『隠し玉』として控えているから、ではないだろか。
「助っ人か……それなら確かに参加旅団の名簿を漁っても引っ掛からねぇし、出場しても組合に登録してる『正式な旅団』だから弾かれる心配もねぇな」
随分と回りくどいやり方ではあるが、それならば確かに姿を消して大会に参加できる。
そうまでして姿を隠す『白面』と、伝説の名を語る男。この大会に渦巻く『何か』に、メンバーの間にも不穏な空気が流れる。
「つーことは結局、俺らはこのまま大会を勝ち進めて、白面の奴を引きずり出すしか方法は無い訳だ。単純明快で結構なコトだが、どうもなー……」
誰かの掌で転がされている様で、どうにも落ち着かない。
4人の思考がそう重なったところで、アンリエールがふと気が付いたように声を上げた。
「そういえば。あの芋メイドはどこをほっつき歩いてますの?」
「ああ、メイドちゃんなら飲み物貰って来るってさっき……」
ここから配給場までは、往復しても10分と掛からない距離だ。
それにしてはどうにも遅過ぎる。
「……私、ちょっと様子を見てくるわ」
蓮に受けた注告が藍の脳裏を過ぎる。
ベルとて《アスタリスクス》の所持者、やはり1人にするべきではなかったのか。
そんな焦燥を浮かべる藍をクラドが腕を掴んで制止した。
「待った、まずメイドちゃんの連絡端末に付けた発信機があるから、そいつで居場所を探ってみようぜ?」
「まぁ何と、抜かり無いですわねぇ」
流石はチームのブレーン担当。
感心した様子のアンリエールも含め、一同はクラドのDパッドに顔を寄せる。
しかしクラドのDパッドに表示された発信反応は――ただ一言、『LOST』の文字だけがあった。
「……マジかよ」
「た、単に壊れただけじゃありませんの?」
「ならいいんだが……この場合は『壊された』って考える方が自然っぽい、よな」
クラドの言葉を聞くや否や、藍はすぐさま弾かれた様に飛び出してしまった。
自分の責任と感じてしまったのだろう、しかしユウは冷静に判断を下した。
「……手分けをして探そう。各自何か手がかりを掴んだら全員に連絡を。アンリ、お前は俺と一緒に来い。狙いが《アスタリスクス》ならお前の身も危ない」
「わ、わかりましたわ……!」
「俺はとりあえず大会運営の方に行ってくる、迷子の放送でも流して貰えれば御の字だしな」
言うが早いか、ユウとアンリエール、クラドが一斉に駆け出した。
何かアテがあるわけでも無い。
それでも『手遅れ』になってはならないのだ、絶対に。
『さてさて~、続きましては――……』
モニターの向こうで、コーパルが次々と試合を仕切っていく。
にじいろ団が迎える準決勝開始のゴングは、刻一刻と迫っていた。
**
「……う」
ぼんやりと視界が開ける。
全身に意識が巡っていくような感覚の後、腹部に鈍い痛みを感じてベルは苦痛に顔を歪めた。
「っ痛……!?」
「目が覚めましたか」
ひょこ、とベルの視界に入り込んできたのは――藍や【N-EVES】の面々とも少し違う、凛とした顔立ちの黒髪の女だった。
ストレートの前髪は眉の辺りで切り揃えられ、綺麗な髪ではあるのだが全体的にざっくりとした印象が強い。無頓着、とでも言えばいいのか。
つり上がった目の端はキツイ印象が強いが、表情はユウにも引けを取らない無味無臭で、ベルを覗き込むその顔からは何の感情も窺えない。
「ここは……?」
少し身じろぎして分かったが、当然のように身体の自由はきかない。
鎖のようなもので身体を縛られているらしく、芋虫状態で地面に放られているようだ。
「ここは私たちが根城にしている場所です。会場からもそう離れてはいません」
ベルの質問に女は懇切丁寧に答えたが、具体的な場所はしっかりと伏せている。
ふと周りを見れば、確かに薄暗くて埃臭く、何に使うのかも分からない様々な機材が捨て置かれていた。
「すいませんが貴女の所持していたデュエルディスク、並びに連絡端末は破棄させて貰いました。危害を加えたことについては謝罪します」
そうだ、とベルはようやく記憶の整理がついた。
ヒヨリの姿を見つけたあの時、ディスクを強制的に起動させられた――つまり半実体ARの『防衛機能』が働かないその一瞬をついて、この女は強力な膝蹴りを叩き込んで見せたのだ。気を失うよう的確に。
か細い見かけに反して、こういった荒事には随分と慣れているようだ。
「一体、わたしに何を……?」
「随分とアバウトな質問ですね。私もそれでは答えかねますが、ここまで貴女を連れ去ってきた理由は1つです」
ベルの目の前に、橙色のDパッドが放り投げられる。
カラカラと回って地面を滑ったソレは、ベルの鼻先に当たるとピタリと動きを止めた。
「私とアンティデュエルを。貴女には《アスタリスクス》を賭けて頂きます」
黒髪の女は、ただ冷ややかにそう告げた。