遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第28話 立ち籠める闇

 

「っ……!?」

 

 ジャラジャラ、と鎖が音を立てて巻き上げられる。

 女は首輪に付けられたソレを引っ張るようにしてベルを無理矢理に立たせると、身体を簀巻きにしていた鎖だけを解いた。四肢には未だ柱へと伸びる鎖が繋がれているが、ある程度の自由は効くようだ。それこそ、デュエルをするのに十分な位には。

 

「げほっ、げほっ……!?」

 

 こみ上げてくるものを堪えきれずに、思わず咳き込む。

 溜りに溜った恨みの視線を黒髪の女へと向けてみるも、当の本人は平然とした顔で流して見せた。

 

「……随分、乱暴です、ね」

「教養が無いもので。おもてなしという文化には疎いのです」

 

 言いながら女はディスクを取り出すと、手馴れた様子で腕に装着した。

 真紅の外装に独特のフォルム。どこかで見たような気もするが、身体中の痛みに流されベルの思考はすぐさますり替わっていく。

 渡してきたのは最新型のDパッド、しかし相手は旧型のディスクを使用するという違和感だ。どうしてそんなことを……と考え始めれば、疑いへと向かうのは必然だ。

 

「? ああ、Dパッドに細工がしてあるかも、という顔をしてますね。疑うようなら私のディスクと換えても構いませんよ? 尤も……私がアナタのそんな行動を読んで、そっちのディスクの方に仕掛けをした、という可能性もありますが」

 

 そう言って女は付けたばかりのディスクを外すと、ベルの方へ放って投げた。

 人の器を測るような言葉と視線。じっと見据える無感情な吊り目が、心の底を見透かしてくるようで気味が悪い。

 ベルは真紅のディスクを手に取ってしばらく考え込むと――そのまま女へ投げて返した。

 

「……疑ってもキリが無いですから。わたしはわたしと、カード達だけを信じます」

「成程、良い回答です。貴女は教養がありますね」

 

 互いにディスクを装着し、起動する。

 最新型とあって少し戸惑ったが、デュエルモードへ変形させてしまえばあとはいつも通りだ。

 

(このデュエルに勝っても、無事に帰してくれるって保障は無いけど……)

 

 立会人の無いアンティデュエルなど、所詮は口約束。向こうが勝つまで約束は延期、なんてことも有り得る。それでも今は、彼女が決闘者としての筋をだけは重んじる人物であると信じて戦うしか無い。

 その線の様に細い吊り目からは何の感情も窺えないが……女は急に、思い出したように言った。

 

「ああ、忘れていました。そのDパッドに、アナタの持っていた端末の連絡先を登録しておきました。お仲間さんに連絡を取るなら今の内ですよ」

 

 人差し指を立てて語るその台詞はどうにも棒読みで、何らかの意図があるのは明白だ。

 

「……何が狙い何ですか?」

「それは言えません。ですが、別に強要もしません」

 

 のらりくらりと核心は語らない女だが、旅団メンバーに連絡が取れるのは幸いだ。自分の置かれている状況を伝えられるのなら、形振り構ってなどいられない。

 とはいえ相手は慣れない新型機器。どうしたものかとベルが硬直していると、見かねたように溜め息を付いた女が言い足した。

 

「左上のアイコンを指でタッチ……触って、下の方向になぞって下さい。アンテナのアイコンがありますから、それをタッチしたら連絡先もタッチで選んで下さい。そうしたら勝手に繋がります」

 

 言われた通りにしてみると、何のことはなくちゃんと繋がった。

 暫くコール音が流れた後、画面に表示されたのはクラドの顔だった。

 

『なっ……メイドちゃんか!? 今ドコにいるんだ!? 無事か!?』

 

 クラド側には未登録の不審な着信として表示されたのだろう。訝しげな表情から一転、必死の形相で声を上げた。やっぱり、いなくなった自分を探していてくれたのだ。

 ベルも見知った顔を見ることが出来て、僅かながらほっと息が落ちる。

 

「すいません、無事とはチョット言い難いんですけど……何とか大丈夫です。会場近くの工場跡らしいんですけど、具体的な場所までは……」

『分かった!! すぐ皆で探しに行くから、それまで――』

「今、ヴァルキュリアをアンティにしてデュエルをさせられてます」

 

 要点だけを簡単に述べて、ベルは今は見えないもう1人の『使い手』に警鐘を飛ばす。

 本来なら真っ先に彼女へ連絡したかったが、自分の現状のこともある。直接本人へ連絡するよりも、こうした話は頭の切れる『ブレーン』へと伝えた方が良いとの判断だった。

 

『――マジか?』

「はい、多分N―EVESの皆さんが言ってた人達じゃないかと思います。だからアンリさんの周りを警戒してあげて下さい。この人が何者なのかはまだ分かりませんが――」

 

「そういえば。そちらのチーム『も』そろそろ準決勝の時間ではないですか?」

 

 わざと画面の向こうにいるクラドへ聞こえるようにだろう。女が声を大きめにしてそんなことを呟いた。そんな女の言葉をしっかりと聞き取ったクラドの顔が、僅かばかり曇る。

 

『……今の、誘拐犯の声か?』

「はい、でもあの、もうすぐ試合って本当なんですか!?」

『まぁ、な……ただ今の話で何となく察したわ。奴さんも中々汚ぇ真似してくれるじゃねーの』

 

 要するに。

 次の対戦相手が、妨害工作の為に自分を?

 

「まぁ、ひどい言い掛かりですね」

 

 どういった意図があったのかは分からない。だが確かに『そういうコト』をわざと匂わせた女は、クラドの怒りに対しても涼しい顔で受け流してみせた。

 

「……クラドさん。わたしは大丈夫ですから、皆で試合に出て下さい!」

『バカ!! んなコト出来るか、放っておいたら何されるか――』

「わたしたちが失格になる、それがこの人たちの狙いかもしれないんですよ? それにわたし連れ去られる前に見たんです、『白面』の仲間の人を会場で……」

『なっ!? おいそれマジか!?』

 

 ヒヨリがいると分かった以上、敗北は許されない。何としてでも勝ち上がってユウに引き合わせなくてはならない。こんな所で躓いている訳には、いかない。

 

「……はい。だからわたしは大丈夫です! 勝って、ちゃんと皆のところへ帰ります! だからクラドさん……お願いします、試合には必ず出て下さい!」

 

 何より。自分の不注意でユウに、皆に迷惑を掛ける訳にはいかない。

 

「……お願い、します」

『だからって、そんな……』

 

 画面の向こうのクラドは困ったように顔を歪めたが、ベルの真剣な眼差しを受け取ったのだろう、意を決したように表情を引き締めて答えを出した。

 

「……いや、分かった。ひとまず皆と合流して相談する。どうするかはそれから決める。だから――』

 

 何かを言いかけたクラドの言葉は、赤い鎖によって掻き消されて消えた。

 ヒヨリも使っていたデュエルアンカーのようなモノ。デュエルモードは作動しているが、他の機能は全てシャットアウトするようだ。

 

「面会時間は終了です。では参りましょう」

 

 用は済んだとばかりに、女が2台のディスクを強制的にリンクさせる。

 審判員の立会いも無しに起動するデュエルモードといい、やはりヒヨリのときと状況が重なる。

 

「この鎖……あなた、まさか!?」

「ルールは折角ですから、大会と同じものを使いましょう。よろしいですね?」

 

 立ち込めていく不気味な黒い霧。

 ベルが抱く言い知れぬ不安がそのまま形になって現れたソレは、否が応でもその言葉を思い出せずにはいられなかった。

  

「――決闘(デュエル)

 

 無法の決闘。

 その幕は、闇の中で静かに切られたのだった。

 

【ベル】LP4000 VS 【???】LP4000

 

 

   **

 

 

「切られたか……クソッ」

 

 沈黙するDパッドに思わず拳をぶつけそうになって、クラドは行き場の無い憤りを長い嘆息に変えて吐き出した。

 何とか気持ちを落ち着かせて、クラドは他のメンバーへと回線を繋げるべく操作する。

 

(ひとまず、皆に伝えねーとだな……)

 

 今のところは無事なようだが、状況は最悪だ。

 恐らくは次の対戦相手が妨害工作の為にベルを誘拐したのだろう。わざわざアンティデュエルを行い時間を稼ぎ、ベルの方から連絡をさせてコチラを煽り立てているのがその証拠である。

 しかし一概にそうも言い切れない不安もある。藍が気にしていた例の噂だ。

 正直なところ、紅の人間に関してはあまり良い噂を聞かない。自分達の思想を主張するためにテロ紛いの行為をするなど、過激な行動が多いのも事実だ。

 何故《アスタリスクス》を狙っているのかは分からないが、奪われてしまえば『元所持者』がどうなるか……あまり想像したくは無い。

 

「おや? どうしました、慌てた様子で……?」

 

 不意に声を掛けられ、驚いて声のする方へと目を向ける。

 随分と低い位置から声を掛けられたようで、クラドの視線はどんどんと下へ降りていった。

 

「あはは……こんな所から失礼します」

 

 通路の壁に設けられた、金網で蓋をされた四角い穴……恐らくは通気口なのだろうが、しかしどこからどう入ったのか。今大会で最も注目を集めている人物が、ひょっこりと金網の向こうから顔を覗かせていた。

 

「……何やってんだ、アンタ?」

「いやー、こうでもしないとすぐに見つかってしまうもので……人気者というのは思っていたより大変ですね」

 

 伝説の名を語る男は、どこか人事のように笑って見せた。

 

「そんなことよりも……随分と怖い顔をして、何かあったのですか?」

 

 

   **

 

 

「わたしのターン、まずは手札から《トリオンの蟲惑魔》を召喚!!」

 

《トリオンの蟲惑魔》

☆4/地属性/昆虫族/ATK 1600/DEF 1200

 

 真紅の衣を纏った蜻蛉の幼子たる少女型のモンスターが、地中から飛び出して姿を現す。

 その手にはしっかりと1枚のカードが握られている。使い方はもうバッチリだ。

 

(サラさん……力を貸してください!!)

 

 カードを託してくれた麗しき決闘者の顔がベルの脳裏を過ぎる。

 思いを託してくれた彼女の為にも、負ける訳にはいかない。

 

「トリオンの召喚成功時、デッキから《奈落の落とし穴》を手札に加えます!! 更に手札から永続魔法《補給部隊》を発動、カードを1枚伏せてターンエンドです!!」

「……ほう」

 

 何のカードに対してなのか、黒髪の女は口元に手を当てて興味深そうに呟いた。

 補給部隊は、1ターンに1度だけではあるが自分のモンスターが破壊されると1枚のドローを得るという、相手にしてみれば地味ながらも厄介なカードだ。

 その隣にはあからさまな『罠』という、《サイクロン》で狙うにしても二者択一を迫る中々に嫌らしい布陣を敷いたベルであったが――。

 

「……1つ、聞かせて貰っていいですか」

「? 何でしょう」

 

 表情は険しく、じっと女を見据える。

 つい先日に覚えた「デュエルを楽しむ心」はもう、鳴りを潜めていた。

 

「ヴァルキュリアが欲しいだけなら、どうしてこんな回りくどいことをするんですか?」

 

 それこそ、気絶している間にでも抜き取ってしまえばいい。

 審判員機構に咎められるから、というのは愚問だ。彼女達の目を盗んでデュエルすることが出来る妙な手段を抱えておきながら、そんなことを気にする必要は無い筈だ。

 

「やっぱりわたしたちのチームを……妨害する為なんですか?」

 

 ベルの目が一層険しくなる。

 そんな糾弾の視線を真正面から受けて尚、黒髪の女はフムと少し考えるような仕草を見せただけで、さらりと答えて見せた。

 

「否定します。私の目的は《アスタリスクス》の奪取、それ以外にはありません。こうしてデュエルを挑んでいるのも故あってのこと……それ以上は答えるわけにはいきませんね」

 

 その解答がターン開始の代わりと言わんばかりに、女はデッキからカードを引き抜いた。

 

「私のターン、まずは手札から《補給部隊》を発動」

「っ……!?」

 

 自分と同じカードがまるで鏡合わせのように相手のフィールドに立ち上がる。

 その光景にベルが思わず声を上げると、女は不思議そうに首を傾げた。

 

「そう珍しいことでもないでしょう? 優秀なカードはデッキへの採用率も高い、そんなことは教養の無い私だって知っていますよ?」

 

 続けて、と淡白な声で繋げて、女はカードをディスクへとセットしていく。

 

「手札から《炎王獣 バロン》を攻撃表示で召喚」

 

《炎王獣 バロン》

☆4/炎属性/獣戦士族・効果/ATK 1800/DEF 200

 

 地を揺らし、赤肌の獣戦士が鼻息を鳴らしてフィールドへと降り立つ。

 灼熱を纏うその姿が、大会前のあの日を髣髴とさせる。

 

 ――さぁ。楽しいデュエルを、始めよ?

 

 天真爛漫な瞳のその奥に、何か嫌なモノを秘めた白髪の少女と交えた、あの日。

 彼女が付けていたディスクは。

 あの時、デュエルに割り込んで来たのは誰だったか。

 

「……あの時は、我らの巫女(シスター)がお世話になりましたね」

 

 目の前にいる女は。

 

「やっぱりあなたが、白面の……!?」

「そちらでどう呼ばれているかは存じませんが、恐らくは」

 

 こくりと頷いて、女は肯定の意を示した。

 彼女が白面の女だとすれば、次の対戦相手となる旅団には――。

 途切れ途切れだった線が、一本の線になって繋がっていく。

 

「……失礼。罠の発動は宜しいのですか?」

 

 女の声にはっと意識を取り戻し、ベルは慌てて罠の発動させた。

 

「っ、な、《奈落の落とし穴》発動!! バロンを破壊してゲームから除外します!!」

 

 異空へと繋がる裂け目へと落下し、断末魔の叫びを上げる炎王の尖兵。

 その犠牲は、敵陣を焼き尽くす業火へ繋がる小さな種火となる。

 

「補給部隊の効果を発動。カードを1枚ドロー。更に場の「炎王」が破壊されたことにより手札の《炎王獣 ヤクシャ》を特殊召喚します」

 

《炎王獣 ヤクシャ》

☆4/炎属性/獣戦士族・効果/ATK 1800/DEF 200

 

 同胞の死を嘆き、その怒りを咆哮へと変えて棒術を操る牙の戦士が奮い立つ。

 

「バトル。トリオンへ攻撃」

 

 怒りの戦士の一撃はいとも容易く蜻蛉の少女を葬った。

 はじけ飛ぶ火の粉が、実体を伴ってベルへと降りかかる。

 

「ッ……!?」

 

【ベル】LP4000→3800

 

 服を、頬を焦がすその熱量はまさしく現実のものだった。

 背筋を濡らすような不気味な感覚はヒヨリと戦ったときと同じ――。

 

「闇の、ゲーム……!?」

「おや、ご存知でしたか。巫女とのデュエルではダメージを負っていなかった筈ですが……いかにも、我々とのデュエルは単なる遊戯ではありません。受ける痛みは現実に、命(ライフ)を失うことは文字通りの『死』を伴います」

「死……って、それじゃあ、行方不明の人たちはどうしたんですか……!?」

「そこまで調べていたのですか。流石は教養ある方、関心です」

「答えてください!!」

 

 精一杯声を張り上げるも、ベルの足は立っているのがやっと、というまでに震えていた。

 闇のゲームの犠牲者が辿ったその末路は?

 カードの中に閉じ込められるだけではなかったのか?

 

「その質問には答えかねます。さぁ、デュエルを続けましょう」

 

 知りたいのならこのデュエルに勝てばいい。そう言わんばかりに女がプレイを促す。

 命まで掛かったこのデュエル、タイムアップで敗北などあってはならない。

 

「……トリオンが破壊されたことで、わたしは、補給部隊でカードを1枚……ドローします」

 

 震える指先でカードを引き抜く。

 勝って皆の所へ帰るんだ。そう自分に言い聞かせて、ベルは恐怖で燃え尽きそうな心を何とか奮い立たせる。

 

「では、私はカードを2枚伏せてターンエンドです」

 

 

   **

 

 

「そんな……」

 

 待合ロビーに集まったメンバーは、それぞれ暗い面持ちでクラドの話を聞いていた。

 一番ショックを受けていたのは、やはり藍だった。

 

「私がもっと強く止めてれば……付いていてあげてたら」

 

 蓮からも忠告を受けていたにも関わらず、無警戒にもたった一人で行かせてしまった。

 そんな自分に対する怒りが、か細い指先を丸めた拳を震わせる。

 ベルのことだ、きっと気疲れをした自分達の為にと飲み物を取りに行ったのだろう。そう思えば尚更のことだった。

 

「藍、たらればは無しですわ。ここにいる全員にその責任はありますのよ」

「お嬢の言う通りだぜ姉ちゃん。大会スタッフの人がセキュリティに連絡してくれたし……何でか知らねぇがユーギ=ムトウのチームも手分けして街を探してくれている」

 

 クラドが事情を話すと、ユーギはベルの捜索を願い出たのだという。何でも「麗しき小麦肌のお嬢さんが危機に晒されているのなら、黙っていられません」とのことだ。

 確かに渦中の人物が街を歩き、周囲を騒ぎ立てればそれだけで誘拐犯を炙り出せるかもしれない。

 

「……対戦相手は、何と?」

 

 ユウは表情こそいつも通りだが、返答次第では試合など放棄して相手方に飛び込んでいきそうな不穏な空気を纏っている。

 実はクラド、それを実行に移してしまった訳ではあるが、そこから得られた情報は意外なものだった。

 

「否定してた……というか、連中も昨夜に闇討ちを喰らったとか言っててな、逆にこっちが疑われたよ。確かな証拠が無いのも事実だ」

 

 旅団間のトラブルは大会側も関与しない。結局、お互いに疑いも晴れぬまま試合に臨むしか無い訳だ。ここであらぬ疑いを探っていても、闇雲に辺りを探し回ってもキリが無い。

 だからこそ、クラドはベルの意思をそのままの形でメンバーに問い掛けた。

 

「……だから。とにかく今は、メイドちゃんの言う通り試合に出ようと思う」

 

 こういう時、真っ先に身を案ずるクラドから出た思わぬ結論に、メンバーは驚いたように目を丸めた。

 

「誘拐事件なんざどの道、俺らの出る幕じゃない。メイドちゃんのことはその道のプロに任せて、俺らは俺らのやるべきことをやろう。反対意見があれば言ってくれ」

 

 何か言いたげに口を開けて閉じたのは、藍とアンリエールだった。

 それでも自分達の意見が感情的で現実的でないことは頭で分かっていたのだろう。ユウがしばらく考え込み、静かに答えを出すまでは目を伏せて押し黙った。

 

「……素人が闇雲に動き回っても仕方がないのは事実だ。俺はベルと、クラドの意向に従う」

 

 ユウの考えに後押しされる形で、藍とアンリエールもやがて静かに首を縦に振った。

 それでも何か言わずにいられなかった藍は、やがてぽつりと口を開いた。

 

「……出来る限り試合には集中するわ。けど試合が終わってもベルちゃんが見つからないなら……私も探しに行く。それだけは許して」

「ああ、そりゃここにいる全員がそのつもりだ。な?」

 

 今度のクラドの問い掛けには、全員が間髪入れずに頷いた。

 

 

   **

 

 

「わたしは、手札から《ティオの蟲惑魔》を召喚!!」

 

《ティオの蟲惑魔》

☆4/地属性/植物族/ATK 1700/DEF 1100

 

 大口を開けた獣のような形の巨大な食虫植物……ハエトリグサの精霊たる少女型モンスターが気だるそうに欠伸を漏らす。花で彩ったツインテールの黒髪は色香を散らす雨露に濡れ、なんとも扇情的だ。

 そんな彼女とて罠を張り獲物を待ち構える蟲惑魔の1人。闇の恐怖に晒されている新たな主の為に、その力を存分に振るう。

 

「ティオが召喚に成功した時、墓地から「蟲惑魔」1体を特殊召喚できます!! 《トリオンの蟲惑魔》を特殊召喚!!」

 

 ティオが紡ぐ歌に誘われ、砂塵を巻き上げて蜻蛉の少女が再び地中から飛び上がる。

 ――女の場の《補給部隊》を貫きながら。

 

「……トリオン第2の効果!! このカードが特殊召喚に成功した時、相手の魔法・罠カードを1枚破壊します!!」

「……ほう」

 

 素直に感心したように、女は感嘆を漏らす。

 気が付けば場には同じレベルのモンスターが2体。この状況、女とて僅かな攻撃力不足を指摘するほど野暮ではない。

 

「……行きます!! わたしは、トリオンとティオでオーバーレイ!!」

 

 闇の中に差す眩い希望の光。黒の召喚法は少女に道を切り開く力を与える。

 彼女のデッキの中に渦巻く、数多の想いの数だけ。

 

「☆4モンスター2体で、オーバーレイ・ネットワークを構築!! エクシーズ召喚!!」

 

 ここまで来る為に乗り越えた、大きな父の背中。

 かつて目の前に立ちはだかった強固な意思が、今は絶望の暗闇を払う強靭な牙となる。

 

「全てを砕く金剛の牙!! ★4、《恐牙狼 ダイヤウルフ》!!」

 

 蟲惑魔たちの魂をその身に纏い、金剛の獣は遠吠えを上げた。

 

(絶対に負けない……『皆』の為に!!)

 

 こんな得体の知れない闇の中でも、自分は決して1人じゃない。

 そんな事実が、褐色の少女を決闘者として奮い立たせていた。

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