遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第29話 イカロスの翼

「バトル!! ダイヤウルフでヤクシャを攻撃!!」

 

 牙を持つ者同士が、己の主君の為にと真正面から衝突する。

 金剛の牙と炎の棒術が交差し――結果は、四足の獣たるダイヤウルフに軍配が上がった。

 

【???】LP4000→3800

 

 僅か200とはいえ、ダメージは通った筈。

 しかし女は痛みなど感じた風も無く涼しい顔で受け流して、カードの処理を続行した。

 

「……では、破壊されたヤクシャの効果発動。手札のカード1枚を選択して『破壊』します。選択するのは《炎王神獣 ガルドニクス》」

 

 ベルの脳裏を過ぎったのは、ヒヨリとのデュエルで明らかになった不死鳥(ガルドニクス)の恐るべき効果。だが、ベルとてあれから何も学んでいない訳じゃない。

 

「……それなら!! 手札から魔法カード《死者蘇生》を発動!! 墓地のガルドニクスをわたしの場に特殊召喚します!!」

「……成程、そうきましたか」

 

 墓地で発動しフィールドへ舞い戻るなら、その場所から奪ってしまえばいい。

 幸いにも手札にそれを可能とするカードがあったことに感謝しつつ、ベルは女の顔色を窺ったが……。

 

「それにチェーンして罠カード《リビングデッドの呼び声》を発動します。対象はガルドニクスを選択、よって蘇生対象を失った貴女の《死者蘇生》は不発となります」

「ッ!?」

 

 破壊自体は防ぐことが出来た。しかし不死鳥が舞い降りたのは自らの主の下だ。

 火の粉を星屑のように撒き散らして、死よりの輪廻を自ら祝福するように咆哮を上げる。

 

《炎王神獣 ガルドニクス》

☆8/炎属性/鳥獣族・効果/ATK 2700/DEF 1700

 

 ダイヤウルフの効果で破壊しようにも、そうすれば次のスタンバイフェイズに復活してしまう。そもそも自分の場がガラ空きになってしまえば元も子もない。

 相手の方が1枚上手だった、というどうしようもない事実。このターンで打てる術はもう無い。

 

「……わたしはこれで、ターンエンドです」

「では、私のターン。手札から《炎王獣 ヤクシャ》を攻撃表示で召喚。バトルです」

 

 恐らくは来るであろう、激しい衝撃に自然と身が固まる。

 空を舞う炎王の長が狙いを定めたのは、地を這う四足の獲物だ。

 

「ガルドニクスでダイヤウルフを攻撃」

 

 空から降り注ぐ圧倒的な熱量。金剛の獣は成す術なく、業火に焼かれてその身を溶かした。炎の渦はやがて後方のベルへとその魔手を伸ばした。

 

「うっ……ぅあ!!」

 

【ベル】LP3800→3100

 

 身を焦がす炎は、やはり本物のそれと何ら変わり無い。

 恐怖が、森を焼き尽くしていくようにじわじわとベルの心を焦土へと変えていく。

 

「続けてヤクシャでダイレクトアタック」

 

 炎王の兵士に、容赦という言葉は存在しない。眼前の獲物がどんな姿であれ、その腕を振り下ろすだけ。

 炎を纏った棒術の一撃は、無残にも褐色の少女へと叩き込まれた。

 

 

   **

 

 

『大変長らくお待たせしました!! それではBブロックは準決勝、最初の組み合わせはこちらです!!』

 

 華やかなファンファーレと共に、各チームの紹介が行われる。

 

『まずは、これまで見事な試合を繰り広げて頂きました【にじいろ団】!! そして対するは堅実なプレイングで着実な勝利を収めてきました【猟犬(ハウンド)】の両旅団です!!』

 

 コーパルの実況も、騒がしい歓声も。ベンチに座る4人の耳には届いていなかった。

 気持ちばかりが焦っている。これではいけないと、誰ともなく溜め息を漏らす。

 

「……襲撃を受けたって話、どうやら本当みたいだな」

 

 訝しげに眉を寄せながらも、クラドはぽつりと呟いた。

 対岸のベンチに見える人影は、大柄な男と年端も行かない少年が2人だけ。 

 試合が出来る最低限の人数すら足りていないのだ。

 

「一応、向こうの旅団について調べてみたのだけど……決闘傭兵の仕事を請け負っているかなりの大所帯みたいね。あちこちに分かれて活動しているみたいで、あの2人について調べようにも数が多過ぎて絞り込むのはほぼ不可能よ」

 

 Dパッドを操作しながら藍が呟く。

 規模の大きさ故に、地域ごとに幾つかのチームに分かれて行動している旅団のようだ。今回大会に参加したのは、その内の1つということなのだろう。

 

「ま、ともかくだ。向こうの頭数が足りてないってのは都合がいい。早めに切り上げてメイドちゃんを探しに行きたいってのもあるしな」

 

 クラドの発言は決闘者として褒められるべきものではないのかもしれない。

 それでも今この場に関しては、その想いは皆同じだった。

 

『それでは!! 第1試合に出場する選手の方は、コートへお上がり下さい!!』

「……行って来る」

 

 コーパルのアナウンスを聞いて、ユウがコートを上がっていく。

 頭数の足りない彼らがどんな作戦で来るのか、それは明白だ。タッグを放棄してのシングル2回で勝利――これしかない。

 つまりこちらも、実力者2人をシングル戦にぶつけるのが最良という訳だ。

 

「…………?」

 

 ユウがコートの上に立つも、相手の選手2人は一向に立ち上がろうとはしない。

 代わりに、少年が腕を高々と上げた。

 

「はいはーい、審判員のお姉ちゃんズ! 俺らから宣言がありまーす!」

『はい、なんでしょう?』

「俺ら、この第1試合はキケンしまーす!」

 

 少年の口から放たれたのは、思いもよらない言葉だった。

 その発言の意図に、会場からもどよめきが漏れ出す。

 

『は、はぁ……ですがその場合、あなた方【猟犬】は自動的に敗北となりますが――』

「ちゃんとタッグ戦と最後のシングルはやるよ。最後の1人が今ちょっと遅刻中でさ」

 

 遅刻。その言葉に今度は会場のどよめきにも呆れのような色が浮かんだ。

 

「……審判員。この場合、彼らは出場資格はあるのか?」

『あー、そうですねぇ。本来であれば問答無用で出場取り消しー、としたいところなのですが。ご存知の通り少々ゴタゴタがありましたし、特例ということで~』

 

 歯切れが悪そうに、コーパルがジャッジを下す。

 大会としても、誘拐や襲撃についてはあまり表に出さない方針なのだろう。

 

「そーそー。こっちもちょっとバタバタしててさ。それはお互い様だろ? 少しくらいお行儀が悪いのは許してくれよ?」

 

 悪びれる様子も無い少年にユウは険しい視線を送ったが、今回の事件は彼らの落ち度では無い筈だ。

 小さく溜め息をつくと、ユウは黙って振り返り、コートを降りた。

 

『え、えー。という訳で、第1試合は【にじいろ団】の不戦勝という形に……』

 

 会場は剣呑とした空気に包まれたまま、第2試合であるタッグデュエルへと移行した。

 ルーレットによって、ハーフライフルールが決定する。

 機械といえども空気を読んだのか、いつもの寸劇も少しばかり抑え気味だ。

 

『それでは第2試合はタッグデュエル、ハーフライフでの開始となります~!!』

 

 先にコートへ上がったのは藍とクラドの2人。

 アンリエールの戦力は、未だ見ぬ『最後の1人』を討ち取る為に温存することにした訳だが……。

 

「……クラド君、大丈夫?」

「おうよ、メイドちゃんの分までしっかり役目を果たして見せるさ」

 

 本番は苦手だ、と語る男は身に余る大舞台に緊張を隠せないのか、頼もしい言葉とは裏腹に表情を強張らせていた。

 

「……これで上手く決めれば、俺たちの勝ちだ。『全力』で行こう!」

「ええ!」

 

 そんな自分を鼓舞するようなクラドの言葉に、藍はせめてもの手助けをと大きく頷いて答えた。

 

「こんなコトになってお互いアレだけどさ、まぁ宜しく頼むよ♪」

 

 そう意気込む2人に対峙するのは、現状【猟犬】全メンバーである大柄な男と少年の2人。態度はどうであれ友好的な少年と比べて、大柄の男は黙ってDパッドを起動させ腕に装着させた。さっさと始めようとでも言わんばかりに。

 

「あー、ゴメンゴメン。うちの長ってばどうにも血の気が多くてさ、あはは……」

 

 途端、慌てたように少年が耳打ちをしたが、大柄の男は表情一つ変えずに黙って頷くと構えを解いて直立の姿勢に戻った。

 そんな焦燥した表情から一転、少年は歳相応らしい悪戯な笑みを浮かべるとクラド達に向き直り言った。

 

「……そういえば。ソッチのいなくなった選手っての、あのオッパイ大きい女の子だろ? 残念だなー、俺あの子と戦いたかったのに」

 

 ベルの話題を出されて、2人ともぴくりと眉を潜める。

 そんな反応を楽しむかのように、少年は言葉を続けた。

 

「……今頃、どんなヒドイ目にあってるのかな?」

 

 我慢の限界とばかりに、藍がディスクを構える。

 静かに燃え立つ青色の炎。そんな彼女を片手で制して一歩前に出ながらも、クラドは呆れたように言葉を返した。

 

「おいおい坊主、悪戯はそこまでにしとけよ? お兄さんとお姉さんな、今最高にムカついてんだ。それ以上無駄口叩けばどうなるか……?」

「おお、おっかね。最後の1人が来るまでなるべく時間稼ぎしたかったんだけど。それじゃ、始めますか?」

 

 ちらり、と少年がコーパルに目配せする。

 

『え、えーそれでは第2試合はタッグデュエル、【にじいろ団】藍&クラド選手VS【猟犬】燐路(リンジ)慶爍(ケイシャク)選手、デュエル開始ぃ!!』

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

【にじいろ団】藍&クラド LP8000 VS 【猟犬】燐路&慶爍 LP8000

 

 

   **

 

 

【ベル】LP3100→1300

 

 ジャラ……と小さく鎖が揺れた。

 鎖が繋がれた腕に身体が吊り下げられ、膝をつくことも許されない。

 所々が千切れて血が滲んだいつものメイド服は、ボロボロになったベルの心をそのまま表しているかのようだった。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

 女の無機質な声に、かろうじて意識を取り戻す。顔を庇った腕はほとんど感覚が無かった。吹き飛ばされそうな衝撃を、鎖で無理矢理に留められた四肢が痛い。

 それでも霞む視界を何とか持ち直して、ベルは何とか地に脚を立たせる事が出来た。

 

(帰るんだ……ちゃんと、皆のところに……!)

 

 余計なことは考えるな。今はそれだけに集中しろ。

 恐怖は忘れよう。痛みも忘れよう。ただ今は、目の前のカードを――!!

 

「わたしの……ターンです」

「……ほう?」

 

 その琥珀色の目にまだ闘志が宿っていることに驚いた女は、その細い目を僅かに丸めた。

 

「わたしは……手札から魔法カード《手札断殺》を、発動っ!」

 

 今の手札では戦況を覆せる手段は無い。

 だからこのカードに、全てを託す。

 

「《カズーラの蟲惑魔》と《―**―(アスタリスクス) 翼戦神(ヴァルキュリア)》を捨てて2枚を、ドロー……!」

 

 ドローカードが、時折ちかちかと明滅する。

 それでもデッキはしっかりと、ベルの声に答えた。

 

「……これで墓地の地属性モンスターが5体。召喚条件を満たしたことで、このカードを特殊召喚します……!!」

 

 痛みを堪えながら。娘の身を案じて尚前に進ませてくれた父の思いを解き放つ。

 

「眠れる死者を呼び起こせ……《地霊神グランソイル》!!」

 

《地霊神グランソイル》

☆8/地属性/獣戦士族・効果/ATK 2800/DEF 2200

 

 黒鋼の巨神が、地を割って姿を現した。

 その剛腕を叩き付け、呼び起こすのは――。

 

「グランソイルの、効果発動……墓地のモンスター1体を、自分フィールドに特殊召喚します……舞い戻れ、ヴァルキュリア!!」

 

《―**―翼戦神》

☆10/地属性/天使族・効果/ATK 2800/DEF 3000

 

 主を守護するべく地の底より舞い上がる、暗暖色の機械天使。

 彼女が放つ暖かな光は、満身創痍の少女に微かな希望を与えた。

 

「ヴァルキュリアの効果、発動!! 手札の《マジック・ストライカー》を装備……攻撃力を600ポイントアップし、その名前と効果を得ます……!」

 

《―**―翼戦神》(マジック・ストライカー)

ATK 2800→3400

 

 その手に握られる、雷の形を象った魔法杖。相手のライフは3800。ヴァルキュリアの直接攻撃とグランソイルの攻撃が決まれば、それで終わり――!!

 

「これで……最後です!! ストライカーの効果を得たヴァルキュリアで、ダイレクトアタック!!」

 

 勝敗を決める一撃の前に、しかし女は眉1つ動かさなかった。

 静かに、ディスクへセットされたカードへと手を伸ばす。

 

「罠カード、発動」

「……ッ!!」

 

 どくん、とベルの胸が跳ね上がる。

 女の場に伏せられていた伏せカードは、決して飾り物ではなかったのだ。

 しかし――。

 

(……《デストラクト・ポーション》!?)

 

 無慈悲に発動された罠は、決してヴァルキュリアの攻撃を防ぐものではなかった。

 

「自分フィールドのモンスター1体を選択して発動。選択したモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復します」

 

 まさか、ガルドニクスを?

 だとすれば女のライフポイントは回復し、このターンでの敗北は無くなるが……。

 

「私が選択するのは――」

 

 ベルの脳裏に、1つのシナリオ浮かんだ。

 破壊したガルドニクスを、次のスタンバイフェイズに効果で復活させ。モンスターを装備しているヴァルキュリア共々フィールドを焼き払い、攻撃力の下がったガルドニクスでヴァルキュリアを攻撃する……。

 

(それでも――!!)

 

 ベルは、何とか希望を見出した。

 グランソイルの制約効果でバトルフェイズこそ行えないものの、手札に抱えた残る手札は2枚目の《奈落の落とし穴》。ガルドニクスの破壊効果までは止められないが、その身は破壊出来る。

 思い描いた生存への幻視(ヴィジョン)。しかしそんなベルの浅はかな読みは、始めの前提から覆されることになる。

 

「炎王獣ヤクシャを、破壊」

「な!?」

 

 破壊されたのは不死の王ではなく、牙の尖兵。

 巻き上がった爆炎は主のライフを大幅に回復した。

 

【???】LP3800→5600

 

「更に破壊されたヤクシャの効果、手札のカード1枚を破壊します。手札で破壊されたことで《火舞太刀》のモンスター効果を発動。相手モンスター1体を破壊し、相手に500のダメージを与えます……対象はアスタリスクスを選択」

 

 女の手札から、尾の先を刃状に尖らせた白毛のイタチが飛び出し、ヴァルキュリアを破壊せんと迫る。その姿はさながら爆風のようだった。

 

「こ、効果発動っ!! 装備カードを墓地へ送ることで、破壊を1度だけ――」

 

 ここへ来て、ベルはようやく気が付いた。

 自らの身には、既に詰み(チェックメイト)が掛かっていたことを。

 

「気付いたようですね。そのアスタリスクスの破壊耐性は装備カードありきの効果、そしてモンスターの装備能力は1ターンに1度のみ。更に装備モンスターを失ったことで直接攻撃能力を失い、攻撃力は2500までダウン……私のガルドニクスには届きません」

 

 手の内は既に、見通されていた。

 それでも、効果を発動しなければ結果はより最悪なモノとなる。魔法杖を手放し、ヴァルキュリアは火舞太刀の一撃を何とか受けきった。

 

「尤も、破壊できなかったことで火舞太刀の効果ダメージは発生しませんが……手札のそのカードだけで、果たしてこれ以上持ちこたえられますか?」

「……まだ!! グランソイルでガルドニクスを攻撃!!」

 

 父の想いを背負った一撃。

 しかし想い(それ)だけでは勝利を掴むことなど出来ない。

 

「ダメージ計算前、速攻魔法《禁じられた聖槍》をグランソイルに対して発動。攻撃力を800ポイント下げて頂きます」

 

《地霊神グランソイル》

ATK 2800→2000

 

 残酷な事実が、完全にベルの心を折ってしまった。

 罠を伏せていたとしても。自分の読み通りに女がターンを進めていたとしても。

 死の運命(チェックメイト)からは、決して逃れられなかったのだと。

 

「グランソイル、撃破」

 

 鋼鉄の拳は、空高く舞う炎王のブレスに打ち勝つことなく蒸発し、消えた。

 

「…………あ」

 

 残された手は。たった1枚の見通された手札だけ。

 

「――イカロスの翼、という話をご存知ですか?」

 

 女の声が、ベルの折れた心の隙間にズルズルと入り込んでくる。

 

「彼も貴女も、少々目立ち(とび)過ぎたのです」

 

 決闘者なら最後まで諦めるなと、誰かは言うだろう。

 それでも少女は。傍らに控える女神と共に翼をジリジリと溶かしながら、落ち行くその瞬間を覚悟するしかなかった。

 

 

   **

 

 

「行くぜ……俺は☆4の《スクラップ・キマイラ》に、☆5チューナー《スクラップ・ソルジャー》をチューニング!!」

 

 翼を翻し、獅子の頭を持つ廃材の合成獣が5つの緑輪を潜り抜ける。

 合計レベルは大台の9。白の召喚法を紡ぐのは、チームの頭脳たる男だ。

 

「メイドちゃんに渡したかったが、コイツは『専用系』だったんでな……出し惜しみ無しで使わせて貰うぜ!! シンクロ召喚、《スクラップ・ツイン・ドラゴン》!!」

 

 金切り声を上げ、光の柱から灰色の双頭龍が姿を見せる。廃材(スクラップ)を結集し形を成したその巨体からは絶え間なく駆動音が鳴り響き、白煙を撒き散らした。

 

《スクラップ・ツイン・ドラゴン》

☆9/地属性/ドラゴン族・シンクロ・効果/ATK 3000/DEF 2200

 

 霞み揺らめくその白煙の中で、4つの瞳がエメラルドグリーンに輝き敵を見据える。

 

「早速行くぜ、ツイン・ドラゴンの効果だ!! 自分フィールドに存在するカード1枚と、相手フィールドに存在するカード2枚を選択して発動!! 選択した自分のカードを破壊し、選択した相手のカードを手札に戻す!! 俺は自分の場に表側で存在する《リビングデッドの呼び声》を破壊し、お前らの《ラヴァルバル・ドラゴン》と《炎星候(えんせいこう)―ホウシン》をバウンスする!!」

 

 ツイン・ドラゴンが掻き鳴らす駆動音が一層の激しさを増し、熱を帯びた白煙が突風の如く吹き荒れる。その巨体と爆音に気圧されているのは、炎を司る2体のシンクロモンスターだ。

 溶岩を纏った黒岩の竜と、黒炎の駿馬に跨る勇ましき英傑。2体は成す術も無く、そのまま手札ではなくエクストラデッキへと戻ってしまった。

 

「これでお前らを守るモンスターはいねぇ!! バトル、ツイン・ドラゴンと《イビリチュア・ソウルオーガ》でダイレクトアタック!!」

 

 既に召喚されていた藍の鬼神と、廃材の機械龍が共に攻撃を仕掛ける。

 相手の場には永続魔法である《炎舞―天キ》と《炎舞―玉衡(ぎょっこう)》が発動されていたが、既に役目を終えているその2枚は獣戦士族モンスターの攻撃力アップに繋がるのみ。渦巻く水流と二筋の熱線は、【猟犬】の2人に大きなダメージを与えた。

 

「がっ……!? クソ、よくも……!!」

 

【猟犬】燐路&慶爍 LP6000→200

 

「俺はこれでターンエンドだ!! オラ、さっきまでの余裕はどうしたよ!?」

「ナイスよ、クラド君!!」

「おう!」

 

 藍の声援にパシンと掌に拳を打ち付けて応えるクラドだったが、その声は僅かながら震えていた。

 

(あっぶねぇ~……キマイラを引いてなかったらこのターンで終わりだったぜ……)

 

 そんなクラドの心の声など知る由も無く、【猟犬】の少年――燐路はあからさまに焦りの色を浮かべていた。

 

「まずいぜ長、アイツら意外にやりやがる!! このままじゃ『どっちか』が来るまで持たないぜ!?」

「……そうだな。では致し方あるまい、使用を許可する」

 

 長と呼ばれた大柄の男、慶爍の静かな言葉に、燐路はニィと口を三日月に曲げたかと思うと落ち着きを取り戻し――ゲラゲラと高く笑った。

 

「……っくく、その言葉を待ってましたぁ!! 行くぜぇ、俺のターン!!」

 

 ドローカードなどには目もくれず。

 目を爛々と輝かせた燐路は、たった1枚のカードをディスクへと叩き付けた。

 

「魔法カード《真炎の爆発》を発動!! 自分の墓地から守備力200の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する!! 来い、俺の可愛い僕共!!」

 

 突如としてフィールドを包み込む、紅き閃光。

 思わず顔を覆ったクラド達だったが、次の瞬間目に飛び込んできたのは燃え盛る炎の中に佇む3体のモンスターだった。

 

《ラヴァル・ツインスレイヤー》

☆5/炎属性/戦士族・シンクロ・効果/ATK 2400/DEF 200

 

《ラヴァル炎火山の侍女》

☆1/炎属性/炎族・チューナー・効果/ATK 100/DEF 200

 

《ラヴァル炎湖畔の淑女》

☆3/炎属性/炎族・チューナー・効果/ATK 200/DEF 200

 

 灼熱に燃える赤と黒の岩鎧を纏いしシンクロの戦士と、その傍らには紅い髪を棚引かせた褐色肌の少女2人が、祈りを捧げるように膝をついて控えている。

 

(……この状況で呼べるヤツっていうと……)

 

 クラドは懸命に頭を回転させ、自分が知る『市場』のカードの中から候補を探し出す。

 ツイン・ドラゴンとソウルオーガ。相手にしてみれば立ち並ぶ2体のモンスターの内、どちらか一方を逃せば除去されるのは明白というこの状況だ。ツイン・ドラゴンは自身の効果で、ソウルオーガは墓地の儀水鏡の効果を使えば効果発動のコストを補える。

 ます最初に予想されるシンクロモンスターのレベルは☆6、8。そこから更に☆9のシンクロも可能、となれば……この布陣が突破されるであろう『候補』は幾つかあった。

 しかし――。

 

「天を地を、全てを廻りし(ましら)の皇よ……」

 

 2人の少女は炎の輪と成り、灼熱の戦士を球の檻として包み込む。

 さながら、それは星の核。岩石の鎧はやがて融和し、胎動する巨大な1つの岩となった。

 

「今一度、仮初の世を駆け怠惰を(みだ)せ!!」

 

 炎の輪は弾け飛び……黒く焼け焦げたその表面に、紅い亀裂が走る。

 それはまるで、これから起こる混乱を暗示するかのような『噴火』だった。

 

「シンクロ召喚ッ!!」

 

 弾け飛び、拡散する黒岩。

 その中心から軽々と飛び上がった影は、さも当然といった様子で『噴煙に飛び乗り』、手に持つ朱色の棒を自在に振り回して高らかに雄叫びを上げた。

 

 

「《―**―(アスタリスクス) 炎猴皇(ハヌマーン)》!!」

 

 

 額には金に輝く戒めの輪。

 美しい体毛すら炎を照り返し小金に光を散らす。

 

 今大会で5体目となるその名が、ついに解き放たれた。

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