遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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2/23 デュエル内容修正

ラストシーンでのカード発動をエンドフェイズに変更しました。申し訳ありません。
テキスト確認を怠った私を許してくれ……。


第30話 紅の最終者(アンカー)

《―**―炎猴皇》

☆9/炎属性/獣戦士族・シンクロ・効果/ATK 2800/DEF 1000

 

「さぁ行くぜ、ハヌマーンの効果発動!! このカードのシンクロ召喚成功時、素材に「名称を指定する」カテゴリのモンスターが含まれていればその内の1つを選択し、そのカテゴリに属するモンスターの数だけ相手フィールド上のカードを破壊する!! 素材となった俺の「ラヴァル」モンスターは3体、よって3枚のカードを破壊させて貰うぜ!!」

 

 ハヌマーンはその美しい黄金色の体毛を3本抜き取ると、ふぅと息を吹きかけた。

 途端、体毛は爆ぜる様に燃え上がり――瞬く間に3体のハヌマーンが姿を現した。

 

「『仙術・見言聞(けんげんぶん)』!!」

 

 火を吹き、棒術を叩き込み、飛び蹴りを喰らわせる。3体は皆それぞれ全く異なる方法で、クラド達のモンスターはおろか伏せカードまでを破壊して見せた。

 相次いで巻き起こった破壊の嵐は、クラドと藍に強烈な余波を浴びせた。

 

「きゃあああっ!?」

「ぐっ……!?」

 

 予想外のカードの登場に脈が波打つ。

 しかしブレーンの頭脳は、この異常事態に対し的確な判断を下した。

 

「くっ……だが、破壊されたツイン・ドラゴンの効果を発動!! このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、シンクロモンスター以外の自分の墓地に存在する「スクラップ」モンスター1体を選択して特殊召喚する!! 来い、《スクラップ・ゴブリン》!!」

 

《スクラップ・ゴブリン》

☆3/地属性/獣戦士族・チューナー・効果/ATK 0/DEF 500

 

 ツイン・ドラゴンの破片が寄せ集まり、不恰好な廃材の子鬼が姿を現す。

 貧弱なステータスではあるがこの場においてはまさに最適解。小型モンスターと侮る無かれ、立ちはだかった子鬼はクラド達の場を守る強固な盾となる。

 

「こいつは表側守備表示で攻撃を受けるとバトルフェイズ終了時に自壊しちまうが、代わりに戦闘によっては破壊されない!! 残念だがこのターン、その猿の攻撃は――」

 

 そう言い掛けたクラドの目に映ったのは、余裕を崩さぬ燐路の狂笑。

 嫌な汗が、背を伝う。

 

「はっ、そいつはどうかな? ハヌマーンにはもう1つ効果があるんだよ……!!」

 

 主の言葉に呼応するかのように、猿の皇の姿がゆらりと揺らいだ。

 

「こいつはシンクロ召喚に成功したターンの終了時まで、シンクロ素材となったカード1枚を選択することで同じ効果と名前を得るのさ!! 選択するのは無論《ラヴァル・ツインスレイヤー》だ!!」

 

 赤と黒の岩鎧を纏った二刃の戦士が、再び戦場へと舞い戻る。

 その光景に藍は愕然と声を漏らした。

 

「供物の姿をその身に纏え!! 『仙術・陽炎(かげろう)』!!」

「そん、な……!?」

 

 愕然と目を見開く藍の様子を見て、満足そうに目を細める燐路。

 羽虫でも弄ぶように声を弾ませて、少年は更に告げた。

 

「そうそう、言い忘れてたが。ハヌマーンは獣戦士族モンスター、長の発動した「炎舞」2枚のサポートもしっかり受けているんだぜ? よって攻撃力は3000に上昇だ!!」

 

《―**―炎猴皇》

ATK 2800→3000

 

「いくぜ、バトルだ!! ハヌマーンでその雑魚モンスターに攻撃!! 『如意金箍戟(にょいこきんげき)』!!」

 

 ツイン・スレイヤーの姿を借りたハヌマーンが手にした朱色の棒は、いつの間にか巨大な柱と見間違うまでにその大きさを変えていた。炎を纏ったソレは、非力な廃材の子鬼へと容赦なく振り下ろされる。

 

「この瞬間、ツインスレイヤーとしての効果を発動!! 墓地に「ラヴァル」が3体以上存在すれば、このカードは貫通効果に加えて守備表示モンスターを攻撃したとき、もう一度続けて攻撃することが出来る!!」

 

【にじいろ団】藍&クラド LP4300→1800

 

 炎は勢いを増し、攻撃の余波は容赦なくクラドと藍の2人へと吹き付ける。

 悲鳴すらも飲み込んで、岩鎧の戦士は再び朱色の『柱』を振り上げた。

 

「続けて2打目だ!! 『如意金箍戟・(れん)』!!」

 

 子鬼の盾は、その役目を果たすことは叶わず。

 再び吹き荒れた熱風の前に、健闘も空しく2人の決闘者が膝をついた。

 

【にじいろ団】藍&クラド LP1800→0

 

 

   **

 

 

 クラドと藍が渦巻く炎に身を焼かれた、同時刻。

 会場からそう離れてはいない廃工場の中でも、ソレは起ころうとしていた。

 

「バトル。ガルドニクスで攻撃」

 

 破壊を司る炎のブレスが、気高き翼を撃つ。

 暗暖色の機械天使は成す術も無く、その身を燃やしながら暗い墓地へとその身を落とした。

 

【ベル】LP1300→1100

 

「……あ」

 

 宙を泳ぐベルの手を、200ポイント分の熱量が無常に焦がしていく。反射的に手を引いたとき、既にヴァルキュリアの姿は何処にもなかった。

 女はフゥと一息ついたと思うと、淡々と事務的な台詞を述べ始めた。

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンドしますが……貴女にはサレンダーを推奨します。これはあくまで私の『経験則』ですが、そんなか細い身体では超過ダメージ1600の苦痛は耐え切れ無いでしょう」

 

 ガルドニクスのダイレクトアタックを受ければ命の補償は無い。余計な苦痛を味わう前にヴァルキュリアを差し出せ……詰まるところ、そういう意味だろう。

 少し前なら、この大会に出場する前のベルならばきっと、言われた通りに手を置いていただろう。しかし今は。

 

「……冗談、言わないで下さい」

 

 翼をもがれ、闘争心を折られても尚。ベルの心から決して灯火は消えない。

 例え勝利の可能性が0%だとしても、それだけは絶対にしたくない。

 

 待っている人たちがいる。

 背中を押してくれた人たちがいる。

 

 だから、どんなに怖くても――

 

「……もう絶対、逃げ出したりなんてしない!! 最後まで全力で戦います!!」

 

 どんなカードを引いたとしても、恐らくはもう勝ち目など無い。

 そんな避けられない敗北を前にして、ベルの瞳は輝きを失っていなかった。

 

「……そうですか。教養があるのか無いのか、不思議な人ですね」

 

 悩ましげな溜め息をついて、女は腰に手を当てた。

 どうやら気の済むようにさせてやろうという意思表示らしい。 

 

「…………」

 

 震える指先で、カードに手を掛ける。

 その先には決して奇跡など無い。

 

「わたし、の」

 

 しかしそれでも、ベルは引くことを決めた。

 僅かに力を込めた、そのとき。

 

 

 

Smettila(そこまでです)

 

 

 

 2人以外誰もいない筈の廃工場に、高らかに響いたのは線の細い男の声だった。

 どこか聞き覚えのあるその声に、思わず視線を上げると――。 

 

「お見事! よく言い切りましたね。美しく開いた貴女の花弁、しっかりと見届けさせて頂きましたよ♪」

 

 そこには2階の手すりに腰掛け、パチパチと嬉しそうに手を打つブロンド髪の男――ユーギ=ムトウの姿があった。

 

「ゆ、ユーギさん……どうして……?」

「お連れの方に話を聞きましてね。マスコミから逃げがてら、お迎えに上がりました♪」

 

 ユーギは丈の長い白いコートを翻し手すりからひらりと飛び降りると、結構な高さであったにも関わらず猫のように華麗な着地を披露して見せた。

 

「!? 何故、貴方が……」

 

 乱入者を前にして、女は初めて怪訝そうに眉を寄せる。

 恐らく彼女にとっても想定外の出来事だったのだろう。僅かに狼狽を見せるも、すぐさまその表情を取り繕った。

 

「失礼ですが今はデュエル中。ですので部外者は――」

「はい?」

 

 女の言葉を遮ったのは、ユーギの爽やかな笑顔。彼のディスクから伸びた一筋の光の糸は、女の操る『紅い鎖』へと瞬時に巻きついた。

 

「っ、これは……!?」

 

 途端、ベルのディスクにも変化が現れた。『BATTLE ROYAL MODE』の機械音声と共に、対戦相手の表示が新たに追加されたのだ。

 バトルロイヤルモード。3人が同時にデュエルを行う特殊な対戦形式だが、タッグとは違い基本的にはどのプレイヤーに狙いを定めて良い。結託して1人を狙うも良し、漁夫の利を狙うも良し。

 当然、審判員機構の監視下であれば同意無しの乱入はカットされてしまうが、デュエルアンカーで繋がれている現状では同意も何も無い。そして今回の場合、ユーギの意図は明白だ。

 

「……どういうおつもりですか?」

「小麦肌のお嬢さんは大分お疲れのようですし、ここから先は僕がお相手致しましょう」

 

 咎めるような女の視線と、ユーギの爽やかな笑顔が交差する。

 時間にして十数秒の後、女は深く溜め息をついて紅い鎖を強制的に断ち切った。

 

「……今この場で貴方とやり合うのは愚策です。ここはひとまず身を引くとしましょう」

「おや、僕ではご不満ですか? ではせめて家までお送りしますよ、女性が1人ではこの辺りは何かと物騒だ」

「……結構です」

 

 表情は崩さぬまま追い縋るユーギを振り払うかのように、女が後ろ手に駆け出す。

 

「おやおや、どこへ――ッ!?」

 

 ユーギの言葉は、突如として耳を裂いた爆音に掻き消された。

 恐らくはリモートコントロール出来るのだろう、どこかに隠されていた真紅のD・ホイールが爆音を撒き散らしながら工場の中へと進入してきたのだ。

 女は軽い身のこなしでソレに飛び乗ると、一目散に工場の外へと飛び出していってしまった。

 

「……やれやれ。麗しい見掛けに反して随分と野生的な女性(ひと)だ」

 

 ふぅ、と溜め息をついて女を見送ったユーギは、再び笑顔を作ってベルへと振り向いた。

 

「さてと。大丈夫ですか? ご安心下さい、今セキュリティの皆さんに連絡、を?」

 

 手を差し伸べたユーギの視界には、ゆっくりと傾いていくベルの姿が映った。

 ユーギが反射的に身体を受け止めると、ベルの瞼は虚ろに閉じていく。

 

 ぷつん、と頭の中の電球が切れたような気がして。

 ベルの意識はそこで、スーッと闇の中へと沈んでいった。

 

 

   **

 

 

『えー、色々と大波乱の本試合ですがー。ここでまたしても問題発生です』

 

 コーパルは自らの頭上に表示されているソレを指差しながら、朗らかに告げた。

 それは【猟犬】最後のプレイヤーに与えられた遅刻の期限(リミット)。タイマーが示す残り時間は、もう2分を切っていた。

 

『トラブルを考慮しての特別な「遅刻処置」でしたが、大会の円滑な進行の為タイムリミットを設けさせて頂きましたー。その残り時間もあと僅か、タッグデュエルで鮮やかな勝利を魅せつけてくれた【猟犬】チームもここで敗退かー!?』

「……大変ですわね、大会のMCというのも」

 

 腰に手を当て、退屈そうに呟いたのはコート上に立つアンリエールだ。

 

 恐らく最後の1人は来ない。

【にじいろ団】が不戦勝を取って決勝進出か。

 

 そんな雰囲気が会場を包んでおり、彼女もまたそんな空気に呑まれていた。

 一刻も早くベルを探しに行きたいのに、残り数分を待たなければいけないことが煩わしい。

 

「ワンちゃんチーム様ー? 無駄な足掻きはやめて、さっさと棄権してくださいまし? こっちは1分1秒も惜しいんですのよー」

 

 件の《アスタリスクス》を操り、藍とクラドを破った少年――燐路がベンチからギロリとアンリエールに眼光を向ける。

 

「くそ、あの女……!!」

「気に掛けるな燐路。煽里(センリ)から直ぐにこちらへ向かうと連絡があった……『10番』の奪取には失敗したそうだが」

 

 低く唸るような声で大男――慶爍(ケイシャク)が囁く。

 

「なっ!? マジかよ、そんなに強かったのか? あのオッパイちゃんは?」

「……ユーギ=ムトウの邪魔立てが入ったようだ。彼を相手にするにはまだ時期尚早だ。煽里の判断は正しい」

「はぁ!? くそ、何だってアイツが……!?」

 

 苛立たしげに足をバタつかせる燐路の仕草は歳相応らしかったが、その表情は悪鬼の如く歪んで見えた。

 

『残り1分!!』

 

 そんな最中、遂にタイマーの残り時間が2桁へ突入した。

 

『50!!』

 

 10秒毎に、コーパルがカウントを取っていく。

 

『40!!』

 

 祈りを捧げるように手を組み、目を瞑るのは両陣営のベンチも同じだ。

 その願いの質が果たして同じモノであるかどうかは、さておき。

 

『30!!』

 

 願いを奏でるチームメイトの傍ら、ユウと慶爍の視線だけが静かに交錯する。

 

『20!!』

 

 ここまで来ると、いよいよ決着の雰囲気が漂い始める。

 くるり、と周囲を見渡すアンリエールの表情に焦りは無かったが、その仕草には確実にこのまま決着が付くことを願っている節があった。

 

『10!! 9、8、7、……』

 

 遂にカウントダウンは、1秒ごとに刻まれる。

 

「5、4、3、2、1……!?」

 

 

 

 

 ばさり、と。

 コーパルがカウントを詰まらせたその刹那。何か布のようなものがコート上に舞い落ちた。

 

 

 

 

 その正体は赤く紅い、燃え盛る紅蓮を模したフード付きのコートだった。

 ゆっくりと立ち上がったソレが、面を上げる。

 

「……成程。ようやくお出まし、という訳ですの?」

 

 戦慄を滲ませながら、アンリエールが口端を吊り上げた。

 残り1秒、その瞬間に突如として現れたのは――白い狐の面を被った女だった。

 

「う、嘘……?」

「……ビンゴ、ってか」

 

 唖然とした面持ちを浮かべるクラドと藍、その傍らでポーカーフェイスが僅かに歪む。

 ようやく合間見えた、『彼女』へ繋がる手掛かり。ソレを前にして、ユウも静かに冷静さを掻いていく。

 

「お、遅せぇーぞ姉ちゃん!? いや一番悪いのはあのバカ巫女だけどよー……」

「……『犬狩り』に随分手間取ったようだな?」

 

 重く響く慶爍の問い掛けに、白面の女はコクンと頷いて見せた。

 そのやり取りを聞いていた燐路は「ああ、そういうコトかよ」と勝手に理解して、つまらなそうに口を尖らせて野次を飛ばした。

 

「チコクした責任、しっかり果たしてくれよー?」

 

 白面の女はまた頷いて、白面に刻まれた曲線の眼をアンリエールへと向けた。

 

『何というロマンスでしょうか~!! ヒーローは遅れて登場するモノ、【猟犬】最後のプレイヤーが残り時間1秒というタイミングで颯爽とコートへ降り立ちましたぁ!!』

 

 これまでにも大会側で様々な『演出』がされてきたせいもあるのだろう、観客達はこれも何かの演出だと思ったのか、この奇跡を素直に受け入れ、大いに盛り上がった。剣呑な雰囲気が流れる【にじいろ団】の様子に、気が付くことも無く。

 普段であれば嬉々として受け入れる歓声も、アンリエールの耳にはもう届いていない。相対した想い人の『敵』を前に、ふつふつと闘志が湧き上がっていくのが分かった。

 

「……これは好都合。貴女と間違われることも無ければユウ様と出会うこともなかったですから、一度お礼をと思っておりましたの」

「…………」

 

 ディスクを構え、向き合う両者。

 その後ろでコーパルとネフがいつもの茶番を展開し、特殊ルールが決定する。

 

『決定しました、ルールはフルライフ8000!! それでは参りましょう、【にじいろ団】アンリエール選手VS【猟犬】煽里選手、両チームの命運を分かつラストデュエル、開始ィ!!』

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

【アンリエール】LP8000 VS 【煽里】LP8000

 

 

   **

 

 

「私の先攻ですわね……生憎の曇天ではございますが、これは愛しきユウ様へ捧げる華霊なる舞台。まずはその下準備と参りましょう。モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド致しますわ」

 

 普段にも増して優雅に、そして熱の入った演技で素早く1ターンを終えるアンリエール。

 幽霊姫の初動は静かに、何が飛び出すか分からない不気味なプレッシャーを放ち始める。

 

「曇天って……そこまで雲が多いわけでもねぇのにな。気合入ってるぜ、お嬢」

「お願いアンリちゃん、勝って……!」

 

 遂に姿を見せた『敵』を前に、ベンチからも思わず熱が飛ぶ。

 そんな【にじいろ団】とは対照的に、【猟犬】のベンチでは燐路が腕を組んで余裕の表情を浮かべていた。

 

「……私のターン、ドロー。手札から《クリバンデット》を攻撃表示で召喚」

 

《クリバンデット》

☆3/闇属性/悪魔族・効果/ATK 1000/DEF 700

 

 面にはボイスチェンジャーでも付いているのか。白面の女が発した機械のような甲高い声に導かれ、毛むくじゃらで黄色のバンダナを巻いた丸っこいモンスターが姿を現した。

 

「……見掛けによらず、随分と可愛らしいモンスターがお好きなようですわね?」

 

 軽口を叩いて見せたアンリエールであったが、慎ましき(ローレベル)は彼女の十八番。この小さなモンスターが秘めた効果を知らない訳では無い。

 

(……墓地にカードを溜めていくタイプのデッキ、ですわね。【ライトロード】で無ければ良いのですが……)

 

 どちらにせよこのエンドフェイズに見当が付くだろうが、墓地が『肥えて』動き出す前に仕留めなくてはならない。

 早期決着が望まれるプレッシャーに、アンリエールの鼓動が脈を早める。

 

「バトル。裏側守備モンスターへ攻撃」

 

 可愛らしい声を上げて突撃するクリバンデットの攻撃力は、たったの1000。

 低ステータスの「ゴーストリック」モンスターであれば破壊出来ると踏んだのだろうか、しかし――。

 

「おやおや……『怪演』前の役者に声を掛けるとは何たる無礼な……」

 

 クリバンデットが振り下ろした小さな爪は、顔の前に札を付けた可愛らしいモンスターがはっしと白刃取りで受け止めていた。

 

《ゴーストリック・キョンシー》

☆3/闇属性/アンデット族・効果/ATK 400/DEF 1800

 

「守備モンスターは《ゴーストリック・キョンシー》。リバース効果により私はデッキから《ゴーストリック・マリー》を手札に加え、貴女には反射ダメージ800ポイントを差し上げますわ」

 

【煽里】LP8000→LP7200

 

 早めにライフを減らしたいこの状況で、敵の自爆はありがたい。

 アンリエールは思わず口端を吊り上げた。

 

「……カードを2枚伏せて、ターンエンド。この瞬間、クリバンデットの効果を発動。このカードをリリースし、デッキから5枚のカードをめくる。その中から魔法・罠カードを1枚選択し手札に加え、残りのカードを墓地へ送る」

「どうぞ? 邪魔立ては致しませんわ」

 

 涼しい顔をして受け流したアンリエールだったが、内心では苦虫を噛み潰していた。

 ランダムとはいえ、墓地へカードを送りつつ魔法か罠をサーチ出来る。それがこの小さな毛むくじゃらに隠された強力な効果だ。

 デッキの情報が公開されてしまうものの、【ライトロード】のように墓地のモンスターを利用していくタイプのデッキではさしたるデメリットにはならない。

 クリバンデットが光の輪の中へと沈み、その効果が発動してしまう。デッキからめくられた5枚のカードを、白面の女は淡白な仕草で公開した。

 

「なっ……!?」

 

 めくられた5枚のカードの全容に、アンリエールも思わず演技を忘れて愕然と目を見開いた。デッキの代名詞とも呼べるそのカードと共に、彼女が公開した5枚の中にはもう1つ、別の代名詞が紛れ込んでいたからだ。

 

 

 

 

 

 

神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)

《シャドール・ビースト》

《シャドール・ファルコン》

《インフェルノイド・ルキフグス》

《死者蘇生》

 

 

 

 

 

 

(【シャドール】に……【インフェルノイド】……!?)

 

 あまりに強力な効果から、市場でも効果で取引されるカードカテゴリ【シャドール】。

 それが相手というだけでも厄介だというのに、コチラの墓地のカードにまで干渉してくる【インフェルノイド】まで含まれている。

 単なるカテゴリ統一よりも扱いが難しい混成デッキ……悪戯好き(ゴーストリック)が相手をするには最悪となる組み合わせに、アンリエールは歯噛みした。

 

「……めくられた5枚の中から、私は《神の写し身との接触》を選択し手札に加え、残りのカードを墓地へ送る」

「……ふん、随分と性格の悪そうなデッキですわね?」

 

 悔し紛れに毒を吐いてみるものの、白い面はただ細い目を向けるのみ。

 苦しい戦いになるだろうが、これでもプロの世界を渡ってきた身だ。この程度の逆境は幾つも越えている。今更臆するような事でも無い。

 

「……効果によって墓地へ送られたことで、2体のシャドールの効果を発動。ファルコンを裏側守備表示で特殊召喚し、ビーストの効果でカードを1枚ドロー」

 

 渦巻くようなアンリエールの心境とは相反し、白面の女は淡々とカードを処理していく。

 いつの間にか手札は補充され、場にはモンスターが増えている。墓地へ送られることで膨大なアドバンテージを稼ぐ、それが【シャドール】の特長の1つだ。その為、複数の効果が連続して発動し易く、処理に時間が掛かり易い。

 自身のデッキとどこか似ていて、それでいて遥かに強力と謳われるデッキ。対抗心からかアンリエールも遂に何かが吹っ切れた様子で『お嬢モード』に火が付いた。

 

「いいでしょう……カードの力にばかり頼った無粋なデッキをこの幽霊姫に差し向けたこと、その身を持って後悔させてあげますわ!! ドロー!!」

 

 ドローカードに目を通しつつ、アンリエールのしなやかな指先は熱を帯びたまま舞台へ上げる役者を選び出した。

 

「舞台へお上がりなさい、手札から《ゴーストリック・マミー》を攻撃表示で召喚!!」

 

 包帯巻きの大男が、幽霊姫の舞台(フィールド)へ降り立つ。

 

《ゴーストリック・マミー》

☆3/闇属性/アンデット族・効果/ATK 1500/DEF 0

 

「更にキョンシーの効果を発動!! 裏側守備表示に変更した後、再び反転召喚しますわ!! リバース効果によって《ゴーストリック・ランタン》を手札に加えます!!」

 

 休め(レスト)起きて(ムーブ)。せわしなく下される号令に疲れ切った様子のキョンシーとマミー。スポットライトを浴びた2体のモンスターは、休む間もなく紫色の光球となって螺旋を描き宙へと舞上がった。

 

「私は☆3のキョンシーとマミーでオーバーレイ!! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!」

 

 まるで夜空に浮かんだ虹色花火。

 幽霊姫が得意とする黒の召喚法がここに成立した。

 

「奇怪なる館の主よ、漆黒を翻し騒乱の夜を収めなさい……★3、《ゴーストリック・アルカード》!!」

 

《ゴーストリック・アルカード》

★3/闇属性/アンデット族・エクシーズ・効果/ATK 1800/DEF 1600

 

 くぐもった忍び笑いを漏らして、白肌の吸血鬼が漆黒のマントを翻す。

 

「この幽霊姫の前で無様に『背』を向けたこと、存分に後悔なさい!! アルカードの効果を発動、ORU(オーバーレイユニット)を1つ使い、セットカード1枚を破壊しますわ!! 対象は裏側守備表示の《シャドール・ファルコン》!!」

 

 アルカードが素早く裏側守備のファルコンへと覆い被さると、そのマントの中から少しくぐもったように『破壊』のエフェクト音が響いた。

 

「……ファルコンの効果発動。このカードが――」

「ご説明は結構、効果は存じておりますわ」

 

 ひらり、と宙返りをしてフィールドへ舞い戻るアルカード。その眼前には破壊した筈の《シャドール・ファルコン》が裏向きのままで再度セットされていた。

 

 効果によって墓地へ送られた場合。それは「シャドール」モンスターにとってフィールドからでもデッキからでも変わらない。一見無敵と思われるこの効果だが――。

 

「ですがこの幽霊姫の舞台、そう生易しくはありませんわ。やり直し(リテイク)は1度まで……ですわよ? バトル!!」

 

 パチン、と指を鳴らしてバトルフェイズへと突入する。

 アルカードのマントから放たれた無数の蝙蝠達が、鳥の形を模した影の使者を喰らい尽くしていく。紫の糸に吊るされた影人形は、今度は蘇ることなく墓地へと送られた。

 

「よし、いいぞお嬢!! シャドールモンスターは1ターンに1度しか効果を発動できないからな!!」

 

 クラドが拳を作って声援を送る。

 彼の言う通り、シャドールモンスターはリバース時と墓地へ送られた場合の両方にそれぞれ別の効果が備わっているのだが、そのどちらかが1度発動してしまうと同一のターンでは効果を発動することが出来なくなってしまう。

 1度蘇生効果を使用してしまったファルコンは、アルカードの攻撃によって真価を発揮できず破壊されてしまったという訳だ。

 

「私はこれで、ターンエンドですわ」

「……成程。貴女は教養があるのですね」

 

 白面の女が呟いたその言葉に、ベンチで控えていた燐路が吹き出したように笑った。

 どこか馬鹿にされたような印象を受けたアンリエールは眉に皺を寄せ、ルージュの瞳をギラリと研ぎ澄ませた。

 

「……それは、私に対する侮辱ですの?」

「ターンエンド時、私はこのカードを発動させます」

 

 アンリエールの凄みなど意にも介さず、白面の女の指先はセットされていたカードへと向かった。その仕草には否定も肯定も無い。無味無臭の機械的な行動。

 

 

 

「……セットカード《アーティファクトの神智》、発動」

 

 

 

 何の前触れも無く放たれた3つ目の『名』に、会場の誰もが背筋を凍らせた。




~今日の最強カード~

―**―(アスタリスクス) 炎猴皇(ハヌマーン)
☆9/炎属性/獣戦士族・シンクロ・効果/ATK 2800/DEF 1000

チューナー2体+チューナー以外のモンスター1体以上
①:このカードがS召喚に成功した時、以下の効果をそれぞれ発動できる。
●このカードのS素材としたモンスターの種類の数まで相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードを破壊する。
●このカードのS素材としたモンスター1体を対象として発動できる。エンドフェイズまで、このカードはそのカードと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。
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