遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第32話 楽しいデュエル

【煽里】LP7200→5100

 

『き、決まったーっ!! 両者一歩も譲らぬ接戦の末、遂にアンリエール選手のダイレクトアタックが煽里選手へと届いたぁ~!!』

『ナイスパンチですね』

 

 会場に響く大歓声に白熱したコーパルの実況が響く。 

 流石のアンリエールも、この一撃の成功には安堵の溜め息が漏れた。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンドですわ。起き上がれないところを見ると、どうやら相当ショックを――?」

 

 横たわったまま動かない白面の女の肩が、僅かに上下した。

 何か、呟いている?

 

「…………、…………」

 

 1人、また1人。

 会場の人間が声を静めていく。

 

「何だ? 一体……?」

 

 声を聞こうと、耳を潜める。

 そして完全に会場が言い知れぬ静寂に包まれた、そのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッく あははははははははは!! あははははははははは!! あははははははははは!! あははははははははは!! あははははははははは!! あははははははははは!! あははははははははは!! あははははははははは!! あははははははははは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 白面の女からこぼれだしたのは、まるで壊れたテープレコーダーのように繰り返される、不気味な笑い声だった。

 

 腹を抱えて楽しそうに、という訳でもなく。

 自棄になって無理矢理にひねり出している苦笑でもない。

 

 それはただ本当に『笑っている』だけの、感情の篭っていない純粋な笑い声だった。 

 

「……な、何を笑っていますの……!?」

 

 気味が悪い。心の底からそう思ったアンリエールの顔は引き攣っていた。

 強がることも、余裕の表情も。今はどんな仮面も被れない。

 

「あははははははははは!! あははははははははは!! あははははははははは!!」

「お黙りなさいッ!!」

 

 耐え切れず、アンリエールは叫んだ。

 まるで尾を丸めて後退しつつ、キャンキャンと吠え立てる子犬のように。

 

「……………」

 

 ぴたり、と。女は笑うことをやめた。

 緩慢な動きでゆっくりと立ち上がりながら、女はポツリと言葉を漏らし始めた。

 

「……だってしょうがないじゃん。こ~んなに楽しいデュエル、久しぶりなんだもん♪」

「は……?」

 

 目の前にいる女は、誰だ?

 

「あ、そうそうまだデュエルの最中だったよね? 『あたし』はエンドフェイズにリバースカード発動、《バースト・リバース》!! LPを2000払って、墓地からモンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚っ!!」

 

 弾むような機械音声。その発信源は依然として表情の窺えない白面の女のまま。

 訳が分からない。得体の知れない不気味さに、アンリエールの足は意図せず後退していた。

 

【煽里?】LP5100→3100

 

「選択したのは《エルシャドール・ネフィリム》!! という訳で、もうあたしがターン貰っていいよね? いいよねっ? ドローっ!!」

 

 その姿はまるで、プレゼントを貰ってビリビリと包装紙を破いていく子供のようで。

 

「お、おい巫女の姉ちゃん!? 何やってんだ作戦無視してんじゃねーよ!!」

 

 一周り年下の燐路からではあるが――叱咤を受けるのも、またそんな光景を彷彿とさせるのに十分だった。

 

「うるさいなぁ……結局大会に出たって全然デュエルさせてくれないし、【猟犬】のオジサン達だって全然面白くなかったもん。センちゃんの真似しててもつまんないし、このウサちゃんとは『あたし』がデュエルしたいの!!」

「なっ、バカ――!?」

 

 女が白面に手を掛ける。

 燐路の狼狽など間に合う筈も無く。仮面の下の素顔は、白日の下に晒された。

 

「……あれ、って」

「……え?」

 

 その素顔を見たクラドと藍が、そしてすっかり怯えた表情のアンリエールまでもが、ある人物に視線を集中させた。

 

「――陽依(ヒヨリ)?」

 

 クラド達からしてみれば、カードに囚われていた筈の探し人が目の前にいて。どういうことだという目を向けたくなるのは分かる。

 それでも。ユウ=キリサキは、信じられないといった面持ちでその名を呟くことしか言葉を返せなかった。

 

「ふぅ、これでスッキリ! それじゃあデュエル続行ぉ~♪ まずはネフィリムを反転召喚させて、魔法カード《影依融合》を発動っ! デッキから《シャドール・ドラゴン》と《ペロペロケルペロス》を素材として融合召喚!!」

 

 鼻歌でも歌い出すように、白面の女――ヒヨリの指先はディスクの上を滑っていく。

 長い二房の三つ編みが、ふわりと揺れた。

 

「影覆う翼よ、三つ首を携えし玩具の獣よ!! 殺戮傀儡の名に依りて今1つとならん……出でよ、融合召喚っ!!」

 

 ぱしん! と。勢い良く合掌したその仕草に、それまでの静けさはなかった。

 全てを飲み込む獰猛な黒炎。それが彼女の本質なのだと、この場の誰もが理解する。

 

「全て蹴散らせ、《エルシャドール・シェキナーガ》!!」

 

《エルシャドール・シェキナーガ》

☆10/地属性/機械族・融合・効果/ATK 2600/DEF 3000

 

 中に浮かぶのは、ネフィリムに良く似た巨人を中央に据えた四足の巨大要塞だった。

 不気味な駆動音を立て、並び立つネフィリムの上空からちっぽけな会場を見下ろしている。

 

「更に融合素材として墓地に送られたドラゴンの効果、場の魔法・罠カード1枚を破壊する! 選択するのは《ゴーストリック・ハウス》っ!!」

「さ、させませんわ!! 罠カード《ゴーストリック・アウト》発動!! 手札のランタンを見せて、このターン……」

 

「知ってる知ってる♪ だからあたしは、それにチェーンして手札から速攻魔法《サイクロン》を発動っ!!」

 

 アンリエールの体に、稲妻に打たれたような衝撃が走った。

 こんな強引な方法で突破をしてくるなんて……いや、そんな芸当が出来るまでに、この女はデュエルを知り尽くしている、のか。

 

「なっ……!?」

「逆順処理。ちょっと発動が遅かったね♪」

 

 詰まれたチェーンは、上にあるものから順に解決していく。この場合で言えば《サイクロン》→《ゴーストリック・アウト》→《シャドール・ドラゴン》の順だ。

 一番最初に解決する《サイクロン》の段階ではアウトの破壊不能効果は適用されていないため、何の問題も無く効果が適用されてしまう。この手を回避するには相手の行動を見てからでは遅かった、ということだ。

 

 相手のターンに入ってすぐ、スタンバイフェイズで発動していれば。

 僅かな油断、その結果が招いた絶望にアンリエールの中にあった『何か』が、幽霊館(ハウス)と共に砕け散る。

 

「……巫女。楽しむのは構わないが、責務はしっかり果たして貰おう」

「はいはい、分かったよー長様。心配しなくても、これからちゃんと『出す』よ?」

 

 愕然と目を開くアンリエールなどお構い無しに、口を尖らせて慶爍に言葉を返すヒヨリ。

 歪な笑みを浮かべた彼女は、再び獲物へ向き直る。

 

「それじゃあ続けるよ? 手札から《貪欲な壷》を発動。墓地のミドラーシュ・エグリスタ・ビースト・ドラゴン・モラルタの5体をデッキに戻して、カードを2枚ドローっ!!」

 

 手札に舞い込んだカードを見て、ヒヨリの目が爛々と輝いた。

 

「……デッキを信じれば必ずカードは答えてくれる。これって凄く『胸アツ』だよね?」

「な、何を戯言を……」

「戯言じゃないよー? ま、いいか。これから身をもって体感して貰う訳だし」

 

 くるくるとカードを弄んで、ヒヨリは1枚のカードをディスクへと差し込んだ。

 

「……手札にはランタンが2枚。場には《ゴーストリック・ブレイク》が1枚」

「ッ!? な、何故それを!?」

 

 言い当てられたカードの数々に、思わず上ずった声を上げたアンリエールだったが。

 

「何でって。今ウサちゃんは手札も場も、全部デッキからサーチしてきたカードばっかりでしょ? 要するに――」

 

 ヒヨリはずっと、見ていたのだ。アンリエールが何をサーチしてきたのか。何を使ったのか。

 当たり前と言ってしまえば当たり前のこと。しかしそれを、興奮余る試合の中でやり遂げるのは中々に難しい。

 

「何を出しても、今なら怖くないっ♪」

 

 白面の下に隠されていたその素顔は。

 強者と呼ぶに相応しい確かな実力と、言い表せぬ不気味な狂気だった。

 

「さ、行くよ? 速攻魔法《神の写し身との接触》を発動!! 手札の《シャドール・ハウンド》と《シャドール・ヘッジホッグ》を融合っ!!」

 

 渦を巻く2体の影依人形。

 この素材から出現するのは、恐らく先程《貪欲な壷》で回収したミドラーシュだろう。

 誰もが、そう予想を立てた。

 

「影を追う執念の爪よ、影に依り添う千の針よ。太古の記憶呼び覚まし、今1つとならん……」

 

 読み上げる祝詞も先程と変わらない。

 そう、ここまでは。

 

「……されど、その身に混ざるは狂乱の鎖」

 

 突然差し込まれた祝詞に、召喚エフェクトに異変が起こる。

 ミドラーシュとしての形を成そうとしていた『ソレ』に、突然どこからとも無く現れた不気味な紅い鎖が巻きついたのだ。

 それはまるで繭のようであり、胎動するその様は何かの心臓のようにも思えた。

 

「偽りの姿破りて、四度現世に乱れ咲け……!!」

 

 ギラギラと妖しく輝きを放つ、ヒヨリの瞳が見開かれる。

 激しく合わせられた掌は指先まで上気し――乾いたその音を引き金に、『ソレ』は一気に弾け飛んだ。

 

 ――紅き牙が空に吼える。ピンと立てた耳や尖った顔立ちは狼のようであり、しかしどこか違う。

 

 ――竜のように長い胴が渦を巻く。しかしどこを見渡しても手足は無く、そんな思考に至ったことこそが『蛇足』だったと悟る。

 

 ――尾の先は九つに分かれ、揺れる。紅い花弁を妖艶に撒き散らすソレを、皆は一様に見入ってしまった。

 

「融合ぉ召喚ッ!! 憑き出でよ、《―**― 紅狐蛇(ヘレイネ)》!!」

 

 これまでに現れたどれよりも禍々しく、そして妖艶な輝きを放つソレは。

 紅い鎖を掻き鳴らし、会場に渦巻く全ての声を飲み込んだ。

 

《―**― 紅狐蛇》

☆6/炎属性/爬虫類族・融合・効果/ATK 2400/DEF 2000

 

「な、ん……ですの……?」

 

 足が、震える。

 ヘレイネと比べて圧倒的な巨躯を誇る2体のシャドール達ですら、そのカードが放つ異様なプレッシャーの前では霞んで見えた。

 

「ウサちゃんも『4番』を見せてくれたからね、これでお相子だよ♪」

 

 その声にはっと引き戻されたアンリエールが、弾かれたように向き直ると……そこには目だけを爛々と輝かせたヒヨリの『笑顔』があった。

 どこか恍惚とした様子のヒヨリは、腕を伸ばして宣言する。

 

「あははは、行くよ……? まずはヘレイネの効果を発動っ!!」

 

 アンリエールの元へ、ヘレイネがまるで触手の様にして鎖を伸ばしていく。

 それらが別々に意思を持つかのように動き回り、手札の周りをうろつき始める。

 

「な、何を……!?」

「1ターンに1度。カードカテゴリを1つ選択し、相手の手札を確認する。もしも宣言したカテゴリのモンスターカードが手札にあれば、場に存在する同じカテゴリのモンスターのコントロールを得る」

「なっ……!?」

「尤も、ハズレた時はあたしの場のモンスターのコントロールは全部相手に移っちゃうんだけど……そんな心配、いらないよね?」

 

 手札には筒抜けになった2枚のカードしかない。

 場にはたった1体のモンスター……今は《ゴーストリックの駄天使》と名を変えたファントムだけが佇んでいる。

 

「あたしが宣言するのは勿論「ゴーストリック」♪ さ、手札を見せて?」

 

 震える指先を返し、形式上の確認を取る。

 それでもまだ、手札のこのカード達が自分の身を守ってくれることだけが救いだった。

 

「アッタリ♪ それじゃ『4番』のウサちゃんは貰って行くよ? 効果発動、舞え!! 『血族の反鎖(ブラッディ・チェイン)』!!」

 

 先端に刃の付いた鎖が桃髪の少女の胸を貫く。

 苦しそうな呻き声を上げたのも束の間、串刺しのままヒヨリのフィールドへと連れ去られてしまった。

 

「ファントムッ!?」

 

 泣き出しそうなアンリエールの悲鳴を聞き流し、考え込む仕草を見せるヒヨリ。

 

「うーん、でもどうしよう? 手札にはランタンが2枚、場にはブレイクもあるし……これじゃしばらく踏ん張られちゃいそうだねぇ? という訳で、魔法カード《手札抹殺》を発動♪」

「……え?」

 

 突きつけられた、絶望。

 僅かに残った希望は、運否天賦の得体の知れないドローカードに託された。

 

「あたしは手札を1枚、ウサちゃんは手札2枚を捨ててカードをドロー……ってごめんごめん、また「説明なんて不要ですわ~」って怒られちゃうね?」

 

 胸の中で渦巻く憤りよりも、目の前の相手がただただ恐ろしい。

 底が見えない相手に怯えるアンリエールは、淡々とカードの処理に従った。

 

「最後の最後まで希望を捨てないっ、ライフが尽きるそのときまで~ってね! で、あたしもドロー。効果で墓地に送られた《影依の原核》の効果で墓地の《神の写し身との接触》を手札に加えるよっ、と」

 

 ドローしたカードに、目を落とす。

 

「ねぇねぇ、何引いた? デッキはちゃんと応えてくれた?」

 

 ――ブラック・ホールに、死者蘇生。

 

 確かに、デッキはアンリエールの願いに答えてくれたのかも知れない。

 次のターンが、訪れていたらの話だが。

 

「ま、それもこの攻撃で分かるとして……バトル!! まずはファントムで、プレイヤーにダイレクトアタック!!」

 

 ケタケタケタケタ。

 

 三日月に口を歪め髪を振り乱し。

 鎖で胸を貫かれたままの、駄天使の姿を借りたファントムが笑う。

 

「ひっ……!?」

 

 思わず後退するアンリエールへ、ファントムは血走らせた目をぎょろりと向けた。妙にギクシャクとした動きで白黒の羽根を飛ばすその姿に、悪戯好き(ゴーストリック)の愛らしい面影は残されていなかった。

 

「ッ!? っぐ、ぅああああああッ……!?」

 

【アンリエール】LP7600→5500

 

 先程のヒヨリと同じように、アンリエールが後方へと吹き飛んだ。

 黒のドレスでは分かり難いが、体中に受けた傷から血を流して。

 

「おい、今の……」

「ええ、何か様子が……まさか!?」

 

 アンリエールの只ならぬ悲鳴に何かを察したクラドは、リタイアのサインをコーパル達審判員へと送った。

 コーパル達もシステムの異常を疑ったのだろう、対応は迅速に行われた。

 

『了解しました! 【にじいろ団】さんのリタイア宣言を受け、この試合【猟犬】チームの勝利と――』

「続けてバトル!! シェキナーガでダイレクトアタック!!」

「なっ!? オイ待て!?」

 

 クラドの制止など、もはや届かず。

 ゆっくりと起き上がりかけたアンリエールに、今度は上空から無数の砲弾が降り注いだ。

 

「ぅあぁああああああああッ!!?」

 

【アンリエール】LP5500→2900

 

 尋常ではない悲痛の叫びに、会場もようやく騒然とし始める。

 尚も止まらない攻撃宣言に、コーパルも語調を強めた。

 

『ストップです煽里選手!! この試合はもう――!!』

「何で? まだ分からないじゃない? ライフが0になるその瞬間まで、決闘者は絶対諦めちゃいけないんだよ。最後の最後の、最後まで……」

 

 にたり、と。

 狂気は鎌首をもたげて、笑った。

 

 

 

 

「さぁ。楽しいデュエルを、続けよ?」

 

 

 

 

 残るモンスターの攻撃は、2体。

 

「……あっはははははは!! バトル、ネフィリムでダイレクトアタック!!」

 

 勝負は既に決している筈だ。手札にも場にも攻撃を防ぐカードは無く、当の本人はぐったりとうつぶせに倒れこんでいる。

 それでも尚、ヒヨリは攻撃宣言を止めない。

 

「審判員!! 何やってんだ早く回線を切れよッ!!」

『回線は既に遮断しているんです!! でもどうしてかデュエルが止まらなくて――!!』

『……かくなる上はっ!!』

 

 本来はプレイヤーにペナルティを課すための『お仕置き』システムを最大出力で作動させたネフが、キッと口を真一門に結んでヒヨリへと『打ち放った』。

 弾頭を赤く染めた無数のミサイル。所詮は半仮想現実ではあるが、気絶させる程度の威力ならある。

 

『これもプレイヤーの安全確保の為……南無三!!』

 

 しかしネフの放った攻撃は、紅い鎖によって全て打ち落とされてしまった。

 跳ね返され、あらぬ方向へと飛んだミサイルが観客席の方面へと飛んでいく。

 

『馬鹿な……!?』

 

 幸い防壁によって直撃は免れたものの、事態はこれで一気に混乱を増した。

 

「邪魔しないでよ……今はデュエルの最中でしょ?」

 

 動かないアンリエールの胴に、ネフィリムの影糸が巻きついていく。

 いとも容易くその細い身体を宙へと持ち上げると――無慈悲な女神は、幽霊姫をそのまま地面へと叩き付けた。

 

【アンリエール】LP2900→100

 

「お嬢ぉッ!!!!」

「これで詰み(チェックメイト)!! ヘレイネでダイレクトアタック!!」

 

 くの字になってうずくまるアンリエールの元へ、藍もクラドもがむしゃらに駆け寄ろうとした――その視線の先には既に、血塗れた幽霊姫を抱える1人の男の姿があった。

 

「……あれ?」

 

 放たれた真紅のブレスは、2人を包んで燃え上がったかのように思われた。

 白く輝く翼を広げ、咆哮する龍の姿が見えるまでは。

 

「……決闘者に直接的な危害が及んだ場合、『審判員機構(ジャッジアプリ)』が状況を判別。正当防衛が可能と判断された場合、簡易的な『ARヴィジョン』を展開」

 

 その背中は、『直接的な危害』をしっかりと受け止め焼け焦げていた。

 

「被害側の決闘者はカードを半実体化させ攻撃が可能となる……この世界では常識だ。覚えておけ、陽依」

 

 対峙する、紅の蛇と白き龍。

 一瞬顔を輝かせたヒヨリだったが、ユウの姿を見つけると眉を寄せて怪訝そうに笑顔を曇らせた。

 

「誰? デュエルの邪魔しないで」

「……随分な物言いだな。どうやら本当に頭のネジをどこかへ置き忘れてきたらしい」

 

 互いの視線が交差する。

 ヒヨリの目にはただただ不快の色が、ユウの目には僅かに困惑の色が漏れ出ていた。

 

「う、ぅ……」

 

 ユウの腕の中で、アンリエールが僅かに呻いた。

 彼女がプロの決闘者として培ってきた精神力と肉体が、僅かに命を繋いだらしい。ユウがそっと頭を撫でると、ルージュの瞳がうっすらと開いた。

 

「……ゆ……さ、ま……」

 

 想い人の腕の中で抱かれていることが分かったのだろう。アンリエールは本当に嬉しそうに微笑むと、かくんと深い眠りへ落ちていった。

 呼吸が続いていることを確認して、ユウは視線をヒヨリへと戻す。

 

「何かつまんなくなっちゃった。まぁいいや、目的のモノは手に入ったし」

 

 ひらひらとファントムのカードを弄んで見せると、ヒヨリはディスクを下げた。

 

「……待て、それは他人のカードだ。決闘者として最低限の礼儀すら忘れたか?」

「だからキミ誰なのさ、うるさいなぁ。『コレ』はそういうモノなの、あたしだって欲しくて取ってる訳じゃないよ」

 

 混乱の元凶となったモンスター達が消えていく。

 そのタイミングを計っていたのか、担架を担いだスタッフ達や何やら物騒な装備に身を包んだ男たちまでワラワラと3人の周りを取り囲み始めた。

 これだけの騒ぎを起こしたのだ、ペナルティどころの騒ぎでは無い。当然ながら【猟犬】の2人も取り囲まれている。

 法の番人ことコーパルとネフも、実況席を離れて鼻息を荒くしている。

 

『逃がしませんよ不届き者ども!! スタッフさん達、やっておしまい!!』

「賑やかになってきたねー。という訳であたしたちはオサラバかな、縁があったらデュエルしようね?」

 

 ひらひらとヒヨリが手を振った、その刹那。

 どこからともなく現れた真紅のD・ホイールが全てを掻き回し……いつの間にか現れた自動操縦の2台を含めた3台のD・ホイールは皆を嘲笑うかのように逃走してしまった。

 

 

 

 会場の通用口をD・ホイールが駆け抜け逃走したことで、スタッフや観客も含めて負傷者は数人出てしまったものの、大会として大きな被害は無かった。

 しかし後日、【猟犬】を構成していた旅団メンバーが忽然と姿を消していたことが明らかとなった。その中に、ユウ達が対峙した筈の3人の名前は無く。

 

 Bブロック通過チームは無し。結果としてAブロック勝者の【ドミノ】が大会の優勝旅団として名を刻み――SSCは、その幕を閉じた。




~今日の最強カード~

―**―(アスタリスクス) 紅狐蛇(ヘレイネ)
☆6/炎属性/爬虫類族・融合・効果/ATK 2400/DEF 2000

このカードは自分がモンスターを融合召喚する際、その融合モンスターをゲームから除外することで代わりにエクストラデッキから融合召喚扱いとして特殊召喚出来る。この方法で融合召喚に成功したこのカードは、以下の効果を得る。
①:1ターンに1度、カードカテゴリを1つ宣言する。その後相手の手札を全て確認し、宣言したカテゴリのモンスターが手札に存在した場合、相手フィールド上の宣言したカテゴリと同じカテゴリのモンスターのコントロールを可能な限り得る。
宣言したカテゴリのモンスターが相手の手札に存在しなかった場合、自分フィールド上のモンスターのコントロールは可能な限り相手に移る。コントロールを得るモンスターを選択しなければならない場合、その選択は相手が行う。
②:このカードが破壊された場合、除外されている「アスタリスクス」モンスター1体をデッキに戻す。



ベル「あの、ミドラーシュが除外された描写が無いんですけど……?」

ヒヨリ「ちょっとした演出だよん♪」

アンリ「……そこはしっかり説明して欲しかった、ですわ」


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