遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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しばらく更新が不安定になりそうです(涙)

最近、イラストの方に少しばかり力が入ってます。不定期ながら更新は続けて行きますので、ご理解よろしくお願い致します。


第3章 海の向こうへ
第33話 過ぎた嵐と波立つ心


 

「はむっ」

 

 お見舞いにとクラドが持ってきてくれたオレンジを咥えつつ、ベルは嬉しそうに目を細めた。サイドテールを解いてセミロングの髪を下ろし、白い病室の中で所々に包帯を巻いた彼女は何とも弱々しく見えるが、身体のダメージはというと軽い打撲で済んでいる。

 隣で横になっているアンリエールも痛々しい見た目ほど深刻な怪我も無く、あと2~3日もすれば病室を出ることになるだろう、とのことだった。

 それでも2人が入院を余儀なくされてしまったのは、『2日間意識が戻らなかった』という点に尽きる。脳にダメージが無いか精密な検査をする必要があったのだ。

 結果としては深刻なダメージこそ無かったものの、精神的なダメージが強いとのことだった。人間の脳というのは非常に良く出来ていて、あまりにリアルな錯覚を感知すると現実のものだと判断し、その影響は肉体にも及ぶらしい。スプーンと水滴だけで死刑囚に『刑を執行した』話は有名だという。

 通常のデュエルで使用されるARにはそういった『錯覚』が起こらないよう工夫されているようなのだが……ヒヨリ達が行う『闇のゲーム』はそういったリミッターを外しているのではないか、というのが現状で考えられるもっともな仮説だった。

 ともあれ無事に意識を取り戻した彼女達は、何か後遺症などが残る心配も無く無事に退院のめどが立ったという訳だ。

 

「本当に2人とも、大したことは無くて良かったぜ……」

「あはは、ご心配をおかけしました」

 

 ぺこり、と頭を下げるベル。何日かマトモな食事が取れなかったこともあって、今は純粋に味覚が楽しめることが何より嬉しい。

 

 ――これで病室の窓際と扉の前に黒服の男が控えていなければ、もっと手放しにクラド達のお見舞いを喜べたのだが。

 

「はは、何となく居づらいよな。まぁしょうがないさ、こっちはお嬢のついでに守って貰ってるんだ。感謝こそすれ、文句は無しだ」

「そうですね……でも、どうにも慣れなくて」

 

 どことなく居心地の悪そうなベルの様子を見て、クラドは頬を掻きながら穏やかに言い宥めた。

 ベルが目覚めたときには、広い病室にアンリエールと並んで寝かされ、黒服の男達に囲まれていた。黒服の男達は何を聞いてもだんまりで、アンリエールはまだ目を覚ましていなかったこともあり、状況を理解するのは看護師が巡回をしてきてからだった。

 

 大型旅団【猟犬】を壊滅状態に追い込み、成りすましてまで大会に出場したヒヨリと白面の女達。優勝を飾ったユーギ=ムトウが受け取った大会賞品が《―**―(アスタリスクス)》のカードだったことからも、彼女達がアスタリスクスに強い執着があるのは容易に察しがついた。ともすれば、取り逃したベルのヴァルキュリアを狙うべく再び襲撃してくる可能性が高い。

 念の為にとヴァルキュリアのカードはユウが預かったが、向こうがそんな事情を察してくれるとは思えない。そこで意識の無い無防備なベルを守ってくれたのは、アンリエール負傷の報告を聞いて駆けつけた『決闘組(デュエルマフィア)』の男達だった。個室を貸しきってお嬢を護衛するならついでに、といったところであったが、クラド達にしてみれば渡りに船だ。

 特徴的な桃色のツインテールを解き、布団に包まっている幽霊姫の背中越しに、クラドは柔らかく声を掛けた。

 

「お嬢、サンキューな」

「……別に。私の判断ではありませんわ」

 

 ところが、一方の幽霊姫はすっかりいつもの調子を落としてしまっている。

 悲惨な敗北がショックだったのか、闇のゲームの恐怖が抜け切っていないのか。あるいは両方か。

 

「目が覚めてからずっとこんな調子で……わたしとは口もきいてくれません」

 

 ひそひそとクラドに耳打ちするベル。成程なぁと苦い顔を浮かべたクラドであったが、何か思いついたように口端を曲げるとチョイチョイとユウを手招きした。

 

「センセー、悪いんだがお嬢にリンゴでも食べさせてやってくれないか?」

「……? ああ、構わないが」

 

 首を傾げるユウに、クラドが紅く熟したリンゴをほいと投げて手渡した。ユウはアンリエールのベッド横に椅子を置くと、果物ナイフを手にしてシャリシャリと皮を剥いていく。

 やがて6切れ程に切り分けられたそれを、ユウは布団を被ったままのアンリエールに差し出した。そんな姿を、ベルはちょっとだけ羨ましいなーと思いつつ眺めた。

 

「……アンリ。気落ちするのは分かるが、何か食べた方が良い」

 

 ユウが普段の調子で囁くと、布団を被っていた幽霊姫の顔が半分だけ、ひょっこりと顔を出した。

 

「…………もう少し、お近くに」

「? ああ」

 

 ユウがそっとその距離を詰めていく。

 そんな彼の動きとリンクするように、アンリエールの布団も徐々に下がっていく。

 

「もう少し、もう少し……」

 

 近づいていく2人の顔面距離。

 見れば、すっかり露になった幽霊姫の口元は、完全に「チュー」の形にすぼめられているではないか。

 

「なっ……!?」

 

 何やら不穏な企みを感じたベルが声を上げようとした、そのときだった。

 

「失礼」

 

 しゃくっ。

 黒いサングラスにブロンドの髭を生やした黒服の男がぬっと間に割り込むと、ユウの持っていたリンゴを一口齧っていった。

 

「……毒見でございます」

 

 低い地鳴りのような声が、不思議と病室に良く響く。口下手で不器用そうなその男はボソリと呟いて、何事も無かったかのように持ち場へと戻っていった。

 ユウはどこか納得したように頷いた後、そのままリンゴを差し出した。

 

「……アンリ」

「いえ、お気持ちだけで結構ですわ」

 

 幽霊姫のご尊顔はまたも、岩戸の中に隠れてしまった。

 

 

   **

 

 

「さて……そろそろ話してくれるよなセンセー? アンタのことも、シャドール使いの姉ちゃんのことを」

 

 この病室に集まったのは、何もお見舞いだけが目的ではない。実際に危険な目にあった2人を交えて、ユウが知っている限りで『何が起こっているのか』を説明してもらう為だった。

 

「……分かった」

 

 顔を出したアンリエールも交えて向けられる真剣な眼差しと、何より痛々しい2人の姿を見て、ユウはベルに話したことと同じ話をクラド達にも告げた。

 

 ヒヨリも自分も、別の世界の人間であること。カードに封印されていたこと。

 その証拠として、この世界では認知されていない『伝説の決闘者』がいたということ。

 

 更にユウは、ユーギ=ムトウが『伝説の決闘者』をなぞっているようだということと、 ヒヨリが何故アスタリスクスを狙う集団に関わっているのか分からないということを付け足した。

 ベルも、既に事情を知っていたことを明かして、自分はユウの話を信じると答えて見せた。

 

「……喋らせといて何だが、とんでもない話だからなぁ」

「私も、ここまで来て疑うつもりはないけれど……」

 

 にわかには信じ難い話ではあったが、黒服の男達が同席するこの状況で嘘をつくならもう少しまともな話はいくらでもある。それに全てを鵜呑みに出来ないとはいえ、2人の少女が何か不可思議な力で被害を受けたのは現実だ。

 そこまで考えて、クラド達3人は顔を見合わせて頷いた。

 

「……ま、異世界がどうとかいう話はイマイチ飲み込めねーが。センセーの恋路は応援するぜ? あの姉ちゃんも何か事情があるんだろ?」

「私もオカルトについては半信半疑だけれど……考えてみれば『忘却の青(こきょう)』だって元々はオカルトじみた存在だったもの。真実がどうなるか、最後まで見届けさせて頂戴?」

 

 そう笑顔を見せる2人に、ポーカーフェイスの表情は僅かに綻んだ。

 突拍子も無い話を受け入れ、変わらずの協力を申し出てくれたことに、ベルもほっと胸を撫で下ろした。

 

「……ありがとう。感謝する」

 

 一方、表情を曇らせているのはアンリエールだ。

 何だかんだとユウの看護を受けて調子を持ち直したかにも見えたのだが、今はどこか複雑そうな表情で俯いてしまっている。そんな彼女を気に掛けたクラドが、アンリエールに声を掛けた。

 

「どうしたお嬢? 何か引っ掛かるところがあれば今の内に……」

「っいえ、別にユウ様のお話を信じない訳ではございませんわ!! ただ――」

 

 はっと飛び上がり、首を振って否定したアンリエールだったが。続く言葉を見失ったように口をつぐむと、再び布団の中に潜り込んでしまった。

 

「悪い、お嬢。少し無遠慮だったな」

「……お気になさらず、ですわ」

 

 事態の整理が気持ちの整理にもなるかと今回の話し合いを提案したクラドだったが、少し急ぎ過ぎたかと申し訳無さそうに頭を掻いた。予想以上に、アンリエールが受けた傷は深いようだ。

 

「すまん、事態が事態なモンで俺も少し結論を急いじまった。退院してからまた皆で今後を相談しよう、連中もどう動いてくるか分からないしな」

 

 そう締めくくって、クラドはよっと立ち上がった。

 

「それじゃ、そろそろ行こうか? あんまり長居すると怒られちまうし」

「ええ。それじゃあね、ベルちゃん、アンリちゃん」

「はい、皆さんも気をつけて下さいね」

 

 ひらひらと手を振って、ベルは部屋を出て行く3人を見送る。

 すると。最後にユウがふらりと立ち止まり、布団に潜ったままのアンリに対して優しい声色で言葉を投げた。

 

「アンリ」

「……なんでしょう?」

「……プライドの高いお前には辛い経験だったかも知れないが。ここで折れるような決闘者ではないと、俺は信じている」

「…………」

 

 しばらくの無言が続いた後、パタンと乾いた音が響いた。

 部屋の中にはまだ何人もいるのに、少し広めの病室には取り残されたような静寂が訪れる。

 

「あの、アンリさ……」

 

 声を掛けようとしたベルは、ピタリとその声を止めた。

 小さく小さく押し殺した嗚咽が、布団越しに聞こえてきたからだ。

 

「…………」

 

 いつも高慢に振舞ってきた彼女からはとても想像できない『歳相応』の弱々しい姿に、思わずベルも動揺してしまった。

 考えてみればそうだ。自分と殆ど歳が変わらないにも関わらず、プロという舞台に立って華々しく活躍してきた彼女が……クラドから又聞きした程度でも悲惨だと感じるような目にあって敗北を喫したのだから。

 寝て起きてしまえば苦しみも忘れる、そんな単純な自分は幸せなのかもしれない。ベルはそこまで察して自分も布団を被って目を瞑った。

 

 しかし幽霊姫が抱えてしまった『痛み』は、ベルが考えているよりも少し複雑だった。

 

 

   **

 

 

「もしセンセーの話が本当だとするなら……ユーギ=ムトウは何か知ってやがるのか?」

「そうね……彼については私も気になるところが多かったし、詳しく調べてみるわ。彼の身柄が捕まれば一番良いのだけど、アレだけの報道陣に追われて逃げ切れる彼を捕まえるのは難しそうだし」

 

 宿に戻る道中、日が落ちかけたシガマの大通りでポツリと漏らしたクラドの疑問に、口元に手を当てて藍が言葉を返した。

 そんな2人を前に、ユウは伏し目がちに俯きながら呟いた。

 

「……本当に頭が下がる。2人共すまないな」

 

 ユウにしては少し珍しい言葉が飛び出したことに驚いたのは両名だったが。

 しばらく間を置いて、クラドが茶化すように答えた。

 

「謝ることはねーよ。他人の事情に首を突っ込んだのは、俺と姉ちゃんに関してはお互い様だしさ。協力するって決めた以上、しっかり仕事はさせて貰うぜ?」

 

 クラドの答えに、藍もこくんと頷いて同意した。

 訳も分からず放り出された荒野を歩いていた頃が幻であったかのように、今のユウにはこんなにも頼れる仲間がいる。今更ながら実感出来たその事実に、ポーカーフェイスが僅かに揺らいだ。

 

 ――デュエルは絆を繋ぐモノ。

 

 そう教えてくれた『彼女』の面影が、ふっとユウの脳裏を過ぎる。

 だとすれば。あの白面達は『今の彼女』が紡いだ絆、ということなのだろうか?

 

「おいおいセンセー、さっきから自慢のポーカーフェイスが崩れまくってるぜ?」

「っ……ああ、すまない」

 

 茶化しながらのクラドの指摘に、物思いからはっと意識を戻す。

 しっかりしてくれよ? と念を押され、ユウは普段の表情で答えた。 

 

「……皆の助力に見合った結果を出せるよう、俺も頑張ろう」

「おう。つー訳で、帰ったら早速やることは沢山だな」

 

 苦笑するクラドの表情が語るとおり、彼らがやらなければならないことは山盛りだ。

 どこから手をつけようか、などと話をしていると――。

 

 

「おや? 僕の噂はもう終わりですか?」

 

 

 渦中の人物――ユーギ=ムトウの声が突然、背後から投げかけられた。

 

「なっ!?」

 

 一同が驚いて振り向くと、そこには随分とラフな格好をしてはいたが、確かに本人が爽やかな笑みを浮かべて佇んでいた。

 試合中にも着込んでいた丈の長い白のコートではなく、少し柄の悪そうなワイルドファッション。派手な青い色合いの帽子を目深に被って変装していたのだろうが、今は鍔を少し上げて目元を晒している。

 その出で立ちはシガマの街に良く溶け込んでいた。本人から『自己申告』してくれなければ分からなかっただろう。

 

「驚かせてしまってすいません。どうにも最近、周りがうるさいもので」

 

 人差し指を口元に当てて、にっこりと声をひそめるユーギ。

 そんな友好的な彼の態度とは対照的に、ユウと藍はしっかりとユーギを取り囲むようにして逃げ道を塞いだ。こちらとしては絶好の機会だ、逃す手は無い。

 

「……おっと。そういえばその黒髪のお嬢さんも報道関係者でしたね、失念してました」

「安心して頂戴、私たちは『決闘王(デュエルキング)』のプライベートに興味はないわ。ただ少し正直に答えて欲しいことがいくつかあるだけよ」

「…………」

 

 藍の口から出た『その名』にユウは勿論、事情を聞いたクラドも薄気味悪さを感じざるを得なかった。

 注目度は高かったとはいえ、たかが地方の大会で優勝を飾った彼は自信満々に『その名』を自称した。本人の茶化したような性格や実力も手伝ってか半ば好意的に受け入れられ――辺境の地で誕生した『決闘王』の名は、今や海を渡り世界でも注目を浴びる存在となっているのだ。

 

 そんな彼の名声は、否が応にでもユウが知るという『伝説』と重なって見える。

 

「質問とは?」

「貴方の名前と、所持している妙なレアカードについてよ。別件で少し、色々と興味深い話を聞いたの」

「……結局は僕の個人情報ですか。まぁいいですよ、お答えしましょう。ですが代わりにコチラの要求を貴方達に――正確には『貴方に』受けて貰いたい」

 

 ユーギの視線の先に佇んでいたのは、ユウだった。

 

「……俺に?」

「ええ。それさえ引き受けて頂ければ、好きな女性のタイプでも何でもお話しましょう」

 

 ユーギの瞳が妖しげな光を灯す。

 底知れぬ何かに警戒を強めながら、ユウは淡々とした口調で答えを返した。

 

「……要求を呑むかどうかは、お前の回答によって判断する。俺達に何かさせたいなら、先にこちらの質問に答えて貰おう」

「先払いですか……納得のいかない取引方法ではありますが、まぁいいでしょう。僕のプライベートを明かすだけで望みが叶うなら安いものです」

 

 にっこりと微笑んで、ユーギは質問を促すように手を胸に当てながら続けた。

 

「さて、では何からお答えしましょう?」

「まずは名前について。それは偽名?」

「まさか? 僕の両親が心を込めて名づけてくれた、自慢の名前ですよ」

 

 けろりとそう言ってのけるユーギだったが、当然口先だけの言葉で納得できる筈もない。

 

「何か証明できるモノはある?」

「ええっ? そう言われましても……参ったなぁ、誰と勘違いしているのか存じませんが。身分証明なら一応、Dパッドの個人登録データを見て貰えれば……あ、そうだ」

 

 そう言って、ユーギは身分照明とばかりにDパッドに装填されている個人IDのカードを抜き取って差し出した。

 

「これを『皆様の』Dパッドで確認出来れば、妙な疑いも照明出来るかと。個人IDカードは複製や情報読み取りの難しい高度なシステムキーですが、Dパッド自体の改竄は比較的容易ですし、そういった手口の犯罪も増えていますからね。そちらのパッドで犯罪防止用のパスワードを僕が解くことが出来れば良い、という訳です」

 

 あまりにも自信満々な物言いに、とりあえずは従って見せると……ユーギはあっさりとパスワードを解き、藍のパッドで「ユーギ=ムトウ」の個人データを表示させることに成功してしまった。 

 

「……少なくとも、名前に関しては嘘じゃないってことね」

「信じて頂けましたか?」

 

 にっこりと微笑むユーギのすぐ傍で彼の情報に目を通していた藍だったが、ふとその出生に目が止まった。

 

「……KC(ナイトコーポレーション)デュエルシステム開発部、って……貴方KCの社員なの!?」

「はぁ!?」

 

 揃って甲高い声を上げたクラドと藍の口を、ユーギが慌てて塞ぐ。

 何事かと集中する人目に挙動不審になりながらも、ユーギは一同の手を引いてそそくさと脇道へ引っ張り込んだ。

 

「ちょっ、勘弁して下さい!? 目立つような行動は慎んで頂きたい!!」

 

 KCとは言わずもがな、かの審判員機構を生み出し世界中の決闘者にARという仮想戦場を与える、『文明の白』においてトップに立つデュエルシステム開発の総本山である。

 平社員ですら破格の高待遇、エリート中のエリートとっても過言ではない。そんな狭き門を、目の前の若者は潜り抜けたというのだから驚くのも無理は無い。

 落ち着いた頃合いを見計らって、ユーギは咳払いを1つしてから言葉を続けた。

 

「コホン……まぁ、僕の秘密といえばそれが秘密です。各地を回ってデュエルディスクのデータを集めるのが仕事なんですよ。久しぶりに休暇を貰って、賞品目当てに大会に出場してしまったのが運の尽きでした。はぁ、これからどうなることやら……」

「貴方の事情は何となく分かったわ……それじゃあ何故、そんな貴方が『見たことも無いような』レアカードばかり所持しているの?」

 

 ユウの話が本当なら、彼の所持しているカードも『伝説』と呼ばれるに値する、極めて珍しいモノだ。

 誰も知らない、そんな超レアカードばかりで構成されたデッキなど、明らかに不自然だ。

 それでもユーギはけろりとして、藍の疑惑に答えて見せた。

 

「あ、珍しくて良いカード達でしょう? 実は僕、コレクターも兼ねてまして。仕事柄世界中を飛び回っていますので、その行く先々でチョコチョコと」

 

 いかにもな言葉を並べるユーギに当然納得できる筈も無く、ユウは痺れを切らしたように1歩詰め寄った。

 

「……アレはそんな言葉で片付く代物では無い筈だ。お前は何を知っている?」

「それを言うなら。貴方達の持つ《―**―》も『珍しいで済まない』代物なのではないですか?」

 

 含みのあるユーギの笑顔が、ユウ達の間に僅かな緊張が走らせた。

 

「今でこそ世間では認知されていますが、かの《No.(ナンバーズ)》もかつては秘密裏に配布された特殊なモンスター・エクシーズでした。世界には我々の知らない未知のカードが山と存在する……そんなロマンが、僕はたまらなく好きなんですよ」

「……ふざけるな。ここまで『偶然』が一致する筈が無い、お前は何を――」

「僕はデュエルモンスターズを愛する、ただのコレクターですよ。それ以上でもそれ以下でも無い」

 

 だからこそ、と付け加えて、ユーギは懐から3枚のカードを取り出した。

 

「僕は運命を感じたんですよ。未知のレアカード《―**―》を所持した者達と繋がりを持つ貴方に」

 

 取り出されたのは、3枚のカードに、思わずクラドと藍が驚きの声を上げた。

 

「なっ……!?」

「これって……!?」

 

 ちらりと見えた名前には《―**―》の文字がある。内2枚はペンデュラムモンスターである、双子が使用していたカード達だ。

 

 ユウの眼光は鋭く、ユーギへと向けられた。

 

「……どういうつもりだ?」

「こちらの要求、というのがコレです。この《―**―》をお渡ししますので、存在する全ての《―**―》を手中に収め、ソレを僕に見せて頂きたい」

 

 不可解なユーギの言動に、藍からも疑問が飛び出した。

 

「……ユーギさん、コレクターを名乗るにしては随分と乱暴な演技じゃなくて? 第一それが望みなら自分自身で集めたいって思うのが普通でしょう?」

「先程お話しました通り、変な目立ち方をしたせいで思うように動けないんですよ。僕はずらりと並ぶ《―**―》のカード達、その光景が見れれば誰の手中にあろうと……いえ、『僕に見せてくれそうな』人物であれば誰の手にあろうが構いません。要するに、あの赤コートの『彼女』達は対象外ということです」

 

 両手を挙げて降参のポーズをとりながら、ユーギは続ける。

 

「聞けば赤コートの『彼女』達、随分と物騒だそうじゃないですか? だから僕の代わりに危険を冒して《―**―》を収集してくれる『代行者』が必要だったんですよ。カードの譲渡はせめてもの報酬代わり、とでも思って頂ければ良い」

「……なら何故、ユウ君を選んだの?」

 

 腕の良い、それこそ汚れ仕事が得意な決闘者など幾らでもいる。

 藍の尤もな疑問に、ユーギは含み笑いを浮かべて答えた。

 

「――カードは決闘者を選ぶものです。小麦肌のお嬢さんから貴方の手に渡った、そのカードのように」

 

 瞬間、3人の背筋に何か得体の知れないものが走った。

 ベルから預かったヴァルキュリアは今、確かにユウの手元にある。

 

「迷信やジンクスは結構信じる方でして。馬鹿馬鹿しいと思われるかも知れませんが、僕は本気で考えています。ユウ=キリサキ、貴方が全ての《―**―》を統べる運命にある、とね?」

 

 その手には未だ3枚の《―**―》が握られていた。

 深く、不穏な影を落とすそれを前に、ユウの喉が渇いていく。

 

「――以上が僕の事情です。理解して頂けましたか? この収集は勿論私情ではありますが……この数奇な巡り会わせを幸として、どうか受け取って貰いたい」

 

 笑顔を浮かべて佇む『決闘王』に、ユウはもう一度念を押すように問い掛けた。 

 

「……知っていることは、本当にそれだけか」

「強いて言えば『闇のゲーム』なるものについて、会社の方から原因を究明するよう指示が下されていたコトくらいです。コチラについては僕もサッパリですね」

 

 やれやれと首を振るユーギ。

 彼を完全に信用した訳では無い。しかしこのカードを受け取ることに関してメリットがあることも事実だ。

 このカードを多く所持していれば『白面の女』達から真っ先に標的とされるだろう。ユウにしてみれば願っても無いことだ。それにどの道、ヒヨリへ辿り着く上で《―**―》を追うことは避けられない。

 

「契約は成立……ですね?」

 

 気が付けばユウは、その3枚を受け取っていた。

 複雑な表情を浮かべるクラドと藍を振りほどくように、ユウは真っ直ぐにユーギを見据えて言った。

 

「……その代わり条件がある。《―**―》に関して何か情報を掴んだら俺に回して貰う。勿論『赤コート』達の情報も含めてだ」

「構いませんよ、それは僕の方からもお願いしたかったくらいです。では連絡先を……」

 

 ユウと連絡先を交換し合うと、ユーギはにっこりと微笑んで帽子を目深に被った。

 

「それでは皆さん、Arrivederci(またお会いしましょう)♪」

 

 雑踏の中へと溶け込んでいくユーギの背中を見送りながら、クラドはボソリと呟いた。

 

「良かったのか、センセー。これで」

「……ああ。後悔は……していないさ」

 

 手中に収まった4枚の《―**―》。

 脳裏に浮かんだ2人の少女を思い、ユウの中で1つの意思が固まりつつあった。




~制限改定の寸劇・舞台裏~

ヒヨリ「何で!? シャドール制限なんで!?」
アンリ「ボスキャラ弱体化wwwwwwwざまぁwwwwwww」

ネフィリム「本当に申し訳ない」
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