遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第34話 空っぽの幽霊屋敷

 

「冗談じゃねぇ!! 目の前の獲物をみすみす置いて行けっていうのかよ!?」

 

 甲高い怒声を上げて、笑顔の狐面を頭に被った少年――燐路が立てかけてあった鉄材に当り散らした。

 

「……そうだ」

 

 一団を纏める長たる慶爍は、ぴくりとも表情を動かさずに頷いた。

 白面の一団は現在、シガマから僅かに離れた廃村の小屋に身を隠している。大会運営からの通報を受けたセキュリティの捜査網から抜け出し、何とか腰を落ち着けたところだったのだが……慶爍が切り出した今後の決定は、奪取に失敗したヴァルキュリアを放置して『次の目的地』へと向かうことだった。

 

「……忘却の青(アトランタ・ブルー)の同胞から連絡があった。大陸各国の監視体制が強化されたそうだ。しかしアスタリスクスは依然未回収のままだ……今は我らが直接出向く必要がある。その為の手筈は整っているが、タイミングが限られている。だからこそ早急に青の地へ向かう必要がある」

 

 ユーギ=ムトウらの発揮した思わぬ実力。彼らの手にある3枚のアスタリスクスは『今は』見送る他無いというのは共通認識であったが……手頃な獲物を見逃すというのは、若く血の気の多い燐路としては納得がいかなかった。

 

「でもよ!! こんなトコロまで来て、収穫は『4番』1枚だけぜ!? それこそ皆にしめしがつかねぇだろ!?」

「……今は青の地へ潜りこむのが先決だ。この機を逃せば『儀』を行うことは永久に叶わないかもしれんのだ」

「それは『10番』も同じことだろ!? あんな弱っちい女が持ってる今、このときに奪わないでどうすんだよ!? どっかの旅団にでも掠め取られてみろ、それこそ……!!」

「もー、うるさいなぁ……頭がイタイって言ってるのに大声で叫ばないでよぉ……」

 

 煩そうに顔をしかめて、埃だらけの布団からむくりと起き上がったのは、銀の髪をボサボサに爆発させたヒヨリだった。

 じとりと向けられる眼差しに、燐路もイラついた表情で返す。

 

「んだよ!? 元はと言えばアンタ……巫女サマが勝手な行動ばかりとるから!!」

「えー……10番が見つかったのは、あたしのお手柄なんだけどなぁ」

「ッ、それだってそうだ!! そのときにしっかりブン取っていればこんなコトには!!」

「あたしを止めたのはキミのお姉さんだよ? あのまま続けてれば、勝負は分からなかったのにさぁ……」

 

 ぷうと可愛らしく頬を膨らまして見せるヒヨリだったが、その目は全く笑っていない。

 そんな2人の間に割って入るように、慶爍が低く呟いた。

 

「……意見は尤もだが、巫女。お前と同じ『奴隷』の生き残りであるあの男は危険だ。その調べがついたときからお前の正体を隠す、という取り決めを破ったのは見過ごせぬな」

「しつこいなぁ、それは昨日謝ったじゃん……もういい、もう1回寝る」

 

 完全にへそを曲げてしまったようで、ヒヨリは喚く様にそう声を上げると再び背を向けて横になってしまった。

 

「とにかくッ!! 俺はもう一度シガマに戻ってあの女から『10番』を回収する!! 1人だって行くからなッ!?」

 

 慶爍はやれやれと首を小さく横に振ると、すっと掌を上にして燐路へと差し出して言った。

 

「何だよ?」

「……止めはせぬ。だが『9番』は置いて行け。それは巫女が納めるべきものであり、お前の所有物(モノ)では無い」

 

 丸顔の少年の頭が、見る見るうちにフーッと赤く染まっていく。

 小刻みに震えだし、噴火5秒前といったところで、燐路は懐からデッキを取り出すとその中から1枚のカードを取り出し、差し出された大きな掌へと叩き付けた。

 

「上等だコラ!! んなモンに頼らなくたって『10番』程度回収して見せらぁ!!」

 

 ドスドスと木の床を踏み抜かんばかりに足音を立てて、燐路は立て掛けてあったD・ホイールの小型版であるスケボー型の『D・ボード』を抱えると、勢い良く小屋の扉を蹴り開けた。

 

「クソが……今に見てろよ!! 後で泣いて謝らせてやるからなッ……!!」

 

 黒と赤で炎を模した、何とも歳相応なデザインのD・ボードに飛び乗った燐路の姿は、あっという間に見えなくなってしまった。

 

 食料調達へ出ていた煽里が事情を聞き、深く大きな溜め息をつく事になるのはそれから程なくしてのことだった。

 

 

   **

 

 

 若い女性の看護士が、にこりと柔和な笑みを浮かべて言う。

 

「包帯を交換しましょう。失礼しますね~」

 

 看護士も同じネイティブ出身らしく、健康的な小麦肌が白い制服と対比して眩しく映った。こんな大きな街の病院に勤められているのだから、相当良い家の出身なのだろう。

 彼女が薄青の入院着に手を掛けた途端、ベルの顔はかあっと朱に染まった。

 

 ベルは、この時間が苦手だった。

 

 一応カーテンで仕切られているものの、薄布の向こうには厳つい顔つきの成人男性が数人控えているのだ。腹部を殴られたこともあり、湿布の交換などでどうしても上半身を露にしなければならないのは仕方が無いことなのだが……。

 

「まぁ、おっきい……羨ましいなぁ」

 

 これである。気恥ずかしさから頬を染めて俯いてしまうのは仕方が無い。

 毎回同じ看護士さんが来てくれるのであれば「止めて下さい」の一言で済むのだが。初見さんは大体『コレ』をきっかけに会話を始めてくる。

 同じ女性同士、患者とのコミュニケーションを図る為の話の種なのだろう。しかし病室の状況は前述の通りだ。少しはそうした配慮をして欲しい、と声を大にして言いたいところではあるのだが。微笑ましそうに喋りかけてくる看護士の様子を見るに、自分はまだまだ『子供』としてしか見られていないのだろうと解釈して、ベルは諦めた。

 

 少し身体を拭いてもらって、湿布を張り替えて貰った後。

 ガチャリと病室のドアが開いた音を聞いたベルは思わず飛び上がって胸元を隠した。

 

(まっ、まさか……こんな格好のときにユウさん達が!?)

 

 そんな懸念を裏切るように、その声はきょとんとした様子で呟かれた。

 

「お? 随分と豪華な部屋の使い方してんじゃねーか? 金持ちのやることは違うねぇ」

「馬鹿!! 本人達の前で言う台詞じゃないでしょーが!? 殺されるわよ!?」

「あはは、えっと……お邪魔いたします」

 

 姿が見えなくても、その光景はベルの脳裏にすぐさま思い浮かんだ。

 1回戦で激突し、ベルがデュエルの楽しさを学んだ対戦旅団、【AKATUKI】の3人だ。

 ぱあっとこみ上げてくる嬉しさはしかし、唐突に終わりを告げることになる。

 

「? 何だ、このカーテン……」

「!? わ、ま、ちょっ……!?」

 

 何の気なしにリーダーのフリンがカーテンに手を掛けようとしたものだから、ベルの口から心臓が飛び出しそうになった。

 

「「ストップ!? ストップ!!」」

「うお!? 何だお前ら!? 離せモガ!?」

 

 幸い、その無遠慮な凶行は息ピッタリな双子姉妹によって阻止された訳だが。

 

 

   **

 

 

「それにしてもビックリね、まさかデュエルで病院に運ばれたなんて。アクションデュエルで調子に乗って怪我をする奴ならそれなりに見たけれど……」

 

 腰に手を当て、姉のリリンが何ともいえない表情で呟いた。その横では妹のサラが椅子に座って器用にパイナップルを剥いている。

 フリンはというと、幽霊姫をからかってもあまり反応が無く飽きてしまったのか、今度は黒服の男に何やら話し掛け始めていた。

 

「噂なんかでは耳にしてたけれど……本当にあるんですね、闇のゲームって」

 

 どうぞ、と手渡されたパイナップルは半月状にカットされていて、1口大に切り分けられた果肉は皮を皿のように持ったまま手を汚さずに食べられそうだ。

 ぺこりと頭を下げて受け取ると、ベルは芳醇なその果実の甘さに思わず舌鼓を打った。

 

「アンリエールさんもどうぞ? 美味しいですよ?」

 

 上半身だけを起こして何やら物思いにふけっていたアンリエールは、サラの声にはっと気が付くと躊躇いがちに手を伸ばした。

 

「……ええ、頂きますわ」

 

 当然、彼女が口へ運ぶ前に不器用な男による『毒見』が挟まった訳だが、その光景に始めて遭遇した【AKATUKI】の3人はぎょっと目を見開いて驚いた。

 特に、目の前でちょっかいを出していた男が突然消え去ったフリンはそのリアクションも二回り程大きかった。

 

「……ええ、確かに美味しいですわね。ありがとうございますわ」

「何よ、随分と覇気が無いわね幽霊姫サマ? 入院して牙でも抜かれた?」

 

 ケタケタと茶化してみせるリリンの言葉にも、アンリエールは僅かに苦笑を浮かべただけ。流石に様子がおかしいと察した双子姉妹は、互いに顔を見合わせた。

 

「ありゃ? 意外とダメージ深刻?」

「仕方がないですよ。誰だってあんな怖い目に遭えば……」

「……ふぅん。ねぇ?」

 

 何を思ったのか。リリンがずい、とアンリエールへ顔を詰め寄らせる。

 

「あれから私、デッキを調整したのよ。ちょっと相手してくれない?」

「……この狭い病室で何を考えてますの? 常識というものを――」

「何もディスクを構えるだけがデュエルじゃないでしょ? そこの机でいいわよ、イカサマなんてしやしないから」

 

 出来ないような怪我でもないでしょと付け加え、半ば強引にアンリエールにデッキを握らせると、リリンはベッドの隣に椅子を持ち出し腰掛けた。

 渋々とした表情のアンリエールを意にも介せず、リリンはデュエルの準備を進めていく。

 

「ルールはまぁ…いつも通りでいいわよね? じゃあ先攻・後攻はコレで決めましょ」

 

 そう言ってリリンが取り出したのは白黒2色の6面ダイス。

 アナログアイテムであるが故に疑い出せばキリはないが、とりあえずアンリエールは黒のダイスを手に持ち、机の上に転がした。

 同時に振られたリリンの白ダイスは6。対して幽霊姫のダイスは2の面を晒していた。

 

「…………」

「じゃ、私の先攻ね。手札から《ジェムナイト・フュージョン》発動。手札の《ジェムナイト・ラピス》《ジェムナイト・アンバー》の2体を融合」

 

 いきなりの融合召喚。攻撃も出来ず、返しのターンで何も出来ずに除去される危険性も多い先攻1ターン目での展開……何か考えがあるのだろう。

 アンリエールの背中越しに隣のベッドから行方を見守るベルは、リリンの引き強さに感服していた。

 

「融合召喚、《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》」

 

《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》

☆5/地属性/岩石族・融合・効果/ATK 2400/DEF 1000

 

 リリンが右手掲げたのは、紫の衣を羽織った宝石乙女の融合体。

 宙に浮かび、両手を広げた優しく凛々しいその(シルエット)は――どこか、似ている。

 

「っ……」

 

 びくり、と小さくアンリエールの肩が震えた光景を、ベルは確かに見てしまった。

 

「この子は初のお披露目ね。効果を発動するわ、手札からは何も無い?」

「……ええ」

「なら効果を発動。デッキから《ジェムナイト・ラズリー》を墓地に送り、フィールドの特殊召喚されたモンスターの数×500ポイントのダメージを相手に与える」

 

【アンリエール】LP4000→3500

 

「更に墓地へ送られたラズリーの効果で、墓地のアンバーを手札に加えるわ。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 バーンダメージ、手札アドバンテージの回復。伏せたカードが大会タッグ戦で使われた『あのカード』であるなら、かなり滑り出しの良い1ターンと言える。

 流石とリリンに感服する一方で、ベルからは細い背中と流した桃髪しか見えないアンリエールの頼りない姿に言い知れない不安が積もる。

 

「……私のターンですわね」

 

 カードを1枚ドロー。6枚揃った手札を覗き見たベルは、それが対戦相手に有益な情報となってしまうことなど忘れ――思わず声を上げていた。

 

「――えっ?」

 

 モンスターカードが、1枚も存在していなかったからだ。

 

「……私は手札から《サイクロン》を発動。その伏せカードを破壊しますわ」

「なら、それにチェーン《グリザイユの牢獄》を発動。次の相手ターンの終了時まで

お互いにシンクロ・エクシーズ召喚は行えず、フィールド上のシンクロ・エクシーズモンスターは効果が無効化され、攻撃できない」

 

 やはり伏せられていたのは白黒のエクストラモンスターを封じ込める強力なメタカード。

 普段のアンリエールであったなら、ここで舌打ちの1つもして見せただろう。しかし今は……今の手札では、そんな必要すら無かった。

 

「……手札からフィールド魔法《ゴーストリック・ハウス》を発動し、カードを2枚伏せてターンエンドですわ」

 

 残された手札は2枚。

 手札誘発の多い【ゴーストリック】ならば、相手にしてみれば何より強固な壁とも見えるだろう。しかしハリボテのその裏側を知るベルは、驚愕を隠せない。

 

(そんな……どうして?)

 

《大嵐》

《サイクロン》

 

 手札に残されているのはダブついた魔法・罠カード除去。

 そして伏せられているのは――。

 

《ゴーストリック・パニック》

《つり天井》

 

 一発逆転のミラーフォースでもなければ、全てを打ち消す神宣でもない。

 そのどれもが発動条件すら満たせず、ただ黙して座すばかりの無意味なカードばかり。

 唯一主の身を守るのは、閑散とした埃まみれの幽霊屋敷だけ。しかしどうしたわけか、悪戯好き達の愉快な姿はそこには無い。

 

「私のターンね、ドロー。《ジェムナイト・フュージョン》の効果でラズリーを除外して手札に加え、そのまま発動。手札のアンバーと《ジェムナイト・オブシディア》を融合するわ」

 

 手札の内は知らなくとも、ベルの表情から何か様子がおかしいことを察したのだろう。サラは不安そうに眉を下げていたが、リリンは淡々とデュエルを続ける。

 

「《ジェムナイト・ジルコニア》を融合召喚。更に墓地へ送られたオブシディアの効果でアンバーを特殊召喚」

 

《ジェムナイト・ジルコニア》

☆8/地属性/岩石族・融合・効果/ATK 2900/DEF 2500

 

《ジェムナイト・アンバー》

☆4/地属性/雷族・融合・効果/ATK 1600/DEF 1400

 

「墓地のオブシディアを除外して《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加え、アンバーを二重召喚し効果を発動。《ジェムナイト・フュージョン》を墓地へ送り、除外されているオブシディアを手札に加えるわ」

 

 ジェムナイトが得意とする大量展開。

 アンリエールに残された希望は、もう1体が召喚され《つり天井》の発動条件が満たされることを願うしかない。

 

「ここでラピスラズリの効果を発動。デッキからラズリーを墓地へ送り、特殊召喚されたモンスター3体……合計1500ポイントのダメージを与えるわ」

「……ハウスの効果で、ダメージを半減致します」

 

【アンリエール】LP3500→2750

 

「ラズリーの効果でラピスを手札に加え、墓地のラズリーを除外。《ジェムナイト・フュージョン》を回収してそのまま融合するわ。素材は場のアンバーと手札のラピスよ」

 

《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》

☆5/地属性/岩石族・融合・効果/ATK 2400/DEF 1000

 

「……ラピスラズリの効果でラズリーを墓地へ送り、1500ポイントのダメージ。更にラズリー効果で墓地のアンバーを回収。そろそろ潮時ね」

 

【アンリエール】LP2750→2000

 

 2体目の宝石乙女。この融合召喚が通ったことで何か確信を得たのだろう。更に融合モンスターを展開することも可能だったにも関わらず、リリンはそれ以上の展開をしようとはしなかった。

 

「バトル、まずはラピスラズリでダイレクトアタック。続けてもう1体のラピスラズリ、ジルコニアの順でアタックするわ」

「…………」

 

 せめて、あと1体召喚されていれば。

 そう思ってしまったのは、恐らくこの部屋の中ではベルだけだった。

 ゴーストリックの戦術を考えれば、展開した裏側守備モンスターを巻き込むことなく発動する《つり天井》を警戒するのは珍しいことではない。リリンは必然の回避を行ったに過ぎないのだ。加えて、この攻撃が通ってしまえば――。

 

【アンリエール】LP2000→800→0

 

 幽霊屋敷のハリボテは、無残にも崩れ去るだけだ。

 

「…………」

 

 俯くアンリエールを尻目に、淡白な表情をしたリリンは強引にその手札を奪い取ると、続けざまにフィールドの伏せカードをも確認し始めた。

 そんな横暴にも、アンリエールは抵抗する素振りすら見せない。

 

「ちょっと、姉さん!?」

 

 一足遅れ、慌てて制止したのはサラだった。

 そんな彼女もハリボテの裏側を改めて確認すると思わず絶句してしまう。

 まさかこれ程とは、と。

 

「……へっぽこ以下ね。ヒドイ負け方をしたとはいえ、アンタも一応はプロでしょ? ここまで腑抜けるなんて、心の傷『だけ』じゃあ無いんじゃない?」

 

 言葉に棘があるものの、それは刃を交えた戦友が掛ける精一杯の気遣いだった。

 その証拠と言わんばかりに、奪い取るように確認した4枚のカードはトントンと揃えてアンリエールの元に返された。

 

「……貴女達には、関係ありませんわ」

「確かにね。でもね、ただアンタがこのまま腑抜けになっていったら、私たちが『あんなへっぽこに負けた決闘者』ってレッテル貼られちゃうもの。そんなの願い避けよ」

 

 様子を見に来たのもそれが目的だし、と口を尖らせて語るリリンに、サラは苦笑を浮かべている。その姿に何となく親近感を覚えるベルもまた、苦笑を浮かべていた。

 

「ま、部外者に話したくないならそれでもいいけど。せめてその子にくらいは話してあげたら? 寝ても食べても吹き飛ばない悩みなんか、他人に押しつけるのが一番よ」

 

 と言い切った本人が一番スッキリしたらしく、リリンは勢い良く椅子から立ち上がるとデッキを纏めて帰り支度を始めた。

 

「お、何だもう帰んのか? あれだけ来たい来たいって駄々こねた割りにはやけに……」

「うるさい!! 余計なことを言うな!!」

 

 無言で佇む黒服などお構い無しに、フリンへと掴みかかるリリン。

 その顔はルビーの如く真っ赤に染まっていた。

 

「イテテ……っと、褐色ちゃん。無口なアイツにもよろしく言っといてくれ~」

「あはは……それじゃあ私たちはこの辺で失礼するね。2人とも、早く元気になってね?」

「ムキーッ!!」

 

 荒ぶる姉とフリンを押し出すように何とか宥めながら、サラも病室を後にしていく。

 

「はい! あのっ、皆さん!」

 

 ドタバタと病室を出て行くその一瞬に、ベルは少しだけ声を張って言った。

 

「今日は、ありがとうございました! 次は絶対に……勝ちます!!」

 

 それだけのたった短い言葉だったが。

 ふっと振り返ったサラはにこりと微笑んで、「うん」と頷いて見せた。

 

 ベルが掲げていた「蟲惑魔」のカードを、しっかりとその目に焼き付けながら。

 

 

   **

 

 

「……やっぱり、そういうことなの?」

 

 月が雲に隠れた夜。宿の部屋で1人Dパッドを叩く藍が眺めているのは、インターネットの海が囁く『とある符号』だった。

 彼女の故郷に幻想の紅(クリム・クロア)が不法な侵入を執拗に始めたのは、1ヶ月前にとある噂が流れ始めた時期と一致する。

 

 ――ある開拓エリアから、妙なカードが発掘された。

 

 忘却の青はその性質上、海底領内をドーム上の居住コロニーがいくつも建設・開発されていくことで町や国が形作られていく。

 その為、新設されるコロニー内で旧大陸の遺跡などが発掘されることも少なくないのだが……。

 

(そんな大昔の遺跡から、デュエルモンスターズのカードが発掘されるなんて……?)

 

 デュエルモンスターズの歴史など、遡っても精々百数年が限度だ。

 そもそも。忘却の青と未開拓の橙、この2つの大陸資源を争って大陸間戦争が起きたのは青が発見された200年程前の話だ。

 武力で争い疲弊した大陸各国に、デュエルモンスターズによる代理戦争が提唱されたのはそれからしばらく経ってからのこと。それまでの軍事産業から現在のカード事業に転向したKC(ナイトコーポレーション)は、その恩恵を最も受けた企業であるとも言える。

 ともかく、代理戦争の手段として生み出されたデュエルモンスターズが何千年も前に沈んだ大陸遺跡と共に沈んでいる筈が無い。

 所詮は子供同士で盛り上がる『都市伝説』の域を出ない話だと、それまでならば笑い飛ばしていただろう。

 

 しかし。

 ユウから語られた異世界の存在が、闇のゲームの実体が。

 実際に起きた事実の全てが、そんな思考を否定する。

 

(……あの人達の狙いがアスタリスクスなら、そのカードも……?)

 

 確証は無い。しかしそれは恐らく『白面』達も同じ筈だ。

 ユーギ=ムトウが示した『アスタリスクスの回収』。ベルのヴァルキュリアを狙って再び襲撃してくる可能性も勿論あったが……彼らと再び対峙する為、それを旅の指標として定めた自分達にとってこの情報は無視出来るモノでは無い。

 何より、自分のホームグラウンドである青ならば『白面』達よりも身軽に動ける筈だ。

 

「……これは少し、相談してみる価値はありそうね」

 

 そう呟いて、藍がDパッドの通話機能に手を伸ばそうとすると――。

 

呼び出し(コール)……クラド君から?」

 

 それはつい先程「用がある」とユウと共に宿を後にしたクラドからだった。

 躊躇うことなく手を伸ばし、さっと通話モードへと切り替える。

 

「どうしたの、クラドく――」

 

 藍が言い切る前に、パッドに表示されたクラドは切羽詰った表情で叫んだ。

 

「病院でメイドちゃんとお嬢が襲われた!! 姉ちゃん、こっちに来れるか!?」




~なぜなに遊戯王~

ベル「デュエルの歴史が有史以前からあったなんて、そんな非ィ現実的な……」

??「世界はたった1枚のカードからかっとビングしたんだぜ!」
??「ああ!」

ベル「まじっすか……ぱねぇっす」
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