遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス) 作:kohatuka
「私には、お兄様がいますの」
サラ達が出ていってからしばらく経ってから、アンリエールがぽつりと口を開いた。
「……はい、前に少し聞きました」
ベルは、この街に着いたときの一幕を思い出した。
旅へ参加することに兄は快く承諾してくれた、などと言っていたアンリエールだったが、その『お兄様』と電話で口論する姿を藍が目撃している。同行について反対されていたらしいことは、その内容から察しがついたらしい。
本人が気丈に振舞っているので、このことは黙っていようとメンバーの中で意見は一致したのだが。そんな事情もあり、ベルは少し曖昧に答えた。
「……それなら、しばらく独り言を言いますわ」
少しずつ氷が溶けていくように、アンリエールの口から言葉が漏れ出した。
俯いたその瞼に、細くなった夕日のオレンジが反射する。
「お兄様は厳しく、とても強い人でしたわ。数々の舞台で勝利を飾り、沢山の観客を魅了して……私はずっと、そんなお兄様の後をついて歩かされました。だから
ずっと視線を自分の足元に向けられたまま、静かに語るアンリエール。
兄弟がいないベルには、心中の全てを察することは出来なかったが……それが心の錘になっていることは、何となく理解出来た。
「お兄様にとって私は後をついて歩く影。壇上でどんな賛美を頂いても、ただ空しいだけでしたわ。そのどれもが皆お兄様の『お下がり』ですもの。自分の分け身であるなら勝って当然、敗北など有り得ないと」
贅沢な悩みだと率直な感想を胸に抱いたベルだったが、人の心は決して貧富の差で秤をかけて良いモノじゃない。
皆どこかが欠けていて、どこかが満たされて。だからこそ、答えの無い『ソレ』を求めて人は繋がっている。
旅を通じて広い世界に羽ばたくことが出来た今だからこそ、ベルはそうも考えることが出来た。想像がつかない『栄光』を背負った幽霊姫の心の錘は、それこそ『比べ物にならない』のだろう。
周囲の期待に応え、努力をして結果まで出したのに。
たった一言「頑張ったね」の言葉すら貰えないなんて、そんなのは悲しすぎる。
「だからでしょう。ユウ様と出会い、敗北したあの日……目が覚めたようでしたわ。恋は人を盲目にすると聞きましたが、お兄様の背中だけを眺めていた私にとって良い目隠しになったのかもしれませんわね」
少しだけ頬に朱が差して、アンリエールの表情に僅かな色が戻る。
「この旅は私にとって初めての『反抗』でした。お兄様には了解を得たと言いましたが、私が一方的に護衛を送り返して勝手に付いてきただけですわ。資金援助と言っていたのもポケットマネーで……ああ、これは皆さんには内緒にして下さいまし」
とんでもない事実に、ベルは思わず目を丸くしながらも何とか頷いた。
「当然、お兄様はお怒りになったようですが。今日まで私を連れ戻そうともしませんでしたから。やっとお兄様に勝てたような気になって、旅の間はずっと嬉しかったですわ」
でも、と付け加えたアンリエールの横顔には暗く影が落ちた。
「それも、ここでお終いですわね」
「……え?」
アンリエールの言葉の先は、ベルも何となく察しが付いた。
それでも、疑問の声を口に出さずにはいられない。
「どうして、そんな――」
「お兄様は私を連れ戻すでしょうから。十中八九、間違いなく。無様に恥を晒した自分の影をこれ以上、野放しにしておく筈がありませんもの。加えて家宝を奪われたとあれば、相応の罰も覚悟しておく必要がありそうですわね……」
力なく苦笑するアンリエールに、ベルは思わず声を張り上げていた。
「そんなの……アンリさんはそれで良いんですか」
「……あまり気は進みませんわね」
「なら、何とかしてお兄さんに分かって貰うように――」
「言葉で無理ならコレで聞かせるしか方法はありませんが、言ったでしょう? 私はお兄様の影ですわ、一度でも勝った試しなどありません。尤も今は――」
そう力無く微笑んで、デッキを握ったアンリエールの手は震えていた。
「あの女に、歯向かう牙すら抜かれてしまったようですけれど」
闇のゲームを体験したことで植えつけられた恐怖。しかしそれ以上に、彼女の上にはとてつもなく大きな……『兄』という重圧が、押しかかっていた。そんなプレッシャーから何とか幽霊姫を支えていた柱は、あの1戦で見事に砕かれてしまったらしい。
「……デッキを握り、敗北することが恐ろしくなったのです。あの痛みが、お兄様の目が頭を過ぎってね。先程も見ましたでしょう? 駄目な主を見限って、この子達はちっとも応えてくれなくなってしまいましたわ……」
ぽたぽた、と水滴が落ちる音だけが静かに響く。
掛ける声を一生懸命に考えてから、ベルは静かに口を開いた。
「アンリさん、わたしも付き合いますから、頑張って一緒に――」
そう励まそうとしたベルに向かって、情けなく泣き顔に微笑を浮かべたアンリエールは、
「……ごめんなさい。私は貴女ほど強くは、ありませんの」
ぴしゃりと言葉を遮って、布団に潜り込んでしまった。
「……独り言に付き合って頂いて、ありがとうございましたわ」
テーブルには、ばらりと散らばったデッキが乱雑に置かれている。
ベルにはどこか、そんな悪戯好き達が寂しげに見えて。
「そんなの……」
らしくないですよ、と出掛けた声を飲み込んで、ベルはつとめて明るい声で言い換えた。
「……一緒に頑張りましょう。待ってますからね」
**
「ベルちゃん達が襲われたって、どういうことなの!?」
夜の街を駆け抜けながら、藍がDパッド越しにクラドへ問い掛けた。
通話先は何やら騒がしく、どうやら近くでデュエルが行われているようだ。時折弾ける様な物音が響く中、クラドは口早に説明した。
『そのままの意味さ、いや……どうにも黒服さん方が頼りなくてな、このところ許可を貰って夜中はセンセーと病室で張ってたんだよ。そしたら案の定だ』
クラドの口ぶりからして、黒服の護衛達は成す術なくやられてしまったらしい。
腕力ではユウ達などより上の筈だ。『白面』の一味らしく、おかしな力を使ったに違いない。
「……相手は何人いるの?」
『準決勝で俺らと戦ったガキンチョが1人だ。今はセンセーが相手をしてるが……これから増援がくるかも分からない、だから姉ちゃんにも声を掛けたんだ』
そういうことは自分にも話しておいて欲しかったのに、とついて出そうになった文句を飲み込んで、藍は短く溜め息をついた。
**
激しく争うような物音で飛び起きたベルは、咄嗟に枕元に置いてあったディスクを掴んで左腕に装着した。
「さて、邪魔な奴を片付けたところで――」
飛び起きたベルの目にまず飛び込んできたのは、自分と同じ位の背丈の小柄な人影だった。
紅い衣に狐の白面……そのシルエットは間違いなく『彼女』達と同じものだったが、その声は女性というよりは少年のものだ。ベルの中で、話に聞いていた人物像が思い当たる。
藍とクラドが敗北を喫した、アスタリスクスを所持する【ラヴァル】使いの少年――。
見れば、既に黒服の男達は一回り大きな体躯のモンスター達に組み伏せられてしまっていた。少年の両腕にはそれぞれディスクが付けられており、片方は倒れ伏した黒服の男のディスクと紅い鎖で繋がれている。
少年は黒服の男と強制的に『闇のゲーム』を行うことで、召喚された半実体のモンスターをそのまま暴力へと変換しているのだろう。
やはり標的は自分か……そう身構えた刹那。
「……あぁ?」
少年の声色は、ベルの前に立ちはだかった影を前にして怪訝に上ずった。
「何だテメェ? 用があるのはそこのおっぱいちゃんなんだよ、邪魔する気なら容赦しないぜ?」
徐々に鮮明になっていく視界が、見慣れたその背中を認識する。
「……それはこちらも同じだ。2人に手を出すなら俺も容赦はしない」
淡白な口調の中に、僅かに怒りの色が滲む。
「ユウさん!? どうして……」
「こういう事態に備えて、隠れて待機させて貰っていた。今はアンリと一緒にコイツから離れていろ」
それなら一言でも話してくれれば良かったのにとベルは思ったが、目の前の現実を見るに彼の憂慮は見事的中したらしい。
それは相手にとっても痛手だったようで、突然現れた邪魔者に苛立たしく声を荒げる。
「チッ、余計な真似を……!!」
そもそも少年はどこから入り込んだのだろう……と見渡せば、天井の一部に大きな穴が空いていた。天井裏から進入、同時に奇襲を掛けたといった具合なのだろうが、無茶苦茶にも程がある。
すると、怯えながらも精一杯気丈に振舞うアンリエールが声を上げた。
「あ、貴方!! 一体どういうつもりですの!? こんな場所で騒ぎを起こせばどうなるか――」
「うっせーな、少し黙ってろよ用済み女。いくら叫んでもこの部屋には誰も入れやしねーよ」
見ればドアの前と窓の前。狭い病室で立ち塞がるように召喚された2体のモンスターは、完全に出入り口を封鎖してしまっている。これでは折角駆けつけた救援も、容易には突破できない。少なくとも『騒ぎが大きくなるように』甲高く叫んだアンリエールの声は、今は無駄だったようだ。
「こうなったら仕方ねぇ、さっさとディスクを構えな能面男!!」
「……1つ尋ねる。カードを奪うだけなら何故デュエルする必要がある?」
「知るかよ、そういうモンなんだとよ。知ってたとしても教えねぇけどな」
「……そうか。なら、力ずくでも聞き出すだけだ」
互いに敵意を持つ決闘者同士、交わす言葉はこれ以上必要無い。
代理戦争として発展を遂げたその起源が示す通り、後はカードの刃を交えるのみだ。
「へっ、上等だ、後悔するんじゃねーぞ!?」
少年の左手に装着されたディスクから、紅い鎖が伸びる。
審判員を欠いた、まさに無法の決闘が始まろうとしていた。
「…………」
デッキは装着されていたディスクは勝手にデュエルモードへと移行し……両者は僅かに身じろぐと、声高らかに火蓋を落とした。
「「
【ユウ】LP4000 VS 【燐路】LP4000
闇のゲームの開始と共に、病室は倒れ伏した黒服たちをも巻き込んで、漆黒の霧が立ち込めていく。あっという間に、室内はその輪郭すら分からなくなった。
「……俺のターン。まずは魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》を発動。手札の《ライトロード・アサシン ライデン》を墓地へ送り、カードを2枚ドローし、デッキから2枚を墓地へ送る」
墓地へ落ちたのは《ライトロード・パラディン ジェイン》と《
「手札から通常召喚、《ライトロード・サモナー ルミナス》。その効果で手札の《超電磁タートル》を墓地へ送り、墓地からライデンを蘇生する」
《ライトロード・サモナー ルミナス》
☆3/光属性/魔法使い族・効果/ATK 1000/DEF 1000
《ライトロード・アサシン ライデン》
☆4/光属性/戦士族・チューナー・効果/ATK 1700/DEF 1000
並び立つは褐色の召喚師と暗殺者。
攻めることが出来ない先攻1ターンではあまり好ましくない『速攻』の布陣ではあるものの、手札の状況を見たユウは尚もデッキを加速させるべく宣言を止めない。
「……ライデンの効果を発動。デッキから2枚のカードを墓地へ送る」
続けて送られたのは《カードガンナー》《ライトロード・モンク エイリン》の2枚。
ライデンの持つ攻撃力上昇効果はディスクの処理に任せて省略し、ユウは本命とも言える宣言を言い放った。
「俺はチューナーモンスター・ライデンに、☆3のルミナスをチューニング……古の守り手、伝説の彼方より再来せん。シンクロ召喚、《ライトロード・アーク ミカエル》」
《ライトロード・アーク ミカエル》
☆7/光属性/ドラゴン族・効果/ATK 2600/DEF 2000
4つの緑輪が列を成し、白く輝く柱が天を突く。
光を裂いて現れた黄金の騎士は、剣を掲げて咆哮した。
「けっ、馬鹿の一つ覚えなシンクロ召喚だな……」
そんな光景を、少年は舌打ちをしながらつまらなそうに睨みつける。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド。ミカエルの効果により、俺はデッキから3枚のカードを墓地へ送る」
止めとばかりに墓地へ送られたカードは《ブラック・ホール》《暗黒竜コラプサーペント》《ライトロード・ビースト ウォルフ》の3枚。
「効果により、俺はウォルフを攻撃表示で特殊召喚する」
《ライトロード・ビースト ウォルフ》
☆4/光属性/獣戦士族・効果/ATK 2100/DEF 300
貴重な制限カードも墓地へ送られてしまったものの、それと引き換えとばかりにフィールドには白毛の獣戦士が召喚された。
(凄い、墓地に「ライトロード」を4種類貯めた上に攻撃力の高いモンスターまで……)
伏せカードも、更に手札が2枚残されているこの状況では、相手もかなり慎重に動かなければならない筈だ。
1ターン目としては悪手かもしれないが、相手の妨害が無い内に墓地を肥やすことを選択したのは、恐らく手札には既に《裁きの龍》があるからだろう。
内心で声援を送るベルの胸中とは相反し、少年は余裕の声色でターンを受けた。
「おいおい、それで終わりかよ? なら次はコッチから行くぜ? 俺のターン、ドロー!!」
白面の奥で、瞳に紅く光が灯る。
「俺は手札から魔法カード《炎熱伝導場》を発動!! デッキから「ラヴァル」2体を墓地へ送る!!」
少年がカードの発動を宣言した瞬間、場の空気が一瞬強張ったように感じられた。
ベルがふと隣を見れば、アンリエールが忌々しげに眉を寄せている。
「……最悪ですわ。初手にあのカードがあるなんて……」
「え?」
彼女が呟いた言葉の意味を、ベルはすぐに知ることとなる。
「墓地へ送ったのは《ラヴァルのマグマ砲兵》と《ラヴァル炎火山の侍女》!! そして墓地へ送られた侍女の効果を発動!! このカードが墓地へ送られた時、自分の墓地に《ラヴァル炎火山の侍女》以外の「ラヴァル」モンスターがあれば、デッキから「ラヴァル」モンスター1体を墓地へ送る事ができる!! 俺は2枚目の侍女を墓地へ送る!!」
侍女の効果に「1ターンに1度」という制約は無い。
つまり、2体目も同様に効果を発揮し――。
「2枚目の侍女の効果発動!! 同様に3枚目の侍女を落とし、最後にその効果で《ラヴァル炎湖畔の淑女》を落とす!!」
たった1枚のカードで、墓地に5体のモンスターが送られた。
墓地へ大量のモンスターを送るその意味は、ベルもよく理解している。だからこそ、口を噤んで息を呑む他無かった。
紅く滾る炎を蓄え、火山が噴火を始めるその瞬間まで。
「更に手札から魔法カード《真炎の爆発》を発動!! 自分の墓地から守備力200の
炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する!! 俺は5体の「ラヴァル」を特殊召喚ッ!!」
少年がディスクへカードを叩き付けた刹那、墓地を意味する紫色の魔法陣から紅蓮の炎が噴出する。
眩いばかりの熱量と輝きを持った炎を背景に、5つのシルエットが浮かび上がった。
《ラヴァル炎火山の侍女》
☆1/炎属性/炎族・チューナー・効果/ATK 100/DEF 200
《ラヴァル炎湖畔の淑女》
☆3/炎属性/炎族・チューナー・効果/ATK 200/DEF 200
《ラヴァルのマグマ砲兵》
☆4/炎属性/炎族・効果/ATK 1700/DEF 200
炎髪なびかせる妖艶な姿の女性型モンスターに、巨大な砲塔を2門背負った岩石兵士。 攻撃力は下級モンスターの域を出ないものの、今更ソレを指摘するのは間違いだ。
「さぁ行くぜ? 俺は☆4のマグマ砲兵に、☆1チューナー炎火山の侍女をチューニング!!」
噴出を始めた溶岩流は、最早止めようがない。
1つの緑輪と交わって変質したモンスターは、光騎士団を追い詰める為の石礫と化す。
「表裏一体、調和の混沌!! 無理を貫き終止を穿て!! シンクロ召喚、《幻層の守護者アルマデス》!!」
《幻層の守護者アルマデス》
☆5/光属性/悪魔族・シンクロ・効果/ATK 2300/DEF 1500
左手に盛る炎を、右手には光の盾を構えた黒白の守護者が降り立つ。
攻撃力こそ今一歩だが、このモンスターを召喚したことでユウの構えた布陣は一転してしまう。
「……厄介なカードだな」
「ハハッ、そうだろうな!? コイツが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法も罠も、モンスターの効果すら発動できねぇ!! お得意の《オネスト》ちゃんはコイツの前じゃクソの役にも立たねぇってワケだ!!」
「!? そんな……!!」
思わずベルが声を上げる。
ユウに残された手札は2枚。その内の1つが《オネスト》である可能性は少なくなかったが、これで攻撃力の劣るウォルフは確実に破壊されてしまうだろう。
頼みの綱はミカエルのみ。しかしそれも、後に控える3体のチューナーが黙って見過ごす筈がない。
「更に行くぜ!? 俺は墓地のマグマ砲兵を除外し、手札から《炎の精霊 イフリート》を特殊召喚する!!」
《炎の精霊 イフリート》
☆4/炎属性/炎族・効果/ATK 1700/DEF 1000
湾曲した2本の角を携えた炎の巨人が、煙を撒きながら姿を現した。
当然、その身には3つの緑輪が重なっていく。
「☆4のイフリートに、☆3チューナー炎湖畔の淑女をチューニング!! 神世の焔神、今蘇りて滅魔の猛火を振るえ!! シンクロ召喚、《エンシェント・ゴッド・フレムベル》!!」
《エンシェント・ゴッド・フレムベル》
☆7/炎属性/炎族・シンクロ・効果/ATK 2500/DEF 200
赤い炎を全身に纏った赤銅の巨人が、ズンと少年のフィールドへ降り立った。
「エンシェント・ゴッドの効果発動!! このカードがシンクロ召喚に成功した時、
相手の手札枚数まで相手墓地のカードを選択し、ゲームから除外する!! テメェの手札は2枚、よって俺が選択するのは超電磁タートルとライデンの2体だ!!」
古の巨人が放つ猛火がユウを襲う。
ダメージこそ無いものの、その凄まじい熱量にユウは顔を腕で覆った。
「更に!! このカードの攻撃力は、この効果で除外したカードの数×200ポイントアップする!! よって攻撃力は2900だ!!」
《エンシェント・ゴッド・フレムベル》
ATK 2500→2900
「そんな、墓地のカードを除外するなんて……」
「エクストラモンスターは多種多様な効果を備えているもの……とはいえ、どうしてこうもユウ様にとって最悪なカードばかり……!!」
ユウを見守る2人は、その留まることを知らない勢いに思わず歯噛みした。
自分達はただ、こうして見ていることしか出来ないのか……いや。
「ユウさん!! やっぱりわたしも――!!」
溜らず、ベルはディスクを起動させて前へ出ようとしたが――制止するかのように突き出されたユウの手が、ソレを押し留めた。
「……案ずるな。ここは俺に、任せてくれ」
そう言うユウの目は、ただ真っ直ぐに相手へ向けられている。
「……下がっているんだ。これ以上、お前達を危険な目に合わせる訳には行かない」
否とは言わせないユウの言葉が、ベルを自然と押し戻していく。
「カッコつけフェイズは済んだかよ? 俺は手札から魔法カード《トランスターン》を発動!! 炎火山の侍女を墓地に送り、このカードと種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する!! 来い、《ラヴァル炎樹海の妖女》!!」
《ラヴァル炎樹海の妖女》
☆2/炎属性/炎族・チューナー・効果/ATK 300/DEF 200
炎髪を黒いフードで隠したラヴァルの女性型モンスターが、侍女と入れ替わりにフィールドへ現れる。
「ここで☆7のエンシェント・ゴッドに、☆2チューナーの炎樹海の妖女をチューニング!!」
(!? 更にシンクロ召喚を!?)
山の斜面を駆け、森を焼いていく溶岩流。少年のデュエルは、まさにそんな様相だ。
物量にモノを言わせた連続シンクロを止める術は、今はユウに残されていない。
「雲を突く要塞の巨兵、道行く全てを圧倒しろ!! シンクロ召喚、《鬼岩城》!!」
《鬼岩城》
☆9/地属性/岩石族・シンクロ・効果/ATK 2900/DEF 2800
そのレベルは大台の9。見上げるまでに大きなその巨体は、これが闇のフィールドでなければ大惨事となっていただろう。
攻撃力は既に素材となったエンシェント・ゴッドと並んでいるが、更にその力を増していく。
「鬼岩城は素材となったチューナー以外のモンスターの数×200ポイント、攻撃力を上げる!! よってその攻撃力は3100だ!!」
《鬼岩城》
ATK 2900→3100
「続けて俺は、手札の《ラヴァル・キャノン》を通常召喚して効果を発動!! 除外されているマグマ砲兵を特殊召喚する!!」
《ラヴァル・キャノン》
☆4/炎属性/戦士族・効果/ATK 1600/DEF 900
左腕に巨大な大砲を構えた青肌の岩石戦士が、地面へ向かってその火を撃った。
刹那、赤く溶けた地表からマグマ砲兵が這い出るようにして特殊召喚される。
「さて……これが最後のシンクロだ、刮目しな!! ☆4のマグマ砲兵とキャノンの2体に、☆1チューナー炎火山の侍女をチューニング!!」
「その素材構成は……まさかっ……!?」
悲鳴のようなアンリエールの声が響く中、たった1つの緑輪が2体のモンスターを束ねていく。
「天上天下、唯我独尊!! 絶望の魔槍よ、ムカつく奴らをブッ殺せ!!」
パキパキ、と熱せられていた空気が凍てついていく。
身を裂くような暴風と共に雄叫びを上げたのは、三つ首の巨竜。
「シンクロ召喚ッ!! 《氷結界の龍 トリシューラ》!!」
炎の進撃、その最後に姿を現したのは――立ち向かう気力すらも凍てつかせる、最凶のシンクロモンスターだった。