遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第36話 翔ける白炎

《氷結界の龍トリシューラ》

☆9/水属性/ドラゴン族・シンクロ・効果/ATK 2700/DEF 2000

 

 翼を広げ、三頭を持つ白竜が耳を裂く様な金切り声を上げる。

 強力な効果故にこれまでに何度も使用禁止を提唱され、その入手難度から操る決闘者すら限られるシンクロモンスターの最高峰。

 背筋がぞわりと粟立ったのは、このモンスターを初めて目の当たりにしたベルだけではない。ユウとアンリエールも……いや、なまじその『力』を知っているだけに、その戦慄はベルよりも深かった筈だ。

 そんな3人の様子を満足げに眺めて、少年――燐路は鬱陶しそうに仮面を脱ぎ捨て、犬歯を剥いて宣言した。

 

「トリシューラの効果発動!! シンクロ召喚成功時、相手の手札・フィールド・墓地のカードをそれぞれ1枚まで選んで除外する!!」

 

 三つ首の竜が、滅びの伝承をそのままに『それぞれの』標的へと眼差しを向ける。

 

「そんな、3箇所のカードを1度に……!?」

「くっ……これだから嫌なのですわ、野蛮なシンクロモンスターなど……!!」

 

 普段から高レベルモンスターを嫌うアンリエールだが、その表情は覇気こそ無かったもの、いつもに増して忌々しげに歪められていた。

 

「標的は墓地のルミナス、場のミカエル、その手札のカード1枚だ!! 穿て!! 『アブソリュート・トライアングル』!!」

 

 狂乱の号令と共に放たれたのは、神々しい視覚に反して禍々しく歪み、うねる3本のブレス。1つは黄金の竜騎士の胸を貫き、残る2つはユウを襲った。

 

「ッ!!」

 

 あまりの冷気に灼熱の爆風とも区別が付かないソレは、ベルやアンリエール達にも襲い掛かり――直撃を受けたユウは吹き飛ばされ、壁へと叩き付けた。

 暴風の余波から思わず顔を庇っていたベルとアンリエールだったが、その大きな物音に驚いて庇う腕を解いたときには、悲鳴のような声を上げていた。

 

「ユウ様!?」

「ユウさんっ!!」

 

 2人の目に映ったのは、肩膝をついてうな垂れるユウの姿だった。

 おぞましい冷気が舞う中、ユウは2人を気遣うようによろよろと立ち上がると、静かにディスクを構え直した。

 

「……大丈夫だ、心配するな」

 

 そう言ってしっかり『敵』を睨み据えるも、その足元はどこかおぼつかない。

 闇のゲームがプレイヤーに与える痛みを知る2人は悲痛な面持ちを浮かべていたが、ユウの表情は普段のポーカーフェイスのまま揺るがない。

 その深い黒眼だけは研ぎ澄まされた剣のように尖っていたが、それを受ける燐路の表情は余裕に満ち溢れていた。

 

 何故なら、魔槍の竜が穿った(除外した)ユウの手札は――あろうことか、勝利を導く白き龍だったからだ。

 

「ハッ、痩せ我慢も大概にしろよな? 俺は更に墓地の炎湖畔の淑女の効果を発動!! このカードと「ラヴァル」1体を除外することで、セットカード1枚を破壊する!!」

 

 ライフに傷は無いものの、既に満身創痍のユウに追い討ちが掛けられる。

 これが決まってしまえば、残されるのは1枚の手札と、場のウォルフのみ――。

 

「その効果にチェーン発動、罠カード《強化蘇生》。墓地のカードガンナーのレベルを1つ上げて守備表示で特殊召喚する……」

 

《カードガンナー》

☆3→4/地属性/機械族・効果/ATK 400/DEF 400

 

 間一髪、場に舞い戻ったのは既に墓地へ送られていた青赤の寸胴な機械射手だ。

 

「チッ、炎湖畔の淑女が破壊出来るのはあくまで『セットカード』だ。今は見逃してやるよ、だが――」

 

 ギンと見開いた灼眼が捉えるは、勝利への道筋。

 道中に転がる小石を蹴飛ばして歩く童子のように、燐路は腕を振り上げた。

 

「コイツらの攻撃を受けても、ヘラヘラ立ってられるかよ!? バトルだ!! まずはアルマデスでウォルフを攻撃!!」

 

 白毛の獣戦士がその爪を振るうも、黒白の守護者に対して傷1つ付けることは叶わない。

 そう、例え守護天使(オネスト)の加護があったとしても――。

 

【ユウ】LP4000→3800

 

 孤独の光騎士団最後の1人は、無残にも紅蓮の炎を纏った右手に胸を貫かれて砕け散った。

 

「……ッぐ」

 

 僅かな余波がユウを襲うも、それだけですら苦痛の声が漏れ出る。

 たった200のダメージですらこんな状態だというのに、これからの攻撃をまともに受ければ――。

 

「続けてトリシューラでカードガンナーを攻撃!!」

 

 再び放たれる3本の白熱線。

 そのエネルギーを受け止めるのには、カードガンナーの体躯はあまりにも小さ過ぎた。

 

「ッ……!!」

 

 車にでも撥ね飛ばされたように吹き飛んだユウに、冷気の刃が容赦なく襲い掛かる。

 駆け寄ってしまいたくなる衝動をベルとアンリエールがどうにか抑えることが出来たのは、ユウの「危険に晒したくはない」という決意が釘を刺していたからだろう。

 

「ユウ「様」さんッ!?」

 

 ぼとり、とその身を地に落として尚。

 全身に受けた痛みを引き千切り、ユウは再び立ち上がった。

 

「まだ立てんのか? 流石は『奴隷』の生き残りだな?」

「……、俺は」

 

 だらりと下がった右腕が、ゆっくりと動いて伸びていく。

 向かう先は――ディスクへセットされたデッキの上だ。

 

「へぇ、サレンダーかよ? 立派な心がけじゃねーか」

 

 小馬鹿にニヤニヤと口端を歪める燐路には怒りが沸いたものの――傷付いていくユウを見たベルは、サレンダーするという選択肢は間違っていないと思った。

 カード1枚を渡して助かるのならそれに越したことは無い。命を奪われてしまってはそれこそ、ヒヨリに再会することすら叶わなくなってしまう。

 だからユウの選択は正しい。サレンダーして下さいと、そう声を掛けようとして――。

 

「……カードガンナーの効果で、カードを1枚ドローする……」

 

 そんな言葉は、未だ眼前の敵を見据えたまま闘志を絶やさないユウの姿を前に、喉の奥へと引っ込んでしまった。

 

「ユウさん、何でっ……!?」

 

 引き抜いたカードは何だったのか。それは分からない。

 しかしユウの眼は次の攻撃宣言を促すように鋭く研ぎ澄まされている。

 

「……よっぽど死にてぇらしいな。ならお望み通りブッ潰してやるよ!! 鬼岩城でダイレクトアタックだ!!」

「待って!! もう止めて――!!」

 

 振り上げられた岩石の拳が、遂に文字通りの直撃を果たす。

 

「あ……」

 

 縋るようなベルの叫びも空しく。

 ゴンと鈍い音を立てて、ユウは壁へ打ち付けられた。

 

【ユウ】LP3800→700

 

 その身体は、ピクリとも動かない。

 見た目には先程のブレスよりも威力は劣っているように見えた。しかしソレは、不可思議な力の働くこのフィールドでユウの命を『数値』として削っていったのだ。

 

「……そ、んな」

 

 無残なユウの姿に、ぐにゃりとベルの視界が歪む。

 

 もっと自分に戦う力があれば。

 守られてばかりの自分は嫌だと、そう言ってこの人に付いてきた筈なのに。

 なのに――。

 

「ケッ、やっとくたばったか……」

 

 圧し掛かる自責と悲しみはやがて、自分と歳がさほど変わらないだろう目の前の少年に対してドス黒く、憎悪となって降り積もっていく。

 

「……あなた、は――!!」

 

 悲鳴とも泣き声ともつかないそんな声がベルの口から漏れ出しそうになったとき、ユウの指がピクリと動いた。

 

「……あ?」

 

 不愉快そうに眉を寄せた燐路の目にも映る。

 ゆらりと三度立ち上がる、静かな白い炎のような男の姿が。

 

「ユウ様ッ!!」

 

 それを目にした瞬間、アンリエールは形振り構わず駆け出していた。

 

「ユウ様、もうお止め下さい!! これ以上はもうお身体が――!!」

 

 おぼつかないユウの身体を、アンリエールが抱きつくようにして支える。

 目尻に涙を貯めている彼女に、ユウはポンと手を置いて静かに呟いた。

 

「……大丈夫だ。俺は、まだ戦える」

 

 追い縋るアンリエールを優しく振りほどいて、1歩1歩と前に出るユウ。

 ちらりとベルに向けられたユウの目は、一瞬だけ微笑んだようだった。

 

「死に損ないが!! まだやろうってのかよ!?」

「……当たり前だ。まだライフは残っている……」

 

 じり、と1歩後退した燐路が声を荒げる。

 大人を相手取ってデュエルしてきた燐路にとって、年齢差など取るに足らないモノだ。

 

「……俺は、もう二度と『諦めない』と決めた。例え可能性が0であっても……」

 

 しかし今、目の前の取るに足らない男に――しかも追い詰めて優位に立っている筈のこの状況で、こんなにも気圧されているのは何故なのか?

 

「……『ライフが0になるその瞬間まで、決闘者は絶対に諦めてはいけない。最後の最後の、最後まで』……」

 

 その姿に、その目に。

 忌まわしい『あの女』が重なる。

 

「っざけんな!! そんなボロボロで何が出来るってんだよ!?」

「……さぁな。俺にも分からないさ、今は『まだ』な」

「ふざけやがって……俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!!」

 

 ディスクの表示が点滅し、短いブザーと共にターンプレイヤーが燐路からユウへと移る。

 

「俺のターン……」

 

 デッキトップへと手を掛けたユウの呼吸がスッと鳴りを潜める。

 刹那の間、最凶が振りまいた禍々しい冷気とは違う不思議な静寂が訪れた。

 

 それはさながら、磨かれた鏡面のように清廉な、白く輝く炎。

 

「――ドロー!!」

 

 引き抜いたカードは光の軌跡を描き、吸い込んだ空気は身体の芯に灯った種火を湧き上がらせる。

 そして見事に、『彼女』の意思を継いだデッキは使い手(ユウ)に応えて見せた。

 

「……魔法カード発動、《光の援軍》」

 

 引き当てた。

 その事実に、燐路の顔が醜く歪む。

 

「デッキから3枚のカードを墓地へ送り……《ライトロード・マジシャン ライラ》を手札に加える」

「クッ……今更どんなカードを持って来ようが!! 無駄なんだよ!!」

 

 墓地へ送られたカードは《ライトロード・アーチャー フェリス》《エクリプス・ワイバーン》、そして――橙と緑。2色に分かれた異色のモンスターカードが墓地へと落ちて行った。

 

「なっ……!? テメェ、何でそのカードを……!!」

 

 それはユーギ=ムトウに付き添っていた双子が所持していた筈の、辰の姿を象った《アスタリスクス》だった。

 

「ユウ様、それは……!?」

「今のは、何で――」

 

 狼狽を露にする燐路だったが、それは味方である筈のベル達も同じだ。

 何故と問い掛ける間もなく、ユウはターンを続ける。

 

「……墓地へ送られたエクリプスの効果を発動、デッキから《裁きの龍》を除外する。そして手札からライラを召喚し、効果を発動。このカードを守備表示に変更し、お前の場に伏せられたカード1枚を破壊する」

 

《ライトロード・マジシャン ライラ》

☆4/光属性/魔法使い族・効果/ATK 1700/DEF 200

 

 白いローブを纏った女性が、魔法杖を構えて伏せカードへと狙いを定める。

 燐路は苦々しく歯を噛み締めつつも、伏せカードを発動させた。

 

「クソッ、罠カード《奈落の落とし穴》発動!! ライラを破壊し除外する!!」

 

 召喚反応型罠の天敵とも呼べる、モンスターの魔法・罠破壊効果。次元の虚穴に吸い込まれ消えた魔術師は、その身と引き換えに道を切り開いたのだ。

 

 自らの後に続く、偉大なる『勝利』の為に。

 

「……ならば俺は。手札から《―**―(アスタリスクス) 阿雷虎(ヴァジュラ)》を、ペンデュラムゾーンヘセッテング」

 

 天に浮かび上がるは光の柱。その中央に浮かび上がるのは虎を象りし琥珀の石像。

 

「……ヴァジュラのP効果発動。墓地の《―**― 吽風龍(アイオロス)》をペンデユラムゾーンへとセッティング」

 

 翡翠の辰像が浮かび、光の柱が並び立つ。

 指し示された振り幅は4。しかしユウの手札にあるのはたった1枚のカードだけ。

 

「……ハッ、ご大層に並べたのはいいが、その手札で何しようってんだよ!? エクシーズもシンクロも出来ねぇ、たった1枚だけで何が!!」

 

 同名のカードのみならどんなレベルでも複数体並ばせることが出来る脅威の能力……あの試合を見ていた燐路は、その効果を知っていた『つもり』だった。

 新ルールと共にリリースされたばかりのペンデュラムモンスターが何故「アスタリスクス」として存在しているのか。それは彼の知った話では無かったが……少なくとも、試験段階らしい【クリフォート】を見るに、P召喚を駆使するにはデッキを構築できるだけの大量のPカードが必要となる筈。

 大人顔負けの観察眼とデュエルセンスを持つ燐路はそう考えて、だからこそ彼は逆に胸を撫で下ろすばかりか、手土産が増えたと内心ではほくそ笑んでいた。

 

 長も姉も、あの女にも。3枚ものカードを持ち帰って見せればきっと見返してやれる筈だと。少なくとも、その瞬間までは。

 

「……それは、早計だな」

「――何?」

虎の像(ヴァジュラ)には、隠された効果がある」

 

 にやついていた燐路の口端が、僅かに引き攣る。

 いつも聞き流していた長の忠告が、ふと頭を過ぎった。

 

 ――我ら決闘者にとって、『未知』とは最大の敵となる。

 

「……メインフェイズにP召喚を行う代わりに、手札・エクストラデッキから「アスタリスクス」1体を選び、召喚条件を無視してP召喚扱いで特殊召喚できる」

「なっ……!?」

 

 まさかと脳裏を過ぎったのは、唯一所持していたと思われていたヴァルキュリア。

 しかしそれでは、攻撃力3100の鬼岩城を突破出来ない。ならば何故――。

 そこまで考えて、次に思考の中を掠めたのは。効果にある『エクストラデッキから』という一文。

 

(まさか……ッ!?)

 

 ならば自然と思い当たる。ユーギ=ムトウから受け取ったのならば、ソレは存在する筈だ。

 大会の優勝賞品として彼に与えられた、自分の知らない『未知』の存在が。

 

 

 

「……神世を翔けし駿馬よ、英魂をその背に蹄鉄を鳴らせ」

 

 

 

 天に穿たれた円環から、燐路にとっては見慣れた緑輪が放たれ。

 直列したソレは、3本目の柱となって眩い光を放ち弾け飛んだ。

 

 

 

「――ペンデュラム召喚。《―**― 霊輝馬(アーリオン)》」

 

 

 

 白金の鎧を纏った駿馬が嘶く声は凛と響き渡り。

 闇に包まれたこのフィールドの中ですら、夜空に浮かぶ月のように明るく自らの存在を照らし出した。

 

《―**― 霊輝馬》

☆7/光属性/獣族・シンクロ・効果/ATK 2500/DEF 2000

 

「まさか、コイツが……!?」

 

 ユーギ=ムトウが何故この男に《アスタリスクス》を託したのか。

 そんな疑問はもう、どうでも良かった。

 問題は今、この瞬間だ。

 

 ――我ら決闘者にとって、『未知』とは最大の敵となる。

 

 相手の狙いが分からない。

 対処の仕方が分からない。

 次のターンが訪れるか、ワカラナイ。

 

 ――よって。《十二支柱(アスタリスクス)》と事前の知識無しで刃を交えることを禁ずる。

 

 目の前に展開された『未知』。

 それは確かに、敗北を知らない少年にとって間違いなく脅威として立ちはだかっていた。

 

「アーリオンの効果を発動。墓地に存在するモンスター1体をゲームから除外し、そのモンスターと同じ名前と攻撃力・守備力を持つ「英魂トークン」1体を特殊召喚し、このカードを装備カード扱いとして装備する。俺が選択するのはエクリプス・ワイバーン」

 

 除外された翼竜の魂が、気高き英魂となってフィールドへと舞い戻る。

 ぼんやりとした輪郭の白騎士は、頭を垂れた駿馬に跨ると円錐の騎乗槍を天へ突き上げた。

 

《英魂トークン(エクリプス・ワイバーン)》

☆7/光属性/戦士族/ATK 1600/DEF 1000

 

「は、ハハハ!! 何だよ、びびらせやがって!! 散々威張り散らした癖に、能力はたかが雑魚モンスターをコピーしただけかよ!?」

「……除外されたエクリプスの効果発動。先に自身の効果で除外していた《裁きの龍》を手札に加える」

「ほーん、で? 今更ヤツを呼んだところでどうしようも無いだろうが!!」

「墓地にはジェイン・エイリン・ウォルフ・フェリスの4体。条件を満たしたこのカードを特殊召喚する」

 

裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)

☆8/光属性/ドラゴン族・効果/ATK 3000/DEF 2600

 

 翼を広げた白鱗の龍を見上げながらも、燐路は必死に自分に言い聞かせていた。

 

 ユウのライフは既に1000を切っている。

 残された手札が《オネスト》でなければ……攻撃力3100の鬼岩城が存在する以上、このターンで突破するのは不可能だと。

 その思考の中に、やはり『未知』の存在は欠けていて。

 

「……バトル。まずは裁きの龍でアルマデスに攻撃」

「いいぜ、せーぜー足掻いてみろよ!! 少しくらいは殴らせてやるからよ!!」

 

 圧縮された光のブレスが光の盾を貫き、黒白の守護者を打ち砕く。

 破壊の余波がダメージとなって燐路に襲い掛かるが、そこは闇のゲームを操る者として『慣れ』があるのだろう。くるりとその小柄な体躯を翻して、ダメージを受け流していた。

 

【燐路】LP4000→3300

 

「ぐっ……!? クソッ!!」

 

 それでもライフを削られる痛みばかりは消せなかったようで、その表情に苦痛が浮かぶ。

 

「……続けて、英魂トークン(アーリオン)でトリシューラを攻撃」

 

 裁きの龍を召喚するためだけに召喚したモンスターなら、その低い攻撃力を晒すことなく守備表示で出していた筈だ。

 しかしソレは、槍を構えた半透明の白騎士を乗せて猛進してくる。

 

「……霊輝馬の効果発動。装備モンスターが攻撃を行うダメージステップの間、その攻撃力を自身の攻撃力分プラスする」

「な!?」

 

 よって、その攻撃力は――。

 

《英魂トークン(エクリプス・ワイバーン)》

ATK 1600→4100

 

 噛み付こうとする三つ首を稲妻の如き速さですり抜けると、白騎士はその軌跡を描くように騎乗槍を走らせ、最後にその胸元へ深々と突き立てた。

 刹那に弾ける光の奔流。

 流石の燐路もこれには成す術も無く、壁まで吹き飛ばされる。

 

「っぐ、があぁあぁぁ!?」

 

【燐路】LP3300→1900

 

 全身を走る苦痛に顔を歪めながら、燐路はそれでも己の勝利を疑わなかった。

 今の攻撃で確信したからだ。手札は《オネスト》ではない、と。

 更にアーリオンの効果は『自身から攻撃する時』のみ、つまり返しのターンで戦闘破壊するのは容易だ。

 ユウのモンスターは全て攻撃を終了した。場には何の罠カードも残されていない。これで――。

 

「……手札から速攻魔法《エネミーコントローラー》を発動。英魂トークンをリリースし、鬼岩城のコントロールを得る」

 

 残されていた、もう1つの『未知』が開示される。

 白騎士の姿が消え去ると共に、するりと伸びた接続端子が燐路に残された最後の砦を奪い去った。

 

「……ざけんな」

 

 山のような巨体がゆっくりと振り返り、拳が振り上がる。

 

「……詰み(チェックメイト)だ。鬼岩城でダイレクトアタック」

 

 敗北は死と同義である世界で育ち、常に敗者を見下してきた少年にとって『この瞬間』はどこか遠い世界の話で、自分とは無縁のモノだと思っていた。

 それが今、圧倒的な現実(しつりょう)をもって自らに下されようとしている。

 

(クソッタレ――!!)

 

 情けないことに、頭を過ぎったのは唯一の肉親である姉の顔。

 燐路には、迫る拳がスローに見えた。眼前に迫った拳は最早止まったようにも感じられて――実際に止まっている事に気が付いたのは、最後まで頑なに目を見開いていたおかげだったのだろうか。

 そのとき燐路の胸に湧き上がったのは安堵の溜め息ではなく、屈辱からなる怒りの炎だった。

 

「……おい、どういうつもりだ!?」

「……サレンダーしろ。ライフが0になってどうなるかは、お前の方が良く知っている筈だろう」

 

 ユウが静かに告げたのは、燐路が口にする筈だった台詞だった。

 モンスターばかりか、自分の思い描いていた『未来』まで奪われた――タイムアップで強制的にターンが移行するまでに返答を返さなければきっと、攻撃が下されてしまうだろう。

 敵の手に堕ちるくらいなら自決を選ぶ……などという選択は、まだ若く幼い燐路には思い浮かぶことすらなく。

 

「……クソが」

 

 ユウの鋭い眼から逃れるように顔を伏せて――燐路は、叩き付けるようにしてデッキへ手を置いたのだった。 




~今日の最凶カード~

《氷結界の龍トリシューラ》
☆9/水属性/ドラゴン族・シンクロ・効果/ATK 2700/DEF 2000

チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
①:このカードがS召喚に成功した時に発動できる。相手の手札・フィールド・墓地のカードをそれぞれ1枚まで選んで除外できる。



~今日の最強カード~

―**―(アスタリスクス) 霊輝馬(アーリオン)
☆7/光属性/獣族・シンクロ・効果/ATK 2500/DEF 2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
―**―(アスタリスクス) 霊輝馬(アーリオン)》の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをゲームから除外し、自分フィールドに「英魂トークン」(戦士族・光・星7・攻/守?)1体を特殊召喚してこのカードを装備カード扱いとして装備する。このトークンは対象としたモンスターと同名カードとして扱い、攻撃力・守備力はそのモンスターの元々の数値と同じになる。
②:装備モンスターがフィールドを離れる事によってこのカードが墓地へ送られた場合、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードを装備カード扱いとしてその自分のモンスターに装備する。
③:装備モンスターが攻撃するダメージステップの間、装備モンスターの攻撃力は2500アップする。
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