遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第38話 黒兎、吼える

 朝方、ユウから届いたメッセージには、次のようなことが書かれていた。

 

 今まで自分に付き合ってくれたことへの感謝と、相談も無く突然行動したことに対しての謝罪。

 そしてこれ以上自分に関わることは危険であると続けて、白面達の狙いである『アスタリスクス』は全て自分が預かること。

 最後に、預かったヴァルキュリアと奪われたファントムを返しに必ず戻ると約束して、全て事が終わるまで旅団を離反することを記し、締めくくられていた。

 

 ユウからのメッセージを見たクラドと藍は真っ先に空港へ向かい、街中を探し回ったのだが……結局、ユウの姿を見つけることは出来なかった。

 時刻は既に昼を過ぎ、強い日差しが差し込む病室には消沈とした雰囲気が立ち込めている。

 

「ユウさん、どうして……」

 

 ベルは、まだ使い慣れない橙のDパッドの画面をなぞりながら呟いた。

 彼はどうやって忘却の青へ渡ったのか。仮に飛行機を使ったにせよ、どうやってこのタイミングで朝1番に発つ便のチケットを入手出来たのか……ユーギ=ムトウの手引きを知らないベル達に疑問は尽きなかったが、ともかく現時点で分かっているのはユウが『アスタリスクス』4枚を手に旅団を離脱したということだけだ。

 

「……まさか、1人で行ってしまうなんてね」

「くそ、あのデュエルマシーンは何考えてんだ……!!」

 

 思わず悪態をついたクラドだが、誰も言葉を返そうとはしない。

 何とも言えない重苦しい空気だけが、しんと肩に圧し掛かってくるだけだ。

 

「…………」

 

 今日が退院日であるにも関わらず、帰り支度すらままならなかったベルだが、今はようやくいつものメイド服に身を包んでいる。

 きっと何かの間違いだろうと思い込み、Dパッドを何度も眺めては俯いていたが、その文面はいつまで経っても変わらない。

 そんな湿った空気を裂いたのは、身じろぎすらままならない燐路の気だるそうな声だった。

 

「ケッ。で、どうすんだよ? このままじゃあの野郎、向こうに着いた途端にリンチ確定じゃねーのか?」

「何?」

「あのライロ野郎、そこそこ実力はあるみてぇだけどよぉー……流石に多対一じゃ厳しいだろ? あっちに居るのは巫女サマ達だけじゃねーんだぜ?」

 

 間延びした声で、至ってつまらなそうな仕草を見せる――その反面。

 

(オイオイ冗談じゃねぇぞ……さっさと青に向かってくれねぇと俺が困るんだよ!!)

 

 自身に『交渉材料』という価値が消え、かつ長達と合流を果たす機会すら無くなりそうなこの状況に焦りを感じていた。

 

(クソ、あのライロ野郎!! また余計な真似しやがって……!!)

 

 憎き男の顔面を殴りつけたくなる衝動を抑えながら、燐路は務めて不敵な笑みを浮かべ続けた。

 あれだけの啖呵を切って、勝手に飛び出した燐路の帰りを待つ程――勿論、姉の煽里を含めて――彼らが温情ある人間でないことはよく分かっている。きっと今頃、『裏ルート(チート)』を使って目的地へと向かっている頃だろう。

 空路を使った『表ルート』で向かうならば、(おさ)達が(あちら)で身動きが取り辛くなることを加味しても……出発まであまり時間を掛けている訳にはいかないのだ。

 今はとにかく、何としてでも彼らを炊きつけてユウの後を追わせる他無い。

 

「おい、そりゃどういうことだよ……?」

 

 幸いにも、燐路の言葉にクラドが食いついた。

 

「向こうには既に、俺らの同胞がわんさかいるってコトだよ? 仮に巫女サマをどうにか出来たとしても、奴一人で無事に帰ってこれるとは思えねーけどなぁ?」

「そんな話、いちいち真に受けてられるか!! 仲間と合流したいからって出任せ言いやがって――」

「待って、その話に関してだけは丸っきりの出任せとは言えないかも……」

 

 クラドの声を遮った藍の眉間には、難しそうに皺が寄っていた。

 

(レン)が……【N―EVES】が話していたでしょう? 紅の人間が青でカードを探しているって。『まだ』あくまで噂らしいけど、アスタリスクスが発見されたと分かった以上、どれだけの人数が青に潜り込んでいるか分からないわ。彼らがどれだけの規模で動いているのかも……ね」

 

 組織の規模について燐路から聞き出すのは簡単だが、この状況では誇張して話されても確認のしようが無い。数刻前とは状況が一変してしまっているのだ。

 燐路の狙いは明白、しかし目的地については燐路に頼らずとも問題は無い。このまま彼を置いて出発するという考えも過ぎったが……もしものときの『交渉手段』は抱えておいて間違いは無い。最悪、ユウの身柄と交換することになるかもしれないのだ。

 

「……何が何でも、青に行きたいみたいね?」

「話が早くて助かるぜ記者のネーチャン? ま、そういうこった。ライロ野郎が心配ならさっさと追いかけな? 水先案内人ならこの俺がやってやるからよぉ?」

 

 ケラケラと笑いながら、ちらりと様子を伺う。

 ベルとアンリエールは、表情を青くして固まっている。それこそ1秒後には外に飛び出して行ってしまいそうな程だ。歳が近いだけに、その結果は燐路が狙った通りだった。

 

「っ……お願いです、追いましょう!! じゃないとユウさんがっ!!」

 

 必死にそう訴えるベルの反応に内心でほくそ笑んだ燐路だったが、そんな彼の思惑など絡まなくとも……恐らくベルの気持ちは変わらなかった。

 

「メイドちゃん……」

 

 一方の大人2人……クラドと藍は、事を冷静に思案しようとする一方で、ユウのことは勿論今にも泣き出しそうなベル達を気に掛けている様子だ。

 

(ま、注いだ油は上々ってトコか……)

 

 何かある、とは分かっていても、これで後を追わざるを得ないだろう。

 そんな燐路の確信を裏付けるかのように、藍とクラドがこくりと頷いた。

 

「大丈夫、分かっているわ。当初の予定通り……よりは少し前倒しで出発しましょう。私の方で準備しておくことは、もう大体済んでいるから」

「俺も同じくだ。追いついたら、あのぶっきらぼうに一発かましてやる」

「藍さん……クラドさん……!!」

 

 頼もしい2人の言葉にぱっと顔を明るくするベル。

 その一方で、以前であれば有無も言わさず噛み付いてでもついてきただろう少女――アンリエールは表情を曇らせて俯いていた。

 

「――私は、」

 

 飛行機雲のように一直線だった彼女の心が、今は振り子のように弧を描いて揺れている。

 真っ先に飛び出すべき言葉が、出ない。

 

「……アンリさん、あの」

 

 そんな彼女の様子をベルが察する前に、病室のドアが無造作に開かれた。

 病院関係者すら黒服たちのチェックを済ませなければ入室できなかった、その硬いドアを平然とくぐって現れたのは。

 

 

 

「おや……お話の最中でしたか、誠に申し訳ない」

 

 

 

 ルージュの長髪をさらりと流した、見慣れない長身の男だった。

 歳は20前半くらいだろうか。顔の輪郭は女性と見間違う綺麗な線を描き、血のように赤い瞳を長い睫毛が覆っている。

 陽の光すら吸い込む漆黒のスーツに一切の乱れは無く、ぴっしりと糊のきいた青白いシャツの中に緋色のネクタイが浮かんでいる。異様に白い肌も相まって、男の出で立ちは否が応にも『吸血鬼(ソレ)』を髣髴とさせた。

 

「あの、どちらさまで……?」

 

 不審に思った藍がそう尋ねると、一閃。

 鋭く尖った殺気の様な『何か』が、ピリピリとその場の全員を射抜いた。

 

「――失礼。私はラムジョレーン現当主を勤めさせて頂いております……ソルシエール・ラムジョレーンと申します」

 

 すっと音も無く一礼して、男――ソルシエールが上目遣いに顔を上げる。

 低く男性的でいて、それで腹の底に響き渡るような不思議な声……物腰低く丁寧なその口調の中に、触れれば刺さり、撫でれば切れてしまうような冷たい何かが伺える。

 肩書きだけではない、決闘組(デュエルマフィア)という裏の世界を生きるために必要な、得てして表の人間には理解し得ないモノが確かに在った。

 

 ラムジョレーンの現当主にして、幽霊姫が最も恐れる実兄。

 怒ったアンリエールの迫力など比にならない『本物』のソレに、一同が思わず息を呑んだ。

 

「以後、お見知り置きを」

 

 再び、ソルシエールが優雅な仕草をもって一礼する。

 この世の女性であれば、その殆どが胸を打たれ、恋に落ちることだろう。魔性という言葉がこれほどまでに似合う男もそうそう居ない筈だ。

 実際、ベルと藍も『こんな状況』でなければ危なかったかもしれない。

 

「……どうやら連絡が行き届いていなかったようですね。本日はそこにいます愚妹を引き取りに伺いました。皆様のお話は伺っております、大変ご迷惑をお掛けしたようで……」

 

 ちらり、と責める様に黒服達へと送ったのも一瞬。

 先程よりも深々と一礼したソルシエールは、今度は頭を上げることはなかった。

 

「い、いや……俺らも色々と助けて頂きましたし、はは……」

 

 たじろぎつつも何とかそう返したクラドの言葉を受けたからか、ソルシエールは静かに頭を上げた。

 

「それは恐縮でございます。では、私達はこれにて……病院側への手続き等は引き続きこちらの者が行いますので、ご安心下さいませ」

 

 それまで向けられもしなかったソルシエールの視線が、俯き加減でたじろいでいるアンリエールへと突き刺さる。その冷たさは、黒服達に向けたものよりも粗雑な印象を受けた。 さも「何をぼさっとしている?」と言わんばかりの表情を向ける兄と、俯き加減で震える妹。不穏な空気に気付いた藍は、たまらず尋ねた。

 

「……あの、アンリちゃ、アンリエールさんをお連れになるとは?」

「愚妹の我が侭にこれ以上、皆様を付き合わせる訳にはいきません」

「で、ですけど――」

「これは我がファミリーの問題です。恩義ある貴方達といえども、口出しはしないで頂きたい」

 

 血の瞳はきっぱりと、ただそれだけを告げた。

 決定を下した兄はしかし、無理矢理に妹の手を引こうともしなかった。

 早くしろと急かす言葉を掛ける様子も無い。ただその険しい視線を、じっと向けるだけ。

 

「……あの!」

 

 キッと口を結んで、ベルはアンリエールの気持ちを伝えようと一歩踏み出したが……その勇気は、すぐ傍から伸びた手で遮られた。

 

「――お兄様。私、まだ帰る訳には参りませんの」

 

 毅然としたその口調が、僅かに震えている。

 それでも、ルージュの瞳に小さく炎が灯ったように見えて、ベルは嬉しくなった。

 

「アンリさん……!」

 

 兄への恐怖と、ユウへの想い。

 ガラガラと崩れ去ったプライドの瓦礫の中で立ち上がり、ようやく振り絞ったアンリエールの言葉はしかし、短く鋭利な言葉の牙に噛み砕かれた。

 

「駄目だ」

 

 たった一言、それだけで。

 灯りかけていた勇気の火が、ふっと吹き消されそうになる。

 それでもアンリエールはぐっと腹に力を込めて、懸命に踏み止まる。

 

「……お願い致します!! 私は、あの方に恩を……!!」

 

 かつて旅をする為に反抗出来たのは、顔の見えない電話越しだったからだ。

 連れ戻しに来たとしても、それは多忙の兄に代わって派遣される黒服達。彼らが相手なら臆することも無い。

 

「駄目だ」

 

 その目を、その言葉を。

 聞くことも、見ることも無いから、大丈夫だったのだ。

 一方的に告げられる否定の言葉。有無も言わさぬ眼光の圧力。

 生身の兄から放たれるソレが、こんなにも重いとは。

 

「お願い致します、どうか……」

「いい加減にしろ」

 

 悲鳴のようなアンリエールの抗議にも、兄は眉1つ動かすことは無かった。

 何故という言葉も、反論すら無い。帰ってくるのはただ『決定』の言葉のみ。

 自分を影だと罵りながらも、心のどこかで否定していたのだろう。兄は自分を『影』などとは見ていないと。きっと自分を分かってくれると。

 

 それが、そもそも間違いだった。

 

 妹としてではなく、『影』としての絶対的な主従関係。

 故に互いの意思が挟まることなど……話し合う余地など、最初から無かったのだ。

 

「……分かりましたわ」

 

 現実を再確認したアンリエールは、ぷっつりと、諦めた。

 窮鼠は猫を噛むという。ならば黒の脱兎とて、追い詰められれば同じこと。

 心の中で何かがくるんと反転してしまえば、あとは不思議と気が軽くなった。

 

「アンリ、さん?」

 

 様子がおかしい。思わずアンリエールの両肩を掴んだベルだったが……そんなベルの手はすっと振り払われて、コツンと白く細い足が一歩前に出た。

 

「……私とて貴きラムジョレーンの女。もはやこれ以上、言葉を交わすのは不躾ですわね」

 

 ベルを押しのけ、ソルシエールの前に立った彼女の腕には――十字の金装飾が施された、漆黒のDパッドが在った。

 

「決闘者ならばカードで語れ。そうですわよね、お兄様?」

「くどい。簡潔に話せ」

 

 敗北の恐怖も、兄へのコンプレックスも。今なら思い出すだけで笑いがこみ上げてくる。

 だからもう、何の躊躇いも無い。

 言葉の引き金を、引ける。

 

 

 

「……私と、決闘を」

 

 

 

 耳をピンと立て、全身の毛を奮い立てた黒兎(かげ)は――自らを作る『(あに)』を喰らってやると、真昼の月に向かって吼えた。

 

 

   **

 

 

 流石に病室では狭いということで、病院近くのバスケットコートに場所を変えてラムジョレーンの兄妹が向かい合っている。

 突然黒服の男達に締め出されたバスケ少年達は、始めこそ不満そうにコートの外から眺めていたが……対峙する2人が決闘役者と知らされてからは「試合がタダ見出来るなんてラッキー」とばかりに、口笛を鳴らしてはしゃぎ始めた。

 

「アンリさん……あの、本当に大丈夫なんですか?」

 

 入院で鈍った身体を解すアンリエールに、ベルが不安そうな声を掛ける。

 しかし当の本人はケロリと振り向いて言った。

 

「ふっ、ご安心なさい。貴女に心配される私など既に息絶えましたわ」

 

 何か吹っ切れたのか、精神面はすっかり元の調子に戻ったようだが……病室でリリンと戦ったときに見たあの光景が嫌でも頭を過ぎる。

 空っぽの幽霊屋敷。調子を取り戻した幽霊姫に、悪戯好き達は応えてくれるだろうか。

 

「それより……貴女達はユウ様を追わなくて大丈夫ですの? 私でしたら後からでも追いつけますし、付き合うことはありませんのよ?」

 

 少し照れ臭そうに口を尖らせるアンリエールに、クラドは意地悪な笑みを浮かべて答えた。

 

「なーに言ってんだお嬢? こんなに面白そうな決闘、見ずに飛べるかっての」

 

 そんなクラドの言葉に笑顔で頷くベルと藍。

 朱に染まった頬を見せまいと、ぷいっと明後日の方向へ顔を向かせつつ、アンリエールは長い溜め息をついた。

 

「まぁ、何とも浅ましい方々で……いいですわ、そこまで言うなら見せて差し上げます」

 

 金十字のディスクが起動する。

 真昼間だというのに、その黄金色の煌きは夜空に浮かぶ月を彷彿とさせた。

 

「――この幽霊姫が『屍皇(しおう)』に勝利する、その瞬間を」

 

 不敵に微笑むアンリエールがコートの中央へ向かい、少しだけその背中が小さくなってから、ベルがポツリと呟いた。

 

「でもやっぱり……とんでもなく強いんですよね、お兄さんは」

 

 屍皇。それは言うまでも無く、現役時代のソルシエールに与えられていた二つ名である。

 プロ世界で『皇子』ではなく『皇』と畏怖された彼と、『女王』ではなく『姫』と持て囃されるアンリエールとの違いを鑑みれば、その実力差は明らかだ。

 啖呵を切って出陣したアンリエールだったが、それは彼女が『演じている』普段の姿に戻っただけだ。あれほど遠い存在だと語った相手を倒す活路など、そう易々と見出せる訳が無い。

 

「まぁ……なぁ。少なくともお嬢が勝った事ねぇんだろ? 俺は屍皇に関しちゃよく知らねぇんだけど……」

「何だぁ? お前ら『屍皇』のことも知らねぇのか?」

 

 クラドの言葉に、ケラケラと燐路が割って入った。

 手足を鎖で縛られ、首輪までされて。そこから伸びた鎖はクラドの手にあり、2人の体格差からどことなく猿回しのように見える。

 

「あぁ? そういうお前は知ってんのかよ?」

 

 露骨に顔をしかめて、クラドが聞き返した。

 

「まぁなー、元々はあの屍皇から『4番』を奪う予定もあったんだ。情報戦は基本だろ? ま、知らないなら知らないで楽しみに見てろよ。面白いモンが見れるだろうぜ」

「ったく……こんな状態になってまで口の減らないガキだぜ……」

「…………」

 

 ますます不安そうな色を強めるベルに、藍は肩に手を掛けて優しく声を掛けた。

 

「大丈夫よ、アンリちゃんを信じましょう?」

 

 こくん、と頷いて見せる。

 

「……はい。でも――」

 

 デュエルの行方は確かに不安だ。しかしベルはそれ以上に、『血の繋がった2人が刃を合わせる』この状況にデジャヴを感じて、ただ静かに手を合わせた。

 

「……届いて、欲しいですね」

 

 幸いにも、自分の父は分かってくれた。

 それはデュエルを通して、多少強引でも気持ちが届いたからだ。

 だからベルは願った。アンリエールの気持ちも、屍皇という高い壁を越えて届いて欲しい、と。

 

『――「決闘申請」、確認。仮想戦場(ARヴィジョン)展開(リンク)完了』

 

 ほぼ同型の2台がリンクし、寂れたバスケットコートが月浮かぶ夜の草原へと変わっていく。

 いつの間に呼び寄せたのか――数を増したバスケ少年達も『観客』として認識され、共に仮想戦場の中へと招待された。

 

審判員機構(ジャッジアプリ)、起動』

 

 月をバックに現れたのは、白い半袖のTシャツに青のジーンズという出で立ちのコーパルだった。

 

『んなトコにいると蹴っ飛ばすぞぉ!! 問答無用のビーム系美少女審判員コーパルちゃん只今参上っ!!』

 

 大きな旅行鞄を振り回しながらはしゃぐ彼女は、いつにも増してテンションが高い。

 

『いや~、何かこう月に代わってオシオキしたくなりそうな良い戦場(ステージ)ですね!! 思わず私もや~ら~れ~たぁ~』

「審判員、ルールの設定を」

『あっ、はいはい。本日はいかが致しましょう?』

 

 流石はシステム、屍皇の圧力にもいつもの調子を崩さない。

 ソルシエールはアンリエールに目配せすると、つまらなそうに言い捨てた。

 

「お前の好きな設定で決めると良い。何ならアクションデュエルでも構わないが」

「ご冗談を、それこそお兄様の独壇場ですわ……ですがまぁ、お言葉に甘えさせて頂きますわ。LP8000のフルライフ制、賭け(アンティ)と致しましょう? 賭け品はそれぞれ今後一切の『行動の自由』で」

「……ほう?」

 

 ソルシエールが僅かに目を細める。

 ここに至るまでにようやく見せた、妹に対しての『感情』らしきモノ。

 

『え~と、アンティには互いの合意がですね~』

「良かろう」

『はい、承認頂きましたのでサクサク設定しちゃいますよ~』

 

 手早いコーパルの対応に、決闘の準備は整っていく。

 

『それでは!! これより元プロ決闘役者「屍皇」ソルシエールさんVS幽霊姫の異名を持つアンリエールさんの兄妹対決を開始します!!』

 

 コーパルが白黒のダイスを放り投げる。

 宙を舞う2振りの正方形は、廻り回って悪戯に運命のクジを引く。

 

「――戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が」

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る……」

 

 まるで詩でも読むかのように、その台詞は紡がれた。

 パフォーマンスなど無く、清々とした面持ちで佇む2人の目は閉じられている。

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化系」

「ご覧あれ、華霊なる我らラムジョレーンの一幕を」

 

 賽が地を跳ねると同時。

 皇と姫の眼は、同時に交錯した。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

【アンリエール】LP8000

   VS

【ソルシエール】LP8000

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