遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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お久しぶりです、だいぶ更新が遅れてしまいました。
GW中に遊び呆けていた私を許してくれ……。

追記・ミスがありまして、エクシーズ素材を変更しました。
《ゴーストリック・スペクター》→《ジェスター・コンフィ》

何卒、ご容赦くださいませ。


第39話 屍皇の一撃

「それでは、私の先攻から参ります」

 

 賽の目が定めた運命は、アンリエールへ先攻を促した。

 やり直し(マリガン)などきかない、既に決定されてしまった5枚の手札。先刻の光景が、がらんどうの幽霊屋敷が嫌でも脳裏に過ぎる。

 恐る恐る右端から順に視線を流していくと……緑や赤紫のカードに混じって、悪戯好きの姿がひょっこりと顔を覗かせた。

 

(……ありがとうございますわ、皆さん)

 

 演技を忘れ、自然と口元が緩んだのも一瞬。

 妖美な微笑にすぐさますり替えて、ディスクへカード達を滑らせていく。

 

「幽霊姫の怪演、まずはその下準備から始めさせて頂きます。モンスターをセット、バックカードを1枚伏せてターンエンドですわ」

 

 1ターン目としては中々の滑り出しに、ベルはふぅと胸を撫で下ろした。

 

(良かった、普段のアンリさんに戻ったみたい……)

 

 それでもまだ、『確実に負ける』最悪の状態から『1度も勝てなかった』という元の関係に戻っただけに過ぎない。同じ土俵に立てたとしても、あっさり投げ飛ばされてお終い、なんてことも有り得るのだ。

 

『幽霊姫ことアンリエールさん、まずは手堅い1ターン目を終えました! コレを受けて屍皇ソルシエールさん、一体どんなデュエルを見せてくれるのでしょうか~?』

 

 コーパルの実況に、一行の視線が自然とソルシエールへと流れた。

 悠然とディスクを構え、ゆっくりと余裕を持ってデッキトップへと手を掛ける。その姿からは僅か数パーセント立ち上がった勝利の可能性を消し飛ばす程の、圧倒的強者の圧力が波のように押し寄せて来た。

 月夜を背景に向かい合う高貴な兄妹、しかしそこにある構図はまさに狩人と獲物。

 弱者(えもの)が逃れる術はあれど、立ち向かう術は無い。結末の決まった一方通行の殺戮舞台(コロシアム)は、それ故に観客を魅了する。

 

「……ここにおります皆様方。本日は数奇にも私達ラムジョレーンの決闘にお付き合い頂き、誠にありがとうございます」

 

 恭しく一礼する屍皇のそれは、これから『ショー』を始めるに相応しく。

 それでいて、『狩り』を始める前に舌をなめずるハンターのそれに近しいものがあった。

 

「ささやかながらの感謝と致しまして、このソルシエール・ラムジョレーン……『今宵』再び、屍の皇としてこの腕を存分に振るわせて頂きます」

 

 月夜に光るは血濡れの瞳。

 幾人もの決闘者を闇へと葬ってきた文字通りの『怪物』が、月夜の下で蘇る。

 

「私のターン、ドロー。手札から通常召喚、《マスマティシャン》を攻撃表示」

 

《マスマティシャン》

☆3/地属性/魔法使い族・効果/ATK 1500/DEF 500

 

 白髭を伸ばしたコミカルな数学者モンスターが先陣を切る。

 ユウも使用した、優秀な効果を持つそのモンスターに対して、アンリエールの伏せカードが発動することは無かった。

 

「マスマティシャンの効果を発動。私はデッキから《ワイトプリンス》を墓地へ送る」

 

 彼が唱える意味不明の数式によって、ソルシエールのデッキから1枚のカードが墓地へと送られる。

 

《ワイトプリンス》

☆1/闇属性/アンデット族・効果/ATK 0/DEF 0

 

 その名が示す【答え】は、たった一つ。

 苦々しい表情を浮かべて、クラドが呟いた。

 

「ゲッ、マジか。確かに『慎ましい』デッキではあるけどよ……」

「え、えっと……もうデッキが分かっちゃったんですか」

 

 狼狽するベルを見て、燐路が嘲笑する。

 

「へっ、ホントにシロートなんだなぁお前。どうしてもクソも、あのカード1枚見りゃ一発で分かるだろ?」

「黙ってろクソガキ」

「ってぇ!?」

 

 ごちんと生意気なツンツン頭に拳を振り下ろしてから、クラドはベルに向けて続けた。

 

「ありゃな……【ワイト】っていう、ちょっと面白いデッキさ」

「ワイト……?」

「ああ、「ワイト」モンスターは1枚1枚じゃ大した力も無いし、希少価値(レアリティ)だって低い。だが――いざ相手にすると少々厄介でな」

 

 クラドの知識を持ってしても厄介と言わせるデッキ。その実力はアンリエールの戦績からしてほぼお墨付きだ。

 戦慄を覚えるベルの一方で、藍がどこか納得したように頷いた。

 

「道理で『屍皇』の名前が一般的に知られてない訳ね。アンリちゃんが言うだけの『結果』を残した割にはおかしいと思ったのよ」

「あの、それってどういう……」

「アクションデュエルは、派手な華やかさが無ければ人の記憶には残らないわ。あのデッキじゃ結果は残せても名声は残せないって訳」

 

 実力を認められながらも、観客からは声援よりも畏怖を集めた怪物。

 兄の影として常に比べられながらも、多くの観客達を魅了してきた幽霊姫。

 そういった意味で、この兄妹はまるで真逆の道を歩んできたのだ。

 

「ワイトプリンスの効果発動。このカードが墓地へ送られた場合、《ワイト》《ワイト夫人》を1体ずつ手札・デッキから墓地へと送る」

 

《ワイト》

☆1/闇属性/アンデット族/ATK 300/DEF 200

 

《ワイト夫人》

☆3/闇属性/アンデット族/ATK 0/DEF 2200

 

「更に、墓地でワイトプリンスの効果を発動。自分の墓地から「ワイト」2体とこのカードを除外し、デッキから《ワイトキング》1体を特殊召喚する。《ワイト夫人》は墓地では「ワイト」として扱われる」

「ええ、よく存じておりますわ」

「結構。ならばデッキから《ワイトキング》を特殊召喚」

 

《ワイトキング》

☆1/闇属性/アンデット族/ATK ?/DEF 0

 

 場に現れたのは、紫色の衣を羽織った骸骨のモンスター。

 何の比喩もしようが無い、ただそれだけのひ弱なモンスターの出現に、ベルは思わず拍子抜けしたように声を漏らした。

 

「攻撃力、0?」

 

《ワイトキング》

ATK ?→0

 

 ベルの疑問に、クラドが答える。

 

「今はまだな。言っちまえばあのモンスターが【ワイト】の要だ。奴は墓地の「ワイト」の数だけ攻撃力を増していく……奴をどう『育てるか』、それこそが使い手に試される力量って訳だ」

 

 クラドの説明から、ベルも恐らくは墓地肥やし型のパワーデッキなのだろうと予想することは出来た。しかし、そんな単調な動きをするデッキを相手にアンリエールが苦戦するとも思えない。

 どう『育てる』か。その言葉に引っ掛かりを覚えつつ、ベルは視線をデュエルへと戻す。

 屍皇のターンは、未だ終わりを見せない。

 

「更に手札から《ワイトメア》を捨て、効果発動。ゲームから除外されている自分の《ワイト夫人》1体を選択しフィールド上に特殊召喚する」

『屍皇の進撃に終わりは無いのか! ワイトキングを召喚して尚止まることなく、まだまだターンを続けていく~!!』

 

 黒のドレスを身に纏った長身の骸骨が、蜘蛛の巣が張り付いた椅子に座したままフィールド上に舞い戻る。

 コーパルの暑苦しい実況を冷ますかのように、静かな口調でもってその言霊は放たれた。

 

「私は、☆3のマスマティシャンとワイト夫人でオーバーレイ」

 

 紡がれたのは当然、黒の召喚法だ。

 橙と紫、2つの光球が螺旋を描いて宙を踊る。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」

 

 闇夜に浮かぶ虹色の渦が、ソルシエールのすらりと伸びたシルエットを照らし出す。

 それは一際大きく膨れ上がったかと思うと、パッと光の花吹雪を一面に散らした。

 

「★3、《虚空海竜リヴァイエール》!」

 

 月夜に舞う花道を、長細い体躯がうねり踊る。

 次元を飛ぶ竜は、ぼんやりとエメラルドに発光する翼を広げ、甲高く咆哮した。

 

《虚空海竜リヴァイエール》

★3/風属性/水族・エクシーズ・効果/ATK 1800/DEF 1600

 

「リヴァイエールの効果発動。ORU(ワイト夫人)を1つ使用し、除外されている《ワイトプリンス》を特殊召喚する」

 

 紫色のORUを吸収し、リヴァイエールが一際高く咆哮すると――月夜の背景をガラス窓のように突き破って、小柄な骸骨の王子がマントをたなびかせてフィールド上へと帰還した。

 再び並び立った同レベルのモンスター。黒の人間としては日常茶飯事だろう、連続の(エクシーズ)召喚。

 

「続けて☆1のワイトキングとワイトプリンスでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

 

 そこに最早驚きは無い。

 アンリエール達は苦々しく眉を寄せ、観客達は待っていましたとばかりに騒ぎ立てた。

 

「歴戦の魂よ、彷徨う亡者を束ね冥府へと導け。エクシーズ召喚!」

 

 乱れ咲く光の花吹雪は、その異形のシルエットを浮かび上がらせる。

 蹄を掻き鳴らし、紫の光球を従え――それは幽霊姫の前に立ちはだかった。

 

「出でよ、★1《ゴーストリック・デュラハン》!」

 

《ゴーストリック・デュラハン》

★1/闇属性/悪魔族・エクシーズ・効果/ATK 1000/DEF 0

 

 白馬に跨り、くすんだ鋼の鎧を着込んだ首無しの騎士。

 その姿はどこか可愛らしくデフォルメされていて、とても命を刈り取る死の使いとは思えない。

 しかし、ベルが驚愕したのはそのコミカルな姿ではない――何か間違いではないのかと、思わず声を上げる。

 

「ご、ゴーストリックって……!?」

「おいおい、何驚いてんだよ? カテゴライズされた《名前》があるからって別のデッキで使っちゃいけない、なんてルールは無ぇんだぜ? エクストラモンスターなら尚更……」

「うっせ、少し黙ってろ」

「ぃだっ!? テメェ捕虜に対する労りってモンがねぇのかよ!?」

 

 またしてもクラドの鉄拳が振り下ろされると、涙目の燐路はウーッと唸り声を上げて恨めしそうに睨み返した。

 しかし、彼の言葉もあながち間違いではない。実際ベルも「A・O・J」のカテゴリモンスターであるカタストルを使用しているし、汎用性の高いモンスターが様々なデッキに投入されることはベルとて良く理解している。そう頭では理解していても、幽霊姫の象徴たる「ゴーストリック」が彼女の敵として立ち塞がることは、ベルとしても動揺を隠せなかった。

 様々な反応を見せるベル達の一方で、アンリエールは不敵に微笑んで見せた。 

 

「……腕に鈍りは無いようですわね、お兄様」

「当然だ。銃口を錆付かせているようでは、とても組の長など務められぬ」

 

 短く交わされた兄妹のやり取りは、すぐに戦いの詩へと変わる。

 

「更に私は、手札から魔法カード《エクシーズ・ギフト》を発動。自分フィールド上のORUを2つ取り除き、デッキからカードを2枚ドローする。私が取り除くのはデュラハンのORUを2つだ」

 

 デュラハンの傍に漂っていた紫の光球がデッキトップへと吸い込まれていく。

 モンスター・エクシーズの魂とも呼べるORU、しかしソルシエールはソレを躊躇うことなくドローカードへと変換してしまった。

 

「効果を使わなかった……どうして!?」

「今の盤面じゃデュラハンの効果は使い難いから……ってのは戦い慣れてない俺みたいな奴の考えだろうな。恐らく……」

「ORUになっているワイト達を、早急に墓地へ送る為ね」

 

 ベルの疑問、クラドの解答。それに頷いて答えた藍の言葉が示す通り、ソルシエールの墓地が新たに動き始める。

 

「カードをドロー。続けてORUとして墓地へ送られた《ワイトプリンス》の効果を処理。デッキから《ワイト》《ワイト夫人》を1体ずつ墓地へ送る」

 

 これで墓地に存在する《ワイト》《ワイトキング》は――6体。

 

 ワイトキングの攻撃力を上げる為に《ワイト》を墓地へ送る、その手段は実に豊富だ。

 だからこそ、その手段をどれだけ採用するか、どのカードと組み合わせるかでこのデッキの真価は大きく変わって来る。しかし『屍皇』とまで呼ばれるようになった彼がどこまでこの【ワイト】を昇華させたのかは、火を見るよりも明らかだ。

 

「もう、あんなに「ワイト」モンスターが墓地へ……」

「お? ようやく理解したみてぇだなおっぱいちゃん? あのデッキの恐ろしさがよ」

 

 不気味に胎動するそんな屍皇のフィールドと青ざめた表情のベルを見比べて、燐路はニヤニヤと犬歯を覗かせた。

 

「更にORUの無くなったデュラハンでエクシーズ・チェンジ。★4、《ゴーストリックの駄天使》を攻撃表示で特殊召喚する」

 

《ゴーストリックの駄天使》

★4/闇属性/天使族・エクシーズ・効果/ATK 2000/DEF 2500

 

 はぁい、と手を振る桃髪の少女型モンスターは、アンリエールが使役するものと寸分違わぬ同じものだ。

 紅い鎖に囚われ、ケタケタと嗤って牙を剥いた下僕――数日前の記憶が、頭を過ぎる。

 

「――バトル。まずは駄天使で伏せモンスターに攻撃」

 

 下らない幻が纏わり付いた頭を振り、下された攻撃に備える。

 前に進むために、影であることを振り切るために。だからこそ選んだのだ、兄を乗り越える道を。

 あのいけ好かない女の影に怯えている暇など、余裕など無い――!!

 

「っ、《ゴーストリック・キョンシー》のリバース効果発動!! 手札に《ゴーストリック・ランタン》を加えさせて頂きますわ!!」

 

 幾重にも突き刺さるモノクロームの羽に、苦悶の表情を浮かべたキョンシがー耐え切れずに爆散する。そんな死の間際に投げ渡された1枚のカードが、アンリエールへと受け渡された。

 

「続けて、リヴァイエールでダイレクトアタック」

 

 唸りを上げて肉薄する薄緑の次元竜。その暴風が刃となって襲い掛かる。

 しかしアンリエールは手札に加えたランタンも伏せカードも発動させること無く……その一撃を身をもって受けた。

 

「くぅっ……!!」

 

【アンリエール】LP8000→6200

 

「アンリさん、何でランタンの効果を使わなかったんですか!?」

「はっ、そう迂闊に使える訳ねぇだろ? いつ死ぬか分からねぇんだからさ」

 

 ベルの悲鳴にも似た疑問。燐路は茶化しながら答えたが、その回答は的を得ていた。

 次のターン、ソルシエールの手札から突然《ワイトキング》がひょっこりと召喚されてしまえば、その怪物的な攻撃力を持って一気に勝負の幕を引かれる可能性だってある。

 その身をもって『死の一撃』を受けてきたアンリエールとしては、防御手段をなるべく温存しておこうという算段なのだろう……ベルにはまだ、その実感が薄かった。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 長かった屍皇の『怪演』もひとまずは暗転し、幽霊姫へと舞台が明け渡された。

 前座とでも言わんばかりに召喚された2体のモンスター・エクシーズを前に、アンリエールは勇ましくデッキトップに手を掛けた。

 

「では参ります。私のターン、ドロー!」

 

 黒のドレスを翻し、ドローカードに目を通す。

 ルージュの瞳に、妖しく光が灯った。

 

「私は手札から魔法カード《精神操作》を発動。お兄様のリヴァイエールをエンドフェイズ時まで頂きますわ」

 

 催眠電波のような波状紋がエメラルドの海竜に浴びせられると、その身を翻してアンリエールの場へと反転した。

 この効果によってコントロールを奪われたモンスターは攻撃も、リリースさえも制限されてしまう。そのため奪ったモンスターは(シンクロ)素材やX素材として利用することが定石とされているのだが――。

 

「凄いわね。アンリちゃんもここまではしっかり想定してたみたい」

「え?」

 

 藍の感嘆とベルの疑問。その答えはすぐに明かされた。

 

「……さて、ここでリヴァイエールの効果を発動。ORUを使い、除外されているお兄様の《ワイト》を、『私の場に』特殊召喚しますわ。更に手札から自身の効果で《ジェスター・コンフィ》を表側攻撃表示で特殊召喚!」

 

《ワイト》

☆1/闇属性/アンデット族/ATK 300/DEF 200

 

《ジェスター・コンフィ》

☆1/闇属性/魔法使い族・効果/ATK 0/DEF 0

 

 王の名(こうか)を持たない、貧弱な骸骨のモンスターがリヴァイエールに導かれ幽霊姫の舞台に上がる。そんな彼の背後から寸胴な道化師が姿を現した。

 

『おっとここで幽霊姫、相手モンスターはおろか、除外ゾーンまで利用するというファインプレー!! 更に☆1のモンスターが並んだということは……流石は決闘役者、魅せてくれます!!』

 

 審判員機構に促されるまでも無い。

 

「私は、コンフィーとワイトでオーバーレイ!」

 

 兄の後を追う様に、アンリエールも右腕を突き出し黒の召喚法を紡ぐ。

 

「歴戦の魂よ、彷徨う亡者を束ね冥府へと導きなさい……エクシーズ召喚、★1《ゴーストリック・デュラハン》!」

 

 現れたのは、先程ソルシエールが呼び出したものと違わぬ黒鋼の首なし騎士。

 しかし、ただ黙して幽霊姫に付き従うその姿は、ベルの目にはとても勇ましく映った。

 

「……カードの発動は無いようですわね?」

 

 ソルシエールの場に伏せられた2枚のカードは依然、動き出す気配を見せない。

 ならばとばかりに、アンリエールは手札のカードに指を走らせた。

 

「手札から魔法カード《強制転移》を発動! お互いにそれぞれ自分フィールド上のモンスター1体を選び、そのモンスターのコントロールを入れ替える……リヴァイエールはお返しいたしますわ、お兄様」

 

 ソルシエールの場には駄天使が1体のみ、選択出来るモンスターはそれ以外には無い。

 幽霊姫は不敵に笑みを浮かべ、屍皇が黙して頷くと、リヴァイエールと駄天使が宙で交差しながら場を入れ替わる。アンリエールの場へ新たに居座った駄天使は「はぁ~い」と新たな主へとお気楽に手を振って見せた。

 

「さぁ、駄天使の効果を使わせて頂きますわ。ORUを使い、デッキから《ゴーストリック・ハウス》を手札に加えます!」

『幽霊姫、隙がありませんっ!! またも相手モンスターの効果を利用していくぅ!!』

 

 駄天使がぽんぽんと手を打ち鳴らすと、どこからともなくカードが現れアンリエールの手札へと収まる。これで相手モンスターの効果を全て利用し、更には自身のデッキと相性の良いモンスターを手中にした形となった。

 何より一撃が脅威となるこのデュエルでは、被ダメージを抑えられる《ゴーストリック・ハウス》は重要な役割を果たす。アンリエールは躊躇うことなく、ディスクの中へとそれを滑り込ませた。

 

「物の怪巣食う、我が根城へご招待致しますわ。手札に加えた《ゴーストリック・ハウス》をそのまま発動! そしてバトルフェイズ、まずは駄天使でリヴァイエールを攻撃!」

 

 月夜の草原が物静かな廃館へとその装いを変え、ホームグラウンドへ降り立った駄天使はむんっと鼻息を荒くしながら自身の羽を宙へ並列させていく。

 

「……良いだろう。カードの発動は無い」

「ならば遠慮なく攻めさせて頂きます! デュラハンの効果を発動、ORU(コンフィー)を使い、リヴァイエールの攻撃力を半分に致しますわ! 『魂分割(ソウルハント)』!」

 

 駄天使の攻撃が降り注ぐその刹那、宙を漂う海竜へ向かって首無しの騎士が駆け出した。

 すれ違い様に霊気の刃で一閃。苦しげな咆哮を上げた海竜へと容赦無くモノクロの羽雨が降り注いでいく。

 

《虚空海竜リヴァイエール》

ATK 1800→900

 

 リヴァイエール爆散の余波は屍皇へと襲い掛かり、ルージュの髪を激しく揺らす。

 しかしその長身は、身じろぎ一つとして動くことはなかった。

 

【ソルシエール】LP8000→6900

 

「続けて参ります! デュラハンでダイレクトアタック!」

「通さぬ。手札より《ゴーストリック・ランタン》を裏側守備表示で特殊召喚し、効果を発動。その攻撃を無効にする」

 

 ソルシエールの手札から飛び出したのは、見慣れたカボチャの浮遊霊。

 ランタンはケタケタと笑ってカードの中へと隠れると、埃に塗れた屋敷の中へと姿を隠してしまう。

 

『ななな何とぉ!? またしても屍皇の手から「ゴーストリック」モンスターが飛び出したぁ!!』

 

 コーパルの興奮した実況に合わせてクラドが呟くと、藍も苦い顔をして頷いた。

 

「成程な……レベルと属性も共通して使いやすい。X召喚を駆使するなら、場に残るランタンは《ワイトキング》の補助としては悪くない、か」

「ええ、★1にわざわざデュラハンを採用している意味もあったという訳ね。墓地に落ちたランタンを使い回せるし、何よりワイトキングが育ち切るまでの『時間稼ぎ』には最適……」

「じゃあ、お兄さんが「ゴーストリック」モンスターをデッキに入れていたのは、初めから……?」

 

 2人の言葉を聞いて、ベルはそれまでの考えを改めた。

 嫌味らしく、アンリエールの『メタ』としてゴーストリックをわざわざ組み込んだものだと思っていたが……そうではない。

 アンリエールの動じない表情から察するに、恐らく彼女のデッキの原点は――ソルシエールの【ワイト】に対する解答が、アンリエールの【ゴーストリック】なのではないか、と。

 

「攻撃の続行は不可能。私はこれで、ターンエンドですわ」

 

 アンリエールが黒のドレスを翻し、一礼してターンを受け渡す。

 

(何とかダメージこそ与えましたが……)

 

 妖しく浮かべた笑顔を僅かに曇らせ、目の前の『壁』を見据える。

 

(この程度の『好調』で敗れるような人なら、苦労はしませんわね)

 

 幾度と無く敗北してきた、それまでの映像が脳裏を過ぎる。

 奇策が功を奏し、ソルシエールのペースは乱した。しかしこのままで済む筈が無い。

 

「私のターン、ドロー。場のランタンを反転召喚する」

 

《ゴーストリック・ランタン》

☆1/闇属性/悪魔族/ATK 800/DEF 0

 

 黒衣を纏った悪戯好きの低級モンスターが、屍皇の命を受け幽霊屋敷を飛び廻る。

 墓地にはデッキからワイトキングを呼び出せる《ワイトプリンス》がいる。その場合、狙いはワイトキングの攻撃を通す為、手札から別のモンスターを召喚してのX召喚か。

 おおよそ思い浮かんだ観客達の予測は、見事に裏切られる。

 

 

 

「この瞬間。私は『自分の』ランタンの反転召喚にチェーンし、罠カード《連鎖除外(チェーン・ロスト)》を発動する」

 

 

 

 

 静かに、そして重く告げられたのは――自身のモンスターに対しての召喚反応罠。

 

「な……!?」

 

 ベルが疑問を浮かべる間もなく、アンリエールが驚きの声を上げたことで『ソレ』が奇策であることを皆が認識した。

 

「攻撃力1000以下のモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動。そのモンスターをゲームから除外し、更に除外したカードと同名のカードを相手の手札・デッキから全て除外する」

 

 アンリエールが知らない、兄の手の内。

 これこそが彼の仕掛けた正真正銘の妨害(メタ)であった。 

 

「何を驚く? 《エフェクト・ヴェーラー》を筆頭として『召喚される可能性もある』手札誘発型モンスターは我が下僕に対して有効に働くのでな。これしきの手を読めぬようでは――このデュエル、最早何の意味も成さぬぞ」

 

 胸を鎖で貫かれ、ランタンが苦痛の叫びを上げる。

 ジャラジャラと唸りをあげて伸び続けるソレは、アンリエールの手札で控えていたランタンも貫き。そのままデッキへと潜り込んだ破壊の鎖は、残る2枚さえ無慈悲に刈り取っていった。

 

 ――それじゃ『4番』のウサちゃんは貰って行くよ?

 

 手札に纏わりつく紅い鎖が、一瞬だけ幻視する。

 ぞわりと粟立つ肌。首を振って何とか気持ちを持ち直して――今、目の前に立ちはだかる倒すべき『敵』をしっかりと捉えた。

 

(……お黙りなさい。貴女をぶん殴るのは、この人を倒してからですわ!!)

 

 ルージュの闘志は、不安定に揺らめきつつも決して消えることはない。

 そんな瞳を覗き込んだ屍皇は、どこか興味深そうに目を細めた。

 

「――では、墓地のプリンスの効果を発動。自身と《ワイト》《ワイト夫人》の3体を除外し、デッキから《ワイトキング》を特殊召喚する」

 

 地の底から這い出るようにして現れたその姿は、変わらず紫の布を羽織った脆弱な骸骨。

 しかしその大きさは、首を反らして見上げるまでに大きく膨れ上がっていた。

 

《ワイトキング》

ATK ?→3000

 

「攻撃力、3000……」

 

 最上級モンスターと同等の攻撃力を持つその姿に、思わずベルが目を見開く。

 デュエルが長引く程、戦場から屍が送られる程。どうしようもなく力を増大させていく、圧倒的な絶望。

 この一撃を防ぐ為に残してあった希望は、既に無い。

 

「――バトルフェイズだ」

 

 屍皇と呼ばれるその所以が、遂にその腕を振り上げた。

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