遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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※おことわり※
ベル「あのっ……本編中でわたし、ヴォルカニック先輩のコトをアンチっぽく言ってますけど……全然そんなことなくてっ!! どっちかっていうと、その、好きっていうか……」

傭兵決闘者の方々、ご容赦下さいませ。

※追記6/4
《スクラップ・ゴーレム》を《スクラップ・ソルジャー》へ修正しました。
私は一体、何を勘違いしていたんでしょうか……申し訳ありません。


第42話 フルフェイス・ライダーズ

 悲鳴に染まった人垣は海を裂くように『空白』を作り、撃墜されたD・ホイールは数メートルほど滑った後に爆砕。

 遅れるように地面を転がった煽里の身体は、ピクリとも動かなかった。

 

「……何だ何だ? 一体どういうこった!?」

 

 吹き上がった炎が、薄青の夕刻を紅く照らしていく。クラドの困惑した一言は、皆の疑問を全て代弁していた。

 真っ黒なライダースーツに身を包み、赤のフルフェイスのヘルメットまで装着した彼らからは個性を、素性を隠そうという明らかな意図が見える。どう見てもセキュリティ組織の関係者でない。

 その正体と真意を測りかねている間に、先行していた2台の後に続いて新たに3台のDホイールが姿を現した。

 

「目標沈黙。これより消去する」

 

 軽量型のD・ホイールを着地させた彼らは、瞬く間に煽里の周囲を取り囲んでいく。

 飛び出した不穏な言葉からも、これから止めを刺そう(なにをしよう)としているのかは明らかだった。

 

「お、おい待て!? 俺達もそいつに聞きたい事が――」

 

 クラドの言葉にぴくりと反応し、ライダースーツの男達が一斉に振り返る。

 その視線の向く先はフルフェイスのヘルメットに遮られ伺う事は出来なかったが――続く言葉がソレを示していた。

 

「――これは驚いた。まさか『弟』の方まで見つかるとはな」

 

 苦痛の声を上げ、うずくまる燐路に向かって1台のD・ホイールが迫る。

 

「な……クソッ!?」

 

 白面の女と燐路は間違いなく『敵』だ。

 だからその判断が正しいかどうか、クラドには分からなかったが……少なくとも敵の敵は味方、という訳でなさそうだ。

 

「『ターンエンド』!! 逃げんぞ猿小僧!!」

 

 駆け出しながら解除のキーワードを叫び、燐路の体を抱えて飛び退く。次の瞬間には甲高く唸り声を上げるD・ホイールの車輪が2人の位置を掠めていった。

 数メートルほど進んだ男のD・ホイールだったが、タイヤを鳴らして見事にターンを決めて向き直った。

 

「……ほう?」

 

 余裕を含んだまま、男はクラド達を一瞥していく。

 続く言葉はなかったが、おもむろに起動したデュエルモードが「邪魔をするなら容赦はしない」と無言のメッセージを叩きつけてきた。

 そんな中、答えを返すように短い溜め息がどこかから漏れた。

 

「はぁ――やれやれ。忘却の青(アトランタ)も存外、物騒ですのね?」

 

 そんな男の前に、アンリエールがひらりとドレスを翻して立ちはだかった。

 

「藍、この方は私がお引き受けしますわ。貴女達はあちらのお2人を」

「……大丈夫、アンリちゃん?」

 

 先程の様子を見るに、彼らとのデュエルは恐らく『闇のデュエル』となる。

 まだ傷は癒えていないだろうと気遣う藍に、アンリエールは不敵に微笑んで返した。

 

「ご冗談を、むしろ丁度良い肩慣らしですわ。もっとも……最初から見逃して頂ける様子もありませんでしたし」

 

 こちらが敵対する意思を見せたからか。煽里の周囲に待機していた2台のD・ホイールも、エンジン音をふかしながら一行の周りを囲み始めた。

 見れば2台ともデュエルモードへ移行している。アンリエールへ「多対1も辞さない」と脅しを掛けているようなものだ。

 

「……引き下がるなら今のうちだぞ、小娘」

「何を馬鹿な。むしろこの幽霊姫を相手に、お一人で勝機があると?」

 

 瞬間、アンリエールの前後から紅い鎖が一斉に放たれた。

 おぞましく金属音を掻き鳴らし、無防備な幽霊姫の背後へ迫ったソレを受け止めたのは――まだ真新しい、橙色の新型ディスクだった。

 

「……藍の言葉、そっくりそのままお渡し致しますわよ?」

「お気遣い無く。その言葉、全力でお返しします!」

 

 黒き姫と橙の侍女。背中合わせの少女達がカードの剣を引き抜く。

 2人の目にはもう、迷いや怯えの色は無かった。

 

 

 

「くっそ……一体何が……」

「今ばかりはスマン猿小僧、こっちも何がなんだか――」

 

 彼らの狙いが姉弟であることに気が付き、早々にその場を離れようとしたクラドだったが――Dパッドを付けたその手に、逃すまいと紅い鎖が絡まる。

 

「げっ!?」

「そう易々と逃すとでも?」

 

 クラドのDパッドは残念ながら、しっかりとデュエルモードへと起動していた。

 D・ホイールに跨ったまま、ライダースーツの男がゆっくりとディスクを掲げる。

 

「か、勘弁してくれ……俺は実戦に関しちゃ弱々で無害な男なんだよ……な?」

「ならん。カードを抜け」

 

 両手を挙げて降参のポーズをとるクラドだったが、ライダースーツの男は無常にも頭を振った。

 

(参ったな、サレンダーしたら何が起こるか分かったもんじゃねぇし……仕方ねぇ、ここは――)

 

 クラドが一瞬の間に思考を巡らせていると、背負われたままの燐路がペチペチと頭を叩いた。

 

「おい、いいから準備しろ。俺がやる」

「はぁ!? 冗談言うな、誰がお前何かにディスクを渡すか!!」

「バカ、そうじゃねーよ!! 俺が『頭』になるって言ってんだ!! お前は俺の言うとおりにカードを動かしてりゃいい!!」

 

 状況が状況だけに、しばらく悩んでいたクラドだったが……長く溜め息をついて、うな垂れながら呟いた。

 

「……デッキにあれこれ文句とか言うの、無しだからな?」

「何だっていい! 早く構えろ売買屋!」

 

 

 

 変則タッグとも言える、奇妙な組み合わせが誕生した頃。

 

「さて、そういう訳で申し訳ないけれど……貴方達には私たちの相手をお願いするわね?」

 

 藍と蓮は、煽里を囲む残りの2人と対峙していた。

 

「……アイドル風情が何の用かな?」

 

 ライダースーツ達は藍と蓮に向き直りつつ、手元のパネルを操作してデュエルモードへと移行する。アイドルと知りつつ刃を向けることに躊躇いは感じられない。

 そんな彼らの反応に、蓮がニッコリと営業スマイルを浮かべて言った。

 

「あれ、ご存知でした? 嬉しいな~」

「ああ……地獄から這い上がってきた『汚らしい』スキャンダルアイドルとしてな」

 

 煽り気たっぷりの、嫌味たらしい敵意の塊。

 蓮も芸能人だ、ここへ至るまでに何度受けたか知らない侮辱ではあったが……それを平然と受け流せるかどうかと問われれば、答えはNOである。

 

「……先輩。私、ほんのちょ~っとだけカチンときちゃいました」

 

 笑顔を浮かべたまま、背後に渦巻く群青のオーラは禍々しく変化し、刃のように研ぎ澄まされていく。

 そんな蓮の隣で、藍が一歩前へと踏み出して言った。

 

「手伝うわ蓮。ホントは白面の女(そのひと)から引き離して終わりにするつもりだったけど――」

 

 カチリ、と美しい装飾が施された貝型のディスクに青い火が灯る。

 

「本格的に、潰したくなっちゃったから」

 

 押し寄せる津波のようなプレッシャーに僅かながら気圧されつつ、男達はそれぞれ紅い鎖で標的をロックした。

 

「あーあ、先輩まで怒らせちゃいましたね。ま、せいぜい後悔して下さい?」

 

 あっという間に出来上がった5VS5の構図。

 いつしか人々の悲鳴や喧騒は、しんと鳴り止んでいた。

 

 

 

「さぁベル、ナンパ男共をひっぱたきますわよ!」

「了解ですっ!」

 

 

 

「テメェらがどこの誰かは知らねぇが気に入らねぇ、爆殺の刑だ!!」

「そうだなぁ、出来るといいなぁ!!」

 

 

 

 それぞれの思惑を胸に、その一声は同時に打ち上がった。

 

 

 

「「「「「「決闘(デュエル)ッ!!」」」」」」

 

 

   **

 

 

「ぐあっ!?」

 

 黒のライダースーツに身を包んだ男が地を転がる。

 LPの表示は0、既に勝負はついた後だ。しかしそれはベル達が交戦を始めた同時刻でありながら、遠く離れたダウンタウンの街中での出来事であった。

 点滅するネオン、散らかったままの廃棄物。中途半端に再現された挙句、首都『リューアン』の発展と共に忘れ去られた『遺跡』の街並みは、どこか荒廃した雰囲気が漂っている。只でさえ人通りの少ない路地から一歩外れたそこは、人目の届かぬ無法地帯だ。

 

「……勝負は付いた。約束を果たして貰おうか」

 

 抑揚の無い声が冷たく言い放たれる。決着の瞬間に紅い鎖を断ち切り、絶命を逃れたことを声の主は見逃していなかったのだ。

 男の襟元を掴んで強引に立ち上がらせると、冷たい声の主は顔を近づけて言った。

 

「案内しろ。お前達の言う、巫女(シスター)の下へ」

 

 背後で消え行く白き龍の威圧をそのままに、無表情(ポーカーフェイス)の男――ユウ=キリサキは男のフルフェイスヘルメットを引き剥がす。

 

「な、何が目的だ……」

 

 苦悶の表情を浮かべるソレは、やはり自分と同じ『東洋人じみた』顔立ち。紅の地の人間であることは明白だったが――。

 

「答える義理は無い。むしろ俺が、その問いを返したい位だ」

 

 周囲に散らばる『ソレ』を一瞥する。

 白い狐の面に、赤い上着――ユウの周りにはそれまで『敵』と認識していた人間たちが息絶えたまま転がっていた。

 ユウが手を下した訳では無い。恐らくは彼こそ、この場においては『イレギュラー』な存在だったのだろう。

 

「……不要になったモノを排除した……ただ、それだけのことだ」

 

 荒い呼吸を整えながら、男が意味深な答えを返した。

 妙なワードに、ユウが首を傾げる。

 

「……不要?」

「ああ……」

 

 首元を掴まれながらも、男は不敵な笑みを崩さない。

 

「全ては世界の修正のため……元より我らに『未来』など無い……」

「? 何を言って――」

 

 疑問を返すユウだったが、ふと不穏な気配を感じ咄嗟に後ろへ飛び退いた。

 瞬間、ゆらりと伸びる紅い鎖が、倒れ伏した白面のディスクへと繋がったのが見えた。

 

「《火炎地獄》……発動」

 

 男の身体は、あっという間に炎に包まれた。

 残り僅かだった男の(ライフ)は、たった500のデメリットダメージで簡単に焼き切れてしまったらしい。

 本来は対戦相手へ向かう筈の1000ポイント分の火力は、あらぬ方向へと飛んでいく。

 

「……敵の手に掛かって死ぬのは不名誉、ということか」

 

 メラメラと燃え上がる炎の中に残る、僅かな人の輪郭に向かって呟くも……答えはもう返ってはこない。

 

(……何が起きている?)

 

 燃え盛る男の姿をしっかりと目に焼き付けながら、ユウは自らに圧し掛かる正体不明の影に戦慄を覚えたのだった。

 

 

   **

 

 

「わたしは、手札から《トリオンの蟲惑魔》を召喚して効果を発動! デッキから《奈落の落とし穴》を手札に加えます! カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 蜻蛉の幼子が地面を抜けて飛び出す。

 後攻の1ターン目としてはあまり嬉しくない動き出しであったが、それも戦略の内だ。

 

「ならば伏せカード発動、《サイクロン》。セットされたそのカードを破壊する」

 

 掛かった、とベルは小さく舌を出した。

 

「残念でした。私が伏せたカードは――」

 

 一陣の風がベルの場を駆け抜けた刹那、けたたましく警報を鳴らして赤い球体形のロボットが無数に飛び出していく。

 

「罠カード《セキュリティー・ボール》! あなたの場の《ヴォルカニック・ロケット》を破壊します!」

 

 このパターンの戦術は、もはやベルの十八番だ。

 愛らしい姿に惑わされ少しでも気を緩めれば最後、その僅かな隙を突いて『全力』の毒牙が猛威を振るう。

 そんなベルの後ろでは、幽霊姫アンリエールが順調にその手を詰めていた。

 

「★3のアルカードでエクシーズチェンジ、★4の《ゴーストリックの駄天使》を守備表示でエクシーズ召喚。その効果で《ゴーストリック・アウト》を手札に加え、カードを1枚伏せてターンを終了致しますわ」

 

 優雅なエンド宣言を言い放つアンリエールの表情は余裕に溢れていたが……早くも相手のデッキを特定するカードが明かされている手前、その胸中は穏やかではない。

 相手に見せ付ける形で『対策』を示したものの、顔色が伺えぬその装いからは一切の情報が伝わってこない。

 どこからか漂い始める不気味な空気……そしてその不安は、声色の変わらない男の声で現実と化す。

 

「では、私のターンだ。ドロー、手札より永続魔法《ブレイズ・キャノン》を発動」

 

 やはり来た――しかし何故?

 ここですかさず、アンリエールは先のターンで伏せた罠を発動させた。

 

「させませんわ! 手札の《ゴーストリック・マリー》を見せて罠カード《ゴーストリック・アウト》を発動! このターン、私の《ゴーストリック》カード及び裏側守備表示のモンスターはカードの効果の対象にならず、破壊もされません!」

 

 ブレイズ・キャノンはその性質上、相手モンスターを対象にとる必要がある。アンリエールの場には駄天使が1体のみだ、少なくともこのターンで『火を吹かれる』ことは無い筈……。

 そんなアンリエールの思考を嘲笑うように、男の手は静かに伏せカードへと向かった。

 

「ならばこちらも、罠カード《ナイトメア・デーモンズ》を発動させて貰おう」

(――っ、そういうことですの)

 

 こちらの動きも、相手にとっては全て計算の内――流石に大口を叩くだけのことはあると、アンリエールは歯噛みする。

 

「場の《ヴォルカニック・ロケット》をリリースし、貴様の場に3体のナイトメア・デーモン・トークンを攻撃表示で特殊召喚する」

 

《ナイトメア・デーモン・トークン》

☆6/闇属性/悪魔族/ATK 2000/DEF 2000

 

 トークンとしては破格のステータスを持つ3体の悪魔達が、棒のように細い手足をバタつかせてアンリエールのフィールドで楽しそうに踊る。

 駄天使は鬱陶しそうに横目で睨みつけていたが、彼らの『真価』を知るアンリエールは自然と身構えていた。

 

「これで標的(ターゲット)は揃った。手札から《ヴォルカニック・バックショット》を送り、ブレイズ・キャノンの効果を発動」

 

 三つ脚に支えられた銀色の単砲台、その銃口がデーモン・トークンへと向けられる。

 しっかりと照準がセットされると、砲台の弾倉へ飛び込んだ三つ首のトカゲのようなモンスターが炎を纏って発射された。

 

「相手モンスター1体を選択し、破壊する!」

 

 着弾したデーモン・トークンは断末魔の叫びを上げながら爆散し、その余波を容赦なくアンリエールへと叩き付ける。

 

「ぐっ……!?」

「バックショットは墓地へ送られた時、相手に500のダメージを与える。並びにナイトメア・デーモン・トークンの効果も発動、被破壊時に自身のコントローラーへ800ポイントのダメージを与える」

 

 渦巻く炎が、幽霊姫の身を焦がしていく。

 

【アンリエール】LP4000→2700

 

「ぁぐっ……!!」

「更に墓地へ送られたバックショットのもう1つの効果を発動。デッキから2体の《ヴォルカニック・バックショット》を墓地へ送ることで、相手フィールド上のモンスターは全て破壊される」

 

 駄天使は《ゴーストリック・アウト》の効果に守られ被弾することはなかったものの――両脇でバタバタと騒いでいた迷惑な隣人達は降り注ぐ火の雨に打たれ爆散。

 きゃーっと耳を塞いで逃げ回るその姿は可愛らしかったが、主人であるアンリエールへと襲い掛かるダメージ量は凄まじい。

 

「ナイトメア・デーモンズが更に破壊されたことで1600、そしてバックショット2体が墓地へ送られたことで1000ポイント……合計2600のダメージを受けて貰おう!」

 

 全てが灼熱で構成された紅蓮の暴風雨がアンリエールを襲う。

 

「っぁぐ……ッ!?」

 

【アンリエール】LP2700→100

 

「っ……て、手札の《ゴーストリック・マリー》の効果……デッキから《ゴーストリックの雪女》を裏側守備表示で特殊召喚しますわ……!!」

 

《ゴーストリックの雪女》

☆2/闇属性/魔法使い族/ATK 1000/DEF 800

 

 息も絶え絶えに辛うじてアンリエールが呼び出したのは、か弱き氷の悪戯好き。

 雪女は不安そうに主の顔を伺いながら、裏向きとなったカードの中へと身を隠した。

 

「アンリさんっ!?」

「余所見をしている暇など与えんぞ小娘、こちらは《ブレイズ・キャノン・トライデント》を墓地へ送り、《ヴォルカニック・デビル》を特殊召喚!! 貴様にも同じ苦痛を与えてやる!!」

 

 ブレイズ・キャノンの上位種である三連砲をコストにして呼び出されたのは、黒く艶のある溶岩石を鎧のように身に纏う鋭利なシルエット。

 その姿はまさに『怪獣』と呼ぶに相応しいものだった。

 

《ヴォルカニック・デビル》

☆8/炎属性/炎族/ATK 3000/DEF 1800

 

 頭上からもうもうと炎を吹き出し、雄叫びを上げる。

 そのレベル、攻撃力から「ヴォルカニック」モンスターの切り札だとベルは直感したが――魔法カードを踏み台として突如現れたソレに動揺が隠せない。

 

「手札から通常召喚、《ヴォルカニック・エッジ》!!」

 

《ヴォルカニック・エッジ》

☆4/炎属性/炎族/ATK 1800/DEF 1200

 

 デビルよりも二周りほど小さな体躯の、鋭利な金属甲殻に身を包んだ恐竜のようなモンスターが続けて戦場へ降り立つ。

 

「バトルだ、まずはデビルでトリオンの蟲惑魔へ攻撃!! 『ヴォルカニック・キャノン』!!」

 

 煮えたぎる溶岩の火球が、開かれた凶悪な顎に収束していく。

 比喩ではなく『大砲(キャノン)』と化したソレは怒轟を伴い、蜻蛉の少女へ向かって打ち出された。

 

「あぅッ……!!」

 

【ベル】LP4000→2600

 

 溶岩大砲の熱波がベルの身を焦がす。

 苦悶の声を上げる少女に対し、ライダースーツの男は冷淡に宣言を下した。

 

「続けて、エッジでダイレクトアタック……!!」

 

 既に、ベルを守る壁は消失している。

 デビルの攻撃による熱すら冷めぬまま、エッジが放った小型の火球は寸分違わずベルへ命中した。

 

「うぁああああっ!!」

 

【ベル】LP2600→800

 

 肌を焼く熱に意識を明滅させながらも、ベルはおぼろげに理解した。

 採用しているカードこそ違えど、彼らのデッキは高速で相手のライフを削り切ることだけに特化させて調整されていることを。

 勝利を目指すのはデュエルの大前提だが、彼らの戦い方からはもっと別の意図を感じたのだ。

 

 彼らが目指すのは『勝利』ではない。

 喜怒哀楽の感情を削ぎ落としたもっと瞬粋な――いわば『敵の敗北』。

 

「ターンエンドだ……」

 

 敵を殺す。

 ただそれだけを目指し、カードを引く。

 

 フルフェイスの奥にあったのは、そんな淡白な戦意だった。

 

 

   **

 

 

「……メイン2、《ヴォルカニック・エッジ》の効果を発動。攻撃宣言を行っていないため、相手に500ポイントのダメージを与える」

 

【クラド&燐路】LP2500→2000

 

「うあちちっ……!?」

「クソ……コイツら、ちょこまかとムカつくカードばかり使いやがって……!!」

 

 一方。【スクラップ】(クラドのデッキ)を操って戦っていた燐路も、ベル達とほぼ同じような状況に陥っていた。

 ブレイズ・キャノンからのバックショット全体破壊、加えて1500ものバーンダメージ。

 ナイトメア・デーモンズとのコンボこそ無かったものの、ロケットに加えてエッジまで追加で召喚され、一斉攻撃を何とか《バトルフェーダー》で凌いだところだった。

 

「お、おい? 本当に何とかなるんだろーな……!?」

「運が良けりゃな。死んだら死んだでそんときだろ」

 

 すっかり怯えた様子のクラドに、燐路がつまらなそうに言葉を返す。

 

「そんとき、で死ぬのは俺なんだよ!? ふざけんな!!」

「っせーな、テメェも男なら覚悟くらい決めろ!!」

 

 口論する2人に、ライダースーツの男は溜め息をつきながら淡白に終了を宣言する。

 

「……ターンエンド。貴様らのターンだ」

 

 モンスターカードが多いのか、相手の場に伏せカードは無い。

 攻めの姿勢が得意な燐路は、この機を逃すまいと目を光らせた。

 

「へっ、ようやく回ってきたか! じゃあ行くぜ、俺のターン!」

「くっそ……ええい、こうなりゃヤケだ!! ドロォォォォッ!!」

 

 天を指差す燐路を背負い、クラドが光の軌跡を描きながらカードを引き抜く。

 

「……おっ」

 

 ドローカードを確認した燐路は、ニヤリと口角を上げた。

 

「運が向いてきやがったぜぇ? 俺は手札から《スクラップ・キマイラ》を攻撃表示で召喚ッ!!」

「は? し、召喚ッ!!」

 

《スクラップ・キマイラ》

☆4/地属性/獣族/ATK 1700/DEF 500

 

 獅子の頭に毒蛇の尾を持つ、廃材の獣が翼を広げてフィールドへと降り立つ。

 その金切り声に導かれ、まだ燃え残っていたモンスターの破片がズブズブと寄り集まっていく。

 

「効果により、墓地から《スクラップ・ソルジャー》を特殊召喚する!! さぁ行くぜ、俺は☆4のキマイラに、☆5チューナーのソルジャーをチューニングッ!!」

「お、おう、チューニングッ!!」

 

《スクラップ・ソルジャー》

☆5/地属性/戦士族・チューナー/ATK 2100/DEF 700

 

 墓地より復活を遂げた寄せ集めの機械兵が即座に5つの緑輪となってキマイラを包んでいく。

 合計レベルは9。たった2枚しかないクラドのエクストラデッキでその条件に当てはまるカードは、1枚しかない。

 

「悪衣悪食、因果応報!! 輪廻の理を牙に変え、地上の亡者を蹂躙しろ!!」

 

 光の柱を裂き、蒸気の霧がフィールドを包む。

 

「シンクロ召喚!! 《スクラップ・ツイン・ドラゴン》!!」

 

《スクラップ・ツイン・ドラゴン》

☆9/地属性/ドラゴン族・シンクロ・効果/ATK 3000/DEF 2200

 

 白い闇の中でゆらりと輝く緑の眼光は4つ。二頭を持つ屑鉄の竜が姿を現した。

 

「ソッコーで効果発動!! 俺の場のバトルフェーダーを破壊し、テメェの場にいるヴォルカニック2体を手札に戻すぜ!!」

 

 ツイン・ドラゴンが咆哮を上げると共に、全身から吹き上がった蒸気が2体のヴォルカニックモンスターを押し戻していく。

 

「まだ終わりじゃねーぜ? 俺はカードを1枚伏せ、魔法カード《エクスチェンジ》を発動!! 俺の手札は1枚だけだ、コイツをくれてやるよ!!」

 

 燐路に支持され、クラドが投げ渡したのは《サイクロン》。

 万能カードではあるが、肝心の相手のターン(いま)は発動することすら出来ない。

 

「モチロン、テメェの手札はしっかり見させて貰うぜ?」

「くっ……」

 

 エクスチェンジで公開された手札の中に、攻撃を防ぐカードは無かった。

 攻撃を確実に通す為に手札を確認したのかと思いきや……場に伏せた1枚のカードが示す意味に気が付き、クラドはデュエル中ということすら忘れて「あ、成程な」と感心したように呟いた。

 

「けっ、シケた手札だな……なら、俺が頂くのは手札に戻した《ヴォルカニック・エッジ》だ!!」

 

 苦悶の表情を浮かべながら、男は渋々カードを投げ渡す。

 

「さらに俺は、場に伏せた《二重召喚(デュアルサモン)》を発動!! 《ヴォルカニック・エッジ》を追加召喚し――」

 

 手札にも、そして相手の場に伏せられたカードも無い。

 ギラリと大きな瞳に火を灯して、燐路が叫んだ。

 

「お待ち兼ねのバトルだ!! 2体のモンスターでダイレクトアタックッ!!」

 

 絡みつくようにうねる蒸気のブレスと、火球の追撃が男へと放たれる。

 ライフを削ることに特化したライダースーツの男は何の抵抗もせず、その攻撃を受け入れた。

 

「グッ……がぁああああ!!」

 

【???】LP4000→0

 

 吹き飛び、倒れ伏した男の様子ににクラドは気が気ではなかったが――そんな彼の背中にしがみついていた燐路は、親指で自らの首を掻き切る様な仕草をして言い捨てた。

 

「ヒャハハハッ!! 爆殺の刑、執行完了だぜ!!」

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