遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス) 作:kohatuka
【藍】LP100
「これでターンエンド。さぁ、貴様のターンだぞ?」
バックショットと《ナイトメア・デーモンズ》のコンボバーン。
その銃口は藍に対しても同様に向けられ、容赦なく火を吹いていた。
(このダメージ……確かに普通のARとは違う……!!)
ヒリヒリと肌を焼くその感覚に苦悶の表情を浮かべながらも、藍はデッキのカードへ手を掛けた。
「威勢が良いのは口だけか? フン、所詮はアイドル崩れだな」
半笑いの混じった、小馬鹿にしたような男の口調が藍の神経を真っ向から逆撫でする。 しかし彼女の胸を絞め付けているのは、そんな侮辱でも肌を焼く痛みでも無かった。
「私の、ターン……」
脳裏を過ぎる、
ズタボロになってベッドに横たわった2人の姿が、今も鮮明に浮かんでくる。
「フン、あくまで最後まで足掻くか」
悪趣味なフルフェイスの奥など見えずとも分かる。敗北などあり得ないと余裕の表情で佇んでいる筈だ。
既に自分が『敗北』という名の海流に、あらぬ方向へ流されているとも知らず。
「……ドロー」
藍はドローした手札を『見ず』に、そのまま端へと追いやった。
「……私は、永続魔法《天変地異》を発動。お互いのデッキを表側にしてデュエルを進行するわ」
「何をし出すかと思えば、今更……」
「そして伏せていた罠カード発動、《ゴブリンのやりくり上手》」
男の言葉を振り切るように、藍は宣言を流していく。
「デッキからカードを1枚ドローし、墓地に存在する《ゴブリンのやりくり上手》の枚数分……つまり1枚をデッキの一番下に戻す。私が戻すのはドローした《リチュアの儀水鏡》よ」
「はっはっは!! 何だソレは、せっかく手札に加えた儀式魔法を戻すとは!!」
稚拙なプレイングだと、フルフェイスの男はたまらず吹き出した。
天変地異の効果で確認できる、藍のデッキトップに表示されていたのは《神の宣告》。もう1ターン早ければ、次のターンで自分が引くことになる《ヴォルカニック・エッジ》の引導くらいは防げたかもしれないが――。
「アドバンテージの概念すら皆無……貴様らにデュエルを指南した奴の顔を、是非とも拝んでみたいものだなぁ?」
実に滑稽。所詮は元アイドルが知名度目当てに習った、付け焼刃程度のデュエルだ。
ケラケラと笑い過ぎて頬骨が痛くなった頃……ふと、男は寒気を感じた。
見てはいけない、と獣の本能が警鐘を鳴らす。しかし顔を上げた男はしっかりと、その両目をもってソレを見てしまった。
「……拝めるかも、しれないわよ?」
くすり、と。
他に適切な表現がない為、辛うじて『微笑』と呼ぶしかないソレはあまりに冷たく。
長い前髪から覗く青い瞳は、ジッとフルフェイス越しの男を射抜いていた。
「な……」
言葉を詰まらせ、うろたえた様子の男の声を聞いて、藍の『微笑』は更に鋭利な形へ歪んでいく。
「手札から《リチュア・エリアル》を召喚、そして手札から装備魔法《
《リチュア・エリアル》
☆4/水属性/魔法使い族/ATK 1000/DEF 1800
現れたのは、黒のとんがり帽子を被った青髪の可憐な少女。
その首元には深紫の宝石が嵌められた、妖しげな輝きを放つペンダントが下げられていた。
(《黒いペンダント》だと……!? まさかッ!!)
藍の青い瞳に染め上げられていくように、男の顔から血の気が引いていく。
もっともそれは、皮肉にも男自身にしか自覚できない現象だったが。
「クス、立派な腕をお持ちの貴方なら――この先はもう、分かるでしょう?」
冷たい『微笑』の口元が三日月に曲がる。
尖った牙も、長く伸びた舌もない。それでも尚おぞましい。
深淵だけがぽっかりと覗く、吸い込まれてしまいそうな闇がそこにはあった。
「ばっ……そ、そんな……!?」
こんな得体の知れないモノに銃口を向けてしまった、そのときから。
既に自分は『詰んで』いたのだと、男は凍りついた頭で理解した。
白く、細い指がディスクを滑る。透き通るようなその仕草が、逆に恐怖を駆り立てる。
「魔法カード発動、《大逆転クイズ》」
男が見た絶望の未来は、見事にその形を成した。
「自分の手札とフィールド上のカードを全て墓地へ送り、デッキの一番上にあるカードの種類を宣言する。もしも宣言した通りのカードだった場合は……ああ、説明は野暮だったわね」
ゴウゴウと音を立てて現れた大渦が、フィールド上全てのカードを飲み込んでいく。
そんな中、男の前へちょこんと現れたエリアルは、下げていた《黒いペンダント》を男の首へ通すと「ばいばい」と手を振って渦の中へ消えていった。
「ぐっ……クソ……ッ!?」
「天変地異が破壊されたことで、デッキは再び裏向きに戻るわ。そして私が宣言するカードの種類は魔法カード……名前まで言い当てましょうか? 儀式魔法《リチュアの儀水鏡》よ」
藍が言い当てたのは、先程《ゴブリンのやりくり上手》でデッキボトムへ……つまり現在のデッキトップへ戻したカード。
正解率は100%、不正だらけの八百長解答。こんなもの、最早クイズでも何でもない。
「――大正解。薄汚れた
藍が掲げた儀水鏡のカードから閃光が放たれる。
刹那――男は全身を炎で焦がし、膝を屈していた。
「ぐぅッ……!?」
【???】LP4000→100
【藍】LP100→4000
対して、凛と佇む藍には傷1つ無い。
苦痛に呻く男と、冷たい微笑を浮かべる藍。両者の立場はまさに『大逆転』した。
「その顔なら、もう説明するまでもないけれど。《大逆転クイズ》の効果が全て処理し終えたところで墓地へ送られた《黒いペンダント》の効果を発動するわ」
「ま、待て……!!」
「――相手のライフに、500ポイントのダメージを与える!」
放たれた仕掛けは、もう止まらない。
敗者へ罰を与えるように――男の首に掛けられた魔女の呪いが、爆ぜた。
「ッがあああああああ!!!?」
獣のような叫びを上げ、地面へと崩れ落ちた男だったが――決着の間際、紅い鎖はちゃっかりとディスクから引き抜かれていた。
それを確認した藍はふぅと短く溜め息をついて、ひとまずの勝利に胸を撫で下ろしたのだった。
**
「さて、と。先輩の方も終わっちゃったみたいですし、コッチもそろそろ終わりにしちゃいましょうか?」
るん、と笑顔を向ける蓮に、優勢であるはずの男は微かに恐怖を覚える。
一瞬の内に倒れた仲間の姿は、まるで自身が辿る未来への暗示。
「私のターン、手札から《深海のディーヴァ》を召喚し、効果発動!」
《深海のディーヴァ》
☆2/水属性/海竜族・チューナー・効果/ATK 200/DEF 400
地獄から舞い戻った歌姫が、まずは高らかに
硝子を鳴らしたようなその美声に同調し、水色のカードスリーブに保護されたデッキが軽快な音を立て歌姫のパートナーを導き出す。
「デッキから特殊召喚するのは、《海皇子 ネプトアビス》!」
《海皇子 ネプトアビス》
☆1/水属性/海竜族・効果/ATK 800/DEF 0
歌姫の隣へ付き従うように現れたのは、逞しい身体に三叉の槍を構えた美麗の皇子だった。
深く艶のある黒髪をなびかせて柔和に微笑むその姿は、まさに歌姫のパートナーと呼ぶに相応しい。
「ネプトアビスの効果を発動、デッキから《海皇の竜騎隊》を墓地へ送り、《海皇の狙撃兵》をデッキから手札へ。更に水属性モンスターの効果によって墓地へ送られたことで竜騎隊の効果も発動、海竜族モンスター《氷霊神ムーラングレイス》を手札に加えます」
ネプトアビスが三叉の槍を振るい、飛び交う海皇の猛者達を自在に操っていく。
結果、蓮の手札には2体ものモンスターが補充されていたが――せっかく並んだ2体のモンスター、これで終わるはずがない。
「さぁ、いきますよ? 私は☆1のネプトアビスに、☆2チューナーのディーヴァをチューニング!」
寄り添い、手を握り合う2人の竜麗人が、緑輪に導かれ溶け合っていく。
「寵愛授かりし竜の落とし子よ、我が願いの下に来たれ!! 《たつのこ》ちゃんをシンクロ召喚!!」
光の粒子を祝福代わりに振りまいて、可愛らしい朱色の竜童が姿を現した。
《たつのこ》
☆3/水属性/幻竜族・シンクロ・チューナー・効果/ATK 1700/DEF 500
「し、シンクロモンスターのチューナー!? それも『幻竜族』だと……!?」
男の驚愕は、ほぼ時同じくしてデュエルを終えたクラドと藍の耳にも届いた。
「なっ……ちょっと蓮!? そのカード一体どうしたの!?」
「ふふん、OBな先輩にはチョット酷なお話ですが。この間の大会のとき、仲良くなったカード製造のスポンサーさんからこっそり頂いちゃいまして♪」
「うへぇ……『コネ』ってやつか……なんて羨ましい」
どこか納得したようで、それでいてげっそりと口端を下げる藍とクラド。
誇らしげに張った胸をそのままに、蓮はびしっと指を男に向かって突きさした。
「という訳で、申し訳ないですが……せっかくの最新カード、バッチリ『宣伝』させて頂きますよ? 《たつのこ》ちゃんの効果を発動!! 手札のモンスター《海皇の狙撃兵》1体をシンクロ素材として扱い、シンクロ召喚しちゃいます!!」
「何ッ!?」
手札のモンスターを素材とするチューナーモンスター。
その特異性に驚く間も無く、ピィと甲高く鳴いたたつのこは3つの緑輪となって狙撃兵の姿を変質させてく。
「古の守護司りし獣よ、我が願いの下に来たれ!! シンクロ召喚、《氷結界の虎王ドゥローレン》!!」
《氷結界の虎王ドゥローレン》
☆6/水属性/獣族・シンクロ・効果/ATK 2000/DEF 1400
身を裂くような冷気を纏い、薄青の体毛を振るわせ四足の猛虎が空高くへと吼えた。
重厚な黒い鎧は脚を踏み出すたびにカチリと音を鳴らし、金の瞳は
「これで墓地にはディーヴァ、ネプトアビス、竜騎隊、たつのこちゃん、狙撃兵の水属性モンスターが5体……よってこのカードを手札からを特殊召喚できます。全てを
《氷霊神ムーラングレイス》
☆8/水属性/海竜族・効果/ATK 2800/DEF 2200
荘厳な角を振り回し、鎧を纏った海竜の長が雄叫びを上げる。
かつて藍を窮地へ追いやった冷気の刃が、フルフェイスの男へと振るわれた。
「ムーラングレイスの特殊召喚成功時、効果発動! 貴方の手札を2枚ランダムに選択して捨てさせて頂きます!」
「くっ……!?」
選ばれた2枚の手札に氷の刃が突き刺さり、強制的に墓地へと送られた。
その中には奇しくも――攻撃を防ぐための唯一の手段であった《バトルフェーダー》があった。
牙を向くモンスター達の合計攻撃力は……4000という男のライフを軽く飛び越していた。
「バトル!! 2体のモンスターでダイレクトアタック!!」
放たれる冷気の津波。
男は辛うじて鎖を解いたものの……背を向けてアクセルを踏み込む前に、D・ホイールごと吹き飛ばされていた。
**
《炎帝近衛兵》
☆4/炎属性/炎族・効果/ATK 1700/DEF 1200
「このカードの召喚成功時、効果を発動。墓地の《ヴォルカニック・バックショット》3枚と《ヴォルカニック・ロケット》をデッキへ戻し、カードを2枚ドローする」
長く伸びた半身をうねらせ、紅鱗の竜戦士が墓地を意味する紫の魔法陣の中へと爆炎を送り込んでいく。すると命の源を吹き込まれた『弾薬』達は、再び男のデッキへと舞い戻っていった。
補充された手札は――《ヴォルカニック・エッジ》《ヴォルカニック・バックショット》の2枚。ここでバーンダメージを与えられる魔法カードが来ていれば、決着まで漕ぎ着ける事が出来たのだが。
「これで、ターンエンドだ」
気が付けば、既に3人もの同胞が敗れている。彼らとてそれなりに死線を潜り抜けてきた、ということだろう。
手を抜いたつもりはない。だが、たった100のライフをこのターンで削り切ることが出来なかったその事実が、優位に立つ男の思考に影を落としていく。
世界の行く末すら決定してしまう『このゲーム』に、何か不可思議な力が働いていることを男はよく知っている。だからこそ――。
「……私のターン、ですわね?」
にやりと不敵に浮かんだ『幽霊姫』の微笑に、男は自らの運命を悟った。
「参ります。まずは焦土へ麗しき花々を……《ゴーストリックの雪女》を反転召喚し、更に手札から《ゴーストリックの魔女》を召喚しますわ」
《ゴーストリックの雪女》
☆2/闇属性/魔法使い族・効果/ATK 1000/DEF 800
《ゴーストリックの魔女》
☆2/闇属性/魔法使い族・効果/ATK 1200/DEF 200
白髪の小さな和服美人、活発そうな金髪小魔女、桃髪のモノクロ羽天使。
アンリエールのフィールドへ3人の多種多様な女性ゴーストリックが揃う。
目にも華やかな光景だが、男は険しく眉を寄せて呟いた。
「☆2のモンスターが2体、か……」
「ご名答ですわ。私は、☆2の雪女と魔女でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」
薄青の闇の中、2体の少女が楽しげに虹色の渦へと飛び込んでいく。
パッと花開いたそれはまるで、夜池に咲いた黄泉の華。
「魍魎嗤う怪異の夜、永久に続く良き
《ゴーストリック・サキュバス》
★2/闇属性/魔法使い族・エクシーズ・効果/ATK 1400/DEF 1200
眠そうに目を擦りながら、漆黒に染まった悪魔の翼を生やした少女がフィールドへと降り立つ。あどけない容姿ながらも、妖しげな魅力を放つ赤いネグリジェが夢魔の名を存分に示していた。
「……随分とか弱いモンスターが出てきたものだ」
「慎ましい、と言って頂きたいですわね? サキュバスのモンスター効果、
ぱちんと指を鳴らして命令するアンリエールとは対照的に、サキュバスはあまり気分が乗らなそうに欠伸を吐いたものの……のそりと伸ばしたその五指の間に、炎帝近衛兵の虚像がぼんやりと浮かび上がった。
「対象は勿論、貴方の場のモンスター……お沈みなさい、『
サキュバスがぐっと力を込めると、炎帝近衛兵の虚像は硝子のように砕け散った。
悪夢は現実へ、場に存在する炎帝近衛兵も虚像と同じく破壊される。
「そしてサキュバスを素材として、2体目の《ゴーストリックの駄天使》へとエクシーズチェンジ!」
ひと仕事終えたサキュバスが、眠り込むように虹色の渦へと飛び込む。
光の華を散らして飛び出してきたのは桃髪の駄天使。鏡写しのように並び立つ駄天使達は嬉しそうに手を合わせて喜んでいるが、対峙する男としてはまさに『悪夢の続き』だった。
相手の場のモンスターはガラ空き。このまま2体のダイレクトアタックを受ければ――4000のライフは、一気に吹き飛ぶ。
「……そうか」
敗北は死。しかし男に恐怖はなかった。
鎖を解く訳でもなく、冷静にディスクへと手を掛ける。
「ターンを渡した時点で勝負は決まっていた、ということか」
「潔いのですわね? 私も目覚めが悪そうですから、素直に
アンリエールが肩をすくめてそう提案した、瞬間。
男は何を思ったのか、デッキの中ほどから1枚のカードを取り出しディスクへと叩き付けた。
「なっ……!?」
あまりの行動に、アンリエールは思わず言葉を失う。
厳密に定められた規則の下で戦うからこそ、その勝敗に『力』が生まれる。いくら敗北が死に繋がる『闇』の中とてそんな無法が許される訳では無い。
結果、アンリエールのディスクへと表示されたのは、本来ならば審判員機構が下した筈の『
【???】LP4000→0
無法を働いた枷として、男のライフが全て失われる。
不可解な表情を浮かべるアンリエールへ、男は小さく呟いた。
「……悪いな。我等とて駒としての誇りはあるのだよ……」
そのフルフェイスの奥でどんな表情を浮かべたのだろうか。
男はD・ホイールから崩れ落ちると、そのまま永遠に続く悪夢の中へと沈んだのだった。
**
アンリエールが逆転劇を開始する頃と時同じくして、背後で戦うベルもまた反撃の狼煙を上げようとしていた。
「わたしのターン、手札から《ファイヤー・ハンド》を召喚!」
《ファイヤー・ハンド》
☆4/炎属性/炎族・効果/ATK 1600/DEF 1000
灼熱の凶獣に対峙する、炎の巨腕。
攻撃力こそ劣るものの……蟲惑魔と共に受け継いだこのモンスターは、ベルが慣れ親しんだ戦法を生かせる効果を持っていた。
「バトル、ファイヤー・ハンドで《ヴォルカニック・エッジ》へ攻撃!」
「チッ……無駄な足掻きを! 迎え撃て、ヴォルカニック・エッジ!」
五指を開いて掴みかかろうとしていたファイヤー・ハンドを、エッジの放った火球が粉々に打ち砕く。その余波は勿論、ベルへと襲い掛かったが……。
【ベル】LP800→600
「っ……!! でもこの瞬間、破壊されたファイヤー・ハンドの効果を発動!! 相手の場のモンスター1体を選択して破壊します!! 対象は――」
爆砕したファイヤー・ハンドの残骸がゆらゆらと漂い、標的を定める。
残骸は、無数の火礫となってモンスターを襲う。ベルが下した標的は、攻撃力の高いデビルではなくエッジの方だった。
(成程……残り僅かなライフを守るべく、バーン効果のあるエッジを潰したか)
そう思案するも、手札のカードへ目を落とす男の内心はにやりとほくそ笑んでいた。
「更にファイヤー・ハンドが破壊されたことで、デッキから《アイス・ハンド》を守備表示で特殊召喚! カードを『1枚』伏せて、ターンエンドです!」
《アイス・ハンド》
☆4/水属性/水族・効果/ATK 1400/DEF 1600
不安そうにターンを渡してきたベルを見ながら、男は内心で嘲笑を浮かべていた。
(伏せカードが1枚……とはいえあれは十中八九、前のターンで手札に加えた《奈落の落とし穴》。アイス・ハンドで壁を張り、奈落で召喚を牽制しつつ返しのターンを防ごうという魂胆か……実に可愛らしい計略だが――)
勝利を確信し、デッキへと手を掛ける。
「俺のターン、ドロー。残念ながら狙いは丸見えだぞ小娘? 俺は手札からこのモンスターを攻撃表示で特殊召喚させて貰おう……貴様の場のアイス・ハンドを生贄としてな!!」
氷塊の巨腕を墓地へ沈めて現れたのは、大きな双翼を持つ竜のような姿をした《ヴォルカニック・デビル》と同型の――鋭利なシルエットを持つ怪物だった。
《ヴォルカニック・クイーン》
☆6/炎属性/炎族・効果/ATK 2500/DEF 1200
「わたしの場に、モンスターが……!?」
「ヴォルカニック・クイーンは相手フィールド上のモンスター1体をリリースし、相手のフィールド上へ特殊召喚できる! ククク……その《奈落の落とし穴》を発動させたければするがいい、デビルの直接攻撃をその身に受けたければな!!」
勿論、ベルがそんな選択を出来る訳がない。
攻撃表示で召喚された自らの下僕に、男はデビルの砲口を向けた。
「これで終わりだ、バトル!! デビルでクイーンへと攻撃!!」
放たれる灼熱の巨砲。
迫り来る死の一撃を前に――ベルは、くすりと口端を吊り上げた。
「――駄目じゃないですか。罠はちゃんと、警戒しないとっ!!」
ヴォルカニック・クイーンへ放たれた圧倒的な熱量の塊は、突如として現れた紫色の筒の中へと吸い込まれる。
「馬鹿な……何故そのカードが!?」
そのあまりに古典的な罠の登場に、男は愕然と目を見開いた。
「罠カード《
二対の筒の片方から発射されたデビルの攻撃が、そのまま男へと着弾する。
身を焼きつくさんばかりの炎の本流が、男のライフを一気に削り取った。
「ぐがああああああ!?」
【???】LP4000→1000
かろうじてD・ホイールのハンドルを握り締め、持ちこたえた男だったが……擦れた声が一番に問い掛けたのは至極単純な疑問だった。
「……くっ、何故、そんなモノがあるなら最初から伏せなかった……?」
もっともな男の疑問に対し、ベルは胸を張って答えた。
「こうでもしないと、アナタが罠に引っかかってくれないと思ったからです」
「何……!?」
「もし、わたしが罠を2枚も伏せてたら『落とし穴の他にも罠があったのか』って警戒しません? 逆に言えば、《魔法の筒》を《奈落の落とし穴》だと思ってくれれば必ず攻撃してくれる……あの白面さんに勝っちゃうような人達なんですから、わたしも全力でココを使ったんです」
こつん、と自分のこめかみを小突いて、ベルはにっこりと微笑んだ。
「もっとも、『このコ』が特殊召喚されたのは予想外でしたけど……今のわたしには、とっても素敵なプレゼントになったみたいですね?」
ベルのディスクへとセットされたクイーンの効果。
自分フィールドのカード1枚を墓地へ送ることで、相手――つまりベルから見た男へと1000ポイントのダメージを与える効果がある。
男の残りライフは奇しくも1000、そしてベルの手札には弾薬代わりの《奈落の落とし穴》。狙いが完全に裏目となった男の顔は、憎悪に歪んでいた。
「チッ……」
ふと見れば、幽霊姫と戦っていた同胞が自決をしたようだった。
組織に妄信的だった彼らしい最期……立派なモノだ、命が惜しい自分達とは違う。
そうと決まれば男の決断は早かった。荒い呼吸を整えながらも紅い鎖を解除しアクセルを握る。
「なっ、ちょっと!?」
光の粒子となって消えていくモンスター達。当然、肩透かしを喰らったベルは驚いて追い縋るも、男はD・ホイールを人垣の中を縫うように走らせ……あっという間にその姿をくらましてしまった。
「行っちゃった……」
D・ホイールの爆音が遠のいていく中。ベルはディスクにぽつんと残された《ヴォルカニック・クイーン》を見ながら、どうすることも出来ない自分に歯噛みしたのだった。