遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第44話 破滅の種

 

「皆さん乗りました? 急いで出しますよ!」

 

 大騒ぎの屋台通りから、一行は気を失っている煽里を抱えて逃げ出していた。

 蓮の用意したボックスカーに何とか全員乗り切ると、車はやけに静かなエンジンをふかして走り始めた。

 

 忘却の青では、電気自動車が主流である。

 海底大陸というその性質上、化石燃料採掘が盛んではあるものの……事故のリスクが大き過ぎるが故に、肝心の精製プラントはどの所属国にも存在しない。採掘された資源は精製プラントを有する他の大陸へ輸出するのみで、ガソリンなどの輸入コストが高くついてしまう為だ。

 

「……はぁ、はぁ……な、何も逃げなくたって良かったんじゃ……?」

「アホ、あのままセキュリティに囲まれて一番ヤマシイ身分なのは俺らだろーが? 偽パスポート使って不法入国してるってコト忘れんな」

 

 全力疾走の代償に息を切らしながらぼやいたベルだったが、そんな彼女へツッコミを入れたのは燐路だった。

 

「それに正当防衛だのと良い子ちゃんぶったとしてもだ。あれだけ騒ぎを起こしておいて、あのセキュリティ連中が『はいソウデスカ』って放って置くと思うか?」

「そ、それは……」

 

 流石は悪党の一味、そういう部分に関しては抜け目がないようだ。

 だが確かに、今はこちらが無実であることを証明して……などと悠長にお世話になっている場合ではない。

 騒動の始末は『本職』に任せることにして、今は先を急ぐべき……纏め役のブレーン達も、残念ながら燐路と同様の結論を下していた。

 

「……しっかし。白面姉ちゃんの顔を、こうまじまじと見ることになるとはなぁ」

 

 クラドがちらりと隣に横たわる煽里を見やる。

 石畳で出来た地面に叩きつけられたというのに、すぅすぅと寝息を立てているのは流石決闘者、といったところだろうか。ただでさえ細い糸目が、今は力無く閉じられている。

 

「キスでもしてやれよ、飛び起きるかもしれねーぞ?」

「お前なぁ……」

 

 ケタケタと邪悪に笑う(リンジ)の冗談に、クラドは呆れたように溜め息をついた。

 一応は両手足を簡単に拘束してはいるものの……いつ目が覚めて暴れられやしないか、とヒヤヒヤしているクラドとしては冗談でも恐ろしい。

 

「……ま、話し合いに持ってくまでは何とかしてやるよ。俺だって、今何が起こってんのかサッパリだしな」

 

 後ろ頭に手を組んで、燐路はぶっきらぼうに言い捨てた。少なくとも彼は、こちらに協力してくれる姿勢のようだ。

 

 そんなやり取りが交わされている中。

 中列に座るベルとアンリエールへ、藍が不安げに声を掛けた。

 

「……2人とも、本当に大丈夫?」

「あの程度、私にとっては何のことはありませんわ」

 

 そんな彼女の気遣いを吹き飛ばすように、幽霊姫はフフンと鼻を鳴らして答えた。

 

「わたしも……変な言い方ですけど、白面さんとデュエルしたときに比べれば随分楽でした」

 

 ベルも小首を傾げながら不思議そうにしている。

 アンリエールの様子を見ても、あの大会で負わされた傷に比べれば掠り傷にもなっていない。

 

「そう……変に我慢とかしていないのならいいけれど。特にアンリちゃんは目の前で人が……」

「ご心配なく、悪党の死に様など見慣れたモノですわ。これでも由緒ある決闘組(デュエルマフィア)の娘ですのよ?」

 

 何と言うか、この歳にして頼もしい限りだ。

 ベルもベルで、出会った頃に比べて随分と強い目をするようになった。両拳を握って、むんと「元気です」アピールを作っている。

 

(……最後にライフが回復出来た私が無事、っていうのは何となく分かるけど)

 

 無事であることに越したことは無いが、藍はこの現状に疑問を抱いていた。

 闇のデュエルが展開され、残りライフも僅かという状況まで追い込まれたにも関わらず、自分を含めた全員がぴんぴんとしている。特に女性である蓮に関しては、闇のデュエルの事前知識すら怪しいにもかかわらずだ。

 そんな藍の疑問をそのまま吐き出すように、ハンドルを握る蓮が口を尖らせた。

 

「でも、確かに変ですよね? 話を聞いた限り、モンスターの攻撃なんかほとんど現実に近いダメージになる、って感じだったのに……正直、ビビッて損しました」

 

 僅かな沈黙の後。彼女の問いに答えたのはやはり、同じ『力』を持つ少年だった。

 

「……力の強さには個人差があんのさ、連中のは下の下だ。それでもまぁ、人を殺すくらいは出来るだろーが」

 

 この機を逃すまいと、クラドが身を乗り出す。

 

「個人差? ならやっぱりあの連中は、お前さん達の同胞ってコトか?」

「さぁな。あんな雑魚共が動いてるって話は聞いてねぇよ」

「……雑魚って、お前さんはどうなんだよ? その『力』の強さってやつはさ」

 

 クラドの問いに、燐路はギリッと歯を鳴らして忌々しそうに眉を寄せた。

 

「……俺も姉貴も組織の中じゃダントツ『だった』ぜ。あの女が来るまではな」

「あの女……?」

「決まってんだろ、あの馬鹿巫女サマだよ。正直言ってアイツは……『力』に関してだけは異常だ。そこのお嬢サマなら『味比べ』したことだし、俺の言うことも分かるんじゃねーのか」

 

 自然と視線が、アンリエールへと集中する。

 不機嫌そうに眉を寄せながらも、アンリエールは息をつきながら答えた。

 

「……ええ。そういうことなら確かに、お猿さんの言う通りですわね。先程の【ヴォルカニック】使いとあの女とでは、何というか……重さが違いましたわ」

 

 ベルは口にこそ出さなかったが、今は寝息を立てている『白面の女』とのデュエルを思い出しながら、アンリエールと全く同じ感想を抱いていた。

 (ライフ)というものが仮に形を成していたのなら、彼女のソレは文字通り『削る』という行為そのものであったが――今日遭遇した男のデュエルは、針の先で突くようなものだった。

 勿論、その針の先が命の核に届けば絶命するのだろうが、そこに至るまでの過程で受けるダメージは前者の方が遥かに大きい。燐路の言う力の強さとはそこが異なるのだろう。

 しかし燐路は、フンと小馬鹿ににしたように鼻を鳴らしてアンリエールを見据えた。

 

「重さが違う、ねぇ。よく言うぜお嬢サマ……鎖で『直接』繋がれてなかっただけ、お前は命拾いしたんだぜ? ありゃあ、本来の力が漏れ出ただけの『匂い』みてーなモンだったんだからよ」

「……あくまで本気ではなかった、と仰いますの?」

「ああ、少なくとも『力』に関してはな」

 

 本気ではなかった、という言葉に歯を剥くアンリエールに対し、ベルは背筋をぞっと凍らせていた。

 もしもあのとき、ヒヨリとデュエルしたあの路地裏で……『鎖』に直接繋がれた自分が一撃でも攻撃を受けていたら。

 

「ベルちゃん、大丈夫……?」

 

 藍の不安そうな声に、はっと思考を停止させる。

 一体どんな顔をしていたのだろう。クラドやアンリエールまでも心配そうに視線を向けていた。

 

「あ……だ、大丈夫です!」

 

 笑って誤魔化すも、ベルの思考はまた別の方向へと沈んでいった。

 それだけ恐ろしい力を持ったヒヨリとは一体、どんな人物なのだろうと。

 ユウの話を信じるならば、ヒヨリも『異世界』から連れて来られた人間のはず。

 カードの中に閉じ込められていた彼女が何故、白面の集団に加担しているのか――そんなに強い力を持っているとしたら、それは尚更の疑問だった。

 彼女について知りたい。きっと今もどこかで戦っている、ユウの為にも。

 

「……燐路くん。ヒヨリさんは一体、どんな人なんですか」

「前にも言ったろ、巫女サマは『呪い』の成功者だ。それ以外は知らねぇよ」

 

 以前、彼に理由を尋ねたときと同じ答えを返されたが……燐路は溜め息をついて言葉を続けた。

 

「……って答えるのはカンタンなんだけどな。仮にも身内を匿ってくれた礼だ、知っていることだけなら話してやるよ」

「え……?」

 

 目を天井に向けたまま、燐路はぽつりと話し始めた。

 

「……『呪い』ってのに関しては知らねぇけど。巫女サマやあの無表情男は、俺らの間じゃ決闘奴隷(デュエルスレイヴ)って呼ばれてる。奴らはカードから生まれ、この世に害悪をもたらす……昔からジジイ共にはそう教えられてきた」

「害悪……?」

「その辺がモヤモヤしてんのは俺も同じだ。それがどういうコトなのか、ジジイ共は結局話してくれなかったしな。で、俺らに与えられた主な仕事は、決闘奴隷(そいつら)とその子孫共を片っ端から始末することだった」

 

 燐路の口から飛び出した言葉に、藍は慌てて聞き返した。

 

「待って、それって……」

「多分ご想像の通りだぜ。決闘者の失踪……世間サマじゃ事件になってんだろ? 全部が全部、俺らの仕事かどうかは知らねぇけどな」

 

 彼の言葉が本当だとするならば、被害者とされる決闘者は全員――。

 

「……そんなに大勢、ユウ君と同じ人達が……?」

「結構な数が紛れ込んでいるみたいだぜ? 奴らは『力』を使ってデュエルすれば死なずにカードになる……混血の子孫共には素直に死んで貰ったけどな」

「そんな……ッ!?」

 

 物騒な話が、燐路の口から軽々と飛び出す。やはり自分達とは違う世界で生きているのだと、ベル達の前に改めて突きつけられた。

 

「……話を、続けるけれど」

 

 険しく眉を寄せながらも、藍は声を抑えて質問を続けた。

 

「混血……子孫の人がいるってことは、かなり前から存在していた決闘奴隷もいる、ということ?」

「そうじゃねーのか。連中がどれだけ前から居たのか、どっから来たのかは分からねぇ。ただ……少なくともジジイ共が『昔話』として話すくらいには昔の話なんだろうぜ」

 

 ユウに関しては、最近になってカードから解き放たれたと話していた。つまり異世界からの人間……決闘奴隷が大勢いるとして、それぞれがカードから解放された時期はバラバラだったということだ。

 異世界に腰を落ち着かせ、平穏に人生を全うした者も居れば……ユウのように何かを追って放浪した者も居たのだろう。

 そんな彼らを、子孫共々に『狩る』燐路達を――やはり善とは言い難い。

 

「……疑問は、なかったんですか」

 

 唇を噛み締めながらベルが問うと、燐路は険しい表情を浮かべて返した。

 

「決まってんだろ。んなクソみてぇなもん、その辺に捨ててやったよ。そうじゃなきゃ俺達が生きていけなかった」

 

 そう真っ直ぐに告げられたとき、ベルは何故か泣き出しそうになってしまった。

 自分とは決定的に違う、何か。

 同じ貧しい境遇にありながらも、両手を血に染めるしかなかった少年の目は……もはや別のイキモノのようで。

 

「お前さんの主張は分かった。話を戻すぜ?」

 

 そんなベルの表情を見かねたクラドが間に入りこむ。

 

「問題は、あの巫女ちゃんがその決闘奴隷とやらだってトコだ。お前さん達が狙う『標的』が、何で大人しく連れて歩かれてんだ?」

「だから、それは俺が聞きてぇよ。ジジイ共が突然連れて来たんだ、十二支柱(アスタリスクス)を納める巫女(呪い)が完成した、ってな。俺の『9番』まで没収しやがって……」

「呪い……な。確かお前さん達の目的は『デュエルモンスターズを無かったことにする』だったよな? つまり決闘奴隷を消すことも、その目的に関係してるってことか……」

 

 断片的に話を聞いたクラドは、1つの結論を導き出した。

 

「もっと言えば。あの巫女ちゃんを『呪い』ってやつにする為に必要なことだった……とか?」

 

 各々が事態を整理するのに精一杯という中で、知る限りの事実を語った少年もまた、ガリガリと頭を掻いた。

 

「……とにかく。アイツについて俺が知ってんのはそれだけだ」

 

 ぼすん、とシートに身を預けると、燐路はそれきり口を噤んでしまった。

 

 

   **

 

 

 ――玄武老(げんぶろう)様、ソレは……!?

 

 細い目を見開いて、女は震える声で叫んでいた。

 長い白髭の老人が手にした3枚のカード。それから放たれる異様な雰囲気が、女――煽里の決闘者としての何かをピリピリと逆立たせた。

 

 ――何を驚くことがある? 十二支柱が混沌を穿ち、漏れ出でた『破滅の種』……その1つよ……。

 

 しかし老人はただ、そんな煽里の様子が愉快とばかりにくつくつと嗤う。

 その瞳の奥は、長い眉毛の奥に隠れて見えない。

 

 ――そのカードが本当に……我々を、民を栄華へ導くと……?

 

 紅の民がかつての栄光を取り戻すこと。それは『デュエルモンスターズの消滅』に他ならない。

 しかし老人が手にしているソレは……デュエルモンスターズはおろか、世界の全てを飲み込まんと胎動しているように感じられる。

 煽里は本能で理解した。これは良くないモノだ、と。

 

 ――左様、しかしまだ足らぬようだ。『奴隷』共の(バー)だけではの……。

 

 煽里の周りに居た白面達が、糸を切った人形のようにバタバタと倒れていく。

 入れ替わるように、闇の中からフルフェイスの男達が浮かび上がった。

 

 ――この『破滅』を1つに束ねるには……より多くの強靭な(バー)が必要なようでの?

 

 遠まわしに下された老人の命はただ1つ。

 バケモノにその命を捧げよ、それだけだった。

 

 民の為なら、祖国が豊かになるのならそれも仕方がないことだと……今までの煽里なら黙って頷いていただろう。

 しかし今、忠誠を誓ってきた老人の放つ『匂い』が、幼き日に見た災禍のシルエットが……3枚のカードと、ぴたりと重なる。

 聡い彼女は気付いてしまった。老人が、そのカードが、自分達の運命を狂わせた張本人だということを。

 

 ――ほう? 流石に感づいたか。お前の教育の賜物だな慶爍(ケイシャク)

 

 長は黙したまま、すっと静かに頭を下げた。

 彼も最初から『あちら側』にいたのだ。

 

 ――ならば尚のこと……『破滅』の糧となって貰うしかなさそうだの?

 

 老人の目がギラリと光を灯す。

 それを合図に、フルフェイスの男達が一斉にカードを引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ!?」

 

 見知らぬ匂いが鼻をついて、煽里は反射的に飛び退いていた。

 近くに感じた気配へ布団を投げかけ、四足をついて低く身をかがめると。

 

「うわっぷ!? 何だ何だ!?」

 

 もごもごと聞こえてきたのは、覚えのある声だった。

 

「――燐路?」

 

 白い掛け布団から這い出てきたのは、ツンツン頭のナマイキな赤毛。

 数日振りに見る、仏頂面な弟の顔だ。

 

「ったく……正解だ、クソ姉貴。よく寝れたかよ?」

 

 ふと周りを見れば、見知った顔がいくつかある。

 そこには以前シガマでデュエルした、『10番』所持者の少女の姿もあった。

 冷静に考えれば分かったことだ。敵に捕らわれたと諦めていた燐路がいるということは、つまり――。

 

「貴女達は……ッ!!」

 

 刹那の先には飛び掛ろうとした、そんな矢先。

 あたふたと手を振って、茶髪の男が椅子から立ち上がった。

 

「あー待て待て、こっちは別にアンタをどうこうしようって腹はねぇよ」

 

 男は敵意が無いことを示すように両手をあげながら、口早に続けた。

 

「アンタの怪我の手当てをしたのはウチのメイドちゃんなんだぜ? 感謝はされても、恨まれるような義理はない筈だ。詳しい話は弟から聞いてくれ、な?」

 

 見れば確かに、身体のいたるところで丁寧に包帯が巻かれている。

 ちらり、と『10番』所持者のメイド少女に目を向けると、一瞬表情を強張らせたものの、すぐ柔和に微笑んでペコリと頭を下げた。

 

 

   **

 

 

「……姉弟共々、命を救われたようですね。先の無礼をお許し下さい」

 

 深々と三つ指をついて頭を下げる煽里を、クラドはまぁまぁと声を掛けてベッドに座らせた。

 

「アンタの出方次第じゃこっちも多少乱暴になってたかもしれないしな……その辺はお互い様だろ?」

 

 言うまでも無く、ここは宿泊予定としていたホテルの一室だ。煽里の傷を手当して一息ついた一行だったが、そんな矢先のひと騒動。気が休まる暇はなかった。

 

「そーだそーだ。俺にこんな残虐非道な装置嵌めるような連中だぜ? 土下座までするこたねーだろ」

「……このように教養の無い弟故、貴方達の処置も当然かと思います。何か粗相がありましたら遠慮なく懲らしめてやって下さい」

 

 既に何度か粗相をしている件はさておき。

 クラドは仕切り直すように咳払いをして、話を切り出した。

 

「さて、と。そんな訳でこっちもあんまりのんびりしている時間は無いんだ。早速で悪いんだが話して貰えないか? あのフルフェイスの連中は何なのか、アンタに何があったのか……」

 

 クラドの言葉に、煽里はこくりと頷くと。

 少し躊躇いがちに目を伏せながら、ぽつぽつと話し始めた。

 

「彼らは……いわば内部の人間を抹消する為に作られた隠密部隊のようです。言うまでも無いですが、私も彼らに襲われて……」

「ちょっと待ってくれ? 猿小僧の話だと、アンタらは組織の中でも相当実力がある方なんだろ? 何でまた……」

「……力が強いからこそ、かと。『あのカード達』の糧とするには、都合が良かったのでしょう」

 

 ぶるりと震えた煽里に、藍が静かに尋ねる。

 

「あのカード……達? それは《アスタリスクス》のこと?」

「……いえ、十二支柱とは別のモノです。ですがあの力は、デュエルモンスターズを『破滅』へ導くには十分過ぎる」

「破滅……? どういうこと? 貴女達の目的は『アスタリスクスを揃えて』、『デュエルモンスターズを無かったことにする』ことじゃ――」

「まさか、もう全ての《アスタリスクス》が揃ってしまったというのですの!?」

 

 藍の言葉を遮り、難しそうな表情で眉を寄せる煽里へ、アンリエールは身を乗り出して問い詰めた。

 アンリエールが必死になるのも無理はない。何せ煽里の言葉が示すのは、彼女らの組織が全ての《アスタリスクス》を手中へ収めた……つまり、既にユウが敗れたということを意味するかもしれないからだ。

 しかし、煽里は掴みかからんばかりの形相で詰め寄るアンリエールを宥めるように、首を横に振って答えた。

 

「いえ……十二支柱はまだ、半分も揃っていません」

 

 そんな煽里の答えに食いついたのは、燐路だった。

 

「おい待てよ? 十二支柱を全て揃えて、巫女サマが『儀』を行う……それがデュエルモンスターズを歴史から消滅させる方法だったんじゃねーのかよ?」

「私たちも、そう聞いていたのだけど……?」

 

 矢継ぎ早に繰り出される質問に対し、煽里はゆっくりと、まるで自分の意見を整理するかのように答えを返していく。

 

「……燐路の言う通り、本来はその筈でした。ですが十二支柱と強過ぎる巫女(シスター)の力は、デュエルモンスターズを『破滅』へ導く『種』を呼び寄せ――そしてソレは、既に『四方老』様達の手にあったようです」

「しほう、ろう?」

 

 聞いたことの無い言葉に藍が思わず聞き返すと。

 煽里に変わって答えたのは、妙に苛立った様子の燐路だった。

 

「俺らを纏めてる『ジジイ共』のコトさ。全部で4人いる」

「じゃあ……貴女達姉弟を襲うように命じたのも?」

 

 煽里も燐路も、眉に皺を寄せながら頷いた。

 実質『用済み』だと告げられたようなものなのだ、彼らとて良い気分ではないだろう。

 彼らが優れた力を持っていることは、相対した『敵』だからこそ分かる。だからこそ気になるのは、あえて力の劣るフルフェイス達に姉弟を始末させようとしたのかだ。

 クラドが頭を掻きながら、改めて煽里へ問い掛けた。

 

「……あー、その。破滅だとか何だとか、俺らにはサッパリ見えてこねーんだが……要するにだ、《アスタリスクス》12枚全部を集める前に、上層部の爺さん達は代わりになりそうな『デュエルモンスターズを吹っ飛ばす爆弾』を手に入れちまった。で、爺さん達にとってアンタらは邪魔になったから命を狙われた……そういう感じで良いのか?」

 

 クラドの要約に頷きつつも、煽里は言葉を付け加えた。

 

「……はい。正確には『爆弾の材料にする為に』私たちを狙っているのだと思われますが。それと、ここからは私の推測になりますが……」

 

 煽里は躊躇いがちに、しかしはっきりとした意思を持って口を開いた。

 

「恐らく、デュエルモンスターズを消滅させる計画は、方法や手段を含め多岐に分かれていたのでしょう。十二支柱を全て集めることも、私が見た『あのカード達(爆弾)』もその内の1つで……その下準備は少なくとも10年前から始まっていたようです」

「……おい待て姉貴、10年前だと?」

 

 みるみると青ざめていく燐路の視線に、煽里はこくりと頷いた。

 ベル達には話が見えなかったが、燐路の険しい表情を見て、ソレが深刻な事実であることは十分に悟ることが出来た。

 

「……私たちの両親を、あの日民の命を奪ったのは、災害なんかじゃなかった」

 

 煽里はゆっくりと唇を開き、その名を告げた。

 

 

 

 

 

「……『三幻魔』。それが10年前から今に至るまで、四方老様が呼び起こそうとしている『破滅』の名です」

 

 

 

 

 

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