遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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◆ご注意◆

・オリカ登場回です。苦手な方はご注意を!
・挿絵を描いてしまったので載せてみました。回覧注意です!

挿絵あり(設定ページのみ)タグも修正しました。
ここ数話で色々と変えてしまい、申し訳ないです……。


第48話 雲間に浮かぶ天女

「……よしっ!」

 

 ベルが手にしたのは、舞台上で輝く麗女優達を突破する為の一欠片。博士の場に伏せカードが無い今、臆する必要は無い。

 博士に倣ってベルも楽しげな笑みを浮かべて見せる。今度はこっちの番だ。

 

「スタンバイからメイン、私は手札からこの子を召喚します!」

 

《アイス・ハンド》

☆4/水属性/水族・効果/ATK 1400/DEF 1600

 

 海底を突き破り現れる、氷塊の掌。

 その歪な姿に隠された効果を知っているのだろう、博士は露骨に苦い顔を浮かべたが……反面、キラリと期待に目を輝かせた。

 

「ううっ、そのカードは……ベルちゃんてば引きが強いんだね。でも私のアクアリウムコンボはもう完成してる! 自爆をするにはちょっと無謀じゃないかな?」

 

 博士の言葉の意図を読み、ベルも頷く。

 

「確かにこのままアイスの効果を使おうとすれば、わたしのライフの方が先に無くなっちゃいます。けど……」

 

 それからニヤリと不敵に笑って、ベルは1枚のカードをディスクへと滑らせた。

 

「このカードがあればどうですか? 魔法カード《一時休戦》っ! お互いにカードを1枚ドローし、次の相手ターン終了時までお互いが受けるダメージは0になります!」

「ふふっ、成程ね♪」

 

 ライフを気にすることなく自爆特攻を繰り返せる、ベルの常套手段。

 このカードの登場は博士もある程度は予想していたのだろう、表情に焦りの色は無い。むしろ『一方的な休戦』の代償として発生する無償の1ドローに活路を見出すように、博士は既にデッキのカードへと手を掛けていた。

 

「「ドローっ!」」

 

 ベルと博士、2人の決闘者が同時にカードを引き抜く。

 互いの視線は一瞬、手元のカードへと向けられた後――修正、再構築された戦術を秘めたまま甲高い音を立てるようにぶつかり合った。

 刹那、解き放たれたのは意気揚々とした攻撃宣言だ。

 

「バトル、アイス・ハンドでテトラに攻撃!」

「勿論迎え撃つよ! やっちゃえテトラ!!」

 

 4200の攻撃力(すいりゅう)が轟音と共に再び振るわれる。

 飛び掛っていった氷の巨掌は抵抗する間も無く、粉々に砕けてしまったが――。

 

「この瞬間、アイス・ハンドの効果を発動! まずはアクアアクトレスに破壊耐性を与えている《水舞台》を破壊します!」

 

 砕けた氷の破片が珊瑚礁を無残に貫き、破壊していく。

 これで麗女優達に破壊耐性を与えていたコンボの一角が崩れた。

 

「更に、デッキから《ファイヤー・ハンド》を特殊召喚!」

 

 そんな状況の変化を合図に、溶岩の巨掌が入れ替わるように海底から姿を現した。

 

《ファイヤー・ハンド》

☆4/炎属性/炎族・効果/ATK 1600/DEF 1000

 

「それなら私も、《水舞台》が破壊されたことで効果を発動するよ! 墓地から《鬼ガエル》を守備表示で特殊召喚!」

 

 最初のターンで見事コンボの初動を果たした、毒々しい色合いのカエルモンスターが水泡の沸き立つフィールドへと再浮上した。

 だが、今のベルにとって優先するべきは強力なコンボを生み出している魔法カードの破壊だ。気に留めることなく、更なる追撃を目指す。

 

「続けてバトル! ファイヤー・ハンドでテトラに攻撃!」

「またまた返り討ち! なんだけど……」

 

 博士の言葉尻が小さくなった、その意味が示す通り。

 放たれた激流に飲まれ、砕け散った溶岩の破片は礫となってテトラに襲い掛かっていく。

 無数の礫に当てられた青の麗女優は、か細い悲鳴を上げながら海の藻屑と散っていった。

 

「ファイヤー・ハンドの効果発動! 破壊されたことで《アクアアクトレス・テトラ》を破壊し、《アイス・ハンド》を特殊召喚! そして特殊召喚されたアイスで残ったテトラに攻撃、今度は《湿地草原》を破壊します!」

 

 再び入れ替わった氷の巨掌が、水泡の煙幕を割って残った麗女優へと向かって行く。

 驚いたテトラは主の指示を待つことなく、反射的に水魔法で迎撃したが……結果は先と同じだ。今度は岩礁を覆っていた新緑のカーペットが氷の礫に打ち抜かれていく。

 

「うぅ、私のアクアリウムがぁ……」

「まだ行きますよ!! ファイヤー・ハンドを再び特殊召喚してテトラに攻撃します! 効果発動、アイス・ハンドを再度特殊召喚し鬼ガエルを攻撃です!」

 

 次々と交互に繰り出されるその様は、まさに氷炎の拳撃。

 博士の用意した華麗な舞台には相応しくない荒くれた戦術だったが……これがベルの、数多の決闘者と向き合って身に着けた未開拓の橙(ネィティブ・グラン)のデュエル作法だ。

 

「メイン2、カードを1枚伏せてターンエンドです!」

 

 遠慮など欠片もない、ベルの全力。

 破壊し尽くされたアクアリウムを残念そうに眺めながらも、博士の表情はこの状況を確かに楽しんでいた。

 

「凄いね……たった1ターンで私のアクアリウムコンボを破っちゃうなんて! でもまだまだ――」

 

 困ったように下がっていた博士の眉が凛々しく吊り上る。

 ディスクを掲げて、ベルに、観客たちに向かって高らかに声を上げた。

 

「お楽しみは、これからだ!」

 

 少し不安そうに博士を見守っていたハラダとタツヤも、彼女の言葉を聞いて一転。

 子供のように目を輝かせ、声援を送る。

 

「よっしゃー!! もっと痺れさせてくれー!!」

「頑張って、アユ!!」

 

 親友達の声援に笑顔で手を振って。

 博士はすっと目を瞑り、祈りを捧げるようにデッキのカードに手を掛けた。 

 

「……お願い、私のデッキ。いいカード引けますようにっ」

 

 デッキはちゃんと、応えてくれるだろうか?

 もしも応えてくれなかったら、どうやってこの状況を切り抜ける?

 博士の佇まいは、そんな感情が直接頭に響いてくるかのようだった。

 

「私のターン、ドロー!!」

 

 カードを引き抜いた博士の指が輝く一筋の軌跡を描く。

 その一瞬に誰もが目を奪われる。相手として対峙するベルですら、期待に胸を膨らませてしまう程に。

 その結果は最早、語るまでも無いだろう。

 

「――よしっ!!」

 

 博士の唇から、喜びの声が漏れる。

 

「一時休戦の効果でこのターン、ダメージは与えられないけれど……攻めない理由にはならないよね? まずは手札から魔法カード《浮上》を発動! 墓地からテトラを守備表示で特殊召喚っ!」

 

 墓地という名の深海から、青の麗女優が再び舞台(フィールド)へ浮かび上がる。

 

「そして私の場に攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚されたことで、速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! 私はテトラを、ベルちゃんは自分フィールドのモンスター1体を選択して、手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚できる!」

「なっ!?」

「出た!!」

「アユのマジックコンボだ!!」

 

 ベルの驚きに合わせて、ハラダとタツヤが拳を握り締めて絶妙な合いの手を入れる。

 アクアリウムコンボを成立させる為の永続魔法をサーチ出来るテトラの効果、その強力さは前のターンで立証済みだ。そのモンスターが再びフィールドへ展開されたということは……。

 

「わたしは《アイス・ハンド》を選択、守備表示で特殊召喚します……!!」

 

 そうなればこちらも、魔法・罠を破壊出来る氷の掌で牽制するしかない。破壊され墓地へ送られた2体が、ベルの場にずらりと並び立つ。

 そして対する博士の場には美しく尾を引いた3体のテトラが、くるりと舞い踊った。

 

「私は場に揃った3体のテトラの効果を発動! 《水舞台》《水舞台装置》《水照明》をそれぞれデッキから手札に加える!」

 

 テトラ達から3枚のカードを受け取って、博士が満足そうに微笑む。

 フィールド魔法の《湿地草原》こそ無いものの、これでいつでも前のターンで完成した強固なコンボが再現可能という訳だ。

 

「続けて、守備表示のテトラをリリース! 《アクアアクトレス・アロワナ》をアドバンス召喚っ!」

 

 タテガミのような白のファーに、華美なドレス。

 金色のキセルを咥えた紫の大女優が、ふふんとベルに流し目を向ける。

 

《アクアアクトレス・アロワナ》

☆6/水属性/水族・効果/ATK 2000/DEF 2000

 

「あ、アドバンス召喚っ!?」

「大物キター!!」

 

 大型の古代魚『アロワナ』をモチーフとしたそのモンスターは、そのサイズも相まって他の観賞魚に比べて飼育が難しい部類になる。

 扱いこそ難しいが、その迫力は満点……ハラダの上げた歓声は、二重の意味で的を射ていた。

 

「さぁ、アロワナの効果を発動! デッキから《アクアアクトレス・グッピー》を手札に!」

 

 業界の大物からお声が掛かれば、どんな女優も急いで駆けつける。

 アロワナの背後に一瞬だけ見えたピンク色の小魚は、すぐさまカードとなって博士の手元に加わった。

 

「そして私は、このままバトルフェイズに! まずはテトラでアイス・ハンドへ攻撃っ!」

 

 手札にはアクアリウムコンボを決めるカードがある。しかし博士はそのままバトルへと突入した。魔法・罠を破壊出来るアイス・ハンドがこれでもかと並んでいるこの状況、ベルが博士の立場でも同じ選択をしていただろう。

 

《アクアアクトレス・テトラ》

ATK300→1800

 

 残っていた《水舞台装置》、《水照明》の支援を受けたテトラの攻撃が氷の巨掌に迫る。前ターンの化け物じみた威力まではいかなくとも、下級モンスターを蹴散らすだけなら十分だ。

 

「うぅっ……!?」

 

 水魔法に蹴散らされ、氷の塊が砕け散る。

 破壊の余波に片腕で顔を庇いながらも、ベルは臆することなく先のターンと同じ台詞を告げた。

 

「っ……この瞬間、アイス・ハンドの効果を発動! 《水照明》を破壊して、効果で《ファイヤー・ハンド》を特殊召喚します!」

「でも《水照明》が破壊されたことで、私は墓地からテトラを守備表示で特殊召喚するよ! 次はアロワナでアイス・ハンドに攻撃っ!」

 

《アクアアクトレス・アロワナ》

ATK2000→2600

 

 水舞台装置の城に腰掛けたアロワナの大きな口から放たれたのは、強力なバブルブレスだ。最悪なことに、後に続く紅蓮の掌はもうデッキの中に存在しない。

 

(こうなったら《くず鉄のかかし》で守る? でも……)

 

 確かに《くず鉄のかかし》を発動すれば、アイス・ハンドを守ることは出来たが……そうなればアクアリウムパーツを破壊出来る機会を逃してしまうかもしれない。

 博士の場に残っているのは《水舞台装置》1枚。《アクアアクトレス》の攻撃力を600上昇させるだけの効果ではあるが、博士の手札には既にもう1枚の《水舞台装置》がある。合わせれば1200ポイントの上昇……決して無視できる数字ではない。

 結果として、ベルは頭上から降り注いだその攻撃を受け入れ、2体目の氷掌を砕け散らせた。

 

「……アイス・ハンドの効果を発動っ! 《水舞台装置》を破壊します!」

 

 水舞台装置が破壊されたことで、フィールドは元の荒野の谷間へと姿を戻したが……そんなものは、束の間でしかない。

 

「《水舞台装置》が破壊されたことで、墓地から《鬼ガエル》を攻撃表示で特殊召喚! そしてメインフェイズ2。私はさっき特殊召喚したテトラの効果で、《水舞台装置》をデッキから手札に加える!」

 

 ベルが全力を尽くして打ち崩しても、博士はソレを受け止めて見事に立て直した。

 炎氷の拳撃を打ち切って尚、博士のアクアリウムは崩れない。

 

「更に《水照明》《水舞台》、そして《水舞台装置》を2枚、一気に発動っ!」

 

 虹色の珊瑚礁、煌びやかな舞台装置。

 麗女優達を照らす光は、荒くれたちの襲撃を受けても決して色褪せなかった。

 

「私はこれで、ターンエンドっ!」

 

 どんなもんだと言わんばかりに、にかっと笑顔を浮かべて見せる博士。

 もしこれが、それまでと同じような気持ちで臨んだ大切な何かを賭けたデュエルだったら。ベルは唇を噛み締め、焦燥に胸を脈打たせていたかもしれない。

 

「……やっぱり、強いですね。でも――」

 

 けれど今は違う。自分の全力をぶつけた分だけ、同じように跳ね返ってくる博士とのデュエルに熱く心を揺さぶられている。

 もう自分の心を偽ることなく、素直な気持ちで『楽しい』と感じる事が出来る。

 

「わたしだって、負けませんっ!」

 

 ユウのことも《アスタリスクス》のことも、決して忘れた訳じゃない。

 だけど今は、それ以上に――勝ちたい。負けたくない。

 こんなにも楽しい時間を、終わりにしたくない。

 

「わたしのターン、ドロー!!」

 

 ベルのドローも、負けじと光の軌跡を描いた。

 手札に残されたカードと照らし合わせ、しばし思考に耽る。

 

(考えろ、この状況を打ち破るには……)

 

 ファイヤー・ハンドを盾としようにも、その効果にはもう期待はできない。更にアイス・ハンドの自爆にしても、アクアリウムコンボが再建されてしまった今、その代償は無視できない状況だ。

 

 だとすれば――どう動けば良い?

 

 ベルの頭の中で、バラバラだったパズルのピースが形を成していく。

 やがてそれは、光の道となって一筋に繋がった。

 

「スタンバイからメイン、わたしは手札から《トリオンの蟲惑魔》を召喚! その効果でデッキから《奈落の落とし穴》を手札に加えます!」

 

《トリオンの蟲惑魔》

☆4/地属性/昆虫族/ATK 1600/DEF 1200

 

 海底の壇上へと上がった次なる刺客は、得意の罠で獲物を絡め獲る魔蟲の化身。

 あどけない顔立ちの少女は短い銀髪をさらりと揺らすと、1枚のカードをベルに手渡す。

 すると彼女は自らの役目を理解していたかのように、黙して溶岩の掌の隣に並び立った。

 

「行きます!! わたしは☆4のトリオンとファイヤー・ハンドでオーバーレイ!!」

 

 橙と赤の光球が螺旋を描き、光の渦の中へと飛び込んでいく。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築……エクシーズ召喚!!」

 

 闇色に暗転した景色は、瞬く間に眩い光に照らされた。

 

「全てを砕く金剛の牙、★4《恐牙狼 ダイヤウルフ》っ!!」

 

 父から譲り受けた、ベルの持つ汎用★4エクシーズが姿を見せる。

 その強靭な前足を海底の舞台にしっかりと食い込ませ、金剛の狼は雄叫びを上げた。

 

《恐牙狼 ダイヤウルフ》

★4/地属性/獣族・エクシーズ・効果/ATK 2000/DEF 1200

 

「凄いっ、エクシーズ召喚まで!」

「えへへ……行きます、ダイヤウルフの効果を発動! ORUを1つ使い、自分フィールド上の獣族モンスター……ダイヤウルフ自身を破壊することで、フィールド上のカード1枚を選択して破壊します! まずは《水舞台》を破壊!」

 

 せっかくのモンスター・エクシーズであったが、その役目はやはり博士のアクアリウムコンボを崩すことにある。

 早々にその身体を砕き、無数の無骨な刃に姿を変えたダイヤウルフが珊瑚礁の舞台を破壊する。

 

「あぁ!? せっかく作り直したアクアリウムがまた……うう、墓地にモンスターがいないから《水舞台》の効果は発動できないし……」

「まだまだ行かせて頂きますっ! 更に伏せていた永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から《トリオンの蟲惑魔》を特殊召喚し、その効果で《水照明》を破壊します!」

「ええぇ!? またぁ!?」

 

 博士の悲痛な叫びも空しく、ベルのモンスター達はアクアリウムを打ち崩していく。

 墓地から飛び出してきた蜻蛉の少女が腕を突き出し、地中から出現した巨大な鋏のような顎が水照明を砕いた。

 しばし呆然としていた博士だったが……その口元は、自然と緩んでいった。

 

「……ふふっ、私のアクアリウムコンボを二度も崩してくるなんて! けど、私の場にはまだお魚さん達が沢山いるよ? アロワナの攻撃力は2枚の《水舞台装置》の効果で3200……ベルちゃんはどうするつもりなのかな?」

 

 確かに、これ以上ベルにアクアリウムを破壊する手段は残されていない。

 それどころか、肝心の麗女優達を退けるにはあまりに非力な布陣だ。

 

「確かに今のままの手札じゃ次のターン、博士に攻め切られてしまうのは時間の問題です……けど、ご心配には及びません! 魔法カード《貪欲な壷》を発動! 墓地のハンドモンスター5枚をデッキに戻して、カードを2枚ドローします!」

 

 ハンドモンスターを補充すると共に、新たなカードを呼び込む逆転の一手。

 何とか切り替えしたベルに、観客席のクラドとアンリエールも胸を撫で下ろす。

 

「よし! 上手いこと貪壷を引いてたか!」

「破壊耐性を与える《水舞台》は先程で3枚目……ハンドモンスターの後続が補充された今、アユカワ女史にとって攻め難い状況になりましたわね」

 

 博士は少し驚いたように目を丸めたが、ドローカードを確認してぱっと明るくなったベルの表情を見て口角を上げた。

 

「ふふっ……良いカードが引けたみたいだね?」

「はい! 手札から魔法カード《精神操作》を発動、アロワナのコントロールを得ます!!」

 

 果たしてベルが引き当てたのは、モンスターのコントロールを奪う強力な魔法カード。

 カードから放たれた螺旋状の催眠波がアロワナの精神を操作(コントロール)し、ベルのフィールドへと鞍替えさせる。

 この効果で奪ったモンスターは攻撃宣言やリリースこそ出来ないが、シンクロやエクシーズの素材に関しては何の指定もない。博士は当然、アロワナを素材とすることで『処理』するものと踏んでいたが……ベルの不完全なエクストラデッキを知る観客席の一同は、思わず小首を傾げた。次の瞬間、彼女の宣言を聞くまでは。

 

「そして、コントロールを得たアロワナを『持ち主の手札に戻し』、このカードを特殊召喚します!」

 

 精神操作を受け、ぐるぐると目を回したままのアロワナが博士の手札へと帰っていく。

 同時に発生した渦巻く風は、この水中舞台において激しい渦潮と化す。渦を割って現れたのは、寸胴な体型の鳥人型ロボットだった。

 

《A・ジェネクス・バードマン》

☆3/闇属性/機械族・チューナー・効果/ATK 1400/DEF 400

 

 緑色の装甲に白い刃のような鋭い両翼。

 その姿を見たクラドが、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて隣の少年を見やった。

 

「ありゃあ……はっはっは! 役に立って良かったなぁ、猿小僧?」

「けっ……」

 

 ぽんぽんと頭を叩くクラドの手を、燐路は鬱陶しそうに払いのける。ベルのフィールドに現れたソレは、デュエル前に燐路が手渡したカードだったのだ。

 確かにバードマンの特殊召喚は確かにリリースではなく、エクストラデッキを用いた召喚法でもない。

 

「成程……ベルちゃんの手札にはトリオンの効果で手札に加えた《奈落の落とし穴》があるわ。これでアユカワ博士は次のターン、アロワナを再度アドバンス召喚することが出来なくなった、という訳ね」

 

 藍が言い纏めた通り、バードマンでの処理は『アロワナの召喚を封じる』ことで実質上の死に札とすることが出来る。急場のコンボとはいえ、中々の機転だ――観客席の一同も、そして対峙する博士すらも思わず舌を巻いた。

 

「それでは……行きます! バトル、トリオンとファイヤー・ハンドで攻撃表示のテトラ2体に攻撃!」

 

 博士の場に伏せられたカードは無い。無防備な青の麗女優達へ、溶岩の拳と巨大な鋏顎が迫る。

 握り締められ、引き裂かれ。僅かに勝る攻撃力の前に、美しき魚影は呆気なく葬り去られた。

 

「ううっ……!?」

 

【アユ】LP4000→3800

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドです!!」

 

 上級モンスターを交え、立て直したアクアリウム。それを褐色のメイド少女は笑顔で乗り越えてきた。

 色々と思うところがあったのだろう。博士は乱れた髪をぽんぽんと直すと、少し間を置いてからゆっくりと呟いた。

 

「……うんっ。ホントは『幽霊姫』さんとも湊さんともデュエルしてみたかったんだけど。やっぱり、ベルちゃんを選んで良かったよ!」

「あ、ありがとうございますっ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 にひひ、と子供っぽく微笑む博士に、ベルは慌てて頭を下げる。

 

「でも、私だってまだ負けた訳じゃないよ? それにまだ――『あの子達』の答えを聞いてないからね」

「えっ……?」

 

 ベルの疑問を押し流すように、博士が渾身の力を込めてカードを引き抜く。

 

「私のターン、ドローっ!!」

 

 ドローカードを確認した博士は、丸い瞳を優しく細めた。

 僅かな手札、その欠片(ピース)が導き出した『答え』に満足げに頷く。

 

「――うんっ。やっぱり『あの子達』もベルちゃんと戦いたいみたい」

 

 それは当然のことだと、自信に溢れた言葉とは裏腹にほっと息をついて。

 博士は『あの子達』と呼ぶソレの為に、再び舞台の幕を上げた。

 

「私は、場の鬼ガエルの効果を発動! このカードを手札に戻すことで、《鬼ガエル》以外の《ガエル》モンスターを、通常の召喚に加えて1度だけ召喚できる……んだけど、今回は《鬼ガエル》の効果を使って手札から特殊召喚する! 私が手札から捨てるのは《アクアアクトレス・グッピー》!」

 

 まだアロワナが手札に残っている現状、当然ながらベルが罠を発動させる様子は無い。

 もっとも――博士の言葉から、ベルの狙いは既に『別の大物』へと向けられていたが。

 

「鬼ガエルが特殊召喚に成功したことで、デッキから条件を満たしたモンスター1体を墓地へ送る! 私が墓地へ送るのは――」

 

 博士がデッキから1枚のカードを抜き出し、ディスクの墓地ゾーンへと送る。

 僅かに見えたそのカードは、フィールドを包む海と同じ澄んだ青色。

 

「水族・水属性・レベル2の儀式モンスター、《―**―(アスタリスクス) 鏡蝸牛(ヴォジャノーイ)》!!」

 

―**―(アスタリスクス) 鏡蝸牛(ヴォジャノーイ)

☆2/水属性/水族・儀式・効果/ATK 200/DEF 1000

 

 明かされたその名は、燐路達の言葉を借りれば『二番』と称される十二支柱。

 観客席のクラドと藍から真っ先に驚きの声が上がる。

 

「儀式モンスターの《アスタリスクス》、か……!!」

「もう何が出てきても驚かないつもりでいたけれど……儀式モンスターを墓地へ送るなんてアユカワ博士は何を……?」

 

 儀式モンスターはその性質上、対となる専用の儀式魔法を必要とする為に汎用性があるとは言い難い。加えてエクストラモンスターと同様、正規の召喚手順を踏まなければ墓地からの蘇生は出来ない制限もある。よって儀式モンスターを扱うならば、藍の使う【リチュア】のように専用のデッキを組む事が推奨される。

 アクアリウムコンボでモンスターを強化していく博士のデッキに取り込むには、どう考えても無理がある……しかし博士は、そんな疑問の声を一喝するように声を張り上げて宣言を続けた。

 

「ヴォジャノーイの効果発動! このカードが墓地へ送られた場合、デッキから《アスタリスクス》モンスター1体を手札に加える!」

「ッ!! サーチ効果……!?」

 

 ヴォジャノーイの持つその効果を聞き、博士の行動に一瞬納得しかけた一同だったが――手札に加えられたのは何と、またしても青いフレームの儀式モンスターだった。

 

「更に手札から魔法カード《サルベージ》を発動っ! 墓地からグッピーとヴォジャノーイを手札に戻して、グッピーを通常召喚!」

 

《アクアアクトレス・グッピー》

☆2/水属性/水族・効果/ATK 600/DEF 600

 

 可愛らしくウインクを振りまいて、ピンク色の麗女優が躍り出る。

 その攻撃力は、2枚の《水舞台装置》の効果で1800まで上昇していたが……手札に加わった《アスタリスクス》を前にしては《奈落の落とし穴》を発動させることは出来ない。

 

(……これで、博士の手札は――)

 

 博士の手札には、2枚の《アスタリスクス》と前のターンにバウンスしたアロワナのみ。

 彼らを全てフィールドへ呼び出せば、確かに強力な布陣が築けるかもしれない。だが――。

 

「……これで召喚権も使ってしまわれたようですし、一体どうやって儀式召喚するおつもりですの……?」

 

 アンリエールが小首を傾げた通り、このままでは儀式召喚はおろか、アロワナのアドバンス召喚すら不可能な状態だ。にも関わらず、彼らを呼び出すために必要な儀式魔法は未だその名前すら出てこない。

 そんな彼女を、燐路は心底楽しそうに嘲笑った。

 

「決闘者にとって『未知』は最大の敵だぜ? ジョーシキを超えて何が飛び出すか……楽しみに拝見しようじゃねーか」

 

 それはまるで、自身がその『未知』によってユウに敗北した事実を自嘲するかのようだったが――その言葉は果たして、的を射ていた。

 

「ヴォジャノーイの効果を発動!! 手札のこのカードを儀式魔法として扱い、儀式モンスター1体を降臨させる!!」

 

 博士の堂々たる宣言に、一同へ電流じみた衝撃が駆け抜けた。

 

「なっ……!?」

「儀式魔法の代わりになるモンスター……ですって!?」

 

 自身も儀式を多用する藍から、彼女らしからぬ驚愕の声が上がる。

 海底の舞台に浮かび上がる青い光に包まれた魔法陣、その中央にぼんやりと姿を現したのは――逞しく捻じれた二本角を携えた雄牛の頭に、その名の通りカタツムリの殻のように渦を巻いた外殻。その渦の中央には、怪しげに光を跳ね返す鏡が嵌め込まれていた。

 言うまでも無く、それは十二支柱『二番』の姿だった。

 

「私は、手札のアロワナと場の鬼ガエルをリリース!!」

 

 ぼう、とアロワナと鬼ガエルの姿が鏡に映し出されると、魔法陣の外円を青い炎が時計回りに灯っていく。儀式を執り行う準備が、整ったのだ。

 

「……神々を魅了せし雲間の天女よ、古の秘術によりて今蘇れ!」

 

 ここが海中だということすら忘れてしまうほどに、青い炎の奔流が天を貫く柱となって立ち上った。

 博士の祝詞と共に、魔法陣の中心で奔流に飲まれた鏡蝸牛のシルエットが見る見るうちに変質していく。

 

「儀式召喚!! ☆8、《―**―(アスタリスクス) 羊雲海(アプサラス)》!!」

 

 解き放たれたその名は十二支柱の『八番』。

 その身が天上の者だと示す体色の青を、白い雲の天衣がどこか触れ難い『聖』へと彩る。

 天女は豊かな乳房を雲の天衣で隠し、巻き角を模した金の冠をシャンと打ち鳴らした。




~今日の最強カード~

―**―(アスタリスクス) 鏡蝸牛(ヴォジャノーイ)
☆2/水属性/水族・儀式・効果/ATK 200/DEF 1000

手札の儀式魔法カード1枚を墓地へ送って発動できる。レベルの合計がこのカードと同じになるように自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、手札からこのカードを儀式召喚する。「―**―(アスタリスクス) 鏡蝸牛(ヴォジャノーイ)」の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが儀式召喚に成功した場合、儀式召喚に使用したモンスター1体を選択する。フィールド上に存在する限り、このカードはその選択されたモンスターと同名カードとしても扱う。
②:自分の手札のこのカードをリリースして発動できる。レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、手札から儀式モンスター1体を儀式召喚する。
③:このカードが墓地へ送られた場合、デッキから「アスタリスクス」モンスター1体を手札に加えることができる。
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