遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第4章 白の騎士と紅の巫女
第50話 ユウ=キリサキ


 少しひび割れた電子音に、思わずぴくりと肩を震わせる。

 ふと時計を見上げれば、2本の針はぴったりと重なっていた。

 

「……もう、そんな時間なのか」

 

 俺――桐崎(きりさき)(ゆう)は、のろのろと教科書を仕舞いながら、ぼんやりと呟いた。

 

(今が何時間目かなんて、全然気にしてなかったな……)

 

 周りを見れば、皆待ち侘びたように席から立ち上がり、騒がしく机を寄せ始めている。

 退屈な時間から解放されたのだ。これが当然の反応だろう。

 

 けれども、それは自由な時間に『楽しみ』があるという前提の話だ。

 授業という適当な『暇潰し』が無いこの時間は、俺にとって有意義な時間ではない。

 

(……行くか)

 

 沈みそうになる気持ちを、いつものように『仮面』の中へと押し込んで。

 俺は、そそくさと購買部へと向かった。

 

 

   **

 

 

 中庭。

 校庭の楽しげな喧騒だけが遠くに聞こえる、人気のない場所だ。

 あるのは涼しげな木陰とベンチだけ。あとは園芸部が育てているらしい、プランターの小さな花々が目に付くという程度か。それでも俺はこの場所を学校のどの場所よりも贔屓にしている。

 その理由は……おかしな話ではあるが、部活動が盛んなここの校風にある。昼休みともなれば校舎内に限らず、校庭の隅から隅まで何らかの部が自主練習なり談笑なりをしていることが多いからだ。

 そんな彼らの邪魔をせず、かつ時間を潰せるのはここしか無い。俺のような人間が逃げ込むには丁度良い塩梅という訳だ。

 

 ……話は変わるが。部活動に『全力』を注ぐ我が校では、よくある購買部の争奪戦争は起こらない。焼きそばパンもカレーパンも、何の障害も無くすんなり買えてしまう。

 貴重な昼休み中、食事に掛ける時間をなるべく減らしたいのだろう。

 俺としては何ともありがたい話だ。何の苦労も無く、こうして満足に空腹を満たすことが出来るのだから。

 

(……と言っても。こう毎日同じようなパンばかりじゃ……な)

 

 そんなことを考えつつ、中庭のベンチに腰を下ろす。

 ふわふわと暖かな風を受けながら、俺は焼きそばパンをかじった。

 

 季節は5月、入学のドタバタから1ヶ月が経つ。

 世間一般では、大よそ自分がどのグループに属するか大体が決まる頃。そんな時期に1人という俺の立場は……まぁ説明せずとも分かるだろう。

 原因は何となく分かる。この無愛想な顔と態度、そして致命的な『コミュニケーション能力』の欠如だ。

 流されるままにこのポジションへ嵌ってしまったのは当然の結果。案外ドライにこの状況を受け入れてしまっていることも問題だと思うのだが。思うだけでは、現実に何の影響も現れないことも事実だ。

 そう、自分自身で変わろうとしない限り、何も――。

 

 

 

「――ごくっ」

 

 

 

 ふと。

 何やら背中に視線を感じた。

 

 確かに、中庭の人気が少ないことの理由に『出る』という噂が付き纏っていることは知ってはいたが……それはあくまで、放課後や閉門後の話だ。

 まさか、そんな筈は――冗談だろう?

 

 いや……幽霊なんて非科学的な奴より、もっと恐ろしい奴なら昼夜問わず活動しているじゃないか。生ある『人間』だ。まともな思考が壊れた奴なら、何時だって何処にだって現れる可能性がある。

 

「……じゅる」

 

 ぞわり、と肌が粟立つ。

 まるで肉食獣に狙いを定められたような感覚が全身を襲った。

 視線、気配、思考――そういったモノが全て矢尻になって突き刺さってくる。

 

 もうどうにでもなれと、ここまでくれば半ば自棄になり。

 カウンター気味に掴みかかってやろうとまで考えた意気込みで、バッと振り返ってみると。

 

「……だらだら」

 

 涎を犬か何かのように垂らした女が、目の前に居た。

 

「っ……!!」

 

 ひっ、と。柄にもなく女性のような悲鳴が心臓から飛び出しそうになった。堪えることが出来たのは、凍りついた表情筋が頑張ってくれたおかげだろう。

 十数秒の間を置いて少し冷静になると……女が身に着けているのは我が校の伝統ある制服だということに気が付いた。しかも胸元に着けられたリボンの色は俺よりも1学年上の赤。

 ――つまり、この女は俺の先輩に当たる訳で。

 

「……何か、用ですか」

 

 俺が恐る恐るそう尋ねると、先輩らしき女は黙ったままコクリと首を縦に振った。

 ベンチに座ったままズリズリと後ずさる俺を尻目に、先輩の視線は俺の手元に突き刺さったまま離れない。

 何となく。本当に何となく察してはいたが、まさか……。

 

「……もしかして、欲しいんですか。コレが」

 

 その先輩はこくこくと何度も首を縦に振ると、ぱあっと顔を明るくした。

 

 

   **

 

 

「んくっ……はぁ~、このまま学校の中で行き倒れるかと思った!」

 

 隣にちょこんと腰掛けたその人は、俺が渡したもう1つの昼食……カレーパンをものの数秒で平らげると、季節外れの向日葵のように微笑んだ。

 

「助かったよ、ありがとうっ♪」

 

 肩口よりも長く伸ばした栗色の髪に、あどけなさの残る丸っこい顔。ハムスターか何かを連想させるが、身長は女子としては平均より少し高めだ。綺麗というよりは、可愛い部類に入るだろう。

 

「お弁当忘れちゃってねー、どうしたもんかと途方に暮れてたんだけど」

「……そう、ですか」

 

 先輩は何が楽しいのかコロコロと笑ってばかりいる。

 第一印象こそ不気味な感触だったが、こうして話してみると明るく人懐っこい性格のようで……正直なところ、コミュニケージョン能力の無い俺にとって苦手なタイプだ。

 

「お昼がなくて本っ当に困ってたんだよ、ありがとう♪」

「いえ、別に……」

 

 地に落としていた視線を、ここで初めて先輩の方へと向けた。

 すると彼女の視線が俺ではない『何か』に向けられていることに気が付く。

 

「……えっと、今日ね? お弁当、忘れちゃってね?」

 

 意味深に2回、同じ言葉が繰り返された。

 口の周りには先程のカレーパン、その残滓がある。それでも尚モノ欲しそうな眼差しを向けてくる先輩に、俺はきっぱりと告げた。

 

「……あげませんよ。今からでも購買部に行けばいいじゃないですか」

「そんなお金、ないもん」

 

 即答だった。

 俺の厳しめな即答を鏡に映したような見事なカウンター。それを決めた先輩はむんっと立派な胸を張っている。

 

「……そうですか。じゃあ諦めて下さい」

 

 が、そんな色香に惑わされるようでは『無愛想』の烙印がすたる。

 不動の心を持ってジトリと目を線にして見据えると、先輩は何やら考えた末に口早に提案を投げかけてきた。

 

「……こ、困っている女の子を助けるのはポイントが高いらしいよ!」

「何のポイントですか」

「えっ?」

「……色々あるでしょう。TだとかPだとか」

「えーと、確か『ふらぐ』だとか何とか……」

「そんな互換性の無いポイントならお断りします。俺も裕福じゃないので」

「この冷徹漢、鉄面皮!!」

「そのようですね、自負してます」

 

 色々と言葉攻めが通用しないと分かった途端、先輩は急に流し目を作って俺を見据えた。

 

「……んふふ。なるほど、なるほど。最初からコレがご所望なんでしょ?」

「は?」

 

 ぴらり。

 突然めくられた先輩のスカートに対し、当然ながらソレが何かを視認する前に顔を背ける。

 

「……何をしてるんですか」

「ぱんつの効果発動、これを見せることで男の子は皆言うこと聞きたくなっちゃう」

「じゃあ見ませんし、言うことも聞きません」

「えー!? 何で!? 男の子って皆ぱんつ好きなんでしょ!? もっと喜んでよぉ!?」

 

 先輩が抗議の意思をたっぷりに立ち上がって、こちらへと回り込んでくる。

 じいっと覗き込んでくる大きな瞳に、俺は子供か何かに言い聞かせるように答えた。

 

「……えー、いいですか。ココに『お金』と書かれたアタッシュケースがあります」

「えっ!? どこどこっ!?」

「例え話です、大きな目を血走らせないで下さい。話を戻しますが、先輩はケースに何が入ってると思いますか」

「札束!!」

「……まぁ、何となく今ので先輩がどんな人なのかが分かりました」

「え? これって心理テストだったの!?」

「こんな小学生でも分かりそうな心理なんぞテストしません……話を続けますよ。いざケースを開けたら、中には500円玉が1枚入っていました。先輩はどう思いますか」

「……何か、凄くガッカリした」

「でしょうね。つまり世の中には『見えない方が価値があるモノ』もあるということです」

「つ、つまりあたしのぱんつって500円の価値しか無いってこと!?」

「いや、そういう事では……まぁ今のままじゃあながち間違いでもないか……」

 

 男の夢についての話はちっとも伝わらなかったが、先輩は割と真面目にショックな表情を浮かべていた。普段抑えている分、口を開けば割と毒ばかり吐いてしまうのがいけない。

 慣れない口を動かして、心ばかりのフォローを入れる。

「別に先輩に魅力が無いって話じゃないですよ。可愛い方だと思います」

「ふえ!? そ、そうかな? でへへ……」

 

 そんな言葉を聞くや否や。先程までの妙に不安そうな顔は何処へやら、デレデレと頬を赤らめて困ったように頬を掻き始めた。

 怒ったり落ち込んだり喜んだり。きっと素直な人なのだろう……少しだけ、そんな先輩が羨ましいと思う。

 

「……って、話を逸らそうってもそうはいかないんだからね! もっと分かるように説明してよ!?」

 

 男子の秘めたる夢、その意味をまだ理解できていないようだ。

 しつこく食い下がる先輩に対し、俺は声色に僅かな『凄み』を乗せて言い放つ。

「閉門時間まで俺の話に付き合って頂けるなら……存分に話しますが」

「えっ」

 

 只ならぬ妖気を察したのか、先輩は呆気なく引き下がった。

 こんなコトを言っておいて何だが、恐らく俺が女性の下着について話しても5分が限度だろう。ボロが出る前に引き下がってくれて助かった。

 

「ぐぅ……無念……」

 

 何となく敗北した雰囲気を漂わせている先輩に、すっかり忘れているだろう『当初の目的』を放り投げる。

 ぽーんと高い放物線を描いて、それは見事先輩の頭上に着地した。

 

「わぷっ!?」

「……まぁ、先輩の顔は立てますよ。そんなんで良ければ、どうぞ腹の足しにして下さい」

 

 しばらくポカンと何か言いたそうに口を開いていた先輩だったが。意外なことに、また俺の隣に腰掛けると菓子パンの袋を破った。

 

「ありがと、優しいんだね!」

「……無愛想、の間違いじゃないですか」

「無愛想さんでも、少なくともあたしにとっては優しい男の子だよ♪」

 

 ぱくり、と甘そうな菓子パンを頬張る先輩の横顔を眺める。

 どうにも……良く分からない人だ。

 

「あ、ところでキミさ」

 

 ぱっと向き直った先輩が、ニヤリと口角を上げた。

 何か、と次の言葉を待っていると。

 

「いつも中庭で暇そうにしてるけど……もしかして、友達いないの?」

 

 危うく飲みかけていたコーヒー牛乳を吹き出しそうになったが、ここでも死した表情筋が断固阻止する。

 死して尚、責務を果たすとは我が一部ながら天晴れだ。

 

「……何を急に、そんなことを」

「ふっふっふ。『アレ』が流行ってる今のご時世、こんな所でひとりぼっちなんて人は

逆に目立って仕方ないからね~?」

 

 先輩が指差す方を見ると、いつの間に訪れていたのだろうか……ベンチで向き合いながら『カード』を広げている男子生徒達が目に留まった。

 

「ああ……『デュエルモンスターズ』ですか」

 

 世界的にその地位を確立した、超有名カードゲーム。そのプレイヤー層は老若男女を問わず、スポーツのようなプロリーグから専門の養成学校まであるという。

 無論、そこのベンチでわいわいと楽しんでいる連中はあくまで『趣味』としての嗜み程度なのだろうが。プレイヤー人口が多いイコール、それ極めて優秀なコミュニケーションツールと化す。

 同じ趣味を持つというコトは、それだけで会話が弾む。約束も増える。臭い販促文句のようだが、事実『デュエルモンスターズ』はそういった役割を担っている訳で。学校を出て社会に放り出されても、何かと『デュエル』は付いて回るそうだ。

 

「あれ、興味なさげ? それとも実は結構やりこんでたり?」

 

 俺の反応が気になったのか、ずいと先輩が顔を寄せてくる。

 長いまつ毛が当たりそうになるまで詰め寄ってきて、思わず仰け反った。

 

「……ルールくらいは知ってますが、別にそこまでは」

「じゃあ、デッキは持ってるの?」

 

 ずい、と更に先輩が詰め寄ってくる。

 近づいてくる先輩をかわそうと、彼女の額を押しのけてとりあえず距離を離す。

 

「……まあ、一応は」

「ホントッ!? じゃあじゃあ、あたしとデュエルしようっ!?」

 

 何を言い出すかと思えばこれである。何かといえばデュエル、デュエルとばかり。

 これまで『幾度と無く』交わし、なぞったやり取り……思わず出そうになった溜め息を、必死に押し返す。

 

「……いいですよ。俺で良いなら」

 

 俺は沈んだ感情を全て『仮面』の下に押し込むと、淡々と承諾した。

 

 

   **

 

 

 モンスターを出して、カードを伏せて。

 それ以外にすることはない。いや……したことがない、の間違いか。

 ターンを渡された先輩は、見るも鮮やかにカードを操っていく。

 

「召喚条件を満たしたことで、手札から《裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)》を特殊召喚っ!! 何かある?」

「……いえ」

 

 ディスク何て高価なモノは当然、持っていない。

 ベンチという粗末なデュエルフィールドに、本来なら綺麗な姿を見せてくれたのだろう白い龍が場に出てきた。

 ソレを止める術など俺にある訳もなく。場にあったカードが吹き飛んでいく。

 

「更にあたしはルミナスの効果で、墓地から《ライトロード・アサシン ライデン》を特殊召喚!! ダイレクトアタック――なんだ、けど」

「…………」

 

 何を首を傾げる必要があるのか、ご覧の通り俺の負けだ。

 万事平穏、いつも通り。

 

「……俺の負けですね。ありがとうございました」

「え……? あ、うん……」

 

 何とも言えない表情で、先輩はカードを片手に固まっていた。

 ああだこうだと理由を付けていたが、そんなのは些細な事。

 これが俺の、孤立の原因だ。

 

「……さっきの質問の答えですが。まあ、察して下さい」

 

 勝負事なんてモノは、実力の拮抗した相手と戦うから面白いのだ。

 スポーツだってそう。一方的な試合なんて、見ている方だってその内飽きてくる。

 

 要するに。

 俺は弱すぎて、相手にならないのだ。

 

 戦う度、相手は気まずい表情を浮かべて去っていく。とはいえ彼らを責める気は無い、非があるのは俺の方なのだ。

 元々が口下手なのに加えゲームを用いての対話すら不器用……我が事ながら、先が暗い。

 

「あの、さ……」

 

 あれだけ明るかった、太陽のようだった先輩の表情が、どんどん鉛色に曇っていく。

 この瞬間だけは、どうしても慣れない。

 ほんの少しだけ羨ましいと思ったその人も、こうしていつも通り俺から離れていく。

 

「……何です?」

 

 決別を告げられる、曖昧な言葉が放たれるまで数秒。

 全ての感情を能面の下に押し込んで、俺はそのときを待ったのだが――。

 

「どうしてそんなに、辛そうな顔でデュエルしてるの?」

 

 先輩の口から放たれたのは、意外な言葉だった。

 

「……え?」

「ちっとも楽しそうじゃなかった。そんなのデュエルじゃないよ……」

 

 少し怒ったように眉を尖らせ。

 立ち上がった先輩が言い放ったのは、今までの『決別』とは正反対の言葉で。

 

 

 

「ホントの『楽しい』デュエル、あたしが教えてあげる」

 

 

 

 切れることの無かった『繋がり』に、しばし呆然と佇み。

 

「放課後、空けておいてね? あたし校門で待ってるから!」

「は……?」

 

 昼休み終了の合図と同時に、俺はその言葉の意味を理解した。

 

「あ、お昼休み終わっちゃったね。そんじゃ放課後にまた! 逃げちゃ嫌だよっ!?」

 

 ビシッと敬礼のようなハンドサインを決めて立ち去ろうとする先輩に、俺は慌てて声を掛けた。

 

「いや、ちょっと――」

 

 この人の素性とかクラスとか、そもそも放課後の約束はまだ承諾してないとか、聞きたいことは沢山あったが。

 

「アンタ、名前は……!?」

 

 とっさに口から飛び出した質問に、先輩はくるりとスカートを回しながら振り向いて、答えてくれた。

 

 

「2―A組、珠城(たまき)陽依(ひより)っ!!」

 

 

 

 

   **

 

 

 閑散とした青い夜、『開拓プラント』付近の市街を2台のD・ホイールが並走する。

 闇に浮かぶのは、白金の騎士と爬虫類のようなシルエットをした炎銃(ヴォルカニック)の使徒。

 現在は【バトルロイヤルモード】のラストターン。そして今、最後の宣言が下されようとしていた。

 

「……バトル、ジェインでエッジに攻撃」

 

 切り裂かれた《ヴォルカニック・エッジ》爆散の衝撃を受け、コントローラーであるフルフェイスの男はD・ホイールごと巻き上げられる。

 紅の鎖が千切れ飛び、敗者はその『リスク』を全身に受け路上へと叩きつけられた。

 

「ぐ、あああぁぁぁッ……!?」

 

【???】LP0

 

 男の痛烈な叫びが、あっという間にスピードの彼方へと置き去りにされていく。

 勝者――ユウ=キリサキの駆る黒い軽量のD・ホイールは、今しがたクラッシュした彼らのソレと同じモノだ。言うまでも無いが、彼らから『拝借した』代物である。

 個体識別その他諸々……追跡される要因は幾らでも考えられたが、ユウはそんなことなどお構いなしに夜道を駆けて行く。

 何かしら追手が来るだろう、ということは承知の上。むしろこれから向かう目的地に近づくにつれて『向かい側から』湧き出てくるライダー達は良い道標となった。

 あの男……ユーギ=ムトウから受け取っている情報は正しかったということだ。だが――。

 

(……思っていたより行動が早い、本当に『赤コート』達は内部分裂したのか……?)

 

 情報と状況を見るに、白面の集団――無論ヒヨリを含めた――がこの青の地に集結していることは確かだ。しかし先刻の光景を見るに組織の中で何か分裂が起きていることも事実。

 そんな内輪揉めでボロボロの組織がここまで迅速にイレギュラーの対応などし得るのだろうか。

 

(ともかく今は、指定されたポイントに向かうしか無さそうだが……)

 

 あれこれ考えるのは苦手だ、とユウは思考を切断し、ユーギに指定されたポイントへと迅速に向かうことだけを考える。

 

 そう、いつものように。仮面の下に全てを仕舞いこむ。

 余計なことなど考えてはいけない。だが――。

 

 

 

 ――誰? デュエルの邪魔しないで。

 

 

 

 そう冷たく言い放った『彼女』の顔が、真新しい記憶としてユウに刻まれている。

 無表情の騎士は擦れた記憶を呼び起こしながら、少女の行方を憂いた。

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