遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第51話 勝つだけのゲーム

「やあ、随分とお早い到着ですね」

 

 ユウが指定場所に到着すると、ユーギ=ムトウは車内からひらひらと手を振って出迎えた。

 夜の闇に紛れるような漆黒の車体は、例え借り物であったとしてもそれだけで彼の『収入』が伺える。流石はデュエルシステム市場を独占する一流企業……普通なら彼の振る舞いに憧れや妬みを抱きそうなモノだが、ユウは何の反応を示すことなくD・ホイールを車の傍に寄せた。

 

「……どういうつもりだ」

「何がです?」

「危険だからと俺を『代行者』に立てた奴が、何故ここまで来たのかと聞いている」

 

 開口一番、ユウは尖った口調で問い詰める。

 ユーギは眉を下げつつ、やれやれと両手を上げて答えた。

 

「どこかの皆さんのお陰で、今は(アトランタ)も神経質になっていましてね……警備の厳重な開拓プラントに入る為には、僕が直接顔を出さなければ侵入すら難しいかと判断したまでです」

 

 そう言って、ユーギは1枚のデータカードを手渡してきた。

 

「コレをDパッドに読み込ませて下さい、検問を誤魔化す為の偽IDです。僕と一緒ならまず問題なく通れるでしょう……ああ、そのD・ホイールとはここでお別れして下さいね? 僕らまで追跡されるのはゴメンですから♪」

「…………」

 

 ユーギの言葉の意図をそのまま体現するかのように、車のドアがカチリと音を立てゆっくりと開いた。見れば、後部座席にはしっかりと1人分のスペースが空いている。警戒の色こそ解かないままではあったが、ユウは促された通り車内に乗り込んだ。

 ユウが席に着くと、車は静かに走り出した。例に漏れずこの車も電気自動車らしい。運転席には顔の見えない細身の男が1人と、助手席には双子の片割れ。もう1人はユウからユーギを遮るようにして間に座っていた。

 互いの安全を保つための最低限の配置……薄氷の信頼関係の中で成り立つ得体の知れない緊張感の中、ユーギはニコニコと笑みを浮かべていた。自分の思い通りに事が運んで心地良さそうな、そんな笑顔だ。

 

「……聞かせろ、ここまで来た本当の狙いは何だ?」

 

 そんな底の見えない男に、ユウは低く唸るように問い掛ける。

 

「おやおや、せっかくのドライブですよ? もっと明るい話題は無いんですか?」

「……俺にはお前の事情が見えない。こうして身を預けるのにも信用に足らない程にな。お喋りをしたいなら手の内を明かしたらどうだ?」

「あはは……手厳しいですね。以前お話した通り、僕はただのコレクターですよ。本当の狙いといえば……そうですね、及ばずながら降りかかる火の粉から貴方を守る事が出来れば、というコト位でしょうか? 貴方には万全の状態で《アスタリスクス》の回収に臨んで貰いたい」

 

 仮面のような笑顔を浮かべたまま、全く『中身』の無い回答をするユーギ。

 雲を掴むような感覚に僅かに顔をしかめながら、ユウは問いを続けた。

 

「……火の粉、というのは『赤コート』のことか」

「ええ、幸い僕もこの子達もそれなりの実力者です。『紅の巫女』の相手はまだしも……梅雨払い程度ならお手伝い出来るかと思いまして」

「……その程度のこと、何故俺にまで隠す必要があった?」

「ははは……勘弁して下さい。僕だって男です、少しくらい格好つけても良いでしょう?」

 

 ユウの追求をのらりくらりとかわしながら、ユーギは降参といったように両手を挙げて見せた。

 未だ見えぬ『決闘王』の狙い。何か証拠があるわけでも無し、これ以上の追求は無意味だろう。ユウはそれ以上の問答を諦めて、窓の外へと視線を投げた。

 

「……それでは、今度は僕の方から質問しましょう。紅の巫女――ヒヨリ=タマキとはどういった関係で?」

 

 先程までの笑顔に曲がった目元は一転。ユーギの視線は細く鋭く研ぎ澄まされ、闇夜に反射する窓ガラス越しにユウを射抜いた。

 

「……話す義理は無い筈だ」

「いえいえ、それがそうでもないんですよ。彼女と相対したとして、貴方に手を抜かれては困りますからね。きちんとその辺りのお話を聞いておかなければ。いわば信用の問題です」

「……どこで、あいつと俺に因縁があると知った」

「おやおや、本当に因縁があったんですね? カマを掛けてみるものです♪」

 

 ニコニコと、ユーギは本当に屈託無く笑う。

 

「……貴様」

「おっと、そんなに怖い顔をしないで下さいよ。趣味とはいえレアカードが関われば『巨額』が動く……これも一種のビジネスです。僕が必死になるのもご理解頂きたい」

 

 慌てたように手を振るユーギの前で、小さな従者がディスクを構えた。

 最新型の半実体レーザープレートが刃のように突き立てられ、ユウも渋々と引き下がる。

 

「……ヒヨリ=タマキが倒すべき『敵』としての因縁であれば良し。ですが、もし甘温い感情にデュエルの行方を左右されるようなことがあれば……僕の杞憂、察して頂けると助かるのですが?」

「…………」

 

 その目は再び、刃のように研ぎ澄まされる。

 ユウは短く溜め息をついてから、答えた。

 

「……どの道、拒否権はないのだろう」

「ええ、まぁ」

 

 ユーギの視線と、小さな従者のディスク。その2つが下げられたことを確認してから、ユウは淡々と語り始めた。

 もう戻れないのであろう、あの世界で過ごした記憶を呼び起こしながら。

 

 

   **

 

 

 約束の放課後。待てども待てども先輩は現れなかった。

 ここまで来ると、俺としてはからかわれたのでは無いかと半信半疑だ。それでも馬鹿正直に校門の前で待っていると……人気が無くなったのを見計らったようにして、先輩はひょっこりと現れた。

 

「ごめんごめん、待った……よね?」

「……まぁ、俺は教えて貰う身の上ですし。気にしないで下さい」

「ホント、申し訳ないっ」

 

 手を合わせて頭を下げる先輩。

 約束を反故されなかっただけマシ、という胸の内はしっかりと秘めておいて、「それじゃ早速!!」と駅の方に向かって行く先輩に、俺は黙って付いていくことにした。

 

 駅前に到着し、先輩に連れられて歩くこと数分。

 何とも小さく狭苦しいビルの中に、それはあった。見渡す限りデュエルモンスターズのカードが沢山……学校帰りに寄り道をする連中も多いのだろう、幸い同じ制服は見なかったものの、制服姿の学生達が狭い店内に溢れ返っていた。

 俺の持っているカードのほとんどは、コンビニ等で少しずつ買ったカードの寄せ集めだ。こうしたカードの専門店というのは初めて踏み入れる領域である。

 その雰囲気に圧倒されるばかりの俺をよそに、先輩は鼻歌交じりに人混みを進んでいく。随分と慣れたものだ……袖を引っ張られるようにしながらも、何とか俺も後に続く。

 

「ふんふ~ん♪」

「……随分楽しそうですね、先輩」

「モチロンっ♪ デュエルの面白さを1から教えてあげられるなんて、楽しくない訳ないでしょ?」

 

 先輩の言葉に、俺は小首を傾げた。

 

「……そういうのって普通、面倒臭がるものでは?」

「そんなことないよ、決闘者(デュエリスト)として一緒に成長できるって凄く嬉しいことだし!」

 

 成程、彼女にとってはそういうモノなのか……。

 

「それにしても――」

 

 予想外の人の多さに思わず愕然とする。

 気を抜いていると、どこかへ流されてしまいそうだ。

 

「ユウ君、こっちこっち!」

 

 先輩に招かれたのは簡易的な机と椅子が設置された、こじんまりとしたスペースだった。

 休憩する為の場所ではないことくらいは俺だって分かっている。机の上に広がっているのは無論、デュエルモンスターズのカードだ。

 多少混みあってはいるが、幸いにも2人分の席が空いていた。デュエルディスクによるスタンディング(立ったまま)のスタイルが主流の今、プレイヤーも観客も注目しているのは店の奥にあるディスク用のデュエルスペースである。

 

「アッチはいつも予約でいっぱいだからね~……あたしたちはコッチでやろう!」

「ええ、まぁ……構いませんが……」

「? どうかした?」

 

 俺の微妙な反応を伺うように、先輩が顔を覗きこんできた。

 この人はやたらと距離が近いなと戸惑いつつ、疑問をそのまま口に出す。

 

「カードを買ってデッキ強化とか、するんじゃないんですか」

 

 ここまで連れてきたということは、そういうコトなのだろうと思っていた。

 俺のはコンビニのパックで揃えた様なデッキだ、お世辞にも強いとは言えない。相手と同じ土俵に上がるには、まず強いカードを手に入れる必要がある筈――なのだが、先輩がここで『強力なレアアード』の購入を勧めてきたならその場で帰ろう。そう考えていた。

 デュエルモンスターズのカードには、プロが使う1枚何万もするようなカードから、小学生のお小遣いで買えるようなモノまである。上を見ても下を見ても、それこそキリが無い。経済力や運で決まるようなゲームに、俺はどうしても熱を見出せない。

 皆が『デュエル』に何の魅力を感じているのか、それが分かれば御の字と先輩の誘いに乗った訳で。結局『強くて高いカードを揃えれば勝ち』というのが先輩の言う『楽しいデュエル』なら、俺は文句の1つでも吐いてやるつもりでいた。

 だが、先輩はただ一言。

 

「? いらないよ、そんなの」

 

 そう言って、にっこりと微笑んだ。

 

「少なくとも今日はね。あとでユウ君が欲しいって思ったなら止めないけど」

 

 予想に反した言葉に、俺は少し面食らっていた。

 

「……なら、いいですが」

 

 負け惜しみのように呟くと、先輩は思い出したように付け加えた。

 

「そうだ、それと今からあたしに対して敬語は禁止、決闘者には上も下も無いからね、あたしもキミのことはユウって呼ぶよ?」

「……はぁ、分かりまし」

「敬語っ」

「……こほん。分かった、これで良いか?」

「うんっ♪」

 

 家族や同級生と接するような口調に戸惑いながらも、先輩の眼力に押されて渋々口調を改める。

 

「それじゃ時間も無いし、始めよっか。デッキを出して?」

 

 言われた通り、俺は自分のデッキを机の上に置く。

 先輩はそれを手に取ると、今度は自分のデッキを取り出して俺の前に置いた。

 

「先輩、何を……」

「もぅ、敬語っ!! 名前名前っ!!」

「……陽依、一体何を?」

「えっとね、ユウはあたしのデッキを使って戦って欲しいんだ。あたしはユウのデッキを使って戦うから」

 

 視線はデッキに落としたまま、先輩――陽依はそんなことを言い出した。

 成程、と思い当たる。陽依は俺との立場を逆転させることで、俺自身の未熟さやデッキの力不足を教えるつもりなのだろう、と。

 そんなことは教えられずとも分かっているのに……と俺は思ったままを口にしようとすると。

 

「一応、最初に断っておくけど。これからやるデュエルは、決してユウやデッキを貶す為のじゃない。そこを分かっていて欲しいんだ」

 

 真剣な声色と不意に向けられた視線に面食らった俺は、ただ黙って頷いた。

 まるで頭の中を覗かれたような、得体の知れない感覚がぞわりと過ぎる。

 

「うん、それじゃ始めようか♪」

「え、ああ……」

 

 彼女の意図は分からぬまま、俺は陽依からデッキを受け取る。

 店中に響く賑やかな喧騒に巻かれながら、そのデュエルは静かに幕を上げた。

 

 

   **

 

 

「……俺は」

 

 正直、先攻1ターン目から何をしていいのやら、サッパリ分からなかった。

 陽依は基本的な使い方すら何1つとして教えてはくれない。ただニコニコと、6枚の手札を眺めて固まる俺の様子を見ているだけだ。

 仕方がないので、長いテキストを1枚ずつ読み通していく。どうやら共通して『デッキからカードを墓地へ送る』効果が付いているようだが、どれが最善の手なのかが分からない。

 確か――デッキの枚数が0になると残りのLPに関係なく敗北してしまう筈だ。ならここはなるべくカードを墓地へ送らないよう、効果モンスターは伏せておくべきか……。

 

「……モンスターを伏せて、ターンエンド」

 

 それにしても、手札6枚が全てモンスターカードなんて運が無いにも程がある。

 相手が俺の弱デッキとはいえ、この調子では……。

 

「ふむ、なるほどね。それじゃ~あたしのターン、ドロー!!」

 

 果たして俺の選択が正解だったのかどうなのか。答え合わせすら無く陽依はカードを引いた。

 

「まずは、手札から《一刀両断侍》を召喚っ」

 

《一刀両断侍》

☆2/風属性/戦士族・効果/ATK 500/DEF 800

 

 あっ、と思わず声に出しそうになった。

 元々は俺のデッキだ、どんなカードがあるかは大体把握している。限定的な状況でしか活躍できず、結局いつも伏せたままやられてしまう弱小ステータスのモンスター……それをこんな美味しい状況で引いてくる。彼女はどうにも、俺には無い何かを持っているようだ。そりゃあきっと、デュエルも楽しいだろう。

 

「一刀両断侍は、裏側守備表示のモンスターをダメージ計算を行わずそのまま破壊出来るっ!!」

「……分かった。ジェインは破壊される」

 

 こっちの気も知らず、陽依は攻撃を宣言してきた。

 俺は黙って、伏せていた《ライトロード・パラディン ジェイン》を墓地ゾーンへと置く。

 

「ところで、知ってるかな?」

「……何を?」

「この子について、だよ。テキストに書いてある『効果』だけじゃなくてさ」

 

 突然。陽依は本でも読み聞かせるように話を始めた。

 

「この子はね、元々はデュエルとは関係ない、テレビゲームに出てくる忍者のキャラクターがモチーフになってるんだ。この効果も『忍者』って設定からきているのかもしれないね」

「……はぁ。そう、なのか」

「ほら、いかにも暗殺って感じしない?」

「……まぁ、言われてみれば確かに」

 

 あのカードにそんな設定があったなんて、始めて知った。

 単なるハズレ用のカードだとばかり思っていたのだが……。

 

「それじゃあ私はカードを1枚伏せて、ターンエンドだよ!」

 

 陽依の魔法・罠ゾーンにカードが1枚伏せられる。

 だが、俺の持っている罠や速攻魔法など数が知れている。恐らく1枚だけでは《一刀両断侍》を守りきれないだろう。なら――。

 

「俺のターン、ドロー。手札から《ライトロード・サモナー ルミナス》を召喚。手札を1枚捨てて、墓地からジェインを特殊召喚する」

 

《ライトロード・サモナー ルミナス》

☆3/光属性/魔法使い族・効果/ATK 1000/DEF 1000

 

《ライトロード・パラディン ジェイン》

☆4/光属性/戦士族・効果/ATK 1800/DEF 1200

 

 手札から捨てたのは今しがたドローしてきたものの、どう考えても邪魔になりそうな『墓地で発動する』効果を持った低ステータスのモンスターカード。これならルミナスの効果に対するコストが無駄にならなくて済む……そこまで考えて、はたと気が付いた。

 

(……俺、デュエルでこんなに色々考えてたっけ……?)

 

 少なくとも、最近の記憶には無い。

 相手の手の内を読んで、コンボを考えて……そんなゲームらしい思考をデュエルでしたのは今日が初めてだ。いつも一方通行、何を考える暇も無く潰されるだけで。

 

「……バトル、まずはジェインで一刀両断侍に攻撃」

 

 だがそれも、こうして強弱のバランスをとってこそ成り立つものだ。昼休みの結果を思い返せば、この瞬間が夢幻であることを知る。やはり最後はカードの強さがモノを言うのだ。

 

「う~……分かった、攻撃を通すよ!」

 

 ジェインの攻撃力は、その効果で300ポイント上昇して2100。

 一瞬悩んだ陽依の様子からしても、アレが《突進》であることは間違いない筈だ。

 

「続けて、ルミナスでダイレクトアタック」

 

 思えば、直接攻撃なんて久方振りだ。

 陽依のLPはこれで1400。次のターンでジェインが直接攻撃できればそれで詰み(チェックメイト)

 カードが強力ならここまでデュエルを楽しめる。それが分かっただけでも御の字、良い経験になった筈だ。それでも俺が――心からデュエルを好きになれないことは変わらないのだが。

 

「……ふふっ」

 

 不意に、陽依がクスクスと笑った。

 どうしようもない俺の弱デッキに呆れたのだろうか?

 

「ちゃんとジェインから攻撃してきたよね? 伏せたカードが《何か》分かったの?」

 

 思いがけない質問に、俺は目を丸くしながらも何とか答えた。 

 

「あ、ああ……まぁ」

「そっか、それなら良いんだ♪ ってゴメンゴメン、まだそっちのターンだったね?」

 

 ……と言っても、俺はこのまま2体を棒立ちさせるしかない。

 そのままターンエンドを宣言すると。陽依がまたもポツリと謳うように漏らした。

 

「ライトロードの共通効果は、エンドフェイズにデッキからカードを墓地に送ること。ジェインが2枚、ルミナスが3枚だよ?」

「……ああ、すまない。忘れていた」

 

 そう。攻撃力や効果が強力な代わり、このライトロードというモンスターはデッキからカードを墓地へ送る『デメリット』が発生する。

 モンスターを2体立たせたのも、このターンなら大ダメージを見込めると思い切っただけに過ぎない。当然、そんな大盤振る舞いの代償は高くつく。

 墓地へ送られるカードは5枚。その中にはライトロードという名前のモンスターの他にも、魔法カードや陽依が使っていた白い龍の姿もあった。

 

「このカードは……」

 

 思わず手にとって、その効果をまじまじと読みふける。

 全てを破壊する強力な効果をもつ最上級モンスター。その召喚条件を見てみると……墓地に4種類のライトロードが存在する事が条件となっていた。

 このカード自身が落ちてしまった今ではどうしようもないことだが、ライトロードが持つ効果の『意味』を唐突に理解する。

 

「そのデッキの動かし方、何となく分かったかな?」

 

 そこでまたもや、俺の頭を見透かしたように陽依が声を掛けてきた。

 

「……デメリット効果で墓地にモンスターを溜めて、このカードの効果で一気に攻める……か?」

「うん、大体正解かな。その《裁きの龍》はね、次元を超えてやってくる正義の味方、《ライトロード》の最終兵器なんだ。ライトロード達はその強力な力を維持する為に、膨大な魔力が必要らしいんだけど……デッキのカードを消費する効果は、そんな設定の再現って訳」

「成程、な……」

 

 理不尽に振われる暴力ではなく、しっかりとした背景があってこその『力』。相手にしたときには見えてこなかった、『彼ら』の姿が浮かんでくるような気がした。

 

「それじゃ、あたしのターンだね! ドローっ!」

 

 陽依は俺が納得したのを見計らったように頷くと、にこやかにカードを引き抜いた。

 

 

   **

 

 

「さて、一戦終えてみてどうだった?」

 

 結果だけを言えば、デュエルは【ライトロード】を使った俺の勝利で終わった。

 使い方すら分からずまごついていたにも関わらず押し切れてしまったのは、やはり個々のカードの性能が段違いだからだろう。

 

「……まぁ、勝てたのだから悪い気はしなかったさ」

 

 笑顔を絶やさない陽依の問い掛けに、俺は正直に答えた。

 

「そっか。ユウにとって、デュエルは『勝つ』ことが大切なんだね?」

 

 そう返した陽依の顔に、落胆の色は無い。

 

「……別に俺だけの話じゃないだろう? ゲームなんてものは互いの優劣を競い、勝敗を決するためのものだ。勝つ以外に目的なんて無い」

「うーん、確かにそういう人もいるけど……皆が皆、デュエルに勝ちを求めている訳じゃないと思うよ? デュエルの中のストーリーを楽しんでる人、知らない誰かと戦うことに楽しさを感じている人……多分だけど、そこに勝敗は関係ないと思うんだ」

 

 何となく、陽依の言いたいことは分かる。

 だが俺は、どうしても敗北する自分に納得がいかないのだ。勝負をするなら『全力』で挑みたい。なのにデュエルは資金という、どうしようもない『不平等』を要求してくる。

 そんなデュエルの在り方は――やはりどうしても受け入れられない。

 

「……負けて喜ぶ奴なんて、いるわけ無いだろう」

 

 搾り出したような俺の声に、陽依は困ったように言葉を返した。

 

「そりゃあ、喜びはしないだろうけど……負けて『悔しい』って思うのと『つまらない』って思うのは、全然違うよね? 次は勝つんだって色々作戦を立てることは、楽しんでるってコトじゃないかな?」

「……それは」

 

 何かを言いかけた俺の口は、次に続いた陽依の声でぴしゃりと遮られた。

 

「でもね、昼間のユウには無かったんだ……負けて悔しいっていう気持ち。今はその逆、勝って嬉しいって気持ちが」

 

 心臓を槍で突かれたような、鈍い痛みが襲う。

 悲しそうな目をしたまま、陽依は続けた。

 

「負けたらそれでオシマイ、カードが弱いから。勝って当然、カードが強いからだって、そんな顔してた。あたしね、何だかそれが勿体無くて……デュエルにはもっと色んな『顔』があるのにって」

 

 俯いた彼女の瞳は、俺の方を向いてすらいなかったが……心の奥底まで見透かされたような、そんな何ともいえない寒さが全身を振るわせる。

 

「デッキを交換したのも、それが理由。デュエルの中に新しい『楽しさ』を見つけて貰えれば良かったんだけど……見つからなかったみたいだね」

 

 陽依の問い掛けに、俺は何も答える事が出来なかった。

 彼女とのデュエルで感じた『楽しさ』は何だったのか。カードが強かったから? 自分が相手よりも優位に立てたから?

 自分の中ですら答えを出せずにいると、陽依はよっと勢いをつけて席を立った。

 

「あはは……今日は時間をとらせてゴメンね? 今日はこの辺でお開きにしよう!」

「え? あ、ああ……」

「また学校で会ったら、今度はあたしがゴチソウするよ!」

 

 そう言い残して足早に去っていく陽依。

 ふとテーブルの上を見ると、彼女の【ライトロード】デッキが置かれたままだった。

 

「おい待て、このデッキ……」

 

 慌てて呼び止めたが、陽依はこちらに振り返りもせず頭の上でひらひらと手を振ると。

 

「ああ、それキミにあげる! 良かったら使ってあげて、キミならきっと『勝てる』よ!」

 

 ふわふわとスカートを揺らしながら、陽依は人混みの中へと姿を消していった。




~むだ茶番~

アンリ「このままずぅっと、あの女とユウ様の思ひ出を見せられ続けるのですの……?」
ベル「震えているッ!? アンリさんが血の涙を流しながら震えているッッッ!!?」

藍「高校生の頃から……随分と育っていたのね?」
クラド「震えているッ!? 姉ちゃんが血の涙を流しながら震えているッッッ!!?」


チーム・アミタイツ「あの、出番まだっスか」


※まだです。
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