遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

53 / 64
コミケに参加された方、お疲れ様でした(白目


第52話 勝つ為のゲーム

 出来る限りの準備はした。

 入学から今まで、手に掛ける事の無かった扉を開け放つ。

 

「…………」

 

 ガラガラ、と音を鳴らす微妙に立て付けの悪い引き戸は、教室に居た皆の視線を一身に集めるには十分な役割を果たした。

 ほんの数秒。ちらりと向けられた視線の束に臆することなく、俺は目的の『席』へと一直線に向かっていく。

 4つ程の机を寄せ集めた、簡易的なデュエルスペース。昼休み(この時間)、いつもここでデュエルが行われていることは耳に入っていた。

 俺の目的が自分達であることに気が付いたのだろう。決闘者である彼らは盤面に戻そうとした視線をすぐさま俺へと向けなおして、ぽかんと口を開けたまま俺が傍まで来るのを見つめていた。

 

「……な、何だよ……?」

 

 この決闘者メンバーの中では中心核である喜多村君が、威嚇でもするように低く唸った。

 無理も無いだろう、自分が打ち負かした無愛想男が鬼気迫る勢いで自分達に向かってきたのだ。復讐(リベンジ)かと身構えてしまうのは至極普通の反応だろう。

 おろおろ、とざわつき始める教室の中で、俺はすっと息を吸い込み――告げた。

 

「……デュエルを、してくれないか」

 

 瞬間。緊張の糸が切れたように、方々から息が漏れ出た。

 

「な、何だ……んなコトかよ……無駄に驚かせんじゃねぇ!」

「す、すまない……」

 

 うがー、と片腕を振り上げて怒る喜多村君に思わず頭を下げる。

 

「あーいや、別に謝んなくてもいいけどさ……つか、俺らは別に構わないんだけどさ、その……お前ってデュエル嫌いなんじゃねーの?」

 

 周りの決闘者メンバー達も、うんうんと首を縦に振って同意する。

 俺は自分から「デュエルが苦手」と宣言したことは無い筈なのだが。ここまで皆の共通認識として広まっているところを見ると、やはり陽依の言っていた『俺の印象』は正しかったようだ。それが嘘になるか誠になるかは、今日このデュエルに掛かっている。

 

「……そういう訳でも。とにかく付き合って貰えるとありがたいんだが……」

「ふーん、まぁいいぜ。俺でよけりゃ相手になってやるよ」

 

 フッと不敵な笑みを浮かべ、喜多村君が向かいの席を指差した。

 俺は素直にそこへ着席すると、デッキを取り出しながら言った。

 

「……すまない。1つ、頼みがある」

「頼み?」

「ああ。もし良ければ……サイドデッキ有りのマッチ戦を受けて貰いたいんだが」

 

 その意味を知る決闘者メンバーは、にわかにざわついた。

 困惑したように、喜多村君も呟く。

 

「ええっと……珍しいんだけどな、そんな対戦形式で戦いたいなんて奴。確かにマッチサイド有りなら、俺がサイドデッキを持っていなけりゃ『ハンデ』になるかもしれねーけど」

「いや、そういう意味じゃないんだ。そっちにサイドデッキがあるなら是非使って貰いたい。そもそも、サイドが無いならこの条件を受けなくても構わない」

 

 俺の言葉に、喜多村君は訝しげに眉を寄せて――直後に、にかっと笑った。

 

「……へっ、いいぜ。その条件受けた! 何考えてるのか知らねぇが、逆にお前の戦略を見てみたくなった!」

 

 そう言いつつ、喜多村君は懐から新たにカードの束を取り出した。

 枚数はおおよそ15枚。紛れも無く、それは彼のサイドデッキだ。

 

「残念だが俺のデッキにはちゃんとサイドがある。それでも戦うか?」

「ああ、むしろ望むところだ」

「言うじゃねーか、後悔しても知らねぇぞ?」

 

 両者が向かい合い、視線が交差する。

 どちらとも無く、雌雄を決する戦いの合図が口を付いて出た。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

……………………

…………

……

 

「やっほ、あれから調子はどう?」

 

 中庭で昼食を取っていた俺に、陽依は気さくに話し掛けてきた。

 

「……どうって、そうだな。まだ勉強中というか」

「ええっ? ライロの動かし方ってそんなに難しかったかな? パターンさえ覚えちゃえば、あとは結構ゴリ押しで……」

「ああ、そのことなんだが――」

 

 懐からデッキを取り出して、しっかりと陽依に手渡す。

 それを見た彼女はきょとんと目を丸くした。

 

「え? これって――?」

「それはアンタに返す。そのデッキじゃ多分、『俺のデュエル』は出来ないと思った」

「何で? キミはデュエルに勝つ事が楽しいんじゃ……」

「……どうにも俺は、ただ勝つだけじゃ満足できない贅沢な性格らしい」

「? どういうこと?」

 

 ますます首を傾げる陽依に、俺はゆっくりと宣言するように言ってやった。

 

「……この間のデュエルがきっかけになって知る事が出来たんだ。相手の手の内を読み、思考を巡らせ、その上で相手を倒す……それが俺の求める『デュエルの楽しさ』だと」

 

 陽依は少し驚いたように目を丸めたが、すぐに嬉しそうに微笑んで「そっか」と短く呟いた。

 

「アンタの組み上げた【ライトロード】で掴んだ勝利じゃ……カードの強さだけに頼った勝利は、俺の求める勝利の形じゃない。どんなに強力なカードを揃えても、きっと俺自身が強くならなければ意味が無い。だから俺は『勝つだけのデュエル』ではなく、『勝つ為のデュエル』をしたい――それが、俺の出した結論だ」

 

 だから、と続けて、俺は懐からもう1つデッキを取り出して言った。

 

「だからそのデッキはアンタが持っていてくれ。いつか俺と、()()()()()が挑みに行くまで」

 

 少し格好を付け過ぎてしまったか、陽依は困ったように眉を寄せていたが――。

 

「うん、分かった。そのときを楽しみに待ってるよ!」

 

 そう言って、陽依は俺の返した【ライトロード】を胸元で握り締めた。

 

……………………

…………

……

 

 あれからデュエルについて研究し、持てる知識とカードを総動員して挑んだのが今日。

 相変わらず懐は寒く、レアカードなど揃える余裕は無かったが――むしろそれで良かったのかもしれない。カードパワーに頼ったデュエルで相手を負かしても、それは俺自身の強さには繋がらないからだ。

 そんな俺の決意に真っ向から立ち向かってくるように、喜多村君がカードを振りかざす。

 そこに遠慮や躊躇など一切無い。

 

「俺は手札から魔法カード《簡易融合》を発動! エクストラデッキから☆4の融合モンスター、《旧神ノーデン》を特殊召喚だ!」

 

《旧神ノーデン》

☆4/水属性/天使族・効果/ATK 2000/DEF 2200

 

 喜多村君の場に出てきたのは、特異な素材を指定する異色の融合モンスター。しかし☆5以下の融合モンスターを1枚で呼び出せる《簡易融合》と組み合わせることで、その汎用性は恐ろしいほど高くなる。

 

「ノーデンの効果を発動、このカードが特殊召喚に成功した時、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を、効果を無効にして特殊召喚する! 俺は☆4の《ライオウ》を特殊召喚!」 

 

《ライオウ》

☆4/光属性/雷族・効果/ATK 1900/DEF 800

 

 墓地から蘇生されたのは、先のターンでやっとの思いで処理した厄介な下級モンスター。

 カードの選出、戦い方からして間違いない。喜多村君は堅実な【メタビート】に近いデッキ構成のようだ。

 

「行くぜ、俺は☆4のノーデンとライオウでオーバーレイ!! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築……エクシーズ召喚、★4《カチコチドラゴン》っ!!」

 

《カチコチドラゴン》

★4/地属性/ドラゴン族・エクシーズ・効果/ATK 2100/DEF 1300

 

 ノーデンからのシンクロ、エクシーズは常套手段だ。自身を起点にして様々なエクストラモンスターを召喚出来る為、高額で取引されていると聞く。だからこそ、無知な俺でもその『強さ』を事前に仕入れる事が出来たのだが。

 

「バトルだ、俺はカチコチドラゴンで伏せモンスターに攻撃!」

「……分かった、《一刀両断侍》は破壊される」

 

 俺の場に伏せられたモンスターは一体のみ。

 喜多村君のエクストラデッキを覗くことは出来ないが、この盤面でカチコチドラゴンを呼び出したのは順当だろう。

 

「相手モンスターを破壊したことで、カチコチドラゴンの効果発動! ORUを1つ使い、続けて攻撃出来る! ダイレクトアタックだ!」

 

【ユウ】LP0

 

 と、いくら思考を巡らせても、最早どうすることも出来ない。

 ライフを削れぬまま、俺は呆気なく第一戦を敗北で飾った。

 

「……参った。俺の負けだ」

「お、おう……」

 

 喜多村君の顔に浮かんだのは、いつかと同じ気まずい表情。

 そんな空気はいつしか周囲に伝染し……俺はずきりと痛む胸を張って、声を張って言い放った。

 

「では続けて2戦目だ。宜しく頼む」

 

 喜多村君(たいせんあいて)の目を、真っ直ぐに見据える。

 サイドを変えたところで勝負にならないかもしれない。今のデュエルの二の舞になるだけかもしれない。だが、ここで諦めるわけにはいかないのだ。

 

「……OK、じゃあサイドチェンジな! 言っとくが手は抜かねぇぞ?」

「ああ、それは覚悟の上だ」

 

 とはいえ、俺が相手ではさして熟考する意味も薄い。

 恐らくはサーチや特殊召喚を妨害するような『いつもなら刺さる』カードを抜いて、汎用性のある除去カードに入れ替える程度だろう。

 だが俺はそうもいかない。乏しいカードの中から十分に吟味し、後は運を天に任せてカードを切るのみ。最後は結局運頼みというのは何とも情けない話だが……それは俺も相手も同じ条件。どちらに天秤が傾いても恨みっこなしだ。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 先攻は俺から。ガラにも無く願いを込めてカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー。手札から《切り込み隊長》を召喚。その効果で同じく手札から《セカンド・ブースター》を特殊召喚する」

 

《切り込み隊長》

☆3/地属性/戦士族・効果/ATK 1200/DEF 400  800700

 

《セカンド・ブースター》

☆3/炎属性/機械族・効果/ATK 1000/DEF 1000

 

「俺は、☆3の切り込み隊長とセカンド・ブースターでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築……エクシーズ召喚、★3《発条機雷ゼンマイン》」

 

《発条機雷ゼンマイン》

★3/炎属性/機械族・エクシーズ・効果/ATK 1500/DEF 2100

 

 俺の持つ数少ないモンスター・エクシーズ。虎の子と言っても良い存在だ。

 優秀な効果を持ちながら安価で入手がしやすいのは、このカードだけでは『決め手』にならないことが大きいのだろう。

 しかしながら妨害の少ない1ターン目でこのカードを召喚できたことはかなり大きい。どうやら運が向いてきたようだ。

 

「クソ、面倒な奴が立っちまったな……!」

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 処理の難しいモンスターと、伏せカードが1枚。

 こちらとしては頼もしくとも、相手からすれば嫌な布陣だろう。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 瞬間。それまでしかめ面だった喜多村君の表情がニヤリと歪んだ。

 

「クックック……来たぜ、そいつを突破するキーカードがな! まずは手札から魔法カード《ブラック・コア》を発動! 手札を1枚捨ててゼンマインをゲームから除外する!」

 

 ガッツを決める喜多村君であったが、周囲からはどこからともなく「あ~……」と同情のような悲痛な声が漏れだした。

 ゼンマインは強力な破壊耐性を持つが、破壊以外の除去手段には成す術を持たない。俺は素直に、ゼンマインを除外ゾーンへと移動させた。

 その性質上、喜多村君のデッキはコンボに縛られず『何を引いても』手札のカードが腐ることは少ない。彼の引きが強いのは勿論だが、相手のデッキが分かってしまえば対策カードをたんまりと詰め込む事が出来るという訳だ。

 

「悪いな、続けて俺は手札から《簡易融合》を発動! 《旧神ノーデン》を特殊召喚!」

 

【喜多村】LP4000→3000

 

 先程と全く同じ展開。

 だが、ここまでは俺も予想の範疇だ。

 

「待った。その瞬間、俺はこのカードを発動させる」

 

 俺は汎用性のある召喚反応罠など持ち合わせていない。

 それは前のデュエルで喜多村君も気付いていた筈だ。だからこそ、このタイミングで罠が発動したことに彼は随分と驚いていた。

 

「罠カード《融合失敗》……融合モンスターが特殊召喚された時に発動し、フィールド上に存在する全ての融合モンスターを融合デッキに戻す」

「なっ――!?」

 

 本来であれば恐らく《奈落の落とし穴》あたりが発動しているであろう場面で。

 俺はどうしようもなくピンポイントな、専用のメタカードを発動させた。

 

「おまっ、ソレ……!?」

「生憎と高価なカードは持ち合わせていなくてな。《旧神ノーデン》を対策するのはこのカードしか手元に無かった」

 

 ノーデンに限らず、融合モンスターには強力な効果を持つものが多い。

 確かに《融合失敗》はいつでも、誰にでも使えるカードではないが……相手の切り札を潰す可能性が無いわけではないのだ。

 

「まぁ、残念ながらノーデンの効果は発動してしまうが……な」

「くっ……!? お、俺は《ブラック・コア》の効果で墓地へ送っていた《ライオウ》を、効果を無効にして特殊召喚するぜ……!」

 

 その厄介な能力が消えたとはいえ、結果として攻撃力1900のモンスターがフィールドへ残ってしまった。

 

「バトルだ、ライオウでプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

【ユウ】LP4000→2100

 

 その一撃を、甘んじて受ける。

 

「メイン2、俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

 これで喜多村君の手札は1枚。

 エクストラモンスターの召喚を防いだことで、辛うじて場に余裕がある。

 

 ――いける、これなら噛み付ける。相手の喉元に。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 舞い込んだのは、思いもかけなかった最良の1枚。

 ふつふつと涌き上がる熱を感じながらも、俺の表情筋はソレを表には出さなかった。

 

「手札から《ブリキンギョ》を召喚し、効果発動。手札の《キャノン・ソルジャー》を特殊召喚」

 

《ブリキンギョ》

☆4/水属性/機械族・効果/ATK 800/DEF 2000

 

《キャノン・ソルジャー》

☆4/地属性/機械族・効果/ATK 1400/DEF 1300

 

 ちらりと喜多村君を伺うと、少し迷ったようだが何かカードを発動させる素振りは無かった。ならばと、俺は手札に手を掛ける。

 

「更に手札から魔法カード《アイアンコール》を発動。墓地から《セカンド・ブースター》を攻撃表示で特殊召喚する」

 

 言うなれば、ここが俺の正念場だ。もしも2枚の伏せカードの内1枚が《激流葬》であれば――掴みかけた勝利は泡沫に消えてしまうだろう。

 だが喜多村君は意外なカードの登場に首を傾げただけで、少し悩んだ末に特殊召喚を見逃してくれた。恐らくは先程の展開からエクシーズ召喚を警戒したのだろうが……残念ながら俺は★4のモンスター・エクシーズなど持っていない。

 

「いいぜ、通す!」

「ならばバトルフェイズだ。ここで俺は手札から手札から速攻魔法を発動させる」

 

 文字通り俺の『切り札』を見た周囲から、おおっと短い歓声が上がった。

 

「なっ……《リミッター解除》ぉ!?」

「これで俺の場の機械族の攻撃力は倍になる……さぁ、どうする?」

 

 機械族で統一された強力なデッキは組めなくても、その代名詞とも呼べる《リミッター解除》だけなら俺のような貧乏決闘者でも手に入れることは出来る。レアカードでなくとも比較的扱いやすいカードが多いのも機械族の特徴だ。相手が見せる一瞬の隙を突くに、コレ以上の適任はいなかった。

 爆発力を上げた場のモンスターが総攻撃を仕掛ければ、ライオウを巻き込んで喜多村君のライフを0にする事が出来る。伏せられたカードの中にミラーフォースやリビングデッドが、手札に冥府の使者が控えていなければ……の話だが。

 

「うぐっ……まじかよ……!?」

 

 だがそんな不安も杞憂のようで、喜多村君は悩みに悩んだ末、場に伏せられていた罠を1枚発動させた。

 

「……《神の宣告》で、リミ解を無効にする!」

「だが、それで喜多村君のライフは半分になる」

 

【喜多村】LP3000→1500

 

 これで詰み(チェックメイト)。心の中でそう呟いた。

 

「メイン2、俺はキャノン・ソルジャーの効果を発動。自身を含む3体のモンスターをリリースし、1体につき500ポイント……合計1500のダメージを与える」

 

 何もライオウを倒す必要など無い。

 相手のライフを0に出来ればそれで良いのだから。

 

「分かってら、俺の負けだよっ!」

 

 観念したように見せてくれた喜多村君の手札には《地砕き》、そして伏せられていたもう1枚のカードは《奈落の落とし穴》だった。

 

「おお、すげぇ……」

「桐崎の奴、あんなデッキで喜多村から一本取りやがった……」

 

 勝った……とはいえ、マッチデュエルとしてはこれで1対1。本当の勝利とは呼べないが……俺の考えたデッキで、戦略で、初めて1勝を飾ったのだ。

 今のはただ、本当に運が良かったとしか言えない。次の1戦ではまた成す術も無くやられてしまうかもしれない。それでも俺は――俺の見つけた『デュエルの楽しさ』を精一杯噛み締めていた。

 

「はー……やられたぜ。まさかこんなにアッサリ負かされるとはなぁ」

 

 そう言う喜多村君は、悔しそうに眉を寄せながらも笑っていた。

 つられて俺も、僅かに口端を上げてしまう。

 

「……まだ、もう1戦残っている。その台詞を貰うのはまだ早い」

「だな。それじゃラスト1戦……最後には俺が勝つからな!」

 

 サイドデッキからカードを入れ替えて、再び向かい合う。

 気が付けば、周囲を取り巻く観客達(みんな)は数を増やしていた。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 昼休み終了のチャイムが鳴るギリギリまで続いた接戦は、宣言どおり喜多村君が勝利を収めたが……俺の心は不思議と満たされていた。

 

 

   **

 

 

「おい桐崎、これから付き合え! カードショップに行くぞ!」

 

 授業も全て終わり、放課後。荷物を纏めていた俺の肩をガッチリ掴んだのは喜多村君とその友達だった。

 

「え……?」

「え、じゃねぇ! あそこまでいい戦いされて『はい終わり』で済むかよ?」

「そうそう。まぁ喜多村だけじゃなく、俺らともデュエルして欲しいなってことだ」

 

 困惑する俺を尻目に、彼らはぐいぐいと俺を引っ張っていく。

 こちらの予定などお構いなしといった感じだが……これまで友達付き合いなどほとんどど無かった俺にとって、彼らの強引さは素直に嬉しく感じた。

 

「……分かった、宜しく頼むよ」

 

 俺が頷くと彼らも気を良くしたようで、腕を振り上げて笑った。

 

「よし、そうと決まれば事は急げ! 西口の『ブルサブ』に出陣だ!」

 

 西口と聞いて、はたと首を傾げた。

 陽依に連れられて行った店は、確か駅の東口にあった筈だ。

 

「……あの辺には2件もカードショップがあるのか?」

「なんだお前、東口の方も知ってんのか? あっちは少し狭い店だし、東口になると遠いからなぁ。ウチの学校の連中はほとんど西口の『ブルサブ』に行ってるんだぜ?」

「そう、なのか……」

「もしかして、誰かに教えて貰ったのか?」

 

 そう言う喜多村君に、俺は頷いて答えた。

 

「ああ、二年の……珠城という先輩に」

 

 その名前を口にした途端、喜多村君達の顔がぴくりと固まった。

 

「……マジ?」

「? ああ、知っているのか……?」

 

 言おうか言うまいか、というように言葉を選びながらも、喜多村君は答えた。

 

「まぁ、な。それこそ『ブルサブ』行ってる決闘者なら一度くらい聞いたことあるだろうぜ。ショップ大会で何度か優勝してるような人だしなぁ」

 

 その話を聞いて、俺は妙に納得してしまった。

 それなりに強い方だとは思っていたが、まさか大会で優勝するような腕だったとは。

 しかしそう感心する俺とは対照的に、喜多村君の表情は曇っていく。

 

「ただ、さ。珠城先輩にはあんまり関わるなって噂でな」

「……それは、一体どういう?」

「あー、それは……」

 

 俺の追及するような視線に耐えかねたのか、言い渋っていた喜多村君は言い難くそうに声を潜めて答えた。

 

「――あの人はデュエルをつまらなくするって。何かクラスでも浮いてるみたいなんだよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。