遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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◆前回までのあらすじ◆

みんな「ここは私達に任せて早く行くんだぁ!!」

ベルとか「ありがとぉ~!!」

みんな「早く行くんだぁぁぁ!!!!」

ベルとか「ありがとぉぉぉ!!!!」

そんなこんなで先に進むことになったそうな。


第59話 それぞれの決闘

 

 ゴーストリック達の騒がしいパレードに紛れ、アンリエールが入り口へと肉薄する。行く手を遮るように伸ばされた紅い鎖をひらりとかわすと、アンリエールは黒いドレスをなびかせてぺろりと舌を出した。

 

「おっと残念、もう少しでしたのに。紅のお猿さん達だと少々見くびっていたようですわ」

「ッ、小娘が……!」

 

 その飾り気の無い狙いは白衣の男達に筒抜けであったが、今はそれでいい。わざとらしく挑発し十数人程いる男達の注意を引くと、アンリエールはDパッドに表示された時刻に目を向けた。

 

(さて……そろそろ、ですわね)

 

 入り口へ突入する『フリ』を続けるのもそろそろ厳しくなってきた。こちらにその気が無いのを勘付かれるのも時間の問題だ。

 もうベル達も突入に成功している頃合いだろうと、クラドから預かった照明弾へと手を伸ばした、そのとき。

 

「朝方に長様に連れられた奴らといい、つくづく気に入らないガキ共だ……」

 

 そんな男の悪態が、ふとアンリエールの耳に入った。

 

「……私達より先に、誰かが中に?」

 

 アンリエールの脳裏に、ふと1人の男の影が過ぎった。

 

「――その『気に入らないガキ』というのは。一体どんな方でしたの?」

 

 あの人なら。

 自分達よりも先に『コイツら』の後を追っていた彼ならば――。

 

 はしたなく甲高い声で叫びそうになる心を抑えてアンリエールが問い掛けると、白衣の男はフッと口端を吊り上げて言い捨てた。

 

「ふん、わざわざ貴様に教えてやる道理など無い!」

 

 言うが早いか。白衣の男が放った紅い鎖がアンリエールへと伸びていく。

 彼女の動きをもってすれば、避けることなど容易いタイミングと距離だった――が、アンリエールは自身へ迫るそれを、微動だにせず左腕で受け止めた。

 

「――そうですの。では、事情が変わりましたわ」

 

 宝刀が鍔鳴りを立て、鞘からその刃を覗かせる様に。黒に金の装飾が施されたアンリエールのDパッドがデュエルモードへと展開していく。

 隙をついて複数の紅い鎖が絡みついていくが、アンリエールは少しも意にも返さず男達に向かって凜と声を張った。

 

「時間を稼いだら見逃して差し上げようと思いましたが……ここは何が何でも突破させて頂きます!!」

 

 

    **

 

 

「博士達……本当に大丈夫でしょうか」

 

 薄暗い石造りの通路を、慌しい足音を響かせながらベル達は駆けていた。

 

「大丈夫さ、アユカワ博士だってあんなに強かったんだぜ? 他の2人もきっと白面の連中なんかに負けやしねぇさ。今はあの人たちを信じよう」

「……はい」

 

 不安そうに呟くベルに、クラドは明るく笑って見せた。当のベルは表情を曇らせたままではあったが、いつまでも後ろを気にしている訳にはいかない。

 今は、自分に出来ることをやり切るだけ。迷いを振り切り、顔を上げたベルが見たのは、先を行く姉弟の立ち止まる背中だった。

 

「2人とも、どうし――」

 

 彼らが見据える先。通路が少し広がり小部屋のようになっているスペースで、立ち塞がるように巨大な人影が佇んでいる。

 その人物にベルは心当たりは無かったが……燐路が唸るように投げかけた声を聞いて、彼らがどんな関係であったのかは容易に想像がついた。

 

「……よぉ。久しぶりじゃねーか、長様?」

 

 ディスクを構え、仁王立ちする巨躯の男――慶爍は、鋭い眼光を向ける燐路からの剥き出しの敵意に一切の感情を挟まず、ただ短く端的に告げた。

 

「この先は通さぬ。どうしてもというのなら私を倒し、押し通るがいい」

 

 姉弟が多くを語るまでも無く、慶爍は全てを理解した上で彼らを『敵』と認識したらしい。そこに一切の温情や躊躇いは無い。

 そんな慶爍の態度に、燐路は獣じみた禍々しい笑みを浮かべて応えた。

 

「相変わらず話が早くて助かるオヤジだ……お望み通りブッ潰してやるよ!!」

 

 まるでそれまでの不満や怒りを一気に浴びせかけるように、燐路が吼えた。

 静かにディスクを構えた煽里も、静かな怒りをその目に滾らせているようだったが……。

 

「……オイ、何のつもりだよ?」

 

 そんな3人の間に、ふらりとクラドが割って入ったのだ。

 不機嫌そうに燐路が唸ると、クラドが呆れたように溜め息をついた。

 

「あのなぁ、お前さん達の目的は三幻魔をぶっ飛ばすコトだろ? こんなのを相手にしてる暇があるならサッサと先に進め。ここは俺がやる」

「なっ……!? クラドさん、何を――!?」

 

 突然の申し出に、ベルも驚きの声を上げた。あれほど「本番は弱い」と言っていた彼が、こんな無茶を受けきれる筈が無い。

 燐路も、怪訝そうに眉をひそめて問い返した。

 

「……それ、本気で言ってんのか?」

「おう。相手が1人なら時間稼ぎぐらいなら出来るさ」

 

 ニッと不敵な笑みを浮かべるクラドに、ベルは責め立てる様に叫んだ。

 

「クラドさん1人じゃ無理です!! わたしも一緒に――」

「おーおー、師匠に向かって随分ナマイキな口をきくようになったなぁ……なんてな。大丈夫、メイドちゃんはこの先でいざって時に2人を助けてやってくれ。博士から預かった十二支柱(アスタリスクス)でさ。そいつは、俺には出来ない仕事だ」

「そんな――!!」

 

 ベルが言い切らないうちに、慶爍が端的に言い放った。

 

「させると思うか? お前達はここで全員、私が止める」

「やれるもんならな――お前ら、目ェ瞑れ!!」

 

 クラドの声にはっと『気が付いた』ベルは、半ば反射的にぎゅっと瞼を閉じた。

 次の瞬間、瞼の向こうでとてつもなく強い光が爆ぜた。

 

「――むっ!?」

 

 アンリエールと藍にも渡していた、お手製の小型照明弾。ディスクに取り付けて連動させていたソレを、クラドが使用したのだ。

 事前にその存在を知っていた3人は咄嗟に思い出し、目を瞑って防ぐ事が出来たが――只1人、クラドが発した言葉の真意を測りかねていた慶爍だけは一瞬、判断が遅れた。

 その一瞬が功を奏し、閃光に怯んだ巨躯の隙間を縫って姉弟が先へと駆け出していく。

 

「おい、ぼさっとすんな!!」

「きゃっ!?」

 

 燐路に手を引かれ、ベルは混乱の中で前へと駆け出していた。

 

「行って来い!! お前らの武勇伝、楽しみに待ってるぜ!!」

「クラドさんっ!!」

 

 まだ不鮮明な視界の中、振り返ったベルの目に見えたのはいつもと同じクラドの頼もしい笑顔。

 今すぐにでも引き返して隣で戦いたい。そんなベルの衝動を何とか抑えていたのは、自分の手を引く燐路から感じる力強い意思と、何よりクラドが身を挺して作ったチャンスを無下にする訳にはいかないという責任感だった。

 

(クラドさん……どうか無事でいて下さい……)

 

 ぎゅっと噛んだ唇から少し鉄の味がして。

 その痛みを強さに変えて、ベルは深淵へと続く道を先へと進んだ。

 

 

    **

 

 

「おし、皆行ったな。とりあえず目標は達成か?」

「……自分を躊躇い無く犠牲にするとはな。我らが同志にも相応しい精神の持ち主だ」

 

 照明弾のダメージが回復しつつあるのか。クラドの左腕には既に紅い鎖が巻きついており、慶爍は多少おぼつかない手つきながらもデュエルの準備を淡々と進めている。

 

「ハッ、冗談。お前らのお仲間なんぞ死んでもゴメンだ」

「なれば貴様にはここで終わって貰おう。実力の程はシガマの大会で拝見している。悪いが貴様に勝機は無い」

「そいつはどうかな。デュエルは始めてみなきゃ分からねぇだろ?」

 

 クラドの答えに、慶爍は鼻で笑って返す。

 

「……そんなものは弱者の戯言に過ぎん。決闘者の実力、デッキの相性、カードの質……デュエルは始まる前から、既に勝敗を決しているモノだ」

「へぇ……ならお前ら悪党の運命も『決している』ってコトだな? 悪を働いてる連中の末路なんざ、大抵ロクなもんじゃねぇ」

「……それこそ下らぬ買い言葉だ。『この世界』に我らを阻む障害(えいゆう)は無い。故に誰にも止められぬ」

 

 慶爍がそう言い切ると、今度はクラドが鼻で笑って返した。

 

「残念だが……ヒーロー(HERO)ならいるぜ? いつの時代も、どの世界にも。だからこそタチが悪いんだけど、な」

「あの『紛い物』のことか。だとすればとんだ買い被りだな、奴は――」

 

 ディスクが点灯し、デュエル開始の合図が鳴り響く。

 

()()()()()、大体な」

 

 クラドの言葉に、ぴくりと慶爍の眉が跳ねた。

 

「――何?」

「だからこそ。破滅の力を私利私欲に使うお前らを放っておけねーんだよ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべたクラドに対して、慶爍は怪訝に瞳を尖らせた。

 

「……貴様、一体何者だ」

「これからぶっ潰す野郎に、名乗る名前はねぇよ」

 

 クラドの言葉が火蓋となって、両者激突の幕は切って上がった。

 

「ならば、力でくで聞き出すまで!!」

 

 握られた手札は5枚。

 勝敗(みらい)を占うカードに目を落とし、クラドは口端を吊り上げた。

 

 

 

「――いいねぇ。俺好みの答えだ」

 

 

 

 

    **

 

 

「気配が濃くなってきやがった……そろそろ近いぜ」

 

 燐路はそう言って顔をしかめていたが、何の力も無いベルにはその『気配』とやらが分からなかった。何となく嫌な感じはしているが、それはココに着いてからずっと感じている嫌悪感だ。化け物の足元に潜入しようというのだから、そんなものは誰でも感じていて当然である。

 

「ここは……?」

 

 歩を進めていくと、やがて大きく開けた空間に出た。

 無数に立ち並ぶ四角柱の石柱。かつて何かの『競技場』であったと推測されたその空間に立ち込めていた瘴気が、3人を押し潰すかのように降りかかる。 

 

(何、コレ……!?)

 

 身体を溶かし、魂を削られていくような異様な感覚。

 明滅する視界の中、ソレを捉えたベルは痛みも苦しみも忘れて思わず叫んでいた。

 

「――ユウさんっ!?」

 

 闇が広がる空間の中で立ち上る三本の光の柱。その中心にある台座の傍で、紅い鎖に拘束された(ユウ)の姿があった。

 こんな場所に長く放置されていればどうなるか――ぐったりとうな垂れたユウの様子から、そんなことは考えるまでも無い。

 

(そんな……まさかもう!?)

 

 可能性は、あった。

 自分たちよりも先に出発した彼が既に白面達と、ヒヨリと接触しているかもしれないと……その『可能性』は、現実に突きつけられた。

 あれこれ考えている余裕など無かった。ベルは重く圧し掛かる瘴気を掻き分け、一目散に駆け出していた。

 

「ユウさんっ!!」

 

 泣き出しそうな声で必死に名前を呼んで、一心不乱に紅い鎖に掴みかかる。

 しかし、非力な女の力で鎖の拘束が解ける筈も無い。ベルは何度も名前を呼びかけながら、祈るようにユウの身体を揺さぶった。

 

「ユウさんっ!! お願いだから目を……目を開けて下さいっ!!」

 

 視界を滲ませるのは、涙なのか瘴気なのか。

 もう何も分からなくなったベルの耳に届いたのは、ユウの擦れた声だった。

 

「……ベル? 何故、お前が……?」

 

 ごしごしと手の甲で涙をぬぐって、ベルはもう一度ユウの顔を確認した。

 僅かではあるが、開いた瞼から瞳をこちらに向けているのが分かる。

 

「良かった、生きて……!!」

「……どうして、こんなところまで来た。早く、ここを離れろ」

「何を言ってるんですか!! 皆ユウさんを心配して――」

 

 と、ベルが言い切る前にユウの身体に巻きついていた紅い鎖がバキンと音を立てて弾け飛ぶ。一体何だと目を向けると、燐路が険しい顔をして伸ばした紅い鎖を手元へと戻しているところだった。

 

「よう、いいザマじゃねーか」

「……貴様」

 

 力無く横たわりながらも、ユウは目の前に現れた『敵の姿』に向かって眼光を刺す。

 しかし直後に放たれた燐路の言葉に、そんな険しい眼差しは唖然として丸められた。

 

「生憎と、今はテメェと話してる暇は無ぇんだよ。おいベル、さっさとソイツを連れて出ろ」

「――何だと?」

「詳しい話はまた後です、今は早くここを出ましょう!」

「そういうこった。さすがに俺も、巫女サマとジジイを同時に世話するつもりはねーからな」

 

 どういうことだと目を向けるユウを、ベルが支えになりながら引き起こす。

 その間も、燐路の視線は一点に向けてジッと向けられていた。

 

 

「やっほー、久し振りだね。リン君にセンちゃん?」

 

 

 視線の先には、いつの間にか台座に腰掛け、両足をぷらぷらと揺らすヒヨリの姿があった。

 

「それと……確か、キミはシガマで会った『持ち主』の子?」

 

 ベルを指差し、ヒヨリは屈託無く嬉しそうに微笑む。

 彼女がこの場にいたこと自体は、この状況を考えればさほど不思議なことではない。

 しかし、だとすればユウをこんな目に合わせたのは――それが分かっているだけに、こんなにも無邪気な笑顔を浮かべるヒヨリを、ベルは許せなかった。

 

「……あなた、なんですか? ユウさんをこんなにしたのは……!」

 

 ベルがそう聞いたのは、せめてヒヨリから何か負い目のようなものが感じられればと思ったからだ。

 2人がどんな関係なのかは知らない。だがユウがこれだけ必死になって取り戻そうとしている『想い人』なら――きっと、こんな酷いことをするのに何か理由があるはずだからだ。

 

「ん~……まぁ、そうなるかな?」

 

 しかし。

 ヒヨリから返って来たのは、何とも呆気ないまるで他人事のような回答だった。

 

「その人達を動けないようにしたのは私だしね。結果的には間違ってないよ」

「その人……達?」

 

 言われて、ベルはようやく気が付いた。すぐ傍にはユーギ=ムトウとオッドアイの双子の1人も鎖で縛られて倒れていたことを。

 

「ユーギさん達、まで……!?」

 

 既に煽里が鎖を砕いて介抱し始めていたが、2人とも意識を取り戻す気配は無い。

 驚くベルを見て、意地悪そうにヒヨリがにっと微笑む。

 

「あれ、もしかして今まで気付いてなかった? ひっどいなー、仮にもその人『デュエルキング』なんでしょ? かわいそう……食べられ損、ていうのかな?」

「……食べ、た? 一体何を――?」

 

 怪訝に聞き返すベルに、ヒヨリは指を振りながら答えた。

 

「三幻魔は、決闘者の『デュエルエナジー』とカードの精霊を食べて大きくなる。この子達は新人さんだから、どうも燃費が悪いみたいだけどね」

「じゃあ、ユウさん達は――」

「そ、幻魔達のご飯になったってこと。まだ喋れる元気が残ってるっていうのは驚いたけど……もうエナジーが少ないみたいだし、次はキミ達に『おかわり』になって貰――」

 

「オイ、クソジジイ共!! 居るんなら出てきやがれ!!」

 

 燐路の上げた咆哮に、ヒヨリは耳を押さえて顔をしかめた。

 

「もー、うるさいなぁ! 急に大声出すのビックリするからやめてよ!?」

 

 そんなヒヨリの言葉になどお構い無しに、燐路は闇に向かって吼え続ける。

 

「お前らの大事な巫女サマをキズモノにされたくなかったら、大人しく出てきやがれ!!」

「うげ……リン君、サイテー」

 

 ヒヨリもジトリと目を垂らす粗暴な煽り文句が、深い闇の洞に響く。

 すると、どこからかしわがれた笑い声が木霊した。 

 

「……ふん、多少力が強いからと甘やかしておったツケが回ってきたかの」

「……糧としての役割も満足に果たせぬばかりか、我らに対して牙を向けるとは」

 

 ぼうっと浮かび上がる、4つの矮躯。

 子供の背丈程であろうソレからは、まるで年輪を重ねた樹木のように重い声が発せられている。その奇妙な光景は、まさしく『怪』という字をそのまま体現していた。

 

「コレは少し、仕置きをせねばなるまいか……?」

「何、幻魔の力を試すには丁度良い供物となろうて」

 

 四方老と呼ばれる彼らの意見は一致したらしく、どこからとも無く紅い鎖が燐路へと伸びた、が――。

 

「……ほう。お前もか、煽里」

 

 伸ばした鎖を遮った『影』に対し、老人が嘆息をつく。

 燐路へと伸びた2本の鎖の内、1本をその左腕に受け――煽里はこつんと小さく音を立てて着地した。

 

「……四方老様、お聞かせ下さい。幻魔は――あなた方の理想は本当に紅の民を救う『未来』と成り得るのですか?」

 

 煽里の糸目が、老人達へと向けられる。

 その瞳の奥に滾る炎は老人達にも見て取れただろう。しかし、しばしの間を置いても彼らからは何の返答も無かった。

 

「その悪魔たちが本当に私達の故郷を喰らったのだとすれば。私にはとても民を豊かにする力があるとは思えません」

 

 感情を抑え、放たれた煽里の問いに――老人達はようやく、分かりきったことをと言わんばかりに溜め息をついた。

 

「我らが取り戻すは『誇り』と『栄光』。それが民の幸というものだ。豊かな暮らしなどその後からいくらでもついて来よう……貴様ら戦士も民も、栄光と誇りの為に身を捧げるべきなのだ」

 

 ダンッ、と石造りの床が踏み鳴らされる。

 老人達の答えに、燐路が再び吼えたのだ。

 

「ゴチャゴチャうるせぇ!! 姉貴はどうだか知らねぇがな……俺らがずっとテメェらの掌の上で転がされてたってのが!! 一番気に入らねぇんだよッ!!」

 

 燐路の啖呵に、煽里はどこか『タイミングを失った』ように肩をすくめつつ……ふぅと小さく息をついてから続けた。

 

「……まぁ、それには私も半分くらいは同意しますが」

 

 姉弟がディスクを構え、老人たちと対峙する。

 そんな彼らの『決定』に慌て出したのは、他でもないヒヨリだ。

 

「あっ、ズルイ!! 先に三幻魔と戦うのは、あたしっ――」

 

 割り込むように、ヒヨリが紅い鎖を伸ばす――が、そんな彼女の前に立ち塞がる影があった。

 ヒヨリが三幻魔との対決を望んでいたように。彼女にもまた、彼女との対決を待ち望んでいた男がいたのだ。

 

「……へぇ、まだ動けるんだ?」

 

 僅かにうな垂れた首を僅かに上げ、前髪の間から黒い瞳を覗かせ、白の騎士が立ち塞がる。

 

「……お前の相手は、俺がする」

 

 感情を抑えた、いつもと変わらぬユウの声。しかし誰が見ても、今の彼は立つのもやっとという状態だ。身体を支えていたベルから離れ、ヒヨリの前に割って入っただけでも殆ど奇跡に近いというのに。

 

「ユウさん、そんな無茶は――!!」

 

 慌てて引き止めようとするベルだったが、もう遅かった。

 決闘者同士が鎖で繋がれた今、その決定権を握る紅き巫女がその眼にユウを捉えたからだ。

 

「……まぁ、いいよ。あっちは順番待ちみたいだし、それまで相手してあげる。その代わり――」

 

 ヒヨリのディスクに火が灯る。葉状の黒いプレート部分が展開し、まるで孔雀の翼のように扇を広げ――その誘いを受けるかの如く、ユウの白いDパッドもデュエルモードへと可変していく。

 

「キミも『全力』で立ち向かってきてくれなきゃ……嫌だよ?」

 

 にこっ、と屈託の無い笑みを浮かべるヒヨリに、ベルは何か薄ら寒いモノを感じた。

 止めようにもデュエルは既に始まろうとしている。しかしいくらユウでも、こんな手負いのままでは勝てる勝負も逃してしまうだろう。

 

 なら今、自分に何が出来る?

 外で戦っている皆から託されたこの身を、どうやって活かす?

 

 ベルが起こした行動は、ほとんど反射的なものに近かった。

 

「ベル、何を――!?」

「無茶をするなら、わたしもご一緒します」

 

 自分の身体をユウの腕の間に滑り込ませると、見た目には小脇に抱えられているような状態になってしまったが――再び、今にも倒れそうなユウの支えになっていた。

 

「……このデュエルは危険だ。俺が何故、お前達から離れたのか分からない訳じゃないだろう?」

 

 優しく説き伏せるように言いながら、ユウは咄嗟にベルを引き離そうとした。

 だが、ベルもしっかりと腰に手を回していて離れようとしない。

 

「分かりません。ソレを言うならわたしが、皆がユウさんをどれだけ心配していたのか……ユウさんは、分からないんですか?」

「…………」

「アンリさんも藍さんも――クラドさんも。今、外で皆戦ってくれています。危険だっていうユウさんの気持ちも分かります、けど……1人きりで頑張っても、いつかきっと倒れちゃいます」

 

 ベルの言葉は、ヒヨリに挑むことすら出来ずに倒れ伏したユウの胸に深く突き刺さった。

 もし、彼女達が自分を追いかけてきてくれなかったら今頃どうなっていたか……目を閉じ、その事実を反芻しながら、ユウはベルの言葉に耳を傾けた。

 

「だから、もっとわたしたちを頼ってください。それとも……わたしってこんなときですら頼りにならないような育て方、されたんですか?」

 

 ふふっ、と少し悪戯に微笑んで、ベルはユウの瞳を覗き込んだ。

 

「……お前は」

 

 幻魔の放つ瘴気の中であっても、決して輝きを無くさない琥珀色の光――ベルの瞳を覗き返したユウは、それを見ただけで十分に分かった。彼女が自分の背中を預けるのに相応しいかどうか、そんなことを考える必要すら無い程、力強く成長していることを。

 

「……分かった、ならもう止めはしない。俺と一緒に戦ってくれるか、ベル」

「はい!」

 

 ユウの言葉に、ベルはすぐさま頷いて返す。

 

「あれ、もしかして1対2? あたしは別に構わないけど……」

 

 そんな2人のやり取りを見ていたヒヨリは驚いた仕草をみせるが、その実さして障害とも思っていない様子だった。

 しかしユウは毅然と、そして静かに言い放った。

 

「……勘違いするな、あくまでお前の相手をするのは俺1人だ。ベルにはただ、満足に動かない俺の身体の代わりをして貰うだけ……そうだな?」

 

 有無も言わさぬ、といった風にユウに見つめられ、ベルは一瞬戸惑ったものの……すぐにこくりと頷いた。

 

「ふ~ん、そっちの方が面白そうだったんだけどなぁ。まぁいいや、早く始めよう?」

「言われなくとも、そのつもりだ」

 

 ん~っと背伸びをしてから、ディスクを構えるヒヨリ。ベルもユウの腕をとり、決闘開始に備えようとして……ふと、自分のデッキから2枚のカードを取り出した。

 

「もし良かったら、この子達も一緒に戦わせてあげてくれませんか?」

 

 そのカードを見たユウは、驚きに目を丸くした。

 青く染まった2枚のカード。それは紛れも無く『アスタリスクス』の名を冠したカードだった。

 

「……それを、どこで?」

「ここに来る前に、ある人から預かったんです。その人も今、外で戦ってくれています」

 

 ヴァルキュリアといい、つくづく『アスタリスクス』に縁がある子だと思いつつ――ユウの脳裏に過ぎったのは、気を失う前に見た禍々しい光景だった。 

 

「こんな大事なデュエルでデッキのバランスを崩す訳にはいかない、っていうのは分かってるんですけど……わたしがこの子達を持ってユウさんと一緒に戦うことになったのは、きっと何か意味があるんじゃないかって思うんです」

 

 何も知らないベルは、アユカワ博士に託された思いを胸にユウへと訴えかけていた。

 どこか不思議な『アスタリスクス』と出会えた自分達には、きっと偶然じゃない『何か』があるのだと。

 

「無理ならそれで構いません、だけど――今はわたしと、この子達を信じてくれませんか?」

 

 ユウとしても彼女を信じたい気持ちがあったが……この世界に再現されようとしていた三幻魔に、まるで力を与えるかのように輝きだした『アスタリスクス』のカード達――果たして、そんな『破滅』を招くようなカードの力に、これ以上頼って良いのか?

 渦を巻く疑念にしばし思考を沈め、ユウは――。

 

(……いや)

 

 纏わりつく黒い靄を振り払うかのように。

 ユウはベルからカードを受け取ると、デッキの中へと何の迷いも無く投入した。

 

(例え『アスタリスクス』が破滅の力だろうと構わない。ベルの言う通り、本当に何か『意味がある』のなら――アイツの強さに届く為に、その力を利用させて貰う)

 

 今はただ、少しでも力が欲しい。

 変わってしまった『師』へ、何故と問う為に。

 

(もし、俺の行いがこの世界に『破滅』を導くなら……『アスタリスクス』が牙を剥くなら。そのときは俺が砕く、それだけだ)

 

 それが彼女(ベル)達を巻き込んでしまった自分の責任だと、そう心に刻んで。

 

「……分かった、ありがたく使わせて貰う」

「……はいっ!」

 

 ベルが嬉しそうにユウの左腕を抱えて構えを取ると、ヒヨリはようやく準備が完了したのかと言わんばかりに満足そうに頷いた。

 

「準備は出来た? それじゃあ……」

 

 グッ、と得体の知れないプレッシャーが圧し掛かる。

 それは恐怖を感じる間も無いほど明確で、純粋な殺意。

 

「楽しいデュエルを、始めよう?」

 

 紅の巫女はこれまでの気楽な口調のまま、遊戯(ゲーム)の始まりを告げた。

 

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