遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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【前回までのあらすじ】
各々は、何か色々とフラグを立ててデュエルに突入したのだった。


第60話 破滅の運命

 喉が焼けそうな瘴気が渦巻く中。

 紅の姉弟が対峙する老人達は、まるで娯楽(ゲーム)を前にした子供のように嗤った。

 

「カカカッ……愚かな、それだけの『力』がありながら、この幻魔の力を推し量ることも出来ぬか」

 

 両者を繋ぐ紅い鎖は既にその役目を果たし、先攻後攻の決定を知らせるアラートと共に各々の右手には5枚の手札が握られている。

 だが――姉弟は既に様々な局面に対して思考を巡らせているというのに、鎖の先の老人達はディスクを構えようともしていない。そんな様子に痺れを切らし、燐路は声を荒げた。

 

「ゴタゴタうるせぇッ!! とっとと構えろ!!」

 

 血の気の多い若輩者に愛想を尽かしたと言わんばかりに深く溜め息をつくと、老人達はようやく『戦意』らしきものを姉弟へと向けた。

 

「……やれやれ。それではちぃと……灸を据えてやるとするかの?」

「主らは2人。ではワシらも2人で挑むとしよう」

 

 そう言って横一列に並ぶ老人達を、燐路が鼻を鳴らして挑発する。

 

「ケッ、2人と言わず4人纏めて来いよ。その方が手っ取り早いだろーが」

「では――お言葉に甘えて、そうするとしようかの?」

 

 そんな燐路の『何も知らない子猿』の鳴き声を聞き届け、老人達は一斉に口端を吊り上げた、その瞬間だった。

 壁を、床を、天井を。好き勝手に渦巻いていた幻魔の瘴気が一斉に老人たちに集まりだし、ここが『海の底である』という事実を冷たく突きつけるような地鳴りが轟いたのだ。

 

(!? 何だ、こりゃ……何かに引っ張られる……ッ!?)

 

 それは恐らく、姉弟の『力』が強かったからこそ耐えられた『暴食』。

 少し離れた場所でヒヨリと対峙していたベルとユウは慌てた様子だったが、倒れたり膝をついたりする様子は無い。だとすれば、コレは――。

 

「なるほどな、コレが俺らを騙し(そだて)た理由ってやつかよ……!!」

 

 紅の鎖を持つ者を糧にした、その目的。身勝手な理想に溺れ、幾万もの人々を犠牲にして成り立とうとしている破滅(ねがい)――。

 

「「「「カカカ!! 潤う……潤うぞォ!!!!」」」」

 

 涌き上がる溶岩の如き憎しみを向ける姉弟の視線の先で、老人達の身体がぼんやりと溶け出し……とても年老いた獣が出せるとは思えない咆哮を轟かせた後、歪な瘴気の光を吐き出した。

 

「――ッ!?」

「チッ、何だってんだ……!?」

 

 紫色の霧が立ち込める。

 かつて4人の矮躯が佇んでいた、その先には……。

 

「「……ククク。まぁ、今の状態ならこんなモノか?」」

「「この僅かな魔力(ヘカ)でこれだけの力なのだ……文句はあるまい?」」

 

 まるで岩壁と見間違うのような、2mを越す筋骨隆々の巨躯。

 そしてその頂点に座していたは――僅かに老人達の面影を残す若い男()の双頭だった。

 

「……ケッ、気色わりぃ」

「あのようなモノが、現実に――!?」

 

 真正面で対峙する姉弟は、冷静を装いながらも戦慄していた。いくら老人達が妖しげな力を持っていても、所詮は人間……その考えは既に彼方へと飛び去った。

 

 もはやアレは、人間ではない。

 

「な、何……あれ……っ!?」

 

 その姿を見たベルとユウも、おぞましげに一瞥したが――彼らと対峙するヒヨリはケロリとした様子で、何とも無いように声を掛けた。

 

「さっ、早く始めよう? 融合召喚(みせもの)はもう終わったでしょ?」

 

 下らぬ芸だと言わんばかりに、そう『微笑み捨てる』ヒヨリ。

 その笑顔がきょとんと丸くなったのは、刹那の瞬間だった。

 

「――お?」

 

 ぐらり、と足元が泥のように柔らかく歪む感覚。

 

「お、おおっ!?」

 

 恐らく、今の衝撃で地盤が緩んだのだろう。

 元々デリケートだった遺跡の足場が崩壊し、ベル達3人が落下していると知ったのは宙に放り出された後だった。

 

「――き、きゃあああっ!?」

 

 ユウは咄嗟にベルの体を抱きかかえ、自分の体を下へと向けたが――3人はどこへ向かうのかすら分からぬ暗闇の中に飲み込まれていった。

 

「ベルッ!? チッ、クソが……!!」

「「……フン、案外呆気の無いものだ」」

 

 ヒヨリの身だけは惜しかったのだろうか、僅かに眉を潜めた双頭の男達であったが――仕方なしとばかりに小さく嘆息を漏らす。

 

「テメェら……!!」

 

 刹那の中で起きた惨劇に、しかし燐路は憎しみを更に燃え上がらせた。

 同胞の死に痛める心など既に持ち合わせていない。だが――気に入らない。老人達の、目の前の奇怪な男達の全てが、ただ気に入らないのだ。 

 

「「ククク……何をそんなに怒ることがある?」」

「「今更人の死を嘆くなど滑稽も良いところだ……まぁ、良い」」

 

 そんな燐路の反応に何か興味を引かれたのだろうか。

 双頭の男達はその生に溢れた眼を輝かせ、告げた。

 

「「では、ゆくぞ……デュエルだ!!」」

 

【燐路・煽里】LP8000 VS 【四方老】LP8000

 

「「まずはワシのターン……フン、どうやら幻魔も暴れたがっているようだ」」

「ケッ、中身ジジイのバケモンが何カッコつけてんだ。頭まで筋肉になって退化したか?」

 

 ここで初めて手札に目を通した双頭の男は、ニヤリと口を歪ませる。

 指を立てて挑発する燐路を意にも介せず、双頭の男はどこか優雅な仕草をもってカードをディスクへと滑らせていく。

 

「「ワシはカードを2枚伏せ、モンスターをセットし……ターンエンドだ」」

 

 何が起こるのか、と身構えていた姉弟だったが……凡手と言わざるを得ない男の1ターン目に燐路は怒りすら駆立てられた。

 

「……ケッ、何かと思えばクソみてーな先攻打ちやがって。幻魔の力ってのはその程度かよ」

「「……ッカカ、吼えるな。その矮躯が余計に小さく見えるぞ?」」

「ッ――舐めやがって、俺のターンッ!!」

 

 火花を散らす勢いで引き抜かれた燐路のドローカードは、何かの確信と共に手札に加えられ――燐路は既に構築していた勝利への道筋にカードを走らせた。

 

「手札から魔法カード《炎熱伝導場》を発動!! デッキから《ラヴァルのマグマ砲兵》と《ラヴァル炎火山の侍女》の2体を墓地へ送る!!」

 

 墓地へモンスターを大量に送り込み、一気に『噴火』させることで展開するラヴァル。それを最高とも言えるスタートで飾った燐路だったが、燃え上がる烈火は留まることを知らない。

 

「そして墓地へ送られた侍女の効果を発動!! このカードが墓地へ送られた時、自分の墓地に《ラヴァル炎火山の侍女》以外の『ラヴァル』があればデッキから『ラヴァル』モンスター1体を墓地へ送る事ができる!! 俺は2枚目の侍女を墓地へ送る!!」

 

 侍女の効果に『1ターンに1度』という制約は無く、この手順は枚数が許す限り連鎖していく。そして、燐路の墓地にはあっと言う間に――。

 

「2枚目の侍女の効果発動!! 同様に3枚目の侍女を落とし、最後にその効果で《ラヴァルのマグマ砲兵》を落とす!! 更に魔法カード《真炎の爆発》を発動!! 自分の墓地から守備力200の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する!! 俺は5体のラヴァルを特殊召喚ッ!!」

 

 燐路の咆哮と共に、墓地を司る紫の魔法陣から紅蓮の炎が噴出し――眩いばかりの熱量と輝きを持った炎を背景に5つのシルエットが浮かび上がった。

 

《ラヴァル炎火山の侍女》

☆1/炎属性/炎族・チューナー・効果/ATK 100/DEF 200

 

《ラヴァル炎火山の侍女》

☆1/炎属性/炎族・チューナー・効果/ATK 100/DEF 200

 

《ラヴァル炎火山の侍女》

☆1/炎属性/炎族・チューナー・効果/ATK 100/DEF 200

 

《ラヴァルのマグマ砲兵》

☆4/炎属性/炎族・効果/ATK 1700/DEF 200

 

《ラヴァルのマグマ砲兵》

☆4/炎属性/炎族・効果/ATK 1700/DEF 200

 

「俺は☆4のマグマ砲兵2体に、☆1チューナー炎火山の侍女をチューニングッ!!」

 

 炎髪の少女が祈りを捧げ現れた緑輪が、2体の屈強な岩砲兵を束ねていく。

 

「天上天下、唯我独尊!! 絶望の魔槍よ、ムカつく奴らをブッ殺せ!!」

 

 パキパキ、と熱せられていた空気が凍てついていく。

 身を裂くような暴風と共に雄叫びを上げたのは、三つ首の巨竜。

 

「シンクロ召喚ッ!! 《氷結界の龍 トリシューラ》!!」」

 

《氷結界の龍トリシューラ》

☆9/水属性/ドラゴン族・シンクロ・効果/ATK 2700/DEF 2000

 

 現状の燐路のデッキの中で、最も強力なシンクロモンスターがフィールドに降り立った。

 だが、正確に言えばまだ分からない。伏せられたカードの内どちらかが召喚反応罠である可能性は十分にあるからだ。だからこそ燐路は早々にトリシューラを召喚した。

 

(召喚反応罠を使ってくればそれでいい、もしそうでないなら儲けモンだ――)

 

 相手にしてみれば、場と手札を含めカードが6枚しか無いというこの状況であれば、場はおろか手札のカードを除外してくるこのカードの召喚は確実に止めてくる筈だ。

 

 奈落か、激流か。そのどちらかならトリシューラの効果までは防げない。

 鬱陶しい《神》が何か口を挟むなら、その多大なコストを道連れに出来る。

 

 手札に《エフェクト・ヴェーラー》があるかもしれないが、それならそれで構わない。先にコチラの双頭を疲弊させておけば、それだけ姉の煽里が動きやすくなる。

 

(さぁ……どう来る……?)

 

 燐路がこのとき冷静であったなら。あるいは、ほんの少しでも【三幻魔】について知識があったなら――結果は少し変わっていたのかもしれない。

 だがそれも所詮は可能性の1つ。決定付けられた運命は、そんな些細な可能性など無情に塗り替えていく。

 

「「愚かな……この瞬間、ワシはリバースカード《デモンズチェーン》を発動!! トリシューラの効果と攻撃を封じる……!!」」

 

 想定の外から『何故か』外れていた、最悪のカードが氷龍の前に立ち塞がった。

 効果を封じ、かつ攻撃も封じる……トリシューラはこの時点で、少なくとも『アドバンテージ』を取る事が出来ないデクの棒と成り果ててしまったのだ。

 

(チッ、よりによって厄介なモンを……)

 

 頭に血が上り過ぎていたのか?

 何でこんな可能性すら見通せなかったのか?

 そもそも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「燐……」

「ッ、まだ終わりじゃねぇ!! 俺は手札から《フレムベル・パウン》を通常召喚!!」

 

《フレムベル・パウン》

☆1/炎属性/炎族・効果/ATK 200/DEF 200

 

 弟の様子がおかしいことに気が付いたのだろう、煽里は声を掛けようとしたが、燐路はソレを振り払うかのように新たに炎を纏う猿のモンスターを召喚した。

 

「シンクロだけが能じゃねぇぞ!! 俺は☆1の《フレムベル・パウン》と《ラヴァル炎火山の侍女》2体でオーバーレイ!! 3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!!」

 

 炎を纏う3つの魂が飛び上がり、螺旋を描いて宙を昇る。

 その眼下に渦巻くは、まるで水面のような虹色の輝きを放つ。

 

「熱き闘志の雄叫びが、眠れる魂すらも震わせる……エクシーズ召喚!! 現れろ、《No.54》ッ!!」

 

 光の爆発中、刻まれる『54』刻印。

 フィールドに現れた心臓を思わせる真紅のオブジェは、脈打つ鼓動と共にその牙を、腕を成し――金色の鬣をなびかせる灼熱の獣闘士へと姿を変えた。

 

《No.54 反骨の闘士ライオンハート》

★1/地属性/戦士族・エクシーズ・効果/ATK 100/DEF 100

 

「「フン、《No.》か……」」

 

 つまらなそうに鼻を鳴らす双頭の男だったが、それ以上のアクションは無い。ならばと燐路はお構いなしに攻撃宣言へ突入した。

 

「ただじゃ転ばねぇ……バトルだ!! ライオンハートで裏側守備表示のモンスターを攻撃ッ!!」

 

 たった攻撃力100のモンスターではあるが、その拳は正体不明のモンスターへと何のためらいも無く叩きつけられた。

 何故ならば、ライオンハートにはORUを消費することで相手に戦闘ダメージを反射できる効果があるからだ。

 例え守備力が高いモンスターが壁として伏せれれていたならむしろ好都合――しかし、そんな燐路の思惑はまたしても外れることとなる。

 

「「カカカ……伏せられていたのは《ファントム・オブ・カオス》、その攻撃によって破壊される。良かったのぅ?」」

 

《ファントム・オブ・カオス》

☆4/闇属性/悪魔族・効果/ATK 0/DEF 0

 

「なっ――!?」

 

 裏返った黒い塊のようなモンスターが破壊され、燐路が驚きの声を上げた。

 ファントム・オブ・カオスは墓地のモンスターを除外することで能力をコピーするモンスターだ。

 例えダメージを受けるにしても、1ターン目から壁として伏せるのはあまりにも稚拙なプレイング。伏せに《デモンズ・チェーン》があったなら尚更と言える。

 

「……俺はこれで、ターンエンドだ」

 

 相手の狙いが掴めないまま、燐路は歯を鳴らしながら仕方なしに呟いた。

 燐路のターン終了を受け、今度はもう1人の双頭の男が動き出す。

 

「「ワシのターン。ドロー……カカカ、魔法カード《手札断殺》を発動!! お互いに手札を2枚捨て、2枚カードをドローする……さぁ、お主も捨てて貰おう」」

「チッ…2つに増えてうるせぇ口だな」

 

 何が面白いのか、効果処理の最中も双頭の男はニヤニヤと顔を歪めて燐路の顔を眺めていた。まるで羽虫を弄ぶ幼子のような、純粋な悪意を滲ませながら。

 

「ほらよ、効果処理は終わったんだ、さっさと――」

「「なれば、ワシはカードを3枚伏せてモンスターをセット、ターンエンドだ」」

 

 何を展開するでもなく、またしても場に罠を増やしただけ。

 どちらかが守りを、どちらかが攻めを担当しているわけでもない。あっさりターンを受け渡してきた双頭の男達に、燐路は思わず聞き返した。

 

「――何だと?」

「「聞こえんかったか? ターンエンドだ。お主はその年で大分耳が遠いようだな」」

「生憎と、俺はテメェらみたく無駄に4つも付いてねぇからな!!」

 

 だが、何にしろこれはチャンスだ。

 次のターンで煽里が魔法・罠を一掃できる何かを打つ事が出来れば……いや、例えそれが叶わずとも、こちらがモンスターで圧殺する手段の方が罠の数より圧倒的に多い。向こうの展開速度を考えれば、もう勝利したも同然だ。

 

「飛ばせよ、姉貴」

 

 弟のそんな短絡的な思考を感じ取ったのか、煽里は短く溜め息を付いた後、運命の第一手を引き抜いた。

 

「私のターン、ドロー……私はフィールド魔法《炎王の孤島》を発動」

 

 暗黒の瘴気に塗れた海底遺跡の底が一転、ひと時の幻想によって周囲の景色が南海の孤島へと姿を変えていく。しかし、その空はどういう訳か重く、鉛色にくすんでいた。

 

「その効果により手札の《炎王獣 ヤクシャ》を破壊し、デッキから《炎王獣 バロン》を手札に加え、更に手札で破壊されたヤクシャの効果を発動。手札の《炎王神獣 ガルドニクス》を破壊、墓地へ送ります」

 

 孤島の火山が唸りを上げ、真っ赤な血潮を吹き上げる。

 その貰い火を移していくように、煽里の手札は次々と炎に巻かれ破壊されていく。

 

「手札から通常召喚、《炎王獣 バロン》……何も無ければターンを続行します。バトル、バロンで伏せモンスターを攻撃」

 

《炎王獣 バロン》

☆4/炎属性/獣戦士族・効果/ATK 1800/DEF 200

 

 地を揺らし、赤肌の獣戦士が鼻息を鳴らしてフィールドへと降り立つ。持ち主から静かな怒りの炎を貰い受け、彼の拳は何の抵抗も無く伏せモンスターに叩きつけられた。

 反転し、甲高い断末魔を上げて墓地へと沈んでいったのは……またしても低ステータスのモンスターだった。

 

《サクリファイス・ロータス》

☆1/闇属性/植物族・効果/ATK 0/DEF 0

 

「……手札から速攻魔法《炎王炎環》を発動。場のバロンを破壊し、墓地からガルドニクスを特殊召喚します」

 

《炎王神獣 ガルドニクス》

☆8/炎属性/鳥獣族・効果/ATK 2700/DEF 1700

 

 赤銅の獣戦士が命を散らせ起こした紅蓮の粉塵の中を舞い、不死の炎翼が輪廻を祝福するように咆哮を上げる。その鋭い眼光はすぐさま、目の前の『敵』へと向けられた。 

 

「……攻撃反応罠も無し、ですか。これならば貴方達よりも教養のある決闘者を知っています。先程地の底へ落ちていったあの子達の方が……余程」

 

 炎王の神が翼を広げ、太陽と見間違うほどの輝きを放つ。

 開かれた嘴に収束する炎の標的を定め、煽里は腕を振り下ろした。

 

「バトル、ガルドニクスでダイレクトアタック――!!」

 

 

   **

 

 

「さて……早いトコ終わりにしようぜ? ああは言ったが、あの姉弟じゃ幻魔の力にどこまで持ちこたえられるかわからねぇしな」

「……見かけによらず冷血な男だ。追い込まれているのは貴様の方であろう?」

 

 そう言うクラドに慶爍は「何を言い出すかと思えば」と鼻で笑って返した。

 フィールドを見れば、既に慶爍(じぶん)のカードが所狭しと展開されている。【炎星】の特徴とも言える《炎舞》はそれぞれ《天キ》《天枢》《天権》の3枚が発動され、場の『炎星』モンスターは攻撃力を500ポイントアップさせている。

 

《炎星侯-ホウシン》

☆6/炎属性/獣戦士族・シンクロ・効果

ATK 2200→2700

 

《炎星皇-チョウライオ》

★3/炎属性/獣戦士族・エクシーズ・効果

ATK 2200→2700

 

《魁炎星王-ソウコ》

★4/炎属性/獣戦士族・エクシーズ・効果

ATK 2200→2700

 

 加えて、切り札らしき《スクラップ・ツイン・ドラゴン》も先のターンで葬ったばかり。何か策を講じているにしてもクラドの手札は2枚と何ともか細い線だ。

 それに比べて、慶爍の手札には仮に《ブラックホール》と《ハーピィの羽根箒》を受けても再び優位な場を構築できるだけのカードが握られていた。

 

「――終わりにするのは私の方だ、貴様には既に希望など無い」

「さぁて、そいつはどうかな?」

 

 これだけの戦力差があって尚「ハッタリ」を装い続ける(クラド)に、慶爍は僅かに哀れみの色を覗かせる。 

 

「強がりはよせ。貴様のような力無き者達こそ、我々が作り上げる『デュエル無き世界』で生きれば良いのだ」

「デュエル無き世界……ね。そんなモンが本当にあるなら、俺も賛成だけどな」

「……ほう?」

 

 予想外の返答に、慶爍は興味深そうに聞き返した。

 この男(クラド)が何を知っているのかは分からないが、上手く丸め込めば同志として取り込むことが出来るかも知れない。そんな考えを過ぎらせた慶爍に向けられたのは、冷たく深い怨恨に濡れた、得体の知れないナニかの眼光だった。

 

「――だけどな。お前らが言うその『理想』はあくまでお前らの都合の良い世界ってことだ。それは結局、デュエルが招く『破滅』の1つに過ぎねぇんだよ」

 

 その、まるでこの忘却の青(アトランタ)の下で眠る泥のような怨嗟は、慶爍個人に向けられているものではなかった。彼が憎しみを向けるのは、特定できる『誰か』ではなく、もっと先にある漠然としたモノ――。

 背筋を鷲づかみにされそうな悪寒を振りほどき、慶爍が反論を掲げる。

 

「デュエルが招く破滅、だと? 確かに幻魔の力は人に災いをもたらすモノだ、だがそれはより良い未来に進むための一時的な試練に過ぎぬ。それが破滅と言うのなら貴様の――」

「仮にお前らの望み通りに事が運んだとして。その『先』を想像したことはあるか?」

 

 慶爍の『理想』は、クラドの声に遮られた。

 

「その先、だと?」

「仮に幻魔がデュエルモンスターズを喰い尽くしたとしてだ。本当にソレで全てが終わると思うのか? お前らが天下を取ったその後は? 何も無いって、そう言い切れるのか? デュエルモンスターズが行き着く『先』は、そんな優しいモンじゃねぇぞ」

 

 クラドは目を閉じながら、どこか皮肉めいた口調で続けた。

 

「永遠に続く闇に飲まれる破滅(みらい)。行き過ぎた加速(シンクロ)が招く破滅(みらい)。異世界が衝突し消滅する破滅(みらい)……どれもこれも、この世界で生きる俺らにゃ想像すら出来ないぜ?」

 

 理想を求める慶爍には理解すら出来ない話に閉口していると、クラドは少し間を置いてから何か思い出したように呟いた。

 

「……なぁ、アンタ。ミツバチの話知ってるか?」

「貴様……ふざけているのか?」

「ユートピアにはミツバチの巣を襲って食い散らかす『スズメバチ』って大型の蜂がいてな。ときには人間だって襲う凶暴な連中なんだが……ユートピアで育ったミツバチは、昔からコイツらに何度も襲われたせいでちゃんと『対処法』を持ってんだ。自分たちの巣を見つけた『スズメバチ』の偵察を、集団で取り囲んで『熱殺』する……自分たちは死なず、かつスズメバチだけが死ぬような熱に調節してな。偵察の口を封じちまえば、後から本隊が来ることも無ぇからな」

「……脈絡も無く、一体何の話をしている」

「まぁ聞けよ。んで、そのミツバチなんだが……例えば他の大陸から持ってきた『よそ者』のミツバチをユートピアで繁殖させるとだ、『スズメバチ』の対処法が分からない『よそ者』のミツバチは成すすべなく全滅しちまうらしい。その逆も然りだな、ユートピアから『スズメバチ』が他の大陸に流れたら一体ミツバチはどうなるか……」

「何が言いたいッ!!」

 

 痺れを切らした慶爍が声を荒げると、クラドは嘲笑を浮かべながら答えた。

 

「――俺らも『よそ者ミツバチ』も同じってコトさ。本来遭遇する筈の無かった『スズメバチ(はめつ)』に対しての対処法が分からない。来るべき脅威に対して何の免疫も持ってないんだ。アンタだって知らない訳じゃねーんだろ、デュエルが異世界から持ち込まれた異物だってことくらいは、さ?」

「…………」

 

 押し黙る慶爍に、クラドは畳み掛けるように言葉を投げかける。

 

「俺の言いたいことは分かるだろ? 俺たちが『よそ者ミツバチ』ならデュエルが招く破滅は『スズメバチ』だ。アンタらにも何となく想像がついたろ? アンタらが『一匹のスズメバチ』を手懐けたとしてだ、その向こうに何千、何万の破滅(どうほう)が潜んでいると思う?」

 

 両手を広げ、クラドはやれやれと深く溜め息をつく。

 

「デュエルモンスターズは素晴らしい、大いに結構じゃねーか。けどな……デュエルが向かう先には必ず『破滅』が伴う。『オリジナルの世界』じゃどんな破滅だろうが何度も『英雄(めんえき)』が押し返してくれたんだろうな。だがそれをアンタらに、俺たちの世界の『英雄』に同じ役目を任せられるのか?」

 

 慶爍にとって――僅かながらこの世界の成り立ちを知る者にとって、クラドの言葉はどこか現実味を帯びていたが、理想の為に全てを捨てた彼にソレを認めることは許されなかった。

 

「……この世界でデュエルが蔓延ったことで世界が崩壊すると? 下らぬ!! 何を根拠にそんなことをのたまう!?」

「根拠ならあるさ。俺はその『破滅した未来』からわざわざ戻ってきたんだから」

 

 その言葉に、慶爍は愕然と目を見開いて聞き返した。

 

「……まさか貴様、《時械神》の力を――!?」

「残念だが、ありゃもう俺の上司が使っちまってる。時間旅行をしたいなら他所をあたってくれ」

 

 ガラガラと崩れる何かが慶爍の胸の内で音を立てる。

 その怒りの衝動がクラドに向けられると同時に、タイムアップで慶爍のターン終了を告げるブザーがディスクから鳴り響いた。

 

「……っと、話が長くなったな。俺のターン、手札から《スクラップ・コング》を通常召喚!」

 

《スクラップ・コング》

☆4/地属性/獣族・効果/ATK 2000/DEF 1000

 

 先のターンで破壊された《スクラップ・ツイン・ドラゴン》の残骸である鉄屑が集合し、屈強な猿獣の形を成した――かと思えば、ソレは即座に爆破し弾け飛んだ。

 

「このカードが召喚に成功した時、このカード自身を破壊する。こいつが破壊され墓地へ送られた場合、墓地から『スクラップ』モンスターを手札に回収出来るが……今は後回しだ。今は『コイツ』を出してやらないと、な」

 

 クラドの口端がニヤリと吊り上る。

 スクラップ・コングが爆散した中心に、何か他とは毛色の違う鉄の塊が浮いていた。

 

「自分場のモンスターが破壊されたとき、手札からコイツを特殊召喚できる」

 

 光沢のある銀色を放つをその鉄塊は、1つ2つと数を増やしていく。

 モンスターの効果破壊をトリガーとして特殊召喚されるモンスター……慶爍が知るソレは《森の番人グリーン・バブーン》というモンスターだったが、そのモンスターの召喚時にこんな不気味な演出は挟まれなかった筈だ。

 ならば……このモンスターは何だ?

 

「何だ、こいつは……」

「――破滅のカタチ(スズメバチ)の、その内の1つさ。皮肉なモンだろ?」

 

 鉄塊の『眼』が開く。

 その奥で輝く、緑色のコアの光に浮かび上がったのは『∞』のシンボル。

 5つの鉄塊は列を成して飛び上がり――やがて1つとなって重なった。

 

 

 

《機皇帝ワイゼル∞》

☆1/闇属性/機械族・効果/ATK 2500/DEF 2500

 

 

 

 片腕に刃を携えた、『スクラップ』達の形状とは程遠い流線の機械巨人が紅く眼を光らせる。巨人に見下ろされた慶爍は、原始の恐怖に突き動かされ一歩ずつ後退していく。

 

「馬鹿な……これが《機皇帝》だと!? 何故、貴様がソレを……!!」

「何故も何も。アンタらと同じようなコトをした結果さ。間に合わなかったから、こうして戻ってきてるんだけど……な」

 

 ぴたり、とクラドの指が標的を定める。

 

「ワイゼルの効果発動。1ターンに1度、相手のシンクロモンスター1体を装備カードとしてこのカードに装備する……『シンクロ・アブソーブション』!」

 

 ワイゼルの胸部から解き放たれた無数の緑光が、まるで触手のように《ホウシン》を絡めとり、そのまま胸部へと取り込んでいく。

 

《機皇帝ワイゼル∞》

ATK 2500→4700

 

「ワイゼルの攻撃力は、この効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。バトルだ、ワイゼルで《ソウコ》に攻撃!」

 

 敢然と構える猛将へ、鋼鉄の巨人が炎を纏った刃を振り上げる。

 だが、未知の恐怖を前にしたとしても慶爍とて決闘者だ。すぐに伏せていたカードを発動させ迎撃を試みる。

 

「クッ……ダメージステップに速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動!! この効果で装備カード扱いとなった《ホウシン》が無力化されれば、例え機皇帝といえど――」

「残念だけどな、その効果は無効だ。ワイゼルは1ターンに1度、相手の魔法カードの発動を無効にして破壊する。更に俺は、この効果にチェーンして手札から速攻魔法を発動!」

 

 慶爍が手に持つ《聖槍》のカードが砕かれると同時、ワイゼルの炎を纏った刃に更に緑光のラインが葉脈のように浮かび上がる。

 

「……リミッター、解除だと……!?」

 

《機皇帝ワイゼル∞》

ATK 4700→9400

 

 全ては運命の流れの中で。

 破滅(スズメバチ)の一撃は、理想の中に浮かぶ一人の男を軽々と葬った。

 

「……悪ぃな、オッサン。これが絶望ってやつだ」

 

【慶爍】

LP4000→0

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