遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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◆前回までのあらすじ◆
・クラドの兄貴、蜂の話を始める。
・三幻魔ズ、初出勤。
・狐面の姉弟 死す!!

◆ご注意◆
だいぶ前に組んでたデュエルプロットで、最近(と言っても結構前)に禁止になった『あのカード』が登場します。組み直してる時間が無かったのでアレがアレなのですがご了承下さいませ。


第62話 必然のドロー

「……っ!?」

 

 ズン、と重たい衝撃に身体を揺らされて、ベルは目を覚ました。

 何事かと辺りを見回すと、何やら薄暗い中にぼんやりと無骨な岩肌のようなものが見えた。

 

「おおっ、結構揺れたねぇ」

 

 突然投げ掛けられた声に、ベルはハッとして振り返った。

 声の方向を見れば、にっこりとヒヨリが笑みを浮かべていた。

 

「おはよ、起きたみたいだね?」

 

 ここはどこだと、かすかに痛む頭を働かせて記憶を遡る。

 そうだ。確か自分は、あの祭壇らしき場所から落ちて――。

 

「ここは――?」

「んー、遺跡の最深部……とかじゃないかなぁ? 脱水も終わってないみたいだし」

 

 ベルが問い掛け終わる前に、ヒヨリはそう言って足元の泥をピチャピチャと弄って見せた。

 あれだけの高さから落ちて、なぜ無事で済んだのだろう。

 と、ヒヨリが不意にベルの隣を指をさした。

 

「とりあえず、隣の彼も起こしてあげたら?」

「え……?」

 

 何のことかと、間の抜けた声が漏れ出す。

 ゆっくりと視線を向けたベルは、すぐ側にユウの身体があったことに驚いた。

 

「ゆ、ユウさんっ!?」

 

 ユウはぐったりと体を横たえていて、その様子からは「生」がとても希薄に感じられた。

 ベルは慌てて身体を揺すったが、そんなベルを見てヒヨリはくすりと笑みを浮かべて言った。

 

「あはは、大丈夫だって! 落ちたっていっても大した高さじゃないし。それよりも幻魔にかじられて元々フラフラだったから、心配するのはそっちの方じゃないかな?」

「大した高さじゃない、って……」

 

 あの、心臓を掴まれるようなひやりとした感覚を思い出しながら、ベルは僅かに語調を強めた。少なくとも、気楽に「大丈夫」なんて言える高さではなかったのは確かだ。

 それでもヒヨリは小首を傾げつつ、幼子を言い宥める母親のように言葉を返した。

 

「ミドラーシュが消えたのはあの辺りだったし、死んじゃうような高さじゃないって」

「ミド、ラーシュ……?」

 

 ヒヨリの口をついて出たのは何故か、聞き覚えのある『カード』の名前だった。

 

「それって、もしかして――?」

 

 怪訝なベルの視線に、ヒヨリはむんと胸を張って答えた。

 

「うん、あたしの力でモンスターを召喚してパパパッとね♪ けっこー役に立つでしょ? ホントはキミをほっといて、彼とデュエルを始めても良かったんだけど」

 

 ヒヨリが言葉を切ると同時、ベルの目の前にカシャンと投げ出されたのは、見慣れた白いDパッドだった。

 

「あたしのモンスターが受け止めたときにかな? 彼のディスクに大きい石か何かに当たったみたい。急に鎖が切れたからどうしたもんかなー、って思ったんだけど」

 

 幸い、装着されていたユウのデッキは無事なようだが、カードをセットするプレート部分は見事にぐちゃぐちゃになっている。いくら不可思議な『闇のゲーム』であっても、ディスクが壊れてしまってはデュエルを続けることが出来なかったのだろう。

 

「で、またモンスターが消えて、そこからまた落っこち始めて……大変だったんだよー?」

 

 腰に手を当てながら、ヒヨリはディスクを見やりひとつ溜め息をついた。

 ちらりと横目に向けたその瞳は、さも「感謝のひとつも欲しいな?」とでも言わんばかりにベルに向けられていたが、ベルの視線は壊れたディスクに釘付けで、深い絶望に染まった視野の中にヒヨリの姿は無かった。

 

「そんな……」

 

 ヒヨリは少しむっとして頬を軽く膨らましたものの、気を取り直してとひとつ咳払いをしてから、おどけたように明るい声で問い掛けた。

 

「と、そんな訳で、今度はキミのディスクに鎖を繋がせて欲しいんだ」

 

 怪訝に顔を向けたベルに、ヒヨリは困ったように眉を寄せながらぴっと上を指差した。

 

「どうもコレ、機械に繋ぐっていうよりは人間に繋ぐって感じだし……相手に意識がないと作用しなくてさ。上の方も決着ついたみたいだから、あたしもそろそろ戻らないとね」

「決着、って――」

 

 決着がついたとは、どういうことだ。

 ソレを問い掛ける前に、ベルの頭の中では既に答えは導き出されていた。

 ヒヨリの口振りから窺えたのは『楽しげな』感情。それが意味することはつまり――。

 

「うん、負けちゃったみたいだね。センちゃんとリンくん」

 

 ベルは、ふっと目の明かりが消えたような、そんな感覚に襲われた。

 

(あの二人が、負けた……?)

 

 元は敵対していた間柄とはいえ、ここまで目的を共にして戦ってきた仲間が、それも実力のあった2人が敗れたという事実がベルに重く圧し掛かる。

 敗者は幻魔の『糧』となる、とあの老人達は言っていた。恐らく2人の命は既に無いだろう。

 

 自分達がココにいる今、幻魔が押し進む道を阻む者はいない。

 そうしたら、外にいる皆はどうなるのだろうか。

 

 アンリエールや藍、それにアユカワ博士達は?

 この住居区(コロニー)に住んでいる人達は?

 

「と、まぁそんな訳で、その人がデュエル出来ないなら早く上に戻りたいんだ。だから、ほんのチョットだけキミの体とディスクを貸してくれない?」

 

 ベルの脳裏に、ふと考えが過る。

 ヒヨリが幻魔と戦えば、もしかしたら止められるかもしれない、と。

 だが、仮に彼女が勝ったとして、それで『危機』は去るのだろうか?

 何より、そんなことになってしまえば、もう『彼女』はユウの手の届かない場所に行ってしまう気がする。

 

 ――奴は……ヒヨリは俺の師であり、友であり。想い人でもあった

 

 いつか聞いた、そんなユウの言葉を反芻しながら、ベルは静かに横に頭を振って答えた。

 そして、体の震えを隠して、ヒヨリに向かってディスクを構える。

 

「……すいません。それは全力でお断りさせて頂きます」

 

 例え勝ち目がなかったとしても、このまま大人しく、言われるがままにヒヨリを幻魔の元に向かわせる訳には……それだけはできない。

 だが、ヒヨリはそんなベルの決意をひらりと受け流すように笑って見せた。

 

「そっか、じゃあこっちも全力でムリヤリ貸して貰うことにするよ。でも、キミのカードは()()()状態だけど……全力で戦えるのかな?」

「えっ……?」

 

 くすくすっ、と意地の悪い声を出しながら、ヒヨリはベルのデッキを指差す。何を言われているのか分からず、ベルは怪訝に眉を潜めていると……ふと、その違和感に気付いた。

 ディスクが、反応していない。デッキをセットしているにも関わらず、デュエルモードへの移行が完了しないのだ。

 こんなときにエラーなんて、とデッキを引き抜いて、ベルはその原因に愕然とした。

 

「何、これ……」

 

 目に飛び込んできたのは、見慣れたカードの鮮やかな色彩ではなく――まるで一面を霧で覆ってしまったかのように真っ白な、紙の束だった。

 今まで一緒に戦ってきた仲間達が、想いを背負った大切なカード達が。全て、イラストもテキストもない無意味な紙札と成り果てている。

 

「一体、何を――!!」

「あたしは何もしてないよ。幻魔が目覚めたんだし、カードの精霊達はデュエルどころじゃないってコトでしょ?」

「カードの、精霊……?」

 

 目を吊り上げて問い詰めるベルに、ヒヨリはさも怪訝そうに首を傾げて問い返す。

 

「ああ、そっか。普通の人には見えないんだっけ。精霊はね、何ていうか……カードの電池みたいなモノだよ」

 

 デッキからおもむろにカードを1枚取り出して、ヒヨリは続けた。

 

「どんなカードにも必ず精霊はいてね。精霊が宿っているから、デュエルモンスターズはその『存在』が成り立ってる。でも三幻魔は今、その精霊達を食べようとしてるからね。精霊達は逃げて、耐えるのに必死で、デュエルにエネルギー使ってる場合じゃないって訳。こんな状態が長く続いたらデュエルモンスターズがどうなるか……あ、それがおじいちゃん達の狙いかな?」

 

 決闘者の生命力のみならず、カードそのものも喰らうという底無しの破滅。

 自分には到底理解の及ばない事態に言葉を失うベルだったが、そこではたと気が付いた。

 

 ヒヨリが片手間で弄んでいたカードには、しっかりと『絵柄』が見えるのだ。

 

「そのカード、何で――!?」

「ん? あー、コレ? ふっふっふ、あたしのデッキの子達はね、よく分からないけど『こういうコト』に耐性があるみたいなんだ。元々は、あたし達のいた世界のカードだからかな?」

 

 ヒヨリは得意気にカードをちらつかせると、ふと思い出したように手を打った。

 

「あ、それと『アスタリスクス』のカードも頑張ってるみたいだね。6番(ヘレイネ)達は何ともないみたいだし。キミの10番(ヴァルキュリア)も、大丈夫なんじゃない?」

 

 言われて、ベルは無意味な紙束となったデッキの中を確認したが……ヴァルキュリアもアユカワ博士から預かった2枚の『アスタリスクス』も、今はユウのデッキの中に入っていることを思い出した。

 

「そんな訳で、やる気満々なところで悪いんだけど。キミはあたしとデュエルすることすら出来ないんだよね」

「……で、でも! わたしとデュエル出来ないならその紅い鎖だって――!!」

「その辺は大丈夫。キミはあたしの予備のデッキを挿せばいいよ」

 

 ぽん、と投げられたのは、紛れもなく40枚のカードの束が納められたケースだった。しかも、そのどれもがしっかりカードとしての色を保っている。

 デュエルすら出来ない、といった手前で何故、わざわざ助けるようなことを――と言いかけたベルに先駆け、ヒヨリは苦笑いを浮かべながら言った。

 

「っていってもソレ、ホントに余りのカードを40枚集めただけのデッキだから……たとえ10番(ヴァルキュリア)を入れたとしても、勝てる見込みはあんまりないと思うけど」

 

 ヒヨリが抜き出していたカードがデッキへと戻され、慌ただしくオートシャッフルされる。シャッフルが終わると同時、ヒヨリはゆったりとした動きでディスクを構え、ベルを真正面から見据えた。

 

「それでもあたしと――()()で戦ってみる?」

 

 ぞわり、と肌が粟立ち、全身がすくむ。

 ヒヨリの大きく丸い可愛らしい瞳は、まるで獲物を狙う蛇のように冷たく鋭い光を放っていた。

 

「あたしは早く三幻魔と戦いたいだけだし、素直に言うコトを聞いてくれたら何もしないであげる。邪魔してくるなら、話は別だけどね?」

 

 正直なところ、自分のデッキを使ったところでヒヨリに勝てる見込みは薄かった。

 それでも刃を向けたのはユウのため、何より幻魔と戦おうとしているヒヨリを少しでも説得する時間が欲しかったからだ。

 だが他人の、しかもデッキとしての体を成していないカードの束で戦うとなれば――勝利する見込みはおろか、時間を稼ぐことすらままならない。

きっと1ターンももたずに敗北するだろうことは、ベルにも分かりきった話だった。

 

 皆に送り出されて、やっと追い付けたというのに、何も出来なかった。

 心の中で、誰にとも無く「ごめんなさい」と泣き言を漏らしそうになったそのとき、滲む視界の端で、何かがもそりと動いた。

 

「デッキは……」

 

 ゆらり、と白い人影が立ち上がる。

 

「戦えるデッキなら、ここにある……!」

 

 破損したディスクを右手で拾い上げながら、ユウは擦れた声でそう告げた。

 

「ユウさん……!!」

 

 震えながら、どうにかデッキを引き抜いたその左腕は、痛々しく血が滲んでだらりと力なく下がっている。

 腕だけではない。よく見れば、彼の全身を覆う白い衣服にはいくつも血が滲んでいた。

 傷一つない自分の身体を見れば、彼が『何』を守ったのかは明白だった。

 

(わたし……また、助けられてばっかりで……)

 

 こぼれそうになった涙は別の涙に重なって、訳も分からずに引っ込んだ。

 何を言えばいいのか分からないまま数秒が過ぎて、ベルの琥珀色の瞳に映るユウはうっすらと微笑みながら言った。

 

「……迷惑を掛けたな。もう、大丈夫だ」

 

 左隣に立つベルの頭を、右手でぽんとひと撫ですると、ユウはヒヨリの方へと向き直りつつ口調はそのままにこう続けた。

 

「……すまないが、お前のディスクを貸してくれないか」

 

 こんな怪我を負いながらも、ユウの瞳はずっと前だけを向いていた。

 ヒヨリとデュエルすることだけを、彼女の真意を聞くことだけを道しるべに。こんなにボロボロになってまで、決して揺るがない無表情のその奥に、どれだけの想いが秘められているのだろうか。

 だが、ユウの体は素人目で見ても、今すぐ手当てが必要な状態だ。デュエルなど、ましてダメージが現実のものとなる『闇のゲーム』など、させるわけにはいかない。

 

「ダメです!! そんな体じゃ、きっと――!!」

 

 だが、ベルはそこから先の言葉を出せなかった。普段と同じ無表情の横顔が、どこか焦りと深い悲しみを抱えて、今にも泣き出しそうだったからだ。

 ここでユウを引き止めることも、先へ進ませることも、そのどちらともがベルに委ねられていた。ベルは、2人のの関係は詳しく知らない。互いがどれだけ『大切な存在』なのか、どんな思い出があるのかさえ。

 ベルにとってユウはデュエルを、自分の生きる世界に希望を見せてくれた『大切な存在』だ。もしも本当にユウを想うのなら、ここで彼を引き止めるべきなのかもしれない。

 

 ただ、とベルは思考の歩を反転させる。

 

 もしも、自分がユウと同じ立場だったら。

 きっと相手が誰であろうと、必死になって頼んでいたはずだ、と。

 

「……分かりました」

 

 白紙となったデッキを腰のホルダーにしまいながら、ベルはそのまま、その右手を返してユウの目の前へと差し出した。 

 

「でも――さっきの約束、わたしも一緒に戦う、って約束は守って貰います。わたしが、怪我をしたユウさんのディスク代わりになります」

「……何?」

「ディスクとデッキを着けて戦うのはわたし、ってことです。カードの使用とタイミングを指示してくれれば、わたしはその通りに動きます」

「……それがどういうことか、お前は分かって言っているのか?」

 

 ベルは黙って、こくんと頷いた。

 ディスクが認識している「プレイヤー」は、ベルということになる。

 つまり、紅い鎖の効果によって闇のゲームが発動するであろう、このデュエルでは――。

 

「怪我をしてるユウさんに、これ以上のダメージを負わせる訳にはいきません。ディスクを貸すなら、この条件を飲んで頂きます」

「……駄目だ、そこまでお前を危険に晒す訳にはいかない」

「その言葉、そのままそっくりお返しします」

 

 ぴしゃり、とユウの言葉を遮って、ベルは続けた。

 まっすぐに向けられた琥珀色の瞳に、決して揺るぎはない。

 

「ちょっとー? お話、まだ掛かるの?」

 

  言葉を詰まらせるユウへ、不意に声が投げ掛けられる。無邪気に頬を膨らませ、不満の意を示すかつての『師』がそこにはいた。

 

 もしも彼女(ヒヨリ)が自分なら。自分が彼女(ベル)なら、きっと。

 

「……分かった。だがディスクの代わりなんかじゃなく――1人の決闘者として、共に戦うという意味でなら、だ」

「えっ?」

「俺だけの力ではいつか倒れてしまう、と言ったのはお前だろう? ならアイツに喝を入れるために、一緒に戦ってくれ」

 

 その無表情から、ふっと優しげな微笑みが漏れだす。

 

「勿論、全力でな」

「……はいっ!」

 

 僅かに潤んだ声を必死で押さえて、ベルは元気よく返事を返した。

 

「決まったみたいだね?」

 

 ん~、と身体を伸ばすヒヨリに、ユウが向き直りながら答える。

 

「……ああ。悪いがライフもデッキも共通で、俺達2人がお前の相手をさせて貰う」

「別にいいよ。1人を相手しているのとあんまり変わらないし。まぁでも――」

 

 ユウのデッキがセットされたベルのディスクに、紅い鎖が絡み付く。

 公平を司るデュエルシステムを介することなく、互いのディスクはデュエルモードへと変形していく。

 

「2人を相手にしたって、負けるつもりはないけど、ね♪」

 

 ぞくり、と。

 ベルは心臓が脈打つのを感じた。

 

(――違う)

 

 紅い鎖から伝わってくるソレは、かつて一度対峙したときよりも、センリやフルフェイスの男達のものとは根本的な何かが違っていた。単なる数値の優劣ではない、もっと決定的な『何か』が。

 

「大丈夫か、ベル」

 

 ユウの言葉に、いつの間にか震えていた身体がはっと反応する。

 

「大丈夫です。まさかこんなに『違う』なんて、思ってなくて」

「……そうか。巫女なんて大層な名前を貰うだけのことはあるようだな」

 

 そう言ったユウの横顔はいつも通りの無表情で。だが今のベルには、ユウの複雑な感情までまるで手に取るように理解できた。

 

「……ユウさん。絶対、ヒヨリさんから話を聞かせて貰いましょう」

「ああ、必ず聞き出して見せる」

 

 先攻、後攻を決定付けるランプが灯り、運命を分ける剣が両者の手中に納められる。

 片や、自らの欲望を満たすために。

 片や、そんなノイズの中へと声を響かせるために。

 

 

「「「決闘!!」」」

 

 

【ユウ&ベル】【ヒヨリ】

 

 

「……俺のターン、まずは手札から《ソーラー・エクスチェンジ》を発動。《ライトロード・アーチャー フェリス》を手札から捨て、デッキからカードを2枚ドローする」

 

 ユウの宣言どおりに、ベルがカードを処理していく。ドローしたカードは《超電磁タートル》《ライトロード・パラディン ジェイン》の2枚。

 

「そしてその後、デッキからカードを2枚墓地へ送る」

 

 墓地へ送られたカードは《ライトロード・プリースト ジェニス》、《光の援軍》。

 

「更に、手札から《ライトロード・サモナー ルミナス》を召喚。手札の《超電磁タートル》をコストに、墓地から『ライトロード』モンスター1体を特殊召喚する。俺は――」

(ここでフェリスを特殊召喚すれば、シンクロ召喚ができる。けど、ヒヨリさんのデッキ……【シャドール】は相手の場にエクストラモンスターがいることで強力な効果を発揮する。だから、ここは――)

 

 ユウの指示する、その先の思考。それをベルは、おぼろげに理解できていた。

 以前はただ、そのパワーに憧れてデッキを回転させることだけに終止してしまい、藍に敗北してしまったが、今は違う。

 

(《ライトロード・プリースト ジェニス》を、攻撃表示で特殊召喚!)

「《ライトロード・プリースト ジェニス》を、攻撃表示で特殊召喚する」

 

《ライトロード・サモナー ルミナス》

☆3/光/ATK 1000

 

《ライトロード・プリースト ジェニス》

☆4/光/ATK 300

 

 強力ではないこのカードをあえて選んだ理由は、2つある。

 万が一にもコントロール奪取された場合――例えば、アンリエールとのデュエルで召喚された『アスタリスクス(ヘレイネ)』など――に、『チューナー』であるフェリスでは相手に余計なアドバンテージを与えてしまうこと。

 そしてもう1つは、極端に低い攻撃力をあえて晒すことで、少々露骨だが手札に《オネスト》の存在を警戒させることだ。

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドする」

 

 伏せカードは《ブレイクスルー・スキル》。これで次のターン、ヒヨリのモンスター効果を一度だけ封じる事が出来る。動き出しの1ターン目で回転を抑えられるというのは、相手にとって大きな『枷』にとなるはずだ。

 

「エンドフェイズ、ルミナスの効果でデッキから3枚のカードを墓地へ送る」

 

 墓地へ落ちたカードは《ネクロ・ガードナー》《エクリプス・ワイバーン》《ブラック・ホール》の3枚。

 

「墓地へ送られた《エクリプス・ワイバーン》の効果。俺はデッキから《裁きの龍》をゲームから除外する。そしてジェニスの効果が発動、『ライトロード』の効果によって自分のデッキからカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時に、相手に500ポイントダメージを、自分は500ライフを回復する」

 

【ユウ&ベル】4000→4500

【ヒヨリ】4000→3500

 

(場には《ブレイクスルー・スキル》、攻撃力の低いルミナスとジェニスもうまく《オネスト》を警戒させられてる。これなら――)

 

 ベルが好調を確信して目をやると、ユウは未だに険しい表情を浮かべていた。

 

「――ユウさん? 何を……」

「……よく見ておけ、ベル。あいつの『強さ』を」

 

 そう言って、どこか寂しげにユウが呟くと。

 油が煮えた鍋に火を放るように、ヒヨリのターンが始まった。

 

「じゃあ、いくよ? あたしのターンっ!」

 

 身体を回転させ、勢いよくドローしたヒヨリは横目でカードを確認すると、()()()()カードをディスクへと滑らせた。

 

「あたしは、手札から魔法カード《サイクロン》を発動っ! 伏せカードを破壊するよ!」

「なっ!?」

 

 おおよそ考えうる限り『最悪』のパターンが、現実となった。

 つい数秒前まで絵に描いていた好調が、たった1回のドローで一気に瓦解していく。

 

「あははっ、《ブレスル》かぁ♪ どうやらアタリみたいだね?」

 

 破壊された《ブレイクスルー・スキル》を見て嬉しそうに微笑んでヒヨリはカードに指を走らせる。

 

「それなら続けて、手札から《カードガンナー》を通常召喚! その効果で、デッキから3枚のカードを墓地へ送るよ。墓地へ送られたカードは……あはっ、《インフェルノイド・デカトロン》2枚と《レベルスティーラー》の3枚っ!」

 

 それらのカード達は、一切の無駄がなかった。『もしも』や『理想』の類である筈の何かは、ヒヨリの意思に吸い寄せられるように『結果』として現実のモノとなっていく。

 

「そして手札から魔法カード《真炎の爆発》を発動! 墓地に存在する守備力200の炎属性モンスター、《インフェルノイド・デカトロン》2体を特殊召喚っ!」

 

 運が良い。引きが良い。

 ソレは、そんな普遍的な言葉で語るには小さすぎた。

 

《インフェルノイド・デカトロン》

☆1/炎/DEF 200

 

《インフェルノイド・デカトロン》

☆1/炎/DEF 200

 

「2体のデカトロンのモンスター効果発動! 召喚・特殊召喚成功時に、デッキから『インフェルノイド』モンスターを墓地へ送り、そのレベル分だけこのカードのレベルを上げて名前と効果を同じにする! あたしが選択するのは、どちらも《インフェルノイド・ルキフグス》!」

 

《インフェルノイド・ルキフグス(デカトロン)》

☆1→☆4

 

 その天真爛漫な振る舞いのなかでも、ヒヨリはしっかり相手に進行の確認をとるように間を空けて目配せをしてくる。

 しかしソレは何の抵抗もできない相手にとって、まるで獲物を飲み込まんとする前の、絶対的優位にある者(捕食者)が見せる冷酷な眼光と同じだった。

 

「ルキフグスのモンスター効果! 1ターンに1度、攻撃を放棄する代わりに相手フィールド上のモンスター1体を破壊できる! 2体のルキフグスの効果で、ルミナスとジェニスを破壊っ!」

 

 翼を持つ悪魔へと姿を変えたデカトロンが、白光の乙女達へと煉獄の黒炎を放つ。

 あくまで『攻撃』ではないその暴力に、天使のハッタリは通用しない。乙女達は成す術なくその身を焼かれ、命を砕かれた。

 

「そんな、こんなにあっさり……!!」

「……これが、あいつの『強さ』だ。例えこちらがどんなに対策を講じても、どれほど精密にデッキを組み上げたとしても――あいつは、その1回の『ドロー』で全てをひっくり返す」

 

 決闘者なら誰もが憧れ、しかし同時に誰からも疎まれる、そんな『強さ』。

 どこか悲しげに、ユウは続けた。

 

「『最強たる決闘者のドローは、その全てが必然』。俺のいた世界で語り継がれる『英雄』達と同じ力を……あいつは、持っているのかもしれないな」

 

 誰も真似できない、そんな『強さ』を手に入れた彼女の闇。

 デュエルにおいても、どこか『運』の無かった父親のことを思い出しながら、ベルは改めてヒヨリへと向き直った。

 彼女が何故、ユウのことを忘れてしまったのか。どうしてそこまで『楽しいデュエル』の拘るのか……その答えを聞くために。

 

「まだまだいくよ? あたしは、☆4となったデカトロン2体でオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚、★4《ラヴァルバル・チェイン》!」

 

《ラヴァルバル・チェイン》

★4/炎/ATK 1800

 

 灼熱を纏う歪な海魔が、甲高い雄叫びを上げる。

 その攻撃力は決して高くはないものの、このモンスターが持つ効果は非常にヒヨリのデッキに噛み合っていた。

 

「チェインの効果発動! ORU(デカトロン)を1つ使ってデッキから《シャドール・ビースト》を墓地に送る! そしてビーストの効果で、カードを1枚ドローっ!」

 

 ドローカードを満足げに眺めて、ヒヨリはふと悪戯な笑みを浮かべて問い掛けた。

 

「そうだ! せっかくだし『あの子』も呼んであげようか?」

「えっ……?」

 

 困惑した表情を浮かべたベルをよそに、ヒヨリは高く右手を掲げた。

 

「あたしは、チェインを素材としてオーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

 チェインが、足元へと出現した光の渦へと吸い込まれていく。

 不意に、闇の気配が色濃くなった。それはどこか、それまで身近に感じていた感覚で――。

 

 

「――『法嗤う無限面相。混乱の夜を駆け、真の身を明かしなさい』!!」

 

 

 それは、漆黒の闇より出でし月夜の怪異。

 漆黒の体毛と闇色のタキシードを翻し、現れる。

 

 

「エクシーズチェンジっ!! ★4、《―**―(アスタリスクス) 怪黒兎(ファントム)》っ!!」

 

 

 かつて、幽霊姫(アンリエール)のエースであったそのモンスターは。

 不気味な含み笑いを浮かべ、ベル達の前に立ちはだかった。




◆今回の一言◆
藍「タイラー姉妹には期待している。今後も頑張ってほしい」
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