遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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小説情報の、タグとあらすじを修正しました。
7/17 デュエルにミスがあり、一部内容を修正しました。
8/29 ルールミスのご指摘があり、ヴァルキュリアのカード効果を訂正しました。
・デュエルの展開に合わせ、耐性効果を起動効果から誘発即時効果に、ダメージステップ時に対応。耐性効果の適用を『1ターン中に1度』に。


第6話  《災厄》を破れ!

 審判員機構コーパルが投げた賽は、ベルの先攻を示した。

 

「わたしの先攻、カードをドロー!」

 

 ベル  LP4000

     手札・5→6 モンスター・0 魔/罠・0

 シフト LP4000

     手札・5 モンスター・0 魔/罠・0

 

 正真正銘、これからの運命を決める初期手札に目を通す。

 魔法・罠とモンスターのバランスも良く、滑り出しは好調に運びそうだ。しかし――。

 

(……あの人に、わたしの『まずまず』があっさり通用する訳ない)

 

 人間性はさておき、シフトは仮にも大型の決闘旅団を率いる長だ。

 慢心するなど以っての外だが、少しの気の緩みも許されない。慎重に思考を巡らせて、ベルは宣言を放つ。

 

「スタンバイからメイン、モンスターとバックカードを1枚ずつ伏せてターンエンドです!」

 

 結果、先攻第1手としては少々心許ない陣形でベルは相手ターンを迎え撃つことにした。

 自分とモンスターを守る伏せカードはたったの1枚。シフトの手札に《サイクロン》等の魔法・罠破壊のカードがあれば、モンスターの召喚を安全に通す為に迷わずに使われてしまうだろう。

 そうなれば、展開次第で大ダメージも覚悟しなければならない……だがそれで良いと、ベルは緊張した面持ちで額に汗を浮かべた。

 これは要するに『相手の手札にサイクロンがあるか無いか』を確認する為の布陣。

 伏せられた罠が破壊されずに残ればそれで良し。破壊されたのなら手札に残る『もう1つの本命』を次のターンに通すだけだ。

 無論、例外的なパターンはいくらでもある。クラドにそう念を押されて教えられた小手先の戦術であるが、今の好調な手札を崩さずに守ることを優先するならば有効な手段だ。

 

「フン、偉そうに息巻いていた割には凡手以下じゃあないか。僕のターンだ」

 

 幸い、シフトの様子から察するにコチラの狙いには気付かれていないようだ。

 ドローしたカードもつまらなそうに横目で流すと、シフトは迷い無くディスクにカードを差し込んだ。

 

「僕は魔法カード《サイクロン》を発動、まずはそのセットカードを破壊する」

 

 幸か不幸か、狙い通り。

 カードから発生した竜巻がベルの伏せカードを吹き飛ばし、粉々に打ち砕いた。

 

(……やっぱり、持ってた!)

 

 腕を交差させて強風から顔を庇いながら、ベルは僅かに口元を緩めた。

 

「罠カードをチェーン発動、《八汰烏の骸》! デッキからカードを1枚ドローします!」

 

 罠、と呼ぶには頼りないその効果に、シフトは鼻で笑って見せた。 

 

「はっ、一丁前に罠なんか張ったと思えば……全く時間の無駄だったねぇ。さて、僕は手札からコイツを召喚させて貰うよ。《A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス) コアデストロイ》!」

 

《A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス) コアデストロイ》

☆3/闇属性/機械族・効果/ATK 1200/DEF 200

 

 見覚えのある流線のフォルム。再び姿を現したそれは、標的を捉えるように無機質な眼光をベルへと向けた。

 

「A・O・J!? あのデッキはユウさんに負けて取られた筈じゃ……?」

 

 あの日、その理不尽な効果に異を唱えつつも、場外から眺めることしか出来なかったモンスター。それが今、真正面で相対している。

 動揺を隠せないベルに、シフトは鼻で笑って見せた。

 

「あまりみくびらないで欲しいねぇ? 奪われたデッキを再構築するくらい造作もないさ」

 

 だが幸い、彼の操るA・O・Jは光属性に対して有効な効果を持つものが多い。ライトロード使いのユウは苦戦を強いられたがベルのデッキは地属性が主体だ。

 例え対峙したとしても、その効果が牙を剥くことは無い筈……そう自分に言い聞かせ、ベルは脈打つ鼓動を必死に抑えた。

 

「バトルだ、コアデストロイでセットモンスターを攻撃する!」

 

 無機質な機械兵の攻撃が、セット状態のモンスターカードを襲う。

 すかさず、ベルはカードを表側(リバース)にしながら宣言した。

 

「わたしの守備モンスターは《共鳴虫(ハウリング・インセクト)》、その守備力1300ポイントからの反射ダメージを受けて貰います!」

 

 凶爪が貫くその刹那、巨大なコオロギのような昆虫型モンスターがカードの中から飛び出し、コアデストロイを押し返した。

 

《共鳴虫》

☆3/地属性/昆虫族・効果/ATK 1200/DEF 1300

 

 シフト LP4000→3900

 

 共鳴虫の属性は地。コアデストロイの効果は適用されない。

 貧弱なモンスターに傷をつけられた、とシフトは必ず感情を荒げるだろう……そう踏んでいたベルだったが、予想に反してシフトは落ち着いた様子でフェイズ移行を宣言する。

 

「……なら、メイン2だ。バックカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 怒りを無理に堪えている様子も無く、シフトはあっさりとターンを終了した。

 予想されていた猛攻も無く、しかしそれだけに伏せられたカードが不気味な影を落とす。

 策を張りそれを突破する関係は、そのままそっくり反転して返された。

 

「わたしのターンです、カードをドロー!」

 

 ドローカードに目を落とす。

 想定とは違う状況となったが、むしろ都合の良い方向へ傾いている。使うべきだった手札のカードを1枚、消費せずに済みそうだからだ。

 

「スタンバイからメイン、わたしは共鳴虫を攻撃表示に変更。何も無ければバトルフェイズへ、共鳴虫でコアデストロイを攻撃します!」

 

 ベルの攻撃宣言に合わせ、コーパルが熱の入った実況を差し込む。

 

『おっとベルさん、ここで『リクルーター』お得意の自爆特攻を仕掛けたぁ~!』

 

 所轄リクルーターと呼ばれる共鳴虫や《荒野の女戦士》などのモンスターは、戦闘破壊をトリガーとして後続のモンスターを呼び寄せる。基本的には相手の攻撃を受けて発動する受動的な効果であるが、状況によっては攻めの戦術に使われることもある。

 コアデストロイと共鳴虫の攻撃力は同じ1200。コアデストロイの効果が適用されない今、両者が戦闘を行えば相打ちとなり互いが『戦闘破壊』されることになる。

 破壊された共鳴虫は後続の昆虫族モンスターを呼び寄せるが、相手のフィールドには後続モンスターは現れない。新たに特殊召喚された共鳴虫の後続モンスターは、そのまま攻撃を続行出来る……これこそがリクルーターの持つ最大の矛だ。

 この他にも対峙する相手モンスターと相性の良い後続モンスターをデッキから呼び寄せる為、自身より攻撃力の高いモンスターに攻撃を仕掛けることも多く、その状況から『自爆特攻』と称されている訳だ。

 

「この攻撃で、お互いのモンスターは戦闘によって破壊され――」

 

 引き寄せられるように接近する2体。

 その数秒後にはベルが望んだ状況が展開される、筈だった。

 

「……全く、下らない。僕はここでリバースカードを発動させる。《DNA移植手術》!」

 

 呆れるような溜め息と共にシフトが発動したのは、1枚の永続罠。

 

「このカードの発動時、属性を1つ宣言する。以降、このカードが存在する限り場の表側表示モンスターは全て宣言した属性となる。宣言するのは勿論――『光』だ」

 

 共鳴虫の周囲に乳白色のオーラが発生し、ディスクに表示されたカード情報の属性部分が『地』から『光』へと書き換わる。

 

(モンスターの属性を強制変更!? そんなカードが……!?)

「さて、何も無ければバトル続行だ。コアデストロイの効果を発動、光属性モンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する!」

 

 ヴン、とコアデストロイ本来の力が起動する。力量の差は互角であった筈の共鳴虫は呆気なくその爪に引き裂かれ、一方的に『効果破壊』されてしまった。

 

「うぅっ……!!」

 

 共鳴虫破壊の余波から顔を庇いながら、ベルは苦々しく呟いた。

 

「コアデストロイの『効果』によって破壊された為、共鳴虫の効果が発動することはない。リクルーター自爆なんて下級タクティクスが、僕に通じるとでも思っていたのかい? このままフェイズを終えるなら、僕はもう1枚のリバースカードを発動させて貰うよ?」

 

 つまらなそうに目を細めて、シフトはジェスチャーで「フェイズを進めろ」と促した。

 

「……分かりました。バトルフェイズを終了します」

「ならリバース発動だ。永続罠《聖なる輝き》」

 

 またも発動される永続罠、その効果は――。

 

「このカードが存在する限り、お互いにモンスターを『セット』することは出来ない。もしセットする場合には、表側守備表示で召喚して貰う」

 

 シフトのフィールドに発現した3枚のカード。それらが形成した布陣は、ベルの想像を遥かに超えた強力なものだった。

 

「時間の節約だ、説明してあげるよ。コアデストロイの効果は裏側守備表示のモンスターには適用されない。よってこのカードがあれば、先程のように余計な反射ダメージは受けずに済むということさ」

『ここでシフトさんお馴染みのコンボカードが揃いました! これはベルさん、早くも追い詰められたかー!?』

 

 コーパルの実況は益々白熱していく。デュエルを見守る周囲から漏れるざわめきを背に受けながら、ベルはターンを進めていく。

 

「メイン2、わたしは《カブトロン》を守備表示で召喚。バックカードを1枚伏せてターンエンドです」

 

 デフォルメされた人型のカブトムシモンスターが、守備表示を示すように両腕を交差させてフィールドに出現した。

 

《カブトロン》

☆4/闇属性/昆虫族・効果/ATK 1600/DEF 900

 

 やはり実力の差は思うようには覆せない。まだまだ駆け出しのベルに比べ、カードの知識も応用力もあちらが圧倒的に上手だ。

 それでも手札で消費する予定だったカードがいくつか浮いたこともあり、こちらの被害は最小限に留まった。まだまだこれから、まずは返しの相手ターンを凌ぐ。

 

「僕のターン、ドロー」

 

 ベル  LP4000

     手札・4 モンスター・1 魔/罠・1

 シフト LP3900

     手札・2→3 モンスター・1 魔/罠・2

 

「さて、前菜にもならない『野菜くず』をどう料理したものか」

「……野菜くずを馬鹿にすると後悔しますよ。ちゃんと煮込めば美味しいスープになるんですから」

「ああ、そう。僕の口には合わなそうだけど。メインフェイズ、僕は《A(アーリー)・ジェネクス・ドゥルダーク》を攻撃表示で召喚だ」

 

《A・ジェネクス・ドゥルダーク》

☆4/闇属性/機械族・効果/ATK 1800/DEF 200

 

 輪郭の丸い人型機械兵が、掌をかざした構えのまま場に降り立った。

 

「ドゥルダークのモンスター効果発動。1ターンに1度、このカードと同じ属性を持つ表側表示のモンスター1体を選択し破壊する……DNA移植手術が適用されている今、ドゥルダークの効果範囲は全てのモンスターを捉える。カブトロンを破壊だ!」

 

 ドゥルダークの掌から共振波が発せられると、振動に耐えられずカブトロンは成す術なくその身を砕かれた。

 

「この効果を使用したドゥルダークは攻撃出来ない――が、こうすれば制約を踏み倒せる。僕は手札から《ワン・フォー・ワン》を発動!」

 

 聞き慣れない名前のカードに、ベルは眉をひそめる。

 

「手札を1枚墓地へ送り、デッキから☆1のモンスター1体を特殊召喚する……来い、《アンノウン・シンクロン》!」

 

《アンノウン・シンクロン》

☆1/闇属性/機械族・チューナー・効果/ATK 0/DEF 0

 

 2枚の手札を使って現れたのは、不恰好な小型の球体機械。

 しかしそのカードカテゴリ名が示すのは、まさしく《災厄》の兆候だった。

 

「チューナー、モンスター……!」

 

 戦慄を隠せず、思わず呟くベル。

 覚悟はしていたつもりだったが、ソレは予想よりも早く現れた。

 

「僕は☆1チューナー、アンノウン・シンクロンに、☆4のドゥルダークをチューニング!」

 

 球体機械はたった1つだけの緑輪を作り出し、ドゥルダークの身体を変質させていく。

 

「造られし模倣の正義よ、希望も絶望も隔てなく引き裂く災厄となれ!」

 

 その合計レベルは、5。

 

「シンクロ召喚! 起動しろ、《A・O・J カタストル》!」

 

《A・O・J カタストル》

☆5/闇属性/機械族・効果/ATK 2200/DEF 1200

 

 緑の光輪より姿を現したのは、コアデストロイを大型化したような機械モンスター。

 白銀の装甲に身を包み、無機質な単眼が標的を捉える。

 

「カタストルは闇属性以外のモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずに破壊する。DNA移植手術によって全て『光』に書き換わっている今、その効果はあまり意味がないがね?」

 

 シフトはそう言ってのけたが、実際のところ素の効果範囲が広いというのは厄介だ。

 コアデストロイだけならDAN移植手術を破壊出来れば無力化出来たが、このカードが後ろで控えている以上、安直な突破は難しくなった。

 

「さぁバトルだ、まずはコアデストロイでプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 迫る光殺しの機械爪。希望を打ち砕く凶攻を前に、ベルはしっかりと前を見据えて宣言した。

 

「罠カード発動、《ピンポイント・ガード》! 墓地の共鳴虫を守備表示で蘇生します!」

 

 カードの発動と同時。墓地より破壊された筈の共鳴虫が飛び出し、コアデストロイの攻撃からベルを守った。

 

「相手モンスターの攻撃宣言時、自分の墓地から☆4以下のモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚します! 更にこのカードによって特殊召喚されたモンスターはこのターン、戦闘及びカードの効果によっても破壊されません!」

 

 コアデストロイ・カタストルの両効果も、このターンだけは無効となる。

 無事にダイレクトアタックを防いだベルは内心で安堵の息を吐き出して、シフトの様子を伺った。

 

「無駄な足掻きを……僕はこれでターンエンドだ」

 

 あからさまに不機嫌そうな顔を浮かべるシフト。

 少しばかり報いたようだが、まだまだ勝利を掴むには程遠い。

 

「わたしのターン、ドロー!」

 

 ドローカードは……非常に有難い。が、ひとまずベルはこれまでに溜め込んだカード達に出番を解放することにした。

 それだけの価値が『相手のフィールドには』あるのだ。

 

「スタンバイからメイン、わたしは手札からこの魔法カードを発動します! 魔法カード《強制転移》!」

「……チッ、やはり持ってたか」

 

 不愉快そうにシフトの眉が吊上がる。

 相手のフィールドで戦闘破壊されても効果を発動するリクルーターにとって、この強制転移は最高に相性の良いカードとして名を馳せている。交換した相手のモンスターで受け渡したリクルーターを破壊し後続を呼べば、ほぼ無償で相手モンスター奪い取ったも同然だ。

 

「お互いに自分フィールド上のモンスターを1体ずつ選び、それらのモンスターのコントロールを入れ替えます! わたしのフィールドには共鳴虫のみですが……あなたはどっちを選択しますか?」

 

  強制転移の存在は自爆特攻戦術を見た時点でシフトも予見していたのだろうが、分かっていただけに忌々しげな表情を浮かべていた。

 

「フン……まぁいいさ、僕はコアデストロイを選択する」

 

 熱の篭った何かを吐き出すように、シフトが大きく溜め息をつく。

 宣言と同時、共鳴虫とコアデストロイの立ち位置が入れ替わり、主の変更を受け入れた。

 

(よし、上手く決まった! これなら……!)

 

 昔、父親に聞かされた話を思い出す。

 どんな盾をも貫く『矛』と、どんな攻撃も通さない『盾』。

 それら2つをぶつけたら、矛盾する(どうなる)と思う?

 

「バトルフェイズ、コアデストロイでカタストルを攻撃!」

 

 フィールドに相対する2体の機械兵。そして今、互いの属性はそれぞれが抹殺対象として定める『光』。

 

「コアデストロイの効果!ダメージ計算を行わずに破壊します!」

「……それはこちらも同じこと。闇属性モンスター以外と戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。結果は相殺だ」

 

 かつての同胞に容赦なく爪を振るう、その辺りの非情さは機械兵士特有か。

 最凶の矛と矛のぶつかり合い。シフトの宣言通り、結果は相殺となる筈だった。

 しかしここで、ベルはおもむろに手札に手を伸ばし、即座にカードを発動させた。

 

「それはどうですかね!? ここで速攻魔法発動、《禁じられた聖衣》!」

「ッ何!?」

 

 コアデストロイを包み込む半透明の光のヴェール。

 決して攻撃的な効果ではないが、この場においてそれは災厄をも打ち破る矛として機能した。

 

「禁じられた聖衣は、選択したモンスター1体をカード効果の対象・破壊から守る魔法カード。代わりに攻撃力は600ポイント下がっちゃいますけど、この2体のバトルじゃあまり意味は無いですよね?」

「くっ……このメスガキが……!?」

 

 格下のモンスターに呆気なく貫かれ、カタストルは断末魔のような金切り音を上げて爆発炎上した。

 

『これは見事な切り返し! シフトさんの得意戦術をそっくりそのまま奪い取った形となりました~!』

 

 褒められて少し背中がむず痒くなるベルだったが、そこは決闘者の面目を保つ為ニヤリと不敵に微笑んで見せた。 

 当然それはシフトのプライドに火を付ける結果となり、それまであったどこか気怠るい雰囲気に熱が帯びていく。

 

「あまり調子に乗るなよ……僕のターン、ドロー!」

 

 ベル  LP4000

     手札・3 モンスター・1 魔/罠・0

 シフト LP3900

     手札・1→2 モンスター・0 魔/罠・2

 

「この僕が、手駒を奪われた対策を想定していないとでも思ったかい? 手札から《A・O・J サイクロン・クリエイター》を召喚!」

 

《A・O・J サイクロン・クリエイター》

☆3/闇属性/機械族・チューナー・効果/ATK 1400/DEF 1200

 

 新たに姿を現したのは、鳥の姿を模した調律(チューナー)の機械兵。

 その隣に控えるのは、強制転移でコントロールの移った共鳴虫だ。思わず身構えるベルだったが、シフトが宣言したのは――。

 

「更に。僕は手札から《マジック・プランター》を発動、場の永続罠《聖なる輝き》を墓地へ送りカードを2枚ドローする」

 

 シンクロではなく、手札増強。

 その狙いの意図は、すぐに示された。

 

「さて、ここでサイクロン・クリエイターの効果を発動。手札1枚を墓地へ送り、場の魔法・罠を手札に戻す。僕が戻すのは……《DNA移植手術》!」

 

 鋼の翼から巻き起こされた竜巻のような風が、移植手術をシフトの手札へと吹き飛ばす。

 乳白色のオーラと共に、フィールドからその効果が消え失せた。

 

(!? そんな、これじゃコアデストロイの効果が……!)

「さぁバトルだ! サイクロン・クリエイターでコアデストロイを攻撃!」

 

 光殺しの機械兵に、同胞から放たれた容赦の無い突風が襲い掛かる。

 後ろ盾の無くなったコアデストロイはデュエルモンスターズのルールに従い、通常通りのダメージ計算が発生し容易く破壊された。

 

 ベル  LP4000→3800

 

「っ……!!」

 

 歯噛みするベルを尻目に、シフトはここぞとばかりに畳み掛けていく。

 

「何を呆けてる、まだ『お前のモンスターの』攻撃が残ってるぞ!? 共鳴虫でダイレクトアタック!」

 

 共鳴虫の発する高音波が響き渡り、ベルは思わず耳を塞いで屈んでしまった。

 

「うぁッ……!?」

 

 ベル  LP3800→2600

 

「僕はバックカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 得意げにカードを伏せ、目を細めるシフト。

 内1枚は手札に戻した《DNA移植手術》だろうが、もう1枚は――。

 

(まさか自分の罠を手札に戻すなんて……!!) 

 

 後にベルも知ることとなる、セルフ・バウンスという高等戦術。

 卓上の講義を乏すつもりはないが、やはり実戦は様々なことを教えてくれる。こんな状況でなければ、純粋にデュエルを楽しむことが出来たのかも知れないが。

 

「……わたしの、ターンです! ドロー!」

 

 ベル  LP2600

     手札・3→4 モンスター・0 魔/罠・0

 シフト LP3900

     手札・0 モンスター・2 魔/罠・2

 

「スタンバイからメインへ、フィールド魔法《死皇帝の陵墓》発動!!」

「……何?」

 

 密林の古代遺跡は、土人形が無数に立ち並ぶ気味の悪いフィールドに書き換わる。 

 それが意味することに、シフトは怪訝に眉を顰めた。

 

「陵墓の効果を発動!! 2000ポイントのライフを払って、手札の最上級モンスターをリリース無しで召喚します!!」

 

 ベル  LP2600→600

 

 浮き上がった土人形2体が生贄(コスト)となって瓦解し、その対価としてベルの手札に眠る戦神が目を覚ます。

 

「……一緒に行くよ!! 《―**(アスタリスクス)翼戦神(ヴァルキュリア)》!!」

 

 背に負う巨大な翼を高々と打ち鳴らし、古の民の姿を写した暗暖色の機械天使が光臨した。

 

《―**―翼戦神》

☆10/地属性/天使族・効果/ATK 2800/DEF 3000

 

「アスタリスクス!? そんなカード聞いたことが――」

『はいはいー、非常にレアなカテゴリではありますが、過去に《―**―》と名の付いたカードが使用されたデュエルは数件確認されていますよー』

 

 間髪入れず、コーパルが解説を挟み込む。

 流石は審判員機構、過去に起きた問題(トラブル)に関しての対応は非常に迅速だった。

 

「僕も知らないようなレアカードを何故君が……だがまぁ、いいさ。このデュエルが終わればどの道、僕のモノになるんだからね?」

 

「それはどうでしょう? バトルフェイズ、わたしはヴァルキュリアで共鳴虫を攻撃!!」

 

 ヴァルキュリアの掌から放たれた光弾は容易く対象を撃破。

 一瞬にして灰塵へと変え、その余波はダメージとなってシフトに襲い掛かる。

 

 シフト LP3900→2300

 

「ぐっ……!?」

「この瞬間、戦闘破壊された共鳴虫の効果発動、デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター1体を特殊召喚します!! 選択するのは《炎妖蝶ウィルプス》!!」

 

《炎妖蝶ウィルプス》

☆4/炎属性/昆虫族・効果/ATK 1500/DEF 1500

 

 妖しく炎の鱗粉を撒き散らす巨大な蝶が、攻撃表示でどこからともなく現れた。

 

「再び攻撃宣言、ウィルプスでサイクロン・クリエイターを攻撃です!!」

 

 シフト LP2300→2200

 

 熱風に巻き上げられ、上空で破壊エフェクトを散らしサイクロン・クリエイターが破壊される。

 

(クソッ……あの時デッキを取られていなければこんな醜態は無かったのに……!)

 

 デッキの再構築は容易いと言って見せたシフトだが、実のところその半分は虚栄だ。

 確かに40枚のデッキ本体は見事に再構築されていたが、必然的に高価なシンクロやエクシーズで構築されるエクストラデッキについては未完成のままだったのだ。

 前のターンで取るべき正しい一手は☆6か★3のモンスターを特殊召喚すること。しかし今、彼のデッキには現在該当するエクストラモンスターは存在しない。

 たかが素人に『そこまで』追い詰められているということに、シフトは歯噛みした。

 

「メイン2、ヴァルキュリアの効果を発動!! 自分フィールドのウィルプスを装備カードとして装備し、攻撃力を600ポイントアップさせます!!」

 

 ウィルプスがヴァルキュリアの武装として再構築され、蝶の翼を模したハープがその手に握られた。

 

《―**―翼戦神》

ATK 2800→3400

 

「最後に、魔法カード《一時休戦》を発動。お互いにカードを1枚ドローして、次の相手ターン終了時まで全てのダメージは無効になります。バックカードを1枚伏せてターンエンドです!!」

 

 一時休戦でアフターケアこそしたものの、残りライフはあと僅か。

 攻めに転じてみたものの、危険な状態は変わりない。

 

「あまり粋がるなよ……僕のターン、ドロー!!」

 

 ベル  LP600

     手札・1 モンスター・1 魔/罠・3

 シフト LP2200

     手札・1→2 モンスター・1 魔/罠・2

 

 ドローカードを確認したシフトは、その表情を苦から悦へと一変させた。

 

「……大方、その伏せカードが何かは想像がつくが。あえて誘いに乗ってやるよ!! 永続罠カードを同時に発動、《DNA移植手術》《リビングデッドの呼び声》!!」

 

 当然、移植手術で宣言されたのは『光』。

 そして伏せられていたもう1枚はまたしても永続罠だった。が、これまでの補助的なものとは大きく異なり、牙を剥き出したシフトの咆哮を体現するかのような『攻め』のカードだった。

 

「自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する!! 選択するのはカタストルだ!!」

 

 復活を遂げる一方破壊の機械兵。それは最早、執念と呼んでもいいのかもしれない。

 フィールドに舞い戻ったプレッシャーに、ベルも思わず気押される。

 

「バトル!!僕はカタストルでヴァルキュリアを攻撃!!」

 

 シフトの真意を掴めぬまま、ベルはカタストル突破の切り札を迷い無く発動させた。

 

「伏せカード発動、《禁じられた聖杯》!! カタストルの攻撃力を400ポイント上げる代わりに、その効果をターン終了時まで無効にします!!」

 

《A・O・J カタストル》

ATK 2200→2600

 

「この瞬間を……待っていた!!」

 

 捕らえた、とばかりにシフトが邪悪な笑みを浮かべる。

 おもむろに手を伸ばしたのは、己の手札。

 

「効果を失ったことにより、カタストルとの戦闘にはダメージ計算が発生する……そのダメージステップ開始時、手札から《オネスト》の効果を発動する!!」

「なっ!?」

 

 ベル自身も使用した経験のある、光属性デッキの象徴とも呼べる手札誘発型モンスター。

 それがまさか、本来なら闇属性で統一されたA・O・Jから飛び出すなどベルには予想が付かなかった。

 

「カタストルは今、DNA移植手術の効果により光属性となっている……オネストの効果により自身の攻撃力をヴァルキュリアの攻撃力分、数値を上乗せする!!」

 

《A・O・J カタストル》

ATK 2600→6000

 

 効力を失った筈の爪は天使の加護を受けて、戦神を引き裂かんと迫る。

 

「ヴァルキュリアの効果を発動!! このカードに装備されているカードを全て墓地に送って発動します!! 攻撃力を300ポイントダウンさせ、そのターンに1度だけ戦闘及びカードの効果によっては破壊されません!! 『アームズ・プロテクション』!!」

 

《―**―翼戦神》

ATK 2800→2500

 

 ハープを前方に突き出し、防御体制をとるヴァルキュリア。

 瞬間、装備カード(ハープ)は半実体のエネルギー状に再構築されたウィルプスの姿へと再構築され、カタストルの攻撃を受け止める盾としてその役割を終えた。

 

(もし《一時休戦》を発動させてなかったら、このターンで……)

 

 紙一重で回避した『敗北』の2文字、その危うさに背筋が震えだす。

 ヴァルキュリアの効果は自身を守るためだけのもので、(プレイヤー)を庇うことは出来ない。本来であればこの戦闘で発生したダメージはそのままベルへ到達していたのだ。

 

「チッ、そんな効果があったのか……僕はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 苦渋に顔を歪めるのは、厄介なカードに対してか、確認を怠った自分に対してか。いずれにせよ、シフトが今のターンで何かを仕掛ける気でいたのは間違い無さそうだ。

 実質、これが最後のターンとも成り得る。虎の子だった《禁じられた聖杯》を使用してしまった今、災厄(カタストル)を破る手段は残されていない。

 この状態が続けば、残り僅かなライフを刈り取られるのは時間の問題だ。

 

「――わたしのターン」

 

 そう。『今は』まだ。

 

「ドロー!!」

 

 全てを左右する運命の分かれ道。

 硬直し、動けなくなるほどのプレッシャー。それを確かに全身で感じながら、己の命を磨り減らすが如く――ベルは、その1枚を引き抜いた。

 

「…………」

 

 無論、不安が無かった訳では無い。身体の末端は例外なく震え、心臓は必要以上に脈を打っている。

 デュエルモンスターズとて所詮は遊戯(ゲーム)。その勝敗はいつだってまぐれや偶然、運に大きく左右される。半ば初めから決定している結果に感情が横入りする余地は無い。

 それでもベルはデッキを、『自分達』の力を信じた。知識も経験も足りないちっぽけな自分は、そうやって精一杯背伸びをしてようやく指先が相手に届くのだから。

 

「スタンバイから、メインへ」

 

 真っ直ぐにシフトを見据えるその大きな瞳に、降参(サレンダー)の色は無い。

 

「――ありがとう。わたしが召喚するのは、この子です!」

 

《インフォーマー・スパイダー》

☆4/地属性/昆虫族・効果/ATK 500/DEF 1800

 

 現れたのは、レーダー機類と赤外線スコープを装着した奇妙な蜘蛛型モンスターだった。しかも、表示形式は何故か攻撃表示。

 その貧弱なステータスにシフトは一笑しようとして、しかし効果を確認するとすぐさま表情を硬直させた。

 

「まさか、お前……」

 

 カチカチとパズルのピースが揃っていく感覚。

 シフトの嫌な予感は、ベルの勝利の方程式は、現実となって形を成していく。

 

「さらにわたしはヴァルキュリアの効果を発動! 手札から《ジュッテ・ナイト》を装備し、その名称と効果を得て攻撃力を600ポイントアップさせます!」

 

 デフォルメされた岡っ引のような姿のモンスターが現れ、直後に装備として再構築された。十手という名が示す通りの、鉤を設けた刀状の捕具がヴァルキュリアの手に握られる。

 実はチューナーモンスターであるジュッテ・ナイトだが、シンクロモンスターを持っていないベルのデッキでは地味な役回りのモンスターだ。

 

「ジュッテ・ナイトとなったヴァルキュリアの効果を発動!! 1ターンに1度、相手の表側攻撃表示モンスターを表側守備表示に変更します!!」

 

 ヴァルキュリアが十手を投擲すると、カタストルは爪や腕を引っ込めて防御体制をとった。だが、カタストルの効果は守備表示であろうとも戦闘したモンスターに容赦なく発動する。恐らく、普段のシフトなら声を高々にそう説明していただろう。

 だが彼は、一言も発することは無かった。既に(ベル)の狙いは明らか。後は残された伏せカードに一縷の望みを託すのみ、なのだが。

 

(馬鹿な……僕が、今度はこんな素人の小娘に……)

 

 シフトが伏せているカードは、攻撃してきた相手モンスターを全て葬り去る『攻撃反応罠の最高峰』。カタストルの効果を縫って攻撃してきたモンスターを一掃するにはこれ以上無いカード、の筈だった。

 《聖なるバリア―ミラーフォース―》。だが最早、このカード1枚では戦神の進撃を食い止めることは叶わない。

 

(……この僕が、また負けるだと!?)

 

 シフトの表情からさっと血の気が引いていく。

 

「バトルフェイズ、インフォーマー・スパイダーでカタストルを攻撃!!」

 

 その攻撃力と守備力の差は700。通常であればお互いのモンスターは破壊はされず、攻撃力の低いモンスターを操るプレイヤーにその反射ダメージが与えられるのみ。

 だがそれも『通常では』という枠組みの中での話しだ。

 

「カタストルの効果によってインフォーマー・スパイダーは『ダメージ計算を行わず』『効果によって破壊』されます!!」

 

 貧弱な蜘蛛のモンスターは呆気なく弾け飛び、その命を散らした。

 彼の役割、それはこの瞬間にあった。

 

「この瞬間、インフォーマー・スパイダーの効果が発動!! 『相手の効果によって破壊され』墓地へ送られたとき、相手の場の表側守備表示モンスター1体のコントロールを得ます!! 対象は勿論カタストルっ!!」

 

 破壊されたインフォーマー・スパイダーから無数の糸が放射され、カタストルの体を絡めとりズルズルとベルのフィールドへと引き込んでいく。容姿からは想像もつかない凶悪な効果、しかしこれで災厄の壁は取り除かれた。

 

「続けて行きます!! ヴァルキュリアでダイレクトアタック!!」

「ぐッ……伏せカード発動!! 《聖なるバリア―ミラーフォース―》!!」

 

 十手で『突き』を放ったヴァルキュリアの攻撃は、虹色に輝く光の壁に阻まれ――直後、その衝撃を吸収した光の壁から無数の光弾が放たれた。

 

「お忘れですか? ヴァルキュリアの効果は――」

「そんなことは分かってる、だから取引といこうじゃないか……!?」

 

 額に汗を浮かべ、引きつった笑いを浮かべるシフトにかつての面影は無い。

 ユウとのデュエルで傘下の実力者何人かから見限られ、大幅に勢力を削がれたばかりなのだ。こんな状況で素人の小娘に負けたとなれば、旅団の解散も有り得る。

 恥も外聞も、時間の無駄もクソもない。

 

「こ、ここで君がヴァルキュリアの効果を発動しないでくれれば、僕は君達の旅団を厚待遇で傘下に迎え入れよう!! それだけじゃない、今までに売り払った君の友達も必ず取り戻そうじゃないか!! それでも足りないなら……」

 

 他にもシフトはああだ、こうだと条件を並べてきたが、その一部始終をベルはぽかんとした表情で聞き流していた。理由は2つ。

 1つ目。審判員機構を通して設定した『賭け品』を途中で変更することは出来ない為。よってこの『条件』はシフトの口約束に過ぎず、守られる保障はないということ。

 2つ目。シフトが約束を守るような男でないことを、ベルが1番良く知っている為。

 

「どうだ!? 悪い条件じゃないだろう!? 今ならまだ間に合う、早く決断を――」

 

 降り注ぐ光弾は、尚もヴァルキュリアを穿たんと迫り来る。

 まるで満点の星空。そんな光景を見上げてから、ベルは視線をシフトに戻すとにっこりと微笑んだ。

 

「……全力で、お断りします♪ 『アームズ・プロテクション』!!」

 

 十手から再構築されたジュッテ・ナイトの幻影が見事な剣捌きで次々と光弾を打ち払っていく。巻き上がった砂塵の中に佇む高潔なる戦神は、勿論無傷だ。

 金属装甲の奥で鈍く光る感情無き瞳が、シフトを据える。

 

「あ……? 馬鹿が!! 止めろ!? 止めてくれ――!!」

 

 今にも泣き出しそうなシフトに、ベルは問答無用で宣言を下した。

 

「攻撃は続行です!! 『ブレイヴ・ブロウ』!!」

 

 戦神の放った鉄槌の光弾は背を向けて駆け出したシフトに見事命中し、そのライフを根こそぎ削り取る。

 舞い上がる爆炎と、鳴り響くデュエル終了のブザー。

 いつもより数段テンション高めの審判員機構は高々と腕を上げてアナウンスした。

 

『勝者ぁ(ウィナー)!! ユーリ・ベルガモットぉ!!』

 

 シフト LP2200→0

 

 

 

   **

 

 

「無事か!? メイドちゃん!?」

 

 デュエル終了から少しばかり遅れて、クラドと藍が現場に到着した。

 情報収集の最中にシフトの旅団がこの街に滞在していることを知った藍が、酒場での騒ぎを聞きつけてクラドと合流し駆けつけたのだ。

 

「はい! この通りピンピンしてますよ!」

 

 息も切れ切れに滑り込んできた師匠らに、ベルは明るく微笑んで見せた。

 ライフは結構ギリギリだったという事実はそっと胸に隠し、勝ち取ったデッキ(アンティ)を見せ付ける。

 

「それって……もしかして勝っちゃったの? あのシフト・クロッカに?」

「お、おお!? あの野郎に一泡吹かせたのか……凄ぇぞメイドちゃん!!」

 

 がしがしとクラドに頭を撫でられて、思わずはにかむベル。

 そんな2人の様子を見て、藍はほっと息をついた。

 

「……どうやら、私の勝手な杞憂だったみたいね?」

 

 ベルの芯の強さは藍も高く見ていたが、格上の相手を打ち破るまで至るとは思っていなかったのだろう。

 接してきた日こそ浅いが、ベルの勝利は藍も嬉しく感じられた。

 

「あ、あの……」

 

 そんな最中、事件の渦中であったネイティブの少女がおどおどと声を掛けてきた。

 

「見知らぬ私なんかを助けて頂いて、ありがとうございました……」

「あ、いやえっと。わたしとしても、ただほっとけなかっただけというか何というか」

 

 しどろもどろになりながら言葉を繕うベルの背中に、クラドがバシンと喝を入れた。

 

「こういうときは、素直に礼を受けとくもんだぜ?」

 

 突き出された笑顔とグッドサインに、ベルは頷いて答えた。

 

「……はい、どういたしまして!」

 

 そう言って何気なく差し出した友好の右手。

 しかしそれを受けた少女はビクリと肩を震わせると、一歩二歩と怯えたように後ずさった。

 

「? え、あの……?」

 

 予想外の反応に困惑するベルは半歩距離を詰めたが、少女はまたも後退する。

 しんと流れる微妙な静寂。それを最初に破ったのは消え入りそうな少女の声だった。

 

「……ごめんなさい。私、どうしても虫とか好きになれなくて……」

「へ?」 

 

 虫。

 そう言われてみれば、今回のデュエルは戦士族は控えめな昆虫主体の戦いだった。

 確かに見栄えは良くないかもしれないが、デュエルにおいてそんなものは二の次だ。

 引かれる理由はない筈。ベルはそう思いながら一歩前へと踏み出した。

 

「ひっ!?」

「えっ」

 

 怯える少女の瞳は語っていた。むしろ何であなたは平気なんですか、と。

 インフォーマー・スパイダーの効果など、その手のモノが苦手な人からすれば悪夢も同義だろう。

 

「……さ。行こうかメイドちゃん、もうやめたげよう。これが多分、普通の女の子の反応だ」

「普通!? あの、じゃあわたしって……?」

「英雄は得てして賞賛されるものではないわ。悲しいことだけどね」

「え、いや……あの」

 

 昆虫族の何がいけないのか。

 どこか腑に落ちない気持ちを抱えたまま、何度も涙目で謝る少女に手を振ってベルは酒場を後にしたのだった。

 

 

   **

 

 

「で、何をやってんだセンセーは……?」

「さぁ……わたしもよく分かりませんが……」

 

 リビングスペースから離れ、運転席から恐る恐る顔を覗かせるのはクラドとベルの両名。

 どすん、どすんと『ソレ』が叩きつけられる度、ビクビクと肩を震わせている。

 

「おっかねぇ顔して帰ってきたから何か掴んできたなと思ったが、まさか貴重な食料でストレス解消し始めるとはなぁ……」

 

 合流直後。付き合いの浅い藍には分からなかったようだが、ユウはどこか殺気立っていた。

 ベルの勝利報告を聞き、頬を緩めるその様子を見てひとまず安心したクラドであったが――何を思ったのか「今日は俺が食事を用意する」などと言い出し、現在の状況に至る。

 大量の小麦粉と少量の水を合わせ、粘土遊びの如き要領でこねては叩きつけ、こねては叩きつけ。

 パンを焼くような設備など当然この車には搭載されておらず、その用途は不明。

 

「おまけに……なんだありゃあ? 何かの培養液か?」

「あれ、お買い物リストにあった『こんぶ』って海の食用草です……乾燥した状態で売られてたので、お薬か何かの材料だと思ったんですけど……」

 

 鍋で『こんぶ』が無造作に煮込まれ、その煮汁が1リットルほどの容器にうつされてから早1時間。薄緑に濁った液体を背に、ひたすら小麦粉をこね続けるミスターポーカーフェイスの姿はまさに異様の一言に尽きた。

 

「俺らはこれから一体、何を食わされるんだ……?」

「分かりません。まだ『調整中』ですから……」

 

 ぶるぶると震える2人を尻目に、藍だけはただ柔和に微笑んで大人しくテーブルに着いていた。

 

「…………これで詰み(チェックメイト)だ」

 

 ひぃ、と小さく漏れた悲鳴は果たして誰のものだったのか。

 ユウはゆっくりと出刃包丁を取り出すと、何の躊躇いも無く小麦粉の塊へと振り下ろした。

 

……………………

…………

……

 

「あら、美味しい。おダシもよく出てて喉越しも良いわ」

 

 ちゅるちゅる、と出来上がったソレを啜りながら、藍は簡潔に述べた。

 パスタにしては太過ぎる不思議な麺を、2本の棒を使って器用に口へ運んでいる。

 

「……藍が『醤油』を持っていてくれたお陰だ。この辺りでは入手も難しいそうだ」

 

 夜間になると一気に冷え込むネイティブの気候。そんな肌寒い夜に染みる優しい味に、ベルとクラドは四苦八苦しながら舌鼓を打った。

 

「随分シンプルなスープ……ですけど、これ何ていうお料理なんですか?」

 

 何の具材も入っていない、琥珀色のスープに艶のある白い麺が映える。

 ベルは興味深々に尋ねた。

 

「……『うどん』という。俺が作れる料理といえばせいぜい、これが限度だ」

「へー。白き文明じゃコレが普通に食われてたりするのか?」

「……さぁ。どうだろうな」

 

 クラドの何気ない質問に、ユウはどこか罰の悪そうに言葉を濁した。

 

「ま、美味けりゃどうでもいいけどな。にしても、どうしてまた急に?」

「……ここのところベルと藍に馳走になってばかりだったからな。こちらも何か振舞いたかった」

 

 ユウも2本の棒――『ハシ』を使って、音も立てずに上手く啜って見せる。

 藍とユウの不可思議な技術に半ば見とれながら、ベルも負けじとフォークを片手に応戦する。

 多種多様な食事風景がしばし流れた後、おもむろに口火を切ったのはユウだった。

 

「……次の目的地についてだが、1つ要望がある」

「何だ何だ? センセーってば今日に限ってレアな一面ばっかり見せやがって、今夜は雹でも降るってのか?」

 

 そうやってクラドが茶化すも、ポーカーフェイスの口調は依然変わらず。

 要望は端的に、淡々と告げた。

 

「ネイティブ唯一の観光都市・カセに寄りたい。『白面の女』が先日、そこへ向かったそうだ」




カタストルはデュエル映えしませんねー。強力ですが、地味過ぎて。
デュエル展開、実は色々とミスがありまして土壇場で大幅修正しております。ご了承下さいまし。

~今日のエラッタ~

《―**(アスタリスクス)翼戦神(ヴァルキュリア)
☆10/地属性/天使族・効果
ATK 2800/DEF 3000

①:1ターンに1度、自分の手札またはフィールド上のモンスターカード1枚を装備カードとしてこのカードに装備出来る。
②:このカードは装備されているモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。
③:このカードは装備されているモンスターの数×600ポイント攻撃力がアップする。
④:このカードに装備されているカードを全て墓地に送る。このカードの攻撃力は300ポイントダウンし、そのターンに1度だけ戦闘及びカードの効果によっては破壊されない。この効果は相手ターンでも発動出来る。

エラッタ前
④:このカードに装備されているカードを全て墓地に送る。このターン、このカードは戦闘及びカードの効果によっては破壊されない。

→起動効果から誘発即時効果へ。(相手ターンでも発動可へ)
→攻撃力変動効果を内包。(ダメージステップでも対応、劇中のようにオネストに対して使用出来るように)
→耐性適用範囲を1ターンに1度までに。
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