遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

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第7話  泣いた赤鬼、笑う青鬼

 カセは古代遺跡の面影を残す文化遺産としても貴重な街で、ネイティブの数ある国・都市の中で唯一『観光都市』と呼ばれている。

 とはいえ、歴史的な価値はあれども特に見所という見所も無く、(ユートピア)の観光地にある華やかさには程遠い。カセを訪れるのは歴史に触れ、静かな余暇を楽しもうと考える紳士淑女な初老の夫婦がほとんどだ。

 穏やかな陽だまりの中、のんびりと遺文化見学……と行きたいところだが、今回ばかりはそうもいかない。

 噂の《魂の牢獄》について何か知っているらしい『お面を被った女』。ユウの掴んだ情報から『白面の女』と呼ぶことになったその人物が、この街に来ているかもしれないからだ。

 大会が開かれるシガマへの直行ルートから外れ、わざわざ立寄っただけの収穫があるかどうか。それは各メンバーの手腕に掛かっているのだが。

 

「すまん。コレはお世辞にも……なぁ」

「ご、ごめんなさい」

 

 唯一の目撃者であるベルが、捜索用にと『白面の女』のイラストを描いて見せたのだが……幼児の落書きと何ら変わらないレベルのソレは正直、何の役にも立ちそうに無い。

 女の人、と呼ぶにはあまりに等身の低い『マスコットキャラ的な何か』を眺めながら、クラドは苦笑し力なくうな垂れた。

 

「ベルちゃん、その人の特徴を私にも教えてくれる? 出来れば細かめに」

「へ? あ、はい……」

 

 藍が落ち込むベルを励ましながら、ペンと紙を預かった。

 

「じゃあ、まずは――」

 

 お面の特徴。色形。服のデザイン。髪型。体格。事細かな質問の連続に、ベルが記憶を搾り出すように細々と答えていく。

 その間、藍はさらさらとペンを清流のように走らせ――瞬く間に、『白面の女』の想像図は完成した。

 

「こんな感じで。どうかしら?」

「わ、凄いです藍さん! そうそう、丁度こんな感じの人でした!」

 

 まるで魔法でも見たようにはしゃぐベル。白い狐の面を被り、赤いフード付きのコートを羽織った女性の姿が紙面に見事再現されていた。

 ユウが聞き出した目撃者もほぼ同じ容姿を答えていたらしく、同一人物と見て間違いは無さそうだ。

 

「なるほど、狐の面だったのか。まぁこんだけ怪しけりゃすぐに見つかるだろ」

「ええ。コートも凄く特徴的なデザインだし……多分、別大陸の伝統装束か何かじゃないかしら?」

 

 メンバーの不安を和らげるようにクラドが呟くと、藍も太鼓判を押すように意見を上げた。

 

「んじゃ、各自手分けして探して回ろう。今夜は宿を取ったから、夕飯時までには一旦宿に集まって情報交換だ」

 

 クラドの指示に各自頷いて、前もって分担していたエリアへと向かった。

 ユウとクラドは、情報を聞き出すにはある程度『腕っ節』が必要となる裏路地エリアへ。

 ベルと藍は、現地人や観光客からの目撃証言を拾うべく観光エリアへ。

 

「じゃ、行きましょうかベルちゃん。今日は1日よろしくね?」

「はい!」

 

 街を歩き、道行く人々に声を掛けていく。

 現地語を話せるものの、情報収集のノウハウはサッパリなベルは藍の通訳として同行する形となったのだが、これが意外と良いコンビネーションとなった。

 人々には観光地を訪れた(アトランタ)の美女と同伴する現地の召使い……といった風に見えるらしく、とにかく第一印象で警戒を抱かれずに済むのだ。

 

メイド(こんな)服だし、仕方無いか……)

 

 そう溜め息をつく一方、大人の色香を放つ藍が隣に並ぶとどうしても劣等感が拭えなかったりもする。

 まだまだ子供である自覚もあるし、何より半野生児なネイティブ女子が麗しきアトランタレディに追いつこうなど、無謀にも程がある。

 それでも憧れてしまうのは女としての運命(さだめ)なのか……我ながら面倒くさい奴、とベルは頭を抱えつつも、今は全力で召使い役に徹することにした。

 遺跡の監視や、観光客の案内を請け負う現地人のスタッフに聞き込みを続けていたベルは、ふと映り込んだ遺跡の一角に思わず目を取られた。

 

 

「あの、これって……?」

「どうかしたの、ベルちゃん?」

「いえ……この遺跡に掘られてる壁画って、もしかしてデュエルモンスターズだったりするのかなぁー、なんて」

 

 随分と抽象的ではあるが、壁画には四角い窓のようなモノから魔物を呼び出す古代の神官の姿が描かれていた。

 勿論ベルに考古学の知識は無いので、周りにビッシリと描かれている文字が何を説明しているのかは分からないが、藍はその職業柄この壁画がどういったものなのかを知っているようだった。

 

「ああ、この壁画ね。もしベルちゃんの言う通りだったら面白かったんだけれど……残念、コレはデュエルモンスターズとは無関係よ」

「あはは……まぁ、やっぱりそうですよね」

 

 大昔の戦争からデュエルが用いられていたとはいえ、流石に古代文明の時代からカードが世界の理を支配していた、なんて馬鹿げた話がある訳が無い。

 

「でも、全くの無関係とも言えないかもしれないわね。これは古代で行われた神官同士の戦を描いたものらしいのだけど……事細かにルールが設けられていたり、戦というよりは何かの競技や遊戯(ゲーム)に近いものだったそうよ?」

 

 どこか遠い目をして藍が語る。

 デュエルモンスターズとは随分形は違えど、その在り方はどこか同じように感じられた。

 

「……そうだ、そろそろ喉が渇いたでしょう? どこかでお茶でも頂きましょうか」

「え? ああ、はい……?」

 

 何を思ったのか、藍が何の脈絡も無く休憩を提案してきた。

 遺跡を離れ、赤と黄色のパラソルが目立つ売店の下に向かいながら、藍は本当に小さな声で呟くように言った。

 

「――気をつけて。誰かに後を付けられてる」

「えっ!?」

 

 思わず振り向きそうになったベルの頭を、藍が頭を撫でる仕草に見立てて固定する。

 

「気付かれちゃ駄目」

「は、はい……」

 

 並々ならぬ藍の雰囲気に言い知れぬ不安を感じつつ、ベルは冷や汗を浮かばせて精一杯に頷いた。

 カチコチに表情を強張らせたベルに苦笑しつつも、藍は何とか自然に振舞いながらベンチに腰掛け、売店で購入したお茶をベルに手渡しながら低く呟いた。

 

「さて……どうしたものかしら。このまま宿まで『お持ち帰り』するのは何としてでも避けるとして……全く、どこで地雷を踏んじゃったのかなぁ」

「あ、あの……藍さん。大丈夫、ですよね?」

「勿論。こんなの全然、大した修羅場じゃないわ」

 

 そう言ってニコニコと微笑む藍にむしろ恐怖が増したベルであったが、そこは生唾と一緒に本音をごくりと飲み込んでしまうことにした。

 

「……よし。ここはベルちゃんにも一肌脱いで貰って、ぱぱっと切り抜けちゃいましょう」

「えっ、わたしまた脱ぐんですか」

「? 何の話?」

 

 きょとん、と顔を傾げる藍の様子にほっと胸を撫で下ろすベルだったが、そっち方面で無いとなると。

 

「それじゃ場所を移動しましょう。恥ずかしがり屋さん達が出て来やすいように、人気の無い場所まで、ね?」

 

 

   **

 

 

 観光都市であるカセも、遺跡エリアから少し離れればお馴染みの殺風景な荒野が広がっている。人の目は多くとも、その注目は遺跡に集まる。人目のつかない場所を見繕うのは簡単なことだった。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……少数精鋭、といったところかしら?」

 

 遺跡エリアを離れてすぐ、藍とベルは3人の男に取り囲まれた。

 先んじてディスクを装着し、身構えながらにじり寄ってくるところを見ると、それなりに『場慣れしている』連中のようだ。

 

「こういうのは男の子チームの役目だったのにね……向こうはやる気十分みたい。ベルちゃん、準備はいい?」

「はいっ!」

 

 藍がショルダーバッグから、ベルがリュックからそれぞれ決闘者の『剣』を取り出す。

 二枚貝を模したDパッドを、藍はまるでコンパクトミラーでも開いて見せるかのように、優雅な動作でディスクモードへと展開させた。

 

「――今だ、やれっ!!」

 

 ディスクが展開すると同時。男の怒声と共に違法デュエルアンカーが伸び、すぐさま2人の退路を断つ。

 

『――『決闘申請』、確認。仮想戦場(ARヴィジョン)展開(リンク)完了』

 

 何の操作も無しに、デュエルモードがすぐさま起動する。

 アンカーを発射したのはそれぞれ1人ずつ。リーダー格らしき残った男は万が一の為に様子見、といったところだろうか。

 観客(ギャラリー)は空席のまま、仮想戦場が殺風景な荒野を塗り潰していく。何の因果か、今回の戦場は藍に馴染み深い海底遺跡だ。

 

審判員機構(ジャッジアプリ)、起動』

 

 やはりというべきか。審判員機構は姉妹同時に呼び出された。

 

『集いし願いが、面白可笑しく世界を乱す!! 美少女審判員コーパルちゃん只今参上♪』

『……サイコロ振れば大体6。審判員機構ネフ、今日も絶好調です』

 

 海底にちなんでなのだろうか。コーパルが亀、ネフが乙姫のコスプレをしている。

 そんな2人の前に、『事前申請』と書かれた書類がぽんと出現した。

 

『おや? 今回はタッグデュエルをご希望ですか。アンティルールも絡んでくるとなると……何やら揉め事の匂いがぷんぷんですねー。くれぐれも決闘は楽しく仲良く、仲間割れ(ケンカ)はダメですよー?』

『……という訳で、ルール設定に問題が無ければ承認をお願い致します』

 

 デュエルアンカーに審判員機構が反応してくれないのはベルも経験済みだ。

 加えて、今回はあえて相手の誘いに乗っている訳なので、藍もベルも静かに首を縦に振った。大人しく状況を受け入れる2人の様子に怪訝に眉を寄せつつも、相対する男達も一歩遅れて承認の意を示す。

 

『はい、それではルールの確認です。対戦形式はタッグ、詳細設定はデフォルトのまま。ハーフライフ8000からのスタートになりますよー』

 

 タッグデュエル。2人1組となり、1つのフィールド・墓地を共有し、合計4人のプレイヤーが交互にターンを進めていくデュエル方式。

 今回が初めての経験となるベルは、果たして上手くやれるだろうかと不安に表情を曇らせた。 

 命運を分かつ初期手札5枚がそれぞれに握られる。

 審判員姉妹が揃って腕を掲げ、決闘は幕を上げた。

 

「決闘(デュエル)!!」

 

 【ベル&藍】

 LP8000

 ベル…手札・5 モンスター・0 魔/罠・0

  藍…手札・5 モンスター・0 魔/罠・0

 

 【襲撃者A&B】

 LP8000

  A…手札・5 モンスター・0 魔/罠・0

  B…手札・5 モンスター・0 魔/罠・0 

 

 大体6が出ると豪語したネフの振った賽は、その宣言通り6だった。

 最も、それは相手側の白ダイスの方だけであり、ベル達の黒ダイスは無残にも2の目を叩き出していたのだが。

 

「あの……ネフさん?」

『申し訳ありません』

「ふん、まずはコチラから行かせて貰う。ドロー!」

 

 よって、先攻ターンはあちらから。

 ディスクの順番分けを確認すると、A→ベル→B→藍の順にターンが回るようだ。

 

「俺は《マシンナーズ・ギアフレーム》を攻撃表示で召喚する!」

 

《マシンナーズ・ギアフレーム》

☆4/地属性/機械族・ユニオン・効果/ATK 1800/DEF 0

 

 出現したのは橙色の装甲の、華奢なデザインの機械兵だ。

 ユニオン、という聞き慣れない能力名に身構えたベルだったが、このモンスターの持つ真に恐ろしい効果は別にあった。

 

「ギアフレームの効果を発動! 召喚成功時、《マシンナーズ・ギアフレーム》以外のマシンナーズ・モンスターを1体、手札に加えることが出来る! 選択するのは《マシンナーズ・フォートレス》!」

 

 いつかどこかで見た、とても嫌な思い出がベルの頭を過ぎる。

 赤、黄、緑の三色が互いをサーチし合い、決して途切れることなく戦線に湧き出る不屈の機械兵達。このモンスターの効果はそれと良く似ていた。

 

「更に、マシンナーズ・フォートレスは手札の機械族モンスターを合計☆8以上になるように捨てることで手札・墓地から特殊召喚が可能だ! 俺は☆8の《マシンナーズ・カノン》を捨て、手札から特殊召喚する!」

 

《マシンナーズ・フォートレス》

☆7/地属性/機械族・効果/ATK 2500/DEF 1600

 

 戦車のように重厚な体躯をキャタピラで駆動させ、空色の移動要塞が姿を現す。

 先攻1ターン目から易々と出現したその強力なステータスに、ベルは思わず目を丸くした。

 

(☆7の最上級モンスターを簡単に……!!)

「そしてギアフレームのユニオン効果! 1ターンに1度、メインフェイズに装備カード扱いで自分の機械族モンスターにこのカードを装備させることが出来る……無論、ここはフォートレスに装備!」

 

 ド派手な合体演出を経て、フォートレスに橙色の強化装甲が付加された。

 自身のエースであるヴァルキュリアの効果を髣髴とさせるその効果に戦慄を覚えたベルだったが、白熱したコーパルの実況解説がそんな緊迫した雰囲気を見事に打ち砕く。

 

『キター!! いきなり出ました!! 男の子のロマン、合体だぁー!! これは熱くならざるを得ないわよネフちゃん!!』

『……姉さん。少しはしゃぎ過ぎです』

 

 合体により強化されたフォートレス。見た目だけでは無く、その能力も厄介な効果が付加された。

 

「装備状態のギアフレームは装備モンスターが破壊される場合、このカードを代わりに破壊することが出来る……これで俺は、ターンエンドだ!」

 

 破壊耐性を持った強力な最上級機械族。

 真正面から向かい合うベルの目にはしかし、当然ながら怯えの色は無い。

 

「わたしのターン、ドロー! スタンバイからメイン、まずは魔法カード《増援》を発動! デッキから《切り込み隊長》を手札に加えます!」

 

 その動きに迷いは無く、次々と手札からカードを発動させていく。

 

「更に手札から《サイクロン》を発動して、装備状態のギアフレームを破壊! 続けて《切り込み隊長》を通常召喚し、効果により手札から《ジュッテ・ナイト》を特殊召喚!」

 

 ベルの場に揃う、チューナーと非チューナーモンスター1組。その合計レベルは5。

 

「チューナーモンスター!? くそ、シンクロか……!!」

 

 歯噛みする相手の男の反応に少しだけ安堵しつつ、ベルは高く片腕を上げて宣言した。

 

「行きます! わたしはチューナーモンスター、ジュッテ・ナイトに☆3の切り込み隊長をチューニング!」

 

 チューナー本来の能力を解き放ち、ジュッテ・ナイトが2つの緑光の輪となって切り込み隊長の姿を変質させていく。

 

「……造られし模倣の正義よ、希望も絶望も隔てなく引き裂く災厄となれ!」

 

 光の柱が立ち上り、召喚の成功をベルに知らせる。

 前回のデュエルで猛威を振るった災厄の機械兵。それが今、頼もしい仲間としてベルのフィールドに舞い降りた。

 

「シンクロ召喚! 起動せよ、《A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス)カタストル》!」

 

《A・O・J カタストル》

☆5/闇属性/機械族・効果/ATK 2200/DEF 1200

 

 単眼に光が灯り、敵を捉える。記念すべきベルの初シンクロは見事に決まった。

 

「そのままバトルフェイズ、マシンナーズ・フォートレスに攻撃! カタストルの効果で、闇属性以外のモンスターはダメージ計算を行わずに破壊します!」

「ぐっ……厄介な」

 

 ベルの攻撃宣言に、相手の男は苦々しい表情を浮かべた。

 フォートレスは戦闘破壊時・モンスター効果の対象となったときにそれぞれ効果を発揮するのだが、カタストルとの戦闘では効果破壊扱いとなり、その効果は『対象を取る』ものではない。要するに相性は最悪なのだ。

 成す術も無く、フォートレスは災厄の凶爪に引き裂かれた。

 

「メイン2、バックカードを2枚伏せてターンエンドです!」

 

 戦果は上々、返しのターンへの準備もバッチリ。

 タッグデュエルというこの状況下で、藍へのバトンを上手く繋げた筈だ。

 

「小娘がやってくれるじゃねぇか……次は俺のターンだ、ドロー!」

 

 【ベル&藍】

 LP8000

 ベル…手札・1 モンスター・1 魔/罠・2

  藍…手札・5 モンスター・0 魔/罠・0

 

 【襲撃者A&B】

 LP8000

  A…手札・4 モンスター・0 魔/罠・0

  B…手札・5→6 モンスター・0 魔/罠・0

 

「俺は墓地のフォートレスの効果を発動! 手札の☆8機械族、《古代の機械巨竜(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)》を捨て、墓地から特殊召喚!」

 

 破壊した筈のフォートレスが、地中から復活を遂げた。

 カタストルには太刀打ちできないことを知っての上での蘇生。相手の思惑が見えず身構えるベルだったが、隣で控える藍が苦笑を浮かべつつ呟いた。

 

「マシンナーズに古代の機械(アンティーク・ギア)……まぁタッグデュエルを指定してきた以上、ある程度予想はしていたけれど」

「な、何かマズいんですか?」

「ナイスカップルって事よ。見ていれば分かるわ」

 

 藍の言葉が聞こえたのか、男はニヤリと顔を歪めた。

 

「気が付いたか……俺はフィールド魔法、《歯車街(ギア・タウン)》を発動!」

 

 海底の戦場を上書きし、巨大な歯車が蠢く機械の街が姿を現した。

 

「このフィールド魔法がある限り、「アンティーク・ギア」モンスターをアドバンス召喚する際に必要なリリースを1体少なくすることが出来るが……このカードの真骨頂はそこじゃあねぇ! 俺は手札から《サイクロン》を発動し歯車街を破壊する!」

 

 顕現した歯車の街並は、即座に巻き起こった竜巻によって蹂躙され、瓦解していく。

 

「自分で発動したフィールド魔法を……どうして?」

「やっぱり、『そう』来たわね……」

 

 怪訝に眉を寄せるベルに、納得した様子の藍が軽く溜め息を漏らした。

 

「――歯車街は破壊されたとき、隠された効果を発揮する!」

 

 フィールドは再び海底の景色へと戻るが、歯車街の瓦礫が砂埃を立て視界を遮る。

 まるでモンスターゾーンに出現した巨大な『何か』を隠すように。

 

《古代の機械巨竜》

☆8/地属性/機械族・効果/ATK 3000/DEF 2000

 

「!? あれはさっき手札から捨てた……!!」

 

 突如姿を現した歯車の機械竜に、ベルは思わず声を上げた。

 

「偉いわベルちゃん、しっかり相手のコストを確認してたのね?」

「あ、ありがとうございます……じゃなくて!!」

 

 どこか嬉しそうに微笑む藍は、ブンブンと首を振るベルに穏やかに答えた。

 

「くすくす、ビックリしたわよね? 歯車街は破壊されたとき、手札・デッキ・墓地のいずれかから「アンティーク・ギア」モンスターを1体特殊召喚出来るの。さっきのフォートレス蘇生のコストは実質ゼロになった、という訳ね」

「そ、そんな……」

 

 並び立つ最上級機械はどちらも攻撃表示。時間稼ぎの壁作りではないというのなら、相手は既に『カタストル突破』の手段を抱えているということになる。

 とてもじゃないが笑って構える余裕はない。ベルは藍の態度がさっぱり理解できなかった。

 

「ふん、講義は終わったか? 俺は装備魔法《レインボー・ヴェール》を機械巨竜に装備し……バトルフェイズに入る!!」

 

 ガコン、と重々しい起動音を上げ、虹色のオーラを纏った機械竜がカタストルを標的に据える。

 

「レインボー・ヴェールを装備したモンスターが戦闘を行う場合、そのバトルフェイズ中相手モンスターは効果を発動出来ない!!」

 

 やはり持っていた突破口となるキーカード。

 だからといって、大人しくやられる訳にもいかない。ベルは慌てて伏せカードを発動させた。

 

「それなら……罠カード発動です!! 《魔法の筒(マジック・シリンダー)》……ッ!?」

 

 ベルが発動したのは、相手モンスターの攻撃をそのまま跳ね返す強力な罠。

 しかし、立ち上がるべき伏せカードはベルの声に応えてはくれなかった。

 

「な、何で……?」

「ベルちゃん、残念だけど。「古代の機械」モンスターは、攻撃する時に魔法・罠の発動を封じる効果を持つものが多いの。あの機械巨竜も同じ効果を持っているわ」

 

 脆くも突破された二重の防壁。

 折角召喚したカタストルは機械巨竜の顎に捉えられ、砕かれてしまった。

 

【ベル&藍】 LP8000→7200

 

「続けて行くぞ!! フォートレスでダイレクトアタック!!」

「通しません!! 今度こそ《魔法の筒》!!」

「!? ちょっと待ってベルちゃ……」

 

 珍しく慌てた様子の藍が制止するも、カードの発動は間に合わず……。

 

「馬鹿が、罠に掛かったのはお前らの方だ!! 速攻魔法発動、《ダブル・アップ・チャンス》!!」

「あー……」

 

 罠の存在を知った上での攻撃宣言。何かあると感づいたのが少しばかり遅かったと、藍は後悔に頭を抱えた。

 

「このカードはモンスター1体の攻撃が無効になったときに発動、そのモンスターの攻撃力を倍にしてもう1度攻撃させる! 魔法の筒のダメージまでは防げないがな!」

「なっ……えぇっ!?」

 

【襲撃者A&B】 LP8000→5500

 

《マシンナーズ・フォートレス》

 ATK 2500→5000

 

 驚くベルをよそにフォートレスは全身の動力をフル稼働させ、その肩に担ぐ砲台にエネルギーを収束させていく。

 

『見て見てネフちゃん!! 今度は溜め攻撃(チャージショット)よ!? もう男の子心がくすぐられ過ぎてお姉ちゃん大興奮です!!』

『……姉さんは、兄さんだったのですか?』

 

 キャーキャーと騒ぎ立てる審判員機構とは対照的に、ベル&藍サイドは呆然とその光景を眺めていた。

 何ですかアレと怯えた表情で指をさすベルに、藍は両手を合わせてゴメンネと頭を下げる。

 ちなみにお互い、無言のジェスチャーである。

 

「喰らえ!! 2度目のダイレクトアタックだ!!」

 

 2人の足元に着弾したフォートレスの攻撃が、爆風を巻き起こし容赦なく吹き飛ばす。

 

「きゃあああっ!?」

 

【ベル&藍】 LP7200→2200

 

「俺はこれでターンエンドだ。このまま押し切って勝利を決めてやる……!!」

「そんな残りライフ、タッグじゃ虫の息も同然だ。サレンダーしたらどうだ?」

 

 不敵に笑う襲撃者に、精一杯の力を込めて立ち上がるベル。

 ふと隣を見れば藍も同じように、しかしどこか優雅にゆっくりと立ち上がった。

 

「……そうね、それは私も同感」

「藍さん!?」

 

 思わぬ言葉が飛び出し、ベルが責めるように声を荒げたが、不敵に笑う藍の横顔に思わず息を呑んだ。

 

「タッグデュエルじゃ、5500(あなた達)も虫の息って事には、ね?」

 

 にこり、と微笑みを向ける藍。

 可憐な華に似たその笑顔は味方には安らぎを、敵には冷たい戦慄を与えた。

 

「な、何を戯言を――」

「私のターン、ドロー」

 

【ベル&藍】

 LP2200

 ベル…手札・1 モンスター・0 魔/罠・1

  藍…手札・5→6 モンスター・0 魔/罠・0

 

 【襲撃者A&B】

 LP5500

  A…手札・4 モンスター・1 魔/罠・0

  B…手札・2 モンスター・1 魔/罠・0

 

(そういえば、藍さんのデッキってまだ見たこと無かったっけ……)

 

 練習で何度か相手をして貰ったことはあったが、そのときはクラドから借りた調整用のデッキを用いてのものだった。

 本気の、彼女のオリジナルデッキを見るのはベルも今回が初めてとなる。

 

「メインフェイズ。まずは手札から《鰤っ子姫(ブリンセス)》を召喚」

 

《鰤っ子姫》

☆1/水属性/魚族・効果/ATK 0/DEF 0

 

 先陣を切って現れたのは、藍のイメージには似合わないデフォルメされた魚の乙女。

 

「このカードが召喚・特殊召喚に成功したとき、自身をゲームから除外することでデッキから☆4以下の魚族モンスターを特殊召喚するわ。私が呼び出すのは……この子よ」

 

 鰤っ子姫がキッスを投げると、泡のエフェクトに包まれながら姿を眩ました。

 

「来なさい、《リチュア・アビス》!」

 

《リチュア・アビス》

☆2/水属性/魚族・効果/ATK 800/DEF 500

 

 魚乙女に代わって出現したのは、凶悪な顔つきの鮫型モンスター。

 ブーイングの嵐でも起きそうなバトンタッチだが、その選択に間違いは無い。

 

「この瞬間、アビスの効果を発動。デッキから守備力1000以下の「リチュア」モンスター1体を手札に加える。手札に加えるのは《ヴィジョン・リチュア》」

 

《ヴィジョン・リチュア》

☆2/水属性/海竜族・効果/ATK 700/DEF 500

 

 たった1枚のカードから次々とカードが繋がっていくその光景は、まさに流れる水の如く。しかし現状では2体の機械族に立ち向かえるようなモンスターは影すら見えない。

 

「ヴィジョン・リチュアの効果を発動。このカードを手札から捨て、デッキから「リチュア」の儀式モンスター1体を手札に加えるわ。選択するのは《イビリチュア・ソウルオーガ》」

「儀式、モンスター?」

 

 見慣れない青枠のモンスターカードに首を傾げるベル。

 シンクロのようにエクストラデッキから呼び出すタイプのモンスターでは無さそうだが……。

 

「更に手札から《シャドウ・リチュア》を捨て、効果を発動。「リチュア」の儀式魔法カードを1枚デッキから手札に加えるわ。《リチュアの儀水鏡》を手札に」

 

《シャドウ・リチュア》

☆4/水属性/水族・効果/ATK 1200/DEF 1000

 

 次々とサーチされては消え、新たなカードを呼び込むリチュアのモンスター達。

 水面下で蠢くような不気味な動きを、ベルは固唾を呑んで見守った。

 

「魔法カード発動、《トレード・イン》。手札の☆8モンスター《イビリチュア・ソウルオーガ》をコストに捨て、デッキから2枚のカードをドロー」

 

 ドローカードを確認した藍の口端が吊上がる。フィールドには勿論、墓地にもそれらしい逆転のカードは何も無い。

 ただ、見えない藍の手札の中で確実に『何か』が牙を研ぎそのときを待っている。暗い夜の海を眺めるような底なしの恐怖に、男達は身を震わせた。

 

「続けて魔法カード《サルベージ》を発動。墓地の攻撃力1500以下の水属性モンスター2体を手札に戻すわ。ヴィジョン、シャドウの2体を手札に。更に2体の効果……デッキから《リチュアの儀水鏡》とソウルオーガを手札に」

「くそ……いつまで待たせる気だ!? さっさとターンを進めやがれ!!」

 

 痺れを切らしたように……いや、重く圧し掛かるプレッシャーに耐えかね、男の一人が声を荒げた。

 

「ごめんなさいね、女は準備に色々と時間が必要なのよ……ま、これ以上は審判員機構にも『遅延行為』とも判断されかねないし。そろそろ行きましょうか?」

 

 静かに波を打つ水面が渦を巻くように、リチュアの侵攻は幕を開けた。

 

「では、儀式魔法《リチュアの儀水鏡》を発動。手札のソウルオーガをリリースし、同じレベルの儀式モンスターを特殊召喚するわ……降臨なさい、《イビリチュア・ソウルオーガ》!!」

 

《イビリチュア・ソウルオーガ》

☆8/水属性/水族・効果/ATK2800/DEF 2800

 

 毒々しい色合いの鱗に身を包んだ海の鬼神が、大きなヒレをなびかせて咆哮を上げた。

 

(これが『儀式召喚』……)

 

 儀式魔法を使い、召喚したいモンスターと同じレベルになるよう他のモンスターをリリースすることで降臨する、特殊召喚モンスター。

 その性質から手札の消費が激しく、扱いが難しい玄人向けのデッキであるが……藍の手札はそんな定評を覆すが如く未だ4枚のカードを残している。

 

「ここで墓地の儀水鏡の効果を発動。このカードをデッキに戻すことで、墓地の「リチュア」儀式モンスター1体を手札に戻すわ。選択するのはソウルオーガ。更に手札からもう1枚の儀水鏡を発動、手札の☆8モンスター《護封剣の剣士》をリリースし、ソウルオーガを儀式召喚!」

 

 2体目の鬼神が咆哮を上げる。たった1匹の魚乙女から始まった小波(さざなみ)は、墓地・手札・フィールド・デッキ……ほぼ全てのカードゾーンを次々と操ることで、☆8の最上級モンスターを2体並び立たせるまでに大きく勢いを増していた。

 

「だ、だが!! いくら☆8を並べても攻撃力は古代の機械巨竜の方が上!! グダグダと遠まわしに召喚しやがったが、所詮はコケオドシで――」

「それはどうかしら? ソウルオーガの効果を発動」

 

 鬼神の足元から水流が逆巻き、巨大な渦潮を形作る。

 

「1ターンに1度、手札から「リチュア」モンスター1体を捨てることで、相手フィールド上の表側表示モンスター1体を持ち主のデッキに戻す……ご自慢の機械巨竜にはご退場願おうかしら?」

 

 藍が手札の《リチュア・チェイン》を墓地へ捨てたことがトリガーとなり、鬼神は渦潮の進路を標的へと導いた。敵を捉えた渦潮は瞬く間に機械巨竜を飲み込み――跡形も無くどこか(デッキ)へ消し去ってしまった。

 

「くっ……!?」

「さて、もう1体の効果を……と行きたいところだけど、その前に場のリチュア・アビスをリリースして、手札の《シャークラーケン》を特殊召喚しておくわ」

 

《シャークラーケン》

☆6/水属性/魚族・効果/ATK2400/DEF 2100

 

「シャークラーケンは自分フィールドの水属性モンスターをリリースすることで手札から特殊召喚が出来るカード……なのだけど、困ったわね。これで私の手札はゼロ、もう1体のソウルオーガの効果で捨てる「リチュア」が無いわ」

 

 ふぅ、と溜め息をつく藍の様子を見た男は、内心でほくそ笑んだ。

 場にはまだマシンナーズ・フォートレスがいる。先程のカタストル戦では発揮できなかったが、フォートレスは戦闘破壊されたとき相手モンスター1体を道連れに破壊する効果がある。もう1つ、相手モンスターの効果対象となったときにも相手の手札1枚を捨てさせる効果もあるのだが、既に無手札(ハンドレス)状態の藍に効果は無いし、何より肝心のソウルオーガは効果を発動出来ずにいる。

 ソウルオーガ1体の攻撃をフォートレスで受け、効果でもう1体のソウルオーガを破壊すれば、残ったシャークラーケンのダイレクトアタックのみでダメージが抑えられる。

 幸い、こちらの手札は潤沢だ。相手チームの僅かな残ライフを刈り取るなど造作も無い。

 この決闘、勝った! 男がそう確信した刹那。

 

「……なんて、間抜けなコト言うと思った? 墓地の儀水鏡の効果を発動、墓地のソウルオーガを手札に戻すわ」

「!?」

 

 開いた口が塞がらない、といった光景を、ベルは今この瞬間に目の当たりにした。

 

「決闘者が手札を全て使い切るときは、このターンで決着をつけるという強い意思の表れ。あんな見え見えの降参宣言にニヤニヤしちゃって、カードの効果くらいよく聞いていたら?」

 

 とんとん、とソウルオーガのカードを額に当てながら藍が煽る、煽る。

 真っ赤な顔で髪を逆立たせつつも言葉を詰まらせる男達と涼しげな藍を見比べながら、ベルは頬を引きつらせた。

 

(鬼だ……鬼畜(おに)がいる……!)

「さて、そろそろお開きにしましょう。ソウルオーガの効果を発動、フォートレス1体をデッキへ戻す(バウンス)。フォートレスの効果は一応発動するけれど……これで手札は正真正銘のゼロ、意味は無いわね?」

 

 スッキリ爽やかな風を気持ち良さそうに受けて、艶やかな黒髪がふわりと舞う。

 にっこり微笑んで、藍は歌うように告げた。

 

「バトル、ダイレクトアタック♪」

 

 当然ながら手札誘発のカードなどあるわけも無く。

 男達の悲鳴は見事、激流に押し流され消え去った。

 

『う、勝者(ウィナー)、ベルさん&藍様ぁ~……』

『……姉さん。気持ちは分かりますが、その呼び方は色々とマズいので止めて下さい』

 

【襲撃者A&B】 LP5500→0

 

 

   **

 

 賭け品としてこちらから何も提示していなかった為、特例として相手の賭け品であった『情報の提供』をそのままそっくり相手方に適用されることになった。

 結果、男達を逃げられないように縄で拘束して貰った上で、審判員機構にはしっかり同席して頂いた。

 

「さて……色々と話して貰いたいことはあるのだけど……まず最初に、何故私たちを狙ったのかしら?」

「………」

 

 だんまりを決め込もうとした男達だったが、コーパルがどこからともなく注射器を取り出すと生気の無い顔でペラペラと話始めた。

 

「あ、あの女の関係者だと。そう思ったからだ……」

「あの女? 一体誰のこと?」

「……お前らが聞いて回ってた、面を被った女のことだよ」

 

 思わず顔を見合わせる藍とベル。思わぬところで目撃証言が得られた。

 早々に問いただしたくなる衝動を抑え、藍は手馴れた様子で話を聞き出す。

 

「私たちの探してる女性と、あなた達はどういう関係なの?」

「……奴に俺達の旅団を壊滅させられた。リーダーも、仲間の殆どが奴に『消された』んだ」

「消された?」

 

 倒されたではなく、消された。

 嫌な予感のする言い回しに、藍の表情も険しくなる。

 

「……どうせ信じやしないだろうが。奴にデュエルで負けた仲間は皆、カードの中に閉じ込められちまった。俺達は幸い、観客側にいて事無きを得ただけだ」

「奴について何か知ってるなら答えてくれ! 仲間を取り戻さなきゃならねーんだ!」

 

 悲痛な面持ちで訴える男を前に、ベルは言葉を詰まらせながらも呟いた。

 

「藍さん、もしかしてそれって……」

 

 男達の言葉に嘘は無いとすれば、それは――。

 

「闇の、ゲーム……?」

 

 都市伝説のオカルト話は、たった今現実の色を帯びて2人の目の前に姿を現した。

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