遊戯王*ASTERISKs*(アスタリスクス)   作:kohatuka

9 / 64
カードの効果を勘違いしていました。一部修正です。


第8話  Trick or Surrender?

 勝者には更なる過酷な追撃を。

 敗者は規定数の保存、及び適宜な消去を。

 

 は、後者だった。

 自分の名を必死に叫んで手を伸ばした少女の身代わりになることすら叶わず、無様な敗北を喫した。

 何が足りなかったのか。何故こんなにも自分は弱いのか。

 いくら問い掛けても、その手に握り締めた白き龍は何も答えてはくれない。

 

 膝を折り、無力に震える夕へ『罰ゲーム』の執行が宣言される。

 

 意識は暗く、深い闇の底へと沈んでいく。

 彼女も今、こんな冷たい孤独に包まれているのだろうか。

 そうと思うと居た堪れなく、何より悔しかった。

 

 

……………………

…………

……

 

 

「ぐっ……」

 

 倒れ伏した黒服の男を見下して、ユウは淡々とホルダーにデッキを収めた。

 それは奇しくも、ベルと藍が襲撃者たちを破った時刻と同時だった。

 

『ゲームエンド。勝者、ユウ=キリサキ』

 

 審判員機構のネフが高々と腕を上げる。たかが『システム』と呼ぶにはあまりにも人間臭い彼女達だが、こうして同時刻に別々の場所に出現することが出来るのは『システム』であるが故の人間離れした芸当だ。

 

『ユウ様。賭け品譲渡の際の立会いは――』

「必要無い」

『畏まりました』

 

 ユウは素っ気無い反応とは対照的に丁寧な仕草で一礼したネフは、仮想戦場(ARヴィジョン)と共に姿を消した。

 そんな僅かな隙を突き必死に地を這って逃走を計る男だったが、今のユウがそれを許す筈が無い。

 

「――おい」

 

 足早に追いついたユウは男の襟首を掴んで強引に立たせると、腕を固めて身動きを封じたまま勢い良く壁に押し付けた。

 

「がっ……!?」

「答えろ。『白面の女』はどこにいる」

 

 いつもと変わらぬ、抑揚の無い声。

 だがその瞳には静かに熱を帯びる青い炎が、不気味にゆらゆらと蠢いている。

 

「お、おいセンセー? いくら何でも少しやりすぎじゃねーか……」

「答えろ。どこにいる」

 

 傍で控えていたクラドが落ち着くように促すが、全く耳に届かない様子だ。

 ――この黒服の男は、『白面の女』について何か知っている素振りを見せた。男の風貌から厄介な気配を感じ取っていたクラドは多少の荒事もやむなし、とは考えていたのだが……それは精々、こちらに降りかかった火の粉を払う程度のこと。こちらから油を撒いて放火するような真似は願い避けだ。

 

「……だ、誰が貴様のような輩に『お嬢様』を……!!」

 

 傍目から見てもこれ以上は危険、という力が男の腕に掛かり、鈍い音を立てて軋ませる。直後、男の口から獣のような呻き声が響いた。

 人気の無い路地裏のエリアとはいえ、これ以上騒ぎを起こせば厄介なことになりかねない。クラドは竦む体へ懸命に命令を掛けて、ユウを男から引き剥がそうと必死に掴み掛かった。

 

「いい加減にしろ!! 必要以上に痛めつける理由は無いだろ!?」

 

 男が吐かないなら他に方法は幾らでもある。過度な暴力はこちらにとっても不利益しか生み出さない。今のユウは、そんなことすら見失っているようだ。

 

「『答え』が近づいて焦るのも分かるけどな、もうこれはアンタだけの問題じゃねーんだぞ!? ちっとは皆のことを考えてくれ!!」

 

 皆。その言葉に、ユウの思考が一瞬クリアに戻る。

 脳裏に浮かんだのは、自分を慕ってくれる純粋無垢な褐色の少女。

 その姿に、笑顔に。遠い記憶に映る少女の面影が重なった。

 

「…………」

 

 しばしの無言が続いた後。クラドが引き剥がすまでもなく、ユウは男の拘束を解いた。

 男は痛みに耐えかね、苦痛に顔を歪めながら再び地面に蹲る。

 

「はぁ、ったく……いつものポーカーフェイスはどうしたよ? 雷雨なんて天候(かお)、センセーらしくねーぜ?」

 

 実際には普段と同じく表情変化の乏しいユウだったが、彼を良く知らずとも感情が分かる程度には荒れ具合が分かるのだ。

 また荒れだす前にと、クラドはユウと男の間に割って入るようにしゃがみ込み蹲る男に交渉を始めた。

 

「おーいオッサン、ウチのセンセーがおっかねぇのは良く分かったろ? つー訳で1つ妥協案なんだけどよー……」

 

「その必要はありませんわ」

 

 どこからか凛とした少女の声が響いたかと思うと、クラドのすぐ傍に黒い影のような立体感の無い剣が突き刺さった。

 

「うおぁあ!?」

 

 慌てて飛び退くクラドの後を追うように、影の剣が2本、3本と突き立てられていく。

 

「なっ、こりゃあ……半実体のARか?」

 

 何とか冷静さを保ちつつ、クラドは影の剣を凝視した。

 つんつん、と指先で突いてやると、影の剣はデュエル時と同じ破壊エフェクトを散らして消滅した。

 

「あら? (わたくし)本気で狙いましたのに……『不快害虫』並みの反射神経をお持ちのようですわね?」

 

 まるで陶器を響かせたような済んだ声色が、無粋な闇の中を踊る。

 カツカツと靴音を響かせて、声の主が姿を現した。

  

「お、『お嬢様』!? 何故――!!」

 

 男が思わずといった様子で、悲痛な声を上げる。

 クラドは、声の主の風貌を見るなり声を上げそうになった。 

 

(白面の女!? ……いや)

 

 お嬢様、と呼ばれたその少女は漆黒のドレスを身に纏い、その素顔を白い仮面で隠していたが……それは『白面の女』の(それ)とは大きくかけ離れた、貴族が戯れに用いる舞踏会用のものであった。ベルやユウの掴んだ目撃証言とも風貌が違う。

 

「ファミリーに手を出されて尚、引き下がるような『血』ではないこと……お前なら分かっているでしょう?」

 

 その右腕には十字の金装飾が施された漆黒のDパッドが、デュエルモードとなって起動している。つまり先程の攻撃は審判員機構を用いた『正当防衛』だったということになる。

 

「失礼。そこの男がどんな粗相を働いたかは存じませんが、ここまで暴力を振るわれて黙っている訳にはいきませんの。ここから先は私がお相手致しますわ」

 

 仮面の少女はドレスの裾を摘むと、優雅な仕草で一礼した。

 彼女の口から飛び出したいくつかのワードから、クラドはある仮説に辿り着き――同時に戦慄を覚えた。

 

「……センセー逃げるぞ。こいつら多分『決闘組(デュエルマフィア)』だ」

 

 決闘組。デュエルモンスターズの力を使い、世の裏社会を取り仕切る稼業を生業とする人々の総称。表の人間には滅多に危害を加えるようなことは無いが、こちらから手を上げればその限りではない。

 何故こんな辺境の観光地にいるのか分からないが、決闘組を敵に回すなど恐らく旅団最大の危機だ。ユウの腕を掴み、しきりに引っ張るクラドだが、当の本人は決して動こうとはしない。

 

「お、おいセンセー!?」

「……1つ尋ねる。お前が『闇のゲーム』を仕掛ける『白面の女』か」

 

 彼女がそうである可能性は恐らく、万に一つも無い。完全にこちらの誤解だろう。

 それでもユウは、いつもと変わらぬ口調で愚直に問いを掛けた。

 

「一体何のことやら。もはや貴方の下らない世間話になど傾ける耳はありませんわ、さっさとディスクを構えなさい」

「……そうか。分かった」

 

 Dパッドをディスクモードに変形させ、ホルダーからデッキをセットする。

 クラドの言葉など聞く耳持たず。ユウの闘る気は満々のようだった。

 

「だっ!? ダメだってセンセー、これ以上はNGだ!! あの子、メイドちゃんの目撃証言とも違うだろ!?」

「……情報が間違っている可能性と、彼女が嘘をついている可能性を潰す。そうでなければ『捜索』の意味が無い」

「……わーかったよ、好きにしろ!! でも埋められるときはアンタが下だからな!?」

 

 半ばヤケクソにその場に座り込んだクラドを尻目に、いつも通り決闘の準備が整っていく。

 

仮想戦場(ARヴィジョン)展開(リンク)完了。審判員機構(ジャッジアプリ)、起動』

『……ネオスペースで僕と同盟(あくしゅ)。過労死同盟ネフ、推して参ります』

 

 先程別れたばかりのネフが再び呼び出される。

 ユウに負けず劣らずなポーカーフェイズの彼女だが、その表情にはいささか不満の色が伺えた。

 そんな彼女に物怖じもせず、仮面の少女は端的に設定を告げる。

 

「審判員、賭け(アンティ)ルールの設定を。私は、あの殿方への然るべき制裁を望みます。そちらは? 何か聞きたいことがあったようですけれど」

「……嘘を付いているなら真実を。そうでなければ俺達に協力を」

 

 ユウの切り出した賭け品に、クラドはにやりと口端を上げた。

 

(……センセーもやっと頭が冷えてきたみたいだな)

 

 勘違いから過度に手を上げてしまったのは完全にこちらの落ち度であるが、賭け決闘というこの状況を利用すれば、汚いやり方ではあるが全てをチャラにした上に決闘組の協力を得られる。

 加えてユウの実力は折り紙つき。敗北のリスクを心配する必要も無い。

 

「いいでしょう、その条件飲みましたわ」

『承知しました』

「お嬢様!!」

 

 あまりにも呆気なく了承した仮面の少女に、黒服の男が咎めるように声を上げたが、それら全てを凍てつかせるように少女は低く問い掛けた。

 

「お前は……この私が万が一にも負けるかもしれないと?」

「――いえ。滅相もありません」

「なら黙って見ていなさい。『ラムジョレーン』の由緒正しきデュエルを」

 

 少女が発したその名前に、座り込んでいたクラドが思わず立ち上がる。

 

「なっ……ラムジョレーンだぁ!? 何だってこんなトコに!?」

「あら? まさか不快害虫様にまで名が知れていようとは……真に光栄ですわ」

 

 ケタケタと楽しげに笑う仮面の少女を、クラドが恨めしげに見据えた。

 

「……クラド、何か知っているのか」

「まぁ、な。奴ら『悠久の黒(ヒストリア・ノワール)』じゃ有名な、アクションデュエルで一旗上げた異色の『劇団』兼『決闘組』さ」

 

 アクションデュエルはARの半実体化機能を利用した、デュエルをパフォーマンスの一環として昇華させた特殊な決闘方式の1つだ。

 勝敗の行方よりも、その最中に行われるモンスターと決闘者とが織り成す見事な曲芸が観客の注目を集める。殺伐としたこの地(ネイティブ)ではとても味わえない、まさに『贅』を極めたデュエルと言っても良いだろう。

 

「今更で悪ぃが。気を付けろよセンセー、奴らの実力は半端じゃねぇぞ」

「……分かった。忠告、感謝する」

 

 ユウの実力があればと大船に乗ったつもりでいたクラドだったが、あの『ラムジョレーン』が相手となれば白き豪華客船も途端に幽霊船と化す。

 最悪、荒野の土に還ることも覚悟しつつ、クラドは3歩ほど引いてデュエルを見守る位置に付いた。

 

『それではデュエルを開始致します。ルールはハーフライフ4000からのスタート、アンティの設定を適用、他はデフォルトからの変更はありません。宜しいですか?』

 

 両者が共に頷き、ネフが高く腕を上げる。

 二振りのサイコロが宙を舞うと同時、運命を決める舞台の幕は颯爽と開かれた。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 ユウ LP4000 VS ??? LP4000

 

 

   **

 

 

 少女のサイコロである黒のダイスは、見事に6の目を示していた。

 先攻を示すサインが華やかな黒金のDパッドに表示されると、少女はくるりと身を翻し、恭しく礼をして見せた。

 

「おやおや……これは僥倖。では先攻は私から頂きますわ。ドローカード」

 

 ユウ  LP4000

     手札・5 モンスター・0 魔/罠・0

 ??? LP4000

     手札・5→6 モンスター・0 魔/罠・0

 

「まずは様子見、と参りましょう。バックカード2枚をセット、更にモンスターをセットしまして、ターンエンドにございます」

 

 静かで、それでいて良く通る澄んだ声。1つ1つ指先に至るまで洗練された、舞を踊るかのような丁寧な仕草を魅せ付ける。

 たった1ターンで、黒服の男を含めたった3人の観客はあっという間に彼女の世界に『飲まれて』しまった。

 

(くそ……あくまでアクションデュエルのスタイルを崩さねぇ気か)

 

 敵愾心を煽ったり、己を偽り油断を誘ったり……最終的には決闘者同士の『心理戦』となるこのデュエルモンスターズにおいて、相手を自分のペースに引き込むというのは中々に重要なウェイトを占める。

 相手がクラドであれば早速調子を崩されていたところであろうが、対峙するは無表情の白騎士。この手の効果は一切受け付けない。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 クラドの憤りをよそに、ユウは淡々とフェイズを進めていく。

 華美な装飾で着飾った少女の1ターンとは対照的な、必要最低限の質素な1ターン。

 

「魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》を発動。《ライトロード・ビースト ウォルフ》をコストにデッキから2枚をドローした後、更に2枚を墓地に送る」

 

 墓地へ送られたカードを確認し、召喚するべきカードを見極める。

 既に龍の息吹は手の中に。ライトロードの「落ち」が足りない今、躊躇いは無い。

 

「……手札から通常召喚、《ライトロード・サモナー ルミナス》。何もなければ効果を発動させて貰う」

「ええ、どうぞ。構いませんわ」

 

《ライトロード・サモナー ルミナス》

☆3/光属性/魔法使い族・効果/ATK 1000/DEF 1000

 

 2枚の伏せは召喚反応では無いのか、またはルミナスの蘇生先に発動するのか。

 沈黙を続ける『サプライズ』に対しても、ユウは恐れず宣言を続けた。

 

「手札の《ネクロ・ガードナー》をコストに、墓地のウォルフを特殊召喚」

 

《ライトロード・ビースト ウォルフ》

☆4/光属性/獣戦士族・効果/ATK 2100/DEF 300

 

 白銀の獣戦士が復活の咆哮を上げるが、その召喚に対して少女の宣言はない。

 訝しげに眉をひそめたのはクラドのみで、ユウはともかく――肝心の少女の口元からは微かに笑みが零れていた。

 

「……バトル。まずはウォルフでセットモンスターを攻撃」

 

 ともなれば、残る可能性は攻撃反応罠。

 そんな読みが的中したかのように、このタイミングで少女の麗しい唇が開かれた。

 

「お待ちを、ここでリバース・オープン致しますわ……さぁ、『怪演』の幕を上げましょう!! 罠カード発動、《ゴーストリック・パニック》!!」

 

 パチン、と少女が指を鳴らすと同時。勢い良く開示された罠よりも早く場の伏せモンスターがケタケタと笑いながら飛び出してきた。

 

《ゴーストリック・キョンシー》

☆3/闇属性/アンデット族・効果/ATK 400/DEF 1800

 

 現れたのは、可愛らしくデフォルメされた死人妖怪。両手を突き出した姿勢のまま、ぴょこぴょこと元気に跳ね回る。

 突然の出来事に思わず攻撃の手が緩んだウォルフだったが、その隙を突いたかのように突如、キョンシーが顔に貼り付けてあるものと同じ札が無数に張り付き――あれよあれよという間に裏側守備表示となってしまった。

 

(ラムジョレーンのゴストリ使い……やっぱり、か)

 

 苦々しい面持ちで、クラドは目の前の少女を見据えた。

 

「ゴーストリック・パニックは、自分フィールドのセットモンスターを任意の枚数表側にし、その中の「ゴーストリック」モンスターの数まで相手のモンスターを裏側守備表示に致します。今回はウォルフに効果を適用させて頂きましたわ……おやおや? どうやらこちらのキョンシーが、皆様にお友達を紹介したいようです」

 

 説明を終えた少女の下に、キョンシーがひょこひょことカードを持って近寄ってきた。

 少女はキョンシーの頭を優しく撫でながら、さながら猛獣使いのようにアナウンスする。

 

「キョンシーの効果は、このカードのリバース時に存在する「ゴーストリック」モンスターの数以下のレベルを持つ「ゴーストリック」モンスターを1枚、デッキから手札に加えることが出来ます。私が手札に加えたのは《ゴーストリック・ランタン》にございます」

 

 齢僅か14歳の、連戦連勝を重ねる天才アクションデュエリスト。

 決闘組・ラムジョレーンの次期当主という立場から根拠も無い八百長疑惑まで上がり、畏怖を込めて付いた二つ名は『幽霊姫』。

 

「……こりゃあ、最高にマズイ相手にケンカを売っちまったみてぇだな」

 

 大げさなアクションは多いが、決してパフォーマンスだけではない。そこに確かなプレイングセンスがあることを、クラドとユウはしっかりと感じ取った。

 

Trick or Surrender(降参しなきゃ悪戯するわよ)? アンリエール・ラムジョレーンの『華霊』なる決闘舞台……どうぞ、最後までお付き合い下さい」

 

 仮面を外し、真摯に向けられた勝気な眼は宝石のようなルージュ色。

 日の光を知らぬ白い肌を煌かせ、薄桃色の髪を優雅にかき上げた。

 

「……俺はバトルフェイズを終了し、エンドフェイズ。ルミナスの効果で3枚のカードをデッキから墓地へ送り、ターンエンドだ」

 

 こんなときだからこそ、ユウのポーカーフェイスが非常に頼もしく感じられる。

 本人に自信があるのか無いのかは定かでないが、気持ちとしては余裕を持って見ていられる。

 

「中々「ライトロード」が貯まらないご様子ですわね? ですが手加減をするつもりはありませんのでご容赦を。私のターン、ドローカード」

 

 ユウ  LP4000

     手札・4 モンスター・2 魔/罠・0

 アンリエール LP4000

     手札・4→5 モンスター・1 魔/罠・1

 

「まずは手札から《ゴーストリック・マミー》を攻撃表示で召喚。「ゴーストリック」モンスターは自分フィールドに『お友達(ゴーストリック)』が表側で存在しなければ通常召喚は出来ませんが……今はこの、愛らしいキョンシーがマミーの手を引いてくれていますわ」

 

 むおー、と気の抜けた雄たけびを上げて、大きなミイラ男がフィールドに出現する。

 無論、畏怖などという言葉とは無縁のコミカルな姿だ。

 

《ゴーストリック・マミー》

☆3/闇属性/アンデット族・効果/ATK 1500/DEF 0

 

「さて、皆様にも覚えがあるかと存じますが……交友の輪とは常に広がるもの。このマミーには「ゴーストリック」モンスターを更に召喚できる、そんな効果がございます。マミー、貴方のお友達もこの舞台へ呼びなさい!」

 

 そう言われても……と困ったように後ろ頭を掻くマミーの頭上に、どこからか現れた竹箒が振り下ろされた。

 バシンと軽快な音が響いたかと思えば、ぷんすかと頬を膨らました魔女の少女がいつの間にかマミーの肩に座っていた。

 その不満そうな表情はまるで「友達ならこの私がいるじゃない!」とでも言いたげだ。

 

《ゴーストリックの魔女》

☆2/闇属性/魔法使い族・効果/ATK 1200/DEF 200

 

「さて、ここでお目見えしました魔女の効果を発動。1ターンに1度、相手モンスター1体を裏側守備表示にする『魔法』を掛けさせて頂きます。その対象は……」

 

 フィールドの景色は暗転。軽快なドラムロールと共に、三原色のスポットライトがフィールドをせわしなく行き交う。

 

「――Ms(ミス).ルミナス!!」

 

 ドラムロールのフィニッシュと共にライトが収束したのは、ルミナスの立つモンスターゾーンだった。

 光に照らされきょとんと首を傾げる褐色の美女に、にひひと悪戯な表情を浮かべた魔女が魔法のシャワーを浴びせかける。刹那ルミナスは反転、無機質なカードの裏面をフィールドに映し出した。

 

「くそ……完全に相手のペースだ」

 

 忌々しげに呟くクラドが、ユウとアンリエールのフィールドを見比べる。

 ゴーストリックは低ステータスなモンスターが多い反面、カテゴリ内サーチや表示形式変更……特に裏側守備表示に関する能力を持つものが多い。

 攻撃力の高いモンスターを守備表示にし、低ステータスのモンスターで突破するというのは古くから存在するデュエルモンスターズの基本戦術だが、奇しくも守備力の低いライトロードが2体並んでいたことが災いした。

 

「続きましてキョンシーの「ゴーストリック」共通の効果を発動。1ターンに1度、裏側守備表示に変更することが出来ます。キョンシー、休め(レスト)!」

 

 指を鳴らす合図と共に、キョンシーが即座に裏返る。カードの裏に隠れるような様が何とも可愛らしい。

 

「モンスターの表示形式変更は1ターンに1度のみでございますが、今しがたの形式変更はあくまで『キョンシーの効果』によるもの。よってキョンシーの形式変更は再度可能となります。キョンシー、起きて(ムーブ)!」

 

 隠れたばかりのカードの裏から、文句の一つも言わずに飛び出すキョンシー。

 その小さな手にはしっかりと「ゴーストリック」モンスターのカードが握られていた。

 

Good Boy(良い子ね)♪ 私は手札に2枚目の《ゴーストリック・ランタン》を加えますわ」

 

 キョンシーの頭を撫でるアンリエール。その姿はまるで猛獣使いだ。

 そんな彼女の優しげなルージュが、一際妖しく輝いたのは一瞬のことだった。

 

「――では、そろそろご覧に入れましょう。我がゴーストリック・ファミリーの真骨頂を……」

 

 スッ、と優雅に掲げられたアンリエールの右腕。

 その先の虚空に、光の粒子が渦を巻き始める。

 

「私は、☆3のマミーとキョンシーを『オーバーレイ』!」

 

 再び鳴り響く指の号令。

 気合十分の表情のまま、マミーとキョンシーは互いに紫の光球となって空へと駆けていく。

 

「2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 いつの間にか勢いを増し、光の奔流となった渦の中へ飛び込んでいくマミーとキョンシー。

 

「奇怪なる館の主よ、漆黒を翻し騒乱の夜を収めなさい……エクシーズ召喚!!」

 

 星々の輝く宇宙にも似たその幻想的な光景は直後、虹色の終焉爆発(ビッグバン)を引き起こした。

 

(ランク)3、《ゴーストリック・アルカード》!!」

 

《ゴーストリック・アルカード》

★3/闇属性/アンデット族・エクシーズ・効果/ATK 1800/DEF 1600

ORU(オーバーレイ・ユニット):2

 

 2つの光珠、オーバーレイ・ユニットを衛星のように従えて、威厳ある吸血鬼が音も無く静かに降り立った。デフォルメされてはいるものの、他のゴーストリックとは明らかに違う、威圧的な何かが漂っている。

 

「エクシーズ召喚……(ノワール)のお家芸が出やがった……!」

 

 モンスター・エクシーズ。同じレベルのモンスター2体を素材とし、ORUとして保持。レベルの代わりに『ランク』を持ち、エクストラデッキから特殊召喚される強力なモンスター郡。シンクロモンスターと並ぶその高い価値を良く知るクラドは、思わず息を巻いた。

 『悠久の黒』はエクシーズ発祥の地としても有名であり、もはや執着と言っても良いほど黒の大陸出身者はエクシーズ召喚に固執する傾向がある。

 その気質は、ラムジョレーンのように古くからある家系には顕著に現れているらしい。

 

「騒がしき夜を統べる主の技、とくとご覧あれ……アルカードの効果を発動!」

 

 そう言いつつアルカードの前へ躍り出たアンリエールの姿は、アルカードの羽織る漆黒のマントの中へとすっぽり隠されてしまった。

 決闘者の宣言もなしに、アルカードはORUを1つ吸収すると、その力を得て闇の中へ溶け込むように姿を晦ました。

 

「なっ……決闘者ごと消えやがった!?」

 

 慌てふためき、あちこちを見渡すクラドを尻目に、アルカードは……正確には彼のマントが、裏側守備状態のウォルフの上に覆いかぶさった。

 少しくぐもったように響く『破壊』のエフェクト音。その後人の形に膨れ上がったマントの中から姿を現したのは……にっこりと微笑んだアンリエールだった。

 

「なッ!?」

 

 驚き、反応を示すのはクラドだけだったが、アンリエールは優雅に一礼するとマントと共に弧を描いて宙を舞い、元の立ち位置へとふわりと着地して見せた。

 

「1ターンに1度。自身のORU1つを使い、セット状態のカード1枚を破壊する主の効果……お楽しみ頂けましたでしょうか?」

 

 アクションデュエル風の演出に半ば呆然としつつも、クラドはしっかりと気を保ち『取り巻き』に徹する。

 

「くそ、ふざけやがって……!」

「ふざけてなどいませんわ。これが我がラムジョレーンのデュエル。私の誇り(スタイル)を改めさせたいというなら……力ずくで捻じ伏せて御覧なさい? 最も――」

 

 挑発するように仰向けられた手を、ゆっくりと差し向ける。

 

「そんなことが可能であれば、ですけど。バトル!!」

 

 優雅な雰囲気は一転。狩りに興じるルージュの瞳は、鋭く標的を捕らえる。

 

「まずは魔女でセットモンスターをアタック!」

 

 主の前で張り切っていたのだろうか。魔女はおぼつかない足取りで裏側守備状態のルミナスの元へ駆け寄っていくと、ばしばしと何度も箒で叩き始めた。

 一瞬、困ったような表情で箒の猛攻に耐えるルミナスが映し出されたが、すぐに破壊のエフェクトが入ってしまった。

 

「続けて、アルカードでダイレクトアタック!」

 

 これで道は開けたとばかりに、間髪いれずアルカードが使い魔である無数の蝙蝠を飛ばした。ユウ(ひょうてき)目掛けて一直線に飛び掛っていくが――。

 

「……墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外し、攻撃を無効にする」

 

 ネクロ・ガードナーの幻影がユウを包み、間一髪1800のダイレクトアタックを防いだ。

 

「ま、そうするしかありませんわよね? それではメイン2に移りましょう。主とて忙しき身、ファミリーの悪戯に付き合うのもこのターンのみ……後は『彼女』に任せると致しましょう」

 

 再び掲げられるアンリエールの右腕。

 場にはもうエクシーズ召喚に必要な『同じレベルのモンスター』は存在しない筈。しかしそんな疑問を浮かべるクラドの訝しげな表情とは裏腹に、先の光の奔流は寸分違わず出現していく。

 

「私は、場のアルカードでオーバーレイ・ネットワークを『再構築』!」

 

 アルカードがその身をマントに包み込み、光の奔流の中へと飛び込んだ。

 

「なっ!? おいおいふざけんな、その召喚方法は……!!」

 

 悲鳴にも似たクラドの叫びは、エクシーズ召喚の爆発音に掻き消える。

 

「エクシーズチェンジ!! ★4、《ゴーストリックの駄天使》!!」

 

《ゴーストリックの駄天使》

★4/闇属性/天使族・エクシーズ・効果/ATK 2000/DEF 2500

ORU:2

 

 アルカードに代わって現れたのは、ひらひらと手を振る桃髪の女性型モンスター。

 さながら鍵盤のような色合いの白黒が織り交ざる妙な羽根を持つ彼女は、『駄』天使の名が示すとおり、何ともいい加減な雰囲気が漂っている。

 

「成金エリートちゃんめ、エクシーズチェンジなんて高等召喚を易々と……」

「実力あってこその『高等』ですわ。駄天使の効果を発動、ORUを1つ使い、デッキから「ゴーストリック」の魔法・罠カード1枚を手札に加えます。選択するのはフィールド魔法《ゴーストリック・ハウス》!」

 

 クラドの文句もさらりと流し、アンリエールは駄天使が雑に投げて寄越した1枚のカードを受け取ると、更に宣言を付け足した。

 

「そして今、ORUととして墓地へ送られたアルカードの効果を発動。このカードが墓地へ送られたとき、墓地のこのカード以外の「ゴーストリック」カード1枚を手札に加えます。主よ、しばしお休みを……選択するのは、先程アルカードの効果でORUととして墓地に落ちていたキョンシー!」

 

 これでアンリエールの手札は6枚。展開されたモンスターは最終的には2枚。

 だがユウの受けた損害は大きく、これだけのカードをプレイして尚、6枚もの手札を抱えているというのは明らかに異様だ。

 その異様は、彼女の実力がどれほどのものかを悠然と語っていた。

 

「それではこのターンの最後に、皆様をファミリーの愉快な根城へと招待致しましょう。《ゴーストリック・ハウス》発動!」

 

 周囲の景色が移り変わり、ところどころに蜘蛛が巣を張る、雑多に物が散らかった洋館の大部屋が出現した。

 

「ゴーストリック・ハウスの発動中は、お互いに裏側守備表示のモンスターを攻撃対象に選択できず、表側表示のモンスターへの攻撃以外は全てプレイヤーへのダイレクトアタックとなります」

 

 その効果を聞いて、クラドはそれとなく安堵した。

 直接攻撃が通りやすいということは、カードパワーのあるユウのライトロードにとっては寧ろ有利なのではと考えたからだ。

 

「ただし。「ゴーストリック」以外のモンスターが相手に与えるダメージは、全て半分となりますわ」

 

 そんな希望も一瞬の煌き。敵の妨害を潜ってようやく与えるダメージが半減するとなれば、間違いなく苦戦を強いられるだろう。

 

「魔女の効果で自身を裏側守備表示へ変更し、バックカードを1枚伏せてターンエンドと致しますわ」

 

 本来であれば裏向きのカードとして姿を残すセットモンスターだが、ハウスの効果からか魔女の隠れたカードは溢れる品物の数々に紛れて姿を眩ました。

 アンリエールの圧倒的な第一幕。ダメージこそ無かったものの、その余裕溢れる表情が示す通り状況は一方的なまでにあちらへ傾いている。

 

「……俺のターン。カードをドロー」

 

 ユウ  LP4000

     手札・4→5 モンスター・0 魔/罠・0

 アンリエール LP4000

     手札・4 モンスター・2 魔/罠・3

 

「俺は手札から《マスマティシャン》を召喚」

 

《マスマティシャン》

☆3/地属性/魔法使い族・効果/ATK 1500/DEF 500

 

「モンスター効果発動。召喚成功時、デッキから☆4以下のモンスター1体を墓地へ送る。選択するのは《ライトロード・アーチャー フェリス》」

 

 白髭を伸ばした数学者モンスターが唱える奇怪な呪文により、デッキから1枚のカードが墓地へと落ちる。刹那、地に描かれた紫色の魔方陣――墓地から半獣の女弓兵が躍り出た。

 

「フェリスの効果。モンスター効果によりデッキから墓地へ送られた時、墓地から特殊召喚される」

 

《ライトロード・アーチャー フェリス》

☆4/光属性/獣戦士族・チューナー・効果/ATK 1100/DEF 2000

 

「続けて。手札から装備魔法《幻惑の巻物》を発動し、マスマティシャンに装備。その効果により属性を光へ変更」

 

 効果は属性変更のみという、見方を変えれば非常に頼りない装備魔法。A・O・J等の光属性メタへの対抗策として試験的に投入したと聞いていたクラドだったが、その狙いに気付き頬を緩めた。

 

(……へぇ。成程なセンセー、そういう使い方もあるか)

「俺はチューナーモンスター・フェリスに、『光属性となった☆3の』マスマティシャンをチューニング」

 

 黒の奇術に対抗するは、白き栄光の剣。

 弓兵は調律の緑輪となり、力無き数学者の肉体を変質させていく。

 なるほど。かのカードを呼ぶためには、地属性(そのまま)では都合が悪い。

 

「古の守り手、伝説の彼方より再来せん。シンクロ召喚、《ライトロード・アーク ミカエル》」

 

《ライトロード・アーク ミカエル》

☆7/光属性/ドラゴン族・効果/ATK 2600/DEF 2000

 

 光を纏い、散らし。黄金の竜騎士が降り立つ。

 他の☆7シンクロを差し置き、わざわざ装備魔法まで使用してまでミカエルを呼んだのはカードパワーが高いという以外にも、墓地へ送られる「ライトロード」の数を増やしたいという理由があった。

 言われてみれば頷ける理由だが、それはつまり裏を返せば「ミカエルが破壊される」ことを前提に構築された戦術、ということになる。ユウは既に、そんな状況まで想定しているのだ。

 

「おやおや……無駄に高レベルなモンスターばかり連打する、無粋なシンクロ召喚でございますか。では私は、ここでリバースカードを発動させますわ」

 

 呆れたような溜め息をついて、アンリエールは伏せカードの1枚に手を掛けた。

 

「罠カード《ゴーストリック・アウト》を発動。このカードが発動したターン、自分の「ゴーストリック」カード、及び裏側守備表示のモンスターはカード効果の対象にならず、効果によっては破壊されません」

 

 姿を眩ました魔女は元より、守備表示で控える駄天使すら半透明と化し、あらゆる破壊効果を受け付けない無敵状態と化した。恐ろしいのは、その効果範囲がフィールド魔法である《ゴーストリック・ハウス》にも適用されているということだ。

 これにより、ミカエルの『対象を取る』効果である除外能力は完全に標的を失ったことになる。唯一、残った相手の伏せカードを除いては。

 

「……ミカエルの効果。そちらのバックカード1枚を選択し、ゲームから除外する」

 

 ユウ LP4000→3000

 

「ではその効果にチェーン致しますわ。《ゴーストリック・パニック》発動!」

 

 突如、どこからか表返った魔女が飛び出し、ミカエルの頭に竹箒を叩きつける。

 驚いた様子のミカエルは目を見開いて魔女を眺めたが、彼女の「あっかんべー」を最後の光景に、裏向きのカードとしてハウスの中へと紛れてしまった。

 

「おいおい嘘だろ!? あのミカエルがこうもアッサリ!?」

 

 頭を抱えてこの世の終わりの如く叫ぶクラド。

 しかし当のポーカーフェイスはやはりというべきか、動じる様子も無く淡々とターンの終了を宣言した。

 

「……カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 ユウがそう宣言するや否や、クラドの頭の中では「一体どれくだけレアカードを差し出せば『半殺し』位で済むだろうか」という不毛な計算が続けられていた。

 最も、駄天使よりも価値が高いカードは彼が商品として所持しているカードの中には存在しないのだが。

 

「では私のターン、ドローカード。まずは駄天使の効果を発動し、デッキから《ゴーストリック・アウト》を加えますわ」

 

 やる気なく駄天使が放り投げたカードを受け取ると、アンリエールはしばし考え込んだ。

 ハウスの効果により全てのモンスターが直接攻撃を叩き込めるこの状況であれば、モンスターが与える総ダメージは3200。そんな勝利への一手を鈍らせるのは、たった1枚の伏せカードだ。

 ライトロードはその性質上、デッキへの罠カード投入率はゼロに等しい。採用したとしても、墓地に落ちても効果を発動出来る《ブレイクスルー・スキル》等がほとんどだ。本来なら懸念される《激流葬》の可能性は無いと断言しても良い。

 だが……おいそれと採用するにはあまりに異質と言える《幻惑の巻物》が投入されていたその事実が。駄天使の効果に対して何の反応も無かったことが、アンリエールの疑心を煽るのだ。

 

(決闘初心者なのか、単なるブラフなのか……けど、どちらにせよここは)

 

 このターンで無理に攻める必要は無い。手札に加えた《ゴーストリック・アウト》が発動出来、確実に攻撃を通せる次のターンまで待つことにした。

 

「バトル、私は駄天使でダイレクトアタック!」

 

 召喚行為を回避し、攻撃反応型罠の可能性も読み、攻撃命令は駄天使のみに下された。

 白黒の斑な羽が、まるで矢のようにユウへ向かって飛んでいく。

 

「…………」

 

 ユウ  LP3000→1000

 

「少し癪ではありますが、貴方の目論見通り1ターン猶予を差し上げますわ。私は魔女を裏側守備表示にし、モンスターとバックカードを2枚伏せて、ターンエンド」

「……俺のターン、ドロー」

 

 ユウ  LP1000

     手札・2→3 モンスター・1 魔/罠・1

 アンリエール LP4000

     手札・3 モンスター・3 魔/罠・3

 

「……まずはミカエルを反転召喚」

「構いませんわ。ライフコストが払えず、効果も発動出来ないようですし」

 

 ケタケタと見下したように笑うアンリエール。

 彼女の言う通り、このままではミカエルの効果はおろか、後に控える龍の効果も発動出来ない。

 それでもユウは顔色1つ変えず、手札のカードに手を掛けた。

 

「……俺はミカエルをリリースし、アドバンス召喚。《ライトロード・エンジェル ケルビム》」 

 

《ライトロード・エンジェル ケルビム》

☆5/光属性/天使族・効果/ATK 2300/DEF 200

 

 ミカエルの魂が供物となり、長身の天使が光臨する。

 ここで表情を変えたのは、アンリエールの方だった。

 

「……ケルビムの効果を発動。対象は2枚の伏せカードだ」

「させませんわ! その効果にチェーンして《ゴーストリック・アウト》発動、更にチェーンを重ねて《エクシーズ・リボーン》発動!」

 

 僅かに焦りの色を覗かせて、対象となった伏せカード2枚を全て開示する。

 

「エクシーズ・リボーンは、自分の墓地のモンスター・エクシーズ1体を特殊召喚し、このカードをORUと致します。主よ、今1度お目覚めを!」

 

 墓地で眠りについていたアルカードが、唸るような笑い声と共に再びフィールドへ舞い戻った。その周囲にはORUとなったエクシーズ・リボーンが漂っている。表示形式は守備表示だ。

 

「……デッキの上からカード4枚を墓地へ送り、効果を処理。対象としたカードが消費された為、破壊されるカードは無い」

 

 ケルビムは「ライトロード」モンスターをリリースして召喚された時、コストとしてデッキから4枚のカードを墓地へ送って相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する。

 ゴーストリック・アウトが伏せられていたことは前のターンで露見していた為、ユウの狙いは『アウトの消費』と『詳細不明の伏せ1枚の確認』だったのだろう。

 その狙いは功を奏したものの……結果として、相手フィールドのモンスターはこのターンも効果によって破壊されない状態となった。

 ――だが。これで『条件』は揃った。

 

「……墓地のライトロードは4体以上。召喚条件を満たしたことで、手札からこのカードを特殊召喚する」

 

《裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)》

☆8/光属性/ドラゴン族・効果/ATK 3000/DEF 2600

 

 2ターンの沈黙を破り、白き龍が咆哮を上げる。

 しかしその真価を発揮するには、ユウは傷を負い過ぎていた。

 

「来ましたわね。ですがそのような燃費の悪い高レベルモンスターなど、既に脅威ではありませんわ。先に説明しておきますが……アルカードが表側で場に存在する限り、他の「ゴーストリック」モンスターを攻撃対象に選択することは出来ません。さ、どうされます?」

 

 裁きの威光を前にしても平然とそう言ってのけたアンリエールに、ユウは淡々と告げた。

 

「……バトル。ケルビムでアルカードを攻撃」

 

 魔法杖を振りかざし、光魔法を放つケルビム。

 ゴーストリック・アウトは効果による破壊から守ることは出来ても、戦闘に関しては何の効果も付加されない。マントで体を覆い、最期まで優雅な振る舞いのまま、アルカードは魔法攻撃にその身を砕かれた。たった1枚のカードを使い手(テイマー)に遺して。

 

「アルカードの効果。墓地のマミーを手札に加えますわ」

「……裁きの龍で駄天使に攻撃」

 

 怪奇の闇を打ち払う光のブレスが、今放たれんと収束を始める。

 アルカードの美しい最期とは打って変わり、駄天使はあたふたとフィールド内を走り回り、ハウスに散らかった何かに足を取られ盛大に躓いた。

 そんな彼女に、裁きのブレスは容赦なく降り注ぐ。「ヒドイ!」と言わんばかりの悲鳴を上げて、駄天使もアルカードの後を追った。

 

 アンリエール LP4000→3500(ハウスの効果でダメージ半減)

 

「……エンドフェイズ。裁きの龍の効果でデッキからカードを4枚墓地へ送り、ターンエンド」

 

「では、私のターンですわね……ドローカード!」

 

 ユウ  LP1000

     手札・1 モンスター・2 魔/罠・1

 アンリエール LP3500

     手札・4→5 モンスター・2 魔/罠・1

 

 手札を眺め、にんまりと口端を上げたアンリエールは静かにユウへ向かって一礼した。

 

「さて、この辺りでショーの閉幕と致しましょう。光栄に思いなさい、私がこのカードを使うということは……貴方をショーの見せ物ではなく、倒すべき決闘者(てき)として認めたということなのですから」

 

 アンリエールの眼が鋭く、より妖艶な輝きを放つ。

 その意味を推測するより早く、アンリエールはドローしたカードをそのままディスクへ差し込んだ。

 

「魔法カード発動、《生者の書―禁断の秘術―》! 墓地のアンデット族1体を蘇生し、代わりに相手の墓地のモンスター1体をゲームから除外しますわ! 選択するのはミカエル!」

 

 ミカエルがゲームから除外され、アンリエールのフィールドに現れたのはゴーストリックの主アルカード。その表情に不服の色は全く無い。

 

「何だよ、もったいぶって使った割りに、たかが専用蘇生カードかよ……」

「頭の悪い不快害虫さんはお黙り下さいな。気が散ります」

 

 冷たい眼差しをクラドに向けて、アンリエールはすぅと深呼吸をした。

 その様子は、まるで危険な綱渡りを行う前の、曲芸師の精神統一。

 

「――私は。場のアルカードでオーバーレイ・ネットワークを再構築!!」

 

 宙に浮かぶ光の奔流。そこへ身を投じるアルカードの表情にも、心なしかそれまでの余裕が感じられない。

  妖しく、妙に張り詰めた空気。エクシーズ召喚のエフェクトが巻き起ころうとも、その緊張は解かれることは無かった。

 駄天使ではない。いや、そもそも『そういう』枠組みのカードですらない。

 

「――法嗤う無限面相。混乱の夜を駆け、真の身を明かしなさい!! エクシーズチェンジ!!」

 

 ソレが姿を現す、ほんの一瞬前。ユウの脳裏を過ぎった最悪の予想は、アンリエールの言葉を借りて現実のものへと具現化した。

 

 

「★4、《―**(アスタリスクス)怪黒兎(ファントム)》!!」

 

 

 まるで御伽噺のキャラクターのような人型の兎モンスターが、くぐもった嗤いを漏らす。

 身を覆うは、黒の体毛と闇色のタキシード。

 

 《その名》を冠する2体目のモンスターが、姿を現した。




被お気に入り数、UAが大きく増えました(慌

感想・評価を頂いた皆様、お気に入り登録をして頂いた皆様、ありがとうございます。

ご期待に沿えるよう、これからも更新を頑張っていきたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。