星降る夜のイヴ   作:野生のムジナは語彙力がない

4 / 6
お帰りなさい、指揮官様!

12月31日に続きを出すという約束が守れず申し訳ありませんでした。一応、この第3話で終わらせる予定でしたが、それよりも期限を守りたく思い、キリのいいところで終わらせました。

というか、今更エレインとポーラのクリスマススキン出すって……ダッチー遅すぎなのです! もう彼女たちを入れる余地なんてないのです……いや、でもポーラだけならなんとか……?

まあまあ
それでは、続きをどうぞ……

追、あけましておめでとうございます。


第3話:わかりあいのイヴ

 

 

「余のものになれ、凡人」

 

 

 

(…………)

 

青と赤、美しいオッドアイで至近距離から見つめられ、まるでプロポーズ[逆だが]とも受け取れるスロカイの言葉に、指揮官はどう答えて良いか分からず沈黙していると……

 

「ん? 凡人、何を考えている?」

 

(え?)

 

次の瞬間、スロカイはニヤリと笑った。

 

「余が凡人のことを欲しいと言ったのは、あくまでも機械教廷の教皇としての言葉だ。余の下で、余の右腕として采配を振るうことができるのだ、これ以上光栄なことはなかろう」

 

(ああ、そういうことで)

 

スロカイの放つ甘い雰囲気に呑まれてしまっていた指揮官だったが、つい先ほども彼女が指揮官のことを『教廷に欲しい』という事を言っていたことを思い返し、ため息を吐いた。

 

「おい、何をガッカリしている?」

 

(いえ、そんなことは……)

 

「正直に言ったらどうなのだ? 機械教廷の教皇であるこの余に求愛されているのだと勘違いしていたのだと……フフフ、身分違いも甚だしいぞ、凡人〜」

 

しかし、言葉の内容とは裏腹にスロカイの表情は明るかった。指揮官の抱いた煩悩を追求するかのように、指揮官の頰を指の先でぐりぐりとした。

 

(ま、まさかそんな畏れ多い……)

 

「強がるなよ、愛い奴め〜」

 

ひとしきりに指揮官のことを弄り回し、年相応の笑みを浮かべるスロカイ。そんな彼女の笑顔を見ていると、指揮官は心の中に温かいものを感じるのだった。

 

「ところで……いつになったらお前は機械教廷に来るのだ?」

 

(あ、その話ってまだ生きてたんですね)

 

「はぁ……余がこの言葉をお前に告げたのは、これで何回目か分かっているのか? 凡人、お前と言う奴は……本当に人を待たせてばかりだな?」

 

指揮官がそう答えると、スロカイは眉を潜めて不満そうな表情になった。

 

指揮官がスロカイから『機械教廷へ来い』と言われたのは今回が初めてではなかった。スロカイは指揮官に会う、もしくは文通や通信といった直接顔を合わせないようなやり取りの中でも、毎回必ずと言っていいほど指揮官のことを機械教廷に誘っていた。

 

「今なら誰よりも手厚く扱ってやるぞ? まあ、それでもマティルダには遠く及ばぬがな」

 

(……申し訳ありません)

 

スロカイの最後に付け加えたひと言に苦笑いしつつ、指揮官は首を小さく横に振った。

 

(自分にはまだやるべき事があります。それを成し遂げるまでは、そして自分のことを信じて付いてきてくれている仲間の為にも……)

 

指揮官が言葉を続けようとしたところで、スロカイの人差し指が、指揮官の唇に触れた。

 

「だから、今はまだ答えを出す事ができない……だろう?」

 

口を塞がれた指揮官が小さく頷くと、スロカイは「まあ、そうだろうな」と妙に納得したような顔をして頷いた。

 

「全く……お前はいつもそうやって決断を先送りにするな? ふん、なるべく早く答えろよ? 余もあまり気が長い方ではないのでな」

 

(申し訳ありません)

 

スロカイの提案に指揮官は答えず、ただ謝るのみ……これが2人のいつもの流れだった。

 

「ところで、凡人」

 

(何ですか?)

 

「何故に、余が凡人のことをこうもしつこく誘っているのか分かるか?」

 

(……戦力増強と外交の為ですか?)

スロカイの問いかけに、指揮官は少しだけ考えてそう答えた。

 

指揮官の創設した傭兵組織は、構成員の人数や領域的な意味での規模はそこまで大きくないものの、剣聖を始めとする世界各地の猛者たちを多く抱え、今や数多ある傭兵組織の中では世界最強とまで呼ばれるようになっていた。

 

また、傭兵組織の最高権力者である指揮官は日ノ丸、極東、ブリテン、ヴァルハラなど……世界各地の要人と繋がりがあり、時と場合によっては彼らを従えられるだけの権限すら持っていた。

 

なので指揮官を配下に置くということは、世界各地の猛者を従えることと同義……実質的な戦力の増加を意味し、さらには指揮官と繋がりのある国家に対する外交的なイニシアチブを持つということも含まれていた。

 

指揮官がその事について話すと……

 

「はぁ、分かっていないな凡人は」

 

スロカイはそう言って肩をすくめて見せた。

 

「確かに……凡人の持つ兵たちも、世界に通じる権限も、機械教廷を統べる余としては大変魅力的なものではある。しかし、それ程でもない」

 

(では何故……?)

 

指揮官が改めて尋ねると、スロカイは優しげな……本当に信頼できる者にしか見せないような笑みを浮かべて

 

 

 

 

 

凡人だから良いのだ

 

 

 

 

 

(……スロカイ様、それはどういう事で?)

 

意味ありげなそんなことを言って、また自分のことをおちょくるつもりなのだろうか……? 指揮官がそう思っていると

 

「余は、凡人の持つ優しさに惹かれた」

 

(え?)

まさか純粋に自分のことを……?

スロカイの言葉に、指揮官はそう思いかけるも

 

「フフフ……知っているか? 女が男を褒める時の『優しい』という言葉は、他に褒める所がない時によく使われるものだ……まあ、それにも関わらず世の男どもは大体、それで良い気になってしまう程に単純な生き物なのだがな」

 

(酷い言われようですね……)

 

それはつまり、自分に魅力がないと言いたいのだろうか? 気落ちしたような感じで指揮官がそう思っていると……

 

「まあ……凡人はその限りではないがな。お前は優しく、気配りができる。人の心に敏感で、傷ついた者には親身になって寄り添う事ができる。無論、そうならないように対策を取ることもできる。常に仲間のことを1番に考え、信じて付いてきてくれる者の為ならば、自分を犠牲にすることも厭わない姿勢には何とも惚れ惚れとさせられる。オマケに戦上手……戦略家としては、余を凌ぐほどの才能があると言っても過言ではないだろう」

 

(えっと……)

急なベタ褒めに指揮官が戸惑っていると……

 

「んっ……」

 

スロカイは体を起こし、指揮官の膝の上でお姫様抱っこをしているような状態から……指揮官の真正面、対面する形で、膝の上に座るような状態になった。

 

(スロカイ様)

 

「どうした凡人?」

 

(近いです)

 

「フッ、逃さぬよ」

 

目の鼻の先にまで迫ったスロカイに、たまらなくなった指揮官が顔を逸らそうとするも、スロカイは指揮官の頰を両手で優しく包み込むと、指揮官の視線を自分の方へ向けた。

 

「影麟など、人の身でありながら機械教廷に欲しいと思った者はこれまでにもいた」

 

やや上目遣いの状態で、スロカイは続ける。

 

「だが凡人、お前以上に欲しいと思える人物はいなかった。いや、おそらくこれから先もお前以上はないだろうな……そう思えるほどに、余はお前に心酔している」

 

(スロカイ様)

 

「何だ?」

 

(もしかして……今、口説かれてます?)

 

「今頃か、凡人」

 

スロカイはイタズラっぽく笑った。

 

「本当にお前はおかしな奴だ。戦や仲間の事となると鋭い直感を発揮するクセに、自分のこととなると鈍いものがあるよな、凡人は」

 

(すみません……)

 

「まあ、いつも人を長々と待たせるところとなど、それ以外にも欠点も沢山あるがな……だが、凡人はそれで良い。完璧なのは余1人だけで十分だからな」

 

そう言って、スロカイは指揮官の胸板を撫でた。

 

「見てくれも良い。それに……」

 

そこでスロカイは、指揮官の膝の上に深く腰を下ろした。そして両腕を指揮官の背中に回し、抱きしめるように体を密着させ、つい先ほどもしたように、いつのまにか大きく成長した胸を押し付けてきた。

 

(……っ)

服越しに感じられる柔らかな感触。

彼女の髪の毛から漂う甘い香り……ツンとした香水のキツイ香りではない、ふんわりとした優しい自然な香りが、指揮官の鼻孔を刺激した。

 

早鐘を打つ2つの鼓動、密着した部分に生じた心地よい温もりは、2人分の体温が混じり合っただけではないようだった。

 

「んっ……体の相性も悪くないようだしな?」

 

スロカイは指揮官の首元に顔を埋め、スンスンと指揮官の匂いを嗅いだ。そのなんとも言えない心理的なくすぐったさに、指揮官は思わず熱い吐息を漏らした。

 

「フフフ……良い顔だ、凡人」

 

(そう言うスロカイ様だって……)

 

顔を上げたスロカイの表情は、色っぽく上気していた。

 

「ふん、小癪な」

 

名残惜しそうにしながらも、スロカイは指揮官から体を離し、膝の上に座り直した。

 

「余は全てを持っている、どんなものでも手に入れる……そう、それが例え凡人であっても」

 

スロカイは指揮官の頰に自分の頰をくっつけ、それから耳元へ囁くようにして続けた。

 

「凡人よ。余はお前の持つものに興味はない」

 

 

 

 

 

それよりも、お前と作る未来の方が重要なのだ

 

 

 

 

 

「だからこそ余の隣に立て。上でもなければ下でもない、同じ立場、立ち位置として……余の隣に立つことを許そう」

 

(スロカイ様……ですが)

そう言いかけたところで、スロカイの人差し指がそっと指揮官の唇に触れ、言葉を妨げた。

 

「言わずとも分かっている。お前にも今の立場があると、今は余の誘いに応じられないと……ならば、既成事実を作るまでだ」

 

スロカイの顔が再び指揮官の目の前に来る。

 

「凡人、目を瞑れ」

 

(スロカイ様、よろしいのですか?)

 

「いいから瞑れ」

 

(……はい)

 

言われるがまま、指揮官は目を瞑った。

 

「知っているか? 己が欲しているものを他人に奪われないようにする方法……」

 

スロカイは指揮官の頰を両手で優しく包み込んだ。

 

 

 

 

 

「奪われる前に、奪うことだ」

 

 

 

 

 

体が傾く気配

 

 

 

徐々に迫る、2人の距離

 

 

 

口先に当たる彼女の吐息

 

 

 

触れずとも、お互いの体温すら感じられる

 

 

 

唇が触れ合……

 

 

 

 

 

「なんてな」

 

(……っ!)

 

次の瞬間、スロカイは指揮官の頰をつねった。

 

(なんで……)

 

「残念ながら、時間切れのようだ」

 

(え……)

 

呆然とする指揮官。それを尻目にスロカイは膝の上からさっさと降りると、何食わぬ顔をしてソファへと戻り、また優雅にお茶を飲み始めた。

 

(…………っ!)

 

その瞬間、応接室の扉が勢いよく開かれた。

 

「指揮官様!」

「陛下!」

 

扉を蹴り飛ばすようにして応接室に現れたのは睦月とマティルダだった。しかも、2人とも体から殺意に満ちたドス黒いオーラを撒き散らしている。

 

「「あれ?」」

 

当初は怒りに満ちた表情の2人だったが、普通にソファに座っている指揮官とスロカイを見ると、途端に拍子抜けしたような顔になり、それから毒気が抜けたのか、黒いオーラの放出が嘘のように止まった。

 

「どうした、マティ?」

 

「いえ、何か嫌な予感がしたもので……」

 

スロカイがカップをソーサーに戻し、マティルダへ視線を送ると、銀髪の少女は首を傾げてそう告げた。その手には、斬れ味の鋭いパワーソーが握られている。

 

「睦月もラブコメの波動を感じたので……」

 

(き、気のせいだよ……)

 

そう言う指揮官に、睦月は疑問符を浮かべて周囲を見回した。その手には、まだ料理の途中だったのだろう……鈍い銀色の輝きを放つ料理包丁が握られていた。

 

「指揮官様、少しよろしいでしょうか?」

 

そう言って睦月は指揮官の元へ近寄ると、包丁を手にしたまま、指揮官の体に鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅ぎ始めた。

 

(あの、危ないからそれは置いておこうね……)

 

手にした包丁を理由に、睦月に退いてもらおうと考えた指揮官だったが、睦月は熱心に指揮官の匂いを嗅いでおり、全くと言っていいほど離れようとしなかった。

 

指揮官はヒヤヒヤとしながらそれを見ていると……

 

「……ん……許容範囲内ですね」

 

睦月はそう言って顔を上げ、にっこりと笑った。

 

……あ、大丈夫なんだ

つい先ほどまで、スロカイと思いっきり密着していたことからヤバイと思っていた指揮官だったが、それを聞いて内心ホッとした。

 

……きっと部屋中に広まった紅茶の甘い香りのお陰なのだろう。それと、スロカイ様も香水とかつけていなかったみたいだし

 

指揮官はそんなことを考えながら……しかし、自身の心を気取られないように、自然な風を装って睦月へ小さく笑いかけた。

 

「あの、指揮官様」

 

(どうしたの?)

 

「どうして両腕を上げているのですか?」

 

(あ、これ? 何でもないよ)

 

睦月に言われ、指揮官は両腕を下ろした。最初にスロカイから手を上げろと言われてから、ずっと頭の後ろに置いていたままだった。

 

「そんなことよりマティ、宴の準備は整ったのか?」

 

「いえ、ですがもう間もなくと言ったところです。終わり次第迎えに行きますので、陛下はここでお待ちになっていてください」

 

マティルダはスロカイの前で一礼した後、開けっ放しの扉をくぐって通路へと戻っていく……

 

「……まあ、今日くらいはいいでしょう」

 

去り際に、マティルダはそんな言葉と共に指揮官へ視線を送った。どういう意味なのかと指揮官が疑問符を浮かべた時には、もうマティルダの姿は見えなくなっていた。

 

「それでは睦月もお料理の続きに戻りますね〜」

 

(あ……ああ、お願い)

 

睦月は屈託のない笑みを浮かべ、そそくさと退散を始めた。しかし去り際に、扉の取っ手を掴んで指揮官へと振り返ると……

 

「指揮官様〜、信じていますからね?」

 

睦月は笑っていたが、それが人が『楽しい』や『嬉しい』を感じた時に現れるような笑みではないことは一目瞭然だった。何故なら、睦月の手の中で……鉄で出来ている筈の扉の取っ手が、睦月の力によってぐにゃりと折れ曲がってしまったからだった。

 

(あ、はい)

 

「ふふふ……」

 

睦月は指揮官が頷いたのを見届けると、満足したのかそのまま扉をくぐってキッチンへと戻って行った。

 

「だ、そうだが? 続けるか凡人?」

 

(いえ、やめておきましょう)

 

「それが懸命だろうな。余としても興ざめしてしまったし……まあ、これが手に入っただけでも良しとしよう」

 

そう言いつつ、スロカイはプリンの蓋を開けた。

 

(……!?)

 

それを見た指揮官が慌てて自分の懐を探ってみるも、つい先ほどスロカイに差し出そうとしていたプリンが忽然と消えてしまっていることに気づいた。

 

しかも1つだけではなく、自分用に取って置いた分もなくなっている。先ほど、自分に抱きついてきたのはプリンを強奪する為でもあったのだ……その事実に指揮官が気づいた時には既に遅く、スロカイはティースプーンを使ってプリンを食べ始めていた。

 

「凡人よ。これが奪われる前に、奪うということだ」

 

(なるほど)

 

応接室に残された指揮官とスロカイは、その後は特に何事もなくゆったりとした時間を過ごし……そして、ついにクリスマスパーティー開始の時刻となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式季節イベント『星降る夜のイヴ』

第3話:わかりあいのイヴ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のクリスマスパーティー

皆で料理を食べ、今年1年の出来事を振り返りながら、さらにテイラー&ノイジーバットによるクリスマスライブのお陰もあって、パーティーは大いに盛り上がるのだった。

 

その途中、指揮官はまたも睦月が大量に作った料理を食べる羽目になったり、シャロや曦夜などパーティーに協力してくれた仲間一人一人へ感謝の気持ちを伝え、世界各地のクリスマス文化の違いについて談笑したり、トリスタが作ったビッグサプライズ(笑)を皆で微妙な顔をしながら食したり、テイラーの突然の思いつきにより指揮官が『かつての宝物』(アイサガ挿入歌)を歌わされたり……と、色々あったのだが、重要性が低いため省略

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

①セラスティアとの会話

 

 

 

「やっほー、指揮官!」

 

やることもなくなり、手持ち無沙汰になった指揮官がパーティー会場を見て回っていると、セラスティアが声をかけてきた。

 

(セラスティア、楽しんでる?)

 

「うーん、まあまあってところかしらね。 ああそれよりも、指揮官の仕事は私たちできっちりと終わらせといてあげたから感謝しなさいよ?」

 

(そっか、ありがと)

 

指揮官は遠くの方で何やらスノーと話し合っている五十嵐命美、それから机に突っ伏してだらだらとジュースを飲んでいるシェロンにも礼を告げた。

 

(それにしても、よくあれだけの量を2、3時間で終わらせられたね。自分1人でやると、午前を過ぎても終わらなかったと思う)

 

「それは3人で一緒にやったからよ。でもまあ、大量の仕事を一瞬で終わらせることができた1番の理由は、やっぱりこの私の存在が大きいわね!」

 

(あはは……)

 

色々と言いたいことがあった指揮官だったが、セラスティアが頑張ったことは事実なので、今日くらいは思いっきり上機嫌でいて欲しいと口をつぐむことにした。

 

「ふっふっふっ、私って凄いでしょ?」

 

(ん、凄いよ)

 

指揮官がそう言ってあげると、腰に手を当てたセラスティアは「ふふん♪」と、まんざらでもない表情を浮かべた。

 

「うんうん、私って天才でしょ?」

 

(そうだね。セラスティアは世界一の天才だ!)

 

「あはっ、もっと褒めてもいいのよ!」

 

それから指揮官はセラスティアのことをこれでもかと褒めまくった。生まれ持っての才能からメリハリのある美貌、さらには彼女が密かに積み重ねてきた努力に至る……指揮官が知る限りの、彼女の全てを褒めに褒めた。

 

「そうそう! そうなのよ♪」

 

ありとあらゆる点で肯定され、セラスティアはすっかり気分が高揚してしまったのか、幸せそうに顔を紅潮させ、最後にこんな事を聞いてきた。

 

「じゃあ、私のこと愛してる?」

 

(ああ、愛してる! …………え?)

 

「えへへへへ」

 

勢い余ってオウム返しをしてしまった指揮官の前で、セラスティアは幸せそうな表情のまま頰に手を当てた。

 

(あの……セラスティア?)

 

「もー、指揮官ってば本当にたらしなんだからー♪」

 

(待って、今のは……)

 

「それじゃあ、命美に呼ばれてるからもう行くわね〜」

 

(セラスティア、あ……行っちゃった)

 

嬉しそうに走り去るセラスティアの背中を見送りながら、指揮官は先ほどのセラスティアの言葉について少しだけ考えていたのだが……

 

 

 

「お兄ちゃーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 

 

(うわぁ!?)

唐突に、背後から何者かに抱きつかれ、指揮官の思考は中断された。

 

 

 

ーーーーー

 

②メルル&睦月との会話

 

 

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃ〜〜〜ん」

 

(その声は……メルル?)

 

「おお! 声だけで当てられるだなんて、流石はにゃーのお兄ちゃんにゃ! にゃーのことよく分かってるじゃないかにゃー!」

 

指揮官が振り向くと、そこには白猫のような見た目の少女……メルルがいた。両手につけた可愛らしい肉球グローブで指揮官のことをしっかりとホールドし、背中にスリスリと頬ずりしている。

 

(な、何してるの……?)

 

「お兄ちゃん成分を補給しているんだにゃ!」

 

(なにそれ……?)

 

「読んで字の如くだにゃ! ここのところにゃーはずっと、むさ苦しいソロモンの方にいたから、にゃーはお兄ちゃんとずっと会えなくて寂しかったのにゃ!」

 

(そっか、ごめんね)

 

「お兄ちゃんが謝る必要はないのにゃ! でもその代わりに、寂しかった分だけお兄ちゃんにいっぱいぎゅーってして、たっくさんお兄ちゃん成分をを補給させてもらうにゃ!」

 

そう言うや、メルルは全身を使って指揮官のことを抱きしめにかかった。その為、彼女の大きくて柔らかい箇所が指揮官の体に押し付けられる形となり……

 

(メルル、その……当たってるから……)

 

周りのスタッフたちが見ている手前、良からぬ誤解が広まってはならないと、指揮官はメルルに少し離れるよう言おうとしたところで……

 

「指揮官様ぁ……」

 

(……え? む、睦月……!?)

 

猛烈な殺気に指揮官が振り返ると、そこには体からクリスマスには似つかわしくない真っ黒なオーラを放出させた睦月の姿があった。

 

(睦月……! いや、ちがうんだこれはその……)

 

「誰ですかぁ? その女はぁ……?」

 

瞳孔が開き、顔に暗い影が落ち、完全にヤンデレ化した睦月が怒りに満ちた形相で、指揮官の背中に抱きついているメルルを指差した。

 

「にゃ? にゃーはメルルにゃ! お兄ちゃんの妹にゃ!」

 

「そうですかぁ、へぇーーーー指揮官様に貴方のような妹がいたんですねぇ。まあ、それはそれとして、指揮官様の背中も体も、腕も指も両足も血液も、髪の毛一本に至るまでこの睦月のものなのです。ですから、いい加減指揮官様の背中から離れて貰えないでしょうかぁ?」

 

「イヤにゃ! お兄ちゃんは最初からにゃーのものにゃ!」

 

「うふふ……泥棒猫の分際で何を言っているのでしょう? 」

 

「ドロボーはそっちの方だにゃ! にゃーの方がお兄ちゃんとは付き合いが長いにゃ! にゃーよりも新参者のオメーに言われたかないのにゃ!」

 

「あはっ! 言わせておけば、この白猫風情が」

 

「じゃあ、お兄ちゃんが誰のものか今ここで決着をつけるにゃ! んっ……にゃ、こうして、お兄ちゃんの体にマーキングして……」

 

メルルは指揮官の体によじ登り、その首筋に軽くキスをした……次の瞬間、睦月の体から放出された念力の鎖がメルルめがけて振り下ろされた。

 

(危ない!)

 

咄嗟にメルルのことを庇おうと前に出た指揮官だったが、睦月は指揮官の行動を予測していたのか、念力の鎖は指揮官に命中する直前で進路を変え……指揮官の体を回り込むようにしてその後ろにいたメルルめがけて殺到し……

 

「当たらないにゃ!」

 

しかし、メルルは持ち前の高い動体視力と反応速度を活かして睦月の念動力をいとも容易く回避することに成功した。

 

「その程度のこーげき、このにゃーに当たるわけ無……にゃ!?」

 

その瞬間、睦月の体から無数の念動力が生まれ、メルルのことを包囲するかのように空中に停止した。それまで余裕の表情を浮かべていたメルルだったが、ここで初めて自分を取り巻く状況の悪さに焦り始めた。

 

「よくも……」

 

怒りに満ちた漆黒の炎を放出させながら、睦月は少しずつメルルへと詰め寄る。メルルは真冬にも関わらず大量の汗を流しながら後退し、ついに壁際にまで追い詰められてしまった。

 

 

 

「よくも睦月の指揮官様を穢したなッッッ!!!」

 

「にゃああああああああああああ!!!???」

 

 

 

突如として勃発したメルルと睦月のいざこざは、メルルがパーティー会場の外へと飛び出し、睦月がそれを追いかけたことによって何とかことなきを得た。[とはいえ何も解決してはいないのだが]

 

「ねえ指揮官」

 

パーティーに出席するためにメルルと共にソロモンからやってきたのだろう、セインが指揮官の服の袖を引っ張ってきた。

 

「止めなくていいの、あれ」

 

(ああ……多分、大丈夫だと思う。メルルは9つの命を持っているって豪語してるし、それに睦月だって本気じゃないから)

 

そう言って指揮官は周囲を見回した。

睦月が念動力を発動したにも関わらず、パーティー会場は特にテーブルや椅子、料理などがひっくり返ることもなければ、誰かが傷ついたということもなかった。

 

身の丈の数十倍もあるBMすら、念動力で手玉に取っている戦闘時の睦月を考えると、この状況は周囲に配慮して手加減をしているということは明らかだった。

 

因みに、ツクヨミによるバックアップは受けていない。

自分の能力を自分の力だけで制御しているのだ。

 

(今思えば、制御が出来なかった頃に比べると睦月も成長したんだなって……)

 

「そっか、じゃあ安心だね」

 

セインはそう言ってフライドチキンをモグモグと食べ始めた。それを見た指揮官は、メルルがお腹を空かせて戻ってきた時の為に、彼女の分の料理をキープしておこうと考えるのだった。

 

フライドチキンは特に多めで

 

 

 

ーーーーー

 

③リンダ&レイアとの会話

 

 

 

(ん、あれは……?)

 

一通りパーティー会場を見て回った指揮官は、そこでクリスマスに相応しくない禍々しい魔剣を携えた白髪の女性……リンダの姿を見つけた。

 

会場の隅っこの方で、何やら自分のお皿を抱えて辺りをキョロキョロとしている。

 

(リンダ、楽しんでる?)

 

「…………?」

 

指揮官の接近に気づいたリンダは、指揮官の顔をじっと見つめ、それから少しだけ考えるそぶりを見せ……

 

「指揮官……」

 

(何?)

 

「えっと、メリー……クリスマス?」

 

(なんで疑問形?)

 

指揮官が笑いかけると、リンダは少し困ったような表情になった。

 

(どう、少しは楽しめてる?)

 

「ん」

 

リンダは頷き、それからソワソワとしたように続けた。

 

「騒がしい場所、苦手……でも、ここは違う」

 

(どう違うの?)

 

「……嫌に、ならない。あったかくて、平気」

 

(そっか、それは良かった)

 

「でも、騒がしいの、まだちょっと……」

 

(いいよ、それでも……少しずつ、ね)

 

「ん」

 

矛盾する気持ちに本人もまだ上手く整理がついていないのだろう。ただ、少し参加しただけでフェードアウトしてしまった去年とは違い、凍り付いてしまった彼女の心も、この基地に来たことで少しずつ解放されつつあるようだった。

 

(ところで、さっきは何か探しているみたいだけど?)

 

「……んっ」

 

そう言ってリンダは腕の中のお皿を示した。

お皿の表面が綺麗なところを見ると、まだ料理に手をつけてはいないようだった。

 

(分かった。それじゃあ、一緒に行こう)

 

「……だめ」

 

指揮官の言葉に、リンダは小さく首を横に振った。

 

「みんながいるから……」

 

(大丈夫、自分がついているからさ)

 

指揮官はそう言ってリンダの手を取った。

 

「あ……」

 

(お腹すいたでしょ?)

 

「……ん」

 

リンダは俯きがちになりながらも、指揮官が手を引いてあげると、ゆっくりとした足取りで指揮官の後に続いた。

……とは言っても、指揮官の腕には相変わらず手錠が取り付けられているため、半ば指揮官が引っ張るような形となっているのだが

 

2人は、料理が並ぶテーブルの1つへと到達した。

 

(食べたいのって、これでしょ?)

 

「……!」

 

指揮官が示した先……テーブルの上には、今は亡きティルヴィング公国の料理が並べられていた。黒っぽく、少しアレな見た目をしているがこれでもれっきとしたティルヴィング公国の郷土料理である。

 

国が滅んだ現在では、その製法は完全に失われてしまっていたのだが……近年、指揮官の手によってその再現に成功し、リンダの為を思って去年のクリスマスで密かに出してみたところ、彼女の口から「美味しい」という言葉が出たという証言を得られた。

 

その為、指揮官は今年のクリスマスも作ろうと決めていた。その証言を裏付けるように、郷土料理を見つめるリンダの瞳が少しだけ輝いていた。

 

「これ……君が、作ったの?」

 

(あはは……本当はそうしたかったんだけどね)

 

「?」

 

手錠を示しながら苦笑いをする指揮官に、リンダが疑問符を浮かべていると……

 

「それを作ったのは私よ」

 

2人が振り返ると、そこにはリンダと同じ白髪の女性の姿……声の主はイルビング公国の女大公・レイアだった。

 

この少し前に、レイアにレシピ本を差し出していた指揮官は、彼女にティルヴィングの料理を作ってくれないかとお願いしていた。

 

イビルング公国とティルヴィング公国はかつて敵対関係にあった。かつての大戦により、お互いに失ったものの数は計り知れない……ティルヴィングに至っては全てを失っている。

 

イビルング公国の大公であるレイアにティルヴィングの料理を作らせるということは……それは即ち、かつて祖国を侵略し、多大なる被害をもたらしたティルヴィングを許すということにも繋がる。

 

これは指揮官にとっても大きな賭けだった。下手をすればレイアの反感を買い、イビルング公国との外交問題に発展する恐れがあった。

 

しかし、その見返りは大きかった。

 

 

 

祖国を侵略された者

 

そして祖国を滅ぼされた者

 

 

 

どう取り繕ってもその現実は消えることはない。しかし、人は分かり合うことができる……ならばこれから先、共に生きる道はないのだろうか?

 

この料理にはその想いが込められていた。

 

 

 

「あなた……が?」

 

リンダは驚いたようにレイアを見つめた。

 

「そうなの。よかったら少しだけでもどうかな?」

 

「…………」

 

リンダは困ったようにレイアと料理を交互に見つめ……

「じゃあ、いい」

と、その場から離れようと踵を返した。

 

「え……ち、ちょっと待……」

 

(リンダ!)

 

指揮官は慌てて立ち去ろうとするリンダを呼び止めた。

 

(大丈夫だから……)

 

「…………分かった」

 

指揮官による説得の結果、リンダはレイアの作った料理を食べる気になってくれたようで、おずおずとお皿を差し出してきた。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ……ありが、とう……」

 

レイアはトングを使ってお皿に料理を盛り、お皿をリンダへ手渡すと、リンダはボソボソと礼を述べ……それから恐る恐るといったような調子でフォークを手に取り、料理を一口だけ食べた。

 

「どうかな?」

 

(…………)

 

咀嚼するリンダを指揮官とレイアが見守っていると

 

 

 

「……あんまり、おいしくない」

 

 

 

リンダの口から出てきた率直な感想に、指揮官とレイアは同時にガックリとするものを感じてよろめいた。

 

「あ……あれ? おかしいな、ちゃんとレシピ通りに作った筈なのに……」

 

指揮官とレイアは試しに自分たちでも食べてみたのだが……明らかに味が薄く、素材の生臭さが残っていた。リンダの言っていた通り、とても美味しく食べられたものではなかった。

 

(レイア様、まさかとは思いますが……調味料とか、ちゃんと分量を測って入れましたか?)

 

「は、測ったわよ……ちゃんと! いくら普段料理をしない私でも、そんな初歩的なミスなんて……」

 

(味見は……)

 

「その……自分が味見する分も、彼女には沢山食べて貰いたくって……」

 

指揮官とレイアが話し合っていると、

「…………」

2人のやり取りを見ていたリンダは、何を思ったのか再びフォークを手に取って料理を口にした。

 

「…………おいしくない」

 

「うぅ……」

 

料理に対するリンダのダメ出しが、レイアの胸にぐさりと突き刺さった。レイアは小さくため息をつき、リンダへと向き直った。

 

「いいよ、もう……無理に食べなくて」

 

そう言ってリンダからお皿を取り上げようとするも、リンダはレイアの腕を素早く避けて、あろうことかさらに料理を口にした。

 

 

 

「あっ!?」

 

 

 

「でも、たべる」

 

 

 

驚くレイアを前に、リンダは真剣な眼差しで料理を食べすすめていく……しかも、その勢いは止まらない。

 

元々、『お腹を満たせればなんだっていい』と、食に関しては無頓着なリンダだったが……しかし、その目つきから、自分の為に作ってくれたレイアに対する敬意や感謝を、彼女なりの方法で伝えようとしているのだということが伺えた。

 

人としてはまだ不器用なやり方ではあるものの、リンダの意思はレイアにもしっかり伝わったようで、レイアはそれ以上は何も言わずに小さく笑いかけた。

 

……では、リンダを見習って自分も食べるとしよう

結果的に上手くいったとはいえ、元はと言えば、自分が作っていればこんなことにはならなかった筈……それに、せっかく大公様が作ってくれたものだ。

 

そもそも……大公であるレイアにしてみても、この料理を作ることにはかなり抵抗があった筈だ。しかし、それを捻じ曲げて作ってくれたのだ。

 

ならばこちらも敬意を示さなければ。

そう考えた指揮官は自分のお皿に料理を盛り、口にした。

 

(あ! こっち側は味が濃くて美味しい)

 

「そうなの?」

 

(ええ。どうやら味のつき方にムラがあったみたいです)

 

「……ほんとだ。でも、なんでだろ……ちゃんとレシピ通りに作った筈なのに」

 

(いえ、レイア様のせいではなく……これは恐らくレシピそのものに問題があったようです。言葉足らずだったというか、とにかく修正します)

 

「そう? まあ、私の方も料理に対する知識不足なところがあったと思うから……お互い様ってことね」

 

そうして、指揮官とレイアは笑い合った。

 

「あの……リンダ?」

 

それからしばらくして、レイアは少しだけ言いづらそうにしながらも、隣で料理を食べすすめているリンダの名前を呼んだ。

 

「今回はその、残念な感じになっちゃったけど……次にこれを作る時には、きっと貴方が美味しいって言ってくれるものを作るから……だから……」

 

「……分かった」

 

レイアが言い切る前に、リンダは頷いた

 

「来年も、来る」

 

「そう、よかったわ……」

 

ホッとして、それから優しく笑ったレイアに、硬かったリンダの表情も少しだけ緩むのだった。

 

これを機に、今後、彼女たちの関係が良くなっていくかは分からない……しかし、彼女たちの明るい表情を見ていると、指揮官は、今はこれで良かったと心の底から思うことができたのだった。

 

 

 

続く……




クリスマスが終わってもアイサガのクリスマスは終わらない!
何故ならスキンの発売期限はまだ10日以上残っているのですから!

というわけでもう少しだけ続きます。
次回、サンタクロース捕獲作戦のスタートなのです!

読んでくれてありがとうございます。
次回は1週間以内の投稿を目指します。できれば……
それでは、また……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。