六眼の呪術師(仮題) 作:彩迦
2年振りに二次創作を書くので文章等が拙いですが誤字脱字ありましたら誤字報告から教えていただけると嬉しいです⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
青森県の十和田湖には八の太郎大蛇伝説という北東北に伝わる大蛇の伝説が残っている。今回の特級仮想怨霊は日本各地にある伝説や神話の一つ、実在しなくても共通認識のある畏怖のイメージは強力な呪いとなって顕現しやすいというパターンでも一番最悪な状況だった。
ただの大蛇ならまだ可愛かったんだけど、遠目からでも目は真っ赤な酸漿のようで八つの頭と八つの尾を持つ山一つ位のサイズを持つ巨大な大蛇の姿が見える。胴体には苔むしに檜や杉が生え、腹はなぜか血まみれに爛れている。伝説や神話に出てくる姿のまま顕現してるようにも見えるということは強さもそのまま1級を軽く飛び越えて特級といったところだろう。
「闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え」
──伊地知さん、帳降ろしてくれてありがとうございます。
「いえいえ、私にはこれくらいのことしか出来ませんので」
──伊地知さんのように補助監督がいないと成り立たない仕事なので自信持ってください。
ジーンと何か身に染みたような表情を浮かべる伊地知さんを見て普段から兄にそれなりに大変な思いをさせられてるんだなあと思うと妙なシンパシーを覚えてしまう。
今日の任務は補助監督の伊地知さん、五条悟、五条透という普段ではまったく組むことの無い兄との共同任務ということは特級呪術師を二人呼んでようやく祓えるということを踏んで組まれているに違いない。
「さて、帳も降ろしたし、僕が八岐大蛇を祓うから……透は山中で気配消して潜んでる呪詛師二人を殺せ」
突然のことで兄が何を言っているか理解するまで数秒かかって口をパクパク開く僕に伊地知さんがバツが悪そうに今にも消えてしまいそうな声で説明してくれた。僕達が到着するまでに八岐大蛇は山中にある小さな集落を襲って死者が三十数名出ていること。さらには木で首を吊っている遺体が約二十名発見されていて残穢から呪詛師二名の痕跡があったらしい。
美々子と菜々子という二人組みで行動している呪詛師の仕業に間違いないという。かつて、夏油さんに組みしていた過去があり、百鬼夜行事件にも関わっていてその後の所在は分からなかったけど、なぜ今になってこんな地方に現れているのやら。
──拘束じゃ駄目なの? 兄さん
「拘束じゃだーめ。上層部から秘匿死刑の許可は出てる、君の甘ったるい思想だけで全てを救えるほど世の中は甘くないの」
口をきゅっと結んで兄に何とか出来ないかアピールをしてみるものの、手をひらひらとさせて無理無理と言われて肩を落として伊地知さんに視線を送るが、咳をして誤魔化したり手をぎゅっと握ったりしてる姿を見て伊地知さんも本望では無いだろう。五条家の当主とはいえ、まだ十六歳。大人では無いのに殺人者になれと上層部からの指示だから従うしかないものの、良い気持ちなんか一切しない。
任務で人を殺めたことはまだ一度もないし、過去に暗殺しようとしてきた呪詛師は全て死なない程度に拘束したり特級呪霊は祓って来たけど改めて殺せと言われると動揺する。
「……まぁ、僕が代わってもいいんだけど歳が近い透が行った方がまだ可能性はあるでしょ……拘束じゃなく自首するなら呪術協会の監視下で減刑やら社会奉仕させることだってまだ残されてる道さ」
若人から青春を取り上げるなんて許されてないんだよ、なんびとたりともね。たとえそれが道を踏み外した若者だとしても、と笑う兄を見て自然と夏油さんの笑う顔を思い出してしまった。
道を踏み外してもまだ戻れる可能性があるなら戻るべきなんだろう。呪いで人を殺めたから、罰として呪い殺すなんていう負の連鎖はどこかで断ち切るべき。
──出来るだけのことはしてみるよ、兄さんありがとう。
「悩め悩め、弟よー!! さーて久々に本気出しちゃおうかな」
背伸びをする兄を背に僕は山の中へと木々に乗り移りながらその場を後にした。
目隠しを外して木々に乗り移りながら呪詛師を探しているものの、呪力を一切感じ取ることが出来ない。呪力そのものを消す呪具ならあるだろうけど、呪具から発する呪力そのものは消しされないはずだ。八岐大蛇に襲われた集落の位置から考えるのに、当てずっぽうだけどそろそろ姿が見えてもおかしくは無い。
──みーつけた。ストップ、二人共。
明らかにこの山奥とは不似合いの学生服を着た二人組の女の子を発見した僕は両手で制止しながら木から着地する間の一、二秒で六眼で二人組を解析する。黒髪の美々子はてるてる坊主のようなぬいぐるみに首縄を付けたものを所持、ぬいぐるみを媒体とした一種の呪霊操術に似た術式を持っている。金髪の菜々子の手に握られているスマートフォンは映した被写体の状態を自由自在に出来る術式、しかしそれにはかなりの制約が設けられてる。
着地した僕を五条悟と勘違いしてか、二人の両目からは嫌というほどの殺意を感じる。確か夏油さんの最期は兄が処刑したとは聞いていたものの、それが当然二人にも伝わってるんだろうね。
「五条、悟……!!」
「夏油様の仇……!!」
──ごめん、僕は五条透。五条悟の弟だよ。
「五条の弟……? 私達の夏油様を殺した奴の弟が一体何の用だよ!!」
「吊るす? 菜々子」
美々子が殺意のこもった瞳で術式を発動しようとする仕草を見せたので術式、無下限呪術を発動。
術式の応用をし、自身の速度を加速させて美々子の懐に潜り込んで右肩と右手首に強力な掌打を叩き込む。ガゴンッという嫌な音を響かせながら脱臼させてぬいぐるみから手を離させた。そのまま速度を維持して右脚で菜々子の手に握られたスマートフォンを蹴り飛ばす。
美々子、菜々子からすると瞬きをした数秒にも満たない時だっただろう。それでも僕からすると長いようで短い一瞬の無限だ。
「あ、あぁぁぁぁ!!?? 右腕があぁぁぁ!!」
「み、美々子!?」
──申し訳ないけど、美々子さんの右腕を脱臼させたよ。菜々子さんも次にスマートフォンを取ろうする動作見せたら分かるね?
重圧をかけながら美々子さんと菜々子を見つめる。
死した夏油様の身体が何者かの手によって乗っ取られた。五条悟の手にかかって無念の死を遂げた夏油様の身体を取り戻す為、夏油様の皮を被った偽物に協力する代わりに夏油様の肉体を返してもらえるようにお願いをしたら快く快諾されたのでしばらくの間は協力する姿勢を見せた。まず手始めにやることが夏油様の偽物が青森県にある十和田湖で特級仮想怨霊である八岐大蛇を降ろし、特級呪術師である五条悟が派遣されるだろうから現在の戦力を測る。私と美々子は八岐大蛇がこぼれ落とした、集落から逃げる住人を呪い殺すことだった。
殺したあとは呪力を消す呪具を使って美々子と十和田湖から離脱する手筈だったのに予想外だった五条悟の弟、五条透に見つけられてしまったので殺せるかは分からないけどスマートフォンで五条透を映そうとした瞬間、手首ごと凄まじいスピードで何かぶつかってきてスマートフォンを落としてしまった。瞬く間に赤黒く内出血を起こす腕に呆気にとられ、何が起こったが美々子の悲鳴を聞くまで気付けなかった。
「あ、あぁぁぁぁ!!?? 右腕があぁぁぁ!!」
──み、美々子!?
「申し訳ないけど、美々子さんの右腕を脱臼させたよ。菜々子さんも次にスマートフォンを取ろうする動作見せたら、分かるね?」
美々子の右腕はありえない方向に曲がっていた。私がスマートフォンを手から離してしまったのも五条透の仕業だということが嫌になるほどわかってしまった。今の私達の命は五条透の手のひらで転がされている。アクアブルーに染まっている瞳が私達を覗いている。重圧のようなものが私の呼吸を乱す。息がしづらい、怖い。今すぐ美々子を連れてこの場から逃げ出したかった。
「呪術協会の上層部から君達の秘匿死刑を言い渡されているから君達をこの場で殺さなくちゃいけない」
──私達はまだ死ねない……!! 死ねないんだよ!!
夏油様の身体を取り戻すまでは、美々子と二人で土の根をかじってでも生き延びるって誓った。それなのにこんな山奥で殺されるわけにはいかない。
「私達はまだ死ねない、か。そのセリフさ……集落の人達も言ってなかった? 死にたくない、助けてって。君達の命と集落に住んでいた人達の命は同等のものだ。身勝手に奪うことは到底許されるものじゃない」
無機質な瞳だった。
人を殺すことに命の重さなんていうのは考えたことも無かった。夏油様が言えば白も黒に染まるし、黒も白に染まる。
地図にも載ってないようなクソ田舎で呪術師がクソみたいな扱いを受けて善悪の区別なんかつかなくなるまで酷い仕打ちを受けたこともない奴が命の重みを説こうとするなんて反吐が出る。
──アンタみたいな呪術界の名家で当主なんかに私達の気持ちなんか分かるわけないだろ!!!!
「呪詛師の気持ちは分からないけど、菜々子さんと美々子さんの資料が残ってたから二人の気持ちは分かるよ。呪詛師や呪霊に幼少期から命を狙われ続けて僕の生きる景色には色が付いていなかった。当時は白黒にしか見えなかったよ」
やれやれと言った様子で話す五条透の口から思いもしなかった人の名が出た。
「僕の景色に色を付けてくれたのは兄さんと……その親友である夏油傑さんだった」
夏油様の口から五条透のことは一度だけ聞いた事がある。才はあるのに悟と違って孤独な子、だと。
お読み下さりありがとうございました!