その日の夜。ヨハンを除く一同はサロンに集まっていた。
「……それで、ナターシャの容体は?」
神木がスピカに聞く。
「幸い、急所は外れていたわ。本人の強靭な肉体のおかげで、怪我も普通より早く治りそうとのことよ」
「良かった……」
ホッと安堵する一同。だが、スピカの顔は険しいままだ。
「ナターシャには、それ相応の処分が必要ね」
「……え? 副司令、どういうことですか?」
「彼女は上官であるあなたの命令を無視し、身勝手な行動をとった。その結果、あなたを始め他のメンバーに迷惑を掛けた。これは立派な規律違反よ。司法局に問い合わせて軍法会議に掛ける必要があるわね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ニーナが口を挟む。
「軍法会議って……、そんなのひどすぎますよ!」
「ニーナ。これは遊びじゃないの。一人の行動が、部隊を破滅させることだってあるのよ」
「でも……」
「ニーナ」
マレーネが声を掛ける。
「マレーネさん……。マレーネさんも、何とか言ってくださいよ!」
「ニーナ、落ち度は100パーセント彼女にあるはずよ。私たちがどうこう言う筋合いは無いわ」
「だって……」
「ま、待ってください!」
神木がたまらず声を上げる。
「副司令、処分は待ってくれませんか? 自分がナターシャと話をします。彼女だって責任は感じているはずです。それに──彼女は僕たちの仲間なんですよ」
「仲間だからこそ、厳しくしようと言っているの」
「……とにかく、自分に任せてくれませんか? お願いします!」
「……分かりました。二人でよく話し合ってから、私のところに来なさい」
「はい!」
神木はサロンを後にして、ナターシャの部屋へと向かう。だが、彼女は不在のようだった。
『おかしいな……どこにいるんだろう……』
散々探し回った末、彼女はテラスにいた。
「ナターシャ……」
神木は小声で彼女に声を掛ける。包帯で巻かれた腕が痛々しい。
「隊長か……。まぁ、座れよ」
「あぁ……」
言われるがまま、神木は隣に腰かける。
「その……怪我は、どうだい?」
「こんな怪我、傭兵だった時に比べれば大したことないさ」
「……そうか。なら、良いんだ」
ナターシャは市内の景色を見つめたまま、動かない。神木はまどろっこしいことは止めて、率直に話すことにした。
「副司令が、君を軍法会議に掛けようとしている」
「……」
「それ相応の処分が必要だと言うのが言い分だが、僕もニーナくんもそれは重すぎると意見した」
「……」
「僕は今度のことは問題視していない。君が無事であるならそれでいいと考えている」
「……だから甘いんだよ、隊長は」
「──えっ?」
「軍人にしては、優しすぎるのさ。あんた」
神木に向き直るナターシャ。
「──あたしは、4年間傭兵として戦場の最前線で戦ってきた。同期や後輩、尊敬する上司が目の前で倒れていくのをこの目で何度も見てきた。仲間を一人失うたびに、あたしは自分がもっと戦術面に精通していれば……と後悔したよ。だからあたしは、古今東西ありとあらゆる戦術本を読んで、どの場面にどういう戦術がしっかり合うのかをシミュレーション出来るようにした。──だけど、アイゼンクライト改での戦闘は盲点だったなぁ。向う見ずに突っ込んでいった結果が、このザマさ」
ナターシャはギプスに目を落とす。
「はーあ、せっかくスカウトしてくれたスピカさんにも迷惑かけちゃったし。軍法会議に掛けるんなら、あたしはそれで構わないと思っている」
「ナターシャ!」
「それぐらいのことをしたんだよ、あたしは。どういう処分を下されようと、あたしはそれを甘んじて受け入れるつもりだよ」
「……ナターシャ、君は確かに今日失敗をした。だが一度の失敗ですべてを棒に振る必要がどこにある? 失敗したのならそれを反省し、次回に生かすのが軍人としてあるべき姿なのではないのか?」
「隊長……」
「僕は海軍に所属してまだ2年だし、うち1年は軍楽隊で戦闘には参加していない。だから僕の言う言葉は頼りないかもしれない。だけど、命がけで君たちの盾になる覚悟はある。だからもう一度、僕たちと一緒に戦ってくれないか?」
「隊長……」
ナターシャはしばらく神木の顔を見つめていたが、そのままプッと吹き出して照れ臭そうに笑った。
「──ありがとう。隊長の言葉を聞いて、何だかやってやるぜ!って気持ちになったわ」
「そうか!……よし、スピカさんの所に行ってもう一度チャンスをくれるよう直談判しよう!」
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「──それが、二人の出した結論ね?」
黙って話を聞いていたスピカが、氷のように冷たい声を発する。
「えぇ。伯林華撃団・四季組隊長としてお願いします。もう一度、彼女にチャンスをくれませんか?」
深々と頭を下げる神木。ナターシャもそれに続く。
スピカはしばらく二人を眺めていたが、机の上にあった書類をビリビリ破るとそれを床に落とす。
書類には『ナターシャ・イヴェールの処罰に関して』の文字があった。神木は顔を上げる。
「副司令、これって……」
「……賢人機関に対する言い訳を考えなくちゃね。ほら、行きなさい。……ナターシャ、さっさと怪我を治して。敵は待っちゃくれないわよ」
「……はい! ありがとうございます!」
二人は部屋の外に出ると、互いに笑顔でハイタッチした。