パート1
太正20年春、伯林のテンペルホーフ空港。
8年前に開港したというこの空港は、洒落た服装に身を包んだ富裕層やドイツ空軍の兵士で溢れている。
そんな中、滑走路に見慣れない飛行機が着陸してきた。機体はアメリカで開発されたフォッカー スーパーユニバーサルだが、横には日本語で『日本航空輸送』と書かれている。
飛行機が止まり、タラップを降りてきた白い軍服を着た青年は、ドキドキを抑えられないといった表情で周囲を見渡す。
『ここが、伯林……。ここが、僕の新たな物語の始まりなんだ!』
男の名前は、神木裕一郎。大日本帝国海軍から伯林華撃団に配属になり、今日新天地である伯林に足を踏み入れたのだ。
事の発端は一ヶ月前。急な呼び出しを受けた神木は、あまり深く考えずにのこのこと海軍省に出頭した。だが応接室で待ち構えていた人を見て、思わず固まってしまった。
立っていたのは、帝国華撃団総司令の大神一郎大尉だった。
大神一郎は帝国軍人なら知らない人はいないだろう。太正12年に帝国華撃団隊長として就任した後、帝都や巴里を幾度も魔の手から救ってきた伝説的な人物だ。現在も総司令として劇場運営に携わる傍ら、事件が起きた場合は自ら出撃するなど精力的に活躍しているという。
神木も士官学校時代は耳にタコが出来るほど大神の噂を耳にした。だが、実際にお目にかかったのはこれが初めてだった。
「君が、神木裕一郎少尉かい?」
先に口を開いたのは大神の方だった。
「は、はい! 帝国海軍所属、神木裕一郎少尉であります!」
若干声が上ずりながらも、大声で名乗りを上げる。
「緊張しなくていい。とりあえず、掛けたまえ」
「は、はい!失礼いたします!」
勧められるがままソファに腰かける神木。握り拳にじんわりと汗が噴き出てくる。
「本日、君を呼び出したのは他でもない。君に、重要な任務を任せようと思う」
向かい側に座った大神が、まっすぐ神木の目を見て話す。
「任務……でありますか?」
「あぁ。──神木裕一郎少尉、君に、伯林華撃団・四季組への配属を命ずる」
「は、、、」
あまりに突然のことで、神木は言葉を失う。それを見て、大神はフッと笑みを漏らす。
「いきなりで驚いただろう。だが、これは少尉の能力を買ってのことなのだ。
神木裕一郎少尉。海軍士官学校を主席で卒業した後、一年間軍楽隊に所属。トランペット奏者として活動した後、海軍に戻り今日に至るまで実務経験を積む──。軍楽隊にいたとは、なかなか興味深い経歴だよ」
「両親がピアノ教室を開いておりまして、姉も音大出身なのです。私もその影響で少しばかりかじっておりました」
「なるほど。──少尉の培ってきた力は、伯林でも十分に発揮されると思う。
伯林華撃団はまだ出来て間もない。少尉のような若い才能が隊長として加われば、きっと良い結果が生まれるだろう。──どうだ? やってみないか?」
神木が結論を出すまでに0.5秒も掛からなかった。
「やります! 是非とも自分にやらせてください!」
それから、あれよあれよと月日は流れ、今日ついに伯林にやって来たのだ。
『大神司令の顔に泥を塗ることが無いよう、しっかりしなければ!』
入国審査を終え、空港の外に出る。外に出ると、周りからはドイツ語しか聞こえてこない。
『確か、伯林華撃団から迎えが来るとかって聞いていたけど……』
キョロキョロ辺りを見渡していると、神木は背後から「あのー……」といきなり声を掛けられた。