数日後。神木とスピカは、日本大使館で催されるパーティー【梅雨祭り】に参加した。神木はいつも通りのモギリ服だが、スピカのドレス姿はモデルそのもので参加者たちの注目を浴びている。
「凄い注目ですね……副司令も舞台に立てばいいのに」
「私は引退の身よ。年寄りが出しゃばる隙は無いわ」
「年寄りって、まだ二十代じゃないですか……。マレーネと同世代でしょう?」
「彼女と私とでは才能に開きがあるのよ」
「やぁ、やぁ。神木くん」
燕尾服に身を包んで顔を赤らめた正毅がグラス片手に近づいてくる。その後ろには、西陣の和服で正装し、日本風の化粧をした秋奈がしずしずとついてくる。彼女がモガであることを、おそらく会場内の誰もが信じないであろう。
「パーティーに来てくれて嬉しいよ。今日は無礼講だ。じゃんじゃん飲みたまえ」
「ありがとうございます。こちら、自分の上司であります、伯林華撃団副司令の──」
「スピカ・レンテです。お会いできて光栄ですわ、大使」
正毅はスピカをじっと眺めて目を細める。
「あ、あぁ……。あなたが副司令さんで。いやぁ、こんな美人が副司令をやっていたとは、神木くんも隅におけませんなぁ」
「大使!」
「あぁ、こりゃ失敬。……あ、こちら。私の娘でございます」
正毅が後ろに控えていた秋奈が前に出てくる。
「若林秋奈でございます。本日はお越しいただきありがとうございます」
丁寧に挨拶をし、頭を下げる。
「秋奈、神木くんたちにお飲み物を。ビールでよろしいかな?」
「構いません」
「大使!」
奥の方から職員が声を掛けてくる。正毅は面倒くさいといった表情を取る。
「……ったく。──あ、それでは私はこれで」
軽い会釈をしてから正毅はその場を後にする。秋奈も飲み物を取りに二人から離れる。
『秋奈くん……』
秋奈のことを案じながら横を見ると、スピカが険しい顔で秋奈に視線を注いでいた。
「──どうしたんですか、副司令。そんな怖い顔をして」
「彼女──秋奈さんと言ったわよね? 神木くんは彼女と知り合いなの?」
「え、えぇ、まぁ──。でもそれがどうしたんで──」
神木の台詞は爆発音と共に遮られた。
地中から敵蒸気機械『フェーレ』と共に、ハインリヒが現れたのだ。会場内は混乱の渦となる。
「ふん。愚かな人間どもめ。存分に叫ぶがいい!」
言うが早いが、ハインリヒは『フェーレ』のアームを動かし思い切り振り被って下す。逃げ遅れた参加者たちが地面に倒れる。その中には正毅の姿もあった。
「大使!」
神木が声を上げる。
「大使、早く逃げてください!」
「お父様!」秋奈も声を上げる。
「ほう、大使か……。ちょうどいい、見せしめにしてくれよう!」
ハインリヒはもう一度アームを大きく振り被って下す。アームについている鋭利な爪は、正毅のふくらはぎを切り裂いた。
「ぐあっ……!」
一本線の切り傷から血が流れ出てくる。
秋奈は呆然と立ち尽くして、苦悶の表情を浮かべている正毅をじっと見ている。
「いや……」
秋奈は無意識のうちに正毅のもとに駆け寄り傷元を手で圧迫する。
「秋奈くん! 危ない! 戻るんだ!」
神木が必死に声を掛ける。
「ほう。面白い。では、女共々消し去ってやる!」
ハインリヒは三たびアームを振り被る。
「いや……」
秋奈は涙をこぼしながら必死に傷口を抑え続ける。
「死ねぃ!」
『フェーレ』のアームが秋奈目がけて下りてくる。
「あ……き……な……」
口をパクパクさせながら正毅が呟く。
「に……げ……ろ……!」
秋奈はパッと目を見開く。そして次の瞬間。
「いやぁああああああああああああああああ!!!!!!」
叫び声と共に秋奈の体が光り始め、巨大なエネルギーとなって『フェーレ』のアームと機体を弾き飛ばした。
「な、何ィ?!」
焦りの声を上げながら彼方へと飛んでいくハインリヒ。
神木も目の前で起きたことが信じられないでいる。
「こ、これは……」
「霊力よ」
スピカが冷静に受け答える。
「彼女の内に秘められていた霊力が、一気に解放されたのよ」
「じゃ、じゃあ、彼女は……」
スピカはアイフォトロンを取り出すと、劇場にいるつぼみたちに連絡を取る。遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。
「秋奈さん! お父様を救急車に乗せたら、私たちと一緒にベルリン歌劇場に来るのよ! 分かったわね!」
スピカの迫力に気圧されながら、秋奈は「はい」と返事をした。