秋奈を劇場まで連れてきた神木とスピカは、そのまま作戦指令室へと向かう。すでに空組の三人が準備を進めている。
「これは……?!」
急な展開に付いていけていない様子の秋奈。
「ここが、伯林華撃団の総本部。作戦指令室だ」
神木が説明をする。
「俺たちは、普段は伯林歌劇団として舞台に立って芝居をするが、敵が攻めてきたときは伯林華撃団としてアイゼンクライト改に乗り、魔と戦うんだ」
「伯林華撃団……神木さんが?」
驚きの表情を浮かべる秋奈。
「黙っていてすまなかった。君のお父さんは承知だったんだけど、一応秘密部隊だからね」
戦闘服に着替えたニーナたちも集まってくる。
「……あれ、隊長? その子は?」
秋奈に気づいたナターシャが神木に尋ねる。
「若林秋奈くんだ。君たちと同じ霊力の持ち主、つまり伯林華撃団・四季組の新しいメンバーだ」
「わ、若林秋奈です。よろしくお願いします」
「へぇー。これがキモノってやつか。何だか暑苦しい服装だねぇ」
物珍しそうに秋奈の着ている着物を見るナターシャ。
「……まさか、神木さん。秋奈さんも出撃させるって言うんですか?」
ニーナが神木に聞く。困った表情を浮かべる神木。
「彼女の霊力は十分にアイゼンクライト改を動かせるわ。隊員は一人でも多い方が戦いには有利よ」
スピカが代わりに言う。
「でもそんな……秋奈さんは、秋奈さんはそれでもいいんですか?」
「──私、戦います! パパに怪我を負わせた、あいつを、私は許さない!」
「秋奈ちゃんのアイゼンクライト改もちゃーんと、整備済みだよ!」
整備室から出てきたリンがVサインをしながら言う。
「……いいんじゃない? 本人が良いって言ってんだから」
マレーネが興味なさそうに呟く。
「よし、決まりだ! 秋奈くん、僕が君のサポートをする。だから君も無茶はしないでくれ」
「神木さん……分かりました!」
「敵蒸気機械『フェーレ』は、現在ブランデンブルク門付近にいます」
モニターを操作していたつぼみが声を上げる。
「門を破壊しようとしてるよ、こいつ!」
映像を見たアンジュが悲鳴に近い声を上げる。
「どうやら猶予は無いようね。──神木くん、出撃命令を!」
「はい! 伯林華撃団・四季組、出撃せよ! 目標、ブランデンブルク門の敵の撃破!」
「了解!」
*******
「くそぉ! アームが言うことを聞かないぜ」
門をガンガン体当たりしながらハインリヒが呟く。
「まぁいい。門さえ破壊できればいい目くらましにはなるかな……」
「そこまでだ!」
背後からアイゼンクライト改が姿を現す。秋奈の機体もある。
「伯林華撃団、参上!」
「あなたが、私のパパを! 絶対許さない!」
秋奈が涙を貯めながら言う。
「ほう……貴様。あの娘か。よくも私の『フェーレ』の腕を折ってくれたな! いでよ、ゴーレム!」
言うや否や地中からゴーレムが10体ほど出てくる。
「行け! 奴らを叩きのめせ!」
「来るぞ、みんな、戦闘開始だ!」
「了解!」
秋奈の機体は広範囲に攻撃をすることが出来るので、一気に襲い掛かってくるゴーレムを倒すのには非常に向いている。
「土のくせに、生意気なのよ!」
初戦闘の割にはかなりキレの良い立ち回りを見せる。
「秋奈くん、何か、武術でも習っていたのかい?」
『パパに言われて、ずっと合気道を習ってきたのよ。まさかこんなところで活きてくるとは思ってもみなかったわ』
「ハハっ。そうだな」
あっという間に、ゴーレムを倒してしまった。
「残るはお前ひとりだ! 覚悟しろ!」
「クソォ。こうなりゃ、攻撃あるのみ! うわぁあああああ!」
ハインリヒが攻撃を仕掛けてくる。ハインリヒはミサイルを飛ばしてくるため、近くにいても遠くにいてもダメージを負ってしまう。
「クソッ」
『神木さん、私を囮に使ってください!』
秋奈から通信が入る。
『私が奴のミサイルを引きつけて攻撃すれば一気に片付けられます!』
「いかん! そんなこと、無謀すぎる!」
『──私は、ずっと自分を偽ってきた。でも私は、自分に正直になりたいんです! 私が囮になれば、奴のミサイル攻撃を止められます! 神木さん、お願いします!』
「秋奈くん──分かった。……全隊員に告ぐ。秋奈くんを囮にして奴のミサイルを引きつける。隊員は全員秋奈くんの援護に回れ!」
『了解!』
秋奈機はUターンすると、ミサイル目がけて走り出す。
「馬鹿め! 血迷ったか!」
秋奈は画面を見ながら、ミサイルとの距離を測っている。
『もう少し、もう少し……』
ミサイルの尖頭が秋奈機回避不能ゾーンに入る。機体内に警報音が鳴り響く。
「今よ!」
秋奈はミサイル全機に広範囲攻撃をする。攻撃に巻き込まれたミサイルは空中爆発して散っていく。
「な、何ィ!」
ハインリヒの表情が焦りに変わる。
「これで終わりよ!」
秋奈機はハインリヒ目がけて一直線に突っ込んでくる。『フェーレ』は避けるのも間に合わずまともに攻撃を食らった。
「うわぁあああああああああああ!!」
ハインリヒの断末魔がこだまする。そのまま『フェーレ』は行動不能となり、十秒も掛からず爆発した。
「……地獄に落ちろ、クソ野郎」
秋奈はそう毒づくと、神木たちの元へ帰還した。
「秋奈くん、怪我は無いかい?」
神木が秋奈のもとに駆け寄って聞く。
「大丈夫です。あの──いろいろありがとうございました」
「いや。助けらられたのは僕たちの方だよ。秋奈くんがいなかったら、奴は倒せなかったかもしれない。──これからもよろしく頼むよ」
「はい!」
「ふーん。神木さんって、日本人の女の子には優しいんですね」
ニーナがジト目で神木を睨む。
「いぃ?! そんなこと無いよ!」
「そうですかぁ?」
「そ、そうだよ! さ、みんな。戦いには勝ったんだし、いつもの奴やるぞ!」
「いつものやつ……?」
秋奈が首を傾げる。
「四季組は戦いに勝った後は、いつも『勝利のポーズ』をするのよ」
ナターシャが説明する。
「そうだ。今度は秋奈がやりなよ。今回の主役はあんたなんだし」
「そうだな。秋奈くん、よろしく頼むよ」
「そ、そうですか。それじゃあ……」
「勝利のポーズ、決め!!!!!!」
*******
二日後。シャリテー・伯林医科大学のVIP専用病室には、手当てが終わりすっかり元気になった正毅の姿があった。
神木と秋奈は正毅の見舞いに行った。ただし──秋奈は新たに買ったワンピース姿で訪れた。
病室に入ってきた秋奈を見て、正毅は目を白黒させていた。同一人物とは最初思えない様子だった。
「これが、本当の、私の姿なのよパパ。月みたいに青白く光る古風な女性じゃなくて、私は太陽のように燦燦と輝くレディでありたいの」
正毅はしばらくフリーズしていたが、やがてふぅーっと息を吐くと「好きにしなさい」と言った。
「お前の人生だ。私がどうこう言う筋合いは無い。お前は、お前らしく生きればいい。お前がどう生きようと、私はお前の父親に変わりはないからな」
「パパ……」
「……助けてくれて、ありがとうな」
正毅はそう言うとニッコリ微笑んだ。秋奈は涙をこぼしながら「ありがとう」と言ってハグをした。
もう一つ、秋奈が変化したことがもう一つあった。
正毅の許可を得て、正式に伯林華撃団・四季組の隊員となったのだ。
「色々迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる秋奈を、皆拍手で迎え入れた。
みんなに祝福されながら笑顔を浮かべるモダンガールは、一番幸せそうな顔をしていた。
【Ep.3 完】
【次回予告】
ボクにとって、歌うことは合唱団のためであり利益のため。
歌うことを楽しいと思えない。
ねぇ、歌うって、どういうことなの?
次回、サクラ大戦Ⅵ Ep.4『天使の吐息』
お楽しみは、これからだよ。