パート1
『あなたは、いつ見ても黒い服ですね。どういうわけなんです?』
『わが人生の喪服なのです。わたし、不幸な女ですもの』
舞台上でマレーネと秋奈が迫真の芝居をしている。観客たちも二人の演技に見入っている。
伯林歌劇団七月公演 アントン・チェーホフ原作の舞台「かもめ 喜劇四幕」は、初日から大喝采で迎え入れられた。本格的な舞台デビューとなる秋奈とナターシャという新進女優への注目もさることながら、マレーネの圧巻の表現力、すっかり演技が板についたニーナの芝居も批評家たちや観客を魅了した。
「こんどの舞台、『かもめ 喜劇四幕』も大成功になりそうですね」
舞台脇で演技を見ながら神木はスピカに言う。
「みんな演技も上達してきているし、お客さんも満足しているみたいだし」
「……そうね……」
神木とは裏腹に、釈然としない面持ちのスピカ。
「どうしたんですか? 難しい顔をして」
「……何かが欠けているのよ。今の歌劇団に足りない何かがあるんだけど、それが分からないの」
「考えすぎじゃないんですか? 今だって十分だと思いますけど」
「いえ。今のままじゃ、遅かれ早かれ観客たちに飽きられてしまうわ。それを防ぐためにも、欠けている何かが何なのかをハッキリさせないと……」
そう言って、ブツブツと考え込んでしまった。
『今の歌劇団に……欠けているもの?』
神木は訝しげな面持ちで、舞台上で熱演している4人に視線を向けた。
*******
「みんな。お疲れ様です」
サロンでぐったりしている四人に、つぼみが紅茶を差し入れする。
「いやぁー。舞台の熱量が凄いねぇ。汗だくだくだよ」
ナターシャがそう言って、紅茶を一気に飲み干す。
「でも今回は、中日に休演日を設けてくれたし、副司令からご褒美があるですよ」
ニーナが神木に向けて言う。
「ご褒美? 打ち上げじゃないのかい?」
「違いますよー! ね、マレーネさん?」
「……」
「マレーネ。ご褒美って、何だい?」
「……休演日に伯林フィルハーモニーで『ウィーン少年少女合唱団』によるコンサートが開かれるの」
「そのコンサートチケットをスピカさんが人数分取ってきてくれたんです」
秋奈が引き継いで答える。
「人数分ってことは、あたしたちも行っても良いってことですか?」
アンジュとリンが身を乗り出してくる。
「えぇ。みんなで行ってみるといいわ」
スピカがサロンに近づきながら言う。
「やったぁー! 良かったね、アンジュ!」
「うん!」
「あらあら、子供なんだから」
「つぼみさんだって、嬉しいでしょ?!」
「──そうね。しばらくまともなお休みも無かったからね」
「神木くんも行ってきなさい」
スピカが神木に向き直って言う。「この娘たちの監督役も兼ねて」
「えっ? スピカさんは行かないんですか?」
「私はちょっと、用があるから。支配人はここのところずっと眠りっぱなしで誘っても意味ないし」
「……分かりました」
承諾しながらも、神木はスピカの考えを推し量っていた。