サクラ大戦Ⅵ ハロー・マイラブ    作:蛇王

23 / 64
Ep.4 天使の吐息
パート1


『あなたは、いつ見ても黒い服ですね。どういうわけなんです?』

 

『わが人生の喪服なのです。わたし、不幸な女ですもの』

 

舞台上でマレーネと秋奈が迫真の芝居をしている。観客たちも二人の演技に見入っている。

 

伯林歌劇団七月公演 アントン・チェーホフ原作の舞台「かもめ 喜劇四幕」は、初日から大喝采で迎え入れられた。本格的な舞台デビューとなる秋奈とナターシャという新進女優への注目もさることながら、マレーネの圧巻の表現力、すっかり演技が板についたニーナの芝居も批評家たちや観客を魅了した。

 

「こんどの舞台、『かもめ 喜劇四幕』も大成功になりそうですね」

 

舞台脇で演技を見ながら神木はスピカに言う。

 

「みんな演技も上達してきているし、お客さんも満足しているみたいだし」

 

「……そうね……」

 

神木とは裏腹に、釈然としない面持ちのスピカ。

 

「どうしたんですか? 難しい顔をして」

 

「……何かが欠けているのよ。今の歌劇団に足りない何かがあるんだけど、それが分からないの」

 

「考えすぎじゃないんですか? 今だって十分だと思いますけど」

 

「いえ。今のままじゃ、遅かれ早かれ観客たちに飽きられてしまうわ。それを防ぐためにも、欠けている何かが何なのかをハッキリさせないと……」

 

そう言って、ブツブツと考え込んでしまった。

 

『今の歌劇団に……欠けているもの?』

 

神木は訝しげな面持ちで、舞台上で熱演している4人に視線を向けた。

 

 

 

*******

 

 

 

「みんな。お疲れ様です」

 

サロンでぐったりしている四人に、つぼみが紅茶を差し入れする。

 

「いやぁー。舞台の熱量が凄いねぇ。汗だくだくだよ」

 

ナターシャがそう言って、紅茶を一気に飲み干す。

 

「でも今回は、中日に休演日を設けてくれたし、副司令からご褒美があるですよ」

 

ニーナが神木に向けて言う。

 

「ご褒美? 打ち上げじゃないのかい?」

 

「違いますよー! ね、マレーネさん?」

 

「……」

 

「マレーネ。ご褒美って、何だい?」

 

「……休演日に伯林フィルハーモニーで『ウィーン少年少女合唱団』によるコンサートが開かれるの」

 

「そのコンサートチケットをスピカさんが人数分取ってきてくれたんです」

 

秋奈が引き継いで答える。

 

「人数分ってことは、あたしたちも行っても良いってことですか?」

 

アンジュとリンが身を乗り出してくる。

 

「えぇ。みんなで行ってみるといいわ」

 

スピカがサロンに近づきながら言う。

 

「やったぁー! 良かったね、アンジュ!」

 

「うん!」

 

「あらあら、子供なんだから」

 

「つぼみさんだって、嬉しいでしょ?!」

 

「──そうね。しばらくまともなお休みも無かったからね」

 

「神木くんも行ってきなさい」

 

スピカが神木に向き直って言う。「この娘たちの監督役も兼ねて」

 

「えっ? スピカさんは行かないんですか?」

 

「私はちょっと、用があるから。支配人はここのところずっと眠りっぱなしで誘っても意味ないし」

 

「……分かりました」

 

承諾しながらも、神木はスピカの考えを推し量っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。