劇場に帰ってきてひとまず自室でくつろいでいると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい。どなた?」
『神木くん? スピカです。ちょっといいかしら?』
「副司令ですか。どうぞ、カギは開いてます」
部屋に入ってきたスピカの手に何やら書類の束が抱えられている。
「どうだった? コンサートは?」
「感動でした。全身鳥肌立つなんて経験初めてですよ」
「楽しめたのなら良かったわ。──それで、なぜ私が神木くんにあのコンサートを見せたか、だいたい察しはつくわね?」
「えぇ。──あの少女、リリィ・ヴィンターのことですね」
「その通りよ。彼女にはとてつもないほどの霊力を持っている。歌っている時は霊力を制御する力が緩くなって少し外に漏れ出てしまっているの」
「やはりそうでしたか。目に見えるほどなんですから、相当のパワーなんでしょうね」
「伯林華撃団・四季組全員の霊力を集めてやっと同じぐらいっていった感じかしら。──巴里も紐育も5人編成だから、もう一人欲しい所ね」
ここで神木はハッとする。
「ま、まさか副司令……。リリィ・ヴィンターを伯林華撃団に入れようと考えてるんですか?」
「そうよ。彼女の霊力をみすみす逃す手は無いわ」
「で、でも彼女は今『ウィーン少年少女合唱団』のエースですよ? いくらなんでも、そうそう簡単には……」
「──そうね。その通りよ」
スピカは持っていた書類を机の上に置く。神木は書類を手に取り目を通す。
「……これは?」
「『ウィーン少年少女合唱団』の総責任者であるカラジャン団長に送ったファックスよ。『リリィ・ヴィンターを伯林歌劇団・四季組のメンバーとして迎え入れたく云々』っていうのを支配人名義で送ったの。その返事がこれ。『リリィ・ヴィンターはウィーン少年少女合唱団の重要な団員である故、貴殿の要求は受け入れがたい』──要はダメってことね」
「それはそうですよ。突然うちのメンバーにならないかって送ってもけんもほろろになるのは目に見えてますって」
「でも、大切なのは彼女本人の気持ちじゃない?」
「……えっ?」
「これは、ウィーンで発行されているタブロイド判の記事なんだけど」
そう言ってスピカは記事を差し出す。見出しには【由緒ある合唱団団長 ギャンブルによる多額の借金疑惑】と書かれてある。
「これは……」
「団長は普通に払っていたんじゃ追い付かないほどの借金を抱えている。その一方でリリィは合唱団の良い稼ぎ頭。手放したくないと考えるのは当然のことじゃないかしら?」
「なるほど。つまり、彼女の意思が合唱団の意向と同じであるとは限らないというわけですね? ──でも、どうやってリリィと接触するんです?」
「すでに手は打ってあるわ」
そう言って、スピカはウインクをした。