一方その頃。リリィはアンジュに引率され、劇場近くの避難所へ急いでいた。
「……ねぇ、お姉ちゃん。霊力がある人が、戦うの?」
「そうね。伯林華撃団はみんな霊力を持った人たちの集まりだから。そうでないとアイゼンクライト改を操れないのよ」
「……」
「さぁ、着いたわ」
避難所の入口前に辿り着く二人。
「じゃあ、戦いが終わるまでここでみんなと大人しくしているのよ」
「お姉ちゃん、ボクも戦う!」
「……えっ?」
「ボクも、ゆーいちろーたちと戦う。ボクにも霊力があるんだよね? 戦えるよね?!」
「え、えぇっと……」
「リリィ、ここにおったか!」
リリィの姿を見つけたカラジャンが中から出てくる。
「どこほっつき歩いていたんだ! 団体行動取れない奴は帰ってから練習時間倍だ!」
「……団長。ボク、戦ってきます」
「あ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするカラジャン。
「伯林華撃団として、悪い奴らと戦います。ゆーいちろーの助けをするんだ。お姉ちゃん、行こ!」
「あ、はい」
「おい、こら、どこにいく! 待たんか、リリィ!」
呼び止める団長を無視し、二人は作戦指令室へと急ぐ。
指令室に行くと、スピカが出迎えてくれた。
「リリィ、ようこそ伯林華撃団へ。リン、すぐにリリィのアイゼンクライト改を用意して」
「合点承知の助!」
「今、神木くんたちが戦っているわ。リリィは彼らの援護をよろしく。良いわね?」
「はい」
*******
『隊長! このまま攻撃してもこっちのダメージが蓄積されていくだけだぞ!』
ナターシャが悲鳴に近い声を上げる。
ハインリヒとの戦いは持久戦となり、どちらかが力尽きるまでの忍耐勝負となっていた。神木のアイゼンクライト改もすでに限界に近づいてきている。
「クソッ。あともう一押しなんだが……」
「ハッハッハ! 死なばもろともだ!」
万策尽きかけたように思えたその時、後方から剛速球で飛んでくるアイゼンクライト改を捕捉した。
「あれは……!?」
謎のアイゼンクライト改は五機の周りをグルグル回る。すると、全員のアイゼンクライト改がみるみるうちに回復していった。
「回復能力……? これほど強い霊力を持つとは……まさか!」
「皆さん、遅れてすみません。リリィ・ヴィンター、ただいま参上しました!」
「えぇ!? リリィ・ヴィンターが、なぜ?」
驚きの声を上げるニーナ。対して神木は喜びの声を上げる。
「リリィ、来てくれたんだね!」
「ゆーいちろー。ボクも戦うよ。自分の足で、一歩踏み出すと決めたんだ!」
「よし! 一気に片を付けるぞ! 伯林華撃団・四季組、ハインリヒを倒すんだ!」
「了解!」
そこからの流れはあっという間だった。全回復した機体で袋叩きにあったハインリヒの『フェーレ』はとうとう限界突破し、暴走に歯止めが利かなくなった。
「おい、おい、言うことを聞けこのポンコツ!」
ハインリヒの必死の抵抗虚しく、最後は回線のショートとエンジンのオーバーヒートが重なって自爆した。ハインリヒの声も爆発と共に一切しなくなった。
「……今度こそ、奴をやっつけたか」
機体から降りて残骸に目をやる一同。
「今度ばかりは肝を冷やしたぜ。あそこまで粘るとはな」
「でも、リリィが来てくれたおかげで助かったよ。ありがとう、リリィ」
「ゆーいちろー……」
「はいはい。とりあえず、勝利したんですから、あれやりましょう!」
ニーナが音頭を取る。
「そうだ、今日はリリィが勝利のポーズって声を掛けてよ」
「えっ? ボクが……?」
「リリィ、大丈夫だ。さぁ……」
「う、うん。それじゃあ……」
「勝利のポーズ、決め!」
*******
それから数日後。リリィは正式に伯林華撃団・四季組に入ることになった。合唱団の目玉ということで、最初カラジャン団長は猛烈に反対していたが、合唱団にいる他の先生方がカラジャンを弾劾したことで事態は急転直下。そこからはとんとん拍子で事が進んだ。
リリィが『ウィーン少年少女合唱団』から伯林歌劇団に移籍したというニュースは、瞬く間にドイツを超えヨーロッパや世界中に広がり、伯林歌劇団への注目度は一気に増した。また、歌える人材が入ったことでミュージカルなどこれまでやってこなかったジャンルにも挑戦することが可能となった。
「副司令が前に言っていた、伯林歌劇団に足りないものとは、歌だったんですね」
神木がスピカに言う。
「でも、リリィが入ってくれたことで今後はレビュウにも力を入れられるわ。新たな客層も取り入れられるわよ」
「──でも何より、リリィがまた歌うことに楽しさを見出してくれると嬉しいですね」
神木はそう言って、舞台上でみんなと笑っているリリィに目を向けた。
【次回予告】
かつてはブロードウェイの伝説的スタァ。
今は伯林歌劇団の花形。
どちらも私。私のあるべき姿。だけど……。
次回、『嘆きのトップスタァ』
お楽しみは、これからよ。