「わっ! びっくりした!」
慌てて振り返ると、ドイツの伝統的な服であるティアンドルを着た女性が立っていた。背丈は150cmくらいで、黒髪を後ろで短くポニーテールにまとめている。ハッキリとした顔立ちで愛らしく、どことなく少女の面影が残っている。
「あの。もしかして、神木裕一郎少尉ですか?」
女性はもう一度質問を繰り返す。日本人の名前が発音しにくいのか、かなり慎重に聞いている。
「は、はい。自分は、神木ですが……」
「あー良かった! 見つからなかったらどうしようかと思った!」
女性は緊張の糸が切れたのか、屈託のない笑顔を浮かべる。
「あのー、その、君はいったい……?」
「……あ、すいません! 私、すっかり安心しちゃって。私、伯林華撃団・四季組の、ニーナ・ヘルプストと言います。よろしくお願いします!」
ニーナと名乗る女性はそう言って握手を求める。
「──じゃあ君が、僕の迎えなんだね?」
握手を返しながら神木が尋ねる。
「はい! 劇場へお連れするようにと、ヨハン支配人から言われてますので! それじゃ、行きますか!」
「あ、ニーナ君、待って。その……、君のことが知りたいな」
そう言われて、ニーナの頬が赤らむ。
「私のこと、ですか? じゃあ、馬車を呼んでいるのでその中でお話ししますね!」
「あ、あぁ」
二人は馬車に乗り込み、目的地である劇場まで向かう。
「──それでっと、私のことですよね?
私の名前は、ニーナ・ヘルプスト。実家はミュンヘンにある小さな薬局です。伯林華撃団の副指令にスカウトされて、こっちにやってきました」
「へぇ、ミュンヘンかぁ。地ビールで有名だよね」
「そうですぅ! よく知っていますねぇ!」
「士官学校で地理を習ったときに、教わったんだ」
「へぇーさすがエリートさんですねぇ! いいなぁ、私も神木さんくらい頭が良ければなぁ」
「ハハ。僕は君が思うほどエリートじゃないよ。ただ、運が良かっただけさ」
「いや、でも凄いですよ! 憧れるなぁ……」
神木は照れ臭くなって、目線を外に移す。すでに馬車は伯林市内に入っていた。市内は活気が溢れており、人通りも多い。街のあちこちに歴史を感じさせる建造物がある。
『流石、日本が近代化の際に参考にしたと言われるだけあるな……』
やがて目の前に大きな劇場が見えてきた。東京の大帝国劇場と規模は同じくらいだが、ロココ様式建築で歴史を感じさせる外観だ。
「着きましたよ、神木さん。──ここが、伯林華撃団の本拠地、『ベルリン歌劇場』です」