サクラ大戦Ⅵ ハロー・マイラブ    作:蛇王

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パート2

その夜。神木は夜の見回りがてら、マレーネと話し合いしてみることにした。

 

「マレーネ、いるかい? 神木だけど」

 

ドアをノックしながら言う。

 

『……何の用かしら?』

 

「君のことでちょっと、話があるんだ。手間はとらせないから、中に入れてくれないか?」

 

『……どうぞ。カギは開いているわ』

 

中に入ると、相変わらず新聞紙で埋め尽くされた壁が目に入ってくる。逆にそれが圧迫感を与える。

 

「前来た時も思ったけど、すごい数の切り抜きだね……」

 

「壁にあるのはファイルに収まらなかった分よ」

 

キセル片手にマレーネが言う。

 

「へ、へぇ……」

 

「──で、私に何の話があるの?」

 

「あ、あぁ。伯林華撃団も隊員が5人になって安定してきたし、君ももっと他の隊員たちの輪に入って欲しいんだ。チームワークは芝居でも戦闘でも同じだろ? 君が事なかれ主義な性格なのは分かっている。でも、もう少し隊員たちとコミュニケーションを取って欲しいんだ」

 

「……」

 

「すぐにとは言わない。例えば、サロンで談笑したり、稽古で自分からアドバイスしたりとか、そういう小さなことから始めてくれれば……」

 

「私は隊長に言われたことは遂行しているはずよ。それのどこが問題なの?」

 

「だから、そうじゃなくて、もっと他の四人とも交流を深めてほしいんだ。君の仲間じゃないか」

 

マレーネは黙ってキセルの煙を吐くと、「そろそろ寝るから。おやすみなさい」とだけ言った。

 

「マレーネ……」

 

「上っ面だけの台詞は虚しいだけよ、隊長」

 

マレーネはそれだけ言ってそっぽを向いてしまった。

 

 

 

*******

 

 

 

翌日。神木はスピカのもとを訪れた。ヨハン支配人はこの所外出ばかりでロクに劇場にいないし、何よりマレーネをスカウトしたのはスピカだから、彼女に聞けばマレーネのことが何かわかると思ったのだ。

 

「……ふぅん。マレーネが」

 

「戦闘も優秀ですし、舞台も圧倒しているのは分かります。でももう少し打ち解けてほしいとも僕は思っているんです」

 

「……神木くんは、マレーネのことをどれくらい理解している?」

 

「え? えーっと、確かドイツ人とアメリカ人の両親を持って、こっちに来る前まではアメリカのブロードウェイで看板女優として活躍してたんですよね? ──僕が把握しているのはこれくらいですけど……」

 

「なるほど。マレーネという人となりを知るにはあまりにも情報が不足しているわね」

 

スピカは立ち上がって本棚からファイルを取り出す。ファイルの表紙にはドイツ語で『マレーネ・ミッドサマー 記録』と書かれてある。

 

「……正直、彼女には気の毒なことをしたわと思っているわ」


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