外に出ると、すでに日はとっぷりと暮れていた。
「少し、歩きましょう」
マレーネはそれだけ言って、伯林の街並みを歩いていく。春にやってきた伯林も季節はすでに夏。行きかう人々も服装はラフなものに変わっている。
「──今のブロードウェイを誰が引っ張っているか、隊長は知っている?」
しばらく道を歩いてからマレーネが尋ねてきた。神木は黙って首を振る。
「ジーン・ミューア。私が引退した次の日に華々しいデビューを飾ったわ。なめらかなブロンドに愛嬌の中に気品ある表情。私とは正反対。すでにブロードウェイの次世代スタァとして各方面から注目の的よ。お客さんは皆、私のことなんかすっかり忘れたみたい」
「……」
「私は舞台女優が天職だと思ってきた。それはひとえに、応援してくれているお客さんがいるから頑張れていると思っていた。でも、お客さんの方は新しい子が出てきたらそっちに鞍替え。私のことは何とも思っていない。それが、なんと言うか、裏切られたようなように思えたの」
「マレーネ……」
「おかしいわよね。『氷の微笑』としていつだって凛としてきた私が、こんな気持ちになるなんて。こっちに来てからもその気持ちが消えなくて。そんな気持ちを経験したことない、ニーナやナターシャたちを見ていると、いたたまれない気分になるの。だから、皆とは距離を取ってたの」
マレーネは一気に話すと、キセルを取り出して火をつける。
「──でも本当は、誰かに私の気持ちを理解してほしかっただけかもしれないわね」
「マレーネ。僕は伯林に来るまで芝居なんて観たことなかったけど、それでも君のロミオを見た時は鳥肌が立った。役者というのは、そこにいるだけで人に感動を与えるんだ。確かに、紐育のブロードウェイのお客さんは君のことを何とも思っていなかったかもしれない。でも、例え何が起きたとしても、僕は君のファンであり続けるよ」
「隊長……」
「だからマレーネ。また伯林でも紐育の時みたいに羽ばたいてくれよ」
「……ありがとう」
それだけ言うとマレーネはそっぽを向いてキセルを吸い始めてしまった。フッと笑みを漏らす神木。
その時、神木のアイフォトロンが突然鳴り響いた。慌てて取り出して応答する。
『あ、神木くん?』
相手はスピカだった。
「どうしました、副司令?」
『また敵が現れたわ。場所は戦勝記念塔よ。すでにニーナたちは出撃したわ。神木くんも急いで!』
「分かりました!」
電話を切ると、マレーネが「敵ですか?」と尋ねてきた。
「あぁ、すぐに戦勝記念塔に急ぐぞ。伯林華撃団、出撃だ!」
「了解!」