「ゆーいちろー、いる?」
「その声はリリィだな? いるよ、入っておいで」
部屋に入ってきたリリィはどこかモジモジしている。
「どうした? 何かあったのか?」
「ゆーいちろー、明日からの冬休みって何か予定ある?」
「予定? いや、特にまだ決めてないけど……」
「ぼ、ボク、ゆーいちろーと一緒に伯林動物園に行きたいんだけど……」
「伯林動物園? そういえば、そんな施設があるって聞いたことあるなぁ」
「ボク、動物園なんて生まれてこの方行ったことなくて……。合唱団の子たちの話を聞いて、ずっと羨ましいなと思っていたんだ……だから……」
「そういうことなら、お安い御用さ。じゃあ、明日朝10時にロビーに集合してから行こう」
「うん! ありがとう!」
リリィは満面の笑みを浮かべてスキップしながら部屋を後にした。
*******
翌日。ロビーに向かうと、すでにリリィが玄関先で待っていた。
「やぁ、リリィ。待たせたかな?」
「うぅん。ボクも今来たところ」
リリィは、海軍の水兵のような可愛らしい外出用の服に着替えている。
「ねぇ、ゆーいちろー。似合ってるかな」
「うん。よく似合っているよ」
「へへ。良かったぁ」
そう言って満面の笑みを浮かべるリリィ。
「さぁ、行こう。そろそろ電車が来る時間だ」
神木は、リリィの手を握って駅へと向かった。
伯林動物園は、伯林動物園駅から歩いて一分のところにあるヨーロッパ最大の動物園だ。34ヘクタールを誇る園内には18,000頭を超える動物たちがいる。
「動物園の隣には、水族館もあるらしい。一通り見回ったらそっちにも行ってみるか」
「うん!」
動物園内は大勢の観光客でいっぱいだ。リリィと同年代の子供たちも大勢いる。
「ほら、ゆーいちろー! こっちこっち!」
初めての動物園に興奮気味のリリィは、あちこちの動物ゾーンを行ったり来たりしている。
「ハハハ。動物さんは逃げないから、そんなに急がなくてもいいよ」
笑いながらリリィの後を追う神木。キリンのゾーンの前まで来た時、『餌やり体験実施中』の看板が目に入った。
「ほら、リリィ。キリンの餌やり体験だってさ。せっかくだし、やってみたら?」
「えぇ、でも、怖くないかな……」
「大丈夫。僕も一緒にいるから。それに、こんな経験めったに出来ないぞ」
「う、うん。分かった。やってみるよ」
飼育員からニンジンをもらい、神木の手を握りながら恐々キリンに差し出すリリィ。キリンはしばらくニンジンをじろじろ見ていたが、小さく口を開けてかぶりつくと、そのまま旨そうに食べ始めた。
「な? 怖くなかっただろ?」
神木がリリィに優しく問いかける。
「うん! ゆーいちろーがいてくれたから、ちっとも怖くなかった!」
リリィは飛びきりの笑顔で答えた。
昼時になり、二人は園内のレストランで昼食を取ることにした。
「何でも好きなものを注文していいからね」
「じゃあ、ボク、この『ステーキ』ってやつ食べてみたい!」
「ハハハ。リリィは育ち盛りだから、栄養あるもんはどんどん食べないとな。じゃあ、僕も同じのにしよう」
運ばれてきたステーキを平らげながら、午後の予定を確認する。
「──じゃあ、午後はさっき言った通り水族館に行くでいいな?」
「うん! ボク、水族館も行くの初めてだから!」
「よし。じゃあ、早速──」
と、ここで神木のアイフォトロンが突然鳴り出した。慌てて出ると、スピカの声が流れてきた。
『神木くん? 良かった、今どこにいる?』
「リリィと一緒に、伯林動物園にいます」
『じゃあ、近くね。今すぐ戻ってきて。大変なことが起こったの』
「えっ? 大変なことって……?」
『ワケは後で話すから、とにかく、急いで戻ってくること!』
通信はそこで途切れた。
「ゆーいちろー……」
リリィが不安げな顔をする。
「すまない、リリィ。水族館はまた今度だ。急いで劇場に戻るぞ!」
「うん!」
リリィはすぐに切り替えて、神木と共に動物園を後にした。