「あたしだけど、隊長。いるかい?」
「ナターシャか。どうぞ、カギは開いているから」
部屋に入ってきたナターシャは、珍しく緊張しているようだった。
「どうしたんだい、ナターシャ?」
「隊長。その、明日からの冬休み、もう予定入っているかい?」
「えっ? いや、まだだけど?」
「な、ならさ。あたしと一緒に巴里に行かないか?」
「えっ? 巴里?!」
突然の話に面食らう神木。
「い、いや。実は、傭兵時代の友達と向こうで会う約束をしているんだけど、一人で行くのも味気ないし、どうせなら隊長を誘おうと思って……」
「はぁ。そりゃ、うれしいけど、お邪魔にならないかな?」
「とんでもない。あたしの友達は皆良い奴らばかりだからな。隊長のことも喜んで仲間に入れてくれるさ」
「ふぅん。そうだな、せっかくのお誘いだし、お言葉に甘えて一緒に行くことにしようかな」
「やった! じゃあ、明日朝7時にロビーに集合な! 遅れるんじゃねーぞ!」
「分かってるよ」
ナターシャは喜びの表情を浮かべながら、神木の部屋を後にした。
*******
翌日。待ち合わせ時間きっかりに向かうと、アーミースタイルの服に身を包んだナターシャがすでに待っていた。
「やぁ、ナターシャ。待たせたかい?」
「いんや。あたしも今来たとこだよ。おっと、隊長。一張羅かい?」
「モギリ服のままじゃ、失礼だからね」
「ファッションに気を遣う男はモテるよ~。あたしは、アーミースタイルなら何でもオッケーだけど」
「ハハハ。でもその服だって君にぴったりだよ」
「ありがとよ。さ、行こうぜ」
伯林から巴里まではそう遠くもないため、列車で向かうことにする。駅から巴里行きの急行に乗り込み、ミュンヘンで一度乗り換える。そこで昼食を取った後、再び列車に乗り込んで巴里まで向かう。現地に着いた時は、15時を過ぎた頃だった。
「やっと着いたなぁ。とはいえ、もうそろそろ日も暮れそうだな」
伸びをしながら神木が呟く。「その、友達とはいつ、どこで会う約束なんだい?」
「明日のお昼に、テルトル広場で待ち合わせして、そこからレストランで食事する予定さ」
「じゃあ、今日はもうホテルに行って羽を休めることにしよう」
「了解! ──って、プライベートなのについ言っちゃうんだよなぁ」
そんなことを言いながら、二人は宿泊予定のホテルへと向かった。
*******
翌日。いつもより遅めに起きた神木は、ダイニングで朝食を取りながら巴里の風景を見ていた。芸術の都、巴里。多くの芸術家たちが暮らしているという。
「お、隊長」
先に起きていたナターシャが声を掛けてくる。
「やぁ、ナターシャ。朝のランニングかい?」
「まぁね。これだけは日課だからね。それより、今日の予定を言っておくよ」
神木の向かいの席に座るナターシャ。
「11時30分ぐらいに、テルトル広場に行って、待ち合わせしている友達と集合して、その後レストランで食事っていうプランだから」
「友達っていうのは、何人ぐらい来るの?」
「うーん……」
考え込むナターシャ。「ま、待ち合わせ場所に行けば分かるよ!」
「?」
その後、時間までホテルの周りをぶらぶら散歩したり休息を取ったりして、11時30分に待ち合わせ場所のテルトル広場へと向かった。
広場は大勢の旅行客や画家たちで埋め尽くされていたが、肝心のナターシャの友達らしき人の姿は見受けられない。
「友達っていうのは、どこにいるんだい?」
「うーん。おかしいなぁ。ちょっと待ってて」
ナターシャは、とある古本屋の中に入っていって、店の電話を借りる。どこかに電話を掛けて、しばし通話していたが、やがて首を振ると肩をすくめて戻ってきた。
「外人部隊の事務所に問い合わせたら、どうやら緊急の出動が今朝あったらしいわ。みんな持ち場に行っているみたい」
「なんだ。じゃあ、ナターシャの友達には会えないってことか」
「そーゆーことね。で、これからどうする?」
「うーん。このまま帰るのもあれだし、二人で巴里観光でもしようじゃないか」
「賛成!」
二人は急遽プランを変更し、巴里の観光名所を巡ることにする。エッフェル塔・凱旋門・ノートルダム大聖堂……。巴里の歴史を感じさせる建造物だ。
「昔、この巴里にも怪物が現れて、帝都から出向していた大神司令率いる巴里華撃団が解決に導いたそうだ」
エッフェル塔から巴里の街を見下ろしながら、神木が言う。
「凄いよな。帝都と巴里、二つの都市を魔の手から救ったんだ」
「隊長も頑張っているよ。あの四人組を倒したじゃないか」
ナターシャが元気づけるように言う。
「それは、僕だけじゃなく君たちの協力があってこそだ。君たちがいなかったら、僕はただのモギリだよ」
「らしくねぇなぁ。自信持てよ。図々しいくらいじゃないとやっていけないぞ」
「そうだな。……そう言えば、ナターシャは巴里で生活していたのに、巴里華撃団にはスカウトされなかったのかい?」
「スピカさんがあたしをスカウトする際、念のため筋は通したらしい。けど、それだけさ。特に何も言われずに伯林に来ることが出来たってわけ」
「ふぅん。そうだったのか」
そんな話をしているうちに、次第に空腹になってっ来た。二人は市内のフレンチレストランで食事を取ることにする。
「何だかんだ言って、二人だけで回るのも悪くなかったな」
席に座っておしぼりを拭きながら神木が呟く。
「そうね。来れなくなった友達に感謝すべきかもね」
「おいおい」
「ふふっ。冗談よ。でも半分ホンキ」
「な、ナターシャ……」
照れる神木だったが、突如ポケットの中のアイフォトロンが鳴り出す。慌てて出ると、相手はスピカだった。
『もしもし? 神木くん? 今どこにいるの?』
「副司令! 今ですか? ナターシャと一緒に巴里に来ていますけど……」
『すぐに劇場に戻ってきて! 大変なことが起こったの!』
「大変な事? 一体、何が起こったというんですか!」
『ここでは上手く説明できないわ! とにかく、一刻も早く戻ってきて!』
スピカはそれだけ言うと通話を切ってしまった。
「隊長」
ナターシャが腰を浮かせながら神木の目を見据える。
「伯林で何か問題が起きたらしい。すぐに劇場に戻るぞ!」
「了解!」
二人は給仕を押しのけてレストランを後にした。