「失礼します」
支配人室の中に入ると、デスクに白いスーツと赤いシャツ、チョビヒゲに丸眼鏡、坊ちゃん刈りという出で立ちの男性が座っていた。
「本日、一二〇〇を持ちまして、伯林華撃団・四季組に配属となりました、帝国海軍少尉、神木裕一郎です。よろしくお願いします!」
「やぁ、君が神木くんか。まぁそう固くなりなさんな。リラックス、リラックス!」
緊張感に欠ける間の抜けた声を出す男性。神木も思わず拍子抜けする。
『な、何なんだ? この父ちゃん坊やは?!』
「僕ちゃんが、伯林華撃団支配人兼司令の、ヨハン=ヴォルフだ。気軽に、ヨハンと呼んでねー」
「は、はい……。よろしくお願いします、ヨハン支配人」
「うーん、固いなぁ。これだから軍人は嫌いなんだ」
その言葉を聞いてムッとする神木。
『こいつ……いちいち神経に触る言い方をするな』
「ま、いいや。とりあえず、これに着替えて」
そう言うとヨハンは机の中から洋服一式を取り出す。
「……これは?」
「君は軍楽隊にいた経験があるみたいだけど、我が伯林華撃団には奏組という専属の楽団を持っている。誰も彼も一流の弾き手だ。君みたいなアマチュアとはわけが違う。だから君には、劇場のモギリ係を命じる。オーケー?」
それを聞いて思わずニヤリとする。大神司令も、紐育華撃団の大河新次郎隊長も、最初はモギリからキャリアをスタートさせたというのは有名な話だ。もはや様式美と言っても良い。
「分かりました。謹んで、お受けいたします」
「うん。ま、そんなに頑張らなくていいから。テキトーにやってってね」
「はい。……失礼しました」
支配人室を後にすると、先ほど分かれたニーナが「神木さん!」と言いながら走り寄ってきた。
「支配人にお会いしたんですね? どうでした?」
「……なんと言うか、華撃団を舐めてる感じがしたな。ヨハン支配人だっけ? 彼は一体何者なんだ?」
「伯林一の大富豪で、なんでも伯林華撃団新設の際に一番資金援助してくれたのが支配人だったそうです」
「へぇ、そうだったのか」
「だから、賢人機関も感謝の気持ちから支配人を伯林華撃団のトップに据えたそうですよ」
「ふぅん。……だが、成金の道楽と思われるのは心外だな」
そう言って、神木は支配人室のドアを見つめる。
「……あ、そうだ。神木さん、まだ自分の部屋をご覧になっていないでしょう? 部屋も含めて、私が劇場内を案内します!」
「え、本当かい? じゃあ、お言葉に甘えて……」
「はい! それじゃ、劇場探検にレッツゴー!」