ベルリン歌劇場は一階と二階が劇場部分となっており、ニーナや神木などスタッフの部屋は三階にある。
「ここです。ここが、神木さんの部屋でーす!」
木で出来た扉にドイツ語で『神木』と表記された表札が掛かっている。
「あ、そうだ神木さん。せっかくですし、着替えたらどうですか? 一応劇場なんで、軍服を着た方が歩いていると……」
「あ、あぁ。そうだね。じゃあ、中で着替えさせてもらうよ」
部屋の中は、机に椅子にベッドにクロゼットと質素な作りとなっていた。神木は軍服を脱いで、先ほど渡されたモギリ服に腕を通す。
『少しデザインはダサいけど、まぁモギリ服なんだし、しょうがないか』
「おまたせ」
廊下に出ると、ニーナが目を輝かせながら立っていた。
「わぁ、神木さん! モギリ服も似合ってますね!」
「そ、そうかな? 自分ではあんまり自信は無かったんだけど……」
「とんでもない! サマになってますよ!」
「──そ、そうか。ありがとう」
「それじゃあ、次は舞台を案内しますね」
ベルリン歌劇場の舞台は大帝国劇場以上に広く、神木は舞台から見る客席の光景にただただ圧倒された。
「凄いな……ここで、舞台をやるんだね」
「えぇ。来月から、マレーネさんと『ロミオとジュリエット』を公演するんですよ」
「……マレーネ?」
「あ、神木さんはまだマレーネさんに会ってませんか。マレーネさんも、伯林華撃団・四季組のメンバーなんですよ」
「へぇ。同期なんだね」
「同期って言っても、マレーネさんの方がキャリアは長いですから……」
「ニーナ」
突然二人の後ろから声を掛けられる。振り返ると、金髪のフィンガーウェーブに紺色のワンピースドレス、目元は切れ長でこけた右頬にはほくろがある。女性らしいエレガントさを持ちながら男性的な美しさも兼ね備えた、まさにクールビューティーという名にふさわしい女性だ。
「……こちらの方は?」
神木の存在に気づいた女性がニーナに尋ねる。英語訛りのドイツ語だ。
「あ、日本からいらした神木裕一郎さんです。伯林華撃団・四季組の新隊長さんですよ」
「神木です。よろしくお願いします」
「マレーネ・ミッドサマー」
女性はそれだけ言うと、キセルに火をつけて一服吸う。
「──見た感じ、まだ若いって感じね。あなた、おいくつ?」
「今年で21になります」
「あら、私より2つも下なのね。──それで、この四季組をどうまとめていくつもり?」
「私は、悪を人々から守るためにこの伯林にやってきました。四季組の皆さんも同じ志を持った同志です。互いに手と手を取り合って、悪と戦っていく所存です」
「……二流ね」
「なにっ……?!」
「戦いの時は少なくともあなたの指示には従うわ。でもそれ以外のことで指示されるのはご免よ。──それから、ニーナ」
「は、はい!」
突然声を掛けられビックリするニーナ。
「……大道具部屋に、見かけないボルトが落ちていたから、後でリンに報告しといて」
「は、はい……」
「それじゃ」
マレーネはそれだけ言うと、さっさと舞台を後にした。
「……何て言うか、キツイ性格の人だね……」
神木はマレーネの気配が消えたと同時にニーナに呟く。
「マレーネさん。元々アメリカはブロードウェイの看板女優だったんですって」
「ブロードウェイ?! 凄いなぁ」
「こっちに来てまだ日も浅いと思いますから、きっと、大丈夫ですよ!」
「……そうだな。それより、さっき言っていたリンって……?」
「ニーナちゃーん!」
今度は前方からツナギ姿でショートボブのアジア系の女性が走り寄ってきた。顔はススで黒くなっており、手には軍手をはめてスパナを握っている。
「ニーナちゃん。舞台で使うボルト知らないかな? 朝からずっと探してるんだけど」
「ボルト? ……あぁ、それならさっきマレーネさんが大道具部屋で見たって」
「ほんと? あざっす! ……あれ、こちらの方は?」
神木に気づいた女性が指をさす。
「伯林華撃団・四季組の新隊長、神木裕一郎さんよ」
「神木です。あの、あなたは?」
「伯林華撃団・空組の、リュウ・リンです。台湾からこっちに来ました! 主に舞台設営とメカを担当しています。よろしく!」
「あぁ、よろしく」
「えーっと、それで……あれ? 私、何を探してたんだっけ?」
「え、ボルト、じゃないの?」
「あ、そうだボルトだ! ありがとう、それじゃ!」
それだけ言い残すとリンは足早に大道具部屋に向かった。
「……結構、抜けてる子だね」
「えぇ。でも、メカに関しては右に出る人はいませんから」
「なるほど……。それで、他の四季組のメンバーはどこにいるんだい?」
「今の四季組には、私とマレーネさんしかいませんよ」
「何だって?! それじゃ、人手不足ってことかい?」
「伯林華撃団は出来たばかりなので、まだ色々と準備が間に合ってないんです。来月の『ロミオとジュリエット』も、私とマレーネさんの二人芝居なんですよ」
「でもその状態で、悪に立ち向かえって……」
「だ、大丈夫です! 今、副指令さんがあちこちで交渉しているところですから」
「……副指令?」
その言葉が、神木には引っ掛かった。