【二次創作】Fate Grand Order 〜英霊が生まれる時〜 作:麻宮鈴
ついに太宰さんの秘密が明らかになる!
(あらすじ)
紅子の推理で太宰の隠し事が暴かれていく中、藤丸は太宰が何かを恐れていると感じていた。
ついに太宰の宝具が明らかとなった時、藤丸は太宰が恐れていることに気付いて――――――
心が苦しい。
でも、言わなくてはならない。
連絡はつかないが、今も遠くでマシュたちが頑張ってくれている。
俺たちの帰りを信じて待っていてくれているはずだから。
だから俺たちは、ただの1度だって諦めることを許されないんだ。
第9節 言わなければならない言葉
「………………英霊・太宰治の能力こそが、ツクヨミを倒す切り札なのです」
紅子さんの言葉を聞いて、太宰が顔を上げる。
太宰は笑っていた。
だが、立花には彼がひどく怖がっているように見えて仕方がない。
何を、そんなに怖がっているんだろう
立花が疑問に感じている中、太宰は笑みを浮かべて口を開く。
「アハハ。面白い推理だね、紅子。
でも、買い被りすぎだよ。
私はただの作家だ。そんな私が神を倒すほどの力を持っているとでも?」
「神を倒す力は必要ありません。それは、太宰さんの中にいる存在が持っているはずですから」
「じゃあ太宰の能力はどうして切り札になるんだ?」
ラーマの疑問に紅子は迷いなく答える。
「神を倒す力を使うのに、太宰さんの力が必要なんです。
神を倒すほどの力です。そんな代物、普通のサーヴァントでは到底使うことができません。なので、太宰さんの中にいる存在というのは神霊なのではないかと」
「そうなのか太宰!?」
「………………」
太宰は笑みを浮かべたまま黙っている。
否定しない、ということはそういうことなのだろう。
なるほど、紅子の言い分は理解できる。
神を殺すなんてことは同じ神か、あるいは神造兵器を使うことを許された特別な人間くらいだ。
だが、太宰はツクヨミから逃げる時に雨を降らせたと言っていた。
天候を操るなんて御業、それは神にしかできないだろう。
「神霊はサーヴァントとして現界できないから、別の英霊である太宰さんに自分の分霊を宿らせて、疑似サーヴァントのような状態にしているってことかな?」
「はい。おそらく今の太宰さんはそういう状態だと。そうですよね、太宰さん?」
「………………続きを聞こうか」
太宰は相変わらず笑みを浮かべていて、何を考えているのかわからない。
「では続けましょう。
敵であるツクヨミの場合もまた神霊である以上、そのままでは現界できません。そこで前に太宰さんが言っていたように、悪魔サリエルとの複合サーヴァントとして相性の悪い教会の中限定で現界を果たしている。弱っているとはいえ、どちらも人間より高位の力を持つ者同士の複合サーヴァントです。神格は、疑似サーヴァントとして現界するよりも落ちていないでしょう」
「つまり、疑似サーヴァントとして現界している太宰さんより、ツクヨミ・サリエルの方が神格は上ってこと?」
「はい、そうなります。なので、ツクヨミを倒すにはできるだけ元の威力を落とさずに神を倒す力を使いたい。
ですが、普通の英霊では、いくら分霊を宿しているからと言って神霊の力を100%出し切ることはできません。この世に現界している時点で神格は落ちていますし、神を倒すほどの力なんて近代の英霊では扱うことすら難しいはずです。
ラーマさんのような神性持ちの英霊ならば扱えるのかもしれませんが、自分に近しい神性でなければ、かえって別の神性が邪魔をして100%の力が出せなくなってしまうでしょう」
「そうなのラーマ?」
「ああ。余もインド神以外の神から力を与えられても扱える自信がないな」
立花の質問にラーマは頷いている。
どうやら紅子の推理は間違っていないようだ。
それにしても紅子さん、疑似サーヴァントや神霊のこと、記憶喪失にしては知っているんだな………
そういった知識はサーヴァントの基本知識として、現界するときに与えられるものなのかな?
紅子の方に目を向ければ、その傍らには相変わらず謎の生物タマちゃんがプカプカと浮いている。その時、立花の視線に気が付いたのか、タマちゃんがこちらに振り返った。
「!」
その円らな目は、心なしか白っぽく光っているような気がする。
…………まさか、紅子さんが急に頼もしくなったのって、タマちゃんのせい?
タマちゃんの影響で紅子さんの本来の性格に近くなっているのか?
立花の想像通りなら、この生物はきっと―――――――
いや、今は考える時ではない。
今は太宰さんの、ツクヨミを倒す力について聞くべきだ。
「マスター?」
「………ううん、大丈夫。紅子さん、話を続けて」
「わかりました。
今言ったことを踏まえると、自分の神性と相性の良い神性持ち、もしくは神性持ち以外で自分の100%ないしはそれに近い力で力を使える英霊を探さなくてはなりません。
その結果、選ばれたのが太宰さんだった」
「太宰が? でもどうしてだ?
紅子がさっき言っていたように近代の英霊で、しかも作家が神の力を使えるとは思えないが」
ラーマの疑問はもっともだ。
太宰治は日本人ならば知らない者はいないぐらい有名な作家ではあるが、彼が神と所縁があるなんて話は聞いたことないし、サーヴァントとしての戦闘能力もそんなに高くはないはずだ。
となると、考えられることは一つ。
英霊になれば与えられる特別な力。
その人の逸話、人生が反映された必殺技。
「英霊・太宰治の宝具ならば、神を倒す力を100%に近い出力で使えるのでしょう」
紅子が放った言葉を受けて、立花は太宰に目を向ける。
彼はどうして何も言わないのか。なんで大事なことを隠していたのか。今、どんな表情をしているのだろうか。
気になって立花は太宰を見た。
太宰は、相変わらずただ笑っていた。
ただ笑っていて、
――――どうして、そんなに怖がっているのだろう?
※※※※※※※※※※
正直、驚いた。
これが紅子の、本来の性格なのだろうか。
地下に来た頃はわからないことばかりでおどおどして頼りなかったというのに、今は真っすぐに―――――私を見据えている。
恐らく、紅子の霊基に付属しているというあの丸い生物の影響だろう。
中にいる存在のおかげか、私の本来の適正クラスがキャスターであるせいか、地下にいるというのに、あの生物が少しずつ外に満ちている月光の魔力を吸収しているのがよくわかる。
そのせいで紅子が変わってきているのだろう。
その変化が、私はひどく怖い。
あの真っすぐこちらを見通すような視線が怖い。
ずっと必死に隠してきたものが、バレてしまうんじゃないかと気が気じゃない。
だから、悟られないように、笑顔を張り付けなくては。
「英霊・太宰治の宝具ならば、神を倒す力を100%に近い出力で使えるのでしょう」
ほらまた一つ。隠し事が暴かれる。
だけどまだ大丈夫だ。私のこの、醜い本心はまだバレていない。
「………どうやってだい?
そんなこと、ただの作家である私に可能だとでも?」
ただの虚勢だ。
紅子はもうとっくに真実にたどり着いているのかもしれない。
いや、まだきっと大丈夫だ。
私の宝具の効果までは誰もわからないはずだ。
だが、虚勢を張った私の言葉に動じることなく、紅子は真っすぐな視線を向けたまま秘密を暴く言葉を紡ぐ。
「100%に近い力を使うにはどうしたらいいか。
太宰さんは言っていましたよね?
自分の中の存在の力は、自分の霊基には強大過ぎて大けがを負ったと。
その問題こそがネックなのです。その「霊基が保たない」という問題さえ解決できればどんな英霊でも100%の力で神を倒す力を使えます」
「つまり、太宰さんの宝具を使えば、強大な力を使っても霊基を保つことができる?」
「はい」
藤丸君の言葉に紅子が頷く。
彼らは着実に私の秘密に近づいてきている。
誤魔化さなくては。
笑顔を張り付けて、道化を演じて隠し通さなくては。
「それはおかしくないかい?
現に私はツクヨミから逃げる時に力を使ってボロボロの状態だ。
そんな力があるなら初めから使っていればよかったと思うのだが」
そうだ、すでに私の傷はみんなに見せた。
説得力はあるはずだ。
事実、藤丸君とラーマ君は「確かに」と言った顔をしている。
そうだ、それでいい。
そのまま気づかないでくれ。
「恐らく、太宰さんの宝具は簡単には使えないのでしょう。
制約が多いとか、あるいは、自身への負担が大きすぎて1度の現界で1回切りしか使えない、といったところでしょうか」
「………………」
当たっている。
全て、紅子の言うとおりだ。
なぜ、わかったんだ?
このままではまずい。
私の宝具が1度しか使えないとバレてしまった。
これではもう…………
「でも、なぜ太宰は宝具のことを隠していたんだ?
さっき、太宰が万全の状態でもツクヨミ・サリエルを倒せないって嘘を言っていたし」
やめろ、やめてくれ!
それ以上言わないでくれ!
「1度しか使えないなら、最終決戦のここぞという時にその宝具を使えばいいだけじゃないのか?」
「―――――――――――――――」
………ああ、そうだよな。
私の宝具がどんなものか知らないんだから、仕方がないか。
いやでも、知っていたところで君にはわからないんだろうね、『ラーマーヤナ』の英雄。
後世に語り継がれるほど、その人生を勇敢に走り続けた君には。
「………ハハ」
ああもう、どうでもいいや。
※※※※※※※※※※※※
「でも、なぜ太宰は宝具のことを隠していたんだ?
さっき、太宰が万全の状態でもツクヨミ・サリエルを倒せないって嘘を言っていたし」
ラーマの言葉で立花はようやく理解した。
太宰が何を恐れていたかを。
彼の宝具がどんなものであるかを。
それは立花が日本人で、太宰治という作家のことを、彼の人生を知っているから気づけたことだ。
インドの大英雄であるラーマや、紅子さんでは気付かないだろう。
すぐにラーマの言葉を止めないと!
だが、すでに時は遅かった。
「1度しか使えないなら、最終決戦のここぞという時にその宝具を使えばいいだけじゃないのか?」
「―――――――――――――――」
太宰さんは、笑っていた。
だけど、さっきまでのような怖がっている感じはない。
その目は恐怖というより、諦めの色に染まっているように見えた。
その姿は、立花には今にも崩れてしまいそうに見えて、とっさに名前を呼んだ。
「太宰さん」
「……………」
立花の声が届いているのかいないのか、太宰は「ハハ」と乾いた笑いを零すと、紅子に向き直った。
「…………見事だ、紅子。
君の推理は大体当たっているよ。
私の中の存在は、君が言ったような理由で私を選んだんだ」
「じゃあ、太宰さんならツクヨミを………」
「でも、君の推理には穴があるよ」
太宰は、ふと笑顔を消し、俯いてしまう。
その表情は神に隠れてよくわからない。
紅子は太宰の変化に戸惑いつつも、口を開く。
「穴とは何ですか?」
「英霊・太宰治の宝具があれば、確かにこんな貧弱な霊基でもツクヨミを倒す力を使えるだろう。
でもそれなら別に、私の中の存在が私の宝具を使えばいい。そうだろ?」
「………えっと、どういう意味だ太宰?」
ラーマが首を傾げる。
太宰は相変わらず俯いたまま言葉を続ける。
「簡単な話だよ、ラーマ君。
紅子の言っていた通り、私の中にいるのは神霊の分霊だ。神様なら、私の体なんか乗っ取って私の宝具を使って自分でツクヨミを倒せばいい。わざわざ戦闘に向いていない作家に体の主導権を渡すのはおかしい。そうは思わないかい?」
「それは、確かにそうだな………」
確かに、太宰の言う通りだ。
現にカルデアにいる疑似サーヴァントは、分霊の人格が出ていることが多かったと思う。イシュタルやエレシュキガルなんかがその例だ。
まぁ、諸葛孔明や司馬懿などの例外もあるが、その場合はちゃんと彼らなりに理由があった。
「なんで、太宰さんに体の主導権を?」
「答えは単純。
私の宝具は、私―――太宰治の精神にのみ作用するものだからだ」
「つまり、太宰さんの宝具は太宰さんにしか使えない。
太宰さんの体でも、他の人格が使ったら意味がない」
「そういうことだ」
これではっきりした。
これほどまでに太宰にしかできない状況がそろっている。にも拘らず、彼はそのことを隠していた。
だとしたら彼の宝具は立花が思っているようなものなのだろう。
普通の人が同じ状況に立たされたら、誰だってそうするはずだ。
立花だって、太宰のように隠してしまうかもしれない。
だって――――――
「じゃあ、尚更何の問題があるんだ?
その宝具を太宰が使えばツクヨミを倒すことができるのだろう?」
「……………それが無理なんだよ」
「なぜ?」
だって、太宰さんの宝具は――――
「私に、その気がないからさ」
――――――きっと、使ったら死ぬ類のものだ。
※※※※※※※※※※
ああもう、どうでもいい。
「私に、その気がないからさ」
どう思われたって構わない。
だってもう二度と、あんな思いをするのは嫌なんだ。
「は?」
私の答えに、ラーマ君は声を上げる。
その声には怒気が入っているのが分かる。
そりゃあ、そうだよな。
こんなに真剣に特異点をどうにかしようと戦っているのに、肝心の私が「その気がない」だなんて、逆の立場だったら私だって相手にこぶしの一発くらいお見舞いしているだろう。
実際、ラーマ君が今にも飛び掛かって来そうだけど、幸い藤丸君が止めてくれている。
良かった。
いくら本来のキャスターの私より強くなっているといはいえ、こんなボロボロの状態でインドの大英雄の一撃を受け止める自信はないからね。
この様子だと、藤丸君は私の宝具がどんなものか予想できているのかもしれない。
日本人だしね。
私の作品、学校の教科書にも載っているって噂だし。
………………まぁ、私の本心を、何を恐れているかは知らないんだろうけど。
「離せマスター! いくら太宰とはいえ、今の言葉は聞き捨てならないぞ!」
「ラーマさん、落ち着いてください!」
「ラーマ抑えて! 太宰さんには太宰さんの事情があるんだよ!」
「そんなの知るか! おい太宰! お前も汎人類史のサーヴァントだろう!?
ここで戦わないで、何の意味があるというんだ!」
暴れるラーマ君を、藤丸君と紅子が必死に止めている。
そんなに暴れたって、私の気持ちは変わりはしないのに。
もういいや。
隠したっていずれは暴かれるんだ。
私が本当はどんな人間なのか。
ならばいっそ、もう全部曝け出してしまうのもいいのかもしれない。
これが自暴自棄ってやつかな?
まぁとにかく……………私はもう疲れたんだ。
「汎人類史だからなんだい?
そもそも私は勝手にここに召喚されたサーヴァントだ。
君たちみたいに世界を救うなんて志を持ってここにいるわけじゃあない。
いわば、ただ巻き込まれただけだよ」
道化をやめた私の声は、自分でもぞっとするくらい冷たく聞こえた。
こんなに冷たい声も出せたのだなぁ。
本当の私は、冷たい人間なのだろうか?
「………お前は、何をそんなに恐れてるんだ?
お前はツクヨミを倒すためにここにいるのではないのか?」
ラーマ君は私の変化に戸惑っているのか、さっきまでの勢いはない。
訝しげに眉をひそめている。
どうして私が怖がっていると分かったんだろうか?
まぁどうでもいいか。
「ああそうさ、私は怖いんだ。怖がって何が悪い?
ツクヨミを倒すためには宝具を使わなくてはならない。
私のあの、地獄のような宝具を!」
「地獄だと?」
「ああ。君みたいな大英雄にはわからないんだろうね。
君の宝具は確か、『羅刹を穿つ不滅』だったっけ?
そんなものとは比較にならない。
地味で、陰惨で、残酷で、いっそ死にたくなるような宝具さ。
まぁ、実際使ったら死ぬけどね」
「死ぬだと!? アーラシュの宝具みたいなものか?」
アーラシュ?
誰のことだろう。
その人の宝具も使ったら死ぬのだろうか。
だとしてもきっと、私の宝具のほうがきっと何倍も残酷だ。
「ラーマ、太宰さんの言っている通りだと思う。
使ったら死ぬ、それが分かってて宝具を使うのは、かなり勇気がいることだよ」
「………確かに、マスターの言う通りだな。
それを、『最終決戦の時にその宝具を使えばいいだけじゃないのか』だなんて、余は無神経だった」
「………私も、無神経でした。
まさか、使ったら死んでしまう宝具とは思わなくて。
ごめんなさい、太宰さん」
「余も、すまなかった」
あれ?
何故謝っているんだろう?
………ああそうか。彼らは勘違いをしているんだ。
私が、死ぬのを怖がっているとでも思っているのかな?
だとしたら大間違いだよ。
「何か勘違いをしていないかい?
私は別に、死ぬのが怖いわけじゃないんだ」
「え?」
藤丸君達、何をそんな驚いているのだろう?
サーヴァントなんて一度死んでいるんだから、そんなのあたりまえだと思うのだが。
それに、私の生前の行いを知っているならそんなこと分かりそうなものだけど。
………まぁ、藤丸君みたいな子供に分かれというのは無理な話か。
「私の宝具は、なんだと思う? 藤丸君」
藤丸君なら、名前ぐらいは予想できているんじゃないのかい?
だってそれは、私の最後の作品だから。
「………太宰さんの宝具は『人間失格』ですか?」
「正解だよ。
嬉しいね。君みたいな若い子にも私の最後の作品を知ってもらえているなんて」
「………マスター、その『人間失格』というのはどんな話なんだ?」
「私も気になります。教えていただけませんか?」
「えっと、それは………」
藤丸君がこちらを窺うように視線を向ける。
作者の私に配慮してくれているのかな?
まぁ、ハッピーな話ではないから言いにくいのかもしれないけど。
でも、作者の私から説明するのは違う気がする。
「私には気にせず、説明してあげてくれたまえ、藤丸君」
「………わかりました」
そう言うと、藤丸君は記憶を辿りながら、たどたどしくはあるが、私の人生を反映させた作品『人間失格』の内容を話し始めた。
※※※※※※※※※※※※
恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。
つまり、わからないのです。隣人の苦しみの性質、程度が、まるで見当つかないのです。
そこで考え出したのは、道化でした。
それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。自分は、人間を極度に恐れていながら、それでいて、人間を、どうしても思い切れなかったらしいのです。
大庭葉蔵(おおばようぞう)。
青森の大金持ちの息子であり、この『人間失格』の主人公。
彼は、幼い頃から人間の営みが分からなかった。
他人の気持ちもわからず、自分の心情も他人からは理解してもらえない。
その苦しみから逃れようとして、彼は様々な人と付き合い、精神を混乱させていき、やがて心中や自殺未遂を行うようになった。
助かってからも今度はモルヒネ中毒にかかり、脳病院へと入院させられる。
自分は狂ってはいないと言いつつも、病院に入れられた以上、自分は他者から狂人のレッテルを貼られたのだと自覚する。
人間、失格。
もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
いまは自分には、幸福も不幸もありません。
ただ、一さいは過ぎて行きます。
自分がいままで阿鼻叫喚で生きて来た所謂「人間」の世界に於いて、たった一つ、心理らしく思われたのは、それだけでした。
これが太宰治が最後に書いた『人間失格』という作品。
どうして最後なのかって?
だってこの作品を書いた後、彼は――――――――自殺してしまったから。
後に、『人間失格』は太宰の人生を反映させた、遺書のような役割を果たしているといわれるようになったんだ。
※※※※※※※※※※※※
「…………説明はこんな感じかな」
「自殺………」
「そんな………」
立花の説明を受けて、ラーマと紅子は呆然としている。
それもそうだろう。自分も学校の授業で太宰治という作家について知った時に、同じような反応をした覚えがある。
あまりにも、衝撃的で悲しいお話だ。
「何をそんなに呆けているんだい?
もう終わったことだというのに」
そんなラーマたちの反応を他所に、太宰は笑っている。
笑っているのに、目は笑っていなくて、彼が本当は何を考えているのか分からない。
立花はそんな太宰の本心が知りたくて口を開く。
「太宰さんは、生前に自殺したから死ぬのが怖くないんですか?」
「ああ。生前はかれこれ5回ぐらいは死のうとしているからね」
「「5回も!?」」
紅子とラーマが驚きの声を上げる。
立花も授業で、太宰治という作家は自殺未遂や心中を繰り返したと聞いたことはあったが、まさか5回もやっていたとは驚きだ。
そんなに何回も死を覚悟して、生還して、そして物語を書き続けた。
そんなこと、普通はできない。
そんな普通でないことをやってのけた彼は一体、何をそんなに恐れているのだろうか。
「じゃあ一体、太宰さんは、何を恐れているんですか?」
立花の質問に、太宰はふと笑顔を消し、そして口を開く。
「私はただ…………狂うことが怖いんだ」
「狂う?」
「私の宝具『人間失格』は、いわゆる自己強化型の宝具なんだ。
私の精神に「狂気に屈するまであがき続ける」効果を与える。
具体的に言えば、自分に徐々にランクが上がる狂化をかけて、霊基を一時的に強化し、たとえ死ぬほどのダメージを負ってもギリギリで生還する」
「徐々にランクが上がる狂化だと!? そんなことをしたら………」
「ああ。徐々に強まる狂化に私の精神が耐え切れなくなった時、私の霊基は砕け散る。
途中解除は不可。
一度使えば必ず最後、私は狂気に飲まれて死を迎えることになる。
自己強化というよりはもはや、呪いに近い宝具だよ」
「……………」
衝撃的な内容に、言葉が出ない。
でも、ようやく合点がいった。
どうして太宰さんが選ばれたのか。
彼の宝具なら、霊基に分不相応な力でも死なずに使うことができる。
彼の精神が持つ限りは。
その為には彼は、生前に自分を死に追い込むほど味わった狂気をもう一度体験しなければならない。霊基が砕け散るその時まで、永遠に。
太宰さんはそれを、心の底から恐れているんだ。
当たり前のことだ。生前味わった苦しみを、宝具で強制的にもう一度味わわなければならないのだから。
そんな当たり前のことを太宰さんが隠していたのはきっと―――――
「だから私は、宝具を使わない。
例えそうしなければ世界が終わると分かっていても、私はもう二度と、あんな思いはしたくないんだ」
彼が俺たちに、サーヴァントとしての責務を放棄することに、申し訳なさを感じているからだ。
きっと、ラーマも紅子さんもそのことに気付いている。
………………その上で、俺は、カルデアの唯一のマスターとして言わなければならない。
「太宰さんの恐怖はわかります。
でも、わかった上で俺は言わなければならない」
太宰さんを真っすぐに見つめる。
彼は、無表情だった。
無表情のはずなのに、立花には酷く怯えた顔をしているように見えた。
きっと、太宰さんは俺が言おうとしていることが予想できているのだろう。
心が苦しい。
でも、言わなくてはならない。
連絡はつかないが、今も遠くでマシュたちが頑張ってくれている。
俺たちの帰りを信じて待っていてくれているはずだから。
だから俺たちは、ただの1度だって諦めることを許されないんだ。
「カルデアのマスターとして、お願いします。
汎人類史のために協力してください。
太宰さんに辛い思いをさせてしまうことはわかっているけど、それでも太宰さんしか頼れないんです!
お願いします! その宝具を使って俺たちを、世界を救ってください!」
「……………………………」
太宰さんは、今まで見たこともないような、今にも泣きだしてしまいそうな顔をしていた。
そして、その声も弱々しく震えていて、
「………やめてくれよ。
私に――――――人間失格の私なんかに期待なんてしないでくれ」
そう呟くと、部屋を飛び出していった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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それでは次回にまた会いましょう!