【二次創作】Fate Grand Order 〜英霊が生まれる時〜 作:麻宮鈴
(注意点)
・今作はFGOのオリュンポスクリア後の世界を舞台としています。真名や二部のネタバレを含みますのでご注意ください。
・前回の「プロローグ~人外たちの邂逅~」の続きに当たるので、そちらから読むことを推奨します。
・オリジナルキャラが出しゃばります。
・独自の解釈を含みます。
・カルナさんの後ろのもこもこに夢を見ています。
以上、大丈夫な方は是非最後まで読んでいってください!
南米異聞帯(ロストベルト)にある、とある薄暗い空き家の中に3人の人影があった。一人は全身をフード付きのマントで覆い、顔に布を巻きつけた小柄な人物。もう一人は深い藍色の法衣を纏った神父、最後の一人はピンクの長髪にスーツを身につけた秘書風の美女だ。その内、フードの人物と神父は資料を見ながら何やら話し込んでいる。
「………というわけだ。頼めるか?」
「承知しました。このカルデアの藤丸立花という人物を殺せばいいのですね? 奴のいる本拠地の場所はわかりますか?」
「ああ、忍び込むならば無理ですよ。私が一度潜入してから、警備が厳しくなってしまいましたから」
今まで遠巻きに二人の会話を聞いていたピンク髪の美女―――コヤンスカヤが近づいてくる。その姿を見て神父の男、ラスプーチは眉を顰める。
「………さっきから思っていたのだが、何故まだいる? もう仕事は終わったはずだが?」
「だって、おもしろそうですから。それに、いずれはまた私のサービスが必要になるのではないかと思いまして♡」
可愛らしい大きな目を細め、口角を上げて笑う。その口元からは鋭い牙がのぞき、彼女が人間でないことがわかる。
「コヤンスカヤさんの言う通り、忍び込めないとなるとどうしましょうか」
「ああ、それならば問題ない。手は考えている」
そう言うとラスプーチンはフードの人物、もとい【ホワイトエンド】を指さした。
「?」
「会った時から気配を感じていたのだが、君は放浪中に何か拾ってはいないかね? 例えば金色の杯とか」
「まさか!
………ん? ですがよくよく集中してみれば微かに反応が……」
コヤンスカヤは不思議そうに周囲を見渡している。
一方、ホワイトエンドは首をかしげて考えていたが、何か思い出したのか顔を上げると、中空にスッと線を描くように指を滑らせた。
「来い」
一言そう呟くと、中空に空間の切れ目のような穴が開き、そこから何かが落ちてくる。それを片手で受け止めると、穴は独りでにスゥッと消えていった。
その光景を見ていたラスプーチンとコヤンスカヤは驚いたように目を見開く。
「今のは虚数魔術か?」
「虚数、魔術………?」
「………無意識に使っているのか」
「そ、それよりも手の中にあるものを見てください!」
コヤンスカヤが指さす先にあるのは、紛れもなく聖杯だ。
「それ、一体どこで手に入れたのですか!?」
「これはラスプーチンさんの言う通り、歩いていたら偶々見つけたのです。久々に見た人工物だったので何となく仕舞っておいたのですが………何かに使えるのですか?」
「偶然見つけたって、そんなことあるんですか!?」
コヤンスカヤが驚愕の表情でホワイトエンドを見つめている。
一方のホワイトエンドは、何に驚いているのか分からずに首をかしげている。
その仕草だけ見れば、普通の子どもらしい反応だ。
「まぁ、偶然見つけてしまったものはしょうがない。とにかくその聖杯を使えばカルデアをおびき出すことができる」
「これを使う? 一体どうやってですか?」
「特異点を作る」
「!」
ラスプーチンの言葉を聞いて、ピンク色の魔性は面白くなったと言わんばかりに笑みを浮かべる。
一方、ホワイトエンドはまたしても聞き慣れない言葉に眉をひそめた。
「特異点………?」
「まぁ、詳しい説明はあとでする。とにかく特異点を作れば奴らをおびき出せる。なぜなら、奴らは汎人類史のために微小な特異点でも見逃すことができない」
「二兎を追う者は何とやらって言いますのに、健気に全てを救おうと行動して命を落とす。ウフ、まぁそれなりに面白そうですわね。興が乗ったので特異点を作る手伝いくらいはして差し上げますよ。まぁ移動の手伝いくらいしかできませんが」
「それで十分だ。さぁ、早速準備を進めようか」
「何をすればいいのですか?」
「まずはその聖杯を使って特異点の核となるサーヴァントを呼び出すとしよう」
ラスプーチンに従って二人は準備を進める。
「さぁ、罠に落ちるがいい。人類最後のマスターよ」
聖職者にふさわしくない獰猛な笑みを浮かべ、男はそう呟いた。
序章 束の間の戯れ
第5の異聞帯(ロストベルト)を攻略し、カルデアの一行は彷徨海のノウム・カルデアで激戦のダメージを癒していた。キャプテンやダ・ヴィンチちゃんは傷ついた船や機械の調整を行ない、ホームズとシオンは資料を片手に管制室にこもって何やら話し込んでいたりと、みんな忙しそうにしている。そんな中、人類最後のマスターである藤丸立花は、「手伝いはいいからしっかり休むように」とゴルドルフ新所長に釘をさされ、大人しくマイルームのベッドで横になっていた。
「………本当に帰ってきたんだな」
赤い令呪が浮かび上がった右手をギュッと握りしめる。
こうしてベッドに横になっていると、オリュンポスでの激戦が嘘のように感じる。
新生アルゴノーツと渡った絶海も、見上げるほど巨大な機械の神々も今は消え失せ、記録にしか残っていない。
だが、確かに自分たちは戦い抜いた。不可能に思えた戦いも仲間たちの力で何とか乗り越えてきた。みんなのおかげで、こうして帰ってくることができたのだ。
一人でいると、ついあれこれ思い出して考えてしまう。
このまま横になっていても眠れそうにないや。
「……食堂にでも行こうかな」
立花はベッドから体を起こすと部屋を出て食堂の方へと歩き出した。
今は15時。この時間ならおやつを食べにきたサーヴァント達が集まっている頃だろう。運が良ければ、子供サーヴァント達に用意したおやつの余りをもらえるかもしれない。
カルデアキッチン組が作るお菓子はどれも美味しいからなぁ。今日は誰が担当なんだろう?
赤色のアーチャーやエプロン姿のキャットの姿を思い浮かべながら廊下を進んでいると、レクリエーションルームの方から何やら楽しげな声が聞こえてくる。
誰だろう?
気になって入り口から顔を出して覗いてみれば、数人が部屋の中央に集まって話しているのが見える。
立花の気配に気づいたのか、その内の薄紫の髪の少女が振り返った。
少女は立花の顔を見ると、パッと笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。
「あ、先輩! こんにちは」
「こんにちは、マシュ」
どんな時でも挨拶を忘れない礼儀正しい後輩に倣い、立花も笑顔で挨拶を返す。
「あ、マスター! こんにちはです!」
「おかあさん!」
「まぁ、マスターごきげんよう」
「サンタ・リリィ、ジャック、ナーサリーもこんにちは」
マシュに続いて子供サーヴァント達もぞろぞろと近づいてきた。みんなの顔を見ると思わず笑みが溢れる。子供とは不思議なものだ。
そんなことを考えていると、ナーサリーが手の中にある何か赤い物を弄りながら話しかけてくる。
「マスターも、もこもこを触りにきたのかしら?」
「もこもこ?」
「これの事だ、マスター」
ナーサリー達に気を取られていたが、部屋の中を見ると第二再臨のカルナが床に座っている。どうやらマシュ達はカルナを囲むように話していたようだ。
カルナの手には普段背中にある、あの赤いもこもこが抱えられているが、心なしかボリュームが少なくなっている気がする。
「え、このもこもこってカルナさんの……」
立花が恐る恐る尋ねると、子供達はパッと笑顔を浮べる。
「ええ、そうよ! カルナのもこもこ、とってもふわふわなのよ」
「そうだよ! それに真っ赤!」
「ふわふわしてて、まるでトナカイさんのようなさわり心地です!」
三人は嬉しそうに赤いもこもこ、もといカルナの鎧についてるあのもこもこを触っている。
「えぇ、何でこんな事になってるの………マシュ?」
「えっと、それが何と言いましょうか………」
立花の問いかけに気まずそうに目を逸らすマシュ。よく見ると彼女の手にも赤いもこもこが握られている。
(真面目なマシュまで!? 一体何があったんだ!?)
心の中で驚愕していると、これまた赤いもこもこを揉み揉みしながらサンタリリィが口を開く。
「私は今から考えていたのです。今年のクリスマスのプレゼントは何にするべきなのか。先輩サンタとして今年のサンタになる方に適切なアドバイスをしなくてはなりません。そこで、ナーサリーやジャック、マシュさんに一緒に考えてもらいました」
「うん、それで?」
立花が腰をかがめて先を促すと、サンタリリィに続いてナーサリー達が口を開く。
「わたしは、ふわふわのぬいぐるみが欲しいと言ったわ」
「わたしたちは、おかあさんのお腹の中みたいに真っ赤なものがいいって言ったよ」
「私はその、実用的なものが良いのではないかと言いました」
「なるほど………?」
何だか雲行きが怪しくなってきたな………
立花が不安を感じていると、サンタリリィが先を続ける。
「ジャックとナーサリーの意見なら簡単です。赤いぬいぐるみを用意すればいいのですから! ですが、ぬいぐるみは可愛くても実用性があるとは言えません。私たちは途方に暮れました。一体どうしたものかと廊下を歩いていると………」
「俺が通りかかったわけだ」
「あぁ………」
立花は思わず目を覆った。
マシュも気まずそうに目を伏せているが、その手は今も赤いもこもこをにぎにぎしている。
いや、気持ちはわかるよ。わかるけども………
「まさに天啓でした!私たちは早速、カルナさんにもこもこを触る許可を取り、揉んでみました。するとなんと!あったかかったのです!」
「え、そのもこもこってあったかいの?」
「ああ。太陽神スーリヤから賜った鎧の一部だからな。太陽の加護がついている」
カルナは少し誇らしげにボリュームの減ったもこもこを掲げる。
もうどこから突っ込めばいいのかわからない。
「あったかいということは、このもこもこは防寒具として使用できます。さらに赤い!赤くてもふもふで、防寒具にもなる、みんなの希望を叶える理想のプレゼント! まさに論理的な展開です!」
「いや、プレゼントは駄目でしょ!」
立花が思わず声を上げると、カルナは申し訳なさそうに俯いた。
「あぁ、子供達の笑顔が見られるならと一度は考えてみたが、これは俺の宝具の一部なのでな。流石にあげることはできない。前に胸の宝石を物欲しそうに見ていた女神に施そうかと思ったが、ガネーシャ神に怒られてしまったばかりだからな」
「良かった!施しちゃったかと思ったよ!」
立花はもはや突っ込むことも忘れて、心から安堵していた。
ガネーシャさん、ナイス!
あれ? でも何でもこもこ、もといカルナさんの宝具が減っているのだろうか?
サーヴァントの宝具はとても頑丈で、中でもカルナさんの鎧は光そのものが形となったもので、神々でさえ破壊は困難とされる。そんな宝具を壊すまではいかないにも、一部を取り外すなんて持ち主のカルナさんにしかできないはずだが………
立花の不安を他所に、サンタリリィは手の中のもこもこを弄りながら口を開く。
「カルナさんに断られてしまい、私は少ししょんもりとして廊下を歩いて行こうとしました。するとカルナさんは言ってくれたのです!『あげることはできないが、俺が戦闘に行くまでは貸してやろうか?』と!」
「え!? そんな簡単に宝具を貸していいの!?」
「子供達の笑顔のためだ。問題ない」
「えぇ…」
カルナさんは口元に笑みを浮かべながら、自信満々にそう宣う。
流石は、施しの英雄。伝説にそぐわず、その心は大海原よりも寛大なようだ。
現実逃避気味に立花がそんなことを考えていると、マシュが気まずげに肩を丸めて口を開く。
「先輩、私も流石に申し訳ないと思ったのです。ですが、サンタリリィさん達と一緒にレクリエーションルームに入り、いざもこもこを手渡されたら、その………」
彼女の手は話している最中もずっともこもこを揉み続けている。
「手放せなくなっちゃったんだね」
「はい………(モミモミ)」
マシュがより一層気まずげに目を閉じる。
いや、かわいいかよ。ずっと、モミモミしてるじゃん。
え、見てると俺も触りたくなってきたな………
そわそわしていると、立花の様子に気づいたのかカルナがもこもこを千切りながら近づいてくる。
あ、それって結構すんなり取れるんだ……
「マスター、お前にも貸してやろう」
「え、いいよ! 申し訳ないし………」
「何を言う。みんなにも貸しているのだし遠慮する必要はない。このもこもこも触りたい者に触られた方が嬉しいだろう」
「うーん、そこまで言うなら………」
誘惑に負け、恐る恐るカルナの手からもこもこを受け取る。
あ、本当だ。ちょっとあったかい………
優しく手に力を込めると、マシュマロのように心地よい感触が手に伝わってくる。
モミモミ、モミモミ
すごい! これはマシュ達が夢中になるのもわかるな。いつまでも揉んでいられそうだ!
モミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミ………
「せんぱい?」
「………(モミモミ)」
「先輩!」
「………は!! 無心だった!」
いけないいけない。これ知らないうちに時間経っちゃうやつだ。
節度をもって揉まないとな。
「先輩も気に入ったんですね!カルナさんのもこもこ」
「うん、これいいね。恐ろしいくらい」
「おかあさんもしばらく借りたら?」
「そうですよ!いつで触り放題です!」
「うん。………カルナさん、いいかな?」
「もちろん。出撃の時に返してくれればいい」
「ありがとう!」
最初は衝撃を受けたけど、いつの間にかすっかりもふもふの虜になってしまった………
「そういえばマスター、レクリエーションルームに用があったのかしら?」
ナーサリーが思い出したように尋ねてくる。
「あ、違うよ。手持ち無沙汰だったから食堂にでも行こうかなって思って」
「じゃあ、おかあさんも一緒に行こう!わたしたちもこれからおやつを食べに行く予定だったんだ」
「そうなんだ。じゃあ一緒に行こうか」
「む、俺も同行してもいいだろうか? 小腹が空いてしまってな」
「もちろんです!みなさんでいきましょう!」
話がまとまり、サンタリリィを先頭に食堂に向かって歩き出す。
歩いている最中も手は無意識にももこもこを触ってしまう。
「先輩、また触っているんですか?」
「うん、何か気がついたら触ってるんだ。不思議だよね」
「はい。太陽神の加護のお陰かポカポカしていて気持ちいいですよね」
「そう言ってもらえて何よりだ。神スーリヤから賜った鎧だから身につけていればお守り代わりになるかもしれないぞ」
「それは贅沢なお守りだな。……汚しちゃうといけないし、食堂に入る前にポケットにしまっとこう」
「あ、私も。みなさんもおやつの時はしまっておきましょうね」
「「「はーい」」」
みんながポケットにしまったのを確認して食堂へ入る。
その時、館内にアラームが鳴り響いた。一気に緊張が走る。
『緊急事態発生! マスター藤丸立花とマシュ・キリエライトは至急管制室まで来るように。遅れるんじゃないぞ!』
アラームの後にゴルドルフ新所長の声が響く。
「先輩」
「うん。ナーサリー達、悪いけど俺とマシュは行くね」
「おかあさん、わたしたちは必要?」
ジャックが目を爛々と光らせながら聞いてくる。
最近出撃していなかったからうずうずしているのかもしれない。
「まだ話を聞いてみないと何とも。でも力を借りることになるかもしれないから、その時はよろしくね」
「……わかった」
小さな頭にポンと手を置くと、ジャックは残念そうに眉を下げつつもうなずく。
「マスター、俺もいつでも力になるぞ」
「わ、私もお役に立ちます!」
「戦いは好きではないけれど、頑張るわ」
カルナたちも真剣な顔でそう告げてくる。
みんな本当に頼もしいな。こんな未熟なマスターのためにそこまで言ってくれるなんて。自分は本当に恵まれている。
「ありがとうみんな。その時が来たらよろしく頼むよ」
笑顔で感謝の気持ちを伝えると、マシュと一緒に管制室へと急いだ。
*******
「遅い!!」
管制室に着くと、ゴルドルフ所長が仁王立ちして待っていた。
「遅いぞキミ達! 至急来るようにと言っておいただろう!」
「すみません」
「まぁまぁ、ゴルドルフくん。そう焦らなくても大丈夫さ」
ダヴィンチちゃんは所長を宥めるように彼の豊満なお腹をポンポンと叩いている。
「こら、やめんか!」
「まぁまぁ、そんなに騒ぐと血圧が上がりますよ」
「ホームズ!」
「私もいますよ」
「シオンさんも! もう皆さんお揃いなのですね」
ホームズとシオンが端末から顔を上げてこちらに近づいてくる。
「また特異点?」
「ああ、君の予想通り微小特異点が見つかった」
「やっぱりかぁ」
もう随分とマスターをやっていると、ホームズ達の反応から何となく想像がつくようになる。今回はそんなに張り詰めた空気もないし、いつものように地球が元どおりになった際に脅威となりそうな特異点を今のうちに修復するという任務だろう。
「オリュンポス攻略が終わったばかりで悪いですが、これも汎人類史を守るためです。私たちもできうる限りのサポートはしますのでお願いしますね」
「わかりました。………ところでキャプテンは?」
「キャプテンは船にかかりきりなので、今回は不参加です。まぁでも、いつものように微小な特異点を修復するだけですから、そこまで危険はないでしょう。もちろん、私たちがしっかりサポートしますから問題ありませんよ」
紫のツインテールを揺らしながらシオンは明るく笑う。
さすが、アトラス院の才女に言われると安心感があるものだ。
マシュも最初は張り詰めた顔をしていたが、今では少し肩の力が抜けているように感じる。
「まぁ、概ねシオンの言う通りだ。サポートはしっかりやるから、君たちはいつも通り特異点修復に専念してほしい。………といっても、オルテナウスは今メンテナンス中だから、マシュはこちらで一緒にサポートに回ってもらうことになるけどね」
「はい、ダ・ヴィンチちゃん。先輩を全力でサポートしたいと思います」
マシュは気合を入れるように、胸の前で両手を握り締める。
「ありがとう、マシュ。ところで、今回の特異点というのはどんな所なんですか?」
「そういえば、私もまだ聞いていなかったな。おいホームズ、その辺はどうなっているんだ?」
「今から説明しますよ、所長」
ゴルドルフ所長に急かされて、ホームズが端末を操作して映像をモニターに映し出す。
モニターは日本列島の地図を映し出しており、九州の北端の方に赤い点が点滅している。どうやらこれが今回の特異点のようだ。
「場所は日本列島の長崎県、それも福島と対馬の中間に位置する「壱岐島(いきのしま)」です」
「壱岐島…………ってどこだっけ?」
「お前は確か日本の出身じゃなかったのか?」
「日本出身ですけど、俺、地理は苦手で………」
立花が気まずそうに頭を掻いていると、所長は残念な人を見るような顔でこちらを見てくる。
いや、だって今時は都道府県は習っても島の名前なんて教えてもらわないし、こんなもんじゃない? 俺が特別できないわけじゃないと思いたい………
内心落ち込んでいると、優秀な後輩が助け舟を出してくれる。
「壱岐島は九州北部に位置する島で、「魏志倭人伝」や「古事記」「日本書紀」にも存在が書かれているくらい日本の成り立ちを語るうえで欠かせない島だそうです。なんでも島内には日本神話に登場する神々を祀っている神社が150社以上あり、神々が住まう島と言われているとか」
「へぇ、そんなにすごい島なんだ! マシュは物知りだね」
「いえ、ライブラリの資料で見たのをたまたま覚えていただけですよ」
そう言いながら指先で薄紫の髪をくるくるといじっている。その顔はほんのりと赤い。
うん、かわいいなぁ。
「それで、内部の状況はわかるのか?」
「あー、それが特殊な結界が張られているのか内部の状態が観測できないんですよね」
所長の質問に、端末を操作しながらシオンが答える。
モニターの画面が切り替わると、特異点がある付近が拡大して映し出されるが、何やら靄(もや)のようなもので覆われていて中の様子はわからない。
「おそらく、これが特異点の原因です。中心には僅かに聖杯の反応もありますし、聖杯の力を借りてこの靄みたいな結界を島中に張っているのでしょう」
「つまり、この結界を張っている犯人を倒せば特異点が修復されると?」
「そういうことです! いやぁ、流石は人類最後のマスター。話が早いですね」
シオンはにこやかに立花の肩に手を載せてくる。
マシュはその様子を見て一瞬目を見開くと、慌てたように口を開く。
「あの! ですが、内部の状況がわからないということはかなり危険なのでは? 皆さんはいつもの様にやればいいとおっしゃいますが、いざレイシフトしてみたら自然環境が厳しくてまともに動けない、なんてことになるかもしれませんし………」
確かに、その可能性は十分あり得る。事実、今までの特異点でもそういう不測の事態は何度も経験している。
無言でモニターを見つめていると、ダ・ヴィンチちゃんが空気に耐えかねたかのように息を吐き出す。
「………マシュの言う通りだ。内部がわからないということはその環境に適した万全の対策ができないということ。その分危険は伴うだろう」
「ダ・ヴィンチちゃん……」
「だが、私達は君にあまり無理をして欲しくないのさ。ただでさえオリュンポスを攻略したばかりだしね。あまり危険危険と言わない方が君も落ち着いて任務に挑めるだろうってホームズとシオンと話してたんだ。でも、君が危険な状況に陥らないように全力でサポートするというのは本当さ。だから、矛盾はしているが、気負って無理をしない範囲で今回の特異点を修復してほしい」
ダ・ヴィンチの言葉を聞いて、マシュと所長は黙って俯いた。
どうやらみんな、死闘を潜り抜けたばかりの立花を気にかけてくれているらしい。
自分は大切にされていると改めて実感させられる。本当にいい仲間に恵まれたようだ。
「ありがとう、俺のことを気に欠けてくれて。でも大丈夫だよ。どんなに危険でも俺はみんなのことを信じているから。だから次の特異点でも皆が無事で帰ってこれるようにサポートお願いね」
「もちろん。全力でサポートするとも」
ダ・ヴィンチちゃんがニコっと微笑む。
「私もお手伝いさせてもらいますね」
「もちろん、私も探偵として今回の事態も解決してみせるとも」
「シオン、ホームズもありがとう。よろしくね」
立花が手を差し出すと、二人とも笑みを浮かべながらその手を握る。
マシュはそんな様子を微笑ましそうにみていたが、何かを思い出したように口を開いた。
「ところで、今回はどういった編成で行くのでしょうか?」
「確かに、特異点の様子がわからないんじゃ誰が適任かわからないよね」
「あー、その辺に関してはホームズさんとダ・ヴィンチちゃんと相談して考えておきましたのでご安心を」
シオンはそう言うと、何やら端末を操作してモニターに新しい映像を映し出す。
どうやら同行するサーヴァントの情報のようだ。
「私たちが考えた編成は、まずアタッカーとしてラーマ、アタッカー兼サポーターとしてキャスターのエレナ・ブラヴァツキー、後衛にロビンフッドです。魔力が安定しているとも限りませんし、最低限の人数を考えた結果です。マスターとしてどうでしょうか?」
提案されたサーヴァントたちは、みんな古参だし一緒に人理を修復してきた者ばかりだ。実力も人柄も申し分ない。それに何より我がカルデアが誇る頭脳派な3人が提案した人選だ。まず間違いないだろう。
「うん。戦力的にも性格的にもバランスいいし、これでいいと思います」
「よし、じゃあ決まりだね。マシュはこっちで一緒に準備を、立花くんは準備と同行するサーヴァントに声をかけてここに連れてきてくれ」
「「わかりました」」
ダ・ヴィンチちゃんの指示にマシュと一緒に頷く。
「では所長。集合は何時にしますか?」
「ん? そうだな、1時間後でいいだろう」
「わかりました。ではみんな、1時間後に作戦開始ということで」
「「「「了解」」」」
ホームズの号令に従い、みんなは各々の役目を果たすべく一斉に動き出した。
******
『ああ、憎い。人間、お前たちのせいで私は………』
月明かりに照らされた教会の奥、闇の中で何かが動く。
それを少し離れたところで見つめる影が二つ。アルターエゴのサーヴァントと、人外の殺し屋である。
「まさか、これほどの存在を引き当てるとは。少々余分なものも混ざってしまったが、これほどの結界を作れるならばむしろ好都合だろう」
「………まさか、あの杯でこんなことができるなんて。本当にこれで藤丸立花はやって来るのですか?」
「ああ、来るとも。まぁ余分な者も来てしまうがな」
「サーヴァントというやつですね。どうするのですか? そのサーヴァントとやらは強いのでしょう。死にはしませんが、さすがに何体もいれば捌ききれないかもしれません」
「問題ないだろう。何せここはこのお方の結界の中。選ばれし者以外はそう簡単に入っては来れまい」
闇の中に動く結界の作り手を見ながら、ラスプーチンは笑みを浮かべる。
ホワイトエンドはそんな憐れな混ざりものを一瞥すると、怪しく光る月を見上げた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回も投稿する予定なので、気長に待っていただけると幸いです。
pixivの方でも挿絵付きで同作を投稿しています。