【二次創作】Fate Grand Order 〜英霊が生まれる時〜   作:麻宮鈴

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シリーズの3作目です。オリジナルキャラが登場するので、シリーズ所見の方は1作目の「プロローグ」から読むことを推奨します。
年末年始が立て込んでいて投稿が遅れてしまいました。

(注意点)
・今作はFGOオリュンポスクリア後の世界を舞台としています。そのため二部のネタバレを含みますのでご注意ください。
・オリジナルキャラが多数出しゃばります。
・独自の解釈、捏造を含みます。
・「アニメとは別のとあるカルデアの話だよ」という意味合いを込めて、主人公の漢字表記が「藤丸立花」になっています。
・ラーマ君は好きです。愛ゆえの表現を含みます。

以上、大丈夫な方は是非最後まで読んでいってください!


【閉塞特異点】邪光降臨神島 壱岐 〜古き神と月満ちる刻〜 第1節 狂気と襲撃と出会い

第1節 狂気と襲撃と出会い

 

 みんなと別れて1時間後、今回同行することが決まったサーヴァントに声をかけ、立花は管制室へと戻ってきた。 

 管制室に着くと、既に所長とサポートメンバー達は揃っている。

 所長は立花達の姿を確認すると、管制室の奥のデスクに座るホームズへ声をかけた。

 

 「よし、みんな揃っているな。ホームズ、作戦の最終確認を頼む」

 「了解。今回の任務は、日本列島の壱岐島に現れた閉塞特異点の修復および聖杯の回収だ。現状、内部の様子は観測できないため各自最大限に注意を払うように」

 「「「「了解」」」」

 「それじゃあレイシフトの準備を開始するよ〜

 みんな持ち場について!」

 

 ダヴィンチちゃんの号令に合わせ、各自自分の役割を果たすために移動を開始する。

 立花も今回同行するラーマ、エレナ、ロビンと一緒にコフィンへと急いだ。

 

 「みんな、今回もよろしくね」

 「もちろんだ、マスター。万事余に任せるが良い!」

 「ええ、みんなで頑張りましょう!」

 「ま、破壊工作ならお任せを」

 

 互いに挨拶を交わすと、それぞれコフィンの中へ入る。

 

 『先輩、通信機の調子はどうでしょうか? 聞こえてますか?』

 

 右手につけた通信機からマシュの声が聞こえる。毎回作戦前に行う確認作業だ。急いで立花もマイクをオンにする。

 

 「うん、聞こえてるよ」

 『よかったです。先輩、気をつけていってらっしゃい』

 「行ってきます」

 

 コフィンから管制室の方を見ると、マシュがこちらを振り返り、手を振っている。

 

 「よし、それでは作戦開始だ。レイシフトを開始する」

 「了解!」

 

 ダヴィンチちゃんの号令に合わせ、レイシフトが開始される。

 コフィンの中が光に包まれ、突然体に浮遊感が訪れた。

 

 今ならこの感覚にも慣れたけど、最初の頃は気持ち悪くて大変だったな。

 

 そんなことを考えていると、いつの間にかレイシフト特有の青い光の空間へと躍り出る。どこまでも続いているような青い光のトンネルの中を見渡すと、仲間達を包む光玉が4つぷかぷかと浮いているのが見える。

 

 よし、いよいよだ。今回の特異点はどんなところなのだろう?

 気を引き締めていかないとな!

 

 気合を入れ直す様に両手を握ると、先の方に真っ白な光が見えてくる。

 レイシフトが終わる。もうすぐ特異点に着くのだ。

 その時、不意に前方から何か黒い影のようなものが立花の横を通り過ぎたような気がした。

 

 なんだ、今の――――――

 

 そう思ったのも束の間、視界が光に包まれ、浮遊感から解放された。

 

 

 

 

 

 

 「うわっ」

 

 ドサリと音を立てて、地面へと倒れ込む。どうやら地面ではなく空中に出てしまった様だ。

 流石に、レイシフトしたら上空だった時に比べればマシだけれど、偶にこうして地面から微妙に離れた位置に出ることもあるから気が抜けない。

 

 「イテテ………あれ? みんなは?」

 

 時刻は夜。しかし、月の光で辺りの様子は十分確認することができる。

 立花の周りには古風な家が立ち並び、道の端には真っ赤な彼岸花が美しく咲き乱れている。どうやらここは住宅街のようだ。それも立花の生きた時代より少し前、大正〜昭和初期くらいの建物が立ち並んでいる。しかし、仲間の姿は見当たらない。

 

 「時代が近いのはありがたいけど、みんなはどこに行ったんだろう?」

 

 目を閉じて集中すると近くに魔力反応を感じる。だがその反応の数に立花は眉を寄せた。

 

 「1つしか、ない……?」

 

 今までも仲間と離ればなれの場所に出現してしまったことがあったが、その時はうっすらと魔力の繋がりを感じることができた。しかし、今回は違う。うっすらどころか一切反応を感じない。まるで、同じ時代に居ないような………

 

 「おーい、マスター! 無事か!」

 

 立花が考え込んでいると、近くの茂みから真っ赤な髪に葉を絡みつかせた少年が這い出てきた。

 

 「ラーマ! よかった!」

 「すまない、すぐに来れなくて。髪が枝に絡まって少し手間取った」

 

 そう言いながらラーマは髪についた葉をパタパタとはたき落としている。

 

 「全然いいよ。それより他のみんなは知らない?」

 「いや、ここに来てから見ていないな。パスで居場所をたどれないのか?」

 「それが、さっきから何も感じなくて。まるでこの特異点にはいないような………こんなことはじめてだよ」

 

 二人で考えこんでいると、ふと何かを思い出したようにラーマが顔を上げた。

 

 「そういえば、レイシフト中に妙な魔力を感じたな。近づいてきたと思ったら急に消滅したのであまり気に留めていなかったが」

 「レイシフト中………」

 

 ラーマの言葉を聞いて、立花もレイシフト中に見たものを思い出した。

 

 「俺も、レイシフト中に何か黒い影のようなものを見た気がする。もしかして、それのせいでみんなはレイシフトできなかった?」

 「余もそう思う。何者かに妨害されたとしか思えん。なぜ余だけ無事なのかはわからぬが、十中八九犯人はこの特異点の黒幕だろうな」

 「黒幕………」

 

 この特異点を作っている者はどうやら今までより厄介な敵のようだ。

 レイシフト妨害により戦力はサーヴァント一騎のみ、おまけに今回の黒幕もこの特異点の状況も何もわからない。

 

 …………なぁんだ。これって、

 

 「いつも通りだね」

 「ああ、余も全く同じことを思っていた」

 

 こんな状況にもかかわらず、思わず笑みがこぼれる。

 

 「さて、とりあえず通信はどうかな?」

 

 右手につけた通信機をオンにする。

 

 ジ、ジジジジジ、ジ―――――

 

 砂嵐が聞こえるのみで、うんともすんとも言わない。まぁ、想定内だ。

 

 「駄目だね。通信状態が治るまで俺たちだけで何とかしないと」

 「では、とりあえずは情報収集ということでよいか、マスター?」

 「うん、それでいこう」

 

 さすが、一緒に人理を修復してきたこともあって、こうした状況への適応力は高い。ラーマの明るさに励まされながら、とりあえず現地人を探しに夜の町を歩き始める。

 

 「それにしても、特異点とは思えぬほどきれいな町だな」

 「確かに」

 

 月の光に照らされた町はどこか幻想的で、偶に吹く風が道端に咲いている彼岸花を揺らし、真っ赤な花弁が宙に舞う。耳をすませると聞こえてくる波の音も相まって、マシュが「神々が住まう島」と言っていたのも納得の神秘的な光景だ。

 

 「マスターの出身国はとても素敵なところだな」

 「ありがとう。現代ではなかなか見られない光景だけどね」

 「お、あれは店か?」

 「商店街かな? そこなら人がいるかも」

 

 頷き合うと、商店街の光に向かって走り始めた。

 

 

*******

 

 

 商店街に近づくと、一旦足を止めて近くの物陰から様子をうかがうことにした。

 物陰から商店街を見渡すと、6人くらいの人が歩いている。しかし、その足取りはフラフラとしてどこかおぼつかない。皆一様に夜空に浮かぶ美しい月を見つめ、恍惚とした笑みを浮かべている。

 

 「お、見ろマスター! 人がいるぞ!」

 「本当だ。でも、なんか様子がおかしいような。フラフラしてるし」

 「そうか? 余には普通の酔っ払いに見えるが?

 笑みまで浮かべて、よっぽど酔っているのだろう。今なら色々とこの街のことを教えてくれるかもしれないぞ」

 「うーん、そう言われるとそう見えなくもないけど………」

 

 何か、胸騒ぎがする。

 あの人たちも楽しそうに見えるけど、どこかがおかしい。

 美しい月光に照らされるこの町も、最初は見ていて楽しかったけど、今は少し不気味に感じる。

 何か、何かがおかしい。

 変だな。こんなに綺麗な月が出ているのに、不気味だなんて………

 

 「っ」

 

 何気なく、空を見上げたときだった。思えば、こんなに綺麗な月が出ていたのにちゃんと直視したのは、この特異点に来てこれが初めてだったかもしれない。

 そこには、もう少しで満ちるくらいの大きな月が浮かんでいて―――――

 

 「ぐっ」

 「マスター! どうした!」

 

 突然、頭が激しく痛み出した。月を直視した瞬間、まるで何かよくないものが頭の中に入ってきたように、思考がぐちゃぐちゃになる。

 

 「おい、何があった! 敵の仕業か!」

 「わからない………ただ、月を見たら………」

 「月……?」

 「見ては駄目!」

 

 ラーマが顔を上げようとしたその時、商店街の物陰から高校生くらいのセーラー服姿の少女が叫んだ。

 少女は長い黒髪を揺らしながら必死の形相で近づいてくる。

 

 「月を見ては駄目! あれは、心を惑わせます!」

 「心を、惑わす……?」

 「はい、このまま光を浴び続けるのも危険です。早く逃げないと」

 

 深緑の瞳をした可愛らしい少女は、焦ったように二人の手を引く。

 突然の少女の登場に、さすがのラーマも困惑したように眉を寄せる。

 

 「逃げるってどこにだ?」

 「それは……」

 「そこで何をしている?」

 

 突然、少女が振り返る。立花達もつられて見ると、そこにはさっきまで商店街をフラフラと歩いていた人達が全員こちらを見て笑みを浮かべていた。

 全員笑っているはずなのに、目は焦点があっておらず、明らかに様子がおかしい。

 

 「ああ、まだ神の寵愛を受けていない者がいるとは」

 「神?」

 「さぁ、あなた達も月を見るのです。光を浴び続けるのです。この月光の下ではすべてが許される!」

 「お前たちは何を言って………」

 「駄目、その人たちの言うことを聞いてはいけません!」

 

 少女は人々から立花とラーマを遠ざけようと、二人の手を強く引く。

 その様子を見ていた男の一人が、信じられないといった様子で目を見開きながらフラフラと前へ出てくる。

 

 「……お前たち、神の寵愛を拒絶するというのか? そんな、そんな………………………………………なら、殺しても仕方ないよな?」

 「!」

 

 突然男の様子がガラリと変わる。まるで獲物をみつけた捕食者の様に目をギラつかせ、立花たちを見つめながら獰猛に笑っている。周りにいた人々も同じように笑みを浮かべながら、懐からナイフやハンマーなどを取り出し近づいてくる。

 

 「何なんだよ、この特異点は………」

 「ああ、久々に暴れられる!」

 「神を、狂気を拒絶する人間などもうほとんどいないからな、久々に殺せる!」

 「最高だよな! この月光の中ではすべての狂気が許されるのだから! 盗みも、殺しも、神に背く者には何をやっても許される!」

 

 次から次へと月光に狂った人々が、狂気に染まった笑みを浮かべながら立花達に近づいてくる。

 

 「早く! このままではいけません! 私について来てください!」

 「何なんだよ! 月光って、神って何なんだよ!」

 「マスター、しっかりしろ! 光を見るな!」

 

 取り乱した立花の顔をラーマが両手で包み込む。すると、先ほどまでの心のざわめきが嘘のように鎮まっていく。

 

 「………ご、めん。取り乱した。ありがとう、ラーマ」

 「礼はいい。それより指示を」

 「うん。………この人について行こう」

 「承知した」

 

 少女は心配そうにこちらを見ていたが、立花達がついてくるのを確認すると安心したように笑って走り出した。

 

 「こっちです!ついて来てください!」

 「はい!」

 

 少女は切りそろえられた長い黒髪をなびかせながら、狭い通路を次から次へと曲がっていく。

 

 「何処だ! 何処に行った!」

 「探せ! 殺せ!」

 

 後ろから狂気に満ちた怒号が聞こえてくるが、少女が通路を曲がるたびに次第に声が遠ざかっていく。

 やがて完全に声が聞こえなくなり、ひとまず、町のはずれの人気のない廃屋の中へと逃げ込んだ。

 

 「はぁはぁ、とりあえずここまで来れば大丈夫でしょう」

 「はぁはぁはぁ。ありがとうございます」

 

 しばし床に座り込んで呼吸を落ち着ける。

 日頃のトレーニングのお陰か、すぐに呼吸が落ち着いてくると部屋の中を見渡す余裕が出てきた。

 

 うわ………

 

 改めて部屋を見ると、泥棒に入られたのか窓ガラスは全て割れ、家具などもほとんど壊されている。それに所々壁に血痕のような染みがついており、あまり長居はしたくない。

 そんなことをぼんやり考えていると、ラーマが立花を背にかばうように前へ出る。

 

 「助けてくれたこと、礼を言う。して、お前は誰だ?」

 「あ、あれ? もしかして私警戒されていますか!?

 あの、安心してください。私はあなた方の敵ではありません! 信じてください!」

 

 少女はさっきまでの態度とは一変して、おろおろと慌て始める。

 どうやらこっちが素のようだ。

 

 「ラーマ、俺の勘だけどこの人は多分大丈夫だよ。それにこの人って……」

 「ああ。この反応、サーヴァントだな」

 「あ、はい。私はそのサーヴァントってやつらしいです」

 「らしい?」

 

 妙な言い方だ。まるで他人事みたいな。

 

 「あの、実は私記憶喪失でして。私がマスターのいない野良サーヴァントということは分かるのですが、自分が何者かとか、自分のクラスとか、宝具とか全然わからないのですよ………」

 「え、じゃあ、この特異点のことも何もわからないの?」

 「あ、それはわかります! 太宰さんに色々教えてもらいましたから!」

 「太宰って、もしかしてあの太宰治!?」

 

 立花の脳裏には「人間失格」「富嶽百景」といった教科書で見たワードが浮かんでいく。

 確かかの文豪は明治の終わりから昭和初期を生きていたはずだ。今回の特異点も大正~昭和初期くらいの日本だし、サーヴァントとして呼び出されていても不思議ではない。

 

 「はい、おそらくあなたの想像通りです。太宰さんは未だに正気を保っている人々を安全地帯でまとめているのです。私も記憶を失くして彷徨っていたところを彼に拾われたんです」

 

 少女はそう言うとにこりと笑う。どうやら彼女と太宰治は味方だと考えていいようだ。

 色々と聞きたいことはあるが、とりあえず現状の把握からするべきだろう。

 

 「あの、この特異点っていったい何なの?」

 「詳しいことは太宰さんの方が良く知っていますが、簡単に言えばこの島は月が支配しているのです」

 「月? 月が支配するとはどういうことだ?」

 

 ラーマも彼女が無害だと判断したのか警戒を解いて話しかける。

 

 「はい。この島には朝が来ないのです。ずっと夜が続き、月の光に照らされ続ける。そして、何故かこの島の月の光を浴びた者は皆狂気に染まり、暴れ出してしまうのです」

 「月の光で、どうしてそんなことに?」

 「なんでも、島のはずれにある教会にいる神様の力でそうなっているとか。狂気に染まった人々はその神様を崇め、正気を保とうとする人々を神に背くものとして襲ってくるのです」

 「教会にいる、神様………」

 「それが本当なら、敵は神霊の類ということか。これは厄介なことになったな」

 

 日本神話に関連のあるこの島に教会があるのは明らかに不自然だ。そいつが今回の黒幕なのは間違いない。

 ラーマと二人、顔を見合わせる。その時ふと気が付いた。

 

 「あれ、でも俺とラーマは月の光を浴びても無事だったよね? 月を直視した時は危なかったけど。それに君も何ともないようだし」

 「確かに。私はどうやら月の光に耐性があるようなので無事ですが、お二人はどうして? あなた達もわたしと同じ様に耐性があるのでしょうか?」

 「む。もしや余は太陽神と所縁のある存在だからかもしれん。教会にいる神が今回の黒幕なら、レイシフト妨害を突破できたのも余が月と対になる太陽に関係する存在だからと考えれば辻褄があう。だが、マスターは?」

 「俺は普通の人間だしなぁ。なんでだろう?」

 

 一瞬「毒が効かない体質のお陰では?」とも考えたが、今回のは毒とは少し違うと思うし。

 うーん、なんでだろう?

 

 考えながら少し体勢を変えると、腿辺りにぽかぽかとしたぬくもりを感じた。

 

 ん? ポケットに何か………

 

 「あ!」

 「どうした?」

 「これだよ!」

 

 慌ててポケットに手を突っ込んで中のものを取り出す。

 

 「これは、もしや……」

 「そう、カルナさんのもこもこ!」

 

 そう、カルナのもこもこは太陽神スーリヤから賜った鎧の一部。すなわち太陽の加護が付いている。そのおかげで多少の月光なら正気でいられたのだろう。

 月を直視して混乱しかけたときも、ラーマが顔に触れたら落ち着いた。あれもラーマが太陽と関連のあるおかげなのかもしれない。

 

 「なぜマスターがそれを持っているんだ!?」

 「カルナさんに借りてたの忘れてたんだ」

 「借りる!? 太陽神スーリヤの鎧の一部を借りるって!?」

 

 ラーマは目を白黒させて頭を抱えた。

 どうやら彼の理解を越えたようだ。それもそうか、ラーマはインド組の中ではまだマトモな方だもんね………インド組の中ではだけど。

 申し訳なさから、ラーマの背中をさすってやる。

 

 「そのもこもこ、何かはわかりませんがすごい物なのなのですね!

 お二人が月光に耐性があるのならそれはうれしい限りです。よろしければ、私と一緒に安全地帯に来ていただけませんか?」

 

 少女は深緑色の瞳を輝かせて、立花たちを見つめる。

 

 「え、それは願ってもない! でもいいの? 俺たちまだ会ったばかりなのに信用しちゃって」

 「お二人は悪い人には見えませんし、それに月光に耐性がある人を探していたところなのです。お願いできませんか?」

 「そんな、こっちこそお願いします」

 「よかった!」

 

 少女は心底嬉しそうに笑った。

 記憶を失くしているというのに、とても明るい性格のようだ。

 

 「あ、そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね。私は紅子と言います。記憶喪失で本当の名前がわからないので、太宰さんが付けてくれた名前です」

 「俺は藤丸立花。よろしくね、紅子さん」

 「余はラーマだ。よろしくな、紅子」

 「はい! よろしくおねがいします」

 

 互いに握手を交わす。改めて紅子さんの顔を見ると、切りそろえられた前髪はどこか古風で、それでいてその下に覗く大きな深緑の瞳がとても愛らしく、日本の美少女といった感じだ。もしかしたら立花も知っている日本の歴史上の人物なのかもしれない。

 立花の視線に気づいたのか、紅子は顔を赤らめると目線を逸らした。

 

 「あの、そんなに見られると照れてしまうのですが……」

 「あ、ごめんね! その……そうだ!安全地帯ってどこにあるの?」

 「余もそれは気になっていた。どこかの建物の中にでも立て籠もっているのか?」

 

 誤魔化すようにかねてからの疑問を口にすると、紅子は先ほどのことを気にした様子もなく笑い、下を指さした。

 

 「安全地帯は地下にあります」

 「地下? 地下室みたいな?」

 「とにかくそこに行けば月光の被害を免れるという訳か。して、どこから入れる?」

 「ここから一番近いところだと、歩いて10分くらいの神社跡地から入れます。月を直視しなければ大丈夫みたいですし、早速行きますか?」

 「そうだね。とりあえず落ち着ける場所にいきたい。地上にいるとまたさっきみたいな人達に襲われかねないし」

 「了解です。それでは私について来てください」

 

 話がまとまり、立花たちは立ち上がって廃屋を後にした。

 

 

*******

 

 

 外に出ると、相変わらず夜が続いている。直視しないように目を細めて確認すれば、月はさっきの位置からほとんど変わらず、空にも雲一つない。

 

 「マスター、紅子、周囲に人の気配はない。このまま進んでも大丈夫そうだ」

 「ありがとう、ラーマ」

 

 周囲の偵察を終えたラーマが霊体化を解いて目の前に現れる。

 

 「さすがです、ラーマさん。 私は記憶性質のせいなのか元々なのかはわかりませんが、戦闘とか不向きなので助かります」

 「そうなのか? 何、余は戦闘は得意な方ゆえ任せよ! その分紅子は道案内に集中してくれ」

 「はい、お任せください。それでは行きましょう!」

 

 嬉しそうに笑う紅子に続いて、夜の町を歩きだす。

 ここは町のはずれだからか、建物の数も少なく、遠くには海が月の光を反射してキラキラときらめいているのが見える。こんな状況でなければ観光でもしたいくらい良いところだ。

 

 「神社跡地はこの先の角を右に曲がって、道をまっすぐ行ったところの階段を上った先にあるんです。元が神社なので階段は恐ろしく長いですが頑張ってください」

 

 先を歩いていた紅子が長い髪をふわりと揺らしながら教えてくれる。

 

 「うう、階段かぁ。そういえば何で神社はなくなっちゃったの? 壱岐島は神社がたくさんあるって聞いてたけどさっきから一度も見かけないし」

 「それも教会にいる神のせいらしいです。太宰さんによると、他の神に邪魔されないように人々を使って神社をすべて壊してしまったのだとか。私は比較的最近ここに呼び出されたので詳しい事情はあまり知らないのです」

 「じゃあその太宰とかいうサーヴァントは、最初の方からこの特異点にいるのだな。ぜひ話を聞きたいところだ」

 「はい。きっと色々教えてくれると思いますよ!」

 

 3人で話をしながら順調に道を進んでいく。どうやら町のはずれということもあって人もいないようだ。

 

 「この調子なら、危機を脱したと言ってもいいのではないか、マスター?

 特異点に来てから20分ほどで協力者まで得られたのだ。かつてないほど順調なのでは?」

 

 変わらず警戒は続けているものの、立花を安心させるためか明るくラーマが言う。

 そんなラーマの言葉に肯定しようと口を開いた時だった。

 

 「………え?」

 

 一瞬にして隣にいたラーマの姿が消えた。

 いや、消えたのではなく何者かに吹き飛ばされたのだと気づいたのは、後から建物の壁が崩れる音を聞いた時だった。

 

 ガッシャン!!!!

 

 「ラーマ!!」

 「ラーマさん!!」

 

 急いでラーマのもとへ駆け寄ろうと足を踏み出す。その時、背後に突然何者かの気配を感じ、全身に寒気が走った。

 

 「藤丸さん、うしろ!!!!」

 

 紅子が必死に立花へ手を伸ばす。しかし、それよりも背後の存在が握るナイフが立花の喉へ届く方が早い。

 

 あ、俺、死―――――――――

 

 「させるか!!」

 

 刃が届く寸前、ラーマが自身の剣を立花の背後に投げつける。

 

 ドスッ

 

 剣は虚空を切り、背後の壁に突き刺さった。

 襲撃者が離れた隙に、ラーマと紅子は立花のもとへ駆け寄る。

 

 「二人とも無事ですか!?」

 「俺は大丈夫。ラーマは?」

 「問題ない。だが、すまないマスター。余としたことが気配に気づけなかった。何者だ、アイツは?」

 

 剣を抜きながら答えるラーマの視線を追うと、近くの民家の屋根の上に人影が見える。小柄な体をフード付きのマントですっぽりと覆い、顔は布を巻き付けているためわからない。ただ、その体格とマントの下から色白の細い脚がのぞいていることから子供であるとわかる。

 

 あのラーマを吹き飛ばしたんだ。人間ではないと思うけど………なんだ? この異様な気配は? 

 

 「アイツはサーヴァントか?人か? 妙な気配だな」

 「ラーマもそう思う? 俺も同じように感じてた」

 「私も同感です。あの方、人とサーヴァントが混ざった様な気配を感じます」

 

 紅子も警戒しながら屋根の上の人物を見つめる。

 すると謎の襲撃者は何もない空中から突然銃を取り出し、撃鉄を上げた。

 

 「させない!」

 

 銃声とともにラーマが立花の前へ出て剣で銃弾を叩き落とす。

 その間にも、襲撃者は銃を撃ちながらこちらへ接近してくる。

 

 「余の武器を見ながら近づいてくるとは、愚かだな!」

 「愚かなのはお前だ」

 

 変声機を使っているのか、その体格に似つかわしくないしゃがれた声で襲撃者が呟く。

 次の瞬間、虚空から剣が現れ、空いている方の手で掴むとラーマへ向かって斬りかかった。

 

 「くっ!」

 

 キーン!!

 

 剣同士がすれる不快な音が響き渡る。襲撃者は片腕だというのにラーマは両手で剣を受け止めるので精一杯のようだ。

 その間に襲撃者の右手の銃口が立花へと向けられる。

 

 「っ! 余に集中しろ!!」

 

 ラーマが力を振り絞って、銃を蹴りで弾き飛ばす。襲撃者の体勢が一瞬崩れるが、関節を無視して無理やり体勢を整えると、ラーマの横腹へ向けて蹴りを叩きこんだ。

 

 「がっ」

 

 すさまじい勢いでラーマが壁へと吹き飛ばされる。

 

 「ラーマ!!!」

 

 あのラーマが押されてるなんて………

 でも、今の動き、相手も相当無理をしたはず。

 

 ゴキ ボキ ゴキッ

 

 「え」

 

 襲撃者を見ると、先の無茶な動きであらぬ方向に曲がっていた関節がひとりでに元の状態へと戻っていく。その異様な光景に、立花も紅子も冷や汗が止まらない。

 

 「お前は、一体………」

 

 立花の呟きに、襲撃者が顔を向ける。

 

 「私の通り名はホワイトエンド。藤丸立花、お前を殺すように依頼された殺し屋だ。お前自身に恨みはないが、ここで死んでもらう」

 「!」

 

 しゃがれた声で答えると、襲撃者―――ホワイトエンドは剣を構えて立花へと迫る。

 その時、瓦礫から立ち上がったラーマが自身の宝具である剣を構えて叫んだ。

 

 「マスター! 魔力を!!!」

 「っ! 令呪をもって命ず! ラーマ、敵を倒せ!」

 

 右手の令呪の一画が赤く光り、消えていく。それとともに魔力がラーマへと注がれ、宝具が展開される。ラーマの手から離れた剣が回転し、魔力が膨れ上がる。

 

 「羅刹王すら屈した不滅の刃。その身で受けてみよ!」

 「!」

 

 増幅する魔力の量に、さすがにまずいと思ったのか、ホワイトエンドが攻撃を中断して回避行動に出る。しかし、もう遅い。膨大な魔力が剣の回転数とともに膨らんでいく。

 

 「喰らえ! 『羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)』!!」

 

 

 ラーマの詠唱とともに、剣は円盤状の光となってホワイトエンドへと迫る。

 

 「!」

 

 避けきれないと悟ったのか、ホワイトエンドは足を止めると、攻撃を受け止めようと剣を構えた。しかし、不滅の刃は構えた剣をあっさりと切断し、そのままホワイトエンドの首から上を吹き飛ばす。

 

 バスッ

 

 「きゃっ!」

 

 こういったことに免疫がないのか、立花の隣で紅子が悲鳴を上げながら両手で顔を覆う。立花も戦場を駆け抜けてきたとはいえ慣れるものではなく、思わず目を逸らした。

 血潮が上がり、ゴトリと何かが転がる音が聞こえてくる。

 

 「マスター! 無事だったか?」

 

 剣を回収したラーマが、瓦礫を避けながら立花たちの方へと歩き寄ってくる。

 

 「うん、ラーマのお陰で無事だよ。ありがとう」

 「それはよかった。紅子も大事ないか?」

 「あ、はい。怖かったですが私も無事で――――」

 

 返事をしようと顔を上げた紅子がそこで言葉を止めた。美しい顔を真っ青に染めて、震える指でラーマの背後を指さす。

 

 「? 後ろがどうし――――」

 

 紅子につられて後ろを振り返ったラーマが目を見開く。立花も視線を追うと、そこには信じられない光景があった。

 

 「なんで………」

 

 そこには、首から上を失くしたホワイトエンドの姿があった。いや、それだけなら普通だ。さっきラーマの宝具で首をはねたのだから。

 異様なのは、頭部を失った体が倒れることなくそこに立っていることだ。

 そういえば首が転がる音は聞こえたが、体が倒れる音は聞こえなかったな気がする。そんなことを現実逃避気味に考えていると、さらにホワイトエンドの体に異様な変化が起こった。

 

 「再生、してる………?」

 

 切り落とされた頭部はそのまま地面を転がっており、体の断面から肉が盛り上がって新たな頭部が作られていく。

 さすがに衣服までは再生できないのか、今まで隠されていた素顔が明らかとなる。

 

 「――――――――」

 

 皆、言葉を失った。それほどまでにその存在は戦場からかけ離れた姿をしていた。

 それは、一人の少女だった。

 年のころは14、5歳くらい。たれ目がちな大きな瞳は優しい印象を与えるが、生気を失ったように虚ろな目をしており、表情の乏しさと相まって冷たい印象を感じる。透き通った肌は日本人より白く、彼女が白色人種であることがわかる。だが、その髪と瞳はどの人種にも当てはまらない色をしていた。

 白。

 一言で言えば少女は真っ白だった。

 腰まで届くほど長い髪は艶やかで、決して痛んでなどいないのに真っ白。大きな瞳も、白に近く、オパールの様に不思議な輝きをしている。

 同じ人間とは思えないほど神秘的な光景だ。

 

 「お前は一体何者だ。余は確かに首をはねたはず。なのに、どうして。

 お前はサーヴァントなのか……?」

 「………残念ですが、私はサーヴァントではありませんよ。そして人間でもありません」

 

 その容姿にたがわず、透き通るような声でホワイトエンドと名乗った少女は答える。変声機は顔を覆っていた布にでも仕込んでいたのだろうか。こっちが地声のようだ。

 

 「君は、一体………」

 「素顔を見られたのは数百年ぶりです。噂に聞いていた通り、サーヴァントというやつはやはり強いのですね」

 

 斬られたはずの首をなでながら少女が呟く。

 

 「答えよ。お前は一体何者だ?」

 「…………私は、不死身の化物。そしてただの雇われた殺し屋です」

 「不死身!? 神霊、幻想種の類か!?」

 

 ラーマの推測が正しいとすれば状況はかなりまずい。本物の神霊、幻想種ならばサーヴァント一騎でどうにかできるものではない。それに、不死身の存在なら一体どうやって倒せばいいんだ!?

 

 「神霊とかはよくわかりませんが、あなたたちはここで終わりです」

 

 そう呟くと少女の雰囲気が変わる。どうやら会話はここで打ち止めのようだ。少女は虚空から新たな剣を取り出すと右手に構える。

 ラーマも立花をかばうように剣を構えるが、魔力の消耗が激しいのか腕が震えている。

 

 まずい! ラーマの宝具も効かないのに、このままじゃ!

 

 「せめてもの情けです。痛みも感じないうちに終わらせてやる、人間」

 

 少女が凍えるような声音でそう呟くと、一瞬で姿が掻き消える。

 

 「藤丸さん!!」

 

 紅子の悲鳴で背後を振り返ると、そこには剣を構えた少女の姿があった。

 

 早い!! もう、間に合わな―――――

 

 「だめ!!!!!」

 

 紅子の悲鳴が辺りに響き渡る。すると、突如魔力反応が膨らみ、紅子を中心にまばゆい光が発生する。

 

 「っ!」

 

 あまりの眩しさにその場にいた誰もが思わず目を瞑った。

 

 目くらまし? 紅子さんの能力なのか? でもそれだけじゃこの状況は覆らない………

 

 斬撃を予想し、立花は頭をかばうように腕を構え、体に力を入れた。

 

 「…………?」

 

 予想していた痛みが来ず、恐る恐る目を開ける。

 すると、そこには相変わらずホワイトエンドの姿があった。

 だが、何やら様子がおかしい。目の前にいるはずなのに視線が合わず、キョロキョロと辺りを見渡している。まるで………

 

 (俺たちのこと、見えてない?)

 

 紅子の方を見ると、紅子自身もよくわからないのか困惑した表情でこちらを見ている。

 ピンチに陥って、紅子の能力の一部が無意識に発動したのだろうか?

 ともあれこれはチャンスだ。

 ラーマの方に視線をやると、ラーマも同じように考えたのか頷き、道の先を指さす。

 

 (今のうちに目的地へ急ごう)

 

 念話でそう話すと、紅子の手を引っ張りその場を後にした。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 あれから、ホワイトエンドは追いかけてくることもなく、無事に目的の神社跡地へと到着することができた。

 

 「はぁ、死ぬかと思ったぁ」

 

 一気に緊張感が解け、立花は思わず地面へ座り込んでしまう。

 そんな立花に紅子は地下への入り口を隠したカモフラージュの瓦礫をどかしながら声をかける。

 

 「本当に皆さん無事でよかったです」

 「紅子のお陰だな、礼を言う」

 「うん、ありがとう紅子さん」

 「いえ、私も何とかしなきゃって思ったら勝手に発動しただけなので! もう何が何だか……」

 

 やはり能力の一部が無意識に発動したらしい。それでも紅子がいてくれたおかげでピンチを乗り越えることができたのに変わりはない。改めて礼を言うと、二人も地下への入り口を隠している瓦礫の除去を手伝う。

 

 「それにしても、あの女の子は何者だったのでしょうか?

 雇われた殺し屋だとか言っていましたが……」

 「多分、この特異点の黒幕が雇ったんだと思う」

 「でもおかしくないか? レイシフトして30分経ったくらいで殺し屋を派遣するなんていくらなんでも早すぎる。そもそも教会の神が黒幕なら余たちはまだ会ってすらいない。なのに、マスターの名前まで知っていた。事前に、余たちがレイシフトしてくると知っていたとしか思えないぞ」

 「うん。だから多分この特異点は、異星の神側が俺たちをおびき出すために仕組んだ罠じゃないかって思うんだ」

 「罠だと!? では余たちはまんまと敵の策に溺れてしまったという訳か」

 

 ラーマが悔しそうに顔をゆがめる。

 

 「でも、どちらにせよ俺たちに特異点を放置する選択肢はない。いずれはこうするしかなかったんだ。これからどうするかを考えよう」

 「マスター………そうだな。過去を悔やんでも仕方がない。今後のことを考えないとな」

 

 ラーマは気合を入れるように自身の頬を叩くと、次々に瓦礫をどかしていった。

 

 「わ、すごいですラーマさん! もう入り口が見えました!」

 「何、これくらい容易い」

 

 ラーマは褒められたのが嬉しかったのか、心なしか胸を張ってこたえる。

 ラーマがどかしてくれた箇所を見ると、瓦礫の下から木の蓋のようなものがのぞいている。紅子が蓋をヒョイとどかすと、地下へと続く石の階段が現れた。

 

 「この階段を下った先が安全地帯になります。私について来てください」

 

 紅子を先頭に3人は階段を下っていく。

 階段は思ったより長く続いており、下り始めた最初は息苦しく感じていたが、不思議なことに徐々にその息苦しさもなくなっていく。

 やがて明かりが見えてきて下の方に石の扉が見えてきた。

 

 「あの扉の向こうに皆さんがいるはずです。私がリーダーである太宰さんに紹介しますからついて来てくださいね」

 「わかった」

 「よろしく頼む」

 

 ラーマとともに頷くと、紅子が扉に手をかける。

 

 「おぉ」

 「広いな」

 

 地下空間は想像していたよりも広く、2、30人くらいの人たちが生活しても問題ないくらいに広々していた。壁には、さらに奥に空間があるのか人が通れるほどの穴がいくつか開いている。

 中には居酒屋やスポーツのコートなどもあり、地下とは思えないほど活気づいている。

 

 「なんか、意外と快適そうだね」

 「そうなんですよ。太宰さんがあれこれ用意してくれたんです。『お酒が飲めないと始まらない』とか言って真っ先に居酒屋さんを作って、そこからどんどん娯楽施設が増えていったとか」

 「ふむ。その太宰というやつはすごい人なのだな」

 

 ラーマが興味深そうに頷いていると、近くで談笑していた人々が紅子に気が付いて声をかけてくる。

 

 「おや、紅ちゃん! 帰ってきてたのかい!」

 「あ、皆さん! 今帰ったところです」

 「そのお二人さんは見ない顔だが?」

 「赤い髪の方は外人さんかい? ハイカラな色してるな」

 「この人たちは地上で逃げ遅れていたのでここまで連れて来たんです」

 「なんだ、そうだったのかい! あんたたちも地上じゃ大変だっただろ?」

 

  地下の人々は親しげに立花達に話しかけてくる。どうやら歓迎されているようでよかった。

 

 「はい、いろいろありましたが紅子さんが助けてくれたので何とかなりました。

 それにしても地下なのに息苦しくないなんて不思議な所ですね」

 「? 何いってんだ? あたりまえだろう? なんせ俺たちは死んでるんだから!」

 「………え?」

 

 地下の人々はさも当然というように笑っている。

 

 え? 死んでるって冗談だよね?

 

 ラーマと二人で助けを求めるように紅子を見ると、まるで忘れてたと言わんばかりに口を押えている。

 

 「あの、紅子さん?」

 「紅子、これはどういうことだ?」

 「いや、言い忘れていました。実はここは………」

 「何だい、随分騒がしいね」

 

 紅子が口を開いたその時、居酒屋の方から一人の男性が歩いてくる。紺色の着流しを纏い、少しくせ毛の黒髪が特徴的な優しげな長身の男性だ。手には酒の入ったグラスが握られている。

 

 「あ、太宰さん!」

 「やぁ、紅子。お帰り」

 

 紅子は太宰の姿を見ると嬉しそうに笑顔を向ける。太宰は軽く片手をあげて答えると、立花たちに気が付いたのか首をかしげた。

 

 「で、この人たちは?」

 「この人たちは地上で出会ったんです! 私と同じく月に耐性があるようなのでここまで連れてきました」

 「へぇ、この二人が」

 

 太宰は微笑みながらも値踏みするように立花たちを見つめている。

 一方、立花はかの文豪を目の前にし、どこか落ち着かない様子で頭を下げた。

 

 「あの、俺、藤丸立花と言います」

 「余はラーマだ。ここに来るのはお邪魔だったか?」

 「いや? 歓迎するよ二人とも」

 

 太宰はそう言うと二人の前で大きく手を広げた。

 

 「私の名前は太宰治。ようこそ、黄泉の国へ」

 「………え」

 「は?」

 

 太宰の言葉に、立花とラーマは二人そろってぽかんと口を開けた。

 




最後までお読みいただき、ありがとうございます。
前作から投稿が遅れてしまいましたが、何とか書き上げることができてよかったです。
次回も気長に待っていただけると幸いです。
この作品はpixivの方でも公開しています。
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